【春歌】(その3)

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2月14日バレンタイン。青葉はクラスメイトの女子たちと盛んに友チョコを交換した。コーラス部では1日前に告知して当日の昼休み「友チョコ交換大会」
をした。大きな袋に各自1個ずつチョコを入れる。そして全員入れ終わった所でその袋から1個ずつ取っていくのである。
 
「俺たちも入れるのか!?」と言っていた男子たちにも入れさせた。
「みんなチロルチョコとかブラックサンダーとかだけど、寺田先生がスペシャルで少しいいチョコを何個か混ぜてくれているから、それに当たった人はラッキーね」
 

「青葉は本命チョコはやはり彪志君に贈ったの?」
と教室に戻ると美由紀から訊かれた。
 
「もちろん。昨日くらいに着くように郵送したよ」と青葉。
「ラン君には贈らなかったの?」と日香理。
「贈ったよ」
「へー」
「ランには1000円のチョコ。定形外で送料140円。彪志のは3000円のチョコ。同じく定形外で送料240円」
「ほほお」
「ランからは一生取っとくなんて電話掛かってきたけど、食べた方がいいと言った」
「そりゃ食べた方がいいよね」
 
「彪志君の反応は?」
「えっと。。。。今夜電話する」
「おお、チョコより甘い時間を過ごすのね」
 
「日香理も彼に渡すんでしょ?」
「うん。まあ。学校終わってからちょこっとだけ会う約束」
「ちょこっと会ってチョコ渡すのか」
「何を親父ギャグ的なことを・・・」
 
「ああ、私も誰かに本命チョコあげちゃおうかな」と美由紀。
「好きな男の子いたら、渡せばいいのに。いい機会だもん」
「そうそう、頑張れ」
「そうだなあ・・・・」
「N君のこと好きなんでしょ?美由紀」と日香理。
「ちょーっ。なぜそのイニシャルが出てくる?」
「見てれば分かるよね」と青葉。
「そうだ。青葉には私が彼とデートしてる夢を見られていた」
「いや、夢見なくてもふだんの態度で分かるって」と青葉。
「彼も美由紀の気持ちには気づいてるよね」と日香理。
「同意」
「うーん・・・・」
「チョコ買うの付き合ってあげようか?」
 
「・・・いや実は買ったんだけど・・・」
「じゃ、渡せばいい」
「その勇気が無くて」
「玉砕してもいいじゃん。渡して告白しなよ」
「うーん・・・・」
 
「ところで青葉って、去年まではバレンタインしたこと無かったの?」と美由紀。「うーん。。。。随分昔、男の子にあげたことあったよ」
「へー、その子とは何かその後あった?」
「ううん。別に。戸惑ってた感じだったけど、笑顔でありがとうって言われた。それだけで終わり」
 
「青葉さ、女の子からバレンタインもらったことは無かったの?」と日香理。「あ、えっと・・・・あはは、あはは」
と珍しく青葉が焦る。
日香理と美由紀は思わず顔を見合わせた。
 

2月23日木曜日、東京に住んでいる和実が富山にやってきた。
 
青葉がこちらに新しくオープンした病院で性転換手術を受けられることになったと聞いて、和実は「いいな、いいな、私も受けたい」などと言った。それで青葉が「何なら、こちらで診察受けてみる?」などと言ったので、和実もその気になり、病院の予約を取ってやってきたのである。
 
和実は実はもう今年手術することに決めて先月末にタイの病院に予約も入れたところだったらしいが、もし国内で手術できるなら、多少費用が高くなってもいいから、こちらにしたいなどと言っていた。
 
和実も既に2枚のGID診断書をもらっている。それを見せた上で、こちらでは初めてなので、一応簡単な診察をしましょうということになり、血液検査、心電図、MRIなどを1日掛けて取った。
 
診察台に横になった和美を見ながら松井医師は
「あなた、でもほんとに可愛いわね。あなたみたいな子に、こんなものが付いてるなんて犯罪だわ。もう今すぐ手術室に運び込んで、切り落としてあげたい」
 
などと言って、左手で和美のおちんちんの先を持ち、右手の人差指と中指でおちんちんの根元を挟むようにし、ハサミで切り落とすような仕草をした。 
「えっと、私も今すぐ切り落として欲しいのはやまやまですが、今手術すると学業と仕事に差し障りがあるので7月にお願いできれば、と」
「仕方ないね。今日、タマだけでも抜いていかない?手術、すぐ終わるよ」
「いえ、7月におちんちん切る時に一緒でお願いします」
 
和美は去勢はしてもいいかなというのも一瞬思ったが、この先生どうも危ない感じなので、去勢だけのつもりが麻酔から覚めたらおちんちんも無くなっていたということになりかねん、と思い断った。
 
「仕方ないなあ」
「松井先生、自粛、自粛」と鞠村先生が注意する。
 
しかし、MRIの映像を見た松井医師は顔をしかめて言った。
「工藤さん、あなた子宮と卵巣があるね。膣も」
 
「あの・・・それ何かの間違いだと思います。以前もそれ他の病院で言われたことがあったので、そんな馬鹿なと言って再検査してもらったら、何も写っていなかったので」
 
それであらためて再度MRIを撮った。確かに子宮や卵巣らしきものは写っていない。普通の医師なら、これで「やはり間違いだったみたいですね」と言うところだが、松井医師は違った。
 
「でもこの新しい方の画像が間違いで、最初に撮った方が本当かも知れないわよ」
「えっと・・・」
 
「工藤さん、あなた声変わり、してないわよね?」
「ええ、そうですね」
「陰茎は勃起しますか?」
「高校1年の年末頃までは立っていましたが、その後あまり自慰をしないようになって。最後に射精を経験したのは高校2年の夏ですが、その時は実は勃起はせずに射精だけ起きました。今は常時タックしていることもあって、全く勃起はしませんし射精も起きません」
「ああ、一応その頃までは男性機能はあったのね」
「ええ」
 
「バストはかなり発達していますが、女性ホルモンを飲んでおられますか?」
「いえ。これはヒーリングなんです。実は元々特殊な方法で高校時代にBカップ弱サイズのバストを作り上げたのですが、こちらの病院を紹介してくれた川上さんのヒーリングを受けて、このサイズまで発達しました」
 
「ああ、川上さんのヒーリングですか。あれは面白いですね。誰かに習わせたいですよ。実践医療的に興味があります」
 
この医師はそういうオカルト的なものにも理解があるようである。
 
医師は和実の染色体も再度検査した。最初の血液検査の時は確かにXYだったのだが、再検査してみると XX という結果が出る。それで和実がそれは変なのでもう一度検査して欲しいというので、再々検査すると今度は XY になった。 
「工藤さん、あなたやはり半陰陽の一種だと思う」と医師は言った。
「えー!?」
 
「ただ、あなたの身体自体に不思議な揺らぎがあって、完全な男性として反応する場合と、女性として反応する場合があるんですよ」
「うーん。。。。」
 
「とても特殊なケースのようなので、こちらの病院で定期的に検査をさせてもらえませんか? こちらの興味でお願いしたいので、検査分は無料にしますし、交通費も出しますよ。性別適合手術(性転換手術の正式名称)はもちろんOKです。そちらは普通の料金になりますが。学生さんでしたら、夏休みあたりにしましょうか?」
 
「ええ、お願いします。診察は月1回くらいでいいですか?」
「いいですよ。学業やバイトにあまり影響が出ないように、無理せず受診してください。後ででもいいので事務の方に口座番号を連絡してもらえますか?往復の航空券代・市内交通費を振り込みますので」
「はい」
 
「それであなたの新しい膣を作る時にはMRIで映った膣が存在していた筈の場所に完全に重なる位置に設置します。するとその膣は本物の膣のように機能する可能性があります。どのくらい機能するかは未知数ですが」
「わあ。。。。」
 
ということで、和実もこの病院で手術を受けることになり(日程はどうも青葉の少し後になりそうであった)、また毎月1回、交通費病院持ちで、富山に来て診察を受けることになった。
 

病院の診察が終わってから、青葉の家に行き、診察結果を話すと青葉は納得したかのように頷いて言った。
 
「和実って、何か特殊な状態のような気がしていたのよね。たぶん、固有の周期を持っていて、たとえば9秒間男性の状態が続いたあと1秒間、女性になってるんだよ。だから女性になった瞬間にMRI撮られると子宮や卵巣が写るし、その瞬間に採取した染色体を検査すると XX になるんだな。あるいは常に両方存在していてシュレディンガーの猫みたいな状態なのかも」
 
「でも、そんな不思議な身体だったら、それを子供の頃に指摘されていた気がするし、もっと女性的な身体発達をしていてもおかしくない気がするよ」
 
「和実、高2の春に急激に太って急激に痩せてバスト作ったというけど、それでバストができちゃったのは、そもそも和実が女の子だからかもね」
「あ・・・・・」
 
「あるいは、その頃まで和実の女体部分というのは休眠していたのかもよ。それが高2の時に目覚めちゃった。おちんちんが立たなくなったのもその頃って言ってなかった?」
「確かにそうかも」
 
「でも今の和実はその女体部分がもっと活性化している気もする。何かきっかけとか無かったかな? ここ1年くらいで」
 
しばらく和実は考えていたが、やがて言った。
「ここ1年くらいで、私の心理状態を大きく変えたのは震災だよ。私、あの時、男の子の自分が津波に飲まれて死んじゃって、女の子の自分が生き残ったような感覚だったんだけど・・・・」
「それ多分事実。男の子の和実は死んじゃったんだよ。今いるのは女の子の和実なんだよ」
「そうだったのか・・・・」
 
和実は遠くを見つめるような目をした。あれ?似たようなことを高校時代にも誰かから言われなかったっけ??と和実は思う。
 
青葉もしばらく考えているようであったが、やがて普段と少し違う口調で言った。 
「だからきっと、和実が女の子になった瞬間、卵巣が出現した瞬間に卵子を採取すると、その卵子と淳さんの精子を受精させて、ふたりの子供ができる」
「う・・・・それ挑戦してみたいかも」
 
そして青葉は更に何か考えている風だった。
「でもね。。。。この女体側の活性化はたぶん震災のショックによる一時的な現象だよ。何年か経つと自然に収まっていって、また高校生頃の状態に戻ると思う。卵子の採取に挑戦するなら、5年とか6年とか先じゃなくて2-3年以内がいい。もっとも性転換手術した後でないと原理的に採取不能だろうけどね」
 
「・・・私、母子手帳もらえると思う?」
 
「戸籍が既に女になってたらもらえるかもね」
と青葉は普段の口調に戻り、笑顔で言った。
 

2月24日金曜日。彪志は明日から大学の入試なので、一ノ関から新幹線で東京に出てきた。午後2時半の新幹線に乗り、東京に5時半に到着する。新幹線の中ではずっと問題集をしていたが、勉強に集中していても、ついつい青葉のことを考えてしまう。その青葉とは今朝も電話で話して「頑張ってね」と言ってもらった。 
青葉と最後に会ったのは10月24日だった。もう4ヶ月も会っていない。無理すれば会えたと思うが、自分の受検勉強の妨げになってはいけないからと言って自粛していた。例の「夢」の中では何度も会って、セックスも月に1度くらいしてきたのだが、でもリアルでも会いたいという思いはつのるばかりだ。明日試験だから集中したいのに、どうしても青葉のことで気が散る。何してる、頑張れ自分!と発破を掛けるが、集中が長持ちしない。
 
半月後の合格発表の日には会うことにしているじゃん。それを楽しみに頑張ろう。そう言い聞かせながら、彪志は新幹線を降りた。改札口の方に向かう。 
その時だった。
「彪志」
という声を聞いて、そちらを振り向くと、青葉の姿があった。
 
最初彪志は幻でも見ているかと思った。あんまり青葉のことが気になって、とうとう幻覚でも見てしまったのだろうか。
 
でもその「幻覚」の青葉は笑顔で走ってきて、彪志に抱きついた。
「青葉・・・・本物?」
「本物って、私の偽物があるの?」
「ほんとうの青葉?」
「ほんとの私だよ」
 
彪志は場所も忘れて、青葉にキスした。
 
「やっぱり受験生を邪魔しちゃったかなあ」などと青葉は言っている。 
「どうしてここにいるの?」
「彪志を激励に来た」
「それだけ?」
「そうだよ」
「そのために、わざわざ富山から?」
「うん」
「お金かかるのに」
「いいの。ちょっと友達から唆されたからね」
 
「じゃ、頑張ってね。私このまま帰るから」と言って青葉は離れようとするが 
「あ、待って。千葉まで一緒に来たりしない?」と彪志は呼び止めた。 
「うん。いいよ。じゃ、千葉駅まで往復してから帰る」
「時間大丈夫かな?」
「ちょっと確認するね」と言って、青葉はバッグの中からノートパソコンを取り出し、大急ぎで時刻を確認した。
 
「今から総武線に行くと1755の快速に乗れて、千葉着が1839。千葉からの帰りは1913の快速に乗ると東京に1954に着いて、東京2012発の上越新幹線に間に合う。これ10月に彪志と一緒に大宮まで来て乗り継いだ列車ね」
 
「じゃ、総武線に急ごう」
「うん。荷物持つよ」と青葉が言っていると、少し離れた場所で見守っていた和実が近づいてきて「私も手伝います」と言う。
 
「あ、ありがとうございます」と彪志が戸惑いがちに言うが
「私の友達。東京までおいでよと私を唆した人」と青葉が説明する。
「あ、7月の葬儀でお会いしましたね」と彪志は思い出したように言う。和美のゴスロリの服で思い出したのだろう。
 
「ええ、名刺お渡ししておきますね」と言って、素早く彪志に名刺を渡すと、すぐに荷物を持って歩き出す。
 

3人で新幹線改札を出て、通路を歩き、それから深い地下にある総武線ホームまでひたすらエスカレーターを降りて行く。
 
ホームに着いたら17:44発の快速が停まっていたが、青葉たちはこれを敢えて見送り、その次のに乗ることにする。やはり座って行きたい。そこで初めて彪志は和美の名刺を見た。
 
「喫茶店エヴォン本店チーフ。へぇ、喫茶店にお勤めですか」
「バイトですけどね。本業は学生なので」と和美。
「高校生ですか?」
「いえ、大学生ですよ」
「あ、済みません」
「△△△の理学部に通っています」
「わあ、優秀」
 
「この喫茶店はメイド喫茶なんだよ」と青葉。
「えー!?」
「でもいかがわしいサービスは無し。むしろ本格的なコーヒーとオムレツが楽しめる店」と青葉。
「飲食店営業ですから。お客様と3分以上会話してはいけないことになっています」と和美。
「カラータイマー付けてるんだっけ?」
「その案はあったけど採用されなかった」
「ウルトラマンか!」
 
やがて千葉行き快速が入ってくる。青葉と彪志は手を振って和美と別れ、列車に乗り込み、並んだ席に座った。
 
「和美がちょっと用事あって昨日富山に来てたのよね。昨夜はうちに泊まったんだけど。それで今日の午後、ひとりで帰る予定だったんだけど、お昼に電話してきて、東京まで一緒に来ない?って誘惑されたの」
「わあ。で、誘惑されちゃったのか」
 
「うん。私もずっとリアルでは会ってなかったから寂しかったし。来月会う約束だったのに、節操無くてごめんね」
「ううん。俺もずっと会えなくて寂しかったから」
 
「先に言っておくけど、今夜も明日の夜も彪志の夢の中には行かないからね。試験前夜は熟睡して欲しいもん」
「分かった。半月後まで我慢だよね」
「うん」
 
「あ、お勉強してて。私、そばで勝手におしゃべりしてるから」
「うん」
「それと、これ良かったらホテルで夜食に食べて。高岡で買ってきたパンだけど」
と言ってパンが5-6個入った袋を渡す。
 
「ありがとう。助かる」
 
彪志は単語集を出して見始める。青葉は友人の話題、ちょっとした出来事、岩手との毎月の往復の中で体験したことなど、様々な話題を出して、ひたすらしゃべりまくる。彪志は耳の半分くらいを使ってそれを聞いていて、時々思わず突っ込みたくなる所にだけ口を出していた。
 
途中から彪志は「青葉、問題出してよ」と言って、リーダーの問題集を渡す。問題文をきれいな発音で青葉が読み上げる。それに続く質問を日本語で書いてあるのに、わざわざ英語に直して彪志に投げかける。彪志はそれに対して日本語で答えていく。

「食べちゃった」「Good. He ATE that apple」「よしよし」

「電車」「No. She went by BUS」「あっそうだったっけ?」

 
そして千葉駅まで40分の旅はすぐに終わってしまった。
 
列車を一緒に降りる。出札口のところで握手する。
 
「頑張ってね。Good Luck!」
「うん。ありがとう。ジュテーム」
「ウォーアイニー」
 
彪志は駅前のコンビニでお弁当やお茶を買った後、タクシー乗り場に行きホテルの名前を告げてから、タクシーの車内で何だか集中できそうな気がしてきたのを感じていた。よし頑張るぞ。リアルでキスもできたし。心の中から活力が湧いててくる感触だった。
 
ホテルに着いてチェックインして部屋に入る。荷物を解くと自然に参考書を開く気分になった。最近、青葉のことばかり考えてしまって、参考書を開くのに30分くらい掛かることもあったのだが、さっきリアルの青葉と会ったお陰かなという気もする。
 
勉強しながらお弁当を食べた。いったんお風呂に入ってからまた勉強を続ける。10時頃、小腹が空いてきたので、青葉からもらったパンを食べる。うん。何だか調子良い。1時間ほど勉強している間にパンを食べてしまった。ちょうどいい腹加減かな、と思う。あまり満腹になりすぎると眠くなってしまう。
 
その時彪志は空になったパンの袋の底に何か入っているのに気付いた。ん?レシートかな?と思って取り出す。
 
《頑張ってね。あなたの青葉より》
と書かれていた。胸がキュンとなる。
 
「ようし、頑張るぞ!」と彪志はその場で叫んだ。
 

青葉は手を振って駅を出て行く彪志を見送った後、駅の表示を見て次に東京行き快速が出るホームに移動した(千葉駅の東京行き発車番線は不定で分かりにくい)。 
せっかく千葉まで来たので、本当は千里たちの所に寄りたかったのだが、自分が千葉にいたら、そのこと自体が彪志の気持ちを乱してしまう。だから日帰りで帰るのが、今日彪志と会う絶対条件だということを母と話し合って決めていた。(その条件で彪志の母にも連絡承認済み)
 
ホームで東京行きを待っていた時、突然後ろから誰かに目隠しをされた。「だ〜れだ?」という声。
 
「桃姉!」
桃香は青葉をハグする。傍に千里も微笑んで立っていたが、そちらともハグし合う。 
「母ちゃんから青葉がこちらに出てくると聞いたからね。時刻表眺めていたらきっと青葉は東京駅でUターンせずに千葉駅まで来るだろうと踏んだから、待ち伏せしてた。でもどのホームになるか分からないから結構動き回った」
 
「ごめんねー。本当はお姉ちゃんたちの所に寄りたかったんだけど」
「ずっと青葉が千葉にいたら、彪志君、青葉に会いたくなっちゃうもんね」
「うん。受験生の気持ちを乱しちゃいけないから、すぐ帰ることにした。気持ち乱したりしたら激励に来た意味が無くなるもん」
 
「青葉、20:12の上越新幹線で帰る予定でしょ?」
「うん」
「21:40の新幹線に変更しよう」
「え?」
「長岡まで行って、急行きたぐに、に乗り継ぐ」
「あ・・・そうか。その連絡で帰ったこともあったんだった。忘れてた」
 
「この東京行きが19:54に東京に着くから、1時間半、私たちとデートね」
「うん!」
「きたぐにの到着時刻には、母ちゃんが青葉を駅まで迎えに来てくれるよ」
「わあ」
と言って青葉が微笑みを顔に浮かべていると
「よしよし。こういうので泣かなくなったね」と桃香に言われた。
「青葉って、こういう話をすると、すぐ泣いてたもんね」と千里も言う。「お姉ちゃんたちと、おかあちゃんのお陰だよ」
と青葉は笑顔で答えた。
 
青葉はすぐにJRの予約センターに電話して、帰りのチケットを取りなおした。やがて入ってきた東京行きに3人で乗り込む。ピーク時間帯を過ぎているので客はそう多くない。ゆっくりと座ることができた。
 
「恋をする時ってさ」と唐突に桃香が言い出す。
「相手を愛すること以上に、自分が相手の愛を受け止めることが難しいよね」
「えっと・・・」
 
「千里も青葉もその点同類だと思うんだけどね、相手から来る愛を瞬間的に拒否しちゃうんだよね。拒否されると相手は戸惑うんだ」
「それ以前にも言われたね」と千里は頷くように言う。
 
「彪志君はとっても優しいし、熱心だから、青葉が少々拒否しても諦めずに愛してくれる。だから、彪志君との仲は続いているんだろうけど、青葉はもっと素直に愛を受け入れないといけないよ」
「うん」
 
「千里も青葉も自分の性別に対するコンプレックスが強すぎるんだよね。それが結果的に恋愛の場面で気後れになって出ている。それは良くない」
 
「ふたりとも外見上は完璧に女の子じゃん。裸にしたって女の子にしか見えない。それなのに自分が完全な女の子じゃない、なんて負い目を持ってる。それをやめなきゃね。ふたりとももう手術しちゃうんだし。手術が終わっても、自分は元男だったなんてコンプレックスを引きずっていたら、手術した意味さえ無くなる。だから、もう自分が男だったってことを忘れようよ」
 
桃香が珍しく熱弁を振るった。千里も頷いていた。青葉も「そうだよねー」
などと言いながら聞いていた。
 

3人は東京駅に着くと、構内のカレー屋さんに入り、遅めの夕食を一緒に取った。 
「私、お姉ちゃんたちと会うまで、カレーって給食で食べたり、たまにおばあちゃんに連れて行かれてファミレスで食べたりしていたのが少ない経験だったから、こう庶民的な食べ物だって認識が無かったんだよね」
 
「青葉の作るカレー、美味しいね。お正月にも食べたけど、味に深みがある」
「タマネギの炒め方の問題、カレーパウダーの調合の問題、あと何のチャツネを使うか、そのあたりでけっこう味が変わる。カレーって奥が深いよ。もっとも『こくまろ』で済ませちゃう時もあるけど」
 
「いつも手間掛けて作ってたら大変だよ。料理はいかに手抜きするかも大事」
と桃香が言うと千里が笑っている。
 
「この1年で、随分料理のレパートリー増えたよね」
「うん。お母ちゃんから、いっぱい教えてもらったからね」
「もういつでもお嫁さんに行けるくらい鍛えられたんじゃない?」
「うん。私もそれに関しては結構自信があるよ。お嫁さん、やりたい」
 
「私はまだお嫁さんやる自信無いなあ」と千里。
「よし、私が鍛えてあげるよ」などと桃香が言う。
 
「でもお姉ちゃんたちも仲良いよね。結婚しちゃってもいいと思うのに」
「結婚すると千里が性別を変えられなくなる」と桃香がマジ顔で言う。「入籍しなくて事実婚でもいいんじゃない?」と青葉が言ったのに対して「それは既にしているかも知れん」と桃香が答えると
「そうだったの?」と千里が笑って言った。
 
桃香と千里に見送られて新幹線の改札を通り、やがて入線してきた列車に乗り込む。指定の席に座ると、青葉は発車する前ではあったが、そのまま寝てしまった。彪志と睡眠時間帯をずらさないと絶対夢で逢ってしまうと思った。彪志頑張ってね。あ、でもさすがに今日は自分も疲れたな・・・・熟睡するから、後ろの人の誰か、長岡に着く前に起こしてね。そう呼びかけて青葉は深い眠りの中に入っていった。
 

3月9日金曜日。14時に彪志の大学の合格発表がある。青葉は5時間目の授業中なので携帯は切っておいたが、5時間目が終わったところで電源を入れる。彪志からのメールが来ている。「合格☆」という短文メール。すぐに返信する。「おめでとう」。
 
青葉は微笑んでまた携帯の電源を落としたが、美由紀から抱きつかれた。「彼氏、どうだった?」
「うん。合格してた」
「おめでとう」
「ありがとう」
すぐに寄ってきた日香理からも「おめでとう」を言ってもらった。
 
6時間目の授業が終わると、そそくさと荷物をまとめて帰り支度をする。日香理の所に行き「今日、クラブ休むね。(副部長の)美津穂に言っといて」と言う。「うん。行ってらっしゃーい。また明日」と日香理は笑顔で送り出してくれた。美由紀にも手を振って、学校を出る。
 
自宅に戻ると母が夕食用におにぎりを作ってくれていた。
「わあ、ありがとう」
と笑顔で言う。
「よしよし。去年の青葉ならここで泣いてたね」
「もう泣かないよ」
と青葉は笑って答えた。
「じゃ、また明日ね」
「うん。ふたりをよろしくね」
 
母が高岡駅まで送ってくれた。車の中で彪志に電話する。
 
「おめでとう」
「ありがとう。今から来るの?」
「一ノ関に21:43に着くから」
「迎えに行くよ」
 

16:44発の「はくたか」に乗り込み、彪志と携帯のショートメールでチャット的に会話をした。
 
《今夜Hできる?》などと大胆に訊いてくるので
《もちろんだよ、マイ・ダーリン》と返信。
《ふふふ、楽しみ》と言ってくる。
 
こんな会話、声出しての通話ではできない。でもリアルでのHって8月に東京の冬子さんのマンションでして以来になるなあと青葉は考えていた。夢の中ではけっこうしてきたけど、向こうも飢えてるだろうなと思うと、笑みが出る。30分くらいこのチャットを続けた。
 
越後湯沢で東京行き「とき」に乗り換える。青葉は突然1年前のことを思い出してしまった。ちょうど1年前の3月9日に大きな地震があったんだった。大きな地震自体には慣れっこだから、やれやれと思いながら家の中の片付けをしてた。まさかあの時、2日後にあんな悲劇が起きるなんて、思いも寄らなかった。青葉は未雨のこと、飲んだくれていた母のことを思い出して涙が出て来た。だめだ、これ。落ち込んでしまうよぉ。
 
青葉は席を立ってデッキに行き、座り込んで彪志に電話をした。
「どうしたの?」と彪志が優しい声で訊く。
「慰めて」と青葉は言った。
「よしよし、愛してるからね。泣いてもいいよ」
「うん。ちょっと泣く。今私少し泣き虫になっちゃった」
 
「青葉って、とっても精神的に強いから、それを知っててみんな青葉に元気出せって励ますと思うけど、青葉だって、時には泣いていいんだよ。涙が尽きるまで泣いてごらん」
「うん」
青葉は彪志と会話しながら、たくさん涙が出てくるのを放置していた。 
でも、彪志と15分も会話していたら、かなり落ち着いてきた。涙も止まる。「ありがとう。何だか気持ちが落ち着いてきた」
「元気になった?」
「うん。少し元気になった」
「じゃ、頑張ろうか」
「うん。私、頑張る」
 
「でも泣きたくなったらいつでも電話していいからね」と彪志。
「うん。嬉しい時も電話するからね」と青葉。
「うん。どんどん電話して」
 
彪志に「ありがとう」を言って電話を切る。洗面台で顔を洗って席に戻った。 

大宮駅で「はやて」に乗り換える。「はやぶさ」に使われている新型車両だ。何だか乗り心地がいい! 岩手との往復は高速バスを使うことが多いのだが、さすが新幹線は高いだけあって、楽だよなあとも思う。
 
和実から《彪志くんどうだった?》というメールが入った。
《合格してた》と返信する。
《今夜岩手に行くの?》
《今、はやての車中》
《こちら、今佐野SA》
 
和実もちょうど今、東北に向かうところだったようである。あちらの目的地は石巻である。しばし和実ともチャット的メールのやりとりを楽しんだ。やがて《休憩終了。出発》とあったので《気を付けてね。安全運転》とメールする。《そちらも気をつけて。良き恋を》と和実。
《そちらも良き恋を》と青葉は送信して、チャットを終えた。
 
一ノ関で降りて出口まで行くと、彪志が手を振っていた。傍にお母さんが立っている。お母さんに「ご無沙汰しておりました」と挨拶してから
 
「あらためて合格おめでとう」と彪志に言う。
「ありがとう」と彪志。
 
お母さんの車に乗り込み、彪志の自宅まで行った。
 
「晩ご飯はどうしました?」
「はい。母がお弁当作ってくれたので車内で食べました」
「じゃ、お夜食でも」
 
ということで冷凍ピザを焼く。
 
「でも彪志が千葉に行ったら、あなたたち少しは距離が近くなるわね」
「そうですね。でも時間的には大差ないです。今高岡から一ノ関まで新幹線と特急を乗り継いで5時間ですが、千葉までは4時間ですから」
「あれ?その程度だっけ」
 
「新幹線ってのが距離を超越して速いからね」と彪志。
 
「更に今は、私岩手との間は月2回くらい往復してるので、そのついでに寄れるのですが、東京方面には用事がないので、どうしたものかと考えている所で」
「あらら、全然デートできなくなったりして」
「あるいは私が岩手に来る時に、彪志さんも帰省してもらうとか」
「あ、それ良い案!」とお母さん。
 

お風呂をいただいてから、持参の花柄のパジャマを着て、居間にいるご両親にお休みなさいを言って彪志の部屋に行く。布団が2枚敷いてある。なんだか彪志がそわそわしている。
 
「そうだ。これ忘れないうちに。少し早めのホワイトデー」
といって彪志は青葉にホワイトチョコの包みを渡す。
「わあ、ありがとう」
と言って、青葉は彪志にキスした。
 
「ね、できるんだよね?」
「でもここ2階だから音が下に聞こえたりして」
「えっと・・・」
「ふふふ。愛してるよ、まい・だーりん」と言ってキスする。
彪志のキスがうわの空になっている。
 
「じゃ、疲れたから寝ちゃおう」と言って、布団に潜り込む。
彪志が悩んでるようだ。ふふ。悩ませちゃえ。彼はしばらくどうしよう?という感じで悩んでいたが、やがて意を決したようにズボンと上着を脱ぐと、青葉の布団に潜り込んできて「好きだよ」と言った。
 
「私も好き」と言うと抱きついてくる。
「脱がせて」というと、上着のボタンを外していく。こちらも身体をうまく動かして脱がせるのに協力する。やがて、ブラジャーがあらわになる。ごくりとつばを飲み込む音。背中に手を回してブラのホックを外す。肩紐を外す。彪志は乳首を舐めてきた。
 
「おっぱい大きくなったね」
「タマが無くなってから成長速度が上がったみたい。今Cカップ付けてるの」
「夢の中のサイズと同じになる日も近いかな」
「あそこまで大きくならなくてもいいけどなあ」
「いや、あのサイズ、俺好き」
「ふふ」
 
パジャマのズボンを下げられる。パンティの上からあの付近を触られた。 
「あれ?何か変」
「ふふふ」
「これ、クリトリス?」
「脱がせて確かめてみて」
 
彪志は先に自分が脱いで全裸になってから青葉のパンティを脱がせた。戸惑うような顔。
 
「何これ?」
「性転換パッドっていうの。リアルでしょ?」
「見ただけだとまるで本物の女性の股間って感じ」
「リアルすぎるよね、これ」
 
「ちゃんとクリトリスもあるし」などと言いながら触って揉み揉みしている。 
「これ付けたままおしっこもできるんだよ。ちゃんと女の子のおしっこ出てくる位置から出てくるの」
「面白い」
「ちゃんとヴァギナもあるよ。入れてみる」
「入れてみる!」
 
「事前に告知しておくけど、そこに彪志が入れると私は入れられている感触が味わえるようになってる」
「へー。どういう仕組み?」
「その穴が、私の穴にセットされてるから」
「青葉の穴・・・・。え?まさかあそこ?」
「うん」
「じゃ、あそこに入れるのと同じ?」
「そそ。でも人工ヴァギナは完全な筒状になってるから、直接あれの中身に接することはないよ。それに彪志、ちゃんとコンちゃんも付けてるしね」
 
「うーん。。。仕組みを聞くと少し躊躇っちゃうけど、俺今日は飢えてるから入れちゃう」
「うん」
 
「う・・・硬い」と彪志。先端を入れる段階で苦労している。
 
「ごめんねー。私、そこに入れられるのに慣れてないから」
「でも頑張る」
彪志は何とか頑張って入れてくる。青葉はちょっと痛かったが我慢した。 
「ふー。入った」と彪志は言っているが8割くらいまでしか入ってないようだ。でも自分の身体の中に彪志のものが入っているって、何だか物凄く幸せな気分。 
「動かしちゃおう」
「うん」
 
彪志が出し入れする。。。。。これって・・・・気持ちいいじゃん!
 
凄くきついようで、そのせいで高速に出し入れすることができないようだ。そのためか逝くのに少し時間がかかったようだが、やがて彪志は青葉の中で果てた。力が抜けて体重を青葉の上に預ける。青葉は出し入れされるのは気持ちよかったが、自分は逝くことができなかった。でも彪志が逝ったことで満足した。彼の背中を撫でてあげる。彼はそのまま眠ってしまった。青葉も少し寝た。
 

青葉が目を覚ました時、彪志はまだ寝ていた。結合したままである。青葉は目を瞑ったまま、頭を空っぽにして待っていた。やがて彪志が目を覚ました。 
「おはよう!」「おはよう!」「気持ち良かったよ」「ほんと?良かった」
「あ・・・入れたままだ。ごめん」と言って、それを抜く。う、抜かれる時の感触が少し嫌な感じかな。彪志が抜いても、性転換パッドのヴァギナ部分は抜けたりせず、青葉の体内に留まっている。コンちゃんの外側に塗られているゼリーのおかげだろう。でもちょっと痛い。入れられている時はそんなに痛みを感じなかったのに、抜かれるとけっこう痛みを意識した。これってある意味、破瓜の痛みかもね、などと思ったりもする。
 
「ね、ね、いつもの状態にはできる?」
「できるよ。楽屋裏見せたくないから、目を瞑って200数えて」
「200?OK」
 
彪志が目を瞑って向こうを向いてくれたので、青葉はいそいで性転換パッドを取り外すと、持参していたビニール袋に二重に入れてバッグの中にしまう。それから予め接着して疑似割れ目を作ってあった皮の中に、細長い器官を押し込んで収納した。通常のタックのできあがりだ。
 
「できた」と青葉が言うと、彪志が振り向く。
 
「あ、こちらの方が安心する」
「でも私7月に手術しちゃうから、あんな感じの形になっちゃうよ」
「実物ならあの形でも問題なし」
 
「今日は私も一緒に逝きたかったから、あそこにセットしたけど、入れずにテンガの中身みたいなのをセットする方法もあるよ」
「・・・今度会った時、その仕様でやらせて」
 
「テンガって分かる?」
「そりゃ、男はみんな知ってるよ」
「使ってるの?」
「使ったことはない。そんなの親に見つかったら仰天される」
「じゃ、ひとり暮らしになったらプレゼントしてあげようか」
「うーん。。。。そんなこと言われると迷うじゃん」
 
「そうそう。私、借金返さなきゃ」
「借金?」
「これ。夢の中ではしてあげたけど、リアルではまだだったから」
と言って布団の中に潜り込み、彪志のアレを口に咥える。
 
「あ、待って、今出したばかりで敏感すぎるから」
「少し待った方が良い?」
「明日の晩、して」
「いいよ」
 
その晩はそのまま裸でくっついて寝ることにする。3月の岩手は寒い。
布団の外は室温7度だ。でも布団の中でふたりでくっついていると暖かい。 
「青葉さ、幼稚園の頃は立っちゃったことあるって言ってたよね」
「うん」
「それでいじって遊んだりしなかったの?」
 
「遊んだことあるよ。でもお母さんに見つかってさ」
「ああ」
「そんなので遊んでたら切っちゃうよって言われたんだ」
「俺は経験無いけど、そう言う親って結構いるよね」
「それで包丁持ってこられて、おちんちんの根元に当てられて」
「うんうん」
「私、切って欲しかったから『うん切って』ってお願いしたの」
「青葉ならそうだろうね」
「『ほんとに切っちゃうよ、いいの?』ってお母さんが言って」
「うん」
「『切ったらおまえ男の子じゃなくなっちゃうよ』って言われて」
「うん」
「私、『女の子になりたいから切って』って言って」
「ああ」
「そしたら、ぎゅって包丁押しつけられて」
「へー」
「ストンって切られちゃった」
「え?」
 
「それで、私のおちんちん無くなっちゃったんだよね」
「ちょっと待て」
「切り落としたおちんちんは生ゴミの袋にポイ。凄く痛かったけど、これで女の子になれたと思うと嬉しかった」
「えーっと」
「血が止まるまで、生理用ナプキン当ててたよ。女の子パンティ持ってなかったから、その日はお姉ちゃんのパンティ借りたの。そして、もうおまえは女の子になっちゃったから女の子パンティ穿かなきゃって言われて、それまで仮面ライダーの男の子ブリーフ穿いてたんだけど、次の日お母さんがおジャ魔女の女の子ショーツ買ってきて、それを穿くようになったし、スカートも穿くようになったんだよね。幼稚園に入る直前の頃で、幼稚園の制服も男の子用を頼んでいたのをキャンセルして女の子用を注文しなおして、4月からは女の子として幼稚園に通ったの。もちろん男の子の服は全部捨てられた」
「あのぉ・・・」
 
「だから、私おちんちん無いの」
「無いの?」
「私におちんちんあるの見たことある?」
「見たことないけど、10月に触った」
「きっと気のせいよ。私には、おちんちん無いはず」
「そうか?」
彪志は笑っていた。
 
「楽しそうね」
「今日は青葉が嘘つきだということがよく分かった」
「私、嘘ついたこと無いけどな」
「それが一番の嘘だ!」
 

翌日10日は実は青葉の家族の一周忌の法要を行った。本当は3月11日が一周忌だが、3月11日が一周忌というところが、あまりにも多いので1日ずらすことにしたのである。しかし同様に10日に一周忌をするところも多数あった。そのため、お経をあげるのをお願いした££寺の住職も「必ず行くけど、何時に行くというのは確約できない」などと言う始末であった。
 
会場は幸いにも市内の貸しホールを押さえることができていた(実は昨年の7月に「本葬儀」をした時、同時に押さえていた)。そこに慶子が10日朝から仏式の祭壇を設置してくれていた。青葉は彪志、彪志の両親とともに早朝一ノ関を出発して8時頃会場に入った。
 
早紀と椿妃が各々のお母さんを伴い9時頃来てくれた。八戸の咲良はお母さんと一緒に早朝の新幹線で盛岡まで来て、そこで慶子の娘さんの真穂さんの車でやってきた。盛岡からは母(礼子)の友人だった人も1人同乗させてきた。 
早紀が出席すると聞いた美由紀は「自分も絶対行く」と言い、最近椿妃とメル友になっていた日香理も「椿妃とも会いたいし付いていく」と言い、ふたりは青葉の母(朋子)と一緒に早朝の「はくたか」に乗り、新幹線を乗り継いで11:37に仙台に到着。ちょうど同じ頃北海道から飛行機でやってきた舞花と一緒にレンタカーを使って大船渡までやってきた。
 
直美・民雄夫妻は9日夜のサンライズで東京に出てきて、新幹線に乗り継ぎ9:13に仙台に到着した。千里と桃香が一足早い新幹線で仙台に来てレンタカーを借りていたので、直美夫妻を乗せて大船渡に入った。
 
和美と淳は前日石巻に来ていたのだが、そこから今日のお昼すぎにこちらへ来てくれるということだった。彼女らは顔を出したらまた石巻にとんぼ返りという忙しいスケジュールである。
 
父の友人だった白石さんも友人の一周忌が何本もあるので時刻は分からないが、夕方くらいにこちらに顔を出すということだった。
 
姉・未雨の同級生だった鵜浦さんは午前中に別の友人の一周忌に顔を出した後で午後くらいにこちらに来てくれるということだった。
 
そして菊枝は自分の車で高知からやってきた。8日の朝出発して「のんびり」
走ってきたということで会場に10日朝9時に到着した。
 
仕事で九州に行っている冬子・政子、公演中で動けない嵐太郎からはお花が届いていた。あきら・小夜子は、赤ちゃんが騒ぐと迷惑だろうから遠慮しておくということで、御仏前を和美に託していた。他、青葉の知り合いの多数の霊能者さんから御仏前が郵送されてきていた。
 
午前中は祭壇の前でみんなであれこれ話をしていた。
 
「お坊さん、何時頃になるのか全然見当が付かないの?」
「そうなのよ。たぶん午後だろうということだったけど」
「じゃさ、お経が無いのも寂しいし、私たちで交替で阿弥陀経でも読もうか?」
「そうだね」
ということで、菊枝と直美と青葉が交替で阿弥陀経を読誦することにした 
「あ、いけない。お布施用意しておかなくちゃ」
と言って、封筒に青葉が現金を入れる。
「あれ、私、ペン入れどこに置いたかな?」
「あ、これ使うといいよ」と菊枝が筆ペンを貸してくれた。
 
「何この筆ペン。異様に書きやすい」
「うん。それ凄く書きやすいよね。気に入ったら青葉にあげるよ。それ四国でしか売ってないんだよね。私また買っとくから。」
「ほんと? もらっちゃおう」
 
頼んでいた仕出しが11時頃来たが、参列者は12時少し前頃からぼちぼちと現れた。この時間帯に寄ってくれたのは、比較的近所に住む、祖父母の知り合いたちである。 
お弁当は短時間で帰る人にはそのままお渡しし、ゆっくり居てくれる人とは、14時から少し休憩時間を作って一緒に会食することにした。母と美由紀・日香理・舞花はちょうどこの会食の時間に到着した。和美・淳も14時少し過ぎに到着したので、この会食を一緒にできた。
 
結局££寺の住職は15時半頃やってきたが、時間が無いので申し訳ないと言って般若心経と観音経を唱えて、次の法要へと慌ただしく去って行った。
 
柚女・歌里や他数人の元クラスメイトなどが、ちょうど住職の来たタイミングで来てくれた。祖父母の友人の老人たちが住職と入れ替わりくらいでやってきた。 
和美・淳は住職が去った後、菊枝が阿弥陀経を読んだのまで聞いてから石巻に帰還した。そのタイミングで、盛岡から来た礼子のお友達も帰るということだったので真穂が送って行った。鵜浦さんも帰った。この帰った人たちと入れ替わりになる感じで白石さんが来た。
 
結局その後も菊枝・直美・青葉の3人交替で阿弥陀経を読み続け、夕方18時にいったん締め。会場の撤去作業をした上で、市内の料理店に移動して会食をした。(これも7月に既に予約しておいた:その時点ではこの店は再開していなかったのだが、再開を信じ、復興資金の足しになるよう半額前金で渡しておいた) 
夕食の参加者は、青葉・朋子・桃香・千里、彪志・彪志の両親、早紀・椿妃・咲良と各々の母、美由紀・日香理、舞花、直美・民雄、慶子、白石、そして菊枝の合計21人である。
 
「何か1年たったというのが信じられないね」と早紀。
「でも青葉は凄く元気になったし、表情も物凄く豊かになった」と咲良。「今日はたくさん泣いたけどね」と青葉。
「そして青葉はとっても女らしくなった」と椿妃が言う。
 
「その女らしくなった最大の要因という噂の彪志さん、一言どうぞ」と日香理。突然の指名で慌てる彪志だが
「まあ、青葉は元々可愛い女の子。俺はその封印を解いただけ」などと言う。友人たち、そして菊枝、桃香たちも頷いている。
 
「青葉は自分が女だということを主張するけど、主張する前に既に女としてしか見られていないことに気づいていない」と桃香が指摘すると、それも友人たちが頷いている。
 
夕食の後、白石、慶子、早紀と椿妃の母が帰宅する。残りの17人で旅館に入った。早紀と椿妃本人たちも自宅に戻っていいのだが、青葉とはもちろん、咲良や美由紀・日香理との交流もしたいので旅館に泊まり込むのである。
 
部屋割りは、早紀・椿妃・咲良、美由紀と日香理、彪志の両親、直美夫妻、千里と桃香、咲良の母と朋子、菊枝と舞花、そして彪志と青葉になっていた。 
「たいへん大きな質問があります」と美由紀。
「私も質問があります」と早紀。
ふたりは一瞬睨み合ったが、同じ質問のようだということで一緒に言う。 
「青葉と彪志さんが同室なのはなぜですか?」
 
それに対して青葉は「はい。ラブラブだからです」とぬけぬけと言った。 
「きゃー」と早紀・椿妃・咲良・美由紀・日香理。
桃香や菊枝がニヤニヤしている。
 
「あのぉ、今夜ふたりはやるんでしょうか?」と美由紀。
「はい、します」と青葉。
彪志は頭を掻いている。彪志の両親や朋子は笑っている。
 
「じゃ、ふたりがやる前に疲れて眠ってしまうように、今夜はふたりをじっくり質問攻めにしよう」と早紀。
 
「さ、青葉、彪志さん、いらっしゃーい」
という訳で、青葉と彪志は、早紀たちの部屋に拉致され、そこに当然美由紀と日香理も合流して、夜遅くまで、その部屋からは笑い声が響いていた。 
「さて、青葉に負けずに、私たちもやろう」と桃香が千里に言うが、千里は「一緒に寝るだけね」などという。
「好きにしていい?」と桃香。
「私、寝る」と千里。
「じゃ、寝てる千里を好きにしちゃう」と言って桃香は千里を引っ張り部屋に入っていった。
 
「何かふしだらな娘たちばかりでお恥ずかしい」と朋子が言うが菊枝が「どちらも一見不毛なカップルに見えるけど、桃香さんとこにも、青葉のとこにも、ずっと先だけど孫ができますよ」
と言った。朋子も頷く。「そんな気がします」
 
彪志の両親が「へー」という顔をしていた。
 

翌日は大船渡市では午前10時から市主催の東日本大震災追悼式があったので、青葉たちもその式典に参列した。またあらたに涙が出てくる。
 
お昼を一緒に食べてから、直美夫妻が帰るのを千里・桃香で仙台空港まで送っていき(直美たちは伊丹経由で出雲に帰還)、千里たちはレンタカーを返却して新幹線で東京に戻る。彪志親子が自分たちの車に咲良親子を一緒に乗せて一ノ関に行き、咲良親子は新幹線で八戸に帰還する。菊枝が自分の車で舞花を仙台空港まで送っていき、菊枝はそのまま高知に向かって走って行く。
 
残りの6人(青葉・椿妃・早紀・美由紀・日香理・青葉の母)は椿妃の家にお邪魔した。年末にやっと新しい家ができて、仮設住宅から引っ越したのである。柚女と歌里、他数人元クラスメイトやコーラス部で一緒だった子もやってきた。多人数になったが、椿妃の家の居間とキッチンをぶちぬいてテーブルを並べ、おやつをつまんだ。14:46にサイレンが鳴る。みんなで黙祷を捧げた。
 
「そういえば青葉、この夏に性転換しちゃうんだって?」と咲良。
「えー!?凄い」と初耳だった子たち。
 
「うん。最初アメリカで手術してくれる所が見つかって。診察・審査も受けてきたんだけど、その審査OKの書類をもらったおかげで、そういう許可が出ているなら、うちででも手術できますよ、というところが国内で見つかったのよね」
「良かったね」と早紀。
 
「アメリカならタイより言葉の壁が小さくていいなと思ってたんだけど、国内で受けられたら、言葉も楽だし、アフターフォローの問題が助かるから」
「アフターフォロー?」
 
「あれって手術したら終わりじゃなくて、特に最初の1年くらいは結構メンテが必要な場合もあるし、あと私みたいな低年齢で手術した場合、20歳頃までに調整の手術が必要になる可能性もあるのよね。費用はタイとかで受けるのに比べてけっこう高めだけど。アメリカにしても日本にしても」
「いや、お金の問題より安心感だよ、やはり」と美由紀。
 
「でも高校に行く前に手術できるって、凄く大きなことなのでは?」と椿妃。 
「そうなんだよね。法的な性別は20歳まで変更できないけど、肉体的に女になっているというのは、高校に入る時に考慮してもらえる内容が段違いだと思うんだよね」
 
「完全に女子として受け入れてもらえるんじゃない?」とひとりの子が言うが「今でも完全に女子生徒している気がする」と早紀。
「うん、完全に女子生徒だよ」と美由紀。
「女子トイレを堂々と使えるよね」と別の子。
「青葉は女子トイレしか使ってないよね?」と早紀。
「そうそう」と美由紀。
「女子更衣室で堂々と着換えられる?」とまた別の子。
「多分、今でも女子更衣室で着換えてない?」と早紀。
「着換えてる」と美由紀。
 
「身体測定とかは?」
「今も女子と一緒だよね」「うん。前後の子と胸囲とか測りっこしてるし」
 
「あ、修学旅行で女湯に入れるかな」と歌里が思いついたように言うが「青葉は小学校の修学旅行でも女湯に入ったし、中1の時は一緒に温泉に行ったんだよ」と早紀が言う。
「私たちもいつも青葉と一緒に温泉に入ってるね」と美由紀・日香理。 
「じゃ、何も変わらないのでは?」と柚女。
「そんな気もするなあ・・・」と青葉は頭を掻きながら答えた。
 

椿妃の家で少しゆっくりさせてもらった後で、朋子が青葉・美由紀・日香理を乗せ仙台まで行きレンタカーを返還。新幹線と特急を乗り継ぎ、深夜に高岡に帰還した。駅近くの駐車場に自分の車を止めていた朋子がそのまま美由紀と日香理をそれぞれの自宅に送り届け、青葉と一緒に自分たちの家に戻る。その日はさすがの青葉も熟睡し、翌日朝4時のジョギングはできなかった。 
結局6時に起きて慌てて朝ご飯を作り、母と一緒に食べて、学校に出て行く。 
「学校もあと少しで終わりだね」とまだあくびをしている美由紀が言う。青葉が学校に持ってきたゴマすり団子を数人の女生徒でつまんでいる。 
「今年は私にとっては女生徒元年だった」と青葉が言うが
「いや、椿妃たちの話を聞いた結果、青葉はずっと前から女生徒だったという結論に達した」と日香理。
 
椿妃と日香理は葬儀の時と合唱の全国大会の時に遭遇したので夏頃から携帯のメールで情報交換?しているようである。
 
「去年1年間にしても、大半の時間、青葉は女子の制服を着ていたらしいし」
「うん、まあ・・・・」
「本来は授業中は男子制服を着ていて、放課後は女子制服ということだったはずが、実際には授業中も女子制服を着ていることが多かったって椿妃の話なんだよね」
「あはは・・・・いや、先生によってそのあたり黙認してくれる人とうるさく言う人がいてさぁ」
 
「まあ、青葉は周囲に恵まれてると思うよ。理解してくれない人ばかりって子も、きっとたくさんいるんじゃないかな」
「そういう状況だと辛いよね。私みたいな子の死亡率の多分トップは自殺だよ」
「ああ、そうなんだろうね」
 
「体育の時間に見学する時だって、大抵女子制服着ていたのに、震災の時はなぜか男子制服を着ていたって言ってたけど」
 
「あれは・・・スキーだから、スカートじゃ寒いと思ったのよ。身体動かすならいいけど、見学だと雪の中でじっとしてないといけないし」
「そういうことだったのか!」
 
「でも女子制服の状態で被災していたら、千里姉ちゃんと関わりが出来てなかった気がするし、結果的に私、今ここにいないよね。でも私を保護してくれるような人って存在してなかったから、私、どうなってたのか見当も付かない」
「いろんな運命の糸が絡み合ってるのよね、この世の中って」
「青葉って、やはり運の強い子なんだよ」
 
「そうかもね」と青葉は言って、空になってしまったお菓子の箱を解体してバッグの中にしまった。始業の鐘がなる。さて、今日も1日頑張ろう、と青葉は1時間目の教科書を取り出した。
 
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