【春歌】(その2)

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10月15-16日は青葉の中学の文化祭であった。青葉はもちろんコーラス部でステージに出演した。昨年の文化祭ではコーラス部にいる時は女子制服だったけど、教室では男子制服だったなあなどと去年のことを思い出す。今年はいつも女子制服だ。男子制服を着ていた頃のことを忘れつつある。
 
この文化祭ではmiwaの「春になったら」と、AKB48の「ヘビーローテーション」
を歌った。1日目は部長の府中さんが指揮をしたが、2日目は直前になって突然、「青葉ちゃーん、指揮してみようか」などと言われて、青葉が指揮をした。もちろん指揮をしながら自分でも歌う。
 
2日目のステージが終わってから部室に引き上げてきて、3年生はこの文化祭で一応部活終了となることが告げられ、次の部長・副部長を決めようということになる。
「川上さんを推薦します」なんて声が数ヶ所から上がる。
「えー!?」と青葉。
「あのぉ、私ちょっと性別に難があるので辞退します」
「川上さんは純粋に女の子だよね」
「性別には何も難は無いと思うなあ」
「噂によれば、川上さんは女湯に入れるというし」
「あ、私川上さんと一緒にお風呂入りました。どう見ても女の子でした」
などという声がたくさん上がる。あはは『青葉鑑賞会』でたくさん、コーラス部の子とも一緒に温泉に入ったからなあ。
 
「さっき指揮してもらったけど、指揮もうまかったですね」
「うんうん。指示が分かりやすくて歌いやすかった」
 
「えー。でも私、人をまとめるの得意じゃないし。あ、上野さん(美津穂)なんかどうかな。リーダーシップあるし」
「あ、確かにリーダーシップあるよね。姐御肌ってか」
「上野さんもいいよね」
突然名前が出て、美津穂が少し焦ってるが、うまく反撃してきた。
 
「そうだねー。じゃ、私が副部長やるから、川上さん部長してください」
「あ、その組み合わせいい!」
という声があちこちから上がる。
 
「確かにいい組み合わせだね。カリスマ性のある川上さんと、リーダーシップのある上野さん」
「じゃ、それで決定?」
みんなが拍手する。
「じゃ、そういうことで、川上さん、上野さん、お願いします」
 
きゃー、どうしよう、と青葉は焦っていた。
 

10月22日から24日に掛けての連休。月の前半の岩手行きがキャンセルになったので仕事が溜まっており、結局24日の午後まで仕事はずれこんだ。終わって、祭壇の前でリセットをし、普段着に着替えたのはもう午後3時だった。わあ、もう今日はデートの時間が取れないと思いつつ彪志に「今終わった」とメールすると「綾里駅の物産観光センターにいる」という返事が返ってきた。 
慶子の車で綾里駅まで送ってもらうと、お母さんと一緒の彪志がいた。「青葉の仕事が長引いているなと思って、こちらにバスで出てこようかと思ったら、母ちゃんが送ってくれるというもんで。あまり市街地に長居できそうなところが見つからなくて」
と彪志は言っていた。
 
お母さんに挨拶し、物産観光センター「銀河」の中をしばし見て回る。「7月に出来たのは知っていたのですが、来たのは初めてです」
と青葉は言う。
 
「でもここ狭いし、もう何周か見ちゃったのでは?」と青葉が訊くと
「うん。これ4週目かな」と彪志は答えた。
 
結局トマトとぶどうにお菓子を少々買って、お母さんの車に乗り込み、一ノ関方面に向かった。
 
「今日は18時の新幹線?」
「はい。17:53です。」
「彪志、大宮まで送っていきなさいよ」
「うん。そのつもり」
「大宮まで行って戻れたっけ?」と青葉が訊くと
「大宮には19:58に着くんだよね。大宮発20:42のやまびこに乗ると一ノ関22:57に帰還できる。あおばは大宮発20:36のときだよね?」
「うん。越後湯沢乗り換えで23:38高岡着」
 
「上越新幹線と東北新幹線のホームは同じだから、青葉が出るのを見送ってから、こちらに帰る列車に乗るよ」
「わあ。じゃ、往復の新幹線代、私が出しますよ」
「8月には青葉ちゃんが出したから今回は私が出すよ」とお母さん。
「すみません。それではお言葉に甘えまして」
 
結局そういう訳でその日のデートはお母さんの車の中と新幹線の中になったのであった。お母さんは「見ない振りするからキスしてもいいよ」などと言っていたが、さすがに遠慮した。
 
一ノ関に着いたのがもう17時半で、そのまま駅でおろしてもらう。お母さんが用意してくれていた夕食用のお弁当とお茶の包みを渡される。青葉はよくよくお礼を言って別れた。チケットは、青葉が車の中から確保していたので、駅の指定券券売機で受け取る。青葉のクレカで決済したので、その分を彪志が現金で渡してくれた。
「端数めんどくさいから23000円渡すね」と彪志。
「じゃ、そのバックマージン」と言って青葉は3000円彪志に返す。
「じゃ、もらっとこう」と言って彪志はその3000円を自分の財布に入れた。 
一緒に、はやてに乗り込む。全席指定の列車だが、彪志の席の隣にいた人と交渉して青葉の席と交換してもらい、並んで座った。
 
「昨日の模試の手応えは?」
「かなりいいと思う。8月の模試では偏差値61, 先月の模試は63だった」
「合格圏内に入ったよね」
「うん。今回は先月より明らかに出来が良い」
「頑張ってるね。約束のプレゼントしてあげたいんだけどなあ」
青葉は彪志が偏差値61以上出したらフェラをしてあげる約束をしていた。 
「リアルではする時間がないね。受験終わるまで待つよ」
「そうだねぇ」
 
今回は受検前の最後のデートである。次は国立大学前期日程の合格発表が終わるまでデートを自粛することを約束している。
 
「一緒にトイレに入ってしちゃう?」と青葉は小声で訊く。
「いや、そこまで飢えてないから大丈夫」と彪志。
「ふふふ」
 
「アメリカはどうだった?」
「手術受けることを認めるという、病院の倫理委員会のお墨付きをもらった」
「じゃ、そこで手術しちゃうの?」
「15歳にならないと手術の予約自体ができないから。5月になってからだね」
「手術の時は俺も付いていくよ」
 
「ありがとう。凄く心強いと思う。何かさ、時期的に千里姉ちゃんと同じ頃の手術になりそうな気がするのよね。桃香姉ちゃんは当然千里姉ちゃんのそばに付いているだろうから。お母ちゃんは付いてきてくれるだろうけど、彪志がそばにいたら、凄く精神的に助かる」
 
「でも切っちゃう前に、その切る前の奴を俺見てみたいな」
「嫌だよ。そんなの好きな人に見せられない」
「青葉のこと好きだから青葉の全てを知りたい」
「見せたくないもん」
 
「でも短いスカート穿いてきたら、ちょっと冷え込んできたな」
「もう10月だもん。寒いよ。山の方はもう雪降ってるよ」
「毛布出しちゃおう」
と言って、青葉は旅行鞄から毛布を出すと、自分と彪志のひざに一緒に掛かるように掛けた。
 
「あ、ありがとう」
「うん。ちょっとだけサービス」
 
というと青葉は毛布の下に手を入れ、彪志の股間に手をやる。
「あっ・・・」
「うまくこれ下ろせないな」
「自分でするよ」と言って彪志はズボンのファスナーを下げ、ホックも外す。 
青葉は彪志のトランクスの上から、それを揉み揉みした。
「青葉のもしてあげる」
といって彪志が手を伸ばし、青葉の短いスカートの裾から手を入れ、あの付近に触る。「あれ?」
「ふふふ」
「これ・・・・」
「お医者さん以外に触らせるの初めて」
 
「青葉、ほんとに付いてたんだね」
「付いてるから取る予定なんだけどね」
「うー。猛烈にこれ見たい」
「残念ながらふたりきりになれないもんね。今夜は」
「悔しいー」
「受験生さん頑張ってね」
 
青葉は彪志のそれを刺激して硬くなってくると手を離し、少したつとまた刺激するという、生殺し状態にした。15分くらいそれを続けていたら彪志が 
「だめだ。ちょっと俺トイレに行ってくる」
と言って席を立つ。
 
彪志は5分ほどで戻って来た。
 
「すっきりした?」
「した」
「うふふ」
 
青葉は「少し眠くなった」などいって、彪志の肩に自分の首を預けた。彪志が優しく青葉の腕を撫でる。
 
「私、このままずっとこうしていたい」
「俺は青葉と一緒にどこかに籠もりたい」
「そうだよね」
 
列車はほぼ満員である。でも通路をはさんだ向こうの人は寝てるっぽい。青葉は素早く彪志にキスをすると、また同じ姿勢に戻った。
 
「青葉、好きだよ」
「私も好き、彪志」
 
19時をすぎたあたりで晩ご飯にしようといって、もらったお弁当の包みを開け、一緒に食べた。お弁当はサイズだけ違って同じ中身なのだが、お互いに「あーん」
などして楽しみながら食べる。
 
「彪志のお母さんも料理上手だよね」
「ありがとう」
「千葉に行ったら自炊だよね」
「うん。少し料理覚えないと。青葉がいたらご飯作ってもらうんだけどな」
「じゃご飯のレシピだけメールしちゃおっと」
「作るのはセルフサービスか!」
 
大宮駅で30分ほどの待ち時間がある。ふたりはまだ開いてた構内の売店で熱いコーヒーを買って、一緒に飲んだ。まだパンが少し残っていたので夜食用に少し買い、ふたりで分けて持つ。
 
「じゃ次会うのは3月9日かな」
「合格祝い持って行くからね」
 

彪志は青葉の乗った新潟行き「とき」が18番線から出て行ったのを見送った後、向かい側の17番線で待っていた。ほどなく盛岡行き「やまびこ」が入ってきたので乗り込む。指定の座席に行き座る。そしてふっと溜息をついた。
 
次会えるのは3月か。。。。ほんとに我慢できるだろうか。彪志と青葉は青葉が小学6年生・彪志が高校1年生の8月に別れてから今年5月に再会するまで1年9ヶ月も会えなかった。それは我慢できたのに、これからわずか5ヶ月会えないのが、何だか物凄く長い時間のような気がしてならないのである。
 
自分も本当に青葉に本気になってるんだなあとあらためて彪志は思った。 
さっき青葉と並んだ席で、毛布をひざに掛けて、こっそりHなことをした記憶が蘇る。しかし、そのお陰でよけい寂しさがつのる。青葉とあんなこともこれから5ヶ月できない。彪志はまるで修道院にでも入るかのような気分になっていた。 
でも・・・・初めて青葉のアレを触っちゃった。ほんとに青葉って男の子だったんだなあ・・・と思うが、男の子の青葉を想像しようとするのに、頭の中に浮かんでくるのは完璧に女の子ボディの青葉ばかりだ。考えているうちに青葉のアレに触ったこと自体が、事実ではないような気さえしてくる。触った時、ひょっとして女の子の形だったってことはないだろうか?? 何だか自分の記憶に自信が無い。
 
そんなことを考えている内に彪志はいつしか眠ってしまった。
 
あれ?ここは・・・・もしかして夢の中かな? ひょっとして青葉がいないかなと思って探すと、いた! 少し先の方の席に座っているので歩いて行ったら座席で熟睡している感じだ。そうか。お仕事大変だったんだよなと思い、頬にそっとキスをしたら青葉が目を覚ました。
 
『キスは唇にしてよ』と青葉が言う。
『うん』と答えて、あらためて青葉の唇にキスをした。
 
青葉の隣の席が空いているのでそこに座って話をする。
『今日は列車の中で問題集しなくてもいいの?』
『今夜帰ってから頑張る』
『だったら新幹線の中では寝てた方がいいんじゃない?』
『だから今寝てるよ』
『この夢を見ている状態では、あまり休息にならない気がするけどなあ』
『でも青葉と話したいもん』
 
『話すって、ボディートークの方かな』
『それもしたい』
『今回、私の仕事がずれこんで出来なかったもんね。ちょっとベッドに行こうよ』
『新幹線の中にベッドなんてあるんだっけ?』
『夢の中だもん。あると思えばあるよ』
 
そういって青葉は席から立ち上がると、彪志の手を引いて隣の車両に移る。するとそこに2人用個室寝台デュエットがある。
 
『チケット見てごらんよ』と青葉が言うので彪志が自分のチケットを取り出して見ると、デュエットのチケットになってる! なんて都合がいいんだ。 
チケットに書かれた番号の部屋を見つけ、ふたりで中に入り、ドアをロックする。 
『さ、お話しよ』と青葉は笑顔で言い、服を脱ぎ出す。彪志も脱いだ。やがてふたりとも裸になってしまう。
 
青葉の裸体をあらためて見るが、やはり完璧な女体だ。お股に変なものはぶら下がっていない。胸はFカップだ(現実の青葉はCカップ弱)。
 
『こんなことなら、俺、さっき出してしまわなきゃ良かった』
『でも以前、リアルでした直後に夢の中でも出来たじゃん』
『そっか。できるかも知れないな』
『やってみれば分かるよ』
と言って青葉は彪志に抱きついてキスをした。そのまま彪志は青葉をベッドに押し倒す。身体の上に毛布を掛ける。彪志はたくさん青葉を愛撫した上で、自分のバッグに手を伸ばし、避妊具を取ろうとした。しかし青葉がそれを押しとどめる。
 
『彪志、8月の模試、偏差値61だったんでしょ?』
『うん。9月の模試は63だった』
『頑張ってるから約束通り、ご褒美』
 
そう言うと青葉は毛布の中に身体を潜り込ませ『仰向けになってよ』と言った。彪志が身体を回転させると、青葉は彪志のそれを左手で持って舐め始めた。『わっ』
あまりの快感に彪志は思わず声を出した。
『痛かったら言ってね。初めてだから加減が分からなくて』
『うん』
 
物凄い快感だ。何か頭が壊れてしまいそう。彪志はセックスの快感とオナニーの快感とどちらが大きいかなあなどと何度か考えたことがあったが、フェラの快感は、そのどちらをも凌駕する。セックスとオナニーとフェラのどれかひとつしか許されないなら絶対フェラだと思った。あ・・・もうダメ。
 
彪志はあっという間に逝ってしまった。青葉はごくりとそれを飲み込むと、急速に縮んでいくそれの脇を舐めてあげる。先端を今舐められたら耐えられないと思ったのだが、脇だと何とかなる感じだ。彪志は無性に青葉にキスしたくなった。身体を起こして青葉を引き寄せキスする。『あっ』という青葉。
 
『彪志、自分のおちんちんと間接キス』
『自分のなら構わないよ。他人のなら嫌だけど』
『私のだったら?』
『青葉のだったら直接舐めてもいい』
 
『・・・でも夢の中だからなあ。私、おちんちん無いのよね』
『触っていい?』
『うん。私の身体は彪志の物だから自由に触っていいからね。あ、でもごめん。私乗り換えないといけないから、しばしリアルに戻る。そのまま待ってて』
 
そろそろ越後湯沢なのだろう。
『うん』
と彪志が言うのと同時に青葉の姿が消えた。
 
へー。リアルに戻るとこちらの世界からは消えるのかと思い、しばらくそのまま待っていた。青葉が消えた後の、ぬくもりを触ると、今ふたりでしたことの記憶が蘇り、ドキっとする。ちょっと自分のを触ってみたりする。いろいろ暴走気味の妄想をしていたら、やがて青葉は戻って来た。さっき青葉がいたのと同じ場所に、すうっと出現する。
 
『お・ま・た・せ』
と言って青葉はキスしてきた。
 
『自分でやってた?』
『少し。出してはいないけど』
『出してもいいのに』
『青葉がいるのにもったいないよ。それに出したばかりだし』
『うふふ』と言って青葉が笑顔でこちらを見る。
 
彪志は青葉のことが愛おしくてたまらない気分になり、青葉の身体をあちこち撫でてあげた。少しドキドキしながら、お股に手を伸ばす。何も突起物は無い。割れ目の中に指を入れるとかなり湿っている。わあ・・・と思いながら敏感な部分を刺激してあげる。思わず目をつぶる青葉。そのまま刺激を続ける。なんだか気持ちよさそうにしている。そんな青葉を見ていると彪志は幸せな気分になってきた。7-8分で青葉は逝ってしまった。思い出したかのように、彪志のを触ってくる。ふたりはしばしお互いの身体をもてあそび、快楽をむさぼった。 
『来年の夏には、私リアルでもこんな身体になっちゃうから、手術してすぐには、してあげられないけど、年明けくらいにはたぶんHできるんじゃないかな』
『その頃は青葉、高校受験でしょ? 受験してる時にHな事なんてできないよ。高校に合格したら、しようよ』
 
『じゃ、彪志が大学に合格したら記念にするのと同じだね』
『そうなるね!』
 
『だけどリアルでも同じ形になるといっても、夢の中の青葉の身体には、このお腹の中に卵巣と子宮が収まっているからなあ』
『そうなんだよね。夢の中の私、ふつうに生理があるからナプキンが必要なんだよね。あと何日かで生理来るよ』
『じゃ、今の時期って・・・・』
『排卵日前後。だから今日の私は淫乱なの。今、生でセックスすると妊娠しそう』
 
『妊娠させてみたい気分だけど、中学生を妊娠させる訳にはいかないから我慢』
『うん。せめて高校卒業した後にして。まだ母親になる心の準備が無いから』
『俺もまだ父親になる心の準備無いから我慢する』
『でも付けてなら、してもいいからね』
『まだしばらくは、さすがに立たない気がする』
『うふふ』
 
ふたりは上半身だけ服を着て、下は毛布で覆った状態で少し座っておしゃべりを楽しんだ。
 
『でも、今夜こんなことしちゃったから、ますますこれから会えない5ヶ月が辛すぎる』
『電話もできるしスカイプで顔見ながら話すこともできるし。Hはできないけど』
 
彪志はもう1回行けそうな気がしたら、仕掛けちゃおうと思っていたのだが、青葉とのおしゃべりが楽しすぎて、そのタイミングがないまま時間は過ぎていった。
 
『彪志、そろそろ起きた方がいいかも。盛岡まで乗り過ごしたら大変』
『もうタイムリミットか・・・・仕方ないな』
『じゃ、そろそろバイバイのキス』
と言って、青葉は彪志にディープキスをした。
 
『じゃ、また』
『うん』
 
彪志は目を覚ました。自分の身体をチェックする。夢の中では下半身裸だったがリアルではちゃんとズボンを穿いている。でもアレが少し大きくなって熱くなっていた。はあ、とため息をつくと、彪志は降りる準備をしはじめた。携帯にメール着信。青葉だ。『あい・らぶ・ゆー』と書かれている。彪志も『あい・らぶ・ゆー、とぅー』と返信した。微笑んで、彪志は席を立った。
 

青葉が岩手から戻った週の水曜日、先日体調が悪いということで相談に乗った詩子さんから電話が掛かってきた。
 
「青葉ちゃん、あなた祈祷とかするのよね?」
「はい。私の本職は祈祷師です」
「実はさっき、うちの姪が交通事故に遭って」
「え?」
「何かやばいみたいなの。病院に運び込まれた時は意識があったんだけど、さっき意識無くなって、緊急手術してるんだけど、祈祷してくれないかしら?」
「すぐ行きます」
 
病院の場所を聞き、母の車で送ってもらった。病院に行くので巫女服ではなく学校の制服で出かけた。宗教系のものを嫌う医師もよくいるのだ。
 
「どうですか?」
「お医者様は手術は成功だって。でも意識が朝までに戻るかどうかが勝負らしい。助かる確率は五分五分だと言われました」と詩子さん。
 
患者さんの病室に入らせてもらった。手術後しばらくICUにいたらしいが、一番危ない状態は越えたということで、ふつうの病室に戻されている。ただし個室でナースステーションのすぐそばである。血圧計・脈拍計が取り付けられたままだ。しかし青葉としてはICUより一般病室のほうが「仕事」しやすい。
 
「藁をも掴む思いなんです。この子のために祈祷して頂けないでしょうか?」
と患者のお母さん。
「そうですね。でもこれは祈祷よりヒーリングです」
「はい、何でもしてください。お願いします」
お母さんは憔悴しきっているようだ。
 
患者は高校生くらいだろうか。青葉は病室で患者のそばに座ると、まずその身体全体をスキャンした。
「肩と頭の怪我が大きいですね。足も骨折してるけど、こちらはそう大したことは無いです」
「はい、その通りです。肩は今応急処置だけなんです。頭の方が優先ということで」
「ですね」
 
患者さんは容子さんと言った。高校3年生らしい。受験直前なのに、と思う。青葉は目をつぶると、容子さんの頭の上に手をかざし、全体の気の流れをよくよく観察した上で、まずは無難な所から少しずつ気の乱れを直していった。 
脳の場合は単純に気の流れを元に戻せばいい訳ではない。変に流れを良くしてその先に行き止まりがあったら気の「溜まり」ができて、それが病状を悪化させる。場合によっては命に関わる。脳の気の調整はひじょうに難しいのだ。 
しかし端の方から気の流れを良くしていくと、少しずつ「溜まり」や「渦」が出来ていたところが解消されていく。青葉は気の流れ、血液の流れの双方を観察しながら、流れの下流側から順に修正作業をしていく。かなり根気のいる作業である。
 
40分ほどしていたところでお医者さんがチェックに来てくれた。
 
「患者さん、回復が速いですね。非常に調子いいですよ」
とお医者さんは本当に驚いているようだ。
 
青葉はお医者さんが診察している間、少し休憩させてもらって、自販機で甘いコーヒーを買って飲んだ。売店が閉まる間際だったのでパンを買って食べた。この手のヒーリングはとにかくエネルギーを使うのである。
 
病室に戻るとお医者さんはもう部屋にいなかった。青葉はまた容子さんのそばに座りヒーリングを続ける。最初の1時間ほどで全体の3割くらいの修復が出来た。しかしまだ「大物」が残っているし、いったん修正した所もまた乱れ始めている場所がある。
 
取りあえず修正後に少し乱れた部分を再修正し、それからまた「下流」側から修正作業を進めていった。2時間ほど掛けて、いちばん大きな流れに関わる部分以外の修正作業を終える。
 
「ずっと、頭の上で手をかざしたり、並行に動かしたりしてますね」
「ええ。これで気の流れを調整しているんです。これから大物に取りかかりますが、その前にいったん休憩します」
 
部屋の隅で少し身体を休めて自分自身の精神を集中する。ここからの作業には青葉自身の力では足りない。青葉は集中した状態で、ふだんは底の方に納められている秘密兵器のうちのひとつを取り出した。まさに「奥の手」だ。 
目をつぶったまま容子さんのそばによる。そのまま椅子に座る。手をかざす。最大の患部のところに気を集中し、秘密兵器を起動して、数を3つ数えた。(小学校の修学旅行の時におばあさんの治療に使ったものとは別のもの。青葉はこの秘密兵器を3種類持っていて、適用場面が異なる) 
物凄いパワーを消費するので、青葉自身が一瞬クラッと来たが、再度意識を集中すると、患部のところの気の流れが正常になっているのを認識する。成功! その後は、細かい乱れをずっと修正して行き、30分ほどで作業を完了した。
 
すると、容子さんが目を開けた。
「お母さん・・・・」
「容子!」
 
詩子さんがナースコールして患者が意識を取り戻したことを告げる。すぐに先生が来てくれた。
 
「意識を回復できたら、もう峠は越えましたね。血圧、脈拍もかなり良くなっています。しかし驚いた。あの部位を怪我して、こんなに速く意識を取り戻した患者さんは初めてですよ。あなた、物凄く回復能力があるんですね」
 
先生が部屋を出てから、青葉は「じゃ、祈祷しますね」と言って、持って来たバッグの中から、折りたたみ式の大麻(おおぬさ)を取り出して組み立て、容子さんの上で左右に振る。そして(病院なので)小さい声で祝詞を唱えた。 
「なんか聞いてると気持ち良くなっていく」
「念のため、ここで待機してますから、少し寝てくださいね」
「はい」
 
肩や足の方は治療がまだ行われていないので、今ヒーリングする訳にはいかない。またそちらの手術が終わってからヒーリングしますねと言って、その夜は、ずっと容子さんの脳の怪我のヒーリングを1時間おきにしていった。ヒーリングの合間には仮眠させてもらったが、1時間単位でぴたりと青葉が目を覚ますので、交替で仮眠しているお母さんと詩子さんも驚いていた。
 
「鍛えてますから」
「軍隊経験でもあるの?」
などと詩子さんは言っていた。
 

10月の下旬、青葉と美津穂は12月のクリスマス会で歌う曲目について顧問の寺田先生と昼休みに話し合っていた。
 
「Silent Night 英語で」
「それと文化祭でもやったヘビーローテーションかなあ」
「AKBは楽すぎるのが難点よね」
「山下達郎のクリスマスイブは?」
「ああ、あれはアルトとソプラノがメロディーを交替で担当するから面白いね。ふだん裏方ばかりのアルトの人たちに頑張ってもらえる良い曲だわ」
「じゃ、それで」
 
「先生、こないだから少し考えていたんですが」と青葉。
「うん?」
「中部大会でソロ歌った子が在校生じゃなかったというので1位の学校が失格になったでしょう」
「うん」
「あれ対岸の火事じゃないと思うんです。大会当日に私が病気でダウンしてたりしたら、やばいですよね」
「確かに」
「ソロできる子、もうひとり育てましょう」
「1年生がいいよね、どうせなら」と美津穂。
「うん。その方がいい」
 

「そういう訳で、1年生でソプラノ・ソロ歌える人を育てようということになりました。誰か、わしがやっちゃる、って人は、いませんか?」
 
と、青葉はその日の部活でみんなに訊いた。
1年生は互いに顔を見合わせている。1年男子のひとりが「俺がやろうか」と言い出す。
 
「ソプラノが出るなら」と言うと「出るかも」というのでピアノの音に合わせて歌わせてみる。
「凄いね。E5まで出てる。通常のソプラノパートなら何とか歌える」
「でもソロパート歌ってもらうにはC6くらいまで出ないと辛いね」
 
「うーん。残念。去勢したらもっと高い声出るかな」
「男やめていいのなら、去勢どうぞ。スカート穿く?」
「いや、冗談冗談。スカートは穿いてみたい気もするけど」
「穿きたかったら、いつでも穿かせてあげるけど。去勢も病院紹介しようか?」
「川上先輩に言われると、ほんとにチョン切られそうな気がしてきた」
「今夜はしっかり手で押さえて寝ようね」
「そうする」
 
「自薦がいなければ他薦で」
と言ってみる。すると
 
「葛葉がいいと思います」という声が出た。
「えー?私、無理」と本人は言っているが、やはりピアノに合わせて歌わせてみる。 
「行けるじゃん。D6まで出るじゃん」
「D6まで出るなら練習すればE6も出る」
「えー?今の音だって結構きつかったのに」
「声ひっくり返ってもいいから出してごらんよ。アーって、この音だよ」
と青葉がE6を出してみせる。
「アー  やだ。変な声になっちゃった」
「それを練習してたら変じゃない声になるんだな」と青葉。
「練習しようよ。ただし1日10分以内。それ以上やると喉を痛める」と美津穂。「あと、その声区出した後は、うがいしたり喉飴や蜂蜜とか舐める」と青葉。「うーん。頑張ってみようかなぁ」
「よし、頑張れ頑張れ」
 
ということでバックアップ・ソロシンガーとして葛葉を育てることになった。 

11月15日。この日は彪志の誕生日なので、晩御飯が終わった頃の時間を見計らって電話を掛け「お誕生日おめでとう」を言う。ふたりはお互いに無料で通話できるので、電話をつないだまま、のんびりと話す。
 
(青葉の携帯は無料登録は3ヶ所までなので、千里・慶子・彪志への通話を無料で登録している。その他、母朋子と義理の姉になる桃香への通話は誰でも割+家族割の併用で無料にしている。彪志はもちろん青葉への通話を無料登録である) 
「勉強の調子はどうですか?受験生さん」
「もう万全。合格確実」
「でも油断しないでね。あと風邪・インフルエンザに気をつけてね」
「もう先週インフルエンザの予防接種はしてきた」
 
青葉も彪志も電話しながら、各々の勉強をしている。そんな様子を双方の母が微笑ましく見ていた。
 
「でも俺も18歳になって結婚できる年齢になった」
「私生まれた時から女だったら16歳で結婚できるのになあ。結局20歳まで結婚できなくてごめんね」
「まあ、どっちみち青葉が25歳になるまで待つ約束だからね」
「あと10年半だね」
 
その晩、ふたりはまた夢の中で逢うことができた。もちろんセックスしたが『わーい、9月以来、2ヶ月ぶりだ』などと言って彪志は喜んでいた。
 
『先月はフェラだけだったからね。フェラかセックスかどちらかしかできない時は、どちらがいい?』
『フェラ』
『即答するのね』
『当然』
 
『じゃ、今度からは夢で逢えたらセックスしないでフェラする?』
『やだ。セックスしたい』
『なんで?』
『気持ちいいのはフェラだけど、セックスしていると楽しい』
『そうだよね。セックスってコミュニケーションだもんね』
『うん』
 

青葉の岩手行きは年内は12月3-4日でいったん終了し、次は年明けということにした。
 
年も押し迫って12月17日。その日はのんびりとショッピングモールに行き、母と一緒に買物したり、食事をしたりしていた。
 
母が本屋さんを見てくるというので、青葉が通路に置かれている椅子に座り、少し休んでいた所、見覚えのある女性が通りかかった。
 
「あら、川上さん」
「あ、鞠村先生!」
 
それは青葉がこの地で最初にお世話になったジェンダークリニックの先生であった。青葉の1枚目のGID診断書を書いてくれた先生である。
 
「こちらは買物?」
「ええ。母と一緒に出てきました」
「私は映画見に来たところ。あ、そうそう」
「はい」
「私ね、あの病院を先月末で辞めたのよ」
「あら」
 
「何人かの友人のお医者さんと組んで、少し特徴のあるクリニックを年明けから立ち上げる予定というか現在機器などの設置作業中」
「へー」
「ジェンダークリニックもするし、東洋医学のクリニックとか、発達障害の子のクリニックとか、糖尿病の改善を目指すクリニックとか」
 
「何か面白いですね。かわごえクリニックの北陸版みたいな感じ?」
「ああ、あそこに似てるね」と言ってから先生は青葉の隣に座って声を落とし「SRS(性転換手術)もやるよ。そう高頻度じゃないけど」と言った。
「わあ」
 
「川上さんはSRSを受けられるメド付いた?」
「アメリカで15歳になったらしてくれるというところが見つかったんです」
「へー」
「そこの病院の倫理委員会の審査も通って認定証を頂きました。でも15歳にならないと予約もできないから、5月になってからですね」
 
「ふーん、倫理委員会の審査を通ったのか・・・・」
「ええ」
 
「そちらの予約がまだだったらさ、うちで受けない?」
「え?」
「GIDの診断書2枚持ってて、アメリカで審査も通ってるんなら、15歳でも手術できると思うな。それにあなたさ」
「はい」
「Tが自然消滅しちゃったから、できるだけ早く手術しないとPとSが萎縮して、VやLを作る材料が足りなくなると思うの。そもそもTが自然消滅したということ自体、女性化が物凄く進んでいるということだし」
「あ、はい」
青葉は鞠村医師がアルファベットで省略したものが何かを考えながら聞いていた。(T=testicles 睾丸, P=Penis 陰茎, S=Scrotum 陰嚢, V=Vagina 膣, L=Labia 陰唇)
 
「これは、緊急性のあることだから、本来手術を許される年齢より早く手術する要件になるなと思ってたんだよね。ただ、あの病院じゃ、なかなかそれを上に納得させられないなという気もしてたんだけど。うちの病院なら、アメリカでそういうお墨付きもらってきたんだったら、やれるよ。ちなみにうちの手術担当医で予定している人はアメリカで何十件もSRSをやった経験があるから」
「凄い」
「3月まで今勤めている大学病院にいて取りあえず非常勤参加だけど、4月からはこちらの正式なスタッフになる」
「なんかジャストタイミング」
 
「一応住所書いておくね。1月16日に開院予定だから、その後で1度、外来に来ない?」
「はい、伺います!」
「川上さん、英語が得意みたいだけど、それでも国内で受けた方が安心でしょ」
「ええ」
 
そんな話をしていた所で母が戻ってきて、先生と挨拶する。3人で近くのカフェに入り、先ほどの話を再度したら、母も国内で手術を受けられるなら、絶対そちらがいいと思うと言う。そこで、青葉は母と一緒に年明け、その新しくオープンする病院を訪れることにした。
 

クリスマスイブ。市内の中学・高校のコーラス部が集まって市民会館でクリスマス会をする。中学生はお昼から、高校生は夕方4時からである。青葉たちの学校も、これに参加する。
 
1曲目は山下達郎の「クリスマスイブ」。最初の「雨は夜更けすぎに」の所はアルトがメロディーを歌い、「心深く秘めた思い」の所はソプラノがメロディーを歌う。アルトの見せ場のある曲なので、アルトの子たちが張り切っていた。 
2曲目は「Silent Night」。1コーラス目はふつうに合唱する。2コーラス目で最初青葉がひとりで「Silent Night, Holy Night」と歌うと、それに続いて葛葉が「All is calm, All is bright」と歌う。その後は全員合唱になるが、青葉と葛葉は高音のオブリガードを歌い続ける。葛葉のソロパート・デビュー曲となった。
 
葛葉は出番直前まで「できるかなあ」などと不安そうにしていたので、演奏が終わった後、他の1年生に「できた」「できた」と言われて、もみくちゃにされていた。
 

クリスマス会が終わった後、青葉が帰宅すると、母がクリスマス用にショートケーキを2個買っていた。シャンメリーを開けて乾杯し、ふたりで1つずつケーキを食べた。青葉にとってはこういうクリスマスも初めての体験である。桃香たちにも電話を掛け、ハンズフリーでつなぎっぱなしにし、二元中継のクリスマス会を楽しんだ。
 
ケンタッキーのチキンとビスケットを食べる。「ケンタッキー久しぶり。そうそう。このチキン骨まで食べられるよね。どうやって揚げてるんだろ」などと言うので、母が
「特殊な圧力鍋で揚げるみたいよ。危険だから家庭ではやるなって」と答える。「へー。でもこの味付けはコピーしてみたいな」
「うん。研究してごらん」
 
その夜はご飯の後、お風呂に入って8時には「おやすみ」を言って自室に行く。「あら、早いのね」
「うん、疲れたから」
 
そして青葉は本当にそのまま寝てしまった。
 

その日青葉は彪志に「今夜は早く寝るように」とメールしておいた。夢で逢うためだ。
 
うーん。まだ寝てないかな・・・・と思いながら青葉がしばらく待っていると、少し離れた所に彪志の気配がした。よし。発見。青葉はそこに歩いて行き、ベッドに横になっている彪志にそっとキスをした。
 
『メリークリスマス』と言って彪志が目を覚ます。
『メリークリスマス』と青葉は言って、再度彪志にキスした。
 
『今夜は絶対会えると思ってた』
『うん。私ももう会える前提で色々考えてたよ』
 
『年明けたらすぐセンター試験だよね。教科多いけど大丈夫?』
『倫理を重点的にやってる。満点が狙える科目だから、合計得点で勝負のセンター試験では、うまく行けば超有利。でも大きく失敗すると辛すぎる。これは理系受験者の命運を分ける科目だよ』
 
『数学、化学、生物は問題無し?』
『問題無し。一応毎日問題集を各々5ページはする』
『現国・古文・漢文』
『わりと行ける。要領で満点狙えるんだよね。国語って』
『英語』
『青葉〜、あとで電話するから少し教えて』
『OK。ヒヤリングの問題も出してあげるよ』
『うん。助かる』
 
なんだかその日は勉強の話ばかりしていた。年明けたらすぐにセンター試験。受験生はみな臨戦態勢である。
 
そんな話ばかりして『そろそろ起きようかな。じゃね』と青葉が言ったら『待って。まだセックスしてない』と彪志が言う。
 
『センター試験直前だけど、セックスとかしてて大丈夫?』と訊くが
『しないと、青葉のことが気になって気になって、勉強にも集中できない』
などと言うので
 
『もう困った子ね、マイ・ダーリン』と言って彪志にキスする。そしてそのまま絡み合うようにベッドに入る。ふたりはいつの間にかお互い裸になっている。彪志が避妊具を装着した。そして青葉が濡れているのを確かめた上で、ゆっくり挿入。う・・・本当にこれ気持ちいい。
 
彪志はもう自分は青葉の身体に溺れてしまってるよなと思ったが、気持ちいいものは気持ちいい。青葉も彪志を受け入れながら、物凄く幸せな気分になっていた。大好きな彪志とひとつになれているというのが快感だし、自分が女として機能できているというのが嬉しい。そして物理的な快感も大きい。
 
彪志はその夜は少しゆっくりと出し入れを続け、10分くらい掛けて頂点に達した。ゆっくりしてもらったので、青葉も一緒に頂点に行くことができた。
 
そしてふたりともそのまま深い睡眠に落ち込んでいった。
 
目が覚めたらもう12時半だった。でも青葉は彪志に電話を掛ける。すぐ彪志が取った。
「あらためてメリークリスマス」
「メリークリスマス」
「じゃ、ヒヤリングの問題、行っちゃうよ」
「待って待って、トイレに行って来てから」
「じゃ、準備できたら言ってね」
 
その夜はそれから1時間ほど、一緒に勉強を続けたのであった。
 

年が押し迫ってくる。青葉は「お正月」というシステムを生まれて初めて体験した。 
「去年まではどうしてたの?」と朋子が訊く。
 
「何もしてなかったよ。学校が休みの間は、友達から御飯とか分けてもらえないから、けっこう食うのにも苦労してたし、そんな行事とか考える余裕もなかった。貯金を少しずつ取り崩して私と姉ちゃんの食料確保してたのよね。でも気を付けてないと、お母さんが食料根こそぎ持ってっちゃうし」と青葉。「お母さんも、青葉の持ってる食料が頼りだったのかもね」
「そうかもね。当時は恨んでたけど」
 
「じゃ、今年はまずおせち料理を覚えてもらおうかな」
「うん。頑張るね!」
 
黒豆を砂糖と一緒に長時間煮て柔らかくする。身欠きニシンを適当な大きさに切り、昆布を巻いて昆布巻きを作る。栗の甘露煮の瓶入りを買ってきてサツマイモのスライスと一緒に煮て栗きんとんを作る。
 
はんぺんと卵を混ぜて焼いて伊達巻きを作る。レンコン・里芋・ニンジン・タケノコに鶏肉・こんにゃく・絹さやと煮て、筑前煮にする。赤・緑の寒天を買ってきて、缶詰のミカンを入れてミカン寒を作り、また白寒天と赤寒天を二層にして紅白の寒天も作る。
 
初体験のものが多いので、青葉は「面白ーい」などと声をあげながら、ひとつひとつの料理を作っていった。
 
お餅も自宅で作ってみようというので、餅搗き機を買ってきて、餅米を入れ撞いてみた。それから氷見漁港まで母の車で行き、寒鰤を買ってきた。
 
その日、桃香と千里が帰省してきたので、4人で鰤をお刺身で食べたが、今の時期の鰤は脂が乗っていて本当に美味しい。
 
「明日は照り焼きでもいいかな」
「年内はお刺身で食べられるよ。年明けてから照り焼きにしよう」
 
桃香が「お肉も食べたいな」などというので、牛肉を買ってきてローストビーフも作ってみた。
 
「青葉、料理上手じゃん」と桃香。
「お母ちゃんに、いっぱい教えてもらったから」
 
「桃香にも色々教えたけど、全然覚えなかったね」
「千里が料理はしてくれるから、無問題」
 
「あんたたち、ずっと一緒に暮らすんだっけ?」
「うーん。取り敢えず修士出るまでは一緒に暮らすと思うよ。喧嘩別れしたりしない限り」
「あ、桃姉とちー姉が喧嘩するのはあり得ない。どちらかに恋人が出来ても、ふたりって、相手の恋を応援しちゃうでしょ?」と青葉。
「ああ、そうだと思う」と桃香。
「それに、ちー姉って、基本的に人と喧嘩しないタイプだもんね」
「うん。千里って我慢するんじゃなくて、全てを受け入れるんだよね。私にとっては天使みたいな存在だよ」
 
「その天使様に御飯を毎日作らせてるのね」と母。
「私、料理作るの好きだし」と千里は笑顔で言っている。
 

新年。桃香が持ってきたウィスキーをお屠蘇代わりに飲んだ後、お雑煮を食べる。桃香が青葉にもウィスキーを勧めたが千里が止めたので、青葉はクリスマスの残りのシャンメリーを飲んだ。
 
石川県・富山県は東西の文化の境界線なので、お雑煮も様々な形式が混在している。朋子が作った雑煮は、焼いた丸餅に、鶏肉・かまぼこ・ゴボウ・ニンジン・ほうれん草が入った具だくさんの雑煮であった。醤油も味噌も入れず、だし汁だけである。
 
後で友達に電話して聞いてみたら、美由紀の家も具だくさんだったが餅は焼かない丸餅で味噌仕立てだと言っていた。日香理の家は具は無く餅のみ。餅は焼いた丸餅で醤油仕立てだと言っていた。他にも、切り餅を使う家、砂糖を入れる家、小豆を入れて善哉みたいにする家など、ほんとに様々な感じだった。
 
朝御飯を食べた後で、初詣に行こうということになる。桃香・千里は今年新しい振袖を買っていたので、千里が昨年着た振袖を青葉に着せてあげた。千里が着付けをマスターしているので、桃香にも青葉にも着せてあげる。桃香も着付けは千里と一緒に勉強していたはずなのだが「もう忘れた」などと言っていた。母も娘たちに合わせて華やかな訪問着を自分で着て出かける。(帯は千里と朋子がお互いに相手のを結んでやった)
 
青葉は「こんな素敵な着物なんて着るの初めて!」とはしゃいでいる。 
「これ、振袖って言うんですか?」
「そうそう。私の着てる訪問着と比べてごらん。袖丈が長いでしょ」
「あ、ほんとだ」
「袖を振って歩かないといけないから振袖っていうのよ」
「へー」
「成人式の時には自分用の振袖作ろうね」
「成人式の時に着るものなの?」
 
「別に成人式とは限らないよ。未婚の女の子の第一礼装だから」
「ああ、じゃ、パーティーとかの類にも着て行けばいいんですね」
「そうそう。天皇陛下の園遊会とかでもね」
「天皇陛下の園遊会にお呼ばれすることはないと思うけど」
 
「でも私、着物の名前、さっぱり分からない」と青葉が言うと
「はい、千里、解説して」と桃香。
 
「第一礼装とされるのが、未婚の女の子なら振袖、既婚なら留袖」
「ああ」
「留袖でも、堅苦しい場所なら黒留袖、少しくだけた場所なら色留袖」
「へー」
 
「準礼装って感じのが、今お母ちゃんが着ている訪問着。訪問着も振袖・留袖と同じ『絵羽(えば)』という特殊な技法で模様が描かれている」
「ふーん」
 
「訪問着の下が、付下げ、小紋。あと普段着の着物として、浴衣とか絣(かすり)とか、ウールや化繊の着物がある」
「だんだん分からなくなって来た」
 
「他に趣味のものとして紬(つむぎ)。高価だけど、普段着扱いだから、フォーマルな場所に着て行ったら、顰蹙を買う」
「難しい」
 
「振袖の模様も色々ランクがあって、高級品は手染めと言って、手作業で模様を描いてる。この手染めにも糊糸目・ゴム糸目・ダックと3ランクある」
「そろそろ分からなくなってきた」
 
「今青葉が着ているのは型押しといって、白い線に相当する部分を型で押して、それに沿って手で模様を描いたもの。但し型押しにもピンからキリまであって、これはピン、最上級の部類。手染めにかなり近いハイレベルの品」
「へー」
 
「今、私と桃香が着ているのはプリンター染めと言ってインクジェットプリンタで模様をプリントしたもの。成人式用にレンタルで出ているような安い振袖は大半がこのプリンター染め。同じ模様の振袖を大量生産できるから、カタログで選んでカタログで見た通りのものを借りられるし、レンタル料金も安いけど、このクラスの振袖は実は買ってもレンタル料金と大差無い」
 
「え? なんでそれをレンタルするの?」
「なんでだろうね。とっても不思議だね。でもそういう量産品の振袖が、和服業界の売上を支えているからね」
 
「ああ、それは良いことかも知れないね」
「全部手染めの品ばかりでは、生産能力もあまり出ないし、庶民が気軽に手を出せない世界になっちゃうもん」
「うん。安い普及品があるというのは絶対大事なことだよ」
 

お屠蘇代わりにウィスキーを飲んでしまったので、初詣には車を使わず歩きで出かける。桃香が「バレないから車で行こうよ」と言ったが、千里が「だめだめ。飲んだら乗るなだよ」とたしなめた。
 
「あ、じゃ飲んでない青葉が運転するというのは?」と桃香。
「免許持ってないからダメ」
と青葉は笑って答える。
 
「運転自体はできるよね?」と桃香。
「なんで、みんなそれ知ってるの? いつの間にか広まってるし」
と青葉は困ったように言った。
 
神社に来て、拝殿の前まで進み、二拝二拍手一拝でお参りする。最後の一拝の時、青葉はつい時間が掛かってしまった。
 
「何お祈りしてたの?」と桃香。
「何だかいろいろ考えちゃって」と青葉。
「いろいろ大変だろうけどさ、前向いて歩いて行こうよ」
「うん、ありがと、桃姉」
 
「青葉にとっても私にとっても男の身体での最後のお正月だね」と千里が言う。「うん。来年はもう女の子の身体だからね」と青葉が言ったが、
「待て待て。ふたりとも既にもうほとんど女の子の身体だと思うぞ」
と桃香が突っ込みを入れた。
「千里なんて、私よりも胸でかいからな」
 
境内の茶屋で少し休んでいたら、美由紀が両親と一緒に参拝してきて、茶屋に寄った。双方の親で挨拶する。
 
「青葉〜、美しい振袖着てる!」と美由紀。
「美由紀のも可愛い着物じゃん。私、着物の種類よく分からないけど。ついさっき、この着物を振袖というんだというのを習ったところで」
「そうか。知らないよねぇ。ちなみにこれは小紋だよ。小紋という割には柄がけっこうでかいけどね」
「へー。あ、さっき着物のこと習った時にその単語出てきたけど、もうどんなのか忘れてる」
 
美由紀が桃香たちの方にも向いて挨拶する。
「お姉さんたちのこと、いつも青葉から聞いてますよ。凄く楽しそうに話すから仲いいんだなあ、と思ってました」と美由紀。
 
「美由紀さんは一人っ子?」と桃香が訊く。
「東京に行ってる大学生の姉ちゃんがいるんですけどね。今年は帰省してこなかったんです」
「私も自分の実家には帰省せずに今年はこちらに来たしなあ」と千里が頭を掻いている。
 
「まあ、千里はもう男装できないから、息子としては帰省できないよね。でも、手術前には1度帰省してちゃんと手術すること言ってきなよ」と桃香。 
「うん。そうする」と千里は答えたが、堅物の父が自分の性転換を認めてくれるとは到底思えなかった。
 

1月14-15日はセンター試験が行われた。彪志は朝から新幹線で試験地に行き、試験を受けた。駅で降りた後、バス停に向かっていたら青葉から電話が掛かってくる。
 
「試験がうまく行くようにキスしてあげるね」
と言うと、電話の向こうでチュッという音がした。彪志は微笑んでこちらも自分の手の甲にキスをした。
 
青葉が電話を切るのを見て、朋子が微笑んで言う。
「もうラブラブだね」
「うん。もう今すぐ結婚したいくらい好き」
「結婚してもいいけど、まだ中学生だしね」
「せめて高校卒業してからだよね。結婚する前に身体も直さないといけないし」
「まあ、恋人時代も楽しいもんだよ」
「うん」
 

1月16日。青葉は母・朋子と一緒に、新しくオープンした病院を訪れた。精神科の鞠村先生と、手術担当の松井先生に面談し、いろいろ話をした。執刀医というのでてっきり男性医師と思い込んでいたのだが、実際に会ってみたら女医さんだったので、青葉は驚いた。
 
これまでにもらっている2枚のGID診断書(内1枚は鞠村先生からもらったもの)と、10月にアメリカの病院でもらってきた診断書、倫理委員会の手術許可証を見せる。倫理委員会の書類で15歳以上であれば手術を許可するとなっているのを踏まえてこちらも5月の誕生日を過ぎてからしましょうと言われる。学校にあまり影響が出ないように夏休みに受けたいという希望を言うと、それでは夏休みに入ってすぐにやりましょうということになった。
 
「私、切るのが大好きだから外科医になったのよねー。子供の頃とかお人形をバラバラにしたりお腹を切り裂いて中身出したりして叱られていた」
などと松井先生は言っている。ある意味怖い先生だ。よけいな所まで切られそう! 
「おちんちん切るのも大好きよ」などとニコニコ顔で言う。
「以前盲腸で入院してきたMTFの高校生がいてね。盲腸のついでにおちんちんまで切ってあげたかったけど、我慢した」
 
「男の子のシンボルをチョキンと切り落として女の子に変えちゃう瞬間って、興奮しちゃうのよね」
などと言っている。これは相当危ない先生っぽい!
 
「松井先生は冗談はきついですけど、腕は確かですから。アメリカで100例以上、日本に帰ってきてからも20件ほどの性別適合手術(性転換手術の正式名)を経験しています」
と横から鞠村先生がフォローする。
 
「そうそう。今までに120本ほどのおちんちんを切り落としてきたの」
「ほんとは私、今すぐ切り落としてもらいたいくらいです」
と青葉は答える。
「あなたみたいな美少女におちんちんが付いてるのって絶対何かの間違いだから今すぐ切ってあげたいけど、まあ夏まで待とうか」
と松井先生は笑顔で言った。
 
「でもね、おちんちんを切るってのは、そのおちんちんで封印されていたその子の女としての可能性を開放してあげるってことだからね」
その言葉には青葉も同意する。たしかにこれ封印だよな。
 
先生は手術方法もパソコンの画面に図解を表示させながら詳しく説明してくれた。 
「基本的には膣の前壁を尿道粘膜で、後壁を陰嚢皮膚で形成します。そして陰茎皮膚を利用して、大陰唇・小陰唇を作ります。亀頭の一部を利用して陰核を形成しますが、この時、血管と神経をちゃんとつなぎますので、揉まれると快感があり、興奮すると少し大きくなる陰核になります」
「あ、その方法が好きです」
 
「あなたの場合、萎縮しないようにかなり努力はしているようですが、それでもどうしても陰茎は小さくなっているので膣壁に使うには無理があります。外性器の形成に転用した方が良いと思います。あなたはタックをしているので陰嚢皮膚は常に引っ張られている状態で結果的にほとんど萎縮してないですね。それから、尿道粘膜を使うと、性的に興奮した場合にちゃんと濡れる膣になるメリットがあります」
 
「濡れるのと濡れないのではQOSL(性生活の質)がまるで違いますよね」と青葉。「ええ。川上さんは交際している男性はいますか?」
これを中学生にちゃんと訊くのは偉いと思った。
 
「います」
「セックスしてます?」
「してます。今はだいたい素股でやってます」
「手術後、3-4ヶ月、回復が遅い人の場合でも半年すぎたら、膣内に男性を受け入れ可能になります。定期的に男性とセックスしていればダイレーションの頻度を減らせます」
「はい。シリコンの棒より、本物のほうが効果的ですよね」
 
「そうです。精神的な面も大きいようですよ。私も患者さんにさせるのに自分でも体験してみようと思って、ダイレーターを自分のヴァギナに入れてみたことあるんですけどね、やはり男性のペニスを入れるのとはまるで感触が違うのよね。効果も違うと思った」
 
こんな実験を自分でしてみたなどというのは女医さんならではだが、でもこういうのを患者に言っちゃうのは大胆だなと青葉は思った。
 
Before/Afterの写真もたくさん見せてくれる。朋子は「ひゃー」などと言って写真を見ていた。
 
「この左のがこの右のになっちゃうんですか?」
「そうそう」
「凄い。なんかおちんちん無くなるとすっきりしますね」と朋子。
「そう。青葉ちゃんも、早くすっきりさせたいね」と松井先生。
「すっきりになりたいです」と青葉。
「こういう写真見てたら、おちんちんは邪魔物って気がしてきた」と朋子。「邪魔です」と先生は言い切った。
「サンプル見てたら、私も早くこういう形になりたい!って思っちゃう」と青葉。 
こちらの病院で手術してもらえることが決まったので、青葉はアメリカの病院に電話して、せっかく診断してもらったのに申し訳無いが、国内で手術を受けることにした旨を伝えた。向こうはビジネスライクな雰囲気でOK,OK.Take Care.と言っていた。
 
「でも、夏休み入ってすぐということになると、ひょっとして千里ちゃんの手術と同時期にならない?」
と病院を出てから朋子が言った。
 
「うん。前後して受けることになりそうな気がする。ちー姉の方が先だといいんだけどな。手術直後にヒーリングしてあげられるから。こちらが先だったら、自分のヒーリングが精一杯で、ひとのことまでしてあげる余裕無いかも」
「無理しちゃだめよ」
「うん」
 
「でも、ちょっと変わった先生ね」と母が言う。
「絶対変人だと思う! でも結構いるよね。変人のお医者さんって」
 
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