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目次]
2日前に私の告白を拒絶した、マユちゃんだった。
え?マユちゃんの家ってこの辺だったっけ??
「ありがとう。私今日残業で遅くなっちゃって、今帰った所なの。でも不在通知票とか無かったから、うまい具合に遅れてるかなと思って待ってた」
「すみません。雪とかで交通渋滞もありまして」と反射的に無難な言い訳をしながら、わたしは頭の中が空白になりつつあった。
かろうじてケーキの箱を落とさずにちゃんと渡す。
「そうだ。サンタガールと記念写真撮れるのよね。このカメラでお願い」
三脚にカメラをセットし、一緒に記念写真を撮る。
ブログにアップしよう、とか言っている。
マユちゃん、わたしに気づいてない??
撮れた写真をモニターで見る。ちゃんとわたしは笑顔で写っている。
この2日間、何十回と繰り返した動作で条件反射になってるんだ、きっと。でも、告白が成功していたら、わたしは男の姿でここに写ってたんだよな・・・・。
「ありがとうございました」
私がほとんど頭が空白のまま、車へと戻りかけたところで彼女が声を掛けてきた。
「あの」
「はい」
「なんかあなた見たことがある気がして、知り合いの誰かだったっけと思って一所懸命今考えてたんだけど・・・・」
「・・・・・」
「まさか、ゆっくん?」
わたしはクラクラとして倒れそうになるのを必死でこらえながら、小さく頷いた。
「うそ。なんで女の子のかっこしてケーキの配達してるの?」
「ごめん」
「でも・・・・・可愛いよ。ゆっくん」
「ありがとう」
「もしかして、ゆっくん女の子になりたい男の子だったとか」
「そういう訳でもないんだけど」
「あのね、一昨日は私もこんなこと言ったら悪いかなと思って言えなかったんだけどゆっくんとの付き合いって、私はなんか女の子同士のお友達付き合いみたいな感覚だったの。なぜそんな感覚になったのか、自分でも分からなかったんだけど」
「わたし、子供の頃から女の子の友達多かったし」
あ、一人称を『わたし』にするように訓練してたから、マユちゃんの前でも「わたし」なんて言っちゃった。
「ゆっくん、なんか女の子の服着ているほうが自然な感じ。男の子の服着ているゆっくんってなにか違和感があったんだよね。自分でも何の違和感か分からなかったんだけど、今こうして女の子の服着ているところ見て、分かった。あ。『ゆっくん』というと男の子みたい。『ゆうちゃん』とか呼んでいい?」
「うん、バイト先でもそう呼ばれてる」
マユちゃんは明るく微笑んだ。
「今日バイトは何時まで?」
「マユちゃんとこが最後だから、このあとお店に戻って報告して終わり」
「じゃ、そのあと深夜になっちゃうけど、うちに来ない?
あ、ここ姉貴の家で、夫婦で海外旅行に行っちゃったのでお留守番に来てるの。ケーキも姉貴の名前で注文してたんだけどね。ケーキも正月前にくるはずのおせちも食べていいからと言われてて」
「それでさ、今夜は『女の子同士』でクリスマスを楽しまない?このケーキ食べて、シャンパンあるから、一緒に飲んで、いろいろお話しない?」
「でもわたし・・・・・男の子だよ。夜を一緒に過ごしたりしていいの?」
「ゆうちゃん、女の子でいてよ、私の前では。私、ゆうちゃんという
お友達を失いたくないの」
失いたくない・・・・それはわたしも同じだ。だから告白したのに。
でも女の子同士の友達?そんな付き合い方あったのか、男女の恋人ではなくて。
「わたし、マユちゃんに欲情して襲っちゃうかもよ」
ああ、完璧に女言葉が身についてしまっている。
「そうなっちゃったら、そうなった時だけど、そうはならない気がするな」
マユちゃんは何か確信したように言う。
「うん。じゃ、終わったら携帯にメール入れるね」
「うん、待ってるから」
マユちゃんは、わたしの手を取ると笑顔で強く握りしめた。
わたしは何だかとても晴れやかな気持ちになって車に戻った。
業務用携帯でお店に配達終了のメールを入れてから、車をスタートさせた。
女の子同士のクリスマス・・・・みゆきちゃんに借りた服でマユの家に行こう。普通のスカート姿のわたし見たら、なんて言われるかな。
なんかドキドキしてきた。でも不安じゃなくて楽しみなドキドキだ。
白い粉雪がフロントガラスにぶつかってくる。
通りがかりの教会の鐘が鳴った。
「メリークリスマス」
わたしは、明るい気持ちでそうつぶやいた。
でもわたし・・・ずっとこのまま普段も女の子のままになっちゃったりして?まさかね・・・と思いながらも、女の子ライフも悪くない気がするなと思っていた。メイクは楽しそうだし。スカート穿くのもなんか不思議な感覚だし。
最初はすごく頼りない感じだったけど。
このバイト代で、私服にスカート買ってみようかな・・・・・
街は明るいイルミネーションに満ちていた。