■夏の日の想い出・受験生の夏(3)

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「でも大学生になったら、歌手に復帰するの?やはり」
「縁があったらかなあ。ボクたちのプロデュースをしてくれていた須藤さんという人は、あの騒動の責任取って会社辞めちゃったから。他の会社からうちのプロで再デビューしないか、なんて勧誘も3社からあったんだけど。でも気が進まないのでといって断った。マーサも誘われたけど、やはり断ったと言ってた。どっちみち今年は大学受験で手一杯だしね」「じゃ、大学生になってからその須藤さんからもし誘われたらやるんだ」
「うん。やるかも。でも須藤さんの消息が分からないんだよね」
 
須藤さんがブログを立ち上げて自分の活動内容の報告をしはじめたのは礼美とそんな会話をした直後の8月3日のことだった。それはちょうど1年前にボクと政子が急造ユニットでリリーフラワーズの代役を務めた日であり、その日付自体にボクは自分達へのメッセージを感じた。
 
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ひょっとして須藤さんからボクたちに何か接触があるかとも思っていたが、特になかった。「受験生だから今は活動無理と思って遠慮してるんじゃない?」と政子は言っていた。ボクも同感だった。
 
そんなことを言っていた翌4日、政子の所にローズ+リリーをやっていた時期に所属していた△△社(津田社長の所)の甲斐さんから連絡があり、芸能活動にまた勧誘する訳ではないから、8月8日(土)のイベントのチケットを用意できるのでお友達なども誘っていきませんか?という話だった。
 
甲斐さんは須藤さんがいた頃、その助手的な仕事をしていて、ボクたちも随分お世話になったのだが、須藤さんが抜けた後は、プロデュース部門の事実上の責任者になっていた。
 
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騒動の落ち着いた春頃から、ボクと政子は何度か他の会社からも勧誘を受けたが、やはり甲斐さんからも「もし気が向いたら、受験勉強の妨げにならない範囲でもいいので、またやりませんか」という打診があっていた。ただボクの親から、女の子の格好で歌手をするということでの許可が取れる気がしなかった。甲斐さんは「女の子の格好に問題があるなら男の子の格好でもいいですよ」と言ってくれたが「それは絶対嫌です」とボクも言ったし、政子も「それはありえません」と言った。そしてふたりともやはり受験への影響を気にしていた。 
甲斐さんから聞いたチケットは、国内の実力派のロックバンドが10組集結するイベントだったので、政子は即答で「行きます!」と答え、チケットを4枚もらってきた。政子は「私、誘えるような友達がいないのよ。冬は誰かいない?」などというので、同じクラスの仁恵、それに礼美を誘った。礼美は政子にも会えると聞いて、喜んでいた。
 
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東京駅で待ち合わせて、電車で会場のもより駅まで行く。凄い人出であった。 
礼美は政子に会うとホントに感動しているみたいで、握手して「お友達になってください」と言っていた。政子も「いいよ」と言って、携帯の番号を交換する。4人の中で仁恵が携帯を持っていなかったので「私か政子かに確実にくっついててね」と言っておいた。会場で離れ離れになってしまうと、まず二度と会えない。
「冬にくっついててトイレの時はどうするの?」
「ボクも女子トイレだから大丈夫」
「あ、そうなんだ」
「男子トイレに入るのは学校でだけだよ」
 
夏なのでみんな軽装である。ボクはTシャツに膝上丈のショートパンツ、政子はTシャツに膝丈スカート、仁恵はポロシャツに七分丈のパンツ、礼美はポロシャツに短めのスカートだった。仁恵がボクに
「でも冬、そのくらいの格好まではするのね、プライベートの時」という。「うん。親からスカートでの外出はダメと言われてるけど、これならスカートじゃないから、ということで」とボクは笑って答えた。
「スカートじゃなくても充分女の子に見えるけどね。そうやって中性的な格好していても、冬って雰囲気が女の子なんだもん。それに今日は胸もあるし」「うん。シリコンパッド。あ、仁恵はこれ触ったことないでしょ」
といって仁恵の手を取って胸に触らせる。
「おお、ホントに胸あるみたいな感触」
といって仁恵は喜んでいた。
 
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会場のキャパが大きいだけあって入場にも時間がかかる。ゲートでは入場券を指定場所の記号が印刷されたタグに交換してもらう。これを手首に巻き付けておくのである。ブロック指定だが各ブロックに1000人くらいは入っている。ボクたちは比較的前のほうのブロックで、充分アーティストの表情が肉眼で見える感じだった。
 
「ねえ、ここ実はいい席じゃない?」
「うん。ホントの招待席だね。招待席って2種類あるんだよね。VIP向けに用意された良い席と、人数合わせのための通称『動員』。ボクたちはVIPということみたい」「わあ、すごい」
 
イベントで最初に登場したのは昨年の新人賞を総なめした新鋭のバンドであった。メンバーがみな18-19歳と若く、若い感性をそのままぶつけたような曲が多いこともあって会場は最初から強烈なフィーバーに包まれた。ボクたちは全力でビートを打ち、身体を揺すっていた。凄まじい歓声だが、音は場内に細かく設置されたスピーカーから遅延入りで流れてくるので聞き逃すことはない。 
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「なんか凄いよぉ、感動だよぉ」などと礼美が叫んでいる。
「私、受験勉強ばかりでかなり煮詰まってたからこういうの凄く新鮮」と仁恵。「自分がステージの上にいるみたいに興奮しちゃう」と政子。
「なんか凄く気持ちいい。こういうのいいなあ」とボク。
 
3バンド演奏したところで30分の休憩が入る。
「トイレ行こう」と仁恵がいうので、ボクとふたりでトイレの方まで行った。休憩が始まってすぐ行ったのだが既に長い列ができている。
「待つしかないね」
「ぎりぎりまで我慢したら大変なことになるね」
「暑いから水分は取らないといけないしね」
今日は4人とも水筒持参である。
 
結局ボクらはトイレに入るのに10分くらい待つことになった。自分達のブロックに戻りながら仁恵が小声で訊いてきた。
「ね、ね、冬。ここだけの話」
「何?あらたまって」
「冬、女性ホルモンとか飲んでる?」
「えー、飲んでないよ」
「でもこうやって汗掻いてるのに、男の子の臭いがしない」
「あう・・・」
「だってあまり臭いの強くない男の子でも汗掻くと、やはり男臭い臭いがするよ」
「実はエステミックスってサプリ飲んでる。プエラリアが入ってるの」
「植物性女性ホルモンってやつか」
「よく知ってるね」
「でも、そういうの飲むってことはもう男の子は捨てちゃってるのね」
「うん。芸能活動してた頃はまだ自分の性別認識って揺れてたんだけど、その後ずっと男子高校生としての生活してきて、かえって自分の性別はやはり女だという気持ちが強くなってきたんだよね。政子とかは、ボクのことを女の子だと思ってるからこそ、友達として付き合ってるんだからね、と言ってるけど」とボクは笑いながら言った。
 
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「私、冬と話したりする時の自分のポジショニングに少し迷ってたんだけどさ」
「ああ、ごめんね。紛らわしい存在で」
「ううん。私も冬のことは普通に女の子の友達と思うことにする」
「ありがとう。それが嬉しい」
 
最初の休憩の後、2バンドの演奏があってから、お昼休みとなった。政子と礼美がトイレに行くというので、ボクと仁恵がお昼御飯を4人分買っておき、政子達が戻るのを待った。とにかく人数が多いので、お昼を買うのに時間がかかったし、政子達もトイレに入るのにかなりの時間が掛かったようであった。
 
焼きそばとおにぎりのセットを会場横の斜面に座って食べていたら、△△社の甲斐さんが通りかかった。
「わあ、お久しぶりです」
とボクは挨拶した。チケットは政子が取りに行ったので、ボクは甲斐さんに会っていなかった。
 
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「こんにちは〜。楽しんでる?」
「ええ。いいチケットありがとうございました」
「受験勉強忙しいだろうけど、このくらいの息抜きはいいかなと思ってね」
「でも凄いメンツですよね。このイベント。なんか凄い刺激受けちゃった」
「またやりたくなったりしない? あ、ごめん。今日は勧誘しないことにしてた」
「あはは。高校卒業してから考えさせてください。でも凄く創作意欲が沸いて」
「へー」
 
「休憩時間に思いついたメロディーいくつか書き留めたんですよ。あとで帰宅してから、整理し直してみます」「冬ったら、私に五線紙持ってない?とか言うんですよ。そんなの持ち歩いてるわけないじゃんと」と政子が笑いながら言う。
「私がたまたま英語のノート持ってたんで、それで代用して書き留めてました」
と仁恵。「線が1本足りないけど」「いいのできたらぜひ見せてくださいね」
と甲斐さんは言っていた。
 
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午後からは2バンド演奏して休憩、そして最後に3バンド演奏が続いてフィナーレとなる。最後に登場したバンドは現在国内で最高の人気を誇るロックバンドであった。演奏する曲目も、誰もが知っている曲ばかりである。ここまでの声援で少し疲れていた人も、また元気が出て、みんな凄い手拍子・歓声を送る。かなり興奮している子もいた。最後の曲が終わった瞬間、政子など興奮してボクに抱きついてきたほどであった。「ちょっとちょっとマーサ。またフライデーされちゃう」 
イベントが終わったのは16時頃だった。ボクたちはどうせ出るのに時間が掛かるし、ということでゆっくりと移動して電車の駅まで行った。
 
「なんか興奮しちゃってどこかで鎮めないと帰れない気分」と政子。
「水の中にでも飛び込んで鎮める?」とボクが言うと
「あ、それいいね。ね。みんなでプールとか行かない?」と政子が言う。「えー?でも水着持ってないよ」と仁恵。
「そのくらい買えばいいじゃん。私少し余分にお金持ってきてるから、みんなの水着代くらいおごっちゃうよ」と政子。
「あ。じゃ私がプールの入場料出しちゃう」とボク。
「そうか。ふたりともお金持ちだもんね。ここはたかっちゃおう」と仁恵が笑っていうので、それで4人でプールに行くことになった。
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夏の日の想い出・受験生の夏(3)



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