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カインドリー・ジョイはその日最初の患者を診察室に入れた。
10歳くらいの女の子と母親らしい30代の女性である。
「どうなさいましたか?」
「この子、実はしょっちゅう女の子と間違えられて」
「ちょっと待って下さい。この子、女の子じゃないんですか?」
「いえ、実は男の子なんですよ」
「信じられない!女の子にしか見えないのに」
「それでスーパーとかでトイレの場所を訊くと女子トイレの場所を教えられるし、温泉に行って男湯に入ろうとすると、小学生が男湯に入っちゃダメだよ。ちゃんと女湯に入りなさいと言われて、男湯の脱衣室から追い出されて」
「それどうするんですか?」
「仕方ないから女湯に入るんですが、ちんちん付いているのに、全然気づかれないで女湯に入っちゃうんですよ」
「まあこの子が女湯に居ても誰も不審に思わないでしょうね」
「友だちからも、男の子になるのもったいないよ、とか、女の子になっちゃいなよ、とかよく言われるらしいです。でもこの子もあと1〜2年したら第二次性徴が出始めるから、女の子になるなら、今の内だよと、友だちからは言われているらしいんですよ」
「なるほど」
「それでこの子、いっそ女の子に変えてあげられないだろうかと思って」
「君はどうなの?女の子になりたい?」
とジョイは少女にしか見えない少年に訊く。
「女の子になったらスカートはくの?」
「そうだね。ズボン穿いてもいいけど、スカートは女の子だけが穿けるね。君、スカート穿いたことない?」
「はいてごらんよと言われて、時々はいてるけど、けっこう好きかな」
「女の子用のパンツとかも穿く?」
と尋ねると、何だか恥ずかしがっている。
「着替えが無かった時にお姉ちゃんのパンツ借りて穿いたことあったね」
と母親が言う。
「ちょっとふしぎな感じだった」
「女の子パンツ穿いてて何か困った?」
「困りはしなかったけど」
女の子パンツを穿いても困らないということは、きっと立っておしっこしたりはしないのだろう。
「手術するの?」
と少女のような少年は訊く。
「うん。でも簡単な手術だよ」
「ちんちん取っちゃうの?」
「女の子にはちんちんは無いからね。たまたまも取るよ」
「たまたまは無くてもいいかな」
と彼は言った。
「ちんちんも無くていいでしょ?」
「ちんちん取ったらおしっこはどうすればいいの?」
「ちゃんとおしっこの出てくる穴を作るから大丈夫だよ」
ジョイは男の子から女の子になった患者の写真を見せてあげた。
「わぁ、こんな感じになるのか」
「きれいでしょ?」
「なんかスッキリしてる」
「お股に邪魔な物が無いからね」
「さあ、先生に手術して頂いて、可愛い女の子になろう」
と母親が言う。
「そうだなあ」
「このままにしておくと、あと2〜3年で声変わりもしちゃうし、身体中に毛がはえてきて、きたない身体になっちゃうよ。女の子になれば、ずっと今みたいに可愛い声のままだし、お肌もすべすべのままだよ」
「あ、毛が生えるのは嫌だと思ってた」
「じゃ女の子になっちゃおう」
と母親が説得している。
「じゃ女の子になってもいいかなあ」
本人が同意したので、すぐに手術室に運び込み、彼を男にしてしまう諸悪の根源を摘出。女の子にはふさわしくない、ちんちんも解体して、女の子には必要な、小陰唇・陰核・膣に作り変えた。たまたまの入っていた袋は大陰唇に改造した。
手術が終わってお股を見た彼、ではなく彼女は、ちょっと驚いていたものの、嫌だとは言わなかった。
入院中に母親が、女の子パンツを買ってきたので穿いたら、ぴったりフィットするので、気持ちいいと言っていた。
そして退院した後、彼女はスカートを穿いて学校に出て行き、女の子になったことをクラスメイトたちに言うと、みんな
「よかったね」
「おめでとう」
「やはり君は女の子の方がいいもん」
と言ってくれたらしい。
本人も男の子だった頃より、生きやすい気がすると言っていた。
人を幸せにするのは良いことだ、とジョイは思った。
彼女には1年後にiPS細胞から育てた卵巣や子宮を埋め込んであげたので彼女はたぶん半年後くらいには生理も始まるはずである。
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ジョイの診察室・もったいない(1)