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■ジョイの診察室・ボーイソプラノ(1)
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カインドリー・ジョイはその日最初の患者を診察室に入れた。
小学4年生の男の子とその母親ということだった。
「この子、歌が好きで合唱団にも入っているのですが、ちょっと悩みがあって」
「はい?」
「今は凄く美しいソプラノ・ボイスを持っていて、女の子たちにも出ないくらい高い声が出るんです。こないだの大会でもソプラノ・ソロを歌ったんですよ」
「それは凄いですね」
「でもこの子、あと1年もしたら声変わりが起きて、もう高い声が出なくなってしまうと思うんです」
「それは惜しいですね」
「それで声変わりがしないように、できないかと思って」
「そうですね。声変わりは男性ホルモンの作用で起きますので、手としては2通りです。女性ホルモンを投与して男性ホルモンの働きを抑える手と、もうひとつは手術して睾丸を取ってしまう手です」
「女性ホルモンを投与したら、おっぱいが大きくなりません?」
「なります」
「この子は女の子になりたいわけではないんです。ですから女性ホルモンの投与はちょっと」
「だとすると、睾丸を取るかですね」
「でしたら、その手術をしてもらえませんか?」
「君は睾丸を取ってもいいの?」
とジョイは本人に訊く。
「ぼく、今の声を失いたくない。だからそのためには睾丸は取ってもいいよ」
と彼はとてもハイトーンの美しい声で答えた。ジョイはこの声が失われるのは大きな損失だと思った。
そこでジョイは彼を手術室に運び込み、部分麻酔を掛けて、彼の睾丸を取ってあげた。
「これでもう大丈夫だよ」
「ありがとうございます」
この手術のおかげで、彼は声変わりが来ることもなく、ずっとソプラノボイスを保つことができた。中学生になって男子制服を着るようになってもその声は変わらずますます声域が広くなった。中学のコーラス部でも、女の子たちに混じってソプラノの列に男子制服のまま入り、ソプラノ・ソロを取ることもあるという。
彼の「夜の女王のアリア」などはとても美しい歌唱である。
彼はコーラス部の女子たちに凄い人気だそうである。
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■ジョイの診察室・ボーイソプラノ(1)