広告:性転換―53歳で女性になった大学教授-文春文庫-ディアドラ・N-マクロスキー
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■ドール(1)

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(c)Eriko Kawaguchi 2013-07-15

 
ボクは授業が終わるとトイレに行き、ズボンのファスナーをおろして、おちんちんを出すと、小便器に向かってシャーッと、おしっこをした。これって、男の子の快感だよねと思う。
 
ボクたちは学校では普通に他の男の子たちと一緒に、野球やサッカーをしたり、缶蹴りをしたり、格闘ごっこをしたりして遊んでいる。こないだ学級会で将来の夢を語るというのがあった。みんなそれぞれに、サッカー選手だとか、会社社長だとか、弁護士だとか、いろいろ言っている。ボクはとりあえず無難に、レストランを経営したいなんて言ってみた。でもボクたちは将来のことが全然分からない。
 
学校が終わり、みんなに「さようなら!」といって帰路に就く。
 
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ボクたちはいくつかの学年、いくつかのクラスに分散しているし、他の学校にいる子たちもいる。学校ではあまりお互い声を掛けたりしない。けど、帰る場所は同じだから、自然に固まっていく。最終的に15人くらいのグループになって、その家の玄関に入った。
 
これからのことは承知の上のこととはいえ、ちょっと気が重い。服を脱いでシャワーをあび、きれいに身体全体を洗う。やがてひとりずつ、裸のまま「その部屋」に入る。
 
ボクの順番がきた。
 
ボクはその白い陶器の椅子に足を開いて座った。森田さんは無言でボクのおちんちんとたまたまをギュッとにぎると、その根本にメスを当て、さっとそれを切り離した。
 
痛い。激痛。
 
止血剤を塗り、傷に付かないガーゼをそこに当てて、ベッドにしばらく横たわる。
 
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30分ほど休憩する。林葉さんがゴム製の防寒カバーをからだに掛けてくれる。ボクは痛みを少しでもやわらげるため寝ることにした。でも30分後に起こされた。
 
自分で消毒室に入り、生理的食塩水のシャワーをそこに当てる。もう血は止まっていた。きれいな割れ目ができている。からだを拭いた後、真白い女の子用のショーツを穿き、長襦袢をつけて、それから赤い和服を着る。帯はお互いに結びあう。お化粧をしたら部屋で待機する。
 
やがてお呼びが掛かった。
 
今日のお客さんは東京から来た偉い議員さんらしい。何度か見たことのある町長さんが、えらくぺこぺこしていた。私たちはこの座敷に5人入っていた。こんなに入るのは滅多にないことだ。ふつうは2〜3人なのに。
 
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リーダーのカズエさんが議員さんに寄り添ってお酌をしている。議員さんはカズエさんのからだを撫でまわしながら、町長の話を聞いて笑っている。機嫌は良いようだ。
 
私たちはみんなで踊ったり、歌ったりして場の盛り上げをした。私は箏を弾いたりした。一応、三味線・箏・太鼓・胡弓はいつも練習しているので弾きこなせる。
 
議員さんのお付きの秘書さんにお酌をするが、私たちは正面からお酌をして、身体を寄り添わせたりはしない。
 
今夜の宵はかなり盛り上がったようで、町長さんも上機嫌だった。めったにないことなのに、直々におひねりをもらった。
 
やがて宴もお開きとなると、私たちは部屋から下がる。カズエさんは議員さんと一緒に奥の部屋に消えた。
 
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普段の日は座敷に2〜3回出るのだけど、今夜は長時間だったこともあり、この1回だけで終了となった。短いのを数件するのと、こういう長丁場をするのと、どちらがたいへんかは微妙だ。
 
時刻は夜11時半。一応12時までは控え室で待機なので、私はトイレに行った。
 
着物の裾を開き、ショーツをさげて洋式トイレに腰掛ける。おしっこが真下に向かってジョーっと落ちていく。この感覚も悪くはないと思う。
 
男の子のおしっこは出している感じ?
女の子のおしっこは出ている感じ?
 
出終わるとティッシュでその付近を拭き、流して服を直してトイレを出た。
 
結局その晩はそれで終了だった。私たちは着物を脱ぐと、シャワーを浴び、パジャマに着替えた。寝る前にあそこに、いつもの薬を塗る。よくよく塗り込んでおかなければならない。
 
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大部屋で寝ているので、なかなか話し声がやまない。私も隣の布団のトモちゃんと、あれこれくだらない話をしていたが、いつの間にか私のほうが先に寝ていたようだ。
 
朝。
 
目が覚めると、大きく伸びをし、それからいつもの習慣で、あそこに手を伸ばす。今朝もこの子は元気だ。
 
ボクは起きるとトイレに行き、小便器の前に立つと、パジャマの前の開きから指を入れ、ショーツを下にさげて、おちんちんを出し、勢いよく朝のおしっこをした。今日も1日頑張ろう! そんな気になってくる。朝ご飯前にちゃんと学校の勉強の道具を揃えておかなくちゃ。
 

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ボクたちは「ドール」と呼ばれている。
 
いつからこんな生活をしているのか記憶がない。もうかなり長いこと、こうして昼間は男の子として学校に通い、帰るとおちんちんを切られて女の子の格好をし、お座敷に出て、お薬を塗って寝ると朝までにおちんちんが生えてきているのでそれでまた男の子として学校に出かけるという生活をしている。
 
ただドールにもNドールとFドールがあるらしい。
 
お座敷でリーダーを務めるのがFドール、ボクたちはNドール。何が違うのかは実はよく知らない。Fドールのカズエさんに聞いてみたことはあるのだけど「そのうち分かるわ」と言われた。
 
ボクが知っているのは、FドールはNドールより少し年上みたいで、学校には行っていないこと。昼間は三味線や唄のお稽古をしている。そして人数が少なく、うちのNドールは全部50人くらいいるのにFドールは10人くらいだ。
 
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「くらい」というのは、ボクたちの仲間はある日、ふっといなくなることがあるし、また新入りが来ることもあるので、不定だからだ。
 
ボクは自分がどこから来たのか記憶がない。新入りの子に聞いてみたこともあるのだけど、みんな自分でも分からないと言っていた。
 
その年の暮れ、カズエさんがふっといなくなった。
 
カズエさんがいなくなった翌日、トモちゃんが新しいリーダーになったことが知らされた。今学校は冬休みだけど、トモちゃんはもう3学期からは学校に行かない。
 
「ねえ、Fになったの?」
 
ボクはトモちゃんに聞いてみた。
 
「うん。そうだよ」
「Fって何が違うの?」
「ひ・み・つ。でもユウちゃんだったらきっとFになれる」
「やはりNからFに進化するわけ?」
「そう。進化というか変化というか。みんな最初はN。でもその内Fになる子がいる」
「みんなFになる訳じゃないの?」
「そのうち分かるよ」
「カズエさんはどこに行ったの?」
「分かってる癖に」
 
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このことは本当は聞いてはいけないことになっている。でもトモちゃんだから聞いてみた。
 
「カズエさんは・・・・生きてるの?」
「もちろん」
ボクはちょっと安心した。
 
しかしいつも落ち着いていたカズエさんと違って、トモちゃんはドジだった。お座敷でちょっとやばいミスをして、女将さんの顔が引きつることがあった。そんな時フォローに回るのがいつしかボクの役目になっていた。
 
トモちゃんはだいぶ叱られていたようだ。
 
「あたしたちって身体が商売道具だから体罰だけは受けないのがいい所ね」
トモちゃんは照れ笑いしていたが、精神的にはかなり締め付けられていたようだ。
 
身体が商売道具・・・・その意味をボクは薄々分かるようになっていた。Fが座敷で最後に残って、お客さんと何をするのかも。
 
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2月の節分にはなんとうちの学校の先生達がお座敷に来た。
 
「どうしよう、先生が知ったら」とトモちゃんがおどおどしている。
「大丈夫だよ。先生が昼間見ているのは男の子のボクたち。
いまここにいるあたしたちは女の子なんだから」
「大丈夫かなぁ」
「大丈夫、どんと行ってきて」
 
とは言ったものの、トモちゃんがお座敷に出る場合、フォロー役のボクも必ず同伴だ。
 
全部で15人くらいの団体さんだったので3チームの対応になった。マミさんのチームが4人、タカコさんのチームが5人、そしてトモちゃんのチームは6人。これに女将さんも入って16人での対応。
 
校長がマミさんを気に入ったようで離さない、タカコさんは教務主任につかまっていた。教頭はこういう遊びが好きでないのか山田先生となにやら話しながら飲んでいる。トモちゃんがお酌に行ったが、構わないでといわれた。
 
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トモちゃんがおろおろしていたら私の担任の平川先生につかまってしまった。12月まではトモちゃんも私同様、平川先生のクラスだったのである。
 
「あれ、君どこかで会った?」と先生が首をひねりながら聞く。
トモちゃんが困っている。ボクはさっと寄っていった。
 
「あら、社長さん、お姉さんをご存じなんて、たくさん遊んでおられるのね」
「いや、俺は社長じゃなくてただの教師だよ」
「えー、貫禄があるからてっきり社長さんかと思っちゃった」
 
平川先生は私の顔もしばらく見ていたが、お酒を勧めたら、考えるのはやめたようで、飲んで食べながら世間話や、やがて生徒のグチまで出始めた。このお座敷にも入っているモモの話らしいグチが出た時はちょっと吹きそうになった。先生がモモに気づく前に酔い潰さなきゃ。
 
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宴が進み、そろそろ中締めという感じになってくる。
 
教頭先生が少し歩いて回って、何人かの先生に声を掛けていた。そして女将のところに行って何か話した。女将が「え、それはちょっと」と困った顔をする。電話を取り上げて、帳場の森田さんを呼び出したようだ。が、参ったという顔をして受話器を置く。そして私に手招きした。
 

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「あのね、ユウちゃん。あなたはまだNなのに本当はこんなことさせたくないのだけど」
「なんですか」
「今夜、お客さんの相手してくれない? って意味分かる?」
「意味は分かります。でも経験ないのにできるでしょうか」
「それは大丈夫。されるようにしておけばいいから。ただ、朝まで一緒にいちゃダメよ。たいへんなことになっちゃうから」
 
大変なこと・・・・たしかにお客はびっくりするだろう。
 
「ごめんね。3人でいいというからFを3人用意していたのに、4人欲しいと言い出して。他のFが全員埋まってて、都合がつかないのよ、今夜は」
「いいですよ。どうせそのうち体験することだし」
 
残ったのは、校長、教務主任、佐竹先生、そして私が酔い潰しそこねた平川先生だった。先生、お酒が強すぎる。水割りを30杯は飲んでいる。
 
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校長はマミさん、教務主任がタカコさん、佐竹先生は誰でも構わない風だったが平川先生が「君がいい」と私を指名した。予感はしていた。
 
ということでトモちゃんは若くて体力のありそうな佐竹先生になり、一瞬私に視線を飛ばした。不安そうだ。頑張ってという笑みを送った。本当はこちらが初体験なんだから激励して欲しかったけど、トモちゃんだから仕方ない。
 
即興の各カップルが女将の誘導でそれぞれの部屋に収まっていく。平川先生は私を和服の上からギュッと抱きしめた。そしてひとつのお布団が敷かれた部屋に入る。急遽用意したためか、ストーブは点いているがまだ充分暖かくない。「まだ寒いかも知れません。少し飲まれますか?」と私は訊く。
この部屋にお酒の用意があることは、部屋の片付けをしたことがあるので知っている。
「いや、まず済ませよう」
うーん。ストレートな表現だ。
 
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私はまさになされるにまかせていた。実際こういうことを教わっていないので何をどうしたらいいのか分からなかった。
 
「その時」はきゃーっと思ったが、痛いとか苦しいとかの感覚はなくてちょっと気持ちいいかも、という感じだった。Fになったら、ほぼ毎日これをすることになるんだろうな・・・・
 
「お前、もしかして初めてか」
(たぶん)全部済んでから、先生が訊いた。
「はい」
 
私はなぜか素直に答えてしまった。本当はこういうことは適当にはぐらかしておかないといけないんじゃないかなという気もしたが、思ったより気持ちいいものだったからかも知れない。
 
「どうしてこういう所で働いているんだ?」
 
それはもう客とドールの会話では無かった。
 
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「記憶無いんです。いつからこうしているか」
「不思議な話だな。実は俺の母親もそう言っていた」
「え?」
「俺の母親はドールだったんだよ。お前もいつか身請けされて、誰かの妻か愛人になるんだろ?そして子供を産むんだろ」
 
身請け?妻?子供を産む・・・・ボクが子供を産む?
 
一瞬、自分の中の男アイデンティティと女アイデンティティが混乱した。正直、自分は男なのか女なのか、よく分からない気分でいた。子供を産むって、それって女として生きるということなんだろうか。そうか、Fってたぶん女性の完全体なのかな。
 
そんな思いが瞬間的に頭の中を駆けめぐった。
 
「ところで白石さ、さっきのあれ年末までクラスにいた長田友助だろ?」
「え、違いますよ・・・・あっ」
しまった。ひっかかった
 
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「うん。やはりお前は白石裕太か」
「はい」
 
ここでもう嘘をついても仕方ない。
 
「今抱いて確認した。お前は間違いなく女。なんで学校では男装してるんだ」
そうか。そう思っちゃうよな。
「私たちのこと、今は聞かずにいてくれますか?」
 
「まぁ、いいだろう。また来るぞ。次からはお前を指名するから」
「お待ちしています」
 
私はなぜか素直にそう答えた。
 
翌朝。私は平川先生が寝ている内にさっと寝床を抜け出させてもらい自分の部屋に帰った。帰ってからおそるおそる触ってみる。もう生えてきている。もう少し早く抜け出すべきだったかな。でも先生寝ていたから、これに触ったりはしてないだろう。でも、例の薬を塗らなくても、ちゃんとおちんちんって生えてくるんだな。私は新しい事実を知った。
 
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その日、私は女将から「サブリーダー」への昇格を言い渡された。
 
普通はFになると同時にリーダーになるので「サブリーダー」などというポジションは本来無いのだけど、トモちゃんがあまり頼りげがないので正式にサポート役をすることになった。
 
そして仮成人の儀式をしてもらった。
 
これも普通はFになってからするものでNのまま成人というのはほんとに例外的な扱いらしい。着る服もFの服に準じたものを着ることになった。
 
Fは花柄などの柄模様の振袖に正式の袋帯、Nは無地の和服に紐帯だ。私は無地の和服だが正式の帯を締めることになった。
 
夜のお相手についてはFが全員埋まっている時の臨時のお勤めだけということになった。実際には月に数回程度した。マミさんなどは人気があるから日に2〜3人相手にすることもあるらしい。トモちゃんはドジなのでお座敷があっても、パスということになる場合もあり、(他の空いているFが対応する)2日に1回くらいのペースで夜のお相手をしていた。
 
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夜のお相手の時の仕草についてタカコさんから色々教えてもらった。これ、先に聞いておきたかったよ。
 
おちんちんは薬を塗っても塗らなくてもだいたい朝4時くらいには生えてくるということが分かった。夕方おちんちんを切断されるのが4時頃なので、ちょうど半日で生えてくるということのようだ。つまり毎日、男を12時間、女を12時間生きていることになる。
 
ただトモちゃんが言うには、何時間で生えてくるかはけっこう個人差もあるらしい。薬を塗ることでそれが安定するらしいのだが、ボクの場合は、塗らなくても安定している珍しい体質らしい。
 
サブリーダーになったおかげで色々教えてもらえることが多くなった。Fドールが突然いなくなるのは、大半が身請けだけということも分かった。ただ、ボクがちょっと疑っていたことも正しかった。ドールは普通の人間より、死亡率がかなり高いらしい。
 
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うちの場合でも、毎年Fドールが2〜3人、Nドールが10人くらい死んでいるとか。ドールは死ぬと燃えた紙の灰のように崩れてしまう。だから死体も残らないし、お墓も無い。そもそも実は戸籍も無い。
 
平川先生のお母さんも、5年前にそんな感じで亡くなったのだそうだ。平川先生のお父さんは亡き妻が使っていたカンザシを墓に納めたとのことだった。平川先生は2〜3ヶ月に1度来てボクを指名した。学校の教師の給料では確かに一晩20〜50万円というここのお勘定は払うのは、なかなか大変だろう。でも先生はそんな高額の料金を払うのに、ボクを抱いたのはあの節分の夜だけだった。その後は「夜の相手」の分まで料金を払うので朝近くまで一緒にいることになるが、個室でお酒を飲みながらお話をするだけだった。お母さんの思い出話をたくさん聞いたが、それは結果的には自分の将来を垣間見るような感じがした。
 
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いつも3時半くらいになると引き上げるので「今度料金割り増しで払うから朝飯一緒に食わないか」と言われたが、私はまだ子供なので朝までは一緒にいてはいけないことになっているんです、と逃げておいた。
 
「でも物凄く長生きするドールもいるのよ」
 
といつかタカコさんが言っていた。
 
「10歳くらいまでがいちばん死亡率が高くて、Fになれずに死んでしまう子もすごく多い。Fになっても20歳くらいまで生きられるのは半分くらいかな。でもその後は普通の人間並みの死亡率になって、50歳越えたドールは、かなり長い寿命を持つの。私が聞いたのでは長野に150歳のドールがいるとか。100歳超えのドールは日本だけでも数十人いるらしいけど」
 
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「なんか凄いですね。150歳のおばあちゃんか・・・・」
 
「ううん。ドールは年を取らない。150歳の人は見た目は人間の40歳くらいらしい。個人差もあるんだろうけど、20歳を過ぎると、ドールの年の取り方は、とても緩やかになるから」
 
「そんな長い時を生きてきたら、何を考えて日々を送っているんだろ」
「あなたも150歳を目指してみる?」
 
自分は60歳くらいまで生きられたらいいかな。その時はそんなことを考えた。
 

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