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■カット・ユア・ボール(1)

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(C)Eriko Kawaguchi 2013-05-31
 
中学2年の春。浩佳(ひろよし)は転校した。前の学校では卓球部に入っていたので、こちらの中学でも卓球部に入ろうと思い、放課後、体育館で卓球をしている「卓球部」っぽい人たちの所に行って、「私も入れてください」と言ったのだが・・・・
 
「ごめーん。うちは女子卓球部だから、女子だけなのよ」と言われた。 
「男子の卓球部は無いんですか?」
「以前あったけど、2年前に部員が居なくなって消滅しちゃったのよね」
「また作れないものでしょうか?」
「うーん。メンバーを6人集められたら、同好会にはできるかも」
「6人ですか?」
「だって、団体戦は6人いるから、その人数いないと試合に出られない」
「あ、そうか!」
 
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そこで浩佳は「男子卓球同好会メンバー募集」というチラシを作り、生徒会長の所に行って、掲示の許可をもらい、各学年の掲示板のところに貼った。一応1ヶ月間、貼ってよいという許可をもらった。顧問の先生については女子卓球部の荒井先生に内々に打診した所、メンバーが集まったら、女子卓球部と兼任で顧問を引け受けてもいいと言ってもらえた。同好会を作るのにいちばん大変なのが顧問のお願いと思っていたので、それがクリアできてホッとしたのだが・・・・ 
もっと根本的な部員募集の方がさっぱりであった。
 
5月の中旬頃、同じクラスで女子卓球部の珠美に「部員集まった?」と訊かれた。 
「全然。6人はきついかも知れないけど、3人くらいは集まらないかなと思ったんだけど、全く反応無し」「ああ・・・」
「最初に作ったチラシが地味すぎたかなと思ってカラー印刷でイラストも入れて作り直してみたんだけど、全然反応無くて」 
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「1人だけじゃ、愛好会にもならないもんね〜」
 
その点は生徒会長の所に行った時に聞いたのだが、一応顧問が居て6人以上の集まりなら「同好会」と認定し、3人以上で既存の部・同好会とかぶっておらず生徒会に承認を得ていれば「愛好会」と認定するらしい。
 
「そもそも1人じゃ練習のしようがなくて」
「青野君、卓球自体の腕は?」
「去年向こうの県の新人戦では地区大会ベスト4に入った」
「お、強いじゃん! ね、ちょっとうちの部員と手合わせしてみない?」
「あ、させてさせて」
 
そこで、浩佳は放課後、体操服に着替え、珠美に付いて女子卓球部に行った。 
「何か格好いいラケット持ってるね」と言われる。
 
入部希望者が来て手合わせしようと言われた時のために、毎日ラケットは学校にもってきていたのである。
 
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「松下プロモデルだよ」
「おお、カットマンなんだ!」
「うん」
 
カットマンというのは卓球のプレイスタイルのひとつで、基本的には守備重視の戦い方である。ひたすら相手のボールを拾いまくり、カットと呼ばれる下回転のボールで返して行く。耐え抜いて相手のミスを誘うので、体力が無ければできない戦い方である。松下プロというのは、そのカットマンとして有名な松下浩二選手のことで、浩佳が使っているのはその松下選手の名前を冠したシェークハンドラケットである。(テニスのラケットにはシェークハンドとペンホルダー型があるが、前の学校では全員シェークハンドを使用していた。両面にラバーを貼りフォアハンドでもバックハンドでも打てるのが特徴である) 
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他の部員さんたちに挨拶して、最初珠美と手合わせした。
 
「強〜ぇ! 青野君すごい!」
 
浩佳たちの試合を見ていた3年生の部長さん、篠原松恵さんが
「私とやらせて」
と言って出てきた。
 
部長をやるだけあって、強い強い!
 
浩佳はかなり粘ったものの、左右に鋭く打ち分ける打法に翻弄され負けてしまった。 
「負けました!」
「いや。こちらも本気・全力全開。さすが男子。強いなあ」
と部長は言う。
 
「でも2ヶ月ぶりに打てて気持ち良かったです」
「・・・ね、1人じゃ練習できないでしょ? 私と練習しない?」
「いいんですか?」
「私も下旬の大会に向けて、いい練習相手になりそうだし」
「じゃ、練習させてください!」
 
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そこで浩佳はその後、毎日放課後、女子卓球部に行っては、部長をはじめ強い部員たちと日々打ち合うようになった。彼の身分については、女子卓球部の「マネージャー」ということにした。マネージャーなら性別は関係無く入部させることができる。一応部員ということにしておかないと、何か事故があったりしたような場合に困るので、名前を登録だけはすることにしたのである。 
転校してきて以来、全然卓球ができなくて悶々としていたので、この日々の練習はとても楽しかった。女子といっても、さすがに部の上位の人たちはみんな強くて、浩佳もほんとに本気にさせられた。
 

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5月下旬。中体連の卓球地区大会が開かれる。浩佳は他の部員達と一緒に試合の行われるK市までマイクロバスで行った。
 
試合前の練習では他の部員たちと一緒に体育館の周りをジョギングしてウォームアップした上で準備運動などもしっかりした上で(柔軟体操は顧問の荒井先生と組んでした)、まずは部長とラリーして練習する。
 
その時、参甲中とはライバルの伊城中の部長・原口月海(つきみ)がその打ち合いをじっと見ていた。
 
ちょうど参甲中の1年の子がトイレにでも行くのかこちらの方に歩いてきたのをつかまえる。
 
「こんにちは。あそこで篠原さんと打ち合ってるの誰ですか?」
「あ、青野さんって言うんですよ。2年生で今年転校してきたんです」
「転校生か!」
「でも試合には出ませんよ」
「出ない!?」
「私もよく分からないんですけど、何か事情があるらしくて正式部員じゃないんです。マネージャーとしての登録だし」 
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この子はあまり熱心に練習に来ていなかったので、浩佳が「男の子」であること自体を知らなかったのである。
 
「1年生でもなく、あの実力で試合に出ないってなぜ?」
月海は自問するかのように呟いた。
 

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やがて試合が始まる。浩佳は試合には出ないものの、審判としてあちこちの試合を裁いた。やがて個人戦も団体戦も上位の方の対戦になり、ちょっと暇になってくる。控え室に持参のお茶を飲みに行こうと通路に出て歩いていたら、ひとりの女子に声を掛けられる。
 
「すみません」
「はい?」
「あの、良かったら2階の廊下の練習台でちょっとラリーしませんか?」
と彼女は言った。
 
浩佳はてっきり参甲中の生徒かと思い
「はいはい、やりましょう。今ラケット持って来ますから先に行ってて下さい」
と言って、控え室に行き、お茶を飲んでから自分のラケットを持ち2階に行った。 
「あ、そちらからサーブどうぞ」と言う。月海が打ち始める。浩佳は打ちながら「わあ、この子強い」と思った。参甲中女子卓球部の中で強い子とはたいがい対戦していたはずなのに、なぜ今まで打ってなかったんだろう?などとも思いながら、彼女の玉をとにかく拾って拾って拾いまくり、カットボールで返していく。
 
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かなり長時間の打ち合いの末、浩佳が勝った。
「ほんと強いね! 青野さんだっけ? またやりましょう」
と言って、月海は浩佳と握手をし、階段の方へ行った。ちょうど入れ違いに珠美がこちらへ来る。
 
「あれ?ヒロちゃん、もしかして彼女と練習したの?」
最近珠美は浩佳のことを「ヒロちゃん」と呼んでいる。こちらから珠美のことは「マーちゃん」である。
 
「うん。さっき誘われて。でもあの子と打ったの初めて。あまり練習に出てきたなかったんだっけ?」「いや、練習も何も、彼女伊城中のエースだよ」
「えー!? 参甲中じゃなかったの? それがなんで僕を誘ったのかな?」
 
「たぶん、松恵さん(部長)と打ち合ってる所を見て、強そうと思って手合わせしたくなったんじゃない?」「ああ。でも凄く強かったよ」
「うん。去年の秋の大会ではこの地区で優勝したよ」
「ひゃー! 道理で強い訳だ」
 
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この大会では、団体戦では参甲中が3位、伊城中が4位。個人戦では伊城中の月海が優勝、参甲中の松恵が準優勝だった。決勝戦で争い、対戦終了して握手した後、月海が小声で松恵に言った。
 
「まっちゃん、また強くなってる。今回はもう負けるかと思った」
「つーちゃんこそ、去年より強くなってるじゃん」と松恵。
「そちらは青野さんも秋の大会くらいでは出てくるんでしょ?参甲中同士の決勝戦にしないよう、私、この夏は鍛え直すよ」と月海。
「青野? ああ、あの子は出ないよ」
「なぜ? あんなに強いのに。私さっき手合わせして負けたよ」
「うーんと、出場資格が無いから。じゃ、また」
「うん」
 
と言って別れる。出場資格が無い??なんで? 月海はまた自問した。 
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自分のチームに戻って、副部長の玲菜に話しかける。
 
「ねぇ、大会に出場資格が無いって、どういうケースだっけ?」
「うーんと。その中学に在籍してないとか、留年とかしてるとか、休学中とか。あとプロは出場禁止だろうけど、中学生にプロはいないし」 
「転校で制限とかは無かったよね?」
「高校生の大会では転校して半年は出場出来ないけど、中学生は制限無いよ」
「うーん。。。。謎だ」
 

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大会が終わり、マイクロバスで参甲中学に戻り解散する。
 
「ね、ね、ちょっと町に行かない?」
と珠美から誘われた。
「うん。いいよ」
と答え、珠美、敦子、樽美、と4人で体操服のまま町に出た。
 
「あっちゃん(敦子)準々決勝惜しかったね」
「うん。デュースを制して2セット目取って2対0になった時は行けるかなと思ったんだけどね。そのあと3セット続けて取られちゃった」 
「私もルーちゃん(樽美)も初戦負けだしなあ」と珠美。
「やはり私もマーちゃん(珠美)もマジメに練習に出てないからだよ」と樽美。「ルーちゃんやマーちゃんより、むしろヒロちゃん(浩佳)の方が最近は出席率がいいね」と敦子。
 
「そうだ。ヒロちゃん、性転換しちゃえば女子として出られるよ」と樽美。「いや、出たいけど、そのために男を捨てるのはちょっと・・・」
と浩佳は困ったように言う。
 
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「なに、ちょっとお股の所、手術しちゃえば済むことよ」
「女の子になったら可愛い服、着れるよ」
「いや、そもそもヒロちゃんって、顔立ちが女の子でも通る気しない?」
「あ、するする」
「声変わりもまだだから、女の子の声に聞こえるしね」
「そそ、凄く可愛い声だよね。羨ましいくらい」
「取り敢えず睾丸だけ抜けば、その可愛い声を維持できるよ」
「えーっと・・・」
 
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