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■寒桜(2)

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佐竹は青葉に今回の依頼料として20万円もらったのでといって、それを全額青葉に渡そうとした。
「ふつうの小学2年生にはこんな大金渡せないけど、君は精神的には充分おとなだから」と言ったが
「1万円だけください。残りは佐竹さんが管理しておいてもらえませんか」
「わかった。じゃ君名義の口座を作って入れておくから」
「東京かどこかの銀行の口座にしておいてもらえますか?この付近の銀行だと見つかりそうで。複数の銀行に分けて。届け出の住所は佐竹さんのところに」
 
「了解。ご両親どう?」
「どうにもなりません。ひいばあちゃんが亡くなって歯止めが無くなって、もうあれは家庭ではありません。早く中学出て東京か仙台に就職して出たいです」
「まだ8年掛かるね」
「取りあえず雨風しのげる宿泊所と思うことにします。姉も守らないといけないし」
「ほんとにどうにもならなくなったら、僕が親権停止の裁判起こすから」
「そこまでは行かない程度に呪法掛けておきます」
「・・・・君はほんとに大人だね」
「可愛い気無いでしょ?」
といって青葉はニコリと笑った。
「とんでもない。充分可愛いよ。美少女だと思うよ」
と佐竹さんは笑顔で言った。

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翌朝、青葉が朝からスカートを穿いているのを見て、未雨は少し驚いたような声を出した「あんた、その格好で学校に行くの?」「うん」
 
青葉はふだん家の中ではスカートを穿いていたが、学校には男の子の服を着て行っていた。「一応学校では男の子の服を着てても半分女の子扱いされているから、それならいっそ女の子で通しちゃおうかと思って」「まあいいけどね」
 
まず早紀の家に行き、誘って一緒に咲良の家にいく。
「あれ?きょうはあおば、女の子なんだ」と早紀が青葉のスカート姿を見て言った。「え?私はいつも女の子だよ」と青葉は涼しい顔で答える。
ふたりで咲良を誘って3人で学校に出て行った。
 
しばらく休むのかと思った咲良が青葉たちといっしょに登校してきたので青葉達2年1組の担任の女教師は少し驚いたが、青葉が担任に「しばらく私と早紀が一緒に登下校しますから」と言ったので少し安心した。そちらに気が行っていたので、青葉がスカートを穿いていることには、その時は気付かなかった。そもそも青葉は半分女の子という感じだったのでスカートを穿いていても違和感が無かったこともあった。
 
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しかし青葉がスカートを穿いていることは、その日教室の中で少しずつささやくような声で波紋が広がっていった。ただ、みんなが、特に女子たちが思ったことは「だって青葉は女の子だもんね。スカート穿いたっていいよね」という感想だった。
 
そして結局このあと青葉はずっと女の子の服でしか学校に来なくなったのであった。
 
その日の午後、咲良を早紀といっしょに家まで送り届けたあと、「ごめん。きょうはちょっと用事があるから先に帰るね」といい、あとを早紀にまかせて、バスに乗って一関まで出た。
 
スポーツ用品店に行き「あれ」を探す。たぶんこのくらい大きな店にはあると思うんだけど。。。。あった!それは1000円で買えたので、青葉はピッチリ締まるタイプのスクール水着にゴーグル・長髪用水泳用帽子などを一緒に買い求めた。全部で6300円だった。帰りのバス代を除けば残金は2000円弱になる。このくらいなら親に見つかって取り上げられても被害は少ない。まだ当時は、青葉の家には「食事」というシステムはなくなっていても、食料自体はある程度買ってあったので、青葉と姉は食べるものにはそう困らずにいた。
 
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青葉は1年生の時の水泳の授業は全部見学で押し通したのだが、今年はちゃんと出ようと思っていた。そこでアンダーショーツを穿いてあの部分をしっかり抑えた上で、きちんと締まるタイプのスクール水着を身につけてみたのである。学校の『青葉専用更衣室』で試着してみた。OK。付いてるようには見えない。
 
青葉は今度また一関に出た時に、アンダーショーツを何枚か買っておこうと思った。これってふだんでも使えるじゃん!
 
その水泳の授業は翌週1回目があった。青葉が見学せずにちゃんとスクール水着を付けてプールに出てきたので、級友たちから歓声があがった。
「そのスクールみずぎ、ちょっとかっこいいね」と咲良。
「咲良のも可愛いじゃん」と青葉は答える。
「わたし・・・・あおばのあのあたりがとってもきになる」と早紀。
「えへへ。付いてないように見えるでしょ」と青葉は答えた。
 
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池に咲良が人形を落とした時に見せたように青葉の水泳の腕はすばらしかった。25mのプールを何往復もしてみせると、男子の方からも「すげー」という声が出る。
「でも変わった泳ぎ方だね。クロールと少し違う感じ」
「ひいおばあちゃん仕込みだから。小抜き手何とかって言ってたよ」
と青葉は答えた。後で佐竹さんにちゃんとした名前を聞いておこうと思う。
「ね、なつやすみもたくさんプールであそぼう」
「うん」
昨年早紀たちに付き合えなかった分も今年はたくさん遊びたいなと青葉は思った。
 
夏休み、青葉は学校のプールにも何度もいったが、ある日は咲良の母に早紀ともども盛岡市内の大きな商業プールに誘われた。いつもふたりにお世話になっているお礼にというのでプール代や食事代も咲良の母がもつということで、咲良の母が運転する車で盛岡までの往復であった。3人ともチャイルドシートを卒業できる身長があったので、後部座席に青葉・咲良・早紀の3人が並んでシートベルトを付け、仲良くおしゃべりしながらの日帰り旅行となった。
 
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4人で入場し受付けで赤いベルトのロッカーの鍵を4つもらった。早紀はちょっとだけ青葉のことを心配したが、青葉は平気な顔をしている。大丈夫なんだろな、と思う。女子更衣室に入り、4人は並びのロッカーに荷物を入れ、服を脱ぐ。青葉は最初から服の下に水着を着けていた。なるほど、これなら大丈夫よね。青葉の今日の水着はセパレート型で青地に赤い金魚の模様である。スカートも付いている。
 
「あおばの、かわいい!」早紀も咲良も声をあげた。
「咲良のはプリキュアね」
咲良のはプリキュアの変身スーツをイメージした水着だ。
「わたし、ふたりにまけた」などと言っている早紀もシナモロールのワンポイントが入った水着を着けている。
「早紀のだって可愛いじゃん」と青葉はにこやかな笑顔で言った。
早紀は最近青葉の笑顔が減っているような気がして心配していたが、こんな笑顔が出るなら大丈夫かなと思った。青葉の家庭が乱れているようなので、そのせいなのではなかろうかと思っていたが・・・・・
 
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大きなプールで泳いだり、水の掛け合いをしたりして遊ぶ。流れのあるプールで流れに沿って泳いだり歩いたりし、またスライダーで滑り落ちて軽いスリルを楽しんだりする。
 
午前中1時間泳いでからお昼にプールサイドでハンバーガーを食べ、少し休憩してからまた午後3時間泳いだ。同じ学校の4年生の女子が来ていて、青葉を見つけると「あなたかなり遠泳できるよね、私と競争しない?」と誘ってくる。早紀たちが「私達応援してる」というので、ふたりで25mプールに入り、並んで泳ぎ始めた。4年生はクロールでぐいぐい泳いでいく。青葉は最初クロールで泳いでいたが、離されていくので独自の泳法に切り替えたらスピードが上がり、やがて4年生に追いついてきた。ふたりは抜きつ抜かれつつ、結局25mプールを20往復くらいしたところで「疲れた!」と4年生が言ってゲーム終了となった。
 
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「あんた、クロールじゃないのね」
「まだクロールは苦手です。今年から練習しはじめたので」
「来年までにはクロール覚えててよ。またやろう。私ももっとスピード出るように頑張るから」
「はい、また」
ふたりは握手して別れた。早紀と咲良はパチパチと拍手して青葉を迎えた。長距離を泳ぎ切ったせいか、青葉の顔に満足げな自然な微笑みがある。早紀はすごくいい顔してるなと思った。
 
プールは1時間おきに10分間の強制休憩時間が入る。4時の休憩時間で4人はあがることにし、更衣室に移動した。早紀は青葉がどうするのか気になって仕方がないが青葉がロッカーに入れていた着替え用のバスタオルを取り出すと、拍子抜けして、つい笑い出してしまった。
「どうしたの?早紀」
青葉が不思議そうに見ている。
「うん。何でもない」
と言って早紀は自分も着替えはじめた。青葉は心配しなくてもちゃんと、女の子として破綻しないようにやっていけるんだなと思った。思えば人形を取りに池に入った時は緊急事態で準備が無かったからなのかも知れない。
 
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青葉が女の子でいる限り、早紀もふつうに仲良しの友達でいれる。そのうち思春期が来たらどうなるのか分からないけど、男の子っぽくなっていく青葉が想像できない。早紀は、何となく思春期が来たら青葉はむしろ今より女っぽくなっていきそうな気がした。
 
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