【バレンタイン・パーティー】(中)

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結局鈴音の家では着替えて元の服に戻ることができなかった。鈴音はトートに入れた忍の服を渡してくれたので、忍は近くのコンビニに寄って、鈴音のセーターとスカートを脱ぎ、元の服装に戻った。ブラジャーも外そうと思ったのだが、なんとなくその場で外すのはやめて、カップの中にいれたハンカチだけ外した。ブラジャーが胸に当たってる感覚が何となく気持ち良かった。
 
沖縄に行く件は、自宅に戻ってから鈴音の母が忍の母と電話で話してくれた。
「そういう訳で今日はうちの子が行くイベントに代わりに出席してもらってほんとに助かりました」
「あらいいえ。その程度のこと、こきつかって下さい。そちらはもうお体は大丈夫ですか?」
「ええ、熱も下がりましたし。念のため日曜までずっと寝せておきます。それで来週、沖縄であるライブに往復航空券・宿泊費込みで招待されましてひとりお友達を同伴できるんですよ。今日お世話になったこともありますし、そちらの忍さんに一緒に行っていただけないかと」
「あら、交通費・宿泊費タダなんですか?」
「ええ。スポンサーが持つということで」
「タダならいいですわね」
「ええ」
 
忍はふたりの電話をハラハラして聞いていたが、鈴音の母は「うちの娘」とか「鈴音」と言わず「うちの子」と言っていたし、忍の母も自分のことを「忍」
としか言わず「うちの息子」とは言わなかった。結局話はまとまり、忍が来週鈴音とふたりで沖縄まで行くことが双方の親同士で承諾された。しかし忍の母は向こうを男の子と思い込んでいるようだし、鈴音の母はこちらを女の子と思い込んでいる。男女と分かってしまうと絶対許可されないだろから、取りあえずこれでいいのかな、と忍は思ったのであった。
 
でも忍という名前は女の子の名前としても通用するもんな、と彼は思った。何でも母が若い頃好きだった、男性俳優さんの名前から取ったらしいが、名前を付けた時は、女性でも「しのぶ」または「忍」がいることまでは考えなかったとか。
 
忍は自室に戻ると服を脱いでブラジャーを外しベッドの中に入れてからお風呂に入った。その夜、ブラに触ったりしながら寝たら、夢の中で忍はスカートを穿いて学校に出て行き、恥ずかしがっていた。
 
2月11日、忍は身の回りの物と、母から渡されたお小遣いを持って空港に行き、鈴音と落ち合った。ツアーの日程は今日那覇まで行き、那覇市内のホテルで1泊。12日土曜日の午前の便で宮古島に行き午後のライブに参加。夕方の便で那覇に戻り連泊。そして13日日曜日の夕方の便で戻ってくるということになっていた。鈴音から忍の分の往復航空券を渡される。名前は自分の名前だが、性別が F になっていてドキッとした。「ホテルのクーポンは私持ってるね」「うん」
 
「それでね、飛行機は性別が違っていても、世の中いろんな人がいるし、とがめられることはないと思うんだけど、ホテルは女性専用フロアらしいのよね。で、良かったらこれに着替えてくれない?」と袋を渡される。ドキッ。ライブに行く時は女の子の格好をしないといけないとは思っていたが、飛行機に乗る前からそういう服を着ることになるとは思っていなかった。しかし女性専用フロア?行くライブも女子限定ライブだし、なぜ世の中こんなに女だけのものがあるんだ?ほんとに女の子になりたくなっちゃうぞ、などと思ってしまう。
 
「分かった。トイレで着替えてくるね」「一応下着も準備しといたから。下着は新品だから安心して」「下着も女の子用?」「その方が女の子になっている気分になれるでしょ」と鈴音は笑って言う「あ、こないだ忍が使ったブラも入っているよ。スーパーフックを付けといたから装着できると思う」という。先週の服は月曜日に学校で返したのだが、それを洗濯してくれたのだろう。「スーパーフック?」「見れば分かると思う」
 
忍は鈴音から渡された袋を持って多目的トイレに入り、まずは袋の中身を出してふっとため息をついた。トイレで男の服から女の服に着替える場合、男子トイレだと着替えた後が問題、女子トイレは着替える前が問題(というか入れなさそう)。でも多目的トイレだと、そもそも男女の別なく出入り出来て中も広いし、ベビーベッドがあって、そこに服を置くこともできて便利だ。こないだから少し考えていたことであった。
 
まずは渡された服を並べてみた。ライトグリーンのセーター、長袖のカットソー(というのかな?)、スリップ・・・・ブラジャー!!スカート、黒いタイツ、ショーツ!! 忍は見ているだけでどきどきして、困ったことにあそこが大きくなってきてしまった。ショーツはイチゴ模様だ。見ているうちにクラクラとしてくる。これを鈴音が穿いているのを見たら萌えてしまうかも知れないが、これを自分が穿くのか・・・思い切って足を通し上まで上げてみた。アレは横に向けて無理矢理収納した。しかし・・・忍は頭の中で自分の世界観が、ガラガラと音を立てて崩れていく感覚に襲われた。
 
気を取り直してブラジャーを付けることにする。これは見覚えがある。こないだつけたブラジャーだ。ホックの所に「継ぎ足し」が付けられていた。なるほど。これがスーパーフックか。面白いものがあるものだ。忍はブラを付けて後ろでホックを留めようとするが、うまく掛からない。しばらく苦労していたが、ふと以前母がブラのホックを前で留めてぐるっと反対側に180度回しているのを見たのを思い出した。そうか!ああすればいいんだ。と気づいて前で留めてから回転させ、それから肩紐を掛けるとうまく行った。ウレタン?製のパッドがあったのでそれを入れる。上から触るとほどよい弾力性がある。こないだみたいにハンカチを入れるのより良い感じだ。
 
タイツを穿いてみる。最初丈が全然足りずに股がかなり低い位置になってしまったが、下の方から少しずつ伸ばしていったら、なんとか足りた。忍はそれからスリップをつけ、カットソーを着てスカートを穿いた。今日のはウェストがゴムではないが、アジャスターが付いていたので、最大にすると何とか入った。最後にセーターを着る。
 
鏡に映してみて、思わず可愛いと思った。わりと似合ってるじゃん。そう思うと心持ちアソコも鎮まってきた。忍は大きく呼吸をしてからトイレを出た。
 
「お待たせ」と柱の横で待っていた鈴音に声を掛ける。
「うんうん。可愛い。充分女の子に見える」と嬉しそうだ。
 
忍が着替えている間に鈴音がマクドナルドでマックグリドルを買ってくれていたので、椅子に座ってそれを食べている時、鈴音が提案した。「忍、着替えを持ってきてるよね」「うん」「男の子の服でしょ」「もちろん」「それ、ここのコインロッカーに預けていかない?」「え?」「私、一応日曜日の分までの着替え、自分のと忍のと持ってきたんだ。旅の間はそれを着ればいいし」「それ、女の子の服?」
「もちろん」「旅の間はずっと女の子の格好でいると・・・」「その方が面倒くさくなくていいと思うよ。男になったり女になったりするの、大変だって」
確かにそうかも知れない。しかし3日間女の子の格好で通すとは・・・・
 
「ね、いいでしょ?これは女の子同士のふたり旅」と言って首を傾げてニコッと笑う。忍はこの笑顔に弱い。「それに男の服と女の服と両方持っていくと荷物も多くなっちゃうし」と鈴音は付け足した。それは言えてる。長旅はいかに荷物を減らすかがポイントだ。
 
「分かった。置いてく」忍は決断してそう言うと、自分の着替えだけひとつのバッグにまとめ、さっき脱いだ服もそれに入れてコインロッカーに入れ鍵を締めた。これでここに戻ってくるまでは、鈴音が用意した女物の服を着る以外無い。忍は朝家を出るまで淡い期待をしていた『お泊まり旅行デート』というイメージが頭の中で霧散していくのを感じた。でもいいや。とにかくこの旅行を通して鈴音とこれまでより親しくなれるだろうし、と思い直す。まさかHすることにはならないだろうしなあ、などとも思った。忍は万一そういうことになった時のために、アレを買っておくべきかどうか実は悩んだ。しかしそこまで行くことは無いのではと思って結局買わなかった。買いに行くのが恥ずかしかったこともある。
 
手荷物を預け、カメラや機内で読むつもりの参考書、筆記具などを入れたリュックだけ持って、検査場を通る。性別 F の航空券を係の人に見せるのは少しドキドキした。しかし特に何も言われなかった。金属探知機を通るとキンコンと鳴った。「お客様、何か金属製の物をお持ちですか?」と尋ねられる。腕時計かも知れないと思い、外して通るが、また鳴る。「お客様。ワイヤー入りのブラジャーとか付けておられますか?」そういえばあのブラ、硬いのが入っていたと思い「はい」と答える。ハンド型の探知機で調べられたあと、ボディーチェックさせてくださいといわれ体を上から下まで触られたあとで放免となった。
 
ブラで金属探知機に引っかかったと鈴音に言ったら「へー、珍しい」と言う。最近の探知機はそういうのにはめったに反応しないらしい。「友達でハーフウィグ付けてたら、その留め金に反応したと言ってた子いたけどね」と鈴音は言った。
 
搭乗待合室で待っているうちに搭乗案内まであと10分くらいという案内がある。トイレに行ってくるといって席を立ったものの、入口のところで立ち止まってしまった。ここには多目的トイレが無い。男子トイレと女子トイレだけだ。どこか多目的トイレのあるところを探しに行こうか?しかしあと10分だから時間を食うとまずい。
 
悩んでいたらトントンと肩を叩かれた。「私も行っておきたいから一緒に入ろ」と鈴音が笑顔でいう。「手握ってあげる」といって、鈴音は忍の手を握った。ドキッ。そのまま鈴音に手を引かれて、女子トイレに入る。
 
初めて見る女子トイレの中。そこはずらっと個室だけが左右に並んでおり、男子トイレで見慣れた小便器が無い。忍は異世界に来たかのような錯覚を覚えた。幸いにも個室は幾つも空いていた。「たぶん洋式の方が楽だと思うよ」と鈴音が言うので洋式と書かれた個室を選んで入る。ドアをロックして、ふっと息をついた。
 
忍は最初スカートをめくり、タイツとショーツを少し下げて立ったまますればいいかと思ったが、すぐにそれは無理だと判断した。結局タイツとパンツを膝くらいまで下げ、座ってすることにした。ホースの先を指で押さえて方向をコントロールして放出し、またため息をつく。女の子って、けっこう面倒くさいな。女子トイレが混むという理由が分かった気がした。どうしても男より所要時間が掛かるはずだ。
 
おそるおそる個室のドアを開けると鈴音が手洗い場の所で待っていた。ニコリとこちらを見ているので少しほっとして手を洗い、一緒に外に出た。正直、トイレに入る時よりも、個室から出る時のほうが勇気が必要だった。
 
すぐに搭乗開始の案内があったが、いきなり長い列が出来たので、ふたりはしばらく席で待っていて、列が短くなってから搭乗口に行った。機体はジャンボだった。席は1階最後部の座席 58H,58K。窓際に鈴音を座らせ、忍が通路側に座った。 旅は快適だった。天気も良かったし、途中までは列島の海岸線が見えていたので、鈴音は「わあ、○○が見える!」などといって喜んでいた。しかしやがて見えるのは海ばかりになってしまう。「私、寝るね」といって鈴音は寝てしまう。忍も鈴音と3時間も何を話したらいいのだろうと思っていたので、少しほっとした。しかし頭をシートにもたげてスヤスヤ眠る鈴音の顔を可愛いと思い、少し心臓がドキドキした。忍は機内に持ち込んだリュックから参考書を出して読み始めた。
 
那覇は天気が良かった。いったんホテルに向かい、まだチェックイン時刻ではないので、チェックインの書類だけ書いて、荷物をフロントに預け、波の上ビーチに出て昼食を取った。冬だというのに光がまぶしい。
 
「サングラス持ってきて良かったね」「うん。この光は裸眼では辛かったかも」
「忍は色ではどんな色が好き?」「うーん。黄緑とかオレンジとかかな」
「ふーん。中間色好きな人は複雑な性格だとかいうよね」「え?心理テストなの?」
「うふふ。でも確かに好きな色聞かれて、バーミリオンだとかセルリアンブルーとか答える人は赤とか青と答える人より複雑そうね」「確かに。鈴音は何色が好きなの?」「私はピンクとかライトイエローとかかな」「あ、鈴音も性格が複雑だ」
ふたりはすっかり『忍』『鈴音』と呼び合うことで定着していた。
 
「でも夏だったら泳げたのにね」「うん。またいつか夏に来たいね」
「夏なら水着姿だね」と鈴音が言ったので、忍は鈴音の水着姿を想像してドキリとした。「沖縄だとビキニかな」などというので、忍は頭の中の鈴音の水着姿で水着をビキニに修正して、またドキッとする。「忍もビキニの水着着る?」
「え?」忍は頭の中にあった鈴音のビキニ姿が突然消滅し、自分のビキニ姿が浮かび上がってしまった。「何?どうしたの?」突然むせた忍に鈴音が声を掛ける。「いや、自分のビキニ姿を想像したら、むせちゃって」「ふーん」
 
忍は頭の中で想像した自分のビキニ姿が《可愛かった》ことは黙っていた。ただ、想像の中の姿では、バストも大きかったが・・・・・
 
ふたりは国際通りまで歩いて出て、お店をのぞいて行く。「わあ、この服可愛い。お値段も可愛い」などと鈴音が嬉しそうに言う。忍は彼女の『可愛い』ということばの使い方に当初かなり戸惑っていたものの、この買い物に付き合って、少しだけ分かってきたような気がしてきた。要するに単純な褒め言葉か??
 
「ねえねえ、これ忍に似合いそう。忍の好きなオレンジ色だよ」「え?僕に?」
「あ、忍ちゃん、女の子が『僕』なんて言っちゃいけません。『私』って言おう」
「うーん」「ほらほら。ちょっと合わせてみて」と鈴音はそのジャケットを忍に当ててみた。鏡に映してみると確かにちょっと好みかも知れない気がした。「じゃ、これも買っちゃお」などといった感じで、鈴音はそこでスカートやら上着やら6〜7点買ったが、会計はなんと1200円しかしなかった。
 
ふたりは他にも洋服屋さん、食べ物屋さんなどをのぞき、洋服を結果的に20着くらいと、サーターアンダーギー、ちんすこう、紅芋タルト、などを買ってホテルに戻った。ホテルに着いたのは15時半だった。最初波の上ビーチにはタクシーで行ったのだが、そのあと3時間ほど歩いたことになる。部屋に入ると鈴音は「ちょっと疲れたかな」といってベッドに仰向けに寝転がった。鈴音の髪がバサリとベッドの上に広がる。忍はその無警戒な感じにドキッとした。
 
「僕も疲れた。。あ、『私』も疲れた」と言って、もうひとつのベッドに腰掛ける。鈴音はその忍の様子を首だけ回して見て、ちょっと微笑んだ。「ごめんね。荷物全部持ってもらっちゃって」「あ、それは平気平気」「私、シャワー浴びるね」といって鈴音は起き上がると、なにやら旅行鞄の中から取りだして浴室に消えていった。忍は部屋に置いてあったフリーペーパーを読んでいた。
 
30分ほどで鈴音が出てくる。鈴音はホテルのガウンを着ていた。その姿にまたドキッとしてしまう。「うふふ。忍も一緒に入ってきても良かったのに」
「え?」忍はその発想は無かったのでギョッとしたが、鈴音は「冗談、冗談」
と言って笑い「次どうぞ」と笑顔で言った。
 
忍が少し引きつった笑いをして浴室に行こうとすると「あ、ごめんごめん。新しい下着出しとくね」といって鈴音は、ファスナー付きのトートから忍の分の着替えを出してくれた。「ありがとう」「それとさ」「うん?」「これ」
「かみそり?」「足のすね毛剃っちゃおうよ。たぶん処理してないだろうなと思って今日は黒いタイツにしたんだけど、黒いタイツでもよく見られたらすね毛があるの分かっちゃうから」「あ・・・・」「このかみそりも新品だから安心して」「うん」「使い方分かる」「やってみる」「剃った毛はこの袋に入れて。流したら排水溝が詰まっちゃうから」といって白いビニール袋を渡してくれた。忍は「ありがとう」と言って受け取り、浴室に入った。
 
浴室の鏡に可愛い女の子の姿が映っていた。忍は改めて自分に惚れ込みそうな気がしたものの、首を振って服を脱いだ。脱いでしまうと、男子の肉体が鏡に映る。おっぱいも無いし、アレが付いてる。はぁと大きくためいきをつくと忍は浴槽に入り、カーテンを閉めてシャワーを浴び始めた。
 
だいたい汗を流し終えてから、いったんシャワーを停めて足の毛を剃ることにする。これ、石けん付けなきゃだめだよなと思い、忍はボディーシャンプーを手にとって泡立て、まずは左足の膝下に塗ってみた。足が泡でいっぱいになる。そこを鈴音から渡されたT字型のかみそりで剃りはじめたが、すぐにかみそりの歯が毛でいっぱいになり、剃れなくなってしまった。うーん、と悩んだが、トイレットペーパーで拭き取ればいいと思いついた。
 
泡を立てて肌につけ、かみそりで剃って、かみそりについた毛はペーパーで拭き取り、ビニール袋の中へ。少したつと肌が乾いてくるのでシャワーを当てて濡らすと共に、既に剃り終えた所の石けんを洗い流す。この繰り返しで足の毛を全部剃り終えるのに、けっこうな時間がかかった。体が少し冷えたので最後に少し熱めのシャワーを当てて、浴槽から出た。しかし・・・・
 
忍は毛を剃ってしまった自分の足を見て「美しい」と思ってしまった。いいな、これ。いつも剃るようにしようかな。。。。体の水分をバスタオルで拭き取り、鏡に映してみた。うーんとうなり、アレを股の間にはさんでみた。あ、これなら行けるかな。一応鑑賞に耐える。おっぱいは無いけど。
 
忍はしばらくその姿を見ていたが、ふっとため息をつくと、服を着始めた。ショーツ。今度は赤と白のチェックの柄だ。穿いてみたが、今朝空港でイチゴ模様のを穿いた時よりは、普通の気持ちで穿けた。ちょっと慣れたのかな。ブラジャーを付け、スリップを着て、その上に新しいカットソーを着る。スーパーフックは今着ていたブラのものを外して新しいブラに取り付けた。セーターとスカートは今まで着ていたのを着たが、タイツは穿かなかった。毛は剃ったんだし、『生足』でいいよね。
 
着替えなどをまとめて浴室から出ると、鈴音は「どれどれ、きれいになったかな」などと言って、忍の足をチェックした。「おっけー。これならそのままでもいいよ。でも素足をさらすのに慣れてないだろうから、明日はパンスト穿くといいかもね」パンスト・・・半月前なら少し性的な興味を持っていたかも知れないが・・・今はそういう感情は無く、むしろ穿いてみるのもいいかもねなどと思ってしまった。今日1日、ずっと女の子の格好で歩き回り、その状態に心が慣れてしまったような気もした。
 
夕飯は国道沿いの安食堂という感じのところでゴーヤチャンプルを食べた。最初1人1皿注文しようとしたら、店のおばちゃんが「女の子1人で1皿は無理。ふたりで1皿でちょうどいいよ」というので、ゴーヤチャンプルは1皿にして、御飯だけ1杯ずつ頼んだ。ほんとにボリュームがあって、ふたりで食べてもおなかいっぱいという感じだった。
 
帰り、手作りハンバーガーの店があったので、夜食用に買って帰る。ホテルに戻ると、忍はまた少しドキドキした。一晩彼女と同じ部屋で過ごすのだ。まあ「間違い」は起きないだろうけど。。。。と思う。
 
「ねえ、ベッドくっつけていい?」といきなり鈴音が言った。「え?」
「私、寝相悪いんだ。このベッドひとつだと夜中に落っこちそうで」
「うん、それならくっつけようか」
忍は、窓側のベッドを押して壁側のベッドにくっつけた。
「ありがとう。これで安心」と鈴音は笑顔で微笑んでいる。
 
「でもやはり、この旅行、忍と一緒で良かったな」
「そう?ありがとう」
「だって女の子同士だから、リラックスできるじゃん」
「女の子同士・・・・・だよね、うん」
忍が鈴音のことばに同意すると、鈴音はちょっと可笑しそうな表情をした。
 
「親と一緒に来るより、友達同士の方が気楽だもん」
「あ。そうだよね。僕も、じゃなくて私も友達同士の旅は初めて」
「これがひとりだと、また心細かったりもするんだろうけど、ふたりだと心強いなあ。忍しっかりしてるもん」
「えぇ?私のほうが鈴音に頼りっきり。戸惑うこと多くて」
「まあ、女の子になりたて1日目だしね。でも思ったより順応してる気が。素質あったりして」「そ、素質〜?」
 
ふたりはお勉強タイムに入ることにし、おのおの持参の参考書や問題集を出して、勉強をしはじめた。勉強しながら、時々友人の噂話をしたり、また分からない所を教え合ったりしているうちに少し小腹が空いてきたので買ってきておいたハンバーガーを食べる。冷めてはいたが充分美味しかった。「これ、明日は暖かい内に食べてみようよ」「うんうん」
 
ふたりは11時頃まで勉強をしてから寝ることにした。いつもは夜中1時過ぎまで勉強しているのだが、旅で疲れているしという事で早めに寝る事にしたのだった。
 
「じゃ電気消すね」といって室内灯のスイッチを切る。「おやすみ」「おやすみ」
忍はちょっと寝付けない気がした。手を伸ばしたら届きそうな場所に大好きな彼女が寝ている。それなのに下着は女の子用のを着けたままだ。少しあそこに触ってみたが、あまりいじってはいけない気がした。
 
鈴音は寝たのだろうか?と思って聞き耳を立ててみるが、よく分からない。「鈴音?」と小さな声で呼びかけてみたが反応は無かった。忍は『ふーっ』と息をつくと、鈴音に背を向けるようにして横になり、明日のことなどを考えていたら、いつの間にか眠りの世界に引き込まれていった。睡魔に落ちる刹那、『クスクス』という鈴音の忍び笑いの声が聞こえたような気がした。
 
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