【一日限りの体験】(中の2)

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私たちはまたシリコンのバストを装着したが、高田さんが「じゃ今週は下のほうの秘密を教えてあげる」と言った。正直それについてはどうなっていたのか全く見当が付かない思いだった。「私が説明するより専門家に説明してもらおう」そう言うと翌3日の朝、高田さんは私を車に乗せて、高速を走り、神奈川県のある町の外れまで連れてきた。そこは小さな病院だった。
 
アポイントを取っていたらしく、少し待っただけで診察室に通された。お医者さんは若い女の人だった。「先生、お忙しいところ申し訳ありませんが、この子にODSについて説明して頂けませんか。私が説明して不正確になるといけないんで」「いいですよ」青木という名札を付けた女医さんは言って、そのシステムについて説明を始めた。
 
「ODS。One Day Sexchangeです」「1日でできる性転換?」「いえ、1日限りの性転換です」「1日だけ!じゃ、啓ちゃんもこれを受けたの?」「そういうこと。1日だけ女の子になって、次の日にはまた男に戻る」「まぁ。それで8割は説明しきっています」青木女医は言った。
 
「男性から女性、女性から男性、うちの病院ではどちらもしています。これはアメリカで5年前に開発された技術ですが、ライセンス方式になっていて日本でこれを実施しているのは2ヶ所だけ。うちともう1ヶ所は甲府の病院です」
青木医師はパネルを取り出して説明を始めた。パネルには男性の身体と女性の身体の解剖図が描かれている。
 
「あなたの場合は男性から女性ですよね?その場合、おこなうことは陰茎と陰嚢を切断し、膣と陰唇・陰核を付けることです」「やはり切るんですか」
私は急にあの付近がもぞもぞする感じがした。しかし青木医師は涼しい顔で説明を続ける。
 
「性転換ですから。付いていたら変です。ただ本来の性転換手術の場合は、切断した陰茎と陰嚢を素材にして女性器を形成するのですが、そうしてしまうと後で男性に戻すことができません。そこでODSでは切断した性器は特殊な保存液に付けて保存しておき、人工の膣と陰唇・陰核のセットを切断面に装着します。ただし女性器は男性器が付いている部分より少し後ろに寄っていますので、切断面よりも後ろの会陰部にも切開を加える必要があります」
 
「人工の。。。」「アメリカのODS社が開発した人工の女性器。もちろん人工の男性器もありますので、女性から男性への転換の場合はそれを使用します。皮膚移植などで使用される人工皮膚を使用し、人工の陰茎はシリコンを中に入れていますが、人工の女性器のほうは特にそういうボリュームを要する部分はありませんね。ただ人工の膣の中は適度に湿り気が出るような特殊な加工をしています。これを利用した特製ダッチワイフもアメリカでは販売されていますが日本への輸入許可は下りなかったようです。本物の女性と変わらない快感だというので向こうでは相当売れているようですが」なるほどあの時気持ちが良かった訳である。
 
「この人工の性器自体は相当の耐久性があるもので10年は使用しても大丈夫といわれていますが、ODSの場合、保存している本来の性器のほうが痛まないうちに戻す必要があります」なるほど。「その期間はだいたい1ヶ月程度ですので、その前に元に戻す手術をする必要があります。ただし大抵の人はOne Dayという名前の通り1日で戻すか、せいぜい連休の3〜4日を異性の性器で楽しんで戻すようです。時々旅行などの前後に受けて1週間まるまる異性として過ごす人もあるようです」
 
「これを受けるのはやはり性同一性障害の人たちなんですか?」「いいえ。性同一性障害の人の治療用、つまり通常の性転換手術の代用としてこのプログラムを実施してはいけないことになっています。性同一性障害の人の治療用の性転換手術の場合は切断した陰茎と陰嚢を使用して女性器を形成します。そのほうが確実に耐久度が良いですから。きちんとメンテしていれば一生使えます。ODSの場合、実際に長期間これを使用した例がないので分かりませんが10年後くらいに新しいものに交換する必要が出てくる可能性があります」
青木医師の説明は続く。
 
「実際にODSを受けているのは、基本的には完全な性転換をする意志はないものの、私生活のかなりの時間を異性として生活している人です。本来の性転換手術では2年以上ホルモン療法をしていてフルタイム異性として1年以上生活している人を対象としていますが、ODSの場合はフルタイムでなくても構いませんし、ホルモン療法の履歴も要求しません。ただ女性としてパスしている人という限定をさせてもらっています。あなたは今、女性にしか見えませんから、このプログラムを受ける権利がありますよ」と
突然医師は私の方を見て言った。
 
「いえ私は今日は説明を聞きに来ただけで」私は何だか慌てた。
 
「それから万一生殖機能が失われても構わないという誓約書を書いてもらっています。ODSを受けたあとで男性機能・女性機能が元に戻らなかった例は今まで起きていませんが、いったん切断しますので機能が戻らないという事態もあり得ることはあり得ますので」
 
「それは別に構わないです」と私は何故か言っていた。何故そう言ったのかはよく分からない。
 
「それからODSは身体への負担がありますので1度実施してから次回実施するまでに最低4ヶ月置くことになっています。まぁそこの高田さんはもうお得意さんで5回くらいしたかな?」「こないだが6回目ですよ、先生」
と高田さんがいった。
 
「それからこのプログラムは希望者がひじょうに多いので、だいたい
申し込んでから2ヶ月程度待つことになる場合が多いです。」私は実は説明を聞きながら、では今から手術しましょうと言われるのではないかとヒヤヒヤしていたのでそれを聞いてほっとした。数日間限定で異性の性器が自分のものになるということに興味を引かれないわけではないが、やはり切るというのには抵抗がある。
 
「手術ってやはり痛いんですよね」と私は何故か聞いていた。受けるつもりが無いのなら聞く必要もないのだが。「切断して女性の人工性器を付ける時は全然痛くありません」「え?そうなんですか」「切断面をできるだけ壊さないためレーザーメスを使って切断しますので痛みは一瞬です。どうしても怖いという人には麻酔を掛けますが、麻酔を掛けるとそれがきれるまでせっかくの異性の性器の快感を味わえないので麻酔無しで切るのがお勧めです」「切る時は全然痛くないよ」と高田さんが補足するように言った。あそこを切るのに麻酔無し?やはりそれは怖い。本当に痛くないのだろうか。話を聞いただけで私はあそこが痛くなってきた。
 
「ただ人工性器を外して本来の性器に戻す場合は、顕微鏡を見ながら組織を丁寧に接合していきますので、麻酔を掛けて30分ほどの手術をします。実は切断のほうは1日に5人でも6人でもできますが、戻すほうの手術が疲労で失敗しないように1日に1人しかしてはいけないことになっているので、それで日程の調整が必要になるのです」「今日も誰か切るんでしょう?」と高田さんが聞く。「ええ。そろそろ来院するはずなんですけどね。。。」と女医が言った時に、看護婦さんが一人部屋に入ってきてメモを渡した。「うーん。今キャンセルの連絡が入りました。キャンセル待ちの人にも連絡が付かないそうです」「あらぁ、この子に手術の様子を見せてあげたかったのに」と高田さんが残念そうに言う。
 
私は慌てて「私、血を見ると貧血起こすんです」と言うが、高田さんは「切断の時は血は出ないよ」と言った。そしてその時突然思いついたようにとんでもないことを言い出した。
 
「先生、予定が空いてしまったんなら、いっそこの子、手術してくれません?」
 
「え?」私は思わずあの付近を手で押さえた。女医はちょっと考えていたが「いいですよ」と言った。「ただ、ご本人の意志でそれを申し出ていただければ、します」私は思いがけないことになったので内心焦っていた。焦って変な質問をしてしまった。「でもお金がないんですが。これ高いんでしょう?」
すると青木医師は「費用は切断と接合の手術のセットで10万円です。手術の過程は実はかなりODSのキットで自動化されているのでこの手の手術にしては安いんですよ。お金は接合手術が終わった後で払っていただければよいですが」
「費用なら私が払うわよ」と高田さんが言う。困った。断る言い訳がなくなってしまった。ただ、先生は、私の自発的な申し込みを待っているようだ。つまり私が「してください」と言わない限り、手術しない方針のようだ。だったら理由はなくても、やめときますと言えばいいのではないか。そう考えると少し気持ちが落ち着く気がした。
 
ただどういう断り方をしようかと思っていた時だった。考えながらふと診察室の横のカーテンのほうに目をやった時、突然そこが開いて、若い女性が下半身裸で入ってきた。私はギョッとしたが向こうもギョッとしたようだ。「小林さんこちらですよ」と向こう側で看護婦さん?の呼ぶ声がして、その女性は済みません、と恥ずかしそうに言うとカーテンの向こうに消えた。何だ?何だ?治療か検査のために下半身脱いでいたのだろうか。ただその時私は彼女の股間をしっかり見てしまっていた。そして同時に、2週間前にホテルで見た高田さんの股間を思い起こしていた。すごくスッキリしていて、なんだか素敵な感じがする。あんな形、自分でも体験できる。それっていいじゃん。すぐ元に戻せるんだし。私はそう思った瞬間「お願いします」と言ってしまっていた。
 
血液を採られたり色々書類を書いたりした。看護婦さんにあの付近をきれいに剃毛され消毒液で消毒される。毛がなくなってなんだかなさけない感じのそこを見たとき、私は心の中でちょっと後悔しはじめていたが、その時心のどこかで『怖いの?』と馬鹿にしたように呼びかける声があり、私はその声に『平気だよ』と反論した。そしたら急に気持ちが落ち着いて、もうどうにでもしてくれと開き直りの心ができた。
 
手術台に乗り足を曲げて大きく開いて寝るように言われる。切断時に動くと危険ですからと言われ胴体と足首を固定された。ベッドの上半身の部分が起こされ、そこが見える。股間に何か機械のようなものが装着された。「最後にもう一度聞きます。切っていいですか?」女医が尋ねる。私は「はい」と言った。
 
女医が機械のボタンを押す。何か音がした。一瞬、何かでグイっと押されたような感触があった。女医が機械を外す。股間には何も突起物がなくなっていた。私は信じられないものを見ているような気がした。「痛くなかったでしょ?」高田さんが笑って言う。「うん」私はそこをしげしげと見ていた。女医が見えやすいようにと鏡を置き、その割れ目を開いて説明する。「ここが陰核、ここが尿道、ここに膣があります。人工物ですので陰核は本来刺激しても別に気持ちよくないはずなのですが多くの人が気持ちいいといいます」
「私も気持ちいいよ」と高田さんが言う。「膣は深さが15cmほどあります。標準的な男性の陰茎を受け入れるのに充分な長さです。切断時に押されるような感覚があったと思いますが、その時にこれを埋め込むための穴をあなたの身体に開けています。この穴は人工膣を取り去ると2〜3ヶ月程度で自然にふさがりますが、繰り返しこのプログラムを受けている人の場合、開きっぱなしになる場合もあるようです」「私はそうなってる」と高田さんが言う。
 
「それからこの切断した機械、これがそのまま性器の保存室になっています。外部から光も入らない状態で衛生的に保たれていますし、ただ液に浸しているのではなく、血管に人工血液を流し込んで循環させ、普通に肉体に接続されているのと同じような状態にしてあります。ODSの指定では1ヶ月以内に肉体に戻すことになっていますが実際には半年程度は大丈夫らしいと言われています。電池は2年ほど持つものが万一のため2系統セットされています。これを無菌庫に保存します。5日の午後2時から接合手術をしますので必ず来て下さい。万一来ていだけなかった場合、日程の調整がひじょうに難しくなる場合もありますから、よろしくお願いします」「大丈夫です。先生、ちゃんと連れてきますから」
 
病院では念のためということで30分間、別室で安静にしていた。その後、尿道の接合が問題ないかどうかのチェックのため、先生の見ているところでおしっこをするよう言われた。おしっこする時にいつも使用していたものが付いていない。その状態でどうしたらできるのかが、よく分からなかった。しかも見られている。緊張してなかなか出ない気がしたが、なんとか出た。すごく変な気分だった。ものすごく頼りない感じ。「問題ないですね」と先生が言う。「念のため、排尿の後は、この消毒薬で拭いて下さい」と1枚ずつ包装されたウェットティッシュのようなものを渡された。それで退院許可が出た。
 
 
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