【男の娘宣言】(2)

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「俺ちんちん切られることになった」
と悲しそうな顔をしてケンタが言った。
 
「ちんちん切って女の子になるの?」
とみんな驚いて言う。ケンタ君はおよそ女の子になりたいような雰囲気は無い。
 
「長すぎるから短く切らないといけないんだって」
「ああ、短くするだけ?」
「全部無くなるんじゃないからいいじゃん」
「何cmあったの?」
 
「先月のちんちん検査で20cmだったんだよ」
「長い!」
「それで半分の10cmまで切りなさいって。こういう通知が来たんだよ」
と言って彼は通知書を見せる。
 
《あなたのペニスは全長20cmで長すぎるため短縮して10cmにすることを命じます。下記の日時で手術をしますので**病院に出頭すること/性犯罪防止委員会》
 
「でもどっちみち20cmのちんちんは違法という気がする」
「そう言われた。ちんちんとして認められるのは最大16cmなんだって。誤差の範囲として17.5cmまでは認められるらしい。長いちんちんを持つ人は性犯罪を起こす確率が高いからって。でも16cmならまだいいけど、半分の10cmなんて」
と彼は嘆いている。
 
「4年生だから、まだまだ伸びると思われたんだろうね」
と言ってみんな彼に同情していた。
 

「10cmならいいよ。僕なんか全部切られちゃった」
と言っているのはジータである。
 
「もう切られちゃったんだ?」
 
「でもなんで?」
「女の子になるの?」
 
ジータもあまり女の子になりたそうな雰囲気は無い。
 
こういう通知書を見せる。
 
《あなたのペニスは勃起しないので軸の全切除を命じます/男性器性能管理委員会》
 
日付は2週間前だが、昨日の日曜日に手術を受けたらしい。
 
「勃起しなかったの?」
「先月のちんちん検査でも先々月の検査でも、3ヶ月前の検査でも立たなかった」
「だったら仕方ない」
とみんなから言われている。
 
男性が女性の倍いるので、結婚する男性には“品質”が要求される。勃起しない陰茎は性交できず、結果的に子供を作れないので、“誤って”稀少な女性がそういう人と結婚したりしないように男性の資格が剥奪されるのである。(むろん女性側が納得ずくであれば結婚できる)
 

男の子は毎月、ちんちん検査(通称M検 male test)を受け、通常時・勃起時の長さと直径を測定される。5年生になると射精検査も行われる。勃起しないちんちん、小さすぎるちんちん、6年生以上で射精しないちんちんは切除対象になる。過去には皮を被ったちんちんも切除対象だったが、現在では皮を被っていても性交や女性側の快感には無関係ということが科学的に証明されたので、切除対象からは除外された。
 
ちんちんを切除される場合、基本的には軸の部分を全部切除され、先端の感じやすい部分が直接身体に付いている状態になる。立っておしっこをすることはできなくなり、女性との性交も不可能になるが、そもそも勃起しないちんちんでは性交不能である。
 
「睾丸はどうしたの?一緒に取ってもらった?」
「取らない、取らない。僕男の子だもん。だから体内移設してもらったよ」
「まあ睾丸があれば間違いなく男だな」
「そうそう。ちんちんなんて無くても気にするなよ」
「気にするよぉ!昨日はずっと泣いてた」
「いっそ女の子になればいいのに」
「嫌だよ。女になるなんて」
「いやジータは女でもやっていける」
 
陰茎の軸を全切除した場合、むろん立ってはおしっこできなくなるので女の子と同様に座ってすることになる(男子トイレには元々スカートを穿く男子のために個室が最低2個あるので小便器が使えなくても大きな問題は無い)が、その場合、陰嚢があると毎回おしっこで汚れてしまう。これは衛生上良くないとされ、睾丸を除去または体内移設した上で陰嚢も撤去されるのが普通である(義務ではない)。体内移設する場合、新型去勢機のような“卵巣の位置”ではなく、会陰部の体表すぐそぱ、指で触れる位置に移設する。これは体温の影響を最小限にするためと、睾丸に触ることで自分が男であることを再認識できるようにするためである。
 
陰茎切除した場合、多くのケースでは陰嚢を大陰唇に加工して短くなった陰茎先端を守るようにする。陰唇がなく直接陰茎先端が体表にある場合、衣服にこすれて気持ちよくなりすぎて社会生活に支障が出るという。それでこの手術をうけた人は結果的に女性に似た股間外観になる。もっとも、少なくとも成人ではバストがあるかどうかで男女の見分けもつくし体型が男性体型なら、ちんちんくらいなくても男性と認識される。なお、陰茎の軸を除去する場合、陰茎海綿体を小陰唇に加工する方法もあり、ジータ君もそうしてもらったと言っていた。
 
ただしこの手術を受けても法的には女性にはならないので、女湯や女子更衣室に入った場合は、不法侵入や痴漢で逮捕される可能性がある(そもそも女性の市民登録証を持たないので女子更衣室などの入口を通過できない)。
 
陰茎切除した男性は割といる(ジータのように強制的に除去された場合のほか、本人の希望や宗教上の理由などで自主的に切断する人もある)ので、男湯で女のような股間を持つ人が居ても誰も奇異には思わない。
 

性別は、睾丸を体内移設したりして維持した場合は仮男性、睾丸も除去した場合は中性になる。仮男性は兵役の義務がある。実際には陰茎除去された人の9割は睾丸の体内移設を選び、仮男性のまま、ふつうに男性として社会生活を送ると言われる。睾丸があるので、筋力などは普通の男性と変わらない。体温で睾丸の機能が落ちないように冷却器を同時に挿入するのが普通である。
 
睾丸があるので残った陰茎先端を指で刺激することにより射精は可能であり、多くの人がそうして自慰している。実際には男性の普通の自慰より遙かに気持ちいいと、施術された多くの人が言う。(相手の女性が気にしなければ)女性と結婚して(人工授精で)子供を作ることもできる。性行為がまるでレスビアンのようになるので、元々男嫌いの女性(だいたい女性の2割は男嫌いと言われる)には人気である。ジータ君は優しいし、ちんちんくらい無くても、女性の人気はあまり落ちないんじゃないかなとレミは思った。
 
むろん男性と結婚して奥さんになっても彼はやっていけると思う。
 
なお、この国では元々同性婚はOKであるが、奥さんになる側が、簡易造膣手術をする場合もある。これは本人の男性器には手を付けずにパートナーの男性器を受け入れられる膣を設置するもので、ヤオイ穴手術ともいう。語源は不明だが、男性に設置した膣のことをヤオイ穴と言うらしい。古代の両性具有神ヤリオイドから来たという説もあるが、詳細は不明である。男性同士のカップルで双方がこれを設置する場合もあり、その場合、いわゆる「ミューチャル・インサート」が可能になる。これは気が狂いそうになるほど快感らしい。
 
ヤオイ穴を設置する場合、睾丸はそのまま陰嚢内に置いておく人と体内に埋め込んで、インサートされる時に邪魔にならないようにする人とがある。体内に埋め込む場合は会陰部の体表そばに埋め込むし、冷却チップを同時に埋め込むので、体温のために睾丸の機能が落ちることは無い(卵巣位置に移設すると体温のため睾丸の機能は落ち陰茎が立たなくなるので、そういう選択をする人はいない)。どちらを選ぶかは本人の“女性指向度”によるとも言われる。女の子になってもいいかなという気持ちもある人は体内移設するという説もあるが異論もある。スポーツ選手は運動の邪魔にならないよう体内移設するという説もある。
 
男性へのヤオイ穴設置と、女性になりたい人に膣を設置するのは同じ技術である。そもそもヤオイ穴は、女性の膣がある場所に設置される。ただしペニスを膣に改造する方法が採れないので、人工的に作られた膣を設置する人が多い。
 
「だけどどうしても嫌だったら、ちんちんの再建もできるんでしょ?」
とジータは女の子から言われていた。
 
「25歳すぎたらね。そうしてもらおうかなと思ってる」
 
実際にそうする人もあるが、ちんちんを除去した人は実際には多くの場合、むしろ性転換手術を受けて、正式な女性になってしまう人が多いとも言われる。性転換手術は兵役中にやってしまう場合も多いらしい(その時点で女性兵士になるが、兵役自体は4年間完了する必要がある。但し前線に送られることは稀になる)。
 

「##中学が女子校に転換したんだって」
とその日、父は自分の仮想端末でニュースを見ながら言った。
 
「##中学って男子校だったよね?」
「士官学校に毎年50人合格しているエリート校だよ」
と父。
 
「それが女子校になっちゃったんだ?」
「そうそう。だから来期からは女子しか入学できない。女子士官学校を目指す子や国立大学を目指すエリート女子を受け入れることになるらしい。これまで、女子向けのエリート中学って少なかったからね。それを増やしたいというのがあったみたいだよ」
 
「それ在学生はどうなるの?」
「在学生はそのまま在学していていい」
「だよね」
「但し制服は新しい制服に切り替わる」
「新しい制服って・・・」
「女子校になる以上、当然制服も女子用しかない」
「男子中学生が女子制服を着るの?」
 
「別に性転換しろというわけではない。ただし女子校になったから女子制服を着てもらう。女子制服の下には女子用下着を着けなければならない」
 
「下着もこだわるんだ?」
「男の下着を着けてたら男の意識になりやすいけど、女の下着を着けてれば、肉体的に男であっても、結構女の意識になる。下着は割と重要」
 
そう言われて、ボクが最近結構女の子っぽい気分になるのは、女の子の下着をずっと着けているせいかな、とレミは思った。
 
「あと、ヒゲとすね毛は永久脱毛してもらう」
「まあそのくらいは構わないかな」
「ヒゲの生えた女子中学生というのは、ちょっと困るからね。髪も普通の女子の長さまで伸ばしてもらう」
「まあいいんじゃない?卒業したら切ればいいんだし」
「そうそう」
 
「卒業して髪を切るの?ちんちん切るの?」
などとメルが大胆なことを訊く。
「それは好きな方を」
 
「あと喉仏を削るの推奨」
「それは悩む子多そう」
「気にしない子は削っちゃうかもね。最近は普通の成人男性でも削っちゃう人割と居るし」
 

「だけど中学ならみんな声変わり来てるよね?女子制服着てもいいの?」
「特例で認めるそうだ。女子制服を着ている限り、普通の女子と同様、バスなどはタダ」
「あ、すごい」
「トイレも女子トイレに入れるように特別なIDカードを配布する」
「へー」
「女湯は不可。男湯に入ってもらう」
「それは無理だろうね。ちんちん付いてたら」
 
「水泳の授業も全員女子水着をつけてする」
 
レミは想像したが、顔をしかめた。
 
「聞かなかったことにしよう」
 

その日、レミたち4年生は隣の市にある大型遊園地に遠足に来ていた。
 
なお遊園地は、女子生徒は無料(スカートを穿いていると無料でゲートを通れる)、先生たちも30歳未満の女先生は無料だが、男子はしっかり入場料を取られる。
 
「男子生徒でも、スカート穿いて今だけ女子という人は無料で通れるよ」
 
などと入場ゲートのお姉さんは言っていたが、レミたちのクラスには「今だけ女子」は居なかった(他のクラスの男子で、スカートに着替えて無料で入場した子がいた)。
 
ドミナは男の娘宣言して女の子の格好なので無料で入れたが、ポリカは女の坊宣言をして男の格好をしているので入場料を払った(ポリカの場合は法的にはまだ女性なので、申告すれば無料で入れるのだが、申告しなかった)。
 
ちんちんを切られちゃったジータはスカートを穿く権利もあるのだが、普通にパンツを穿いていて、入場料を払った。彼は意識は男の子だからスカートは穿かないのだろう。ただ“技術上の問題”で、下着はブリーフではなく女の子用ショーツを穿いているらしい。使えない「開き」があるのを見ると悲しくなるから、最初から開きの無いものを穿いていた方が気持ちが安定すると本人はいう。女の子用ショーツは可愛い柄のものが多いのだけど、彼は無地のを穿いているらしい。
 

ジェットコースター、回転車(中世のアトラクション“観覧車”というものに似ているらしいが昔はゴンドラ自体は“自転”せず“公転”のみだったらしい)、ティーカップ(これも中世からあったらしいが昔のは水平にしか回転しなかったらしい)、様々なショー付きのライド、シューティングゲーム、遊園地の外周をまわるゴンドラ、古代の乗り物“汽車”を再現した乗り物、幽霊の出没するハウス、などなど色々なアトラクションで楽しむ。
 
レミは最初ひとりで見て歩いていたのだが、ポリカ、ドミナ、スズナ、ジャンの4人が一緒にいるグループに遭遇した。
 
「不思議なグループだ」
「レミを入れるともっと不思議になる」
「まあ変人の集まりだ」
とポリカが言っている。
「レミはいつ男の娘宣言するのさ?」
とジャンから訊かれる。
「しないよー」
「うそうそ」
 
「男女サークルやってみようよ」
とスズナが言い、5人でそちらに行った。
 
このアトラクションは、クッションスポンジを敷いたフィールドの上に、鉄でできた円形の細い道(幅5cm)が作られていて、そこを1人ずつ一周歩いてくるというアトラクションである。
 
円は30度ずつ、赤く塗られた所と青く塗られた所が交互にある。この赤く塗られた部分で女子は落下しやすく、青く塗られた部分で男子が落ちやすいように、視覚的あるいは聴覚的/嗅覚的な罠が仕掛けられている。
 
実際、レミたちの前にやっていた中学生のグループは、男子はみんな青い所で落ちて、女子は1人を除いて赤い所で落ちた。女子1名だけが落ちずに一周して記念品のレーザー・セイバー(光剣)をもらっていた。中世の宇宙開拓時代には武器として使用されたものらしいが、現代では調理器具として一般的である。物理的な刃を使用しないので、常に最高の切れ味が保たれるのが良い。脂身の多いお肉を切る時は重宝する。
 
「レーザー・セイバーって、ちんちん切るのにもいいらしいよ」
などとスズナが言っている。
「ああ、切っても血が出ないからね。瞬間的に熱で止血されてしまう」
とポリカも言っているが、ジャンは嫌そうな顔をしている。レミはちんちんを切ると言われて、ドキドキしている。
 
レミたちが10秒くらいの間隔を空けて試してみる。詰まると面倒ということで身体能力の高そうな順に出発する。ジャン(男)→ポリカ(女坊)→レミ(男?)→ドミナ(男娘)→スズナ(女)の順である。ちなみにスズナは女の子だが、自分は女の子が好きと公言している。男の子には全く興味が無いらしい。逆にジャンは男性同性愛であることを公言している。つまりこのグループは全員微妙な性別の持ち主である。
 
最初に歩き出したジャンは半分くらいまで行った時、青の部分で落ちた。
 
「万一赤で落ちたらどうしようと思った」
「性転換して女の子になって男の子と結婚すればいい。男の子と結婚したいんでしょ?」
「それは物凄い悪夢だ」
 
ポリカはゴール寸前の青で落ちて悔しがっていた。
 
「でも青で落ちたからいいことにする」
 
レミは3分の1の所まで行った所の赤で落ちた。
 
「やはりレミは女の子だよ。男の娘宣言しなよ」
「実は迷ってる」
とレミはこのメンツなので、正直に答えた。
 
その後、ドミナはちゃんと赤で落ち、スズナだけが最後までたどりつき、賞品のレーザー・セイバーをもらった。
 
「おめでとう!」
「最後の赤で落ちるかと思ったけど何とか最後まで行けた」
「スズナは男の子になってもやっていけると思うよ」
「それは嫌だ。ちんちんなんて見たくもない。この世の全てのちんちんを抹消したい」
「過激だな」
 
「そうだ。レミちゃん、このレーザー・セイバーで、ちんちん切り落としてあげようか?」
「待って。心の準備が」
「どうせ要らないくせに」
 

その後、トイレに行く。ここでジャン・ポリカ・レミは男子トイレ、ドミナとスズナは女子トイレである。
 
「レミ、女子トイレに入りたいなら一緒に入ろう」
とスズナが声を掛けてくれたが
「自粛する」
とレミは答えてポリカたちと一緒に男子トイレに入った。トイレの入口では市民登録証をかざす必要があり、男子は男子トイレ、女子は女子トイレにしか入ることはできない。
 
「お、正直の口があるじゃん」
とジャンが言う。
 
小便器が並んだ横に、ティラノザウルスの顔があり、口を開けている。ここにちんちんを入れて、嘘をつくとティラノザウルスにちんちんを噛まれるという仕様になっている。
 
「みんなこれ試してみようよ」
とジャン言う。
「どうするの?」
とポリカ。
「ああ。まだ男になりたてで知らないか。ここにチンコ入れて、何か言った時、本当なら何も起きないけど、嘘をつくとティラノにチンコ噛まれるんだよ。運が悪いと噛み切られて、チンコが無くなる」
とジャンは説明した。
 
「恐いな」
「だからここにチンコ入れて、『自分は男です』と言ってみる」
「やってみよう、面白そう」
とポリカが言い、3人は順番にちんちんを出して、その恐竜の口に入れてみることにした。
 
最初にジャンが自分のちんちんを中にいれ
「俺は男だ」
と言ったが、何も起きなかった。ジャンのちんちんは大きい。15cm近くあるかなと思った。
 
続いてポリカが(簡易男子化キットの)陰茎を恐竜の口に入れ
「僕は男だ」
と言ったが、何も起きない。彼の陰茎は男子化キットの標準で12cmサイズである。
 
「次はレミの番だぞ」
 
レミはおそるおそる自分のちんちんをティラノの口に入れる。レミのおちんちんは8cmくらいで、ジャンやポリカのに比べると短いので、毎月のM検の時は恥ずかしいのだけど、この2人は何も言わない。
 
中に入れたままレミは
「ボクは男の子です」
と言った。
 
すると突然何かでガシッとちんちんが押さえられる感覚がある。
 
「痛い!」
と思わずレミが叫ぶと、反射神経のよいポリカがすぐ解除ボタンを押してくれた。
 
「びっくりしたぁ」
「大丈夫?」
「うん。もう平気」
 
「だけどこれでレミは男ではないことが確定だな。声変わりとか来ちゃう前に男の娘になったほうがいいと思うぞ」
とジャンは言った。
 
「でも刃が付いてて本当に切り落とすタイプじゃなくてよかったな」
「そんなの本当にあるの?」
「まあ都市伝説ではないかとも言われる」
 

11月、レミたちは性交性別検査を受けた。J国では小さい頃から性のことはしっかり教えられているので、みんな性交のことは知っているし、男性と女性の性交のみならず、男性同士の性交の仕方、女性同士の性交の仕方も知っている。
 
性交性別検査は小学4年生から中学6年生までに課されているもので、脳内で感じ取れる仮想体験システムにより、下記の4種類の体験をしてもらい、脳波測定で“順応度”を検査するものである。
 
・男女性交の男役
・男女性交の女役
・男同士の性交
・女同士の性交
 
(性別を既に移行した人は免除だが例えば男から女に移行した人は男女性交の女役と女同士は希望により体験できる。これは恋愛の練習にもなる)
 
ペニスが無い人(多くは女子)でも仮想体験システムでは自分にペニスがあるかのように感じ、仮想世界に生成された女性と性交して射精に至るまでを経験できるし、ヴァギナが無い人(多くは男子)でも、仮想体験システムの中では自分にバストやヴァギナがあり、男性に抱かれ男性を受け入れて相手が射精するまでを体験することができる。
 
このシステムで男役順応度90以上で女役順応度10以下の女子は男子への性別移行を推奨される。女の坊宣言をしたポリカは、男役95点・女役0点で
「さすが男だ」
とみんなから言われていたし、男の娘宣言をしたドミナは男役0点、女役95点で
「やはりドミナは女になっていいようだ」
と言われていた。
 
ちんちんを切られてしまったジータは男役60点・女役65点だった。
 
「ジータ、お前やはり奥さんにもなれるよ。女の子になったら?」
と言われたものの本人は
「嫌だ。でも男役の仮想体験良かったあ。ボクもちんちんあったら本当に性交できたのに」
と言っていた。
「どっちみち立たなきゃ無理」
と他の男子に言われていたが。
 
「ヤオイ穴作ってもらったら?」
「あまり男の子と結婚したくないけどなあ」
 

「お前、女役の点数高かったな」
と診断表を見て、父は言った。
 
レミは男役70点・女役80点で、女役のポイントの方が高かった。これが女役85点以上なら(男役の点数に関わらず)男の娘宣言することが勧奨される。レミは初めての女役体験で凄く気持ちが良かったものの、自分で少しセーブするようにしたので多分80点に留まったのだろうと思った。あれは操作していなければ90点くらい行った気もする。ちなみに男同士は30点、女同士は75点だった。同性性交の点数が90点以上だと同性愛の適性があるとみなされるが、レミはどちらもそれ以下だった。男同士の点数が低いのはたぶん(仮想に)自分のヤオイ穴に入れられた時に気持ち良いと思ったら自分のペニスが小さくなってしまったので、結果的に点数が低くなったのだろうと思う。女同士はずっと快感が連続していたので、75点という高得点になったのだろう。
 
「お前、このくらいの点数なら、自主的に男の娘宣言してもいいと思うぞ」
「気が進まない」
「そうか。でもその気になったら、俺にでも母さんにでも気軽に相談しろよ」
「うん」
 

その日レミは母に連れられてかかりつけの内科医の所に行った。馴染みの医師はレミの健康状態をチェックした上で
 
「じゃ注射しようね」
 
と言って、レミの腕に注射を1本した。細い針を使用しているので痛みは全く無い。
 
「ところでこれ何の注射だったの?」
と診察室を出てから母に尋ねた。
 
「抗男性ホルモンだけど」
「嘘!?」
「あんた、男の娘宣言する可能性あるでしょ?だから声変わり抑えておいたほうがいいよ」
 
確かにクラスの男子では2人もう声変わりがした子がいる。ボクもそろそろかなあなどとレミは思っていた。
 
「男の娘宣言しないのなら半年程度以内に抗男性ホルモンの投与はやめれば普通に声変わり来ると思うよ」
と母は言った。
 

レミは母から「ブラジャー着けようよ」と言われた。
 
「ボクまだおっぱい無いけど」
と言いつつ、ボクおっぱいできるんだっけ?と疑問に思う。
 
「おっぱいが無くても、最初は練習にジュニアブラを着けるんだよ」
と母は言った。
 
それで母はレミの“アンダーバスト”を計ってくれた。
 
「そんな場所を測るんだ?」
「身体測定の時に男子が測られているのは乳首の所のトップバスト。でもブラジャーはアンダーバストとトップバストの両方を測る必要があるんだよ」
 
「あ、なんとなく分かる。ボクのトップバストは?」
 
それで母は念のためトップバストも測ってくれた。レミのアンダーバストは62cmで、トップバストは64cmだった。
 
「あんた、僅かに胸が膨らんでる」
「嘘!?」
 
「抗男性ホルモンのせいかもね。あれは女性ホルモンの一種だから」
 

それで母はアンター60-65cm用のジュニアブラを買ってきてくれた。後ろに付いているホックを留める方法は母が自分のブラで実演してくれた。
 
「大変そう」
「慣れたらちゃんとできるようになるよ。毎日練習しよう」
「うん。でもこれ学校に着けて行ったらだめだよね?」
「別に構わないと思うけど」
「どうしよう?」
とレミは悩んだ。
 
でもブラジャーをつけた感じは“すごく良かった”。レミはなんだかお姉さんになっちゃった感じでドキドキした。胸が無いのが寂しいなと思って、靴下をまるめてカップの中に入れたら、まるで本当にバストがあるみたいだ。レミは鏡に映してみるだけでは物足りず、自分で何枚も写真を撮った。
 
レミはその日はブラを着けたまま、カップの中に詰め物をしたまま眠った。
 

12月はまた性交換月間だった。それでレミは毎日女の子の下着をつけスカートを穿いて通学したが、もし女の子になったら、これが普通の服になるんだよなあと考えた。
 
夜ベッドの中で自分のちんちんに触ってみて、これ取っちゃったら、どんな感じなんだろと思って股の間にはさんでみた。男の子の性器が視界から隠れ、皮膚が引っ張られて縦の線ができる。これ女の子みたい、と思ってレミはどきどきした。
 
レミが女の子の服を着たまま朝御飯を食べながら、姉のメルの胸付近を何気なく見ていたら
「何見てんのよ?」
と言われる。
「お姉ちゃん、胸大きいなと思って」
 
「あんたも胸大きくしたい?」
「いや、そういう訳じゃ無いんだけど」
「今から毎日女性ホルモン飲んでれば、中学生になる頃には結構大きくなるかもよ」
と姉は言った。
 
「あれって毎日飲むの?」
「まだ性別未分化の小学3〜4年生が男性化を止めるのに抗男性ホルモンを摂る場合は注射を打つ人が多いけど、本格的に女になることにした人は通常、錠剤で女性ホルモンを摂るよ。従姉のサリエちゃんもずっと錠剤飲んでた」
 
「へー!」
 
サリエは男の子だったけど、中学になる前に手術を受けて女の子になってしまった。凄く可愛い子で、いつもスカート穿いていたから、てっきり女の子と思っていたので、手術を受けると聞いてレミは驚いた。男の子が男の娘宣言しないまま普段スカートを穿いているのはいくつかの場合で可能である。
 
(1)親がこの子はいづれ女の子にしたいと考え性別保留届を出している場合(小学1年生以下)。
 
(2)病気や事故で陰茎を失い、普通の男子のように立って排尿ができないので女子トイレの使用を希望し、女子トイレで変に思われないようにスカートを着用したい場合(医師の診断書が必要。小学3年生以下)。
 
(3)性交換月間(またはシークレットテスト)の成績優秀者に発行される女子服装許可証を所有している場合(原則小学生のみだが、声変わりがまだなら中学3年生までは可)。
 
(4)男の子の服を着せても女の子にしか見えない場合、混乱防止のために女装させることを親が届けている(女装届)場合(小学4年生以下の時から継続して提出している必要がある。また最大中学3年生まで)
 
特に(3)や(4)の子はパンツを穿いて外出すると、すぐ性別服装違反で補導されてしまうのでスカートを穿いた方が混乱を生じない。
 
サリエは元々女の子にしか見えないので、小学校にあがるまでは女装届を出していた。女の子にしか見えないので性交換月間ではなくシークレットテストで女の子の服装でいる期間を観察されて、順応度100点で女子服装許可証ももらった。それで常時女の子の服装をしていたのでクラスメイトもみんな普通に女子と思っていたようである。こういう子の場合は更に“シークレット男の娘宣言”をすることができる。性別審査を受ける時に担任やクラスメイトの証言が不要で、男の娘宣言した後もキュロットではなくスカートを穿いていていい。本人が希望すれば精液の採取をしないまま去勢してもらえる。実際こういう子は性的に未発達で射精できない子が多い。つまりこういう子は友人たちが全く気づかない内にいつの間にか女の子になってしまう。サリエが元は男の子だったことを知っているのは親族など一部の人だけである。
 
実はレミもこれまでに数回警官に呼び止められて男女服装違反だと言われたものの、青い市民登録証を見せたら「ごめんごめん」といって解放してくれたことがあった。母からは「だから女装届出そうかと言ったのに」と言われたが。
 

「え〜?嘘だろ」
と父がニュースを見ていて言うので
 
「何があったの?」
と母が訊く。
 
「皇太子殿下が性転換して女性になるらしい」
「嘘!?」
 
「殿下は物心ついたころから、自分は女の子だと思っていたらしい。でも、お立場上、そんなこと言えなくて、ずっと男らしくふるまっていたんだって。でも国王陛下がお年で、このままだと数年以内に退位なさる可能性が出て来たから、その場合に自分がこのまま王位を継ぐのはよくないと思って、性転換手術を受けることを決めたということ。本当は2年くらい前に女性になることを決めて、プライベートではずっと女の服を着て、実は女性ホルモンも飲んでいたらしい。睾丸も取りたかったけと、皇太子という立場では取ることもできなかったと」
 
「大変だね。そういう立場の人も」
 
「それでやっと国王陛下、王室会議、内閣の承認も得られたので性転換することになったんだって」
 
「王位の継承権は?」
「無くなる。だから弟のルミナス王子殿下が皇太子になる」
「へー」
「皇太子は性転換手術を終えたら、マルガリータ王女を名乗るそうだ」
 
「でも10年くらい前にB国でも性転換はあったね」
「うん。あれは国王の孫のヨハン王子殿下が性転換してヨハナ王女殿下になられた。B国は男女ともに王位継承権があるから、継承権の順序も変わらなかったけどね」
 
「性転換した人が国王になった例とかあるんだっけ?」
「最近ではあまり無いけど、古代のローマ帝国ではヘリオガバルスという皇帝が在位中に性転換手術を受けて女帝になった例がある」
 
「そんな昔から性転換手術ってあったんだ?」
「当時は子供を産めるようにはならず形だけ女の形にしたんだろうけどね。多分、陰茎を切断して、睾丸を除去した上で、陰嚢の中心部を縫って陰唇に見えるようにしたんだろうと思う。多分膣までは作ることはできなかったと思う。膣まで作れるようになったのは恐らく中世電算時代」
 
「性転換が一般化した時代だよね」
「そうそう。当時は世界中で毎年1万人くらい性転換手術を受けていたというから」
「今の時代に比べたら随分少ないね」
「今はだいたい毎年1億人が性転換するというからね」
「もう少し多いかも」
 
「それとローマ帝国の当時は麻酔が無いから、壮絶な痛みに耐える必要があったと思うよ」
 
「辛そう」
「麻酔無しで陰茎を切断すると9割の男は気絶するらしい」
「その気絶しない1割が凄い」
「多分気を失っても、あまりの痛さに意識が戻る」
「なんて恐ろしい」
 
「だけどそれほどの痛みに耐えても女になりたかったんだろうな」
「ああ、その気持ちは分かる」
とレミは言った。
 

12月下旬にバレロの発表会がある。
 
当日、レミが演じるクララは最初はまるで王子様のような、りりしい青色の軍服っぽい衣装(ボトムはもちろんパンツ)を着ている。
 
幕が開き、行進曲に乗せて、多数の子供たちが出てくる。みんなまだチュチュを許されていない小学5年生以下の生徒たちで、ショートパンツやキュロットを穿いている。
 
年末のパーティーが開かれており、レミが演じるクララは前半のヒロインであるセリナ姫(小学6年生の女子が演じている)と踊ったりする(パドドゥ)。
 
そこにネズミの軍隊が乱入してきて子供たは逃げて行くが、クララはセリナ姫を守りながら、猫たちを指揮してこれと戦い、撃退する。最後はセリナ姫のソロで第1幕は閉じられる。
 
第2幕ではネコのクリサベラに案内されてクララは森の中を進んでいく(パノラマ)。多数の動物たちと行き交う。やがて森の奥に置かれたベッドの上にクララは寝せられ、白衣を着けたネコのお医者さんが出て来て、「君は頑張ったから、ご褒美に女の子にしてあげるよ」と言って、手術を始める。手術中は三匹の猫のワルツが演じられる(中学1年女子3人が踊る)。
 
三匹の猫たちで視界が遮られている間にクララを演じるレミは王子様っぽい衣装を脱いでドレスに着替える。医者がナッツを2個と角笛を1本放り投げる(たぶん除去した睾丸とおちんちんを投げ捨てるという意味か?)。更に半球2個と小さなツボを助手役の猫(ナッツ売り)から受けとる(おっぱいと子宮の意味か?)。
 
クララはクリサベラに手を握られてベッドから起きあがり、「キャー!ぼく女の子になっちゃった」と言い、ドレスの衣装を観客に披露する。この着替えを目立たないように1分以内でおこなうのが大変な所である。
 
第2幕のラストは多数の女の子猫たちをバックにクララが可愛く女の子らしい踊りを見せる。第1幕の男らしい踊りと、この第2幕の可愛い踊りの両方を1人で踊るのが、クララ役の大変な所である。
 
第3幕では手術の助手を務めていたナッツ売りの猫に手を引かれてクララはお菓子の国にやってくる。お菓子の国の女王(中学6年女子のマドラちゃんが演じている)から歓迎され、女王と(女の子になった)クララのデュエットが踊られる。
 
(通常バレロでは、男女2人の踊りをパドドゥ(Pas de deux)と言い、同性2人の踊りはデュエット(duet)と呼ばれる。クララが女の子になってしまったので、この踊りはパドドゥではなくデュエットである)
 
2人の優美な踊りが見物である。その後、多数のお菓子たちや飲み物たちの踊りが続き、クララは何度かお菓子たちの踊りに加わる。クライマックスで女王がソロを踊った後で、最後は全員が踊る『花のワルツ』でパーティーはお開きになる。
 
クララは実は第3幕では女王とのデュエット以外では余り目立たない!しかしこの物語ではプリマであるはずの女王は第3幕にしか登場しない。それで第1幕のセリエ姫を女王と同じ人(プリマ)が踊る演出もあるのたが、レミたちのバレロ教室の演目では採用しなかった。
 

「今日の発表会をイリーナ・ヨハネジーンが見ていたんだよ」
とバレロ教室の先生から聞いてレミはびっくりした。J国で最高のプリマと呼ばれている人である。
 
「クララ役やった子、すごくいいねと褒めてた」
「わあ、嬉しい」
「男の子だと聞いたらがっかりしてた」
「えーっと」
 
確かにクララ役は女の子が踊る場合もあるのである。実際問題として小学生男子でバレロの技術が高い子は少ないので、男役なのだけど女の子が踊るというのは、他の男役でも時々あることである。
 
「もし、女の子に性別移行するなら、ぜひ国立バレロ学校に入って欲しいと言ってたけど、あんた女の子になる気はない?」
 
「女の子になるつもりはないですけど、そんなこと言われたら迷っちゃう」
とレミは言った。
 
国立バレロ学校は1学年の定員が20名という狭き門である。入学者は原則として、この学校の教員か、全国の有力バレロ教室の校長が推薦した女子に限られる(男子の生徒はいない)。基本的には小学校を卒業したあと入学して10年間鍛えられるが、小学5-6年生は予備教育と称して、通常の小学校に在籍したまま週2回のレッスンを受けることができる。この学校を卒業すると国立バレロ団の団員になると同時に、自動的に大学卒業の資格も与えられるが、だいたい半数が途中で脱落するといわれる厳しい学校でもある。
 
「迷うくらいなら考えてみて。ちょっと手術しておちんちん取っちゃうだけじゃん」
 
先生、簡単に言ってるよぉと思ったが、そういうわけでレミはこの返事を保留してもらうことにした。
 

12月が終わり、性交換月間も終了する。年末年始の休みを経て、1月10日から学校は再開されるが、レミはまた元通り、男の子の服を着て学校に通学した。しかしレミは男の子の服を着ることに軽い抵抗感を感じた。バレロ教室の件もあり、レミは結構自分の性別について迷うようになった。
 
家の中ならいいよね?などと自分に言い聞かせて、しばしば家の中でスカートを穿いていたが、両親も姉も何も言わなかった。妹のアスカだけは
「お兄ちゃん、最近よくスカート穿いてるね。やはり女の子になるの?」
などと言ったが、レミは微笑むだけで返事をしなかった。
 
1月は、スカートだけでなく、実はかなりの頻度で女の子用の下着も着けていた。12月も1月も2月も、母はレミを病院に連れて行き、抗男性ホルモンの注射を打たせた。レミはもうオナニーをしなくなった(無理にしようと思えばちゃんと立つのでM検は合格していた)。1月以降、母は病院に行く時
 
「スカート穿いて、女の子用のパンティ穿きなよ」
と言い、レミも素直に従った。1月からは母の要請で接種するホルモンが変更されたようだったが、レミは特に尋ねなかった。
 
スカート姿で母と一緒に出歩いている時、何度か警官に会ったが、警官はレミを見ても何も言わなかった。一度は
 
「お嬢ちゃん、お母さんとお出かけ?」
 
などと声を掛けられ、“お嬢ちゃん”なんて言われたのは初めてだったのでドキドキした。スカートを穿いてお出かけしている時は母と一緒に女子トイレにも入った。
 
レミは青い市民登録証なので女子トイレの入口のドアを開けられないのだが、母が自分の市民登録証で入口を開け、一緒に入ったのである。
 
小便器が無く、個室ドアだけが並んでいる女子トイレは、性交換月間の時は学校で使用しているものの、レミは自分は普段でもこちらを使うべきではないかという気がした。
 

3月上旬、病院でホルモンを打ってきた日の夕方、父はスカート姿で夕食の卓についているレミに言った。
 
「レミ、男の娘宣言しよう」
「そだね。しちゃおうかな」
とレミも同意した。
 
レミはこの時点で既に胸も微かに膨らみ始めていたし乳首も大きくなってきていた。
 
それで翌日は学校を休み、両親と一緒に市の性別審査委員会に行った。スカートを穿いて普通に女の子の格好である(女子服装許可証の初めての行使)。
 
「女の坊宣言ですか?」
「いえ、男の娘宣言です」
「君、男の子なの?」
「はい」
「女の子にしか見えないのに!」
と受付の人は驚いていた。
 
学校の成績表、性交換月間の順応評価表と既にもらっている女子服装許可証、性交性別検査のスコアなどを提示する。
 
「成績は平均点が3年生の時、90点に88点。4年生の前期も92点ですか。成績は全然問題無いですね」
「性交性別検査のスコアも充分ですね」
と言われる。
 
性別指向検査を受けさせられたが、レミは男性度70点、女性度85点で、女性度の方が高いものの、男として生きるのにも不都合はないと言われる。こういう場合は本人の気持ち次第である。
 
「あなたは女の子になりたいですか?」
「女の子になりたいです」
とレミは答えた。
 
学校に連絡が行き、担任とクラスメイトの男女の委員長が来てくれた。クラスメイトの2人は
 
「レミちゃん、女の子らしい性格だから性別移行すればいいのにと思っていた」
と証言してくれた。担任の先生も
「最初この子を見た時、うっかり女の子と思って、君、パンツ穿くのは校則違反だよ。ちゃんとスカート穿いてねと言ったんですよ」
などと言った。
 
最終的に11人の審査員の投票が行われる。結果は全員一致で、レミの女の子への性別移行は認可された。この時点で個人名を変更することもできるが、レミは名前は変えませんと言った。レミという名前は男でも女でも通る名前である。
 
J国では子供が性別を変えたいと言い出した場合に備えて、男女どちらでも通用する名前を子供にはつけることが多い。
 
それでレミは赤い「男の娘認定証」をもらい、青い男子としての市民登録証は没収された。(ドミナは審査委員会の審査を受けないまま、取り敢えず届けたけ出したので「男の娘宣言受付証」を発行してもらって使用していたが、レミは宣言と同時に審査委員会の審査を受けたので受付証ではなく、最初から認定証をもらった)
 
これ以降、レミはこの男の娘認定証があると、女子トイレ・女子更衣室・女性専用車両・女性専用衣料品店・女性専用飲食店・女性専用休憩室などに入ることができるが、男子としての市民登録証が無いので、男子トイレ・男子更衣室などには入ることができなくなる。
 

レミは医師の手で、簡易女性化キットを取り付けられた。睾丸は体内に押し込められて補助具で落ちて来ないようにされる。これで睾丸は体温の関係で活動できなくなるので、レミの男性化は停止する。
 
陰茎は後ろに曲げて固定され、陰嚢の皮膚を左右から寄せて覆われ、この時点で陰茎は見えなくなるし、左右の陰嚢の合わせ目(接着剤で固定)が既にまるで女の子の割れ目ちゃんのようである。更に人工皮膚でできた大陰唇・小陰唇を接着剤で貼り付けられた。おしっこは陰茎の先端の尿道内に差しこまれた受尿口から、この人工陰唇の中にある尿道口までパイプで導かれる。尿道内で尿をキャッチするので、尿が漏れることもないし、陰茎に恥垢がたまりにくいとレミは説明を受けた。
 
しかし手術などはされていないものの、女の子にしか見えなくなった自分のお股を見て、レミはきゃーと思う。これは子供用なので毛が生えていないが、中学生以上の場合は、普通に女性的な陰毛の生えたキットを使用するらしい。
 
特殊な接着剤で固定されているので、これは自分では取り外せず、性別審査委員会の認定医にしか取り外すことはできない。これでレミのおちんちんはキットの中に隠され、触ることもできなくなった。レミは小学生なので、これを取り付けている場合、温泉などの共同浴場では、女湯に入らなければならない(男の娘認定証に内蔵されているチップに、簡易女性化キット取付済のフラグが立っている場合、小学生の間はそれで女湯の入口を通ることができる)。
 
(中学生の場合は年齢相応のバストがあることが認定されていないと女湯には入れない)
 

翌日、レミは学校にキュロットを穿いて出かけて行った。委員長以外はレミの男の娘宣言を知らなかったので驚かれるが、そのことを知るとみんな
 
「レミちゃん、女の子になった方がいいかもと思ってたよ」
と言われた。
 
それで普通にクラスの女子たちと一緒に女子トイレに入り、体育の時間は女子更衣室で、女子用体操服に着替えた。
 
男の娘が穿くキュロットは一見男の子でも穿けるショートパンツに似ているが、裙がショートパンツより広く広がるのと、前の穴が無いのが特徴である。男の娘はちんちんを使っておしっこをすることができない。
 

男の娘宣言をした子は毎週1回、メンテのために性別審査委員会の指定病院で、キットをいったん取り外してチェックをされる。この時、看護婦さんの手で陰茎が刺激されて射精させられる。レミのペニスはもう立たなかったが、看護婦さんは女の子がするように指で押さえて回転運動を掛けて射精させ、精液は採取できた。顕微鏡でみると精子は少ないもののあるということだった。この精液は冷凍保存される。自分で自慰するのではなく、看護婦さんがするのは、男の娘になった以上、本人は自分のちんちんに触ることが禁止されるからである。射精後のちんちんはきれいに洗浄され、垢なども落とされる。
 
この冷凍精液が8本溜まったら去勢されることになっている。レミは3月初旬に男の娘宣言をしたので、4月末には8本目の冷凍精液が作られ、精液の採取が終わった所で即睾丸を除去された。
 
本人に睾丸を取ってもいいかとも聞かず、射精してまだ放心状態の内に
「麻酔しまーす」
「切開します」
「睾丸を除去しました」
「縫合します」
と言われて、ほんの5分もしないうちにレミの睾丸は除去されてしまった。そしてすぐに女性ホルモンの注射を打たれた。なんかその注入された量が、いつも行きつけの病院で打ってもらっていたのの3倍くらいある気がした。
 
「今すぐ、ちんちんを切断することも可能ですが」
「規定通りで」
とレミは答えた。
 

それでレミは再度簡易女性化キットを取り付けられ、毎日飲むようにと言われて女性ホルモンの錠剤を3ヶ月分(90個)もらった。次は3ヶ月後に来院すればよいらしい。この女性ホルモンを飲むかどうかは本人の自由だが、ちゃんと飲んで体内の性ホルモン濃度を年齢相応の女子の濃度の正常値の間にキープしておかないと次のステップに進むことができない。
 
なお、今回取り付けられた簡易女性化キットはこれまでのものと違って、“クリトリス付き”である。キットのクリトリスを刺激すると、自分の陰茎先端の敏感な部分が刺激され、クライマックスに達するとちゃんと逝った感覚になる。これまでのキットにはこのようなものが無かったので“したい”気分になっても我慢するしかなく、この2ヶ月間はけっこう辛かった。
 
なおこの睾丸除去者がつける簡易女性化キットは長期間つけていてもよいように毎日一回陰茎を自動洗浄する機能がついているので清潔が保たれる。睾丸のある人用のにそれがついていなかったのは、陰茎の洗浄が気持ち良すぎて、オナニーするのに近い状態になり、射精してしまうと精液の採取ができないからである。
 
この“後期型”女性化キットの場合、クリトリスを刺激しても陰茎を直接洗浄されて気持ち良くなっても、睾丸が無いので射精は起きない。ただしオナニーをした場合、逝った感覚だけはある(正確には最初の数回だけは液が出た。たぶん精嚢などに溜まっていた分だろう)。
 

レミは睾丸の除去が行われるのと同時に法的な性別は中性に変更された。男の娘認定証内部のチップに記載された性別も男から中性に書き換えられた。
 
またこれによって、レミは中学を卒業しても兵役には行かなくてよいことになった。普通の女子は中学を卒業したら大学に行くが、レミの場合国立バレロ学校で大学の課程まで修了することを目指す(後述)。途中で退学処分にならなければであるが。
 
なお、中性になると、通学服はキュロットでもスカートでもよくなったので、レミはスカートに切り替えた。
 
「あ、スカート穿いてる。男の子やめたの?」
とクラスメイトから尋ねられる。
 
「うん。睾丸取ってもらった。というより、有無を言わさず取られた」
とレミがいうと、先に男の娘宣言していたドミナが
「あれ非道いよね。睾丸取っていいですか?とせめて尋ねてから取ってほしい」
「うん。何にも訊かれなかったね」
とレミも笑って答えた。
 

レミが男の娘宣言をして、赤い《男の娘認定証》をもらったので、イリーナ先生の推薦で、レミは4月から国立バレロ学校の、小学生向けレッスンに出るようになった。練習場は女子しか入ることができないが、レミはちゃんと男の娘認定証で入口を通過することができる。レッスンを受けているのは5年生が5人と6年生が10人だが、みんな上手い人ばかりで、レミは物凄く刺激になった。
 
これまでのバレロ教室にも通っているので、レミは週に4回、バレロのレッスンを受けることになった。
 

さて。この後であるが、レミは現在男の娘認定証を持っているので、社会生活のほとんどを女性同然に過ごすことができるものの、法的にはまだ中性である。
 
中性の人は男性とも女性とも結婚できる。元々この国では性別の如何に寄らず、18歳以上で本人たちが同意すれば結婚できるが、男女でない場合、どちらが夫でとちらが妻かというのを届けることになっている(変更するには一度離婚して再度婚姻する必要がある)。この場合、元男性の中性の人は“夫”にはなれないと定められている(元女性の中性は“妻”にはなれない)。そのため、レミは男性と結婚するにしても、女性と結婚するにしても、妻にならなければならない。結果的に相手はたとえ女性であっても“夫”になる。
 
(40歳以上の中性にはこの規定は適用されないので、40歳以上で去勢している元男性は女性と再婚した場合、ちゃんと夫になれる)
 
中性の人は結婚した場合、相手と反対の性に性別を変更可能だが、元の性には戻れない。レミは元男だったので、男性と結婚すると性別を女性に変更できるが、女性と結婚しても男性になることはできない。
 
むろん法的な性別は中性のまま結婚を維持可能である。また養子を取ることもできる。レミは精子を保存しているので、女性と結婚した場合、相手にその精子で子供を産んでもらうことができるが、相手は法的には夫なので、夫が出産することになる。こういうカップルは割といる。レミが女性と結婚した場合、女性には精子が無いので、レミが“夫”の子供を産むことはできない。男性と結婚した場合はその人の子供を産むことになるだろう。
 
なお結婚しているカップルの片方が性別を変更した場合は、特に本人たちが申し出ない限り、夫・妻の地位はそのままである。それで、夫が去勢して中性になったものの、夫のままというカップルも多い。40歳に到達した男性は去勢が推奨されるので、そういうカップルは多い。ここで去勢しても性別変更届けを出さなければそもそも男のままである。性別変更届けを出さなくても実際に去勢していれば睾丸税は払わなくてよい。ただし去勢している男性が離婚した場合は強制的に性別は中性に変更される。
 
また夫が性転換して女性になってしまった場合は、レスビアンカップルということになるが、性転換した夫は法的には女性でもそのまま“夫”の地位を保つことになる。実はそういう“後発的レスビアンカップル”もわりと多い。なお離婚してしまうと、次に誰かと再婚する場合は“妻”にしかなれない。
 
レミのクラスメイト中にはお父さんが性転換して女の人になっちゃったという子は数人居る。中には両親が双方男だったのが、お父さんもお母さんも性転換して両方とも女になっちゃったという凄い所もある(さすがに珍しいと思う)。
 

レミは4月末に去勢されたが、1年経過した来年(小学6年生)の4月以降になると、性転換手術を受けて女性の身体になることができる。この場合、IPS細胞から育てた卵巣・子宮・膣などの女性器一式を体内に埋め込むことになる。そのIPS細胞を作るための骨髄液採取は、去勢手術に続けて行われたのだが、この採取が睾丸の除去より遙かに痛かった。IPS細胞を女性器に育てるのに1年かかるのもあって、性転換手術は去勢より1年経った後ということになっている。
 
なお、性転換してしまえば、自分の卵巣からちゃんと女性ホルモンが出るので、女性ホルモンの錠剤を飲む必要はなくなる。ホルモン剤の使用はあくまで暫定的なものである(但し男の娘になったものの性転換して完全な女性にはならない人の場合、一生女性ホルモンを飲み続ける必要がある)
 
(男性から女性になった人の妊娠確率は天然女性の6-7割と言われる。これは恐らくY卵子は受精しても育たないためと言われるが詳しいメカニズムは不明である。また女性から男性になった人の子供は全員女性である。これは精子が全てX精子なので仕方ない。女性から男性になった人は結果的に女子出生率を上げることになるので貴重である)
 
むろん性転換手術を受けたら、法的に性別は女性に変更され、男の娘認定証の代わりに、女性の市民登録証を発行してもらえる。レミは両親とも話したが、来年の7月に性転換手術を受けたいと希望した。性転換手術は大手術なので手術のあと1ヶ月程度は療養する必要がある。それを夏休みにぶつけたいのである。7月に手術すると、8月末まで、ゆっくりと休むことができる。
 
それで実際7月に手術する人が多いので、レミはもう手術の予約を入れてしまった。それで1年ちょっとの後にはレミは完全な女の子になることがほぼ確定した。
 

性別変更過程のまとめ
・男の娘宣言で《男娘》、女の坊宣言で《女坊》(法的性別はまだ変わらない)
・男性が睾丸を除去するか、女性が卵巣を除去すれば中性。
・陰茎を切断したが睾丸がある場合は仮男性。
・元男性の中性は性転換手術で女性になれる
・元女性の中性は陰茎を作ることで男性になれる
・男性が従軍看護婦を2年すると仮女性資格を得るが、去勢しないと仮女性にはなれない。
・仮女性が造膣すると女性になれる(陰茎があってもいいが通常切断する)
・女の坊宣言をして卵巣を除去しないまま陰茎を作ると仮男性。
 
仮女性は従軍看護婦のご褒美の他、ごく少数の例外で与えられる特殊な地位。
仮男性には睾丸を残して陰茎だけ切断した元男性と、卵巣を残したまま陰茎を作った元女性の2種類がある。
女子服装許可証・女装届・性別保留届などでも18歳以下の女装外出や女子トイレ使用は認められるが性別が変更される訳ではない。
 

「弟が1人居なくなって妹ができるのか」
と姉のメルは感慨深げに言った。
 
「息子が居なくなって寂しいけど、娘が増えるからいいよ」
と父は言った。
 
「ごめんねー。自分ではそんなに女の子指向があったつもりなかったけど、やはり私、女の子の方が向いてたみたい」
 
「どっちでも孫の顔を見せてくれたらいいよ」
「私をお嫁さんにしてくれる男の子いるかなあ」
「レミは充分、女の子として可愛い。きっと好きになってくれる男の子はいるよ」
と母が言った。
 

「レミお姉ちゃん、いいなあ。ところで私はいつ女の子になれるの?」
と妹のアスカは言った。
 
「アスカはまだ2年生だからね。来年、3年生になったら男の娘宣言しようよ」
と母。
 
「楽しみ〜」
と長い髪でスカートを穿いているアスカは言った。
 
 
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【男の娘宣言】(2)