【Shinkon】(1)

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「命(めい)って、女の子と見ても美人の部類の気がするなと思ってたけど、お化粧すると、ますます美人になるね。スカート穿いて、その顔でコンビニとかにでも行ってくる?」
「さすがに勘弁して」と言った。
 

それは高校3年の年末近くのことであった。僕が学校から帰ると、神社の氏子代表の鈴木さんが来ていて「ああ、帰ったね。今年、というか来年になるけど、祈年祭の踊りを、命(めい)君にやってもらえんかね?」と言われた。
 
うちの田舎は一般の交通機関に見放されたような地区で、電車もバスもタクシーも無い。自動車が無ければ生活できない地域である。高校に行くのにも朝と夕方に1回ずつ運行されるスクールバスが頼りなので、クラブ活動もできない。
 
村は村役場のある中心部を除いては、2〜3km置きに点在するいくつかの集落に別れているが、僕が育った集落は、家が100軒ほどある、比較的大きな集落で(大半の集落は20〜30軒である)、昔は郵便局の分局もあったが、20年ほど前に合理化で廃止されてしまった。集落はどこも斜面に家が点在しているのだが、うちの集落ではそのいちばん奥の所に古い神社があり、近隣のいくつかの集落で、共同で崇敬されていた。
 
この集落では神主さんが毎月1度各家を訪れて神棚の前で祝詞を奏上するし、家々の当番で神社の清掃などもしていた。女の子のいる家では、小学1年生の頃から巫女舞の練習をして奉納していた。本来は巫女舞は生理が始まる前の女の子により舞われるものなのだが、人数が少なく、そんなことも言ってられないので、幼なじみで同い年の理彩(りさ)なども、高校1年の時まで巫女舞をしていた。てっきり高卒までやるのかと思ったら去年いなかったので「あれ?辞めたんだ?」
と聞いたら「うん。免除してもらった」と言っていた。
 
「祈年祭の踊りって、巫女舞だけじゃないんですか?」
「ああ。この踊り知らなかったんだ?」と鈴木さん。
「通常の祭りの前夜にやる秘祭なんだよ。やるのは原則として18歳の人で、複数いる場合、実際に誰にやってもらうかは占いで決める。でも、これを踊る人は自分が選ばれたことも人に言ってはいけないし、秘祭の様子も人に言ってはいけないことになってる」
 
「それじゃ、全然情報が漏れない訳ですね。それに18歳の子って、春になったらみんな都会に行ってしまうから、村の中にそれを知ってる人が残らない」
「確かにそうなんだよね。だから村がどんどん衰えていく」
「村に仕事先も無いですし」
「林業の仕事ならあるんだけどね。誰もやりたがらない」
 
「でもまあ、占いで選ばれたんなら、やっていいですよ」
「助かるよ。いや、今年は君ひとりだったんで、占いはしてないのだけどね」
と鈴木さんが言った。
 
その時、僕はあれ?と思った。18歳は僕と理彩の2人いる。でも男から選ぶのかなと、この時は思った。
 

2月の祈年祭に踊るのなら、今から練習しておくのだろうと思ったのだが、練習は不要ということであった。教えてもらったのは、祈年祭の前夜0時ジャストから始まる祭りということだけで、どのくらい時間が掛かるのかとかも、その時になれば分かると言われて、教えてもらえなかった。
 
そういう訳で、僕はこの時期、受検勉強に専念することができた。この集落で18歳は僕と理彩の2人なわけだが、2人とも関西の国立大学を受験する予定である。塾とかがある訳でもないので、僕たちは毎日学校から帰ると、どちらかの家で一緒に勉強していた。2人とも分からない所は、電話を掛けて夏休みの予備校の夏期講習で知り合った都会の友人などに聞いたりもしていた。
 
僕たちは小さい頃から近くに居た同い年の男女ということで、お互いにけっこう恋愛的な要素を意識したことはあるし、中学生の頃にはキスしたこともある。でも、その後よく話し合って、自分達は恋人ではないかもね、ということで納得している。だから、基本的に「お友達」という線を越さないようにしていた。
 
ただ、僕たちは基本的に仲良しだったから、双方の親は僕たちが大学を出たあたりで結婚して、またこの村に戻ってきてくれないかな、ということを若干期待している雰囲気もあった。ふたりとも村に戻って生活する気は、この時期は、毛頭無かったのではあるが。
 

年明け、僕たちは近隣の地方都市まで行って、センター試験を受けてきた。そこまで車で山を幾つも越えて1時間半掛かる。僕たちは学校が用意してくれたマイクロバスに乗り、早朝から出かけていき、1泊2日の日程で受検してきた。
 
田舎の高校で大学進学率も高くないし、その中で国立を受ける子も少ないので3年生約100人の内、センター試験を受けたのは18名(男子12名・女子6名)であった。僕たちは受験地のホテルに男子は4人1組・女子は3人1組で詰め込まれて宿泊した。泊まる部屋は男女別に単純名前順で区切られたのだが、就寝時刻前は、けっこう男女入り乱れて、気の合う子同士で同じ部屋に入って、あれこれ話ながら勉強していた。
 
僕も、昔からの友人の香川君と、理彩、そして理彩の古くからの友人である春代の4人で、お互い教え合いながら勉強していた。学校の通常の中間期末のテストの成績ではいつも香川君がトップで、次が春代である。僕と理彩はいつも10番目くらいにいたのだが、僕も理彩も模試ではひじょうに高い偏差値をマークしていて、僕たちふたりが十大国立(旧帝大7校+一橋・東京工大・神戸)の圏内、香川君と春代はそのボーダーライン付近であった。
 
それで香川からは「お前たち、ふだんのテストで手抜きしてない?」と言われるのだが、別にそういう訳ではない。「多分、学習内容を確認するテストでは怪しいけど、模試の質問のされ方なら、自分が持ってる知識から回答できるんだよ。あと少し模試だけで使えるテクもあるしね」と僕は答えていた。
 
さて、センター試験は1日目が社会・国語・英語、2日目が理科・数学であった。
 
「1日目は朝早く叩き起こされて頭が回ってなかったら、思考力より記憶や感覚を使う科目で助かったよ」などと春代が言う。
「確かにあの頭の状態でいきなり数学だと、問題が解けないよね」と僕。「今夜はぐっすり寝ないと」と理彩。
「こうやって集団で来てると、寝過ごす心配が無いのだけはいいよね」と香川君。
 
「みんな志望校は確定?」と春代。
「1日目の感触が良かったし、明日失敗しなかったら予定通り、阪大かな」と僕。「私も明日失敗しない前提で阪大」と理彩。
「ふたりとも凄いよね。でも阪大行くつもりなら、もっと都会の高校に行ってれば良かったのに」と春代。
「親を説得できなかったからね。高校進学の時は」と僕。
「同じく」と理彩。
「でも同じことばを春代と香川にも返したいけど」
 
「いや、僕は偏差値一覧を見てて、自分の成績なら女子大には行けるなと思ってたから女子大に行くつもりでいたら、男子は女子大に入れないと言われてえー?そうなのかってんで、それから志望校考え始めたから」と香川君。
 
「男子を入れてくれる女子大ってのはレアだろうね」
「昔は武蔵野女子大学に男子学生いたらしいよ。今は共学になって武蔵野大学だけど」
「高校でもよければ、今でも桐朋女子高校には男子生徒がいるね」
 
「田舎だから、みんなのんびりしてるよね。進路指導の先生も就職の世話のことしか頭にないから、福岡大学を国立で九州大学を私立と思い込んでいたくらいだもん。という私も3年生になってから志望校を考え始めたんだけど」と春代。
 
「僕は明日の成績次第だな。うまく行ったら神戸大だけど、不調だった岡山大にするかも」と香川君。
「私は親は女子大に行けって言ってるんだけどね。今日は何とかなった感じだし、明日の成績次第では思い切って神戸大受けようかと思ってるのよね」と春代。
 
「みんなの入試がうまく行くようにおまじないの言葉教えてあげる」と理彩が唐突に言い出した。
「おまじない?」
「『ソーミーショーリョー』っていうの。この4人だけの秘密」と理彩は言う。「なんか秘密のおまじないって言われると効きそうな感じ」と春代。
「ソーミーショーリョーか・・・・」と香川君。
「『ソーミーショーリョー』『ソーミーショーリョー』。よし試験の前に唱えよう」と春代。
 
翌日、化学・生物・数IA・数IIBと受けたが、直前に理彩から習ったおまじないの言葉を唱えると、何だか勘が冴える感じで、とても調子よく解答することができた。この呪文すごっく効く!と思った。
 
帰りのバスを待つ試験場の前で、何となく昨日一緒に勉強していた4人で集まった。
 
「昨夜、理彩が教えてくれたおまじないのおかげで、今日は調子よかったよ」
と僕が言うと、香川君が
「おまじない?何だっけそれ?」と言う。
「え、昨日聞いたじゃん。あれ」
と僕は周囲にも人が居るこの場では、あの言葉は唱えてはいけない気がして、具体的な呪文は口に出さずに言った。
 
「何だろう?僕は知らないけど」と香川君。
「でも、今日は何だか凄く調子良かったよ」
 
「おまじない?何かいいおまじないあるの?」と春代。
「でも私も今日は不思議と勘が冴えてたなあ」
 
「え?ふたりとも覚えてないの?だってね、理彩」
と僕は言ったのだが、理彩が首を振っている。どうもこの話はここではしてはいけないようだということに気付き、僕は話題を変えて、試験の出来の話をしはじめた。
 
結局、僕らは自己採点の結果4人ともセンター試験の出来がこれまでの模試で出していた成績よりワンランク上という感じであったので、僕と理彩は阪大、香川君と春代も神戸大を受けることにした。結局うちの学校で国立上位校を(本気で)受けることにしたのは、この4人だけであった。
 

2月17-18日の金土が、神社の祈年祭であった。春の始まりに、今年の豊作を祈って、行われる行事で、この日は都会に行っている若い人たちも帰って来て御神輿を担いだりする。3つの御輿が勇壮に走り回る様は、近年少なくなってきた激しい祭りだということで、毎年テレビ局も取材に来る。ただこの祭りは本当に激しいのに、少なくとも戦後になってからひとりの死者も出していない。「神様の加護があるから死なないんだ」などと一度大怪我して半年入院したことのある、理彩のおじさんなども豪快に語っていた。そのおじさんも怪我が治ったらすぐ翌年からまた御輿担ぎに参加していた。
 
また御輿祭りに先立って初日の朝8時に行われる巫女舞もその美しさが知る人ぞ知るものである。この巫女舞は撮影禁止なので、ここに早朝から見物に来た人だけが目にすることができる。一度こっそり撮影しようとした人は、カメラ自体がCCD破損、内部のデータ完全消失、更には持っていたパソコンも完全沈黙でディスクも真っ白、更には自宅のハードディスク,CD類まで完全破壊されていたらしい。本人は数十年来撮り集めた写真を全て失って呆然としていたそうだが「命(いのち)があっただけでも儲けものだよ」とうちの父などは怒るように言っていた。
 
ともかくも、この春先の祈年祭と秋の燈籠祭は、村が盆正月以上に賑わう日である。
 
僕がすることになっていた秘祭は16日の深夜に行われた。言われたのはひとつだけで「夕方、お風呂に入って丁寧に身体を洗い、ヒゲや体毛を全部剃ってほしい」ということだった。
 
「体毛って、髪の毛もですか?」
「いや、髪はそのまま」
「あそこの毛もですか?」
「あそこはそのままでいいけど、お腹付近までつながっていたら、お腹の付近は剃って。パンツで隠れている部分は剃らなくていい」
「はあ」
 
そういう訳で、僕はその日の夕方、お風呂に入り、カミソリでまずヒゲを剃り、そのあと足の毛、腕の毛、お腹の毛、そして脇毛を剃った。毛が無くなってすべすべした手足を見ると、なんか不思議な気分だ。こんな状態になったのは、久しぶりだ(夏休みに強引に理彩に剃られた時以来だ)。僕はこういうのなんか綺麗でいいよね、と思ってしまった。
 
23時前、衣装には現地で着替えるということだったので、僕はふつうのジーンズ・セーター、それにダウンのハーフコートを着て、神社に向かった。来ていたのは、神職さんの他は、氏子代表の鈴木さん、それに巫女舞で太鼓を叩いている鳴川さん、篠笛を吹いている臼井さん、の3人だけであった。鈴木さんも僕が来るとすぐに「では」と言って帰ってしまった。いつもいる神職の奥さんも見かけない。聞くと、秘祭は関係者以外完全非公開なので、今夜はお友達の家に行っているらしい。僕は今更ながら、この祭りの秘密主義に驚いた。
 
この衣装に着替えてと言われる。下着まで全部脱いだ上で、真っ白い絹のパンツのようなものを渡される。トランクスみたいな形であるが、前の開きなどは無い。その後、やはり白い袴を穿き、巫女さんが着る服に似た貫頭衣を着た。かなり薄着だが社務所の中はストーブが焚いてあるので、寒くは無い。真っ白い靴下、それに真っ白いウォーキングシューズを渡されたので履いた。23:50頃、神社の奥の森に案内された。
 
「ここ、禁足地だったのでは?」
「この秘祭をする時だけ入っていいの。潔斎が必要だけどね」
 
小川が流れていて、そのほとりにかがり火が3つ焚かれている。ここで踊るということのようであるが、この時点で僕はまだ踊り方を教えてもらっていなかった。それを聞くと「命(めい)君の心のままに踊って」と言われた。うーん。適当でいいのか? ExileのRising Sunでも踊っちゃろか?
 
神職さんが持っていた時計が0時を告げるのと同時に、笛と太鼓の音が始まる。そして神職さんが「おーーーー」という低音で長く叫んだ。音楽はいつも3なのに無駄に絶対音感のある僕はCの音だと思った。僕は何となく神妙な気持ちになって、小さい頃よく踊っていた盆踊りみたいな身振りで踊り始めた。僕は何となく3つのかがり火を取り囲むように歩きながら踊った。
 
笛や太鼓の音が心地良い。ああ、日本の音楽というのもいいものだな、と僕は少し思った。5分も踊っていた時、僕は何だか、誰かが一緒に踊っているような気がした。それを感じた時、神職さんの「おーーーー」という声が止み、神職さんは笙を持って吹き始めた。なんか幻想的だ。というか、自分が今夢を見ているのではないかという気がした。
 
笛・太鼓・笙の演奏が続く。僕はそこにいる「誰か」と一緒に、かがり火の回りを踊って歩き続けた。その「誰か」というのは目に見えるものではないのだが、何だか優しさが伝わってくる感じであった。僕はその「誰か」から踊り方を教わるような感じがして、自然と一定の踊り方に落ち着く。
 
そういえば、この踊りっていつやめれぱいいんだろう? それもそういえば聞いていなかったが、止める時は何か指示か合図があるだろう。もう30分ほど踊っている気がするが。まぁ、体力には自信があるから2〜3時間くらいは平気だと思うけど。
 
それにこれ、何だか楽しい!
 

僕は踊るにつれ、どんどん楽しい気分になっていった。1時間も踊った頃、一緒に踊っている「誰か」から何か言葉を掛けられた。何だろう?最初よく分からなかったが、やがてそれが『ソーミーショーリョー』と聞こえた。あれ?これって理彩が言ってた呪文じゃん。
 
その時、僕は気付いてしまった。そうだ。きっと理彩は去年、これを踊ったんだ! 神社の人は「原則18歳の子」と言っていたが、僕たちの上の学年の子はうちの集落には居なかった。だから、年齢がひとつ違うけど、昨年きっと理彩が選ばれたんだ。だから今年は、僕と理彩のどちらかを選ぶ占いはせずに、残った僕が選ばれたのだろう。
 
ってことは、自分は占いの外れか! でも仕方ないよな。理彩の方が頭いいし。僕と理彩はふたりとも阪大を受けるが、僕は理学部、彼女は医学部である。ふたりで勉強していても、僕が理彩に教えてもらうことの方が多い。英語と国語は僕の方が得意だけどね。でも今年、この踊りをできて、僕はやっと理彩と並ぶことができるんだ。そう思うと、それも面白い気がした。
 
ふと考えると、この呪文を僕は覚えていて、香川君と春代は忘れていたのは僕がこの踊りを踊ることになっていたからなのかも知れないという気もした。きっと、本来、余所の人には伝えられない言葉なのだろう。
 
踊りは既に2時間ほど続いている気がした。少し手足に疲労を感じるが気分が昂揚しているので、そんなに辛くもない。むしろ、この2時間ほど楽器を演奏し続けている3人に敬意を表したい気分であった。
 
しかしこうやって踊っていると、感覚がどんどん研ぎ澄まされていく感じだ。カコンという小さな音が聞こえたが、それは守山さんちの若い奥さんが台所で、しゃもじを落とした音だと僕は確信した。守山さんちまで200mくらい離れているから、そもそもこんな音は普通は聞こえない筈だし、聞こえたとしても何の音かなんて分かるはずがないのに。
 
吉川さんちではガサゴソという音がする。吉川さんちに帰省してきている息子とそのガールフレンドが夜の営みをしている音だと確信した。こんなの普通分かる訳無い。こんなの分かっちゃったら、うかつにHなんて出来ない。
 
などと思いながら、ああ、自分もHしてみたいなと思ったら、一緒に踊っている「誰か」がクスクスって笑ったような気がした。
 
理彩と恋人になってしまっていたら、今頃はけっこうHしていたのかも知れないという気もする。でもこの狭い集落の中でそんなことしていたら、すぐ大人たちにバレてしまうし、下手すると無理矢理引き裂かれていたかも知れない。それを考えると、お友達関係を維持している今の状態の方がいいのだろう。ふたりとも大阪に出たら、あらためて恋人にならない?と提案してみようかな、という気もした。一緒に踊っている「誰か」が頷くのを感じた。
 

やがて、うっすらと空が明るくなりはじめた。天文薄明だ! 嘘!そうしたらもう5時くらい? そう思った時、一緒に踊っていた「誰か」が「さすがに疲れたね」と言った気がした。そして更に「じゃ、今日は帰るけど、また会おう」
と言ったような気がした。
 
気配が消えた。
 
僕は踊りをやめた。
 
楽器の演奏も終わった。
 
みんなが、その気配が消えたことに気付いたのだろう。
 
僕は明るくなり始めた空をじっと見つめていた。
 

その一週間後が、僕たちは大学の前期試験であった。僕と理彩は受検の前日、ふたりでバスと電車を乗り継ぎ、大阪に出た。男の僕はひとりでいいとして、理彩にはてっきりお母さんか誰かが付いてくるのかと思ったのだが、ひとりであった。僕たちは同じホテルの隣同士の部屋に泊まった。寝る時はもちろん別々だが、僕たちは御飯なども一緒に食べたし、僕の部屋に理彩が入ってきてふたりでテーブルに並んで座り一緒に勉強した。
 
「理彩、てっきりお母さんが付いてくるのかと思った」
「私も18だし、ひとりで行けるよといって断った」
「信頼してるんだね」
「そうでもないな。これ渡されたし」
と言って、理彩はスポーツバッグから、何か薄い箱を取り出した。
「何?それ」
「私も初めて見たよ」
 
僕はその箱を受け取ると、ひっくり返して裏を見た。何だ?これ・・・・と思って、しばらく見ていた時、突然、その正体に気付いて僕は真っ赤になった。
 
「あ、赤くなってる。純情なんだ」と理彩。
「僕もこれ初めて見た!」
「使う?」
「使うってその・・・・」
「今夜、このコンちゃん付けて、私とHする?」
「いや、そんなこと、受検前にやってたら落ちるよ」
「私も同感。でも『受検前』にってことは、受検終わった後は?」
 
僕はドキっとした。交通の便が悪いので、僕らは前泊・後泊である。受検が終わった後、1泊してから帰るのである。終わった後・・・・理彩とセックスする??
 
「でも、僕、まだ理彩に告白してない」
「そうだねー。私もセックスするなら、その前にちゃんと告白はして欲しい」
「その話は・・・・受検終わった後にしない?」
「うん、そうしよう」
 
そんなことを言って、僕たちはまた勉強に戻った。
 

翌朝。(僕たちはもちろん、ちゃんと各々の部屋で寝た)一緒にホテルのバイキングで朝御飯を食べ、試験会場に向かう。その時僕は理彩に
 
「ソーミーショーリョー」と言った。
理彩もニコリと笑い「ソーミーショーリョー」と言った。
 
僕たちは別の会場なので、途中の駅で別れる。僕たちは手を振って別れた。
 
今日の試験の科目はふたりとも数学・英語・理科である。僕は試験前に例の呪文を唱えると、またセンター試験の時と同様、物凄く頭が冴える感じで、とても調子良く解答することができた。数学はほぼパーフェクトに書けたし、英語も96点くらいは取れた感じだった。理科もかなり良い手応えだった。
 

試験が終わったのは18時である。僕たちは梅田で待ち合わせて、一緒にカラオケ屋さんに行った。3時間の予約をしていたので、その予約を確認してもらって中に入る。
 
実は僕の試験は今日だけで終わりである。しかし理彩は明日面接がある。ここで一緒に御飯を食べながら、明日の理彩の面接の練習に付き合おうということにしていた。
 
面接の想定問答集を見ながら僕が試験官役になって理彩に質問する。理彩がそれに答えていく。ちゃんと声に出して練習するのが大事だ。そのためにカラオケ屋さんに来た。一緒に食事も出来るから便利である。
 
「ちょっと待って。そんな質問、想定問答集にあった?」と理彩。
「何も想定問答集通りに進行するとは限らないよ」と僕。
「でも、そこまで質問される?」
「面接なんて、けっこうその場のノリだからね。空気読めない子は落とされる」
「うんうん。それは先生からも言われたね」
 
「ところで祈年祭の前夜祭、昨年は理彩が踊ったんだね?」と僕が訊くと「今年は命(めい)だったんでしょ?」と理彩は聞き返してきた。
 
「祭りのことは話してはいけないって言われたけど、踊ったもの同士ならいいよね?」
「あの言葉は、うちの集落の子だけに通じるみたい。他の子に教えても、その子がその時に口にすれば効果を発揮するけど、翌日にはもう忘れている」
「不思議なこともあるもんだね」
 
「真祭(しんさい)は少なくとも600年くらいは毎年やってるんじゃないかって話だった」
「しんさい?」
「真の祭り。あれは前夜祭ではなく、あれこそが祭りの本体。みんな集まって御神輿かついで騒ぐのは、あくまで一般向けの祭りで、真祭こそが重要らしい。あれで毎年、神様を呼び込むから、あれが成功すればその年豊作になる」
 
「そんな話、聞かなかった」
「そう?神職さんが詳しく教えてくれたよ」
「あの人、女の子と男で扱いが違うな」
 
「まあ、そもそもあそこで踊るのは女の子の役割らしいね。神と結婚するんだよ」
「なるほど! そういえば巫女さんみたいな服だと思った」
「下着も女物の腰巻き付けなかった?」
「あ、そうか!あれ腰巻きだったのか!」
 
「純白の婚礼衣装だよ。あの踊りを長時間踊っていられたほど、豊作になるんだって。私は1時間くらい踊ったけど、充分成功だって言われた。実際去年は結構な豊作だったよね」
「僕は5時間踊った」
「凄い! じゃ、今年は大豊作だよ」
「さすがに終わった時は、僕も、演奏していた人たちも、疲れて放心状態だったけどね。でも笛と太鼓の人はそのすぐ後に巫女舞も控えてるから大変」
 
「そこまで行くと凄いな。過去に5分で終わっちゃって、大不作になった年もあるらしいよ」
「わあ、そんな年の踊り手はなんか村に居づらいね」
「大丈夫。みんな、これ踊った人はすぐにこの村出て行っちゃうから。私たちも4月からは大阪だもん」
「明日の面接しっかりやればね」
「試験の成績が充分手応えあるから、よほどひどいことしない限り合格できると思うけどなあ」
「じゃ、よほどひどいことしないように練習練習」
「OK」
 

翌日は理彩は面接に行ったが、僕が受ける理学部は面接が無いので、図書館に行くことにした。4月からは大阪の住人になるにしても、ふだん都会にはなかなか出てこないので、こういう大きな町の図書館に行ってみたかったのである。
 
むろん試験がないのだから一足先に帰ってもいいのだが、女の子ひとりでは不用心だから帰りも一緒に帰っておいでよと言われていたので、今日は待機なのであった。
 
村の中心部にある公民館を兼ねた図書館はとっても小さいので、たまにこういう大きな図書館に来ると、迷子になりそうな気分である。適当に見て回っていた時「古事記」というタイトルに目を留めた。
 
歴史の時間に「古事記・日本書紀」ということで習って名前は知っているものの内容については全然知らなかった。何気なく手に取って読み始めたが、神話の世界にぐいぐい引き込まれていった。
 
そもそも昔話として聞いていた「海幸彦・山幸彦」の山幸彦が神武天皇の祖父だったなんて、初めて知った! ちょっと無理矢理っぽい気もするけど。
 
色々な神と人との交流が出てくる。しかしたぶん、人の記憶の中に残る太古の世界というのは、神と人との境界線が曖昧で、今よりもっと頻繁に神と人が交流していたんだろうな、という気もした。
 
ちょっと面白いと思ったのが崇神天皇の巻に出てくる、三輪大物主神(みわの・おおものぬしのかみ)の話である。三輪山の大神神社(おおみわじんじゃ)には小学生の頃に行ったことがあるが、ここの神様にこんな伝説があったというのは知らなかった。
 
崇神天皇というのは、本に付いていた解説によれば日本書紀に「初めて国を治めた天皇」と書かれているらしい。つまり、伝説的な大王・神武天皇という存在はあるものの、実質大和朝廷というのは、この崇神天皇に始まるということなのだろう。
 
その崇神天皇の代に、オオタタネコという人がいて、その人の娘に活玉依姫(いく・たまよりひめ)という人がいた。その活玉依姫の元に毎夜通ってくる若者がいた。やがて姫は妊娠するが、親が問い糾しても、姫はその夫の素性を知らないなどという。
 
そこである晩、夫が帰っていく時、服に長い紐の端を付けた。朝になってからその紐を辿っていくと、三輪山の神の社まで続いていた。そこで、毎夜姫の元に通っていたのは、三輪山の神様であったことが分かった。
 
この三輪山の大物主神というのは、因幡の白兎で有名な大国主神(おおくにぬしのかみ:だいこく様)の別の姿らしい。
 
昔って通い婚だから、実際身分の高い人が市井の姫の所に通うものの、身分をちゃんと明かしていないなんてことは結構あったのではないかという気がした。西洋でもバレエの名作「ジゼル」の物語などがある。
 

その日は結局夕方くらいまで図書館に居て、夕方、待ち合わせすることにしていたファミレスに行くと「遅い!」と理彩から怒られた。
 
「ごめーん。図書館でつい本に夢中になっちゃって」と僕は謝る。
「ま、私も面接の後、洋服屋さんをのぞいていて、実はさっき来た所なんだけどね。てっきり、命(めい)を待たせたと思ったのに、いないんだもん」
「いい服見つかった?」
「うん。後でホテルで見せてあげるね。命(めい)は何読んでたの?」
「古事記。夢中になって全部読んで、そのあと日本書紀も神話時代の所だけ読んだ」
「へー。そんなに面白いんだ」
 
「戦前は歴史の時間に古事記・日本書紀の内容とか教えていたらしいけど、さすがに歴史として教えるのは変でも、国語の時間ででもいいから、一度教えておくべきものだって思った」
「そうかもね。どんな話に興味持ったの?」
 
「うーん。神様や人間たちの恋愛話かな」
「ああ、さてはHな所に興奮して読んでたんでしょ?」
「そう興奮はしてないけど。もっとも、伊邪那岐(いざなぎ)と伊邪那美(いざなみ)の求婚の所とかは凄くあからさまでギクッとしたけど」
「あ、それは私も知ってる。伊邪那岐(いざなぎ)が自分の体には『成り成りて、成り余る所がある』と言って、伊邪那美(いざなみ)が自分には『成り成りて、成り会わぬ所がある』と言って、『僕の成り余る所をそなたの成り会わぬ所に入れて』子供を産もうって言うのね」と理彩は楽しそうに言う。
 
「ダイレクトな表現だね」
「私たちも今夜、命(めい)の成り会わぬ所と、私の成り余る所を合わせる?」
「ちょっ!それ逆!」
「あ、そうか。私、おちんちん無いしな。命(めい)はおちんちんがあるんだっけ?割れ目ちゃんがあるんだっけ?」
「小さい頃、お医者さんごっこでお互いの見てるじゃん」
「というか触ってるしね。あの頃は無邪気だったね」
 
「それでさ、理彩」
「うん」
「僕たち、4月から、恋人にならない?」
 
僕はかなりの勇気を振り絞り、その言葉を言った。理彩は微笑んで、それからティーカップにアスパルテームを入れてかき混ぜ、一口飲んだ。僕は黙ってそれを見ていた。
 
「そうだね・・・その返事は明日の朝していい?今夜はHしていいからさ」
「分かった」
 

食事をしてから、ホテルに一緒に戻る。僕たちは同じ部屋に入った。交替でお風呂に入った。理彩が入った後のお風呂に僕が入る。昨日までは各々の部屋のお風呂を使った。同じお風呂を使うというだけで、かなりドキドキする。理彩はお湯を流していなかったので、僕は理彩が浸かったお湯に自分が浸かるというだけで興奮してあそこが少し大きくなってしまった。
 
お風呂の後、できるだけ鎮めた上で一応服を着て出て行くと、理彩はホテルのガウンを着ていて、今日買ってきた服を取り出して見ていた。
 
「可愛い服だね」
「でしょ。それに値段も可愛いのよ。このTシャツが300円、スカートも1000円」
「それはまた凄いね。さすが大阪!」
「ね?命(めい)も着てみる?」
「なんで、僕が着るのさ?」
「え? こういう服を着るの抵抗無いでしょ?小さい頃なんて、ずっと女の子の服着てたじゃん。私と姉妹みたいにして写った写真、けっこう残ってるし」
「あれはおまじないだからね」
 
僕は母の胎内から出て来た時、息をしていなかった。へその緒が首に巻きついて首を絞める状態になっていたらしい。取り上げたお医者さんや助産師さんが全然予想していなかった事態だったので、驚き、足や手をさすったりするものの、自発呼吸に至らない。
 
その時、騒ぎを聞きつけた院長先生がやってきて、息をしていない赤ん坊を見ると取り上げていきなり床に叩き付けた。
「何するんです?院長!?」とびっくりして、担当医も助産師も言ったが、僕は床に叩き付けられたショックで「おぎゃー」と泣き、自発呼吸を始めたのである。若い頃に先輩の医師がやったのを見たことがあるので、と院長先生は言ったらしいが、ともかくも、そうやって僕は胎内から直接あの世に行くことなく、この世に命(いのち)を得たのであった。
 
そういう経緯から僕は「命(めい)」という名前を付けられた。
 
しかし、僕は新生児の頃から、随分と病弱で、毎月のように病院通いをしていた。そういう僕を見て、神社の先代神職さんが「そういう子は女の子の格好をさせて育てるといい」と言い、それで僕はずっと小学校に入る直前まで女の子の服を着せられていた。そんな僕を、理彩はずっと本当に女の子とばかり思っていたという。「女の子でもおちんちんある子いるのね」と理彩は言い、僕も「あれ、おちんちん無くて不便じゃない?」なんて言ったりしていた。しかし確かに女の子の服を着せるようになってから、僕はあまり大きな病気をしなくなったらしい。
 
「最近は自分では全然女の子の服、着ないんだっけ?」
「着ないよ」と僕は笑って言うが
「じゃ。たまには着てみようよ」などと理彩は言う。
 
僕はまあ試験も終わったことだし、たまにはそういうお遊びもいいかと思い、理彩からTシャツとスカートを受け取ると、着ていた服を脱いで、それを身につけてみた。
 

スカートを穿くのは久しぶりだ。ちょっと頼りない感覚もあるが、その開放感は悪くない気はする。スカートもTシャツもサイズぴったりだった。そもそも僕と理彩ってサイズ同じだしな。。。
 
「あ、足の毛剃ってある」
「いや、こないだ祈年祭の時に剃ったら、すべすべした肌が気持ち良くて。つい、そのあとずっと剃ってる」
 
「ふーん。。。。まあ、鏡見てごらんよ」
僕は浴室のそばにある姿見に自分の姿を映してみた。
 
「うーん。こういうのも嫌いじゃないなあ」
「さすが、スカートが似合うね。やはり子供の頃たくさん穿いてたから、着こなせるんだろうね。それとも今でも普段穿いてるんだっけ?」
「ううん。そんなに穿いてないよ」
「そんなに穿いてないって事は時々穿いてるのか。私がたまに穿かせてあげてるの以外にも」
「あ、いや、それは・・・・」
 
小さい頃から理彩と遊んでいて、よく僕は理彩のスカートとかを穿かされていた。そのまま外で遊んだりしたこともある。中学や高校の時も、何度か彼女の制服を着せられていたし、春代と一緒に「女の子三人」で遊んだりしたこともある。理彩からは「ねえ、もうおちんちん取っちゃって女の子になろうよ」なんて、何度言われたことやら。
 
「別に隠し事しなくてもいいじゃん、私と命(めい)の間柄で」
「僕と理彩の間柄って?」
「こういうことする間柄」
 
と言って理彩はいきなり僕に抱きつくとキスした。
『あ・・・・』と僕は声を出そうとしたが、キスしているので声にならない。理彩のバストが僕の胸に押しつけられて、その感覚だけで心臓が速い鼓動を打つ。
 
「ベッドに行こう」
「うん。あ、例の物は?」
「出しておくね」
と言って、理彩はエナメルのスポーツバッグから例の箱を取り出し、中を開けひとつ切り離すと、ベッドの枕元に置いた。
 
「僕、この格好のまま?」
「どうせ中で脱ぐから、今何着ていても同じよ」
「そうだね」
 
僕たちは抱き合ったまま、ベッドに横になり、毛布の下に潜り込んだ。しばし抱きあっていたが、やがて理彩は僕のスカートの中に手を入れて、パンツの上からそれをいじり始める。理彩はこの日、物凄く積極的だった。
 
理彩に触られると、たちまち、それは大きくなってしまう。すると理彩はパンツを引き下ろすと、直接それを刺激しはじめる。
 
「大きくなったね」
「そりゃ、なるよ」
「小さい頃も、こんなことして遊んでたね。お医者さんごっこで」
「うん」
「お注射しまーす、なんて言っておもちゃの注射器を、大きくなったおちんちんに突き立ててた。こんな大きくなったのはきっと病気ですよーなんて言って」
「やられてたね。どうしても治らないから手術して切っちゃいましょうとか言われて、ままごとの包丁を当てられたこともあったし」
「ほんとに切り落としてみたかったんだけどねー。そしたら命(めい)も私と同じ、おちんちんの無い女の子になれると思ったから」
 
「でも僕も逆襲して、けっこう理彩のを触ってた。理彩のおちんちんは小さいですね。これ何かの病気です。とかいって。女の子のあそこにクリちゃんが存在することをそれで僕は知ったから」
「考えれば考えるほど、私たち、やばい遊びしてたよね。。。。。。命(めい)、私のヴァギナにも結構指を入れてたよね」
「何だろう?ここはと思ったし。そんなに深くは入れてないと思うけど」
 
「うん。少しだけだよね。でも入れられる感覚がなんか気持ちよくてびっくりした。私、あの感覚が忘れられなくて、自分でも処女膜を痛めない程度によく自分の指を入れて遊んでたよ」
「あの時、僕、理彩のバージンもらっちゃってたのかも」
「私はそのつもり。だから私、これまで命(めい)に操(みさお)を立ててた気もして。だから今日は私のバージン正式にもらって。私この問題すっきりさせたいんだ」
 
「うん。あ・・・・理彩、好きだよ」
「私も好き、命(めい)」
 
僕たちはしばしお互いのものを刺激しあっていたし、僕は理彩の乳房にもかなり触っていたが、やがて理彩がかなり濡れてきて「早く入れてよ」などというので、僕はちゃんとコンちゃんを装着した上でゆっくりと中に入れた。う・・・こんなに窮屈だとは・・・・でも、これ急激に動かしたら痛いだろうから、ゆっくりと動かさなきゃ。そう思うと、強烈な圧迫感の中、おそるおそる出し入れをした。
 
しばらくそんな感じでしていたが、「もう少し速く出し入れしても大丈夫だよ」と理彩が言うので、僕は少し頑張って腰を動かして、出し入れをした。強い圧迫感の中で動かすと、強烈な快感だ。理彩の様子を伺うと、何だか気持ち良さそうな顔をしている。一緒に逝けるといいな。そんなことを思いながら、自分が発射してしまわないように少し我慢しながら、僕は出し入れを続けた。
 
「もう逝っていいよ」そんなことを理彩が笑顔で言った。
僕はもう我慢の限界に近かったので、そのまま発射した。
どっと力が抜けて、理彩の上に体重を預けてしまった。そんな僕の背中を理彩が優しく撫でてくれた。
 

そのまま眠ってしまったようだ。「理彩?」と小さく声を掛けると「おはよう」と言って理彩が目を開けた。
 
「あ、ごめん寝てた?」
「ううん。私も少し寝てたけど、少し前に目がさめた。でも、気持ち良かったね」
「うん。凄く気持ち良かった。女の子の方も気持ちいいものなの?」
「そうでなきゃ、セックスしようと思わないよ」
「だよねー」
「下手な男にやられると、全然気持ちよくないらしいけど。私が気持ち良かったから、きっと命(めい)はうまいんだよ。他の子と経験したことあるの?」
「ううん。初めてだよ。でもきっと、僕たちセックスの相性がいいんだよ」
「ああ、そうかもね。あ、そうそう。顔の感覚、変じゃない?」
「え?」
 
そう言われて、僕は初めて顔に違和感があることに気付いた。何?これ?
 
「ふふふ。鏡貸してあげるね」
と言って、理彩はベッドのそばに置いていたポーチから、小さな折りたたみ式のミラーを取り出して、僕に貸してくれた。
「ぶっ」
 
「可愛いよ」と理彩がニコニコして言う。
僕は顔にお化粧を施されていた。
 
「命(めい)って、女の子と見ても美人の部類の気がするなと思ってたけど、お化粧すると、ますます美人になるね」
「あはは」
「スカート穿いて、その顔で、コンビニとかにでも行ってくる?」
「さすがに勘弁して」と言って僕は笑った。
「恥ずかしがることないのに」
と言って、理彩は僕の唇にキスをした。僕たちは舌を絡め合って、相手をむさぼった。
 

その夜、僕たちは僕がお化粧したまま(スカートもまだ穿いたままだ)、もう1戦やってから、そのまま朝まで寝ていた。コンちゃんも2枚目を使用した。
 
朝は僕が少し早く起きた。理彩の寝顔がとても可愛い。僕たち、これで恋人になっちゃったのかな・・・・・そんなことを考えると、彼女のことが、とても愛おしく感じた。僕はテーブルの上に置かれていた理彩のポーチからクレンジングを無断借用して、お化粧を落としてきた。スカートは何となくそのまま穿いていた。顔を拭いて戻ると理彩も目を覚ました。
 
「おはよう」と理彩は笑顔で言う。僕も健やかな気分で
「おはよう」と返した。
 
「ね、昨日の話だけど、僕たち恋人として付き合えるよね?」
「それなんだけどね・・・・」
と理彩は突然少し悲しい顔をした。
 
「こんなことしておいて、こんなこと言いにくいんだけど、私たち、友だちとして付き合えない?」
「え?」
「恋人じゃなくて友だちとして命(めい)とはやっていきたいの」
 
「ちょっと待って。こういう関係作っておいて、それはないよ!」
「たまにセックスしちゃうかも知れない、お友達ってのではダメ?」
「嫌だ。恋人になりたい」
 
「じゃ、お友達として1年間付き合って、それでやっぱり恋人の方がいいと思えたら、あらためて恋人になってもいい」
「1年間・・・・」
「私さ、物心付いた頃から、そばに命(めい)がいたし。私自身、命(めい)のことを事実上彼氏と思っていた時期もある。中学の時はキスしたしね」
「あの時も、一度話し合って、友だちでいようって言ったね」
 
「うん。でも結局、私命(めい)以外の男の子をあまり見たことがないの。小学・中学・高校では私たち、みんなから恋人か許嫁みたいに思われてた感じだったから、遠慮されてる感じだったし」
「あの狭い社会の中では、あまり冒険できないもん。春代なんて僕のこと安全パイと思ってる感じだった」
「だから都会に出て来たのを機会に、もう少し他の男の子のことも知りたいの。凄くわがままなこと言ってるのは承知だし、命(めい)の気持ちは分かってるから悪いとは思うけど。その・・・命(めい)も私以外の女の子も少し知った方がいいと思うよ」
 
「今はじゃ。。。。恋人になれないの?」
「ごめんね。どうしてもセックスしたくなって、その時、私に彼氏がいなかったらしてもいいよ」
「それもあくまで、友だちとしてのセックスなの?」
「うん。1年後。来年の2月に再度、私たちの関係を話し合えない?もしその時、ふたりともフリーだったら」
「分かった。理彩がそんなこと言い出したら、絶対撤回しないし。でも僕は、ずっと理彩のこと好きだから」
「うん」
そう言うと、理彩は僕にキスをしてくれた。

僕たちは「証拠隠滅」することにした。理彩のお母さんが持たしてくれたコンちゃんと同じものを朝から開いていたホテル近くのドラッグストアで買い、理彩のバッグに戻した。開封して2個だけ使用し、8個残っているものは、箱はホテルのゴミ箱に捨て、中身だけふたりで持つことにして4個ずつ分けて持った。理彩はそれを自分の生理用品入れのポーチに隠し、僕は自分の鞄の内ポケットに隠した。
 
今夜のことはふたりだけの秘密にすることにした。
 
恋人にはなれなかったものの、僕たちは仲良しのままだった。その日の朝御飯は結局僕は女装して理彩と一緒に食べに行った。同性感覚で一緒にいることで、お互い友だちとしての意識をしっかり持てる気がした。女装の僕を目の前にすると、理彩もスムーズに話ができる感じだったし、僕も女装している時は心も女の子感覚になるので、自分が理彩を好きだと思う気持ちを抑えて、ふつうに話すことができた。
 
僕はその日結局、電車の終点まで女の子の格好のままで、そこから村まで行くバスの中でスカートを脱いでズボンにチェンジした。そして電車の中でもパスの中でも、僕たちはずっと仲良くおしゃべりをしていた。
 

「あんたたち、向こうのホテルで何かあった?」と母から聞かれたが僕は「別に何も起きてないよ。僕たちは今まで通りだよ」と答えた。
「ふーん」と母は言った。あまり信用していないふうに感じる。
「でも、あんたたち、する時はちゃんと付けてしてよね」と母。
「その時はちゃんとするよ」
「自分で買える?」
「18にもなって、そのくらい自分で買うよ」
「だったらいいけどね」
 
理彩もお母さんと似た会話をしたらしかった。未開封のコンちゃんの箱を母に返そうとしたが、「すぐ必要になるだろうし、持ってなさい」と言われたということだった。
 
「でもホントにあんたたち何も起きなかったの?」と理彩の母は再度聞いたらしい。
「うーん。キスはしたけどね」
「キスだけ?あんたたちの年齢で、それで我慢できるとは思えないけど」
「だって、私たちは恋人じゃなくて友だちだもん」
「ふたりが一緒に居る所を見ると、仲の良い恋人にしか見えないよ」
「私たち、あらためて友だちでいようって話したから」
 
「命(めい)君、もしかして男の子の機能が無いってことないよね。あの子、小さい頃、すごく病弱だったし」
「男の子機能はあるよ。それは確認した。あっ」
「ふーん。確認するようなことはしたんだ」と理彩の母。
「でもセックスはしてないよ」
「別にしてもいいんだけどね。避妊さえちゃんとしてくれれば。大学に入ってすぐに妊娠で休学とかはやめてよね」
「うん。それほど馬鹿じゃないよ。私も命(めい)も」
 
そんなことを理彩は母と話したらしい。
 

僕たちはそろって阪大に合格した。僕は豊中市のキャンパス、理彩は吹田市のキャンパスなので、日常的に大学で顔を合わせることは無いものの「お友達」
として付き合い続けようということばの通り、日々メールや電話のやりとりをしていたし、何度か大阪市内で会って、お茶を飲んだり、食事を一緒にしたりしていた。高校の同級生で、大阪の大学に出て来た子はいないものの、神戸に春代と香川君がいるので、その2人とも一緒に会い、4人で食事をすることもあった。春代と香川君は少し良い雰囲気になっている感じだった。それを指摘すると「あんたたちの仲には負ける」と言われた。
 
しかし、理彩はほんとうに僕以外の恋人作りに熱心な感じだった。合コンに出て行き、そこで会った男の子とデートしてみた、なんてメールを送ってくるので、僕は軽い嫉妬を覚えながらも「頑張ってね」と返信をしていた。すると「ここで応援してくれるから命(めい)って好きだなあ」などと返してくる。そんなこと言われると、ますます僕は理彩を自分のものにしたくなっていった。
 
僕も理彩も大学で同性の友人も作った。僕の方は特に3人の男子と仲良くなり、特に学校に近いアパートに住んでいる子の所で夜通し、様々なことを議論していた。数学や物理・化学などの話題が多く、またヒッグス粒子のことなどこの宇宙の構造に関する話は盛り上がった。
 
「でもひょっとして、僕らのいる世界ってさ、誰かがコンピュータの中で計算させて作り上げている仮想現実にすぎないのかもね」
「その誰かが『神様』ってわけか」
「『神様』というよりは『創造主』だよね」
「そういう話が鈴木光司の『ループ』って小説に出てくるよ。『リング』『らせん』
『ループ』って三部作で、最初の『リング』はホラーだけど、『らせん』ではそれが科学的に解明されてしまう。ところが『ループ』で、その話が全部シミュレーター上の出来事だったということになってしまう」
「叙述トリックみたいな感じだね」
 
「シリーズを通しての最終的な主人公は、その仮想現実の世界と現実の世界を行き来するんだよね。でも『ループ』の中では、自分たちが現実と思っているこの世界自体も、また誰かのシミュレーターなのかも知れない、と示唆される」
 
「何段階にもなってるんだ!」
「何だか読んでいて、実際にこの世界って、そういう構造なのかもと思っちゃった。そしてそのシミュレーターにバグがあると、通常の科学法則と反するようなことも、たまに起きちゃうこともある」
「バグはあるだろうね。それが奇跡なのかもね」
「かもね」
 
「いや、奇跡にはバグに属するものとバックドアに属するものとがあると思う」
「ああ! 神様系の奇跡はたぶんバックドアだよ」
「確かにね」
 
「たとえば俺が突然明日女になってたとしたら、きっとバグだ。でも斎藤が神様の力で女に変えられてたら、きっとバックドアだ」
「なんで僕が女になるのはバックドアなのさ?」と僕は笑って言う。
「いや、斎藤ってチンコ付いてるかどうか確かめたくなる気がしない?」
「するする」
「でも確かめようとしてチンコ付いてなかったらやばいから脱がせる気にならん」
「えー?」
 
「何ならここで脱いでみる?」
「ごめん。パス」
と僕は逃げた。その日はちょっと色々な事情で脱げない状況にあった。
 
「俺は斎藤の性別疑惑を強めたぞ」
「あはは」
 

そんな話をしたのがゴールデンウィーク明けの頃だったが、その少し後、僕は世にも不思議な体験をすることになる。
 
僕は夜寝ていて、ふと目が覚めたと思うのだが、そもそもが夢の中なのかも知れない。僕は最初、てっきり泥棒が入ってきたのかと思った。足音はしないものの、誰かが近づいてくる気配があった。一瞬緊張するが、その人物は「怖がらなくてもいい」と言って、僕の布団の中に潜り込んできた!
 
怖がらなくてもいいと言ったって!と思ったのだが、その人物(40歳くらいの男性のように思えた)は、いきなり僕の唇にキスをした。
 
きぇー! 理彩とは今まで何度もキスしたことがある。そして僕自身、女装で出歩くのはけっこう高校時代までやっていたし、女装のまま、お遊びで男子の友人とデートの真似事をしたことまではある。でも、さすがの僕も男にキスされるのは初めてだ。頭が混乱していたら、彼は僕を優しく愛撫し始めた。
 
なんかそれが気持ちいい。僕は何となくこの人に身を任せてもいいような気がしてしまった。やがて彼は僕の服を全部脱がせてしまった。乳首を吸われる。えー? でも乳首を吸われるのは気持ちいい。入試の時のホテルで理彩に乳首を吸われたけど、あれより気持ちいい気がする。多分、この人が巧いからだろう。
 
やがて彼は僕のお股に手を伸ばして来て、どこかを触り始めた。何この感覚?それは今まで経験したことのない感覚だった。でもこれ、どこを触られてるの?触られている付近にはこんな感覚になるような場所あったっけ? おちんちんでないことだけは確かだ。そもそも、こんなにされているのに僕のおちんちんは立つような感覚がない。なぜだろうと不思議な思いがした。彼にそこをいじられている内、自分のその付近が湿度を持ってきた感覚があった。やだ、僕はおしっこでも漏らしたのだろうかと不安になるが、どうもそういうのでは無い気がする。そして、かなり潤ってきた時、彼の硬い破城槌が僕の体に接触した。ちょっとー!何するつもり?
 
そう思った次の瞬間、破城槌は僕の体を貫いた。何、この感覚?
 
あまりにもスルッと入ってきて、痛いとかきついとかいった感覚は無かったので、僕は心理的にもそれをスムーズに受け入れてしまった。彼は最初だけはゆっくりと出し入れしたものの、その後、かなり激しく出し入れする。僕は彼の背中を撫でていた。やがて彼が到達する。へー。やられている側でも、発射の瞬間って、分かるものなんだなあ、と僕は他人事のように考えていた。
 
彼は逝った後も中に入れたまま、しばらく僕を愛撫していたが、やがて「ありがとう」と言って、少し小さくなった破城槌を抜くと、身支度を整えて去って行った。僕はしばらく放心状態だったが、結局そのまま眠ってしまった。
 

朝起きてから自分の身体をチェックした。一体どこを揉み揉みされたんだろう?さっぱり分からない。それはまるでクリトリスをグリグリされたかのような感覚だったのだが・・・・僕にはクリトリス無いしな、と思う。それにどこにアレを入れられたのだろう?
 
この付近で、あんなのを入れられそうな場所は、やはりあそこしか無い。でもあんなの入れられたら、穴の回りがさすがに痛いと思うのだが、全然痛みなどは無い。それに、入れられた場所はもっと前の方のような気がしたのである。そう、まるで自分にヴァギナがあって、そこに入れられたような感覚なのである。もしかして「やおい穴」? でも、いつの間にそんなものが出来たんだ?
 
どうにも僕は不可解だった。
 
彼の深夜の訪問はその日だけでは終わらなかった。それから毎晩のように続いたのである。毎回、僕は裸にされ、乳首を舐められ、クリトリス?をいじられ、濡れてきたところで、ヴァギナ?に挿入され、発射された。彼とのセックスは毎回1度だけなのだが、それが物凄く気持ち良かった。入試の時の理彩とのセックスも、物凄く気持ち良くて、そのまま死んでも後悔しないと思ったのだが、この夜の訪問者とのセックスも、凄く気持ち良かった。ピストン運動というのは、されている側もこんなに気持ちいいなんて、新鮮な発見だった。今度理彩とする時もこんな感じでしてあげよう、と僕は思っていた。
 
しかしさすがに毎晩、これをやっているとこちらも体力が辛い。セックスって、入れる側だけじゃなくて、入れられる側もけっこう体力使うんだな、とあらためて思う。
 
授業に出ていて、少し疲れたような顔を僕がしているので、友人も心配して、
「疲れてる時は、思い切って講義サボっちゃうのも手だよ。バイト疲れ?自分の身体を大事にしなきゃ」などと言ってくれた。
 
夜の訪問者と毎晩セックスをしていると、僕は理彩に対してうしろめたい気持ちになって、彼女へのメールをついついサボってしまいがちになった。すると、理彩から「メールが無いのは寂しいよぉ」などと言ってきた。恋人にはならないと言っておいて他の男とデートしたりしてる癖に、僕のメールは毎日要求するのだから、全くワガママ女だ!でもそういう所まで含めて、僕は理彩のことが好きなんだけどね。
 
彼女とは夜間に2時間ほど電話で話して、彼女の「マンハント」の成果を聞いてあげていたのだが、それでこちらも、向こうがやってるならこちらもいいかという感じで少しスッキリして、気持ち良く「おやすみ」と言って寝た。そして眠りに落ちる間もなく「彼」がやってきて、また極上のセックスをした。
 

このような夜が10日も続いた頃、僕はやはり彼に揉まれているのは確かにクリトリスであり、彼に入れられているのはヴァギナであると確信した。
 
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【Shinkon】(1)