【少女たちの入れ替わり大作戦】(中)

前頁次頁目次

 
5月中旬のある木曜日、千里は朝から熱を出した。学校は休むことにして連絡を入れ、母が仕事を休んで千里を病院に連れて行ってくれた。
 
村山家は風邪などについては去年までは%%医院と言って町内で開業していたお年寄りのお医者さんの所で診てもらっていたのだが、先生がもう年で視力も衰えてきたのでということで2月で閉院してしまい、今回千里が連れてこられたのは@@内科小児科クリニックというところである。お医者さんはまだ30代の若い先生であった。
 
診せてくださいと言われて千里の母は千里が女の子下着を着けていることを思い出したものの、まあいいかと思う。それで聴診器を当てられ、喉なども見られて
 
「うん。風邪ですね。お薬出しておきましょう。注射もしとこうかな」
と言って処方箋を書き、処置室に行くように言う。
 
それで隣の処置室に移って注射をしましょうということになる。
 
「お尻に打ちますから、ちょっとズボンとパンツ脱いでね」
と看護婦さんから言われた。
 
千里は母に見られたくないなと思ったのだが、ちょうどその時、母が先生から「お母さん、ちょっと」
と呼ばれた。
 

それでこの隙にと思った千里は、急いでズボンとパンティを脱ぎ、ベッドに寝転がった。
 
「あら、女の子に見えるけどカルテで男に丸付けてあるから実は男の子かなと思ったらやはり女の子だったね」
などと看護婦さんは言いながら、千里のお尻に注射の針を刺した。
 
「私よく性別間違えられるんです」
「ああ、なんか男女どちらもある名前だもんね〜。はい、おしまい」
 
針を刺した所に絆創膏を当ててもらう。「もう、いいですよ」と言われると千里はすぐにパンティをあげてそれから起き上がり、ズボンを穿いた。そのズボンを穿いている最中に母が戻ってきた。
 
結果的に千里はあの付近を看護婦さん以外に見られずに済んだ。
 

母と一緒に廊下に出る。
 
「いや、問診票に性別男って書いてありますけど、これ女の子の間違いですよね、とか先生から言われちゃって」
と母が言う。
 
「私、女の子でいいけど」
「でも男の子と女の子では使うお薬が違うこともあるのよ」
「へー」
「女の子用のお薬使ったり、女の子みたいな身体になっちゃうかも知れないし」
「私、女の子みたいな身体になりたい」
「うーん。。。」
 
それで料金を払い、処方箋を持って病院を出る。すぐ隣にある薬局で薬を買う。それで処方してもらっている間に母は診察券を見ていて
 
「あら、やだ」
と言った。
 
「どうしたの?」
「先生に訊かれて、男の子ですよと言ったのに、この診察券、性別がFになってるじゃん」
「Fって?」
「女という意味。男はM」
「私はFでいい」
 
「うーん。。。まあいいことにしとくか」
と母も言ってそのまま診察券と健康保険証とをバッグにしまった。
 

千里は結局翌金曜日も学校を休み(その週は土曜日も学校は休みだったので)結局日曜日まで寝ていて、月曜日から学校に復帰した。母は木曜日1日は休んで千里の面倒を見てくれたものの金曜日は「もし気分が悪くなったりしたら電話して」と言って会社に出て行った。
 
沖合の船に乗っていた父は金曜日の昼頃戻って来たが、千里が風邪を引いたというと「俺に移すなよ」と言って日本酒を飲んで寝ていた。同じクラスで近所でもある留実子がプリントなどを2日分持って来てくれた、父は留実子の腕をつかんで
 
「たくましい腕だね。漁師にならない?」
などと勧誘していた。
 
「高校出てから考えます」
と留実子は答えていた。
 
「うちの息子は腕が細くて困ったもんで。少し鍛えてやってください」
「村山さんはむしろ可愛いお嫁さんになるかも」
「そんな気色悪いこと言い出したら、叩っ斬ってやりますよ」
 

この時期は5月下旬に行われる運動会の準備も進められていた。4年生が出るのは、100m走、借り物競走、集団演技のフォークダンス、そして組対抗リレーである。千里たちの学校は各学年ともクラスが2クラスしかないのだが、2組対抗では面白くないというので、各クラスを2分割している。千里たち1組は千里を含めて男子16人と留実子を含めて女子11人で、これを男子8人・女子5-6人の「赤組」「青組」に分ける。2組も同様にして「白組」「黄組」に分けられた。
 
ちなみに千里も留実子も青組になったが我妻先生の組分け表では男子は留美子を入れて8人・女子は千里を入れて5人だったので
 
「これは全く問題ない」
とクラスメイトたちは言っていた。
 
リレーのメンバーは体育の時間に全員100mを走らせて各組いちばん速かった子を男女1名ずつ選ぶということだったのだが・・・・先生は「ではリレーの選手は赤組が田代と矢野(穂花)、青組が花和(留実子)と大沢(恵香)」と言った。 
本来は男子と女子1人ずつのはずである。
 
「うーん・・・・」
とクラスメイトたちは悩んだものの
「花和は十分足が速い気がするから問題ない」
ということになった。
 
「男子が2人出たらまずいだろうけど、女子2人なら問題あるまい」
というのがおおかたの意見であった。
 
そもそも留実子は、青組の男子8人より100m走のタイムが良かったのである。 
「花和、実はチンコ付いているということは?」
「誰かちんちん譲ってくれると助かるんだけど」
「村山のチンコを取って付けるといいのでは?」
「いや村山は既にチンコが無いはず」
 
「この会話は2〜3日に1度はしてるな」
 
「そうだ。琴尾のチンコを譲れば?」
などと言うのは当然田代君である。
「譲ってもいいけど、代わりに雅文のチンコを私に寄越せ」
と蓮菜は答える。
「うーん。俺のチンコ取られるのは困るな」
 
この2人の会話は他の子たちにはほぼスルーされている。
 

さて運動会には応援合戦がつきものである。これは「女子全員参加」と言われた。ただし太鼓係は4〜6年生の各学年から1名男子がやる。
 
それで「今日の放課後、女子の応援練習やります」と言われてクラスの女子がみんな体育館の方に行こうとしていた時、千里が「どうしよう?」という顔でいたら、それに気づいた恵香が
 
「はい、千里もいらっしゃーい」
と言って手を取って連れて行ってくれた。
 
「僕は行かなくていいよね?」
と留実子が言っていたのだが
「るみちゃんは太鼓係に指名されている」
と言って、結局留実子も参加である。
 

体育館に行くと
「はーい。みんなこれ穿いてね」
と言って赤いミニスカートを渡される。
 
「私も穿くの?」
と千里が不安そうに言うと
「当然」
と周囲の女子から言われる。
 
「僕は穿かなくてもいいんだよね?」
と留実子が言うと
「男子の太鼓係は当然スカートは穿かない」
と言われている。
 
スカートにはSサイズとMサイズがあり、合わない人にはLサイズを渡しますと言われたのだが、千里はふつうにSサイズで入った。
 
「きつくない?」
と訊かれるが
「うん。少しゆとりがある感じ」
と千里は答える。
「ああ、これアジャスターを短くした方がいい。やってあげるよ」
と言って佳美が千里が穿いたスカートのアジャスターを詰めてくれた。 
「しかし千里細いな」
 

留実子は体育館のステージの方に行き、他の男子に混じって太鼓を打つ。 
「お、4年生、力強いな。名前なんだっけ?」
「花和です」
「花和、お前がこの一番大きい太鼓叩け」
「はい」
 
それで留実子は自分の背丈ほどもある巨大な太鼓を叩いていたが「力強くていい」とか「やはり男の打つ太鼓はいいね〜」などと言われていた。実際、留実子の腕は千里の腕の倍くらい太さがある感じである。日々腕立て伏せなどして鍛えているらしい。
 
「花和、これだけ腕が太かったら漁船の網が引ける」
「こないだ体験乗船に行ったら即戦力だと言われました」
「やはりねー」
 

一方の千里たち女子はボンボンを手にして、基本的な動きから練習する。 
「あ、君センスいいね。ちょっと前に出てきて」
などと言われる。千里は左右を見るが、どうも自分のことのようなので前に出て行く。
 
「君、少し背が高いし動きもいいから前で踊って」
などと言われて、5年生の麻美子さんと2人で前で踊ることになった。 
「名前なんだっけ?」
「村山千里です」
「千里ちゃん、スポーツか何かしてるの?凄く運動神経いいみたい」
「私、体育はいつも1ですよ〜」
「それは不思議だ」
 
その会話を聞いた蓮菜は、千里は男子として評価されたら体育1かも知れないけど、女子としては結構運動神経の良い方なのではなかろうかと思った。きっと千里ってドッヂボールとかサッカーではあまり使えないかも知れないけど、多分ダンスとかはできそうという気もするのである。
 

運動会では学年別の集団パフォーマンスも行われる。千里たちの学校では6年生が鼓笛隊の演奏、5年生はソーラン節(エッサッサをした年もあったらしい)、4年生はフォークダンスという所まで毎年定番になっている。3年生以下は年によって様々なマスゲームの類いが行われている。
 
今回千里たちのフォークダンスの曲目は『マイムマイム』と『オクラホマ・ミキサー』と決まった。
 
最近ではあまり演じられることのない『オクラホマ・ミキサー』だが、曲目を決める時にちょうど近くを通りかかった校長先生が「あれ是非やろう」と言ったので、入れることになってしまったらしい。校長先生たちの世代ではフォークダンスといえばオクラホマ・ミキサーだったらしい。
 
(2016年にはauの三太郎のCMに使用された曲である。ミレドシドレドソミファという軽快なメロディ) 
マイムマイムは全員が輪になって踊ればいいのだが、オクラホマ・ミキサーは男女がペアになって踊るタイプである。実はそれが男女差別だとか言われて、最近ではあまり取り上げられなくなった事情もあるらしい。
 
さて千里たちの学年は4年1組が男16人・女11人、2組が男15人・女12人で男がかなり多い。他の学年はこんなに極端に男女比に差が無いのだが、この学年はなせがずいぶん男女の数に差が出てしまったようである。
 
どちらも奇数なので、2組女子の1人を1組にトレードすることにし、これはクラス委員の典子が自分が1組に入ると言ったので、それで1組が16:12、2組が15:11となる。どちらも男が4人多いので、男が2人女役で踊ってもらおうということになった。
 
「るみちゃん、悪いけど今回は女役で」
「まあいいよ」
 
「村山は当然女役で」
「うん。女の方がいい」
 
「あと1人誰か性転換したい人?」
「じゃ俺が女になろうかな」
と言ったのが鞠古君だった。
 
「じゃそれで」
「鞠古、何だったら正式に性転換手術してから女になってもいいが」
「20歳くらいになってから考える」
「村山は、たぶん性転換手術終わってるよな?」
「内緒」
 
とここまではからかわれたものの、留実子の性別問題については男子たちはあえて言及しなかった。留美子がけっこう精神的に繊細であることをクラスメイトたちは感じ取っていた。
 

ところで合唱については、馬原先生はピックアップ・メンバーで大会に出ることを志向したようで、4〜6年生の各クラスから3〜4人程度ずつの女子に声を掛け、20人ほどの「合唱サークル」を組織するに至った。
 
他のクラブ活動やスポーツ少年団などと重複しても活動しやすいようにあえて「合唱部」ではなく、サークルということにしたようで、練習も昼休みを中心にして、8月の地区大会出場を目指すことになった。
 
千里たちのクラスでは、佐奈恵・穂花・蓮菜の3人が選ばれた。
 
「千里もけっこう歌うまくない?」
と蓮菜から言われたものの、千里は
「私、ヘタだよ〜」
と言っておいた。
「なんか音が不安定なんだよねー」
と言って『みどりのそよ風』を歌ってみせる。高いドより上で音程が物凄く不安定になる。
 
「うーん。それって歌い込めば安定していくと思うけどなあ」
「蓮菜たちの方がずっと上手いもん。大会に応援には行くからさ」
 
実を言うと千里はこの頃、その音域(A5〜E6付近)の発声方法を試行錯誤中だったので、特にC6より上の音程が不安定だったのである。千里の高音域が安定してくるのは6年生頃になってからである。
 

「でも今回女子だけで構成するのか」
「女声合唱の方が曲目の選択が多いしね」
「混声合唱は統一感出すのが難しい」
「でも小学生だとそもそも男女の声の差はあまりないけどね」
「男子でも女子の音域が歌えて、スカート穿いてもいいなら参加していいと先生は言ってた」
 
「俺スカート穿いて参加しようかな」
と鞠古君が言うと、なぜか留実子が殴っていた!?
 
「なぜ殴る〜?」
「別に」
 
千里や蓮菜は思わず顔を見合わせた。
 
鞠古君はまだ声変わり前だし(実際まだ千里たちのクラスで声変わりが来ている男子はいない)、結構歌が上手いのでスカート穿くのがいやでなければ十分行けると千里は思ったのだが、留実子の行動の意図は当時の千里たちには分からなかった。
 

2000年5月21日。運動会が行われる。
 
日曜日なので千里の父は戻っているのだが「寝てる」と言って家に居るので、母がお弁当を作って出てきてくれた。が、母は千里が赤いスカートを穿いてボンボンを持って踊っているの見て仰天したようである。
 
千里は最初に徒競走に出た。徒競走は1年生が50mから始めて。2年生も50m、3年生80m、4年生100m, 5〜6年生は150mになっている。4年生は2クラスで男子31名・女子23名いる。4人ずつ走らせると、男子8組、女子6組になる予定だった。
 
3年生が走っている間に6年の担任の東原先生が4年生を4人ずつそろえていく。千里は蓮菜・リサなどとおしゃべりしていたのだが
 
「おお、そこちょうど赤・青・白がそろってるな」
と言われて、赤組の所に蓮菜、青組の所に千里、白組にリサ、そして黄組に近くに居た数子が並ばされた。
 
「あれ?ここ女子だっけ?」
と千里が言うが
「まあいいんじゃない?」
と蓮菜は言った。
 
留実子は「男子は向こうに」と東原先生からいったん言われたものの、「この子、女子ですよー」
と周囲の子から言われて
「あ、そう?ごめんごめん」
と先生は言っていた。
 
結果的に女子は4人ずつの組がちょうど6組できて、男子はなぜか4人の組が7つと2人(赤と白)の組が1つできた。
 
「あれ?男子は1人休んだのかな?」
などと東原先生は首をひねっていた。
 

やがて3年生が終わってスタート位置を移動し、4年生の徒競走が始まる。男子が順に走って行き、最後は2人だけで走る。1位と2位は賞品をもらえるので、この組で走ると確実に賞品がもらえるお得な組であった。
 
そのあと女子が始まる。恵香たちが走り、玖美子たちが走り、3番目が千里たちである。スタートラインに並びスタンディング・スタートの姿勢を取る。三国先生が昔懐かしいスターティング・ピストルを手に持ち「用意」と言って約2秒後に号砲が鳴って走り出す。
 
この組では長身のリサとミニバスをしている数子が先頭争いをし、その後、大きく離されて蓮菜と千里が走るという構図になった。トラックが一周150mなのでそれを3分の2走る。結局1位リサ、胸一つの差で数子、大きく遅れて蓮菜、そこから3mほど遅れて千里という順にゴールした。
 
「リサちゃん、やっぱ凄いよ。ミニバス入らない?」
と数子はまた勧誘していた。
 

「千里はこの成績なら性別を疑われることは無いな」
「私、運動苦手〜」
と蓮菜と千里は言葉を交わした。
 
午前中ラストに借り物競走があったが、また千里は女子の方に並ばされた。今回は恵香・亜美・映子と一緒であった。3年の時は同じクラスだったので千里の性別を知っている亜美は
 
「なぜ千里がここに居る?」
と訊いたものの、恵香が
「徒競走では千里女子4人で走ってビリだったよ」
と言うと
「確かに千里、足は遅かったもんなあ」
などと言って納得していた。
 
それでスタートして借物のメモが書いてある紙を取る。
 
『スカート』と書いてある!
 
千里は青組の応援席の所に駆け寄った。
 
「すみません。どなたかチア衣装のスカート貸して下さい」
と言うと
「私が貸すよ」
と5年生の麻美子さんが言ってくれて、自分の穿いているスカートを脱いで貸してくれた。
 
お礼を言ってそれを穿くと、急いでフィールドに戻る。平均台の上を走ってゴールに飛び込む。
 
今度は千里は1位で賞品の折りたたみ定規をもらった。
 

午前中の種目が終わった所で各組の応援合戦が行われた。千里はさっきスカートを貸してくれた麻美子さんとふたりで前に出てアクションをする。留実子の打つ力強い太鼓が聞こえる。千里はその音に合わせて左右の手を広げたり高く挙げたりまた足を上げ、ジャンプしたり回転するなどの動きをしていった。最後は麻美子さんがバク転して着地した所を支えて美しく終わった(このバク転は来年千里がしてねなどと言われた)。
 
応援合戦の後、チアのスカートを脱ぎ自分の席の所に置いてから、白組の所にいる玲羅を拾って母の所に行った。お弁当は体育館で食べるということで、そちらに移動する。
 
「でもなんであんたスカート穿いてチアガールやってて、徒競走とかは女子の方で走るわけ?」
と母から訊かれたが
「さあ。あんたこっちこっちと言われて参加したけど、私は自分のこと女の子だと思っているから、全然問題ない」
 
と千里は答えていた。母は悩むようにしていた。
 
3人で話しながら体育館に外から入る階段を上ろうとして、ふと千里はプールの方にひとりで歩いて行こうとしていた留実子に気づいた。
 
「るみちゃーん!」
 
留実子が振り向く。
 
「お母さん来てるの?」
と千里は尋ねる。留美子の所は共稼ぎで、どちらも商店勤めなので日曜日にも休めない。
 
「今日は来られないと言ってた」
「私たちと一緒にお昼食べない?」
「僕お弁当持って来てない」
「うちは多めに作っているから大丈夫だよ」
「じゃ少し分けてもらおうかな」
 
と言って留実子はこちらに来て、一緒にお弁当を食べることになった。 

後で聞くと留実子は母から「コンビニでおにぎりでも買って行って」と言われてお金をもらったものの、あまり気が進まず何も買わないで学校に来たらしい。それでお弁当が無いのでお昼はどこか目立たない所で寝転がってようかと思っていたと後で言っていた。
 
こちらは母が父も行くかもと思い結構多めに作っていたので、留実子が加わって結果的にちょうどよくなった。「余らせても無駄になるし食べて食べて」と母が勧めたこともあり、留実子は結構満腹したようである。
 
「やはり男の子は食べっぷりがいいわあ」
などと母は言っている。
 
千里は「ん?」と思ったものの留実子は男の子と思われて気分がいいようなので性別問題はあえて指摘しなかった。実を言うと、千里と留実子の交友について、双方の親は、千里の母は留実子を男の子の友人と思い、留実子の母は千里を女の子の友人と思う、という構図になっていた。実際千里は母から
 
「男の子の友達がなかなかできないので心配していたけどやっとできた」
と言われたし、留実子も
「女の子の友達がなかなかできないので心配していたけどやっとできた」
と言われていた。
 
そしてこの状態が、実は中学3年頃まで続いていたのである。この時期千里たちのグループの子の親で、千里と留美子の戸籍上の性別をきちんと知っていたのは実は蓮菜の母だけであった。
 

この日千里の母は
「そうだ。千里に色々お洋服をいただいてるみたいで」
と留実子に言う。
 
「こちらはあげる人とかがいないのでちょうど良かったんですよ」
と留実子。
 
「女の子の服もいただいているみたいですね」
と母は探るように言う。
 
「ええ。姉貴が着ていた服なんですけどね。僕は女物は着ないし」
「そうよね!」
 
千里は留実子から「姉」という言葉を聞き、少し疑問に思った。留実子には兄はいるものの姉はいないはずである。あるいは自分のために親が買ってくれた女物の服を千里にそのまま譲るのに、言い訳として姉という仮想の存在をでっちあげたのだろうか??
 

午後は最初6年生の鼓笛が行われ、続いて5年生全員によるソーラン節が披露される。その後、千里たち4年生のフォークダンスが行われた。1組と2組がそれぞれ二重円を作っている。円の内側は女子、外側は男子。曲は『オクラホマ・ミキサー』と『マイムマイム』である。
 
1組2組とも27人なので2組の典子がこちらに来て男子14人・女子14人の輪が作られている。ここで留実子は女子として参加、千里も女子扱いの上に鞠古君が女子の輪に参加している。千里は元島君、留実子は高山君、鞠古君は佐藤君とペアになってスタートした。
 
元島君は千里の手を握ると何だかドキッとしたような顔をした。何だろう?と千里は思う。一通り踊ってから女子側の千里がお辞儀するように斜め後ろを見て、高山君を迎える形になる。高山君が1歩前に進み、千里の手を取って踊り出すが、高山君は千里の手を握った時に「え?」という顔をした。 
何だ何だ?と思う。
 
次は佐藤君、最後は輪の先頭になって中山君だったが、どちらも千里の手を握った時に不思議そうな顔をした。
 
『オクラホマ・ミキサー』の曲が終わり、次は男子・女子ともに横の人と手をつないで、二重輪の状態のまま『マイムマイム』になる。千里は両隣の穂花・留実子と手をつなぐ(留実子は左手を鞠古君とつないでいる)。穂花は千里の手を握って何だか頷いている。みんな一体何なんだ〜!??
 
マイムマイムの曲は5回リピートして演技が終わる。リーダーに指名されている高山君が手をあげ、その隣付近にいた蓮菜も手を挙げて、2人が先頭になり、列を崩さないようにして駆け足で退場した。
 

そのあと応援席に戻る途中で穂花から言われた。
 
「男子たちがさ、千里の手を握ってみんな『あれ?』って顔してたじゃん」
「うん。何でだろうと思った」
「それは千里の手を握った感触が女の子の手の感触だったからだよ」
「へ?手に男の子の感触とか女の子の感触ってあるんだっけ?」
「まだあまり差は無いけどね〜」
と言って穂花は笑っていた。
 

来年小学校に入る予定の子たちの出し物、低学年の子の保護者参加イベントなども行われた後、最後は学年縦断・組別対抗リレーで締めくくられる。最初に女子のリレーが行われる。1年→2年→・・・・→6年とバトンがリレーされていくのだが、青組は3年生の段階で2位だった所を恵香は赤組の佐奈恵に抜かれて3位に落とした。最終的には6年の子ががんばって青組は2位でゴールした。 
「抜かれちゃった。ごめん」
「ドンマイ、ドンマイ」
 
その後で男子のリレーとなる。これに青組は留実子が出場する。赤組は鞠古君なのだが、ふたりは何やら話していて、留実子がどうも照れている雰囲気である。 
「ね、もしかしてるみちゃんさ・・・」
と穂花が言う。
「私もそんな気がした」
と千里は言った。
 
「うまく行くといいけどね」
「うん。でもそしたら、るみちゃん女らしくなっちゃうのかなあ」
「それもいいんじゃない。男らしいるみちゃんも格好いいけど」
 
競技では3年生の段階で白組が先頭を独走、赤組と青組が競った状態で来るので留実子と鞠古君はほぼ同時にバトンを受け取った。ふたりが物凄いデッドヒートをする。それで結果的には1位との差も縮まっていく。リレーでは4年生は1周(150m)走るのだが、その間に20mくらいあった1位との差が5mくらいまで縮んでしまった。結果的に4年生の1〜3位がほぼ同時に5年生にバトンを渡した。 
走り終わった留実子と鞠古君が一瞬抱き合おうとしてからお互い照れるようにし、結局握手をしていたが、千里と穂花は留実子が凄く嬉しそうな顔をしているのを見て、また顔を見合わせていた。
 

6月には遠足が行われた。1年は晴日公園、2年は黄金岬、3年は運動公園、4年は白銀丘、5年は神居公園で6年は黒銅山と少しずつ距離が長くなっている。実際問題として4〜6年生は半ば登山である!
 
1〜3年生は9時出発だったのだが、4〜6年生は8時集合の8時半出発で、遅刻常習犯の子数人は出発に間に合わないのでは?と結構ひやひやさせられた。 
行方不明者が出ないように!?5〜6人単位で班を作っており、その班単位で行動する。班はだいたい男女比が半々くらいになるようにしてあって、千里は蓮菜・留実子・田代君・鞠古君・高山君という「男子4人女子2人」の班に入った。1組は男子16人女子11人なので、男3女2の班が3つと、男3女3の班、男4女2の班ができるのである。
 
「これ男4女2なんだっけ?」
とリーダーでクラス委員の高山君がメンバーを見回して言う。
 
「まあ数え方によるかな」
と田代君。
「男6女0という説から男2女4という説まで諸説ある」
と蓮菜。
「なぜそんなに変動する!?」
 
途中迷うような道は無いし、1組の担任我妻先生が先頭、2組の担任近藤先生が最後尾を歩き、途中に体育の三国先生が入って、念のため各班のリーダーにはGPSも持たせている。
 

千里たちの班は1組担任の我妻先生の直後を歩いていた。
 
幼なじみの田代君と蓮菜は、何となく横に並んで、おしゃべりだか喧嘩だかよく分からないようなやりとりをしながら歩いている。千里はさりげなく高山君の横に並び、先日の運動会の話から始めて、高山君がやっているテニスの話題なども振り、彼をうまく乗せて色々話をさせた。
 
そして結果的に留実子と鞠古君が並ぶ形になる。ふたりはどちらもあまり普段おしゃべりなどするタイプではないので、結構無言で歩いていたようだが、その内、鞠古君が、以前留実子が住んでいた夕張の話など訊いたりしていた。しかし留実子は夕張でのことをあまり話したくないような雰囲気もあり、それもすぐに話題が止まってしまって、ふたりはまた無言で歩いていた。千里が見かねて、斜め後ろを歩いている鞠古君に彼が参加しているミニバスの話題を振ってみた。すると彼は試合での面白エピソードなどを話し始め、留実子がそれに相槌を打ったりして、何とか会話が成立していったようであった。
 

千里たちのそんな様子を少し先を歩く我妻先生は微笑みながら見ていたようであった。
 
6人は先頭を千里と高山君、その後に留実子と鞠古君、最後に蓮菜と田代君という並びである。
 
事件が起きたのは出発してから1時間ほどした頃であった。三国先生は密かにビールを持って来ていたようであった。それを近くを歩いていた男子がうまく乗せて、飲ませてしまったのである。すると先生はどうも「ブースト」してしまったようで、かなりハイテンションになり、先日の運動会での不満をしゃべり始めたかと思うと、1組の後ろの方で遅れがちになっていた女生徒のお尻を叩いて「こらもっとしっかり歩け」などと言ったりしていたらしい。
 
三国先生の行動に不快感を覚えた5班のリーダー佐藤君は我妻先生に注意してもらおうと、班の統率をしっかり者の佐奈恵に任せて、ペースを上げ1班のところまで上がってきた。そしてそのことを我妻先生に報告した。
 
すると先生は眉をひそめ、
 
「高山君、ちょっと先頭をお願い。GPSあるから道は大丈夫だよね?」
と言う。
「はい。大丈夫だと思います」
と高山君は答えたのだが、我妻先生は知らなかったのである。
 
高山君が大の方向音痴であることを!
 

佐藤君か後方にいる2組の近藤先生ではなく先頭にいる1組の我妻先生を頼ったのは、最後尾の先生が抜けた場合に、遅れた子が道に迷ったりしては危険なので先頭の先生の方が問題は少ないだろうと判断したからである。
 
それは常識的には正しい判断である。しかし佐藤君も高山君の方向音痴を知らなかったのである。
 
我妻先生が佐藤君と一緒に後ろに降りて行く。その間、千里と高山君は先頭を歩き、山道を進んでいった。
 
「この坂きついね」
「一気に上っちゃおうよ」
「なんか2班と離れてるよ」
「迷うような道は無いし大丈夫だろう」
 
などと言いながら坂道を上る。
 
その坂を登り切ってから更に5分ほど経った頃のことであった。
 
「ね?後ろ、まじで誰も来てないと思わない?」
と蓮菜が言った。
 
「え?」
と言って千里と高山君は足を止め後ろを振り返る。
 
ここはちょうど五叉路になっている所であった。
今来た方角を見ていたのだが、確かに誰も来ていない!
 
「遅れているということは?」
「やはりさっきの坂がきつかったから少し休んでいるのでは?」
 
などと言って6人はしばらくそこに立ち止まって待ってみた。
しかし誰も来ない。
 
「もしかしてはぐれた?」
「それってはぐれたのは2班以下?」
「それとも私たち?」
 

「高山、GPS見てたんじゃないのか?」
と田代君が訊く。
 
「ごめーん。何も考えてなかった」
「ルートは赤い表示が出てると言ってたぞ。そのルートに乗ってないの?」
「実はこれの見方よく分からなくて」
と高山君が情けないことを言い出す。
 
「分からないなら分かる奴に持たせろよ。ちょっと貸せ」
と言って田代君が高山君からGPSを取ろうとしたのだが、その時、高山君は田代君に端末を渡そうとして手が滑ってしまった。
 
「あっ・・・・」
「あぁぁぁぁ!!」
 
GPSが下に落ちて、そのまま横の斜面を滑り落ちて行ってしまったのである。 
「俺取ってくる」
と高山君が言ったが
 
「やめろ。危険だ」
と留実子が制止する。
 

「やはり、俺たちが迷ってるのかな」
と鞠古君が言う。
 
「そんな気がする」
 
「じゃどうする?」
「今来た道を戻れば元の道に戻れると思う」
と鞠古君。
 
「今来た道が本当に分かる?」
と蓮菜が訊く。
 
「うーん・・・」
 
「下手に動き回るのはよくない。できるだけ安全な場所で見つけてもらうのを待った方が良い。たぶんもう俺たちがいないのに先生たち気づいて、何か手を打っていると思う」
と田代君が言う。
 
「ごめーん。俺がしっかりしてなかったから」
高山君。
 
「いや、クラス委員だから責任感を持つのはいいんだけど、不得手なことは無理せず、他の人にさせた方がいい」
と留実子。
 

千里はリュックのポケットから家の鍵を取り出した。そしてそのキタキツネのキーホルダーの付いた鍵を手で握り、しばらく目をつぶり腕を組んで考えるようにしていた。
 
そして言った。
 
「みんなの居る方に向かって行けばいいと思う」
 
「みんなの居る方って?」
「こちらの道だよ」
と言って千里は左手を伸ばして五叉路のひとつを指さす。交差している道の中でも特に細い道だ。
 
「なぜ分かる?」
「みんなの声のようなものが聞こえるんだよ」
 
蓮菜と田代君が顔を見合わせた。
 
「聞こえる?」
「何も聞こえない」
「鳥のさえずりとか、リスか何かの動く音とかは聞こえるけど」
 
留実子が言う。
「みんながそちらの方にいるとしてもだよ、その道が途中で切れていたらどうする?」
 
「でもここからみんなの居る所まではずっと尾根が続いているよ。行けると思う」
 
「なぜ分かる!?」
「だって見えるじゃん」
 
「俺には見えん!」
 
すると留実子が少し考えて言った。
 
「僕はタマラから聞いた。小学1年生の時、スキーをしていてタマラたちが他の子たちとはぐれた時に、千里がみんなの居る所まで連れて行ってくれたって」
 
「うん。あの時もみんなのいる場所が分かったんだよ。やはりみんなの声のようなものが聞こえたんだ。今も聞こえてる。たぶん、みんなはまだ私たちがはぐれていることに気づいてない気がする」
と千里。
 
「よし。じゃ20分だけ動いてみよう。それで他の子たちと合流できなかったら、できるだけ安全な場所で救援を待つ」
と田代君が言った。
 
「うん、そうしようか」
と鞠古君も賛成し、それでみんなは千里の言う方角に歩いて行くことにした。 

「でも千里、手に何持ってるの?」
と蓮菜が訊く。
 
「家の鍵だよ」
と言って、それを見せる。
 
「何の意味があるの?」
「まあ、お守りかな」
「へー。あ、このキタキツネのキーホルダー可愛いね」
 
「それと同じデザインの髪留めも持ってるよね?」
と留実子が言う。
 
「うん。同じシリーズなんだよ。叔母ちゃんから東京のお土産にもらったんだ」
「ふーん」
 

「でも千里もさっきは先頭に立ってたのに」
と蓮菜は言う。
「ごめーん。普段はこの手の感覚は眠らせているんだよ。だっていつもこういう声が聞こえてたらうるさくてたまらないもん」
と千里。
 
「それ、声というより波紋みたいなものかな」
と高山君が言う。
 
「あ、それに近いかも知れない。声そのものというより、声の振動の余波みたいなのが伝わってくる感じなんだよ。けっこうみんなの感情も分かる。凄く楽しそう。だから誰も私たちに非常事態が起きていることに気づいてないと思ったのよね」
 
この感覚を千里は後に「波動」と呼ぶようになる。
 
千里は山道をすいすい歩いて行く。
 
「ちょっと待って」
「もう少しゆっくり」
 
「千里、運動会の徒競走では女子の組で走ってビリだったのに」
「結構体力あるじゃん」
「ここだけの話。私、か弱い女の子で居たいから」
「なるほどー」
「手を抜いているのか」
「えへへ。みんなには内緒でね。借り物競走は順番が分からなくなって適当に走ったら一位になっちゃった」
 
「千里、歌が下手なのもフェイクだろ?」
と留実子が言う。
「内緒」
 
「村山、そもそも本当は男だっての自体もフェイクで、本当は本物の女なのを女のフリしている男だということにしてるだけなんじゃないのか?」
 
と鞠古君が言う。
 
「ごめん、今のことば、意味が分らなかった」
「うん。実は俺も言っている内に自分で訳が分からなくなった」
「で、千里は本当は男なの?女なの?」
 
「内緒」
と千里は微笑んで答えた。
 

千里たちが山道を10分ほど歩いていた時、前方に人影が見えた。
 
近づいて行くと、どうも40代くらいの女性だが、座り込んでいるように見えた。 
「こんにちは、どうかなさいました?」
と蓮菜が声を掛ける。
 
「斜面から滑り落ちてしまったんだけど、足にツルが絡まっちゃって」
 
みると右足に植物の蔓が絡んでいて、取れないようである。
 
「鞠古、お前サバイバルナイフ持ってなかった?」
と田代君が訊く。
 
「うん。持ってる」
と言って鞠古君は荷物の中からナイフを取り出すと、その女性の足に絡まっているツルを切ってあげた。
 
「ありがとう!助かった」
「この付近の方ですか?」
「住んでいるのは深川なんだけどね。元々留萌の出身なんでこの付近はよく来るのよ。慣れた山なんでひとりで山菜採りに来てたんだけど、参ったと思ってた。持ってた鎌は斜面の下に方まで落ちて行っちゃったし」
 
「歩けます?」
「何とか」
 

女性はこの付近の山道のつながり方を熟知していた、その人の案内で千里たちはそのあと5分ほどで登山道に戻ることができた。
 
千里たちがいきなり脇道から出てきたので、近くにいた最後尾を歩く2組担任の近藤先生がびっくりする。
 
「お前たちどこ行ってたの?」
「すみませーん。迷子になってました」
「よく戻って来たな」
「この方に案内してもらいました」
と千里が言う。
 
「いや、私もトラブっていて、この子たちに助けてもらったんですけどね」
と女性は言う。
 
女性はもう山菜採りを中止して下山するということだったので、お気を付けてと言って別れた。
 
「私たち、GPSを斜面に落としてしまったんです」
「ありゃりゃ。でもうまく慣れている人と会えて良かったな」
 
「ではがんばって先頭まで上がっていきます」
「お前たち先頭だったの?」
「そうなんですけど、先頭だからうっかり違う道に入ってしまったみたいで」
 
その時、近藤先生の携帯に着信がある。
 
我妻先生からで、三国先生をきつく注意してから先頭に戻ってみると、2班が先頭になっていて1班が見当たらない。ずいぶん速く行ってしまったのだろうかと相談する電話であった。
 
それで近藤先生が
「1組1班ならここにいる」
と答えると、我妻先生はびっくりしていたようであった。
 
結局1組1班は無理して先頭まで上がらなくても、そのまましんがりを歩いて目的地まで行けばいいということにしてもらった。
 

「でも僕たちが道に迷っていなかったら、あの女性はやばかったよね」
と高山君が言う。
 
「まあ怪我の功名って言うんだっけ?」
と蓮菜。
 
「世の中、うまくできているんだね」
と留実子は言っていた。
 
「結果的には高山の方向音痴のおかげで、あの人は助かったことになる」
と田代君。
 
千里は微笑んでいた。
 

この事件の後、高山君はクラス委員の辞任を申し出たのだが、誰にも失敗はあるし不得手なこともあるから、今後気をつけて、また不得意なことは誰かできそうな人に頼るようにしようということで慰留され、高山君もまた頑張ると言った。そして遠足中に酔っ払った三国先生は校長先生から厳重注意を受け、始末書を提出したらしい。
 

我妻先生が千里や留実子の性別に気づいたのは、この遠足の後、6月下旬に保護者面談をしていた時であった。
 
留実子の場合。
 
「でもルービッシュ君は男らしくて元気ですね。男子たちの中でもみんなから頼りにされているみたいで」
と先生が言ったのに対して
 
「ルービッシュ?それ誰です?」
と留実子の母。
 
「え?花和君のお名前、ルービッシュとお読みするんじゃなかったんでしたっけ? ご本人はロシア人とのクォーターとか言っておられましたが」
 
「いえ、うちのは普通にるみこですが」
「え!?」
「ロシア人とのクォーターとかどこから出てきた話ですか?うちの親も夫の親もふつうに日本人ですけど」
「え〜〜〜!?」
 
そういうやりとりがあって、ルービッシュというのは留実子の冗談であったことが判明し、留実子の性別も実は女であったことが判明した。
 
「ただ、あの子、自分が女の子であることに違和感を感じているんですよ。男っぽい行動、女の子らしくない言動があっても、ある程度大目に見てあげていただくと助かるのですが」
 
「分かりました。でも花和さん本当に男らしいから、てっきり男の子と思い込んでいました。大変申し訳ありませんでした」
 

そして千里の場合。
 
「でも千里さんって美人ですよね。こういうこと言うのはセクハラになることを承知で言いたくなってしまいます。5年生の男の子からラブレターもらってしまったけど、どうしましょうか?なんて相談も受けたんですよ」
 
と先生が言うと
 
「あの子、小さい頃からそんな感じで。結構女の子みたいに見えるから、1年生の頃も、あの子の性別を知らない男の子から『僕のお嫁さんになってよ』とか言われて戸惑ってたみたいですけどね」
 
と千里の母は答えた。
 
「女の子みたいに見えるって。。。。女の子ですよね?」
「いえ男の子ですけど」
「え〜〜〜!?」
 
「で、でも運動会の時はスカート穿いてチアガールしてましたけど」
「まあ女の子の服を着るのは好きみたいですから。本人がそういうのしたいと言っていたら、良かったらさせてあげてください」
 
と千里の母は微笑んで言った。
 

そういう訳で最初留実子の性別を知った時に、放送委員を組み直さなければならないのではと思った我妻先生は、千里の性別も知って、そのままで良いことを認識したのであった。
 
我妻先生はあらためて学籍簿を見たのだが、留実子の性別は女、千里の性別は男としっかり記載されており、ガーンと思った。しかし結局1組は男子16名・女子11名ということになる。
 
でもあの子たち、身体測定とかどうしてたんだっけ?と思って保健委員の田代君に尋ねてみると
 
「ああ、それは村山と花和の診断票を琴尾(蓮菜)と交換していましたから大丈夫です」
と田代君は答え
 
「ごめんねー」
と先生は謝っておいた。ただ実際には千里はちゃっかり女子と一緒に身体測定を受けていることまでは言わなかった。実際千里を男子と一緒に測定を受けさせるのは問題がありすぎると田代君は考えていた。
 
蓮菜と田代君は、実際には千里は肉体的にも既に女子になっているのではと想像していたのである。
 
 
前頁次頁目次