【娘たちのムスビ】(3)

前頁次頁目次

1  2  3  4 
 
この日はこの食事会が終わった後、アクアに玲羅と理歌が同乗して札幌まで行き、その後、千里と貴司だけで新千歳空港まで行って、千里は貴司を見送った。
 
貴司は伊丹行きに乗って千里(せんり)のマンションに帰る。
 
新千歳18:15-20:10伊丹20:43-20:55千里中央
 
そして千里(ちさと)はそのままアクアを運転して登別(のぼりべつ)に向かった。
 
地理的なことを言うと、札幌から見て100kmほど北東に旭川があり、留萌は旭川の60km西である。新千歳は札幌から30km南東。先日フェリーで使用した苫小牧(とまこまい)は新千歳の20km南にあり、登別は苫小牧から50km南西になる。登別のそばに室蘭(むろらん)がある。
 
その日は登別の温泉旅館に泊まった。
 

翌27日、宿に車を置かせてもらったまま、旅館の送迎バスで登別駅まで行き、ここから更に登別オフロードパークの送迎バスに乗ってパークに行く。
 
この日ここでスノーモービルの講習会を受講することになっていた。これも雨宮先生からの指示でスノーモービルのライセンスを取りに来たのである。
 
スノーモービルは原動機とキャタビラーの付いたソリであるが、法令上は《普通自動車》とされ、普通運転免許を持っていれば運転することはできる(公道でない所を走る場合は免許も不要)。しかし実際には、車よりバイクに近く、しばしば《雪上のバイク》と呼ばれる。なお、多くのスノーモービルは雪上以外で走らせようとすると壊れる(基本的にソリなので)。
 
国内ではスノーモービル製造大手のヤマハが独自のライセンスを発行しており、今回の先生の指示はこれを取っておいてくれということだったのである。
 
しかしまあ昨年秋から色々取らされているなと思う。自動二輪、大型二輪、B級ライセンス、そしてスノーモービル・ライセンス。
 

受講者は今日は7名であった。送迎バスで来た人が5人と、自分の車で辿りついた人が2人である。
 
最初しばらく講義があった後、すぐに実技に入る。構造も乗った感じもやはりバイクに似ている。千里はすぐに思うように動かせるようになった。
 
「うまいね。やったことある?」
「いえ。バイクでは雪の上も走るんですけどね」
「それは逆に凄い!」
 
10分ほど基本的な操作を学んだ後は、すぐに実走させることになる。受講者みんなで並んで走って行く。千里はうまいので最後を走ってと言われた。
 
立ててあるポールを回っていったりするが、回りきれずに通過してしまう受講者も最初は多かった。しかしみんな次第にうまくなっていった。30分ほど実技を楽しんで講習会は終了である。
 
しかし30分程度の走行では物足りない人も多く、あらためてスノーモービルをレンタルして楽しもうという人が多かった。千里も2時間レンタルして自由にパーク内を走らせて、感覚を自分の身体に覚え込ませた。
 

2012年3月3日(土).
 
千里たちローキューツのメンバーは千葉市内の体育館で千葉県冬季クラブ大会の決勝トーナメントに出た。先日の予選リーグはこのような成績になっている。
 
A組 1.ローキューツ 2.サクラニャン 3.暴走ギャルズ
B組 1.サザン・ウェイブス 2.フドウ・レディース 3.フェアリードラコン
 
それで2位以上が決勝トーナメント進出して今日はこのような組み合わせで行われる。
 
A1ローキューツ━━┓
B2フドウレディ━━┻┓
A2サクラニャン━━┓┣
B1サザンウェイ━━┻┛
 
今回のローキューツはシェルカップと日程がぶつかり、ABチームに分けた関係でこの大会に参加しているのは強い子ばかりである。
 
つまり手加減のしようがない。
 
午前中のフドウレディスとの戦いは圧勝であった。
 

午後からは決勝戦となるが、相手はサザンウェイブスである。昨年のこの大会では準決勝で当たったのだが、今回は決勝戦になった。昨年9月のクラブ選手権の決勝でも当たっている。
 
勝負は第1ピリオドでついてしまった感じもあった。このピリオドは
 
国香/千里/麻依子/翠花/誠美
 
と最強ラインナップで臨んだので、6-32という恐ろしいスコアになり、それで向こうは戦意喪失してしまった。あとは千里・誠美は下がって他の子たちを順次出して行ったものの、点差がどんどん広がっていった。
 
そういうことで、今回の冬季クラブ選手権もローキューツが圧倒的な強さで優勝した。
 
「私、このチームでベンチに座れる自信が無い」
などと見学していた揚羽が言うので
 
「揚羽ちゃんはずっとオンコートしているからベンチに座る暇無いだろうね」
と麻依子が言う。
 
「えっと、そういう意味ではなくて・・・」
 
「まあ、私とか麻依子とか、ごっそり抜けるから後をよろしく」
と千里は言っておいた。
 

この日、千里は20時半頃まで打ち上げに出席した。その後、《こうちゃん》にインプで送ってもらい、都内のホテルに行く。
 
メールしてもらっていた番号の部屋の前まで行き、携帯を鳴らす。
 
ドアが開く。
 
「ハッピーバースデイ」
と貴司は言って千里に抱きつく。
 
「ドア閉めてから!」
と言って貴司を中に押し込むようにする。後ろでドアが閉まる。
 
ふたりはそのまましばらく抱き合っていた。
 
「疲れたから取り敢えず座ろうよ」
 

それで貴司は袋の中からお菓子の箱を取りだした。
 
「指輪をもらったから、今回のバースデイプレゼントはそれで兼用と言われたけど、これはホワイトデーね」
 
「あ、神戸プリン好き〜。一緒に食べようよ」
「うん」
 

「でもこないだの合宿で刺激されたから、毎朝2kmの周回コース3周走って、夜帰宅してからも道路のそばでドリブル練習してる」
 
と貴司はプリンを食べながら言った。
 
「道路のそばでやるなら騒音関係無いね」
「そう思って道路でやってるんだよ」
 
「結婚したら郊外に家建ててさ、練習場を併設しようよ」
「それ幾ら掛かるの?」
「ハーフコートくらいの大きさなら6000万円程度で建てられるよ」
「意外に安い気がした」
「要するに少し大きな物置なんだよ」
「なるほどー!」
 

「そうだ。これ忘れない内に」
と言って貴司はポチ袋に入った!指輪を2個取り出す。
 
「なんか凄い物に入っている」
「触ってごらんよ」
「これプラスチック〜!?」
「見た目はプラチナかホワイトゴールドって感じなのにね」
「つまりおもちゃなんだ?」
「うちの新製品だよ。サンプルにってもらった。くれるならというのでサイズはひとつは千里の指に、ひとつは僕の指に合わせて作ってもらった」
「へー」
 
「一応1個5000円で売り出す予定。これはサンプルだからタダだけど」
「プラスチックに5000円!?」
「でも見た目はプラチナだから。これは金属アレルギーで金属の指輪が付けられない人向けのマリッジリングとして売り出す予定なんだよ」
 
「なるほどー!」
「表面はうち得意の薄膜技術でこの色を出している。まるで金属状の表面処理をしていて、金属みたいな光沢があるし、よくある塗料とか塗ったものではないから、日常的につけて家事とかしていても色が剥がれたりはしない」
 
「それはけっこう凄いことかもしれない」
「今きれいに色が出ているのはこのプラチナ色だけなんだよ。ゴールド色は開発中。そちらはまだ真鍮っぽいんだよね。それでこちらをもらってきた。プラチナみたいなプラスチックでプラスチーナ」
 
そう言って、貴司はそのプラスチック製というよりビニールという感じの指輪を千里の左手薬指に付けてくれた。千里も貴司の左手薬指につけてあげた。
 
「相手の指に指輪をつける時って『これ私のもの〜!』って印を付けている気分になるね」
と千里は言った。
「いや、指輪というのはそういうものだと思う。所有マーク」
と貴司。
 
「確かに。私は貴司に所有されたのね」
「僕は千里を所有しているつもり」
「他の女の子まで所有しないのなら、貴司に所有されていたいな」
 
「自粛する。それで、よかったら付けた感想をレポートしてくれると嬉しい」
「モニターかぁ!」
「実はそうなんだけどね」
 
「ティファニーの15万くらいするマリッジリング買うのやめてこれにする?」
と千里が言うと
「いや、本物はティファニーで」
と貴司。
 
「つまりこれは普段着か!」
「あ、そういうコンセプトで提案するのもいいな」
と言って貴司はメモを書いていた。
 

2012年3月5日。日本バスケットボール協会がお引っ越しをした。それまではJOCをはじめとして、多くの競技団体が入っている、代々木の岸記念体育会館にあったのが、西五反田の第2オークラビルに移動した。
 
岸記念体育会館は1964年の前回の東京五輪の時に建てられたビルであり、既に48年近く経っている。かなり老朽化しており、千里はここに何度も行っているが、今にも崩れ落ちるのではと不安であった。
 
それがやっとバスケ協会はここを出て、もっと崩れなさそうな!ビルに移転したのである。
 
ちなみに岸記念体育会館は2018年現在もまだ使用されていて、多数の競技団体が入ってる。2020年の東京五輪の時までには建て替える予定ということである。
 

3月9日、千葉市のC大学で合格発表があり、彪志はしっかり合格していた。
 
青葉はその日の授業が終わるとすぐに帰宅し、母の車で高岡駅に向かった。一ノ関に行く。
 
高岡16:44-18:52越後湯沢19:0019:46大宮19:54-21:44一ノ関
 
むろん彪志の家に泊めてもらう。
 
それでふたりは“合格のご褒美”と称して、8月9日以来7ヶ月ぶりのセックスを楽しんだ。
 
(青葉と彪志は昨年7月3日にサンライズ出雲の車内で初めてのセックスをした。その後、8月4日から9日に掛けて、高岡→岩手→東京と移動しながらのロングデートの間に2度セックスした。だからこれはふたりにとってまだ4度目のセックスである)
 
青葉はこの日、お遊びで“簡易性転換パッド”を使用して、彪志に入れる感覚を楽しんでもらった。
 

3月10日。
 
この日、千里と桃香は東京駅を6:04の新幹線に乗ることにしていた。
 
「そういう訳だから私は千葉駅を5:06の電車に乗るつもり」
と桃香は言った。
「私は都内にいるけど、その時刻までには東京駅に行くよ」
と千里は言って電話を切ったのだが、その後で千里は「ものすごーく」不安を感じた。
 
桃香は朝に弱い。桃香の奥さんになった季里子もお寝坊さんのようである。つまりあの組合せは遅刻ペアだ!
 
千里は再度桃香に電話した。
「桃香が朝起きられるか不安だから、私そちらに迎えに行くよ」
「ほんと?それなら安心かも」
 
それでこの日千里は千葉のアパートの方に泊まり、朝から季里子のアパートまでインプレッサで走ってドアを叩いて桃香を起こした。それでまだ眠そうにしている桃香を連れ出す。下着姿の季里子が嫉妬するような視線でこちらを見ている。
 
それでまだ半分眠っている桃香を後部座席に乗せて東京駅に向かい、近くの駐車場に駐めた。
 
それで無事ふたりで6:04の新幹線に乗ることができた。
 

この日は青葉の家族の一周忌をすることにしていた。本来は3月11日なのだが、3月11日に一周忌をする所がたくさんあるのでお寺さんがとても手が回らず、お寺さんにとって《内輪》の青葉の所は1日ずらしてくれと言われて10日にすることにしたのである。
 
最初は青葉・朋子・彪志・桃香・千里・それに佐竹慶子くらいの、本当に内輪でやるつもりだったが、地元の友人・小沼早紀が出ると言い出し、その話を聞いた、早紀にライバル心を持っている高岡の友人・石井美由紀が出ると言い出し、その後、話はどんどん大きくなっていく。
 
話はどんどん広がり、結局、こういう人たちが下記のルートで集まってきた。
 
3/10 大船渡在住(5)
 小沼早紀と母・海老名椿妃と母、佐竹慶子
 
早紀と椿妃は祭壇の準備なども手伝ってくれた。
 
3/10 八戸6:34-7:03盛岡↓に合流 (4)
 菊池咲良と母
3/10 盛岡から
 佐竹真穂 咲良と母、礼子の友人・浅沼を乗せて自家用車で大船渡へ(9時半頃着)
 
この車は慶子のライフをあらかじめ盛岡に持って行っておいたものである。そして運転は実際には若葉マークの真穂ではなく、ベテランドライバーの浅沼さんがしてくれた!
 
盛岡在住の浅沼さんは長年女性として暮らしており、前妻を亡くした子連れ男性と事実婚して“お母さん”としても頑張っているが(「浅沼」もその内縁の夫の苗字)、礼子の同級生だった頃は学生服を着た美少年だったらしい(葬儀の時に彼女の友人が言っていた話)。昔は女性ホルモンなども入手できなかったので身体は男性化してしまっているものの、女子トイレなどで騒がれたことは無いし、プールではふつうに女子更衣室を使うし、ちゃっかり女湯に入ったことも2度あるらしい。せめて去勢くらいしたいが手術代が無いと言っていた。
 
子供には絶対に男性器を見せないようにしているという。タックしているので子供にお股を触られても付いていないように感じる。最近女性ホルモンを飲み始めたのでバストは微かに膨らんでいるらしい。しかし女性ホルモンを飲み始めて一番良かったのは、男性器が勃起しなくなったことだと言っていた。それだけでも物凄く気持ち的に楽になったらしい。
 
MTFには見た目が若い人がわりと多いが、この人も礼子と同い年ということは43歳のはずなのに、まだ32-33歳に見える。
 
「礼子ちゃんって、昭和43年の十勝沖地震の当日に生まれたんだよ。地震のショックでお母さん(川上市子:今回の震災で死亡)が1ヶ月の早産で産んだ。それがまた地震で亡くなってしまうって、不思議な運命の人だ」
 
と浅沼さんはしんみりと言っていた。
 

3/10 一ノ関→車(エディックス)で大船渡へ (8時頃着) (3)
 青葉・彪志・彪志の父
3/9 出雲18:55-3/10 7:08東京7:56-10:22一ノ関→彪志の母の車(CR-V)で大船渡へ(12時着) (3)
 藤原直美夫妻。
 
彪志の母・文月は普段は軽に乗っているのだが、それでは人を乗せるには狭いので彪志の父・宗司のCR-Vを使用した。それで宗司は自分のお店で代車用に確保している車の中から、エディックスを(無料で!)借りだして、それに青葉と彪志を乗せて大船渡に向かった。この3人が一番早く現地に着いた。エディックスを使ったのは、6人乗りなので使い手があると思ったからである。
 
3/10 東京6:04-9:04新花巻→レンタカー(プリウス)で大船渡へ(11時頃着) (3)
 桃香・千里
3/10 新千歳8:05-9:05花巻空港↑に合流
 越智舞花
 
最初桃香と千里は藤原夫妻の東京到着を待ち、ふたりと一緒に一ノ関まで行ってレンタカーを借りるつもりだった。ところが舞花が来るということが分かり、お嬢様の舞花を空港で待たせる訳にはいかないので、舞花を拾えるように朝一番の新幹線で花巻に向かったのである。それで藤原夫妻は彪志の母が対応してくれることになった。
 
そして千里は大船渡に着くと、桃香と舞花を降ろしてから、すぐにプリウスで一ノ関に向かった(実際には一ノ関まで運転したのは《こうちゃん》)。
 
3/10 高岡6:32-8:41越後湯沢9:07-10:02大宮10:06-12:14一ノ関→プリウスで大船渡へ(14時着) (3)
 朋子・美由紀・日香理
 
12:25頃に千里が到着したので、その車に乗って大船渡に向かったが、千里は花巻→大船渡→一ノ関と走って疲れているはず、と言って朋子が運転してくれた。
 
この朋子たちの行程は、とても微妙な連絡で、越後湯沢到着後、8:49の《とき310》に乗らずに次の9:07《とき312》を待つのが“ミソ”である。《とき312》に乗れば↑のように大宮で10:06の《やまびこ55》をキャッチできるが《とき310》に乗ってしまうとこの列車は大宮に停まらず東京に直行してしまうので《やまびき55》に間に合わず、次の《やまびこ57》13:14一ノ関着になってしまい到着が1時間遅くなってしまうのである。遅い便に乗った方が早く到着できるという不思議な連絡になっている。
 
なお、美由紀と日香理の交通費は「去年の香典がまだ余っているから」と言って、朋子が出している。
 

3/08 高知から自家用車で大船渡まで(10日朝9時頃到着) (1)
 山園菊枝
 
直美夫妻に大阪あたりから乗っていかない?と声を掛けたものの、菊枝の荒い運転のことは昨年の葬儀の後で、仲間内で悪評が広まっていたこともあり、ふられてしまった。それで仕方なく、ひとりでのんびりと走って来たが、青葉たちの次に早く到着した。
 
3/10 石巻に滞在中→自家用車で大船渡へ (2)
 和美と淳
 
時刻は分からないが来るということだった。和実たちは翌日3月11日にオープン予定の姉の美容室の準備に駆り出されている。
 
3/10 気仙沼→時刻は分からないが顔を出す (1)
 白石(父の友人)
 
 
合計25名
 
主な欠席者:冬子・政子・あきら・小夜子
 
この他に、祖父母の知り合いたち、青葉の友人たち、未雨の友人たちが合計30人くらい来てくれた。
 

お昼の時点で居たのは下記18名である。
 
 小沼早紀と母・海老名椿妃と母、佐竹慶子
 菊池咲良と母、真穂、浅沼
 青葉・彪志・彪志の両親・藤原夫妻
 桃香・越智舞花、 山園菊枝
 
とりあえずこのメンツに仕出しのお弁当を配り、お昼を食べる。
 
「お坊さんは何時頃、いらっしゃるの?」
と文月が訊くが
「たくさん回らないといけないので分からないそうです」
と青葉が答える。
 
この場では朋子がまだ到着していないので、文月が実質的な喪主後見人を務めていた。
 
「今日中には来てくれるんだっけ?」
と早紀の母。
「行けなかったら御免と言われてるんです。うちは住職の親戚だから優先度が低いから」
と青葉。
 
「え〜〜!?」
 
「坊さんが来なかった時は来なかった時だな。幸いにもお経を唱えられる人が数人いるし、そのメンツで回してお経をあげていたらどうだろう?」
と桃香が言う。
 
「ん?お経を唱えられる人?」
 
「それは私と菊ちゃんと、青葉ちゃんだな」
と藤原直美が言った。
 

それでその3人で交代で導師席に座り、交代で阿弥陀経を読誦(どくじゅ *1)することにした。
 
(*1)「読誦」という単語は普通に「声に出して読む」という意味では「どくしょう」と読まれるが、仏教の経典を読むという意味の時は「どくじゅ」と読む。
 
そして直美が読誦している時であった。
 
「あ、いけない。お布施の袋を用意しておくの忘れた」
と青葉が言い出す。
「それはまずいね」
 
それで青葉は買っておいた香典袋を取り出し、名前を書こうとしたのだが、筆ペンが見当たらない。
 
「誰か筆ペン持ってない?」
と言うと菊枝が
「これを使うといいよ」
と言って自分のバッグからペンを取り出して青葉に渡した。
 
それで青葉は「川上青葉」と名前を書くが
 
「何この筆ペン。異様に書きやすい」
と言う。
 
「うん。それ凄く書きやすいよね。気に入ったら青葉にあげるよ」
「ほんと?もらっちゃおう」
 
それで青葉は菊枝から筆ペンをもらった。
 
「カートリッジは呉竹ので適合するから」
「これ呉竹製?」
「違うけど、呉竹のが適合するように作られているらしい。四国の小さなメーカーの製品だよ」
「へー」
 

そんなことを言っていたが、実際にはこの筆ペンは、元々千里が高校時代に封印の呪符を掌に書くのにもらった佳穂特製の筆ペンである。それを1年前、青葉の家族の葬儀の時に菊枝が千里からもらった(ゆすり取った?)のだが、ここで青葉の手に渡ることになる。この筆ペンはこの年の7月青葉と千里が性転換手術を受ける時に力を発揮することになる。
 
実は今回菊枝が高知からわざわざやってきた最大の理由が瞬嶽の指示でこの筆ペンを青葉に渡すためであった。昨年この筆ペンを千里から取り上げたのも八乙女の恵姫から依頼された瞬嶽の指示である。
 
この筆ペンは千里が使用していたものを、元々は千里のものとは青葉が知らないまま、青葉に渡すことに意味があった。千里から青葉にエネルギーを融通するための内緒の仕掛けである。インドの賢人由来の数珠もあるのだが恵姫は複数のチャンネルを作っておきたいと考えていた。
 
(なお今回菊枝が青葉に筆ペンを渡した時、千里は朋子たちを迎えに行っている最中で不在である)
 
2016年の妖怪アジモド事件の時に妖怪を封印する呪符を青葉が大量に書いた時もこの筆ペンを使用している。
 
なお、菊枝はこの1年間この筆ペンで大量に呪符を書きまくり、多くの事件を処理していたのだが、恵姫は佳穂に言って、再度同等の筆ペンを制作させ、菊枝にあげた。
 

14時頃、朋子・美由紀・日香理・千里が到着したが、その直後に住職もやってきて、慌ただしくお経をあげると「じゃ他に回るから」と言って立ち去った。居たのは5分くらいだった。
 
「しまった。お布施渡しそこねた」
と青葉。
 
「私が後で渡しておくよ」
と慶子。
「すみませーん!」
 
「もう忙しすぎて、どこ回ったかも忘れてるよね、あれ」
「たぶん、うっかり2度行ったりした所もあると思う」
 
住職が来る直前に、青葉の友人たちが5人と、鵜浦さんを含む未雨の友人たち4人が来てくれたので彼女たちは住職のお経を聞くことができた。その後で祖父母の友人たちが来たが、菊枝がお経をあげていたので、特に問題はなかった!
 
「焼香の時に100円玉を置いてった人が何人かいるけど、これどうしよう?」
「焼香銭は宗派や地域で、する所としない所とあるからなあ」
「東北ではわりと少ないのだけど」
「それもお布施と一緒に持って行くよ」
 
和実と淳は住職が帰ると「作業があるから」と言って石巻に戻った。浅沼さんは旦那さんが帰宅するまでに帰りたいということだったので、真穂がライフで盛岡まで送っていった(運転したのは浅沼だが)。白石さんは住職が帰った後に来て焼香をしてくれたが「男手が少ないみたいだから、撤収まで居るよ」と言って残ってくれた。
 

夕方くらいまで、青葉の大船渡の友人がパラパラときてくれた。みんなあちこちの法事を回っているようである。
 
18時で祭壇を撤収(撤収作業は彪志・彪志の父・藤原民雄・白石、および若い子たちでおこなった)。その後、みんなで食事に行く。この食事会の出席者は下記21名である。
 
 小沼早紀と母・海老名椿妃と母、菊池咲良と母、佐竹慶子
 青葉・朋子、彪志・彪志の両親、桃香・千里、藤原夫妻
 美由紀・日香理・舞花、山園菊枝、白石、
 
その後、白石、慶子、早紀の母、椿妃の母の4人が帰り、残りの17人で旅館に泊まり込んだ。部屋割りはこうなっている。
 
早紀・椿妃・咲良/美由紀・日香理/彪志の両親/直美夫妻/菊枝と舞花/咲良の母と朋子/千里と桃香/青葉と彪志/
 
もっとも、青葉と彪志は「セックスできないくらいまで起こしておこう」という早紀の意見で早紀たちの部屋に連れ込まれ、そこに美由紀・日香理も加わって、7人で遅くまで騒いでいたようである。青葉と彪志がこの夜できたのかどうかは定かではない。
 

桃香と千里は同じ部屋に泊まったが、この夜桃香は千里を襲おうとしなかった。
 
「今夜は無事夜を過ごせた」
などと千里が言うが
「結婚したから自粛してる」
と桃香は言う。
 
「指輪とか交換したの?」
「誕生石の指輪を彼女に贈った」
「お、すごい」
「それでこれをふたりでお揃いで買った」
と言って、桃香はプラチナの指輪を取り出す。
 
「結婚指輪なら普段からつけていればいいのに」
「じゃ取り敢えずつけておこう」
と言って桃香はプラチナの結婚指輪を左手薬指につけた。
 
「桃香それしてると浮気防止になる気がする」
「うっ」
 
「千里は彼氏と結婚すると言っていたけど」
「これもらった」
と言って、エンゲージリングを出してみせる。
 
「すげー!石が豪華!負けた!」
「負けなくていいと思う。指輪は贈る人の気持ちだもん。桃香はまだ学生で、私の彼は社会人だから」
 
「そうだよな。結婚指輪はまだ?」
「それは結婚式までには用意するよ。でもこんなのももらった」
と言って、先日もらったプラチナ風プラスチックリングを取り出してみせる。
 
「そちらはプラチナ?」
「触ってみていいよ」
 
「プラスチックかい!?」
 
「プラチナみたいなプラスチックということでプラスチーナ。彼の会社で作っている製品なんだって。金属アレルギーの人のために日常付けていられる指輪、普段着マリッジリング」
「へー!」
 
「プラチナみたいな外見にするのに、発色技法にしても表面加工にしても、凄い技術使っているから、プラスチックなのに5000円もするんだよ」
「高ぇ!」
 
「でもこうやってつけているとプラチナリングに見えるよね〜」
と言って、千里は左手薬指にプラスチック・リングをつけてみせた。
 
「確かにプラチナの結婚指輪しているように見える」
「でしょ?」
 
「私もこれで良かったかも知れん」
「結婚の印がプラスチックでは、寂しいよ」
「まあそれはあるけどね」
「それにさすがに本物のプラチナほどの耐久性は無い。日常的につけていたら多分10年持たないと思う」
「ああ、プラスチックなら、そんなものだろうな」
 

3月11日、朝御飯の席で青葉は桃香と千里が白金色の指輪をつけているのを見た。桃香に訊いてみた。
 
「桃姉たち、その指輪は?」
「ああ、これはマリッジリング。結婚したから」
「へー!おめでとう」
 
青葉は近くで見たのは桃香の指輪だけである。桃香の指輪は確かにプラチナPt900(*1)なので、千里のも当然お揃いのプラチナの指輪だろうと思ってしまった。が、千里がつけていた指輪は、プラスチックである!さすがに近くで見たら金属ではないことに気付いたはずだが、青葉は桃香と千里が愛し合っていると勝手に思い込んでいるので、桃香の「結婚した」というのは「千里と結婚した」ということなのだろうと思い込んでしまったのである。
 
(*1)金の純度は24分率で表すので18金は18/24=75%の金が使用されているが、プラチナや銀の純度は1000分率で表すので、Pt900は900‰=90%のプラチナ、Ag925(Sterling Silver)は925‰=92.5%の銀である。プラチナの割金にはルテニウム、パラジウム、イリジウムなどといった「プラチナ族」の金属が使用されることが多い。
 
(まともな宝飾店の製品では)一般的にパラジウム割が多いが、パラジウムは金属アレルギーを起こしやすい問題がある。アレルギー体質の人はルテニウム割やイリジウム割が良い。なお、イリジウムはプラチナより希少な金属で値段もプラチナより高い。国際キログラム原器はイリジウム割のPt900で作られている。
 
日本では“プラチナ・ジュエリー”を名乗って良いのはPt850以上と定められているものの、市場にはPt750, Pt650, Pt585, Pt505 などといった品位の低い合金も多く出回っている。"585Plat0PGM"は最近ホワイトゴールドの代用品として使用が広まりつつある。0PGMは no platinum group metal つまり非プラチナ族ということで、実際には銅やコバルトである。
 
Pt100などと表示したものも存在するらしいが、100‰=10%であり、メインではない金属で表示すること自体がおかしい。これは千分率ということを知らない消費者が100という数字を見て純粋なプラチナと誤解することを狙っているとしか思えない。
 

この日は午前中に大船渡市が主宰する震災追悼イベントも行われたので、みんなそれにも出席した。お昼を一緒に食べてから解散する。
 
彪志の母がCR-Vに咲良親子を乗せて一ノ関まで行き、咲良親子はその後新幹線で八戸に戻った。
 
一ノ関17:14-17:52盛岡17:26-18:05八戸
 
千里と桃香はホンダ・エディックスを借りて、舞花と藤原夫妻を乗せ花巻空港まで送って行った。エディックスは前3列・後3列という面白い車で、各々の中央の席を後ろにずらして「1.5列目」「2.5列目」とすることができる。そうすることで、実は真ん中の席に座った人が、両隣の人と身体を接触させずに済むのである。
 
実際には、運転席に千里、助手席に舞花、1.5列目に桃香、2列目に藤原夫妻が乗った。車の中央に座ることになった桃香は、飲み物やおやつの中継係!になっていた。
 
「この車おもしろーい!」
と舞花が嬉しそうに言っていた。
 
藤原民雄も
「前列がベンチシートで3人乗れる車はクラウンとかプレジデントにもあるし、外車でもよく見るけど、独立シートで3人というのは珍しいね」
などと言っていた。
 
藤原夫妻は伊丹軽油、舞花は新千歳経由で帰った。
 
花巻15:55-17:15伊丹空港/新大阪18:45-19:30岡山20:05-23:00出雲市
花巻17:25-18:25新千歳
 
藤原夫妻を見送った後は空港内のレストランでおやつを食べながら、新千歳行きの時刻まで3人でおしゃべりしていた。
 

舞花は千里と桃香が左手薬指に指輪をつけているのを見て言った。
「おふたりとも、結婚したんですか?」
「ええ。気持ちの上で」
「ちなみに各々別の人と結婚したんですよね?」
と舞花は確認する。
「そうですけど!?」
 
「いや、違う指輪だからペアリングではないよな、と思って」
と舞花。
 
「私は女の子と結婚する趣味は無いし」
と千里は言う。
 
「私の相手は女の子なんで、式とかも挙げずにと思ったんだけど、友人たちからは式あげたら祝賀会してあげるよとか言われているんで、その気になりつつあります」
と桃香。
 
「ああ、女の子同士でもいいと思いますよ〜」
と舞花。
 
「どっちみち彼女の親に挨拶しに行かないといけない。たたき出されるかも知れないけど一度行ってきます」
と桃香。
 
「それ怒鳴られても叩き出されても、行っておく意義は大きいと思う」
と舞花も言う。
 
千里はそれって自分の父へのカムアウトも同じだよなと思った。父が自分の性別変更と男性との結婚を許してくれるはずもないが、言いに行く必要がある。
 

「私は自分の好きな人と結婚とかさせてもらえない気がする」
と舞花が言うと
「お金持ちは大変ですね!」
と千里も桃香も同情するように言った。
 
桃香が「千里のつけてる指輪おもしろいですよ」と言うので千里は指輪を外して舞花に見せてあげる。
 
「プラスチックだったのか!」
 
「まるでプラチナに見えるプラスチックということで、プラスチーナというんですよ。金属アレルギーの人のための普段着リングということで」
 
「千里さん、金属アレルギー?」
「アレルギーではないですけど、彼氏の会社の製品なんで、今モニター中なんです。本物は夏に買う予定です」
「なるほどー!」
 
千里は貴司からもらったパンフレットも舞花に渡しておいた。
 
「千里、エンゲージリングも見せてあげるといい」
「うん」
 
それで千里がバッグから取りだして見せると
「すごーい!石が大きい!」
と言う。
 
「舞花さんはそれの倍くらいのエンゲージリングをもらうといいですよ」
「ああ。そういうの要求するのもいいなあ。相手が選べないのなら、せめてそういうのでこちらの要求を通させてもらおう」
 
「ですです」
 

千里と桃香は舞花を見送った後、エディックスを一ノ関まで回送して宗司のお店に返却する。そして、この便で帰った。
 
一ノ関19:28-22:00東京
 
東京駅近くの駐車場にインプレッサを駐めていたので、桃香を乗せてバイト先に連れて行って下ろした。桃香は今夜は夜番である。
 
「サンキュ、サンキュ」
「お疲れ様〜」
 

青葉と朋子、美由紀・日香理はその日も大船渡に泊まり、早紀・椿妃と遅くまでおしゃべりをしていた。そして翌12日、一昨日千里が花巻で借りたプリウスに4人で乗って一ノ関まで行き、駅前のトヨレンで乗り捨て返却してから、JRで高岡に帰還した。
 
一ノ関18:06-19:58大宮20:36-21:21越後湯沢21:30-23:38高岡
 
さて、菊枝であるが、実は3/11の昼過ぎ、菊枝のパジェロイオに彪志の父と彪志が同乗させてもらい東京に向かったのだが、運転は彪志の父がした!
 
彪志たちは都内は難しいので宇都宮付近で降ろしてもらえればと言っていたのだが、菊枝は、こちらは何も予定は無いからと言って千葉に寄っていきましょうと言った。
 
それで安達太良SAで休んだ後、磐越道で常磐道方面に行き、守谷SAで夕食を取ったあと、更に南下。柏ICで降り国道16号を走って千葉市内に22時すぎに到着した。ちょうど千里と桃香が東京駅に到着した頃である。
 
(この時期は圏央道がつくばJCT−稲敷ICまでしか出来ておらず、東関東道まで行けないので、稲敷で降りても途方にくれることになる。柏まで来てしまった方が多少16号が混んでも早いだろうと宗司は判断した)
 
予約していた千葉市内のホテルに泊まる。宗司は、こちらでホテル代くらい持ちますからと言って、菊枝にも同じホテルに泊まってもらい、菊枝は翌日のお昼頃!高知に向けて出発した。
 

彪志と父は翌3月12日朝ホテルをチェックアウトすると、まずはC大学に行き、入学手続きを済ませた。その後、ふたりで千葉市内の不動産屋さんを巡って、4月から住むアパートを探した。
 
「お前、そこで青葉ちゃんと住むんだっけ?」
「まだあの子は中学生だから、一緒に住むとしても、あの子が高校を卒業した後だと思う。まあその時、俺がどこに住んでいるかは分からないけど」
 
「あの子、まだ中学生だったんだっけ?」
「中学2年生だけど」
「高校2年生くらいかと思ってた!」
「あの子は大人びて見えるんだよね。それにあの子、親に虐待されていたので情緒障害を起こしていて表情が乏しいでしょ。だからよけい年上に見られる」
 
「だったら、お前中学生とセックスしてる訳〜?」
「ごめーん!でもそれ7月にも叱られたけど」
「そうだったっけ!?」
 

3軒目の不動産屋さんで、手頃なものが見つかり契約する。そしてお昼を食べてからJRで一ノ関に戻る。
 
千葉13:40-14:22東京14:40-17:14一ノ関
 
それでちょうど高岡に帰るのに一ノ関に来た青葉たちと一ノ関駅構内で遭遇。青葉たちが帰るのをホームから見送った。
 

3月12日(月).
 
千里が例によって葛西のマンションで作曲作業をしていたら、緋那から電話がある。いったい何の用事だろうと思い取ると、いきなり
 
「婚約おめでとう」
と言われる。
 
「えっと・・・それ誰から聞いたんだっけ?」
「うちの旦那経由」
 
と言うので、おそらく桃香が、千里が婚約指輪をもらったことを研二に話したので、それを緋那が聞いたという順序だろう。つまり桃香と研二は連絡を取りあっているのか!??
 
「ありがとう。正式な結納はまだなんだけどね。エンゲージリングもらった」
「まあこちらとしては、貴司に干渉することもできなくなるだろうから、ちょっとガッカリしたんだけどね。まあお幸せにね」
 
こいつは結婚しても、貴司にまだ気があったのか!?
 
「まあそちらはそちらで幸せにやりなよ」
「ありがと。そうそう。私たち九州に転勤になったから」
 
「そうなんだ!」
「発令は4月2日。九州のアメリカ」
 
千里は一瞬考えたがすぐ分かった。
 
「大分県の宇佐(うさ USA)?」
「そうそう。よく知ってるね〜」
「九州の北九州市にはカナダもあるよ」
「まじ!?」
 
「でも九州に行っちゃったらさすがに貴司には干渉できないから、私は貴司からは降りるから」
 
降りるって、結婚してるのに!
 
「お疲れ様とでも言えばいいのかな」
「そうそう。千里ちゃん、気をつけなよ」
「へ?」
 
「貴司こないだ女とデートしようとしてたよ」
「ふーん・・・」
 
「私が奥さんの振りしてぶち壊しておいた」
「ありがとう。あいつ、本当に病気だねぇ」
 
「でも若い子じゃないんだよ」
「へー」
「あれは貴司より年上だと思う。30歳くらいじゃないかな」
「ふーん。そういう女と」
 
「何か訳ありな雰囲気だったから、あれって既に数回デートしてたと思う」
「情報ありがとう。気をつけておくよ」
 
それで電話を切ったが、千里は腕を組んで考えた。
 
まさか私に婚約指輪くれるとか言っている最中にまで浮気するとは思わなかったな。全く油断も隙もありゃしない。
 

2012年3月14日(水).
 
千里は朝からインプを運転して、北区のナショナル・トレーニング・センターに出かけて行った。
 
この日は先日発表された日本女子代表候補の顔合わせである。まだヘッドコーチのジーモン・ハイネンが来日していないのと、集まっているのがほぼお互いにおなじみのメンバーなので、この日は強化部長さんのお話があった後、午前中は紅白戦を中心に軽い練習。お昼を取ってから午後はポジション別に別れて基礎練習をする。夕方再度紅白戦をやって、この日の練習を終了。解散した。
 

3月16日(金).
 
夕方18:20.千葉駅にローキューツのメンバーの7割くらいが集合した。この日の最終便の飛行機で大分に移動する。
 
千葉18:33-19:23品川19:29-19:37京急蒲田19:38-19:49羽田空港20:20-22:10北九州空港
 
京急蒲田駅での乗り換えは1分だが同じホームの向かい側なので問題無い。晩御飯については、チケットの手配を頼んだ旅行代理店の人に空港の手荷物検査場の向こう側でお弁当と飲み物を出してもらえるようにお願いした。それで機内でお弁当を食べていったが、選手達の食欲に配慮して、お弁当は人数の倍!用意しておいた。でもきれいに無くなって「おやつ無いの〜?」という声があがっていた。
 
北九州空港→23:00小倉駅/小倉23:52-1:10別府(泊)
 
深夜の到着になることをホテルに伝えていたのだが、送迎バスを出してくれた。深夜遅いのに大感謝である。
 
仕事の都合でどうしてもこの連絡に間に合わなかった一部のメンバーはこの行程で移動してもらった。
 
千葉駅4:35(連絡バス)5:42羽田空港6:40-8:30大分空港(バス)9:30別府駅前
 
千葉駅に朝4:20集合だったのだが、無事全員遅刻することなくこの便に乗ることができた。
 

そういう訳で千葉ローキューツは全日本クラブバスケットボール選手権に参加した。
 
2010年のこの大会では準決勝で金沢の女形ズに負けて3位となったが、秋の全日本社会人選手権に行くことができた。しかし全日本社会人選手権ではジョイフルゴールドに準決勝で敗れてオールジャパンには行くことができなかった。
 
昨年の大会は震災のため中止になったが、前年実績で社会人選手権に選出。準優勝してオールジャパンに出場することができた。
 
そういう訳でこの大会に参加するのは2度目である。
 
17日朝8:45から別府市内で代表者会議が行われたが、これには玉緒とソフィアが出てくれた。
 
試合は10:45からだったが、相手は九州のチームである。やはり今朝到着したメンバーがなかなか調子が出ないようであったので、昨夜来ているメンバーを中心に運用した。それで途中までは競ったものの、最後は何とか10点差で勝つことができた。
 
この日はこの1試合のみである。そのまま宿に帰って、多くのメンバーがひたすら寝た。千里も熟睡していた。
 

今回の遠征参加者は、出場する選手16名、監督とコーチ、アシスタントコーチ名目で菜香子、マネージャーの玉緒、そしてベンチ外活動(撮影や連絡・雑用係など)の要員として茜・ソフィア・揚羽・後藤真知・真田雪枝、それにジョイフル・ゴールドの越路永子・湧見昭子、ジョイフルダイヤモンドの夏嶺夜梨子・三田和菜の合計29名である。KL銀行の4名については、どっちみち情報収集はジョイフルゴールドとしてもしておきたいということで、貸してくれたのである。おかげでこの大会の全ての試合を撮影することができた(今大会のコートは2会場6面なので9人いれば、雑用が発生したりトイレに行きたくなった時も安心)。
 
選手登録したのは関東大会の時と同じ下記のメンバーである。
 
4.浩子ひろこ(PG) 5.麻依子(PF) 8.千里(SG) 15.聡美(SF) 16.凪子(PG) 17.薫(SF) 18.瀬奈(SF) 20.司紗(SF) 22.岬(PF) 23.国香(SF) 24.元代(PF) 25.翠花(PF) 32.夢香(PF) 33.誠美(C) 34.夏美(SF) 35.桃子(C)
 
3月末で退団する、浩子・麻依子・千里・夏美・夢香の5人にとってはローキューツとして最後の大会である。
 
夕方ぼちぼちと宿の食堂に集まり夕食を取ったが
「なんか移動で疲れたね〜」
「今日の試合は何か記憶が飛んでる」
などといった話をしていた。
 
なお今日の全試合は、ベンチ外スタッフ9人の手で全て撮影してもらっている。また彼女たちから、特に注意すべき選手についても情報をもらった。
 

3月18日は2回戦と3回戦が行われた。今日の試合は男女ともに全て別府アリーナでおこなわれる(大分の会場では交流戦が行われた)。
 
3回戦は昨日と同じ別府アリーナで12:00からであった。ローキューツのメンバーは早朝近くの公園で軽い練習をしてから、多くのメンバーがその後宿で仮眠した。11:00くらいに起きて会場に移動する。そして試合に出た。
 
相手は中国地区から出てきたチームであったが、移動で疲れていた昨日とは違い、みんな休養充分だったので15点差で快勝した。
 
メンバーは試合後、汗を掻いた服を交換。あらためて水分補給して昼食を取ってからまた多くのメンバーが仮眠した。
 
16:30から三回戦に臨む。相手は東海地区のチームで結構強かったが、今のローキューツの敵ではなかった。こちらもかなり本気を出したので12点差で勝った。
 
また宿に帰って休む。
 
「今日はだいぶ調子出たね〜」
「なんかすんなりBEST4になったけど、これかなり凄いことのような気がする」
「まあ凄い人たちがいるからね〜」
 
「でもその凄い人たちがかなり減る〜」
「全日本クラブ選抜、やばくない?」
「誰かいい子いない〜?」
「女子では心当たりないなあ」
「男子でもいいよ。性転換してくれるなら」
「うちの弟、性転換させようかな」
 
「まあ先のことはこの大会が終わってから考えよう」
 
今年からは全日本社会人選手権に出場するには、新設された全日本クラブバスケットボール選抜大会(9月8日)で上位になることが必要になったのである。この選抜の出場権は関東クラブ選手権3位以内なので、ローキューツ、江戸娘、須賀イラインの3チームが出ることが決まっている。
 
 
前頁次頁目次

1  2  3  4 
【娘たちのムスビ】(3)