【女子中学生たちのフェイルセーフ】(L 1)

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2003年4月7日(月).
 
留萌市立S中学校では入学式が行われ、蓮菜や美那などがセーラー服の女子制服を着て、新入生として入学した。
 
「千里遅いなあ」
などと美那が言っている。新入生は入口の所でクラス分けの表を見て各々振り分けられたクラスの教室にいったん入って待機している。千里は蓮菜や恵香・美那と同じ1年1組になっていた。
 
「ほんとにちゃんとセーラー服着てくるか、楽しみにしてるのに」
 
「でも学生服を着てくることはあり得ないと思わない?」
と恵香。
 
「うん。千里が学生服を着てきたら天変地異が起きるよ」
と優美絵。
 
やがて担任になる先生が入ってくる。
 
「ようこそ、S中へ。君たちを1年間担任する菅田厚宏だ。よろしく」
と先生はごく簡単に自己紹介をした。
 
恵香や美那は。先生が入って来たのに、まだ千里が来てないことで首を傾げている。
 
「それからお知らせだ。このクラスに割り当てられている生徒の中で、高山君、原田君、村山さんの3人が風邪を引いたとかでお休みらしい」
 
教室内にざわめきが起きる。
 
「念のため3人とも今話題になってるSARSの検査も受けたけど、全員陰性だったらしい。入学式ではこの3人の名前も読み上げるけど『今日は欠席です』と言うから」
と先生は言っていた。
 

「何か休んでる3人に共通のものを感じない?」
 
「でも千里は昨日も神社には出て来てたのに」
「普段と特に変わらなかったよね」
 
「千里はセーラー服を着て出てくる勇気がなくて、取り敢えず今日は休んだんだったりしてね」
などと美那が言うが
 
「卒業式でセーラー服を着ていたのに、入学式にそれで出てくる勇気がないというのは全くありえない」
と恵香は言っている。
 
「だいたい、蓮菜と千里と小春と3人並んでセーラー服着て記念写真とか撮ってたし」
 
「髪を短く切ってしまったから、それをみんなに見られるのが恥ずかしくて出て来てないとかは?」
 
「髪はちゃんと中学の規則に合わせて切ると言ってたし、それを恥ずかしがるような子じゃないよ」
と蓮菜は言う。
 
「その“中学の規則に合わせて切る”って男子の規則?女子の規則?」
「千里が男子の規則の長さまで切ることはありえない」
 
「ね、ね、髪を切るといったらさ、るみちゃんが五分刈りにしてるの見た?」
「へ?るみちゃん、普通の長さだと思ったけど。女子としてまあギリギリくらいの長さだったから、休み中ずっと伸ばしてたんだろうね」
 
「いや。それがあの子、ウィッグつけてるのよ。そのウィッグを外すと、その下は丸刈り」
「うっそー!?」
「お母さんが絶句したらしい」
「私、お母さんに同情する」
「全く全く」
 

「ねぇねぇ、あの子髪を切るのに悩んで、髪じゃなくて、ちんちんを切って、女子中学生になれるようにしたとかは?その傷がまだ治ってなくて出て来てないとか」
 
「それは沙苗ならあり得ることだが、千里ではあり得ない」
「うん。千里はとっくの昔に、ちんちんなんて無かったから今更」
「そもそも、千里の書類は女子になってたから、思い詰めるほど悩む必要は全く無い」
「そういえば、性別女と書かれた入学案内を見せてもらった」
「就学通知の段階では性別男にされてたらしい。でもその後訂正されて女になったと聞いたよ」
「それがまた訂正されて男に戻されたとか?」
「それは無いと思うけどなあ」
 
「山形だか山口の小学校で、女子として通学したいという児童を女児扱いにしてトイレも女子トイレの使用を認めて、修学旅行とかも他の女子児童と同じ班で行動させたというのがニュースになってるの見たよ。たぶん今の時代はそういうの柔軟に対応するようになってきているんだと思う」
 
「そういう子は元々既に女子としてみんなに溶け込んでいたと思うな」
 
「千里もまさにそういう状態だったよね。あの子が戸籍上男だなんてのは、みんなほぼ忘れていた」
「トイレは3年生頃までは男子トイレも使ってたけど、4年生頃からは女子のほうに必ず来るようになったね」
「それ以前から、こちらに来なよと言ってたのに、本人は結構恥ずかしがってた」
「男子たちも千里が男子トイレ使うのは迷惑そうだったけど」
「たぶん4年生くらいから本人も自分の性別意識が明確になって来たんだと思うよ」
「小さい頃は親から言われて男子トイレ使ってたんだろうけどね」
「性的なアイデンティティの確立だね」
と玖美子が難しいことを言った。
 
「やはり4年生くらいで、男の娘から女の娘に進化したんだな」
「先生!女の娘というのが分かりません」
 

蓮菜は入学式の後、千里の自宅に電話してみたが誰も出なかった。4時頃に再度電話すると妹の玲羅が出て、千里が入院して高熱が続いており、お母さんも仕事を休んで病院に詰めていると聞いた。
 
「玲羅ちゃん、御飯は?」
「さっきカップ麺を食べた」
「何なら、うちに来る?御飯くらい食べさせてあげるから」
「行く行く!」
 
それで結局、千里が退院するまで、玲羅は蓮菜の家に泊まり込むことになった。千里たちのお母さんも、買物とかもできないし、助かると言っていた。しかし蓮菜は玲羅を手元に置き、毎日千里の母と電話で話すことで、千里の病状を最も正確に把握し続けたのであった。
 

蓮菜は小春の携帯に掛けてみたが、小春も実は昨夜急に体調が悪くなって、今日は寝ているという話であった。
 
蓮菜は、千里の体調不良と小春の体調不良は連動したものではないかと感じた。しかし小春は言った。
 
「蓮菜さん、お願いがあります。私はもう寿命が尽きようとしてるのかも知れない」
「そういえば、あんた人間でいえば70-80歳くらいに相当するんだと言ってたね」
 
小春は13歳の“キタキツネ”である。
 
「千里も倒れてるんですが、私絶対に千里を助けます。でも私は死ぬかも知れない。こんなこと頼めるのは蓮菜さん以外にありません。まだ若い小町だけでは不安だから、私が消滅した後、千里さんのことをできるだけ見ていてあげられませんか」
 
「千里とは友だちだから、ずっと見てるよ。でも小春ちゃんも無理しないで」
「はい、ありがとうございます」
 
蓮菜が“肉体を持つ”小春と話したのはこれが最後になった。
 
また小春のガードが掛かっていたため、蓮菜は4/10早朝に行われた“記憶操作”の影響を受けず、それまでの全ての記憶を正確に保持することができた。
 

千里は入学式があった7日(月)だけでなく、8日(火)も9日(水)も休んでいた。蓮菜は毎日千里の母と電話で話したが、なかなか熱が下がらず、お医者さんも首をひねっているらしい。ちなみにウィルス検査は数回したが、インフルエンザのウィルスも、今世界的な大問題になっている SARS のウィルスも検出されなかったということだった。
 
しかしこれだけ熱が下がらないのは危険なので、明日10日(木)も症状が変わらない場合は、札幌の大学病院に移そうという話になっているらしい。
 
蓮菜は千里のお母さんに頼まれて、千里の着替えなどを病院に持っていってあげたのだが(家の鍵は玲羅が持っている)、その時、病院内で偶然にも沙苗のお母さんに遭遇した。
 
「もしかして、沙苗ちゃん入院しているんですか?」
「実は・・・」
 
と言って、沙苗の母が話してくれたのでは、沙苗は6日午後に家出し、深夜に雪道(正確には地蔵堂)に倒れているのを発見されていたのだが、怪我や凍傷は無いものの、身体が衰弱し、意識も朦朧として危険な状態が続いているということだった。
 
どちらも面会謝絶状態ではあったが、感染などの危険は無いので、蓮菜は2人の病室に入ってお見舞いをし、各々の手まで握って、意識のない状態の各々に
 
「早く元気になってね」
と声を掛けた。
 

そういう訳で、千里と沙苗がどちらも「風邪で学校を休んでいる」という話になっている間、蓮菜は偶然にもその双方の病状を知ることとなったし、その2人と実際に接触した、唯一の人間にもなったのである。
 
「千里も沙苗も死ぬなよ」
と蓮菜は親友たちの安否を気遣った。
 
なお蓮菜は千里の母から頼まれて、玲羅には
「たぶん、お姉ちゃんは今週いっぱいくらいで退院できるんじゃないかな」
と言っておいた。
 
なお、沙苗の妹・笑梨(えみり:4歳)は、伯母さん(沙苗の母の姉)が預かってくれているらしい。
 

蓮菜は居ても立ってもいられない気分になり、(9日)夕方5時頃、P神社に行ってみた。小町が忙しくしていて
 
「蓮菜さん、手伝って下さい」
と言われる。
 
それで巫女控室に行って自分の巫女衣装に着替えようと思ったのだが、ふと考えて、自分の巫女衣装ではなく、千里のロッカーから巫女衣装を出して、それを着た。普通の服なら千里の服はとても蓮菜に入らないのだが、巫女衣装だとわりと何とかなる。
 
小町が巫女控室に走り込んで来る。
「蓮菜さん、笛吹けます?」
「私は無理。じゃ恵香を呼ぶよ。お客さんにはお菓子でも出して10分くらい待ってもらって」
「すみません」
 
それで蓮菜は携帯で恵香を呼び出した。
「千里が倒れてるから手が足りないのよ。手伝ってくれない?」
「OKOK」
 
それで恵香が5分くらいで来てくれたので、昇殿祈祷は恵香に任せ、蓮菜は神社の庭に出た。
 
バスケットのゴールをいつも置いている場所に跡がついている。ゴールは冬の間は倉庫に入れておき、春になると出してくる(積雪してるとドリブルもできない!)。今日は雪が消えているので跡が分かるが、積雪していると場所もよく分からなくなる。
 
思えば、ここにバスケットのゴール(タマラのお父さんの手作り)ができてから、自分や恵香はここで千里たちと一緒に遊ぶようになったんだったなと思った。当時は誰もバスケットのルールを知らなかったから物凄く勝手なルールで遊んでいた。あの頃の友だちも随分居なくなってしまった。みんな留萌から出ていく。市の人口もどんどん減っていっている。今年の春、小学校が1つ消えた。この後、もっと学校の数は減っていくだろう。
 
この町はこの後、どうなるんだろうと不安に思う。
 

そういう感傷に浸りながら境内を歩いていたら、社務所の門柱の所に組み込まれているランプが左右とも消えていることに気付いた。
 
「ダメじゃん。この灯りはずっと燃やし続けてないといけないのに」
と独り言のように言うと社務所玄関に置かれている鍵を使ってランプ外側のガラスのカバーを開ける。そして中のランプをふたつとも取り出した。
 
玄関の所に燃料が置かれているので、取り敢えずそれを補充した。この燃料補充はいつも小春がしていたはずだが、小春がダウンしているので途切れてしまったのかもしれない。後で小町によく言っておかなくちゃと思う。
 
このランプの火の予備は、社務所内の囲炉裏で維持されているはずである。蓮菜は社務所にあがると、そこに行こうと思ったのだが、蓮菜が半ばぼんやりと歩いていたら、いつの間にか見たこともないような場所に来ていた。
 

「え?ここどこ?」
と思うが、蓮菜が静かに歩いて行くと、赤い通路の奥に広間があり、そこに燈台が3つ三角形状に並び、3つの炎が燃えていた。
 
蓮菜は誘われるように、その燈台の前に行き、∴の形に3つ並んでいる燈台の内、いちばん奥の燈台から火を2つのランプに移した。
 
そして今来た赤い道を戻ると、いつの間にか社務所の玄関に出ていた。
 
蓮菜は2つのランプを門柱の所に置くと、ガラス製のカバーを閉じて鍵をしめた。
 
これが4/9 18:00頃であった。
 

 

千里の死亡予定日時は、2003.4.9 23:51:47 であった。しかし何とか千里を死なさせないようにしようと、数人の人物(?)が、密かに工作活動を行っていた。
 
それで4月6日夜から9日深夜に掛けて、このようなことが起きたのである。
 

4月6日の夕方、最初に介入したのはA大神である。超大物神様のひとりで、小春の上司に当たる。A大神は度々、小春から千里を何とか助けて欲しいと訴えられ、表面上は「そういう例外は許されない」とは言っていたものの、“こっそり”千里を生かし続けるのは構わないだろうと考えた(この時点では千里が人間として死んでしまうから、自分の眷属にしようと思っていた)。
 
そこでA大神は、4月6日夕方、神社での仕事を終えた後、セーラー服を着たまま、スーパーで買物をしている最中の千里を、こっそりduplicateしてしまったのである。このタイミングを狙ったのは、スーパーはP神社から遠く離れた留萌の市街地にあり、P大神の結界の外であることと、そもそもスーパーは雑多な気で満ちているので工作事がしやすいからである。
 
つまりここで千里はC1, C2 という同質の2人に分岐することになる。
 
千里の夢の中ではduplicateされた千里が、どちらが死ぬかというので揉めるのだが、実際にはA大神は千里をduplicateしたら、即片方(便宜上C2と呼ぶ)を自分の本拠地に連れて行ってしまった(どちらも同じ千里だからどちらでもよい)。
 
だから、留萌にはC1だけが残り、表面的には何も変わっていない。C1は買物を終えるとバスで自宅に戻った。セーラー服姿なので母が慌てるが千里は
「お父ちゃん、寝てるでしょ?だから問題無いよ」
などと言っていた。父は安眠できるように居間の衝立の向こうで寝ているので、千里が居間を通過しても気付かない。むろん千里はジャージ+トレーナーに着替えてから晩御飯を作り始めた。
 
ここでC1,C2は、女性体型(バストあり)で外陰部も女性型である。この外性器は実は3歳の時以来千里が所有していたもの。卵巣・卵管・子宮は津気子のものが退避されている。実はこれが後の“千里2”のルーツである。
 

続いて介入したのはP神社のP大神である。
 
P大神は3歳の時に千里の寿命を倍にしてあげた本人であり、小春からは度々再度寿命を延ばしてあげてと言われていたが、故なくそのようなことはできないと言い続けてきた。でも内心は何とかしてあげたいと思っていた。
 
それで“4月9日に千里が死ぬ”という予定を変えることができないなら千里のコピーを取って、そのコピーさんが死ねば、問題無いのではないかと考えた。
 
予定では千里は4月6日22時に倒れて、9日23:51に死亡することになっていた。それで倒れる予定の少し前、4/6 21:00 頃に、千里のコピーを取りにきた。
 
ところがここで、千里の体内に津気子の女性生殖器が退避されていることに気付いた。千里はもうすぐ倒れるので、その前にこの女性器を戻さなければ、千里の体調不良が津気子の生殖器にもよくない影響が及ぶと考える。それでこれらを千里の体内から外して津気子の体内に戻した。
 
ただし、長年性腺の無い状態で暮らしていた津気子にいきなり卵巣を移植したら、ホルモンバランスが崩れて津気子は倒れるだろう。それで卵巣や子宮を戻しはしたものの、その機能をいったん眠らせておいた。つまり更年期を過ぎた状態の卵巣に近い状態にした。この後、1〜2年掛けて少しずつ機能を復活させていくつもりである。
 
一方千里はいきなり卵巣が無くなると、こちらもホルモンバランスが崩れるので、自分の眷属・カノ子に命じて、取り敢えず千里に女性ホルモンの注射をしておいた。そしてこの状態で千里(夕飯を作った時の格好の上にダウンコートを着ている:室内が寒いから)のコピーを取り、本物は秘密の場所に隠した。
 
つまり千里の家に残ったのはコピーであり、本物は秘密の場所に居る。この千里は、外陰部は女性型だが、卵巣や卵管・子宮は無い。実はこれが後の“千里3”のベースである。これはA大神がduplicateしたC1そのものである。つまり千里2と千里3は元々duplicateされた存在で同じ能力を持っているのである(性腺の有無だけの差)。
 
留萌の家に残されたのはC1のコピーであり、これを便宜上C1p (C1 coPy) と書く。これが実は後の“千里1”のベースである。コピーなので、どうしてもC1(千里3)よりはパワーが少し落ちる。ただP大神としては、単なる“死ぬ役”だから、多少の品質劣化はいいだろうと思った。
 

C1, C1p はいづれもP大神の眷属・カノ子の手で女性ホルモンの注射をしてもらってはいるものの、やはり本当に卵巣がある状態とは違う。それで、23:00頃になるとホルモンバランスが崩れてしまい、精神的に不安定な状態になった。そして 4/7 0:10 にトイレに行こうとして倒れ、病院に運ばれてしまう。
 
結果的には本来は22:00頃に倒れて病院に運び込まれる予定だったのが2時間ほど遅れただけである。千里が倒れたのには大神も焦ったが、どうせ倒れる予定だったのだしと思い、C1pに関しては放置した。オリジナルのC1については、千里と相前後して死亡する予定の小春の卵巣の片方を勝手にC1の体内に移動させてしまった。
 
これでC1の方はホルモンバランスを回復した。
 
そしてちょっと目を離した隙に、沙苗の悲鳴のようなものを感じ、P大神が作った秘密の場所を勝手に抜け出し、沙苗の探索に出て行ってしまった。(沙苗が病院に運び込まれた段階で回収)
 

さて、小春本人は2004年秋頃に自分は死ぬのだろうと勝手に思い込んでいたようだが、実は小春は千里の数日後に消滅(死亡)する予定だった。
 
その小春は突然卵巣が片方消えたので、急にホルモンバランスが崩れて物凄く体調が悪化した。通常の生理痛の数倍の激しい苦痛がある。それで小春も寝込んでしまった。
 

ともかくも留萌の自宅に残った千里(オリジナルではなくコピーの死ぬ役)C1pは倒れたので病院に運び込まれる。
 
A大神は、P大神がきっと何かするだろうと思っていたので、P大神が千里のコピーを取って、そのコピーを自宅に残したのも見ぬ振りをしていた。
 
ところが、ここで神様たちに全く計算外のことが起きてしまうのである。
 
体調の急激な悪化で2日ほど寝ていた小春は、自分はもしかしたら千里とほぼ同時に死ぬのではないかと考え始めていた。
 
ところが4月9日 18時すぎ、小春は急に体調が少し回復した。小春はなぜ回復したのかは分からなかったが、この小康状態(?)を利用して千里を助けるための最後の手段に出た。
 
それは自分が、千里と合体してしまうことだった。
 

ふたりが合体すると、並列回路になって、千里の“命の線”が途切れた時は自分が生命エネルギーを流してあげることができる。自分自身の寿命もあまり残っていない気がするけど、千里が死んでいる時の“ふせ”をする程度なら、自分の残り寿命で、なんとか、まかなえるのではないかと小春は考えた。
 
また、小春は、自分の体内で、iPS細胞から作った千里の遺伝子を持つ卵巣・卵管・子宮などの女性生殖器を育てていた。自分が千里と合体すれば、多分この生殖器も千里の身体の中に入るのではと想像した(いまいち自信は無い)。
 
またそもそも千里の急激な体調悪化は、これまで千里の体内にあった卵巣が津気子の体内に戻され、ホルモンバランスが崩れたことにもあるのでと想像していた。大神様がカノ子に命じて何度か女性ホルモンの注射をしてくれていたようだが、多分注射では足りないのでは?千里の体内に卵巣が戻れば、多分千里の体調は改善される。
 
それで小春は禁断の法(こんな法を小春が知っていたことにP大神は驚いた)を使って、千里と合体してしまったのである。
 

小春の体内で育てていた卵巣が千里の体内に入った効果は物凄く大きかった。
 
この千里オリジナルの卵巣(左右1対)以外に、実は合体した小春の卵巣(1個はC1がもらったが1個残っている)も女性ホルモンの生産に寄与した。
 
千里は急速に体調を回復させる。千里自身は何度か身体のバランス復帰を自分で試みていたものの、これまでは卵巣が無かったため、そのパワーが得られなかった。しかし小春のまさに献身で卵巣が戻ったことから、パワーを出すことができたのである。
 
この時、千里は三途の川を渡ろうとしていた所を小春に呼び止められ、更に戻るついでに沙苗も三途の川の途中から連れ帰った夢(?)を見ている。
 

千里が物凄いパワーで自身の体調を回復させてしまったのに、P大神もA大神も驚いた。自分は千里の力量を見誤っていたかもと、2人とも思った。
 
千里は自分の身体をチェックしていて“異変”に気付く。
 
「なんで、ちんちんがあるの〜〜?」
『あ、ごめーん。千里のちんちん、私が預かってたから、それも戻っちゃった』
 
4年生の秋に、津気子の卵巣・子宮を千里の身体に退避させた時、卵巣が出す女性ホルモンの影響で、ちんちんは萎縮してしまうかもということで、これを小春が預かっていた。つまり小春はこの2年半ほど、実は“ペニスのある女の子”状態だった(通常は陰唇内に隠しておく)。
 
(小春にも卵巣があるから当然ペニスは萎縮するが、人間である津気子の卵巣よりは、キツネである小春の卵巣の方がずっと小さいから女性ホルモンの量も少ない。だから萎縮する程度も小さくて済む)
 
しかしその退避させていたペニスが、この合体で千里の身体に戻ってしまった。ただしこのペニスの尿道は膀胱とは繋がっていない。尿道口は通称の女性の位置にある。また千里には前立腺が無いので、このペニスには射精能力も無い。
 
「なんで、おっぱいが無いの〜〜?」
「キツネには乳房が無いから」
 
豊かな乳房を持つのは、人間以外にはジュゴンくらいである。普通の動物には乳首はあっても、“豊かな乳房”は存在しない。しばしばホルスタイン牛は“でか乳”の代名詞とされるが、ホルスタインはたくさんお乳を出すものの、牛なので豊かな乳房は存在しない。だから「ホルスタインみたいなおっぱい」というのは、よく母乳を出すおっぱいであり、乳房自体は膨らみが無いのである!(赤ちゃんには実用的だが、性的パートナーには非実用的なおっぱい)
 
それで小春が合体したボディ (C1p+K) は、内性器としては一応卵巣があるものの、胸は平らで、ペニスがある状態になってしまった。この身体は基本的には千里の身体がベースだが、ところどころ小春の身体の影響が出ている。
 

合体が行われたのが 18:30頃で、千里は22:00頃までには体調を回復させてしまった。
 
この時点でP大神は
「せっかく小春が献身して千里の体調を回復させたけど、どっちみち、あと2時間で死亡する」
と思って、様子を見ていた。
 
ところが23時頃、ここにA大神・P大神が想定していなかった人物が現れる。
 
“千里”を連れたQ大神である。
 
Q大神はベッドに寝ている“瀕死の千里”を自分が連れて来た“千里”と交換しようとした。(もはや蛍光灯のランプ交換でもする感覚)
 
ところが“瀕死”の千里がベッドに居ると思ったら、ベッドに居るのは“元気”な千里である。
 
「嘘!?なんでこの子、こんなに元気なの?後1時間で死ぬ予定の人物に見えない」
とQ大神は思った。
 
A大神が出て行く。
 
「あなたは!?」
とQ大神が驚く。こんな超大物が出てくるとは、Q大神側も想定外である。むろんA大神の姿を見て、P大神も仰天した。
 
「ちょっとこちらへ」
「はい」
 

それでQ大神も自分が運ばせて来た“千里”と一緒に、A大神が作り出す特殊な空間に隠れた。
 
「それは?」
とA大神はQ大神に尋ねた。
 
「身代わり人形です。私、初詣の時にこの子を見初めて。でも寿命が残り少ないの分かったから、身代わりを作って死神さんにはこの身代わりを連れて行ってもらおうと思ったんです。それであの子から体細胞を採取して、3ヶ月ほどの促成栽培で、この人形を作りました(ブロイラーか!?)」
 
その体細胞を採取した時に、千里の心臓が停まってしまったので、Q大神も焦ったのだが、そばに居た妹がすぐに蘇生させたので、この子どうなってんの?とQ大神は思った。
 
「この身体は、魂は無いし意識も無いから自分では動けないけど、遺伝子情報をクローンしているから、生命(いのち)の炎はオリジナルと見分けが付かない筈なんです」
とQ大神は言った。
 
(この“お人形”を以下Cd と書く。Chisato clone doll)
 
「だったら、いよいよの時は、私がこのお人形とベッドに寝ている千里を入れ替えるから、ここでちょっと見物してない?千里はひょっとしたら死神に勝つかも知れない気がして来た」
 
「分かりました」
「P大神もこちらにいらっしゃいよ」
「恐縮です」
と言って、こちらの空間にP大神もやってくる。
 
その時、Q大神はこの高次空間に“千里”が何人も居ることに気付く。
 
「何〜〜?この多数の千里は?」
 
この時点で“千里の身体”は4つに分岐している。
 
C2 A大神が保持(外性器は女で津気子の卵巣。胸あり)
C1 P大神が保持(外性器は女だが性腺無し+小春の左卵巣。胸あり)
Cd Q大神が保持(千里をクローンしたお人形(男の子:後述))
C1p+K ベッドに寝ている(外性器はほぼ女性だがP付き。千里の卵巣(左右)+小春の右卵巣。胸なし)
 

4/9 23:51.
 
車椅子に乗って鞭を持った死神さん・・・もとい!大鎌を持った死神さんがやってきた。それで千里の生命の火を奪おうとするが、千里は死神さんの手を遮った。
 
そして「歌を1曲歌いたい」と言うので、死神さんは許可した。
 
千里が歌い始めたのは鉄道唱歌である。
 
死神さんは歌1曲くらい3-4分で終わるだろうから、歌が終わってから千里の生命の火を地獄に持って行けばいいと思った。基本的にはその日の内に生命の火を地獄に持って行けば死神さんの仕事は終わる。
 
ところが鉄道唱歌は長い!
 
いったん「一曲歌ってよい」と許可した以上、途中で停めることはできない。それで死神さんはイライラしながら千里の歌を聴いていた。
 
そして長い長い歌が終わり、やっとこれで千里の生命の火を持って行ける・・・と思ったら、千里の体内に手を入れられない。
 
あまりにも歌が長すぎたため、日付が変わってしまい、もう死神の権限では生命の火を奪うことができなくなってしまった・・・と死神さんは思ったようである(真実はA大神だけが気が付いていた)。
 
死神さんは泣く泣く手ぶらで引き返していった。
 

それで千里は死ぬ予定だったのを生き延びてしまったのである!
 
想定外の事態に、Q大神もP大神も自分が作った“千里の分岐体”を連れて深夜の病室に出て来た。A大神は満面の笑顔で出て来た。結果的には千里を助けたのは小春の献身であった。元気であれば千里はたぶん死神程度には負けないだろうとA大神は推察していた。
 
「私が4人いる!」
と“千里たち”(の内3人)は驚く。
 
C1 トレーナーにダウンコート
C2 セーラー服
C1p+K 病院着
Cd 病院着
 
「さて、この後、どうしようか?」
と立場的に一番上なので、自然と司会役になったA大神が言う。
 
「1人だけ留萌に残して後はどこかに連れてく?」
「どこに連れていくの〜?」
と千里たち。
 
「大丈夫、大丈夫、どこにも連れていかないよ」
 
「千里は3つ子だったことにしちゃうとかは?私が持って来たお人形だけ処分しておきますから」
とQ大神。(ほとんど生ゴミでも出す感覚)
「まあお人形は処分してもいいか」
「お墓くらいは作ってあげますよ」
 
「でもさ、千里って元々3-4人居るんじゃないかと思ったことない?」
とA大神。
 
「あります。あります。私、千里に神社の留守番してもらって出掛けた時に神社の外でも千里を見かけて、あっサボってる、と思ったら、神社にもちゃんと千里がいたのよ」
とP大神。
 
「でも既に3-4人いるのなら、更に3人増えると千里は7人くらいになる」
「曜日替わりで、千里サンデーから千里サタディまで1人ずつ活動させるとか」
 
などと半分ジョークのような会話(神様たちも想定外の事態に半ば思考停止している)をしていたが、やがて結論に達する。
 
「ひとりにまとめちゃおう」
 
ということで、この4人の千里は合体させられて1人の千里になってしまう。
 

この合体の時“魂が無い”お人形の Cd を“台木(だいぎ)”にして、3人の千里を“穂木”(ほぎ)として“接ぎ木(つぎき)”(grafting)するようにくっつけてしまった。
 
 
穂木 (scion)
C2(女の子)後の千里2
C1(男の娘)後の千里3
C1p+K(女の娘?)後の千里1(第1世代)
 
台木 (rootstock)
Cd(男の子)後の千里0
 
作業的には全員眠らせて、服も脱がせて裸にしてから“合体”させた。神様たちはこの“合体ロボ”ならぬ“合体千里”を便宜的に Cu (Chisato United) と呼んだ。
 
Cdを台木にしたのは、魂が無いので穂木にはならないこと。クローンで造り直していて、本来の千里に比べて生命力が強いと思われたことである。植物の接ぎ木の場合もだいたい生命力の強い個体を台木に使用する。元々の千里は、とっても死にやすい。
 

「この合体、永久にはもたないよね?」
「10年くらいもつかなあ」
「まあバラけてしまった時はその時で」
 
などと、神様たちは話していたのだが、これは結果的には 2017.4.16 23:00にこの“接続部分”の破壊が起きてしまい、千里は4人に完全分裂する。つまり、この合体は約14年もったことになる。
 
これが実は“落雷事件”の真相であり、A大神の指令で、収拾に借り出されたのが、久保早紀(丸山アイ)であった。ただ実際には、千里2(C2)が自主的に、きーちゃん・京平を使って交通整理をしてくれたので、かなり楽に進んだ。
 
2017.4の“落雷事件”では、いったん4つ(C1, C2, C1p+K, Cd)に分裂したものの、すぐに、C1p+K(第1世代の千里1)が Cd(千里0)と合体している。あの時は3人の千里が、大阪、桃香のアパート、羽田空港に散って、“お人形”の Cd が現場に残された。Cdは“お人形”で魂が無いから、意識も無いし自分で行動することができない。それで意識を失っているように見えたので、病院に運び込まれてしまった。
 
それで C1p+K が Cd に合体して“第2世代の千里1”C1p+K/Cd となる。
 
美鳳(H大神の配下)が2004年に千里に付ける“眷属セット”は、千里の本体?に付いたので、分裂事件の直後は千里0に付いていて、“第2世代の千里1”に合流することになる。
 
この個体は C1p, K, Cd という3つの生命の火を持つ“トリプルシステム”である。そしてこの個体が2017.7 にクロガーと実質相打ちになった。
 
つまりクロガーと実質対決したのは生命力の強いCdを含むトリプル個体であった。他の“単発機”個体が対決していたら、その後の蘇生は不可能だった。実際、あの時は、C1p, Cdの2つの生命の火が消えたものの、K(小春)の生命の火からC1pに再点火して蘇生している。ただし小春は力尽きて死亡した。Cdの消息は不明。
 
このあたりはあまりにも予定調和すぎて、A大神も呆れることになる。
 

さて、2003年4月10日3:00AM頃の留萌に話を戻す。
 
Cdをベースにして、C1, C2, C1p+K の3人を合体させ Cu にしてみると、表面的には台木である、Cd 由来の身体が出ていた。
 
「どうして台木が表面に出る?」
「分からない。こんなことやったの初めてだし」
「穂木のどれかが表面に出ると思ったのに」
と神様たちも戸惑っている。
 
「そういえばなんで男の子なの?」
 
実はこの合体した千里には立派な男性器がついてるし、胸も無い。
 
「それが千里の体細胞を取ってクローンで肉体を作ってみたら男の子の身体になったからびっくりしたんです。何か間違ったかもと思っとけど、身代わりなら性別違っててもあまり大きな問題ではないし」
とQ大神は説明した。
 
「いや実は千里は3歳までは男の子だったんだよ」
とP大神。
 
「嘘!?」
とQ大神は驚く。
 

「ちんちん付いてたら、女子中学生するのは大変だよね」
「体育の時の着替えでも困るし」
 
「提案。性転換して女の子にしてあげましょう」
「おお、それがいい」
 
というので、千里はP大神の力で性転換され、女の子になってしまった。
 
ところがである。
 
「何故男の子に戻る!?」
 
千里をせっかく性転換させたのに、ほんの5分もすると勝手に男の子の形に戻ってしまうのである。
 
「私がやる」
と言ってA大神が性転換を掛けて、千里を強制的に女の子に変える。
 
ところがやはり5分も経つと勝手に男の形に戻ってしまう。
 

「なんてしぶとい、ちんちんなんだ」
「まるで雑草のようなちんちんだ」
「物理的に切ってみたらどうだろう?」
 
それで
「痛いだろうけど、ごめんね」
と言って、ちんちんをハサミで切り落としてみた。ところが5分もしない内にちんちんは勝手に生えてくる。
 
「どうなってんのよ?この子」
「千里は男性器のマトリックス(母型)でも持ってるの!?」
 
「もしかして。この子、今テトラマー(四重体)になっているから、万一どれかが欠けたりしても、他のから補充されて元の形に戻ってしまうとか」
 
「え?でも男性器があったのはCdのみのはず」
 
A大神がハッとしたようにして言った。
 
「分かった。表面に出ているのは、あくまで内包されている四重体の中のどれかのコピーにすぎない。だから、表面のコピーをいくら変えても、内側に隠れているもののコピーが再現されるだけ」
 
「つまり内包されているものがパトリックス(父型)になって、そこから自動的に外側に正像のブリントが作られるわけか」
 
「だとしたら、この子、殺そうとしても死なない。腕の1〜2本切断してもすぐ新しい腕が生えてくるだろうね」
 
「じゃ、ちんちんくらい切ってもまた生えてくる訳だ」
 

「だったら、この子を一度分解して元の4人に戻してから、Cdを性転換させて全員女の子に変えた上で再結合するとかは?」
とQ大神が言う。
 
「分解・・・できます?各々のユニットに傷を付けずに」
とP大神はA大神を見て言う。
 
「私には自信無い」
とA大神。
 
「A大神様ができないなら誰にもできない」
「T大御神様とかK姫様とかならできるかも知れないけど」
 
「お願いする?」
「そんなの知れたら、叱られるだけと思う」
「うん。こんなことしてるのは、あくまで内緒」
「死ぬ筈の人を助けちゃったら、代わりに2-3人殺してこいとか言われかねない」
 
「じゃ、どうする?」
 

「こうなったら、仕方ないから、この子には男として生きてもらうというのは?」
「それだと、この子、発狂すると思う。何年も掛けてやっと女の子になれたのに」
 
「この性器を除去したら復元されてしまうんでしょ?もっと貧弱な男性器に交換してみたらどうだろう?」
 
「男性器が付いてたらそのままになってる気がする」
 
「だったら、こないだ津久美ちゃんから外した男性器があるよ」
と言ってA大神が10月の手術で津久美から取り外した男性器セットを見せる。
 
「何この極小のちんちんは?」
「ほんとにちんちんなの?既にクリちゃんサイズじゃん」
「この子、たぶん女性ホルモンをしていたのだと思う。かなり萎縮してるけど千里は萎縮したちんちんでいいよね?」
 
「うーん。大きいちんちんは要らないけど、もう少しサイズのあるちんちんがいいと思いまーす」
 
「待って。だったら、ちんちん交換してくる」
「不要品交換会の感覚だな」
「ちんちんは不要品だよね」
 

その日、久保早紀(1994.10.05 12:55:06生 当時8歳)の所に唐突にA大神が現れるので、早紀は超大物の来訪に仰天した。
 
「ちづちゃん、久しぶり」
「ご無沙汰してました。今は“早紀”(さき)なんですけど」
「まあ、いいや。あんた、小さなちんちん要らない?」
「へ?」
「ほらこのちんちん、小さいから女の子パンティ穿いても全然響かないよ」
「すごーい。よくこんなちんちん落ちてましたね」
「あんたのちんちんと交換させてよ」
「いいですよ。大きすぎて困ってたんです」
 
当時の早紀のペニスは、通常時4cm・縮小時2cm程度であった(勃起はしない)。A大神が持ち込んだ(津久美由来の)性器は見た感じが1cm程度で、縮小すると肌の中に埋没して0cm以下になるという話であった。睾丸など赤ちゃんサイズである。
 
それで早紀は、自分の陰茎・睾丸をA大神が持ち込んだものと交換してもらった。
 
「この早紀ちゃんの性器は頂戴ね」
「はい、自由にお持ち下さい」
 
早紀はタックしなくても女児ショーツが穿けるので、喜んだ。あまりにも小さくて裸になっても、まるで付いてないように見えるので
 
「これでまた幼稚園の時みたいに女湯に入れる。女の子の裸も見放題」
などと危ないことを言っていた。
 

それでA大神は早紀から取り外した、ちんちんを持って来た。
 
「何この小さなちんちん?」
とQ大神が驚く。
 
「でもさっきのよりは大きいでしょ?」
「これ2.5cmくらいかなあ」
「8歳の男の娘から取り外してきた。本人は0cmのちんちんをもらって喜んでいた」
「でもこのくらいのサイズなら、千里にはちょうどいいかもね」
 
ということで、千里の立派すぎる陰茎・睾丸は、早紀(丸山アイ)由来の陰茎・睾丸と交換されたのであった。
 
しばらく様子を見る。
 
「元の形に戻らない。きっと、ちんちんが付いてさえいれば大丈夫なのよ」
「じゃ、男の娘として生きてもらうことで」
 
「恐らく今は内包されているCdの男性機能が強すぎるから表面に男性器が出てしまうのだと思う。2-3年女性ホルモン優位の状態にしておけば、Cdの男性機能は低下してCd自体が男の娘に変化する」
「そこまで行けば自然に女の子に性転換するかもね」
「たぶん高校に進学する頃までには女の子に戻れるんじゃないかなあ」
「中学生時代は申し訳無いけどモラトリウムを延長することにして」
 
「でもこの子、戸籍上既に女の子になってしまってるよ」
「戸籍を再訂正する?」
「再訂正はまず認可されないし、この子が自然に女の子に性転換した時に必要になるから、訂正前の戸籍をduplicateしておこう」
「つまり、千里が女の子に修正された戸籍と、修正前の男のままになっている戸籍が二重に存在する状態にする訳だ」
 
「それだと、この後、色々工作をしやすい気がする」
 
ということで、村山家の戸籍・住民票がまるごと二重化されてしまった。
 
後に、千里自身は、自分が長女になっている戸籍は美鳳が捏造したものと思い込んでいたが、本当はそちらこそが本物で、千里が長男になっている戸籍は、この時に神様会議の結果作られた“戸籍の残像”である。美鳳は千里が女になっている戸籍が存在することに気付いて、利用しただけである。
 

そういう訳で、2003.4.6-10の事件では、千里はせっかく女の子になっていたのに、死ぬ運命を回避した代償のような形で男の娘に戻されてしまった。しかしここで男性器が1セット余ってしまった。
 
アイの男性器を取り付けるために、千里(Cu)から取り外した男性器である。
 
「この男性器どうする?捨てる?」
「ゴミだよね」
「待って。それは使い道があります。ゴミは減らしましょうう」
「何に使うの?」
 
「実は千里の友だちの鞠古知佐くんが、近い内に、男性器を除去する手術を受けることになりそうなんですよ」
 
「男性器を除去して女の子になるの?」
「それが女の子にはなりたくない男の子だから困ったもので」
「なぜ女の子になりたい訳でもないのに男性器を除去する?」
「ペニスに腫瘍ができてるんです。かなり酷い状態で、彼は今、排尿の度に激痛に耐えています」
「それでペニスを切らないといけないのか」
「可哀想」
 
「だから、千里から取り外したペニスを鞠古くんに付けてあげましょうよ」
「それはいいけど、それではその子が産む子供が遺伝子的に千里の子供になってしまう」
 
鞠古が産む訳ではないと思うが。
 
「睾丸は彼のをそのまま使う」
 
「あ、似たようなことを2年半前にした」
とP大神。
 
「翻田常弥の孫の和弥の事件ね」
 
「今回の鞠古くんの場合、まだ予定が変わる可能性あるけど、恐らくペニスと睾丸を除去して、女性ホルモンの投与をおこなうと思う。この病気は男性ホルモンで進行するんですよ」
 
「そんなことしたら、ほとんど女の身体になる」
 
「だから彼が治療を受ける前に、彼の睾丸を千里の睾丸に交換しておく」
「ああ」
「それで鞠古くんのペニスと睾丸が医者の手術で除去・廃棄されるけど、この睾丸は実は千里のものという訳で」
「千里の睾丸は不要だな」
 
ほとんどゴミ扱いである。
 
「それで多分2-3年経って再発のおそれが無くなった所で、女性ホルモンの投与は終了すると思う。その段階で、彼に千里のペニスと、退避させておいた彼自身の睾丸を戻してやる。すると彼は男性能力が復活する」
 
「睾丸を除去して女性ホルモンを投与している間におっぱいは膨らむよね」
「おっぱいがあるのは問題無いと思う。男湯に入れないだけ」
「おっぱいもちんちんもあるって、ある意味理想体」
「そう悪くない気がする」
 
などと勝手なことを言われている。
 
「素晴らしい。それで行こう」
「ゴミを減らすには、リユース・リサイクル・リデュース」
「いい、リユースだね」
 
ということで、千里の男性器の使い道も決まったのである。
 
(津久美1cm→早紀4cm→千里15cm→鞠古、というドミノ移植)
 
なお、鞠古くんの男性器除去手術は、千里の努力により回避され、またP大神たちは千里のパワーに驚くことになる。それで男性器リユースの方法も一部シナリオが改訂された。
 

千里が暫定的に?「男の子」にされ、戸籍も男性戸籍が復活したことから、周囲の人間の記憶が操作された。これは主としてP大神が主導しておこなっているが、小春に霊的ガードをされていた蓮菜には記憶操作は及ばず「何かおかしなことが起きた」と考え、取り敢えずみんなに話を合わせておいた。
 

大神様たちは、合体した千里(Cu)には、台木にしたCdの身体が表面に出ていると思っていたのだが、これ以降、2017年の再分裂までの間、実際には様々な形態の千里が多くの人に目撃されている。
 
この千里四重体(Cu Chisato United = Chisato Tetramer) は次の4つのサブユニットから成る。
 
C2(千里2) 外性器=女、性腺=女(津気子)、胸あり
C1(千里3) 外性器=女、性腺なし(小春の左卵巣あり)、胸あり
C1p+K(千里1) 外性器=女(小さなペニス付き)、性腺=女(千里)+小春の右卵巣、胸無し
Cd(千里0) 外性器=男、性腺=男、胸無し
 

中学時代から高校1年の夏に掛けて、「千里の男性器を確認」した人もあったし「千里は間違い無く女の子」であることを確認した人もあれば、千里は身体を女性化させている途中であると認識した人もあった。
 
男性器を確認した人は、Cd (Chisto clone doll)の男性器を見ていると思われる。
 
C1,C2,Cp+K が出す女性ホルモンの影響で、Cdの性腺は次第に機能を失い、またC1p+K, Cd のバストも少しずつ膨らんでいく。千里が中学1年〜高校1年くらいの性別移行期に、この“膨らみ掛け”のバストを目撃した友人も多い。
 
高校時代に千里は数回貴司とセックスしているが、実際にセックスしたのは一貫してC2(千里2)のボディである。
 
千里は剣道のほうでもバスケの方でも性別検査を受けているが、剣道では「間違い無く完全な女性」と診断され、普通に女性剣士として扱われている。これは恐らく、C2(千里2)かC1p+K(千里1)のボディが検査されたものと思われる。
 
一方、バスケの性別検査では、「外性器は女性型だが、卵巣や子宮は無い」ことから、性転換手術で造った人工的な女性身体と判断された。これはC1(千里3)のボディが検査されたものと思われる。それで千里は最終的な性転換が起きた2019.4.13以降にバスケ協会に自然性転換したことを届け出るまで、性転換選手として扱われていた。
 
なぜ様々なボディが観察されるのかは、神様たちもよく分からず、首をひねっていた。
 

なおCuには病院着を再度着せておいた。C1,C2が着ていたセーラー服、トレーナーやダウンコートは紙袋に入れて千里の自宅(現在無人)に戻しておいた。C2が持っていたスポーツバッグ(買物中に持っていた)もそばに置いた。ついでに下着類はP大神の眷属・カノ子が洗濯してあげた。(今回カノ子やミミ子は、ひたすら雑用係)
 
千里は4月7日0:10に倒れて病院に運びで込まれた後、尿道カテーテルを挿入されて導尿されていた。この倒れて入院して導尿された個体は C1p である。この個体の外陰部は女性型であり、千里は陰唇内の女性尿道口から4cmほどのカテーテルを入れられている。
 
小春が合体して C1p+K になっても、外陰部はちょっとペニスが付いただけで?陰唇があり、女性の位置に尿道口があるのは変わらないのでカテーテルはそこに挿入されたままであった。千里はこの状態で2時間半、鉄道唱歌を歌っている。導尿されているから、その間トイレに行く必要も無かった!
 
4人の千里が合体させられた時は、いったんカテーテルを抜いて合体作業をして、合体後に男性器を立派なものから少し萎縮したものに交換した。それで他の神様たちを帰した後、後事を託された、A大神の眷属・ミミ子が男性用のカテーテルを挿入しようとしたら、なぜか千里の外陰部は唐突に女性型に変化した。
 
ミミ子は首をひねりながら、女性型の外陰の尿道口から女性用のカテーテルを入れた。このカテーテルは4/10 12時頃、病院の女性看護師の手で抜かれた。この時は確かに千里の外陰部は女性型であった。ところが、13時頃、千里はトイレに行ったが、この時、千里はペニスの先から排尿している。4つの千里の身体の内、排尿機能のあるペニスが付いているのは Cd のみなので、この時点ではCdが表に出ているものと思われた。
 
つまり千里の表面に出る個体は不安定でフレキシブルなのでは?とミミ子は想像したが、この時点ではまだ観察時間が短く断定できないので、A大神本体の許可を取り、しばらくは千里に付いてて観察しておくことにした。
 
ミミ子は過去に、双子になる予定が受精卵が融合して1人の個体として生まれて来た子で、2種類の身体が不安定に切り替わる子を500年くらい前に見たことがあった。千里は今それに近い状態にあるのではとミミ子は想像した。
 
しかし実は千里の状態については「さまざまな個体が表面に出ている」という考え方だけでは、説明が付かないことを、A大神はすぐ認識することになる。
 

Timeline
4.06
18:00 A大神が千里をduplicateする。C2(千里2)を持ち帰りC1を残す
21:00 P大神が千里(C1)の卵巣等を津気子に戻す
21:10 P大神が千里にエストロゲン注射をする。
21:20 P大神が千里のcopyを取る。オリジナル(C1:千里3)を持ち帰りC1pを残す。
21:30 C1が勝手に抜け出し、沙苗を発見する。
22:00 村山家に残った千里(C1p)が突然不安を感じて鬱状態になる
4.07 00:10 千里(C1p)が倒れ病院に運び込まれる
09:00 S中の入学式
16:00-17:00 蓮菜が玲羅を自宅に呼ぶ。千里の着替えを持って行ってあげて、沙苗の母と遭遇。千里と沙苗の病室も訪問。
4.09 18:00 蓮菜が社務所門柱のランプを神殿深部にある炎から移して再点火する
18:30 少し体調が回復した小春が千里と合体する (C1p+K)
21:00 千里と小春が沙苗を三途の川から呼び戻す。
22:00 千里(C1p+K)が元気になっちゃう。
23:00 Q大神が千里をクローン体(Cd)と入れ替えようとして保留
23:51 千里死亡予定日時。死神がやってくる。千里は死ぬ前に1曲歌いたいと言い、死神は許可する。
4.10 02:12 千里の歌が終わる。死神は生命の火を取れず退散。
03:00 合体!
06:00 熱はきれいに下がっている
12:00 千里は点滴・導尿終了(外陰部は女性形)。つまり動けるようになる。
12:30 沙苗、千里からセーラー服をもらう。
13:00 トイレに行く(外陰部は男性形)。
4.14 07:50 千里が母に送られて初登校
08:20 千里がバスに乗って初登校
 

千里は医師からエストロゲン注射はされていない。夢の中で見たのは、P大神の眷属・カノ子に数回にわたって注射してもらったのが変形して記憶されたものと思われる。また医師はお薬など出していない!女性ホルモン製剤を出したのは小春の願いに応じてくれたP大神の工作である。
 

千里は4月14日朝の時点で、自分が小学4年生の時から事実上女の子になっていて昨年12月には性別の訂正を申請し、1月にそれが認可されたことを忘れていた。千里の母や妹の玲羅も同様で、千里も母や妹も、千里のことは「女の子になりたい男の子」と思っていた。
 
朝起きてからいつものようにトイレに行き、女の子式に割れ目の中からおしっこをしたが、もうそれが習慣になっているので、何も考えなかった。
 
母・妹と一緒に焼き魚(売り物にならない雑魚を焼いて朝御飯にすることが多い)で朝御飯を食べてから着替える。この時、千里は、自分が法的に男であるなら、不本意だけど学生服を着て登校しなければと思った。ところが学生服が全く入らない。
 
千里本人の意識に反して、千里の身体が女性形になっているので、入るわけがない。
 
セーラー服なら入るのだが、そんなことしたら叱られると千里本人は思っているので、結局体操服で学校に出て行くことにした。
 
「私も付いていくよ」
と母は言ったが、千里は
「お母ちゃん、4日間も会社休ませてしまったから、それでまた遅刻したら主任さんに小言(こごと)を言われるよ。ひとりで大丈夫だよ」
と言った。
 
それで千里は母に4/7-11の5日分の欠席届を書いてもらい、署名捺印してもらって、病院の診断書も添えて提出することにする。
 
「学校まで送るだけ送るよ」
と母が言うので、母が運転するヴィヴィオの後部座席に、体操服の千里と、普通の服の玲羅(小学5年生)が乗り、送ってもらった。玲羅は兄(?)と並んで座っていて、
 
『お兄ちゃん“女の子の香り”がする。やはりこっそり女性ホルモン飲んでるのかなあ』
などと思っていた。
 
津気子はN小前で玲羅を降ろし、S中前で千里を下ろして、職場に向かった。
 

津気子たちが家を出て数分後、“布団から飛び起きた”千里は、時計を見て
 
「遅刻だ、遅刻だ!」
と思った。
 
母も妹も居ないので、自分があまりにも起きないから放置されたかと思う。朝御飯も残ってないようなので、ヤカンでお湯を沸かし、食パンを焼きながら急いで着替える。
 
パジャマの上下を脱ぎ、自分の衣裳ケースの中のワイシャツを手に取るが
「これあまり着たくなーい」
と思って、ブラウスの方を着ちゃった。
 
トイレに行くが、ちんちんの先からおしっこするのが物凄く不愉快だ。
「私、ちんちん無くなってて、身体から直接おしっこしてたような気もするけど、あまりにも女の子になりたい気持ちが募って見た夢かなあ」
などと思った。
 
元々千里は自分が見た夢と現実の境目が曖昧である。それでしばしば蓮菜や恵香に笑われている。
 
ロッカーに掛かっているセーラー服を手に取る。
 
「御飯食べる間だけでも着てよう」
と思って、そのスカートを穿き、上衣も着てリボンを結ぶ。その状態で、ヤカンのお湯でカップスープを入れ、オーブントースターで焼き上がった食パンにマーマレードを付けて食べた。
 
「このままセーラー服で登校したいなあ」
と思いながら、“母の字で”欠席届を書き、署名捺印した。学校に出す書類を面倒くさがる母に代わって千里が代筆するのは、日常茶飯事である。
 
「あれ?通学用に買ったリュックがない」
と思う。
 
仕方ないので、千里は以前から使っていたデイパックに、ノートを5冊、それに筆記具を入れた。筆記具も、先月旭川で買った筆入れが見当たらず、仕方ないので、小学校の時に使っていた筆入れにシャープペン3本と消しゴムなどを入れ、かばんに入れた。
 
ふと時計を見ると7:45である。
 
「きゃー!もう着替える時間が無いよぉ。叱られたら着替えればいいし。えーい。このまま学校に行っちゃえ」
 
などと千里は言うと、一応学生服はスポーツバッグに入れ、なぜか食卓の上に置かれていたバスの定期を持つと、結局、セーラー服のまま、家を飛び出し、バス停まで走った。
 
 
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【女子中学生たちのフェイルセーフ】(L 1)