【女の子たちの女性時代】(下)

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自由時間にしていた観光客が戻って来始めたのでということでこちらも美鳳さんに御礼をして帰ろうとしたら
 
「うちのバスに乗って行きなよ。この時間から鶴岡に行くにはこれが一番早いよ」
などと言われるので、料金を払った上で!観光バスに同乗して鶴岡に戻る。 
隣に座ったおばちゃんから
「あんた最初から居たっけ?」
などと言われる。
 
「私、座敷童なんです」
「そうだったんだ! 何かいいことあるかな」
「次のロト6は** ** ** ** ** **で」
「おお!」
 
おばちゃんが慌ててメモする。
「最後の数字なんだったっけ?」
「さあ。今私どこかから降りて来た数字をそのまま言ったので自分でも覚えてません」
「よし、最後の数字は38種類全部買おう」
 
このおぱちゃんは実際に1等が当たったようで、ブログに書いたのが話題になっていたのを千里は半月後に知ることになる。
 

千里は鶴岡駅で旭川までの切符を買い、17:41の青森行き《いなほ7号》に飛び乗った。あたりはすっかり暗くなっている。
 
その夜景をボーっとして見ていたら、列車の通路を歩いて、美鳳さんが顔を知らない女性と2人でやってくるのでびっくりする。美鳳さんは今度はアロハシャツを着ている!?
 
「えっと何か?」
「いやー、ごめーん。私が勝手にプログラム書き換えたらさ、それじゃまずいと安寿さんが」
「あれ、微妙なんだよ。書き換える前に一言言ってくれれば良かったのに」
 
「私がさっき書き換えたスケジュールだと、千里は成人式を男の子の身体で、背広着て出ないといけないことになると」
「いやーーー!」
 
「それにあんた、花園さんと練習試合の約束したでしょ?」
「あ、はい」
「あの温泉であんたが花園さんと出会うのは想定外だったんだよね」
「へー」
「その練習試合の分も書き換えが必要だって安寿さんが」
「その試合も女子高生の時間でやりたいよね?」
「ええ、お願いします」
 
「大神様に改訂の許可を打診したら、くすくす笑っておられたから、大神様はお見通しだったんだ」
「でも時が来るまで何もおっしゃらないから」
 
「神はそういうものだと思います」
と千里も言う。
 
「ま、それでちょっと再改訂」
「ちょっと貸してね」
 
と言って美鳳さんが千里の身体の中に手を入れて、また例の巻物を取り出す。そして安寿さんが作ったメモのようなものを見ながら、美鳳さんが書き直している。どうもチェックが大変なようでふたりでデータの照合をしている感じだ。その間にいくつもの停車駅を過ぎる。
 
「これでいいかな」
「OK」
「よし、再度セット」
 
と言って改訂した巻物を美鳳さんは再び千里の身体の中に入れた。
 
「さっきのスケジュールだと9月11日から9月21日まで女子高生の身体だったんだけど、改訂したスケジュールだと9月16日で終わるから」
 
「大会の間だけ女子高生ならいいですよ。その後はまた男の子ですか?」
「ううん。9月17日からは大学1年生の時の身体」
「えっとそれ女の子なのかな?」
「もちろん」
 
「だったらいいです。私人身御供みたいだし」
「よしよし。殊勝である」
「この組み替え最終的に失敗したら、いっそのこと千里って人間が最初から居なかったことにしちゃおうか」
「いやです」
「まあうまく行くといいね」
 
「じゃね」
と言ってふたりは秋田駅で降りていった。
 

秋田駅のホームで千里に手を振ってくれたふたりをこちらも手を振って見送る。そして千里はまたしばらくぼーっとしていた。
 
『でも私っていつ人身御供になっちゃったのかな?』
と千里は誰に向かってでもなく、何気なく質問を投げかける。
 
『私が神社に奉仕するようになった時なのかしら?』
 
『違うよ』
と答えてくれたのは《くうちゃん》だ。《くうちゃん》の発言は珍しい。 
『巫女さんになるだけで人身御供になるんなら誰も巫女さんになりたがらないよ。千里が中学に入る時に死にかけた時からだよ』
 
『あの時!?』
 
『千里が本当に死にそうな顔で熱にうなされていたから、千里のお母ちゃんが羽黒山大神を祭っている神社で祈願したんだよ。この子をお助けください。代わりに何でも差し上げますって』
 
『それは知らなかった。でも留萌にそんな神社があったっけ?』
『千里、ちょっと神社事典とかで羽黒山大神を調べてみなよ』
『うむむ・・・』
 
そういえば調べたことなかった!
 
『まあ、それで千里を助ける代わりに、千里自身をもらったのさ。これ美鳳さんにも内緒だぞ。まあ、お母ちゃんは1万円もお賽銭入れたけどね』
 
と《くうちゃん》が言う。
 
後ろの子たちのリーダーは《とうちゃん》だが、《くうちゃん》は唯一《とうちゃん》より強い。口の悪い《こうちゃん》などは『影のリーダー』と呼んでいる。《くうちゃん》は恐らく数千年生きている。美鳳さんは多分1500歳くらいだから、《くうちゃん》は美鳳さんの眷属ではあっても、美鳳さんも知らないことまで知っている。でも普段はとても寡黙だ。
 
『そうか。お母ちゃんが私を献納したんだったら、それでいいよ。でも当時のうちの家計で1万円って凄まじい大金だよ』
『その1万円は宝くじの当たりで返してあげた』
 
『へー!でもあれ、やはり本当は死んでたの?』
 
『あの時、男の子の千里は死んだのさ。今年の2月に月山で剥がれ落ちたのはその抜け殻だよ。代わりに大神の力で女の子の千里が起動した。あの病院の看護婦に大神の眷属がいたから、その子を使った』
『凄い!』
 
でも、そうなのかも知れないと千里は思った。あの時、女性ホルモンを打ってもらったことで自分は病気から回復したんだ。
 
『だから千里は美鳳さんと出会う前から既に大神様の眷属だったんだよ。美鳳さんとの出会いも実は大神様の仕掛け』
 
『瀬高さんもやはり眷属なの?』
『そうだよ。あの人も3歳頃に死にかけたのを助けられてる』
『私は生まれた時死んでたらしい。お医者さんが揺すったりビンタとかして、やっと産声あげたんだって』
『霊感の発達している人には、そういう人が多いよ』
『でも私、霊感大して無いよ』
 
『あのなあ』
《くうちゃん》が少し呆れたような声をあげ《きーちゃん》が笑っていた。 

22時に青森に着き、青函トンネルを越える夜行急行《はまなす》に乗り換えた。この急行はとても便利なので、その内青函トンネルを新幹線が走るようになってもこれは残して欲しいなと千里は思う。
 
6:07に札幌到着予定である。千里ははまなすの車内ですぐに眠ってしまった。ここしばらく男の身体に戻ってずっと大きなストレスを抱えていたのが、また女の身体になれるというので嬉しくなりこの10日間の精神的な疲れがどっと出てしまった感じであった。青森駅までは緊張が続いたものの乗り換えた途端その反動が来たのだろう。
 
朝苫小牧で停まったので目が覚める。時計を見ると5時だ。千里はまだ充分頭が働き始めていない感じであったが、取り敢えずトイレに行ってくる。それでおしっこをしていた時「ん?」と思う。
 
あ・・・・。
 
ちょっと触ってみる。
 
やったぁ!!
 
また女の子に戻ってる。嬉しい〜〜〜!!!!
 
千里は心が躍る思いでペーパーでその付近を拭くと、手を洗ってトイレを出た。やはり私は女の子なんだもん。お股に変なのがついてるのは間違いだよねぇ。やっとこれで本来の自分に戻れた。
 
そう思うと、千里は新たな活力が湧きだしてくるかのような気さえした。そして出羽の方を向いて深くお辞儀をした。
 

札幌でスーパーホワイトアロー1号に乗り継ぎ、旭川に8:13に着くと、そのままスタジオに入った。
 
「あれ、千里朝から来れたんだ?」
「うん。早く着いたからね」
「どこ行って来たんだっけ?」
「山形県。昨日は旭川空港から羽田経由で庄内空港に行って、昨日の夕方青函トンネル通って、はまなすで帰って来た」
 
「なんかハードなスケジュールだなあ。でも元気っぽい」
「うん、元気元気」
 
それで演奏していると
 
「千里、見違えた」
と言われる。
 
「病気が治ったから」
「何の病気だったの?」
「突発性男性器出現症」
「なにそれ〜?」
「朝、起きたらおちんちんが生えているという」
「治療法は?」
「はさみで、ちょきんと切っちゃう」
「痛そうだ」
「切る前に女の子とセックスしてみたいな」
「立ちションもしておかなくちゃ」
 
「みんなそういう発想か」
「うん。それが普通の発想」
 
演奏の方は他の子も結局昨日いっぱい練習で終始したようで、この日から本格的に演奏の収録に入った。みんな2日間の練習でだいぶうまくなっていたし、千里も調子良くて、録音はスイスイと進んだ。
 

翌8月16日の朝。
 
千里は目が覚めた時、お腹が変な感じがした。この感触は覚えがある。 
取り敢えず換えのショーツを持ってトイレに行き、用心のために付けて寝ていたナプキンをまるめて汚物入れに捨てる。ペーパーでお股をよく拭き、少し漏れて汚れていたショーツも交換し、新しいショーツにナプキンをセットして、ふっと息を付いた。
 
昨日もちょっとお腹の調子おかしかったもんなあ。旅疲れかと思ったけど、やはりこれだったのかと考える。
 
これは千里が5月下旬に突然女の子の身体になってから経験する3度目の生理である。これまでは6月12日、7月10日に来ていたので、その周期なら次は8月7日に来るはずだったのが、8月4日に男の子に戻ってしまったので当然7日は来なかったのである。
 
まあ、男の子の身体では生理は来ようがないよね? だいたいどこから出せばいいんだ?
 
生理はちょっとお腹痛いし、憂鬱なのだが、生理が来たことで再び女の子になれた喜びを噛みしめていた。自分の手帳のカレンダーに3回目の赤い○印を付ける。 
さすがに3度目となると《普通》になっちゃったなあ。初めて来た時はどこか炎症か何かでも起きて出血したのだろうかと思った。しかし《いんちゃん》が『これは生理だよ』と教えてくれたのである。
 
でも・・・・
 
なんで私、生理があるんだろ?
 
性転換手術って膣を作るだけだよね?? 膣だけじゃ生理起きないよね? 
後ろで《いんちゃん》や《てんちゃん》がクスクスと笑っている。どうも何か仕掛けがあるようだが、きっと訊いても口を割らないだろう。
 

お風呂場でショーツを洗い、それで台所に出て来た所で美輪子叔母と遭遇する。 
「おはよう」
「おはよう」
 
「シャワーでも浴びてたの?」
「ううん。パンティー洗ってただけ」
「なんか汚したんだっけ?」
「ちょっと生理の血が付いただけだよ」
「なーんだ」
 
叔母はたちの悪い冗談か、『女の子ごっこ』みたいな変な遊びだと思っているだろうなと思いながら千里は洗ったショーツを洗濯機の中に放り込んだ。叔母は千里が自分用のナプキンをトイレに置いているのも容認してくれている。 

DRKの音源制作作業は16日で終了したが、その翌日17日(金)、千里は午後から暢子と待ち合わせの体育館に行った。結局お盆期間中は休んでしまったので、13日以来、4日ぶりの練習である。
 
それでパスや1on1の練習をしていたのだが・・・
 
「千里・・・」
「うん?」
「なんか動きが見違えってるぞ」
「そうだっけ?」
「こないだからの数日間は、あれ〜?って感じだったのに、インハイの時のスピードとかが戻ってる。いやあの時以上に進化してる」
 
「ああ、私の身体って、時々突然進化して、時々突然退化するんだよ」
「千里の身体ってどうなってんの?」
 
「自分でも分からなーい」
 
「しかし千里が進化してるなら、私も進化しなくちゃ」
「うん、頑張ろう」
 

18日(土)の朝、千里の携帯に着信があるが、知らない電話番号である。何だろうと思い、取り敢えず取って「はい」とだけ答える。
 
「お早うございます。私、旭川L女子高の溝口麻依子と申しますが」
「ああ!お早うございます。旭川N高校の村山千里です」
 
「先日話していた地域リーグ戦の件ですけど」
「A商業さんとR高校さんも入れた練習試合ですね?」
「それの組合せ・スケジュールをちょっと詰めませんか?」
「あ、はい。でも私と溝口さんでですか?」
「日枝さん(R高校)からも三笠さん(A商業)からも任せたと言われて」
「うむむ」
「あ、私、夏休み明けからバスケ部の部長になったんですよ」
「わあ、おめでとうございます」
「要するに雑用係ですけどね」
「あ、でもうちは若生(暢子)が新部長なんですよ」
「ええ、それでさっき若生さんに電話したら、そういう細かい話は村山さんにと言われて電話番号教えてもらったので」
 
ああ、暢子はこの手のパズルみたいな話は苦手だから、こちらに投げたなと千里は思った。
 

それでお茶でも飲みながらという話になり、旭川駅近くのマクドナルドで待ち合わせた。
 
「最初、M高校の中嶋(橘花)さんが各校と連絡とりながら詳細を詰めようとしていたみたいなんですけど、夏休みの宿題が全然できてないことに気付いてしまったので、細かい所はそちらで決めて、とこちらに投げられてしまって」
 
「ああ。この時期に夏休みの宿題ができてないのはやばい」
「一応中嶋さんが作った叩き台では、M高校・N高校の男子バスケ部の通常の活動も再開されるから、リーグ戦の会場はM高校・N高校・L女子高の1コートずつを使って分散開催にして、各校が5チームと対戦するから、土日を休みにして週に1度、特定のチームと対戦するというものなんですけどね」
 
「それやるとA商業さんとR高校さんは5日とも他の学校に出て行かないといけないから交通費が大変じゃないですかね」
「これまでは交通費が実質掛かってませんでしたからね」
 
N高校とM高校でやっていた時は、元々両校の距離が500mも離れておらずお互い歩いて行くことができた。その後L女子高が加わったものの、L女子高とN高校がスクールバスを持っていて部活の練習場移動に利用できることから、L女子高のメンツがこちらに来る時はL女子高のスクールバスで移動し、N高校・M高校がL女子高に行く時はN高校のバスにM高校のメンツも同乗して一緒に移動していたのである。
 

「LMNXARの6文字をこの順序に循環定義して、ふたつのチームが対戦する時、順位の大きな方の会場でやるというのはどうでしょう?」
と千里は提案してみた。
 
「それでうまく行きます?」
 
千里は作業用に持って来たA3白紙に組合せを書き出す。
 
L-M(L) N-X(N) A-R(A)

L-N(L) A-M(A) X-R(X)

L-X(L) R-M(R) N-A(N)

A-L(A) R-N(R) M-X(M)

R-L(R) M-N(M) X-A(X)

 
「これで会場使用数は L3 M2 N2 X2 A3 R3 になっていますが、実際にはXはNかMなので、こうするといいです」
 
と言って千里は今書いたものに赤ペンで修正を入れる。
 
L-M(L) N-X(N) A-R(A)

L-N(L) A-M(A) X-R(M)

L-X(L) R-M(R) N-A(N)

A-L(A) R-N(R) M-X(M)

R-L(R) M-N(M) X-A(N)

 
「これで会場使用数は L3 M3 N3 A3 R3 となって丸く収まります。各校とも3日は自分の学校でやり、2日はよそに出て行きます」
「おぉ!」
 

「でもこのやり方は、交通費をみんな平均的に使うというだけで、効率は良くないかもしれない」
と千里は自分で言う。
 
「思いっきり距離が離れた学校同士なら、それでいけそう」
と溝口さんも言う。
 
ふたりはしばらく考えていた。
 
「地理的なこと考えると、村山さんたちのN高校と中嶋さんたちのM高校がすぐそばにあるというのを、やはり基本に考えた方がいいかも」
と溝口さんが言う。
 
「なるほど」
 
「A商業もわりと近いですよね」
「2kmくらいなんですよ」
「だったらジョギングで10分だな」
「それかなり速いペースでは?」
「そのくらい頑張ってもらおう」
 

溝口さんが5校の位置関係を大雑把に別のA3白紙に描く。
 
「R高校さんが離れているんですよね」
「うん。L女子高からN高校までもだいたいジョギングで30分。まあスクールバスで移動するけど」
「30分ジョギングした後で40分の試合は辛い」
 
「R高校さんもスクールバスがいつでも使えるらしいんですよ。だから移動手段が無いのが、M高校とA商業」
「まあ公立は仕方無いですよね」
「今まではうちでやる時は、N高校さんのバスにM高校も同乗してきていたから良かったけど、今度はばらけるから同乗がきかない」
 

「やはり会場は固定にしましょう」
と溝口さんは言う。
 
「N高校の男子を追い出して2コート使えません? それとM高校のコートを1つ使いましょう。両校はほぼ隣り合っているから実質ひとつの会場と思っていいでしょ?」
「ですね。男子は追い出せると思う」
 
「それで、A商業さんはジョギングしてきてもらう。うちとR商業さんがスクールバスで、会場に移動する」
 
「確かにそれがいちばんお金が掛からない気がします。でもスクールバスのガソリン代の負担がL女子高さんとR高校さんに掛かりすぎません?」
 
「うちとR高校さんがガソリン代を負担する代わりに、N高校さんとM高校さんは場所代を負担すると考えればいいです」
「ああ。そう考えればいいかな。スポーツドリンクくらいは提供できると思いますし」
 
「ではその線で」
 

話がまとまった所で、普通のバスケットの話になる。インターハイの感想を聞かれたので、対戦した各校の様子などを話すと興味深そうに溝口さんは聴いていた。 
「いいなあ。私もそういう所とやりたい」
「取り敢えずウィンターカップ頑張りましょうよ。うちも負けませんけど」
「うん。頑張ろう」
 
千里は「夢の中の話」と断って、唐津の女神様が女子バスケ選手10人を召喚しようとしたという話をした。
 
「まあ村山さんは実際10人に選ばれていい素質持ってると思うよ。素質ね」
「練習がまだ足りないということですね?」
「うちのチームだったら、もっと鍛えてるけどなあ」
「私、練習嫌いだから」
「ああ、そういう雰囲気はある」
 
「他の9人って誰々だろうと思ってたんですよ。ある事件で判明したのですが、福岡C学園の橋田さんは確実」
 
「J学園の花園さん・日吉さん、F女子高の前田さん・大野さん、秋田N高校の中折さん・倉野さん。これで8人か」
 
「ああ、そのあたりは入ってそう」
「後はそちらの若生さんと、M高校の中嶋さんかもね」
「入っててもおかしくないかも」
 
「他には倉敷K高校の丸山さん、静岡L学園の青井さん、大阪E女学院の御堂さん、愛媛Q女子高の鞠原さん、東京T高校の森下さん、あたりも可能性ある」
 
「そのあたり見てないなあ」
と千里が言うと
 
「研究不足!」
と溝口さんから言われた。
 
「でも今年のうちの快進撃は、どこもうちを研究していなかったからというのもあったと思う」
と千里。
 
「それはあるでしょうね。村山さんのシュートや、花園さんとのマッチアップを物凄い回数リピート再生しているシューターさんたちが全国に居ますよ」
 
「研究されてくると思う。だから頑張らなきゃ」
 

顔合わせたついでに少し汗を流しましょうよという話になり、N高校の暢子と雪子、L女子高の登山宏美・大波布留子を呼び出して、近くの体育館に集合した。それで軽くウォーミングアップして3on3をした。手合わせしたのはインターハイ前の7月上旬以来、1ヶ月半ぶりである。
 
「村山さん、無茶苦茶進化してる!」
と登山さんに言われたが、千里も
「登山さんも、凄く巧くなっている」
と言う。
 
しかし溝口さんは暢子に
「もう少し進化してると思ってたぞ」
と言い、暢子も溝口さんに
「もっと練習してるかと思ってたのに」
などと言っていた。
 
最初は1時間くらいのつもりだったのだが、熱が入って結局3時間ほど練習は続いた。
 

「ところでリーグ戦の話はまとまったんだっけ?」
と暢子。
「まとまったよ。各校にFAX入れた。必要なら代表者が集まって話し合い」
「代表者というより顧問さんで集まってもらった方がいいね」
 
「うん。予算執行の問題もあるからね」
 
「ところでさ、ここだけの話」
と登山さんが切り出した。
 
「はい?」
 
「昨年N高男子チームで活躍していたシューターと村山さんの関係は?」
と登山さんは興味津々という顔で訊く。
 
「私本人ですよ」
 
「やはりそうなのか。なんかこれに関してはいろんな噂が飛び交っていて、どれが本当なのかさっぱり分からないと思って。なんで男子チームに居た訳?」
と溝口さんも言っている。
 
「私、戸籍上は男子なので」
「へー!」
「あれ?女子に訂正したんじゃなかったんだっけ?」
と暢子が言うが
「戸籍の訂正は20歳になるまでできないんだよ」
と千里は言う。
 
「でも中学の時は女子バスケ部だったんだよね?」
「そうそう」
「ほほぉ」
 
「高校に入る時に、やはり戸籍通りでないとまずいかなというので男子バスケ部に入れてもらったんですけどね。でも試合に出てて、性別に疑問を持たれて検査受けてくれと言われて。それで検査されたら、君は女だと言われてしまったので」
 
「いや、検査するも何も村山さん、女子にしか見えないんだけど。半陰陽?」
「ううん。元々は普通の男の子でしたよ。でも性転換したんですよ」
 
「やはり性転換したんだ? いつ?」
「1年ほど前。だから、昨年のインターハイ予選の頃までは本当に男子だったんですよ」
「へー」
 
「性転換って手術とかしたの?」
「手術しましたよ」
「じゃ・・・おちんちん切って?」
「うん。おちんちん切って、タマタマ取って、代わりに割れ目ちゃん作って、ヴァギナとクリちゃんも作って」
 
「すごーい! ヴァギナもあるんだ?」
 
「あれ、むしろヴァギナを作るのが主目的だよね?」
と暢子が言う。
「そうそう。それがないとお嫁さんになれない」
「ああ。無いとお婿さんが困るよね」
 
「だから、あの手術、ポールとボールを取ってホールを作る手術なんて言う人もあるんですよ」
「へー!」
 
「昨年秋に受けた検査では、とにかく私の性別を明確にするというのが目的だったみたいですけど、インターハイ直前の再検査では、私の身体が本当に女性的か、男性だった頃の筋肉が残ってないかを確認したみたい」
「ほほぉ」
 
「まあ千里は男子チームに居た頃はほとんど筋肉無かったからね」
「うん。今の筋肉は主として今年のお正月以降に付けたもの」
 
「ね、ね、その女性的についた筋肉を見てみたいんですけど」
と登山さんが言う。
 
「えっと、どこで?」
「そりゃ、裸になれる場所で」
 

ということで、6人はそのまま市内のSPAに移動する。
 
先日父と一緒に訪れたばかりの所だ!
 
「ちょっと臨時収入があったから、私が入場料は出すよ」
と言って千里は6人分の代金を払った。赤い番号札のついた鍵を6つもらう。 
「村山さんも赤い鍵でいいのね?」
「私、男湯には入れないよぉ」
 
と千里が言うと、暢子が
「こないだお父ちゃんと来たんでしょ? どうしたの?」
と訊く。
 
「私は女湯でお父ちゃんは男湯に入ったよ」
「じゃ、お父さんに性転換したことカムアウトしたの?」
「まだしてない」
「ふーん」
と言って暢子は意味ありげの顔をした。
 
「え?まさか村山さん、親に黙って性転換しちゃったの?」
「うん。許してもらえる訳無いから」
 
「まあ千里はどうも、女子選手として大会に出たいために性転換手術を受けたっぽい」
と暢子が言う。
 
「それは凄い!」
と登山さんが言った。
 
「おちんちんよりバスケの方が大事だったんだ?」
 
「私はおちんちん要らないと物心付いた頃から思ってたよ」
「あ、そうだよね!」
 
「過去にも半陰陽の選手がオリンピックで女子の部に出たいと言って睾丸の除去をしたケースもありますよ」
「へー」
 

みんなで「女」と染め抜かれた赤い暖簾をくぐる。
 
そして千里が服を脱ぐと溝口さんが「ちょっとチェック」といって身体に触る。「ここ触ってもいい?」などといってお股にも触っちゃう。
 
「わたし的には女の子の身体と認める」
と溝口さんは言う。
 
「身体付きが完全に女だと思う」
と登山さんも言う。
 
「でも千里はまだ付いてた頃から女湯に入ってたからなあ。去年のインハイ予選でも、男子チームに居たのにお風呂は女湯に来てた」
と暢子。
 
「女湯に入って騒ぎにならなかったの?」
「この子は小学4年生の時から女湯に入っているらしい」
「うそ」
「まあ、誤魔化し方があるから」
「どうやって誤魔化すわけ?」
「一時的に取り外す」
「取り外せるの〜?」
 
「千里と小学校の時から一緒だったうちのチームの留実子によれば、男の子のあれって実はネジ式になっていてグルグル反時計回りに回すと外れるようになっているんだとか」
と暢子が言う。
 
「うちの中学生の弟で試してみるかな」
「バスケ選手の本気の握力でねじったら、ねじ式でなかったとしてもねじ切れてしまったりして」
「まあ取れちゃったら取れちゃった時で。私妹欲しかったし」
「妹になれそうな弟なの?」
「うーん。行けると思うけどなあ。小さい頃は私の着ている服を見てスカート穿きたがってたから、よく穿かせてたけどね」
 

お風呂の中ではバスケットの話をたくさんしたが、大波さんが先日のDRKの録音の話をする。
 
「それインディーズってやつ?」
と登山さんが訊く。
 
「そうそう」
「それもなんか格好いいね」
「メジャーと比べてセールスは上がらないけど自由は利く。メジャーはレコード会社の都合の方が優先されたりするから」
 
「取り分も違うんでしょ?」
「そうそう。メジャーの場合、自分で曲を書いて自分で演奏したとしてももらえる印税は売上の9%にすぎない。ひどい場合1%ももらえないこともある。事務所と給料制の契約結んでいると、ミリオンセラーになったのにもらえるのは普段通り30万くらいの給料だけなんて可哀想すぎるケースもある。でもインディーズだと契約にもよるけど半分くらいもらえることが多い」
 
「全然違うじゃん」
 
「それと版権の問題もあるんだよね。メジャーだとレコード会社が版権を持つことが多いから、レコード会社を移籍した後でも前のレコード会社が勝手に編集したアルバムを出したりして揉めたりする」
 
「だったらインディーズの方が良かったりして」
「その代わり大きく宣伝されることもない。でもだから知名度も資金力もあるアーティストの場合は敢えてインディーズに居る場合もあるんだよ。さだまさしなどが良い例」
 
「インディーズだと自分で宣伝して自分で売らなければいけないから、それがネックだよね」
「うん。だから一度もメジャーに行かずにずっとインディーズというビッグ・アーティストは少ないよ」
 

そんな話をしていた時、千里はふと浴室のドアを開けて入って来た人物に目が停まった。
 
「ん?どうしたの?」
と暢子が訊く。
 
「いや、あの人」
「ん〜?」
 
暢子もその人物に違和感を覚えたようである。
 
「なあに?」
と溝口さんもそちらを見る。
 
「何あれ?」
と溝口さんは少し呆れたような声をあげる。
 
その人物はお風呂に入るというのはばっちりとフルメイクしている。そして妙におどおどしていて、誰とも目を合わさないように壁の方を見ながら歩いている。そして何よりも《見た目の雰囲気》が男にしか見えなかった。
 
その時、洗い場で髪を洗っていた40代くらいの女性が立ち上がって浴槽の方に来ようとして、まともにその人物を見た。そして
 
「きゃー!!!」
と声をあげる。
 
その人物は慌てて逃げようとした。
 
がここは瞬発力のあるバスケガールたちが浴槽から飛び出して、その人物を確保した。取り押さえる時にウィッグが外れて短い髪が露出する。お股のところはどうもガムテープで押さえていたようだが、それも外れかけて男性器が露出しかかっている。
 
「どうしました?」
と言って女性のスタッフさんが3人ほど浴室に駆け込んできた。
 
「何というか、やはり侵入者かな」
と暢子が言う。
 
「あんた痴漢?」
とスタッフさん。この人はこないだ来た時、千里に声をかけた人だ!
 
「ごめんなさい、痴漢じゃないんです。私、性同一性障害なんです」
とその人物。
 
「うーん。それでも男の身体で女湯に入られちゃ困るよ。ちょっと来て。事情は事務所で聞くから」
とスタッフさんは言う。
 
千里もその人に言った。
「GIDというのなら同情しますけど、取り敢えず髪が女に見える程度まで伸びて、おっぱいも女程度に膨らんでからでないと、女湯には入れないと思いますよ。ウィッグで女湯は無茶。それにあなたお化粧してるけどノーメイクで女としてパスできないとトラブルの元」
 
「おちんちんは良いわけ?」
と溝口さんが訊く。
 
「おちんちんくらいお風呂に入る前に、ちょっと切っちゃえばいいじゃん」
と千里が言うと
 
「簡単に言ってる」
と暢子は少し呆れて千里を見た。
 

侵入者?がスタッフに連行されていった後、いったん浴槽に戻る。
 
「だけど千里さん、もしかしてその髪ってまだウィッグですよね?」
と雪子が訊く。
 
「そうだよ」
と千里は答える。
 
「千里って自分を棚に上げて人のことを言うんだ」
と暢子は呆れている。
 
「でもその髪洗ってなかった?」
と溝口さん。
 
「うん。これ人毛ウィッグだからちゃんと洗ってトリートメントしないといけないんだよ」
と千里。
 
「実際の髪は洗わなくてもいいわけ?」
「ああ。家で洗うよ」
「本当の長さはどのくらいなの?」
 
「いや、このウィッグ外すと私まで捕まる。だって私4月に1度丸刈りにしちゃったからさ」
「ふむふむ」
 
「一度通報してみようか」
「それは勘弁して」
 
「まあ村山さんが退部になっちゃうと対決する楽しみがなくなるからここは見逃してツケにしておくか」
と溝口さんは笑って言った。
 
「でもちんちんは付いてないんだよね?」
「そんなのが付いてたら女子選手として大会に出られないよ」
「だったらいいや」
 

8月20日(月)。夏休みが終わって授業が再開される。N高校は2学期制なので夏休みが終わってもまだ2学期ではなく1学期の途中である。9月上旬に期末テストが行われ、10月上旬の連休で1学期と2学期が分けられる。
 
千里が20日の朝、自主的に女子制服を着て居間に出てきたのを見て叔母が言う。 
「千里、もう男子制服は処分しちゃう?」
「ううん。私の制服は公式には男子制服だから。あくまで暫定的に女子制服を着ているだけで」
「そんなこと誰も思ってないと思うけどなあ」
 
学校に出て行っても、もうクラスメイトも先生たちも千里の女子制服問題は誰も何も言わない。みんな千里が女子制服を着ているのは当然と思っている感じである。
 
「千里、その髪はウィッグなんだっけ?」
「そうだよ。私の本当の髪はまだかなり短いから」
「いつ髪切ったの?」
「4月に1学期が始まる前に丸刈りにした」
「丸刈りにする必要がなかった気がするが」
「そうなんだよねぇ。私2年生になってから、半分くらい女子制服で出て来てる気がするし」
「半分ってことはないぞ。9割は女子制服だと思う」
「そんなに着てたっけ?」
 

お昼休みに暢子と一緒に職員室に呼ばれる。教頭先生の机の所に宇田先生がいる。 
「例の愛知J学園との練習試合の件、昨日岐阜に行って話し合ってきたよ」
と宇田先生。
 
「お疲れ様でした。でも岐阜ですか?J学園って岐阜でしたっけ?」
「名古屋だよ。昨日はJ学園は岐阜のF女子高と練習試合していたんだよ」
「頑張りますね!」
 
「トップはそうやって日々鍛えている。うちも頑張らないといけないね」
「はい」
 
「ああ。それでインターハイまでと言っていた、女子バスケ部の練習時間の特例はとりあえず2月の新人戦道大会まで延長することにしたから」
と教頭先生が言う。
 
「ありがとうございます」
「ただし2年生については成績120位以内が条件ということで」
と教頭先生。
「うーん。若干漏れそうな子がいますが、仕方無いですね」
と千里。
 
「川南と葉月は勉強も頑張らないとレギュラーは取れないということだな」
と暢子。
 
千里は授業料全免の特典を維持できるように20位以内をキープしているし、暢子も半免の特典を維持できる50位以内をキープしている。暢子は中間期末の成績はあまり良くないのに、実力テスト・振り分け試験では高得点を取るという、本人曰く「隠れ天才」型である。留実子も試験の要領がいいので、だいたい80位くらいに居る。
 
「まあそれで練習試合の日程だけど、1月19-20日の週末になった。やはりウィンターカップの前だとお互いに手の内を曝すことになってしまうから後でしようということと、愛知J学園はインターハイで優勝したので、1月のオールジャパンに出るから、その決勝戦の日程が入っている1月13日より後にすることになった」
と宇田先生。
 
「あ、そうか。今年からインターハイで優勝するとオールジャパンに出られることになったんだ」
「優勝すれば皇后杯獲得」
「まあさすがに高校生がオールジャパンで勝ち進むのは無理だろうけどね」
 
「1月にする場合、向こうの3年生は出られるんですか?」
と千里は訊く。
 
「うん。本来は3年生は部活は12月までなんだけど、オールジャパンまでは特例で出られる。その特例を特に今年は翌週まで延期してもらえることで向こうの学校側との話がまとまった」
 
「わあ」
「P高校も同じく3年生は12月いっぱいまでしか部活動できない規則なんだけど、そちらも特例で認めることになったらしい」
 
「P高校?」
「うん。結局、J学園と、うち、札幌P高校、旭川L女子高の4校によるリーグ戦をすることにした」
「わっ」
 
「J学園をこの3校で北海道に招待しておこなう」
「なるほど!」
「うちとL女子高は1−2年生のチームだけどJ学園とP高校は3年生も入る。これが3年生にとって高校最後の試合になる」
「それはたくさん苦しめてあげないと」
「うんうん」
 
「3校で招待するけど、ウィンターカップに実際に出られるのはその中の1校だけなんですね」
「3校とも出られなかったりして」
 
「そのあたりはウィンターカップの出場如何にはよらず、このメンツでやろうということで」
「分かりました」
 
「岐阜F女子高も行きたいという話が出て日程を詰めていたんだけど、向こうはどうしても1月は都合がつかないみたいで見送り」
 
「本戦でやりたいですね」
「うん。頑張ろう」
 

この20日から、N高校とM高校・L女子高などとの練習試合も再開された。 
組合せ・スケジュールは最初M高校の橘花が作った案をたたき台にL女子高の溝口さんとN高校の千里が詳細を詰め、それを提示して各校の承認を得たものである。
 
とりあえず8月20日から始めて10月上旬の秋季大会前まで実施する。週単位での組合せなので、8/20-24, 8/27-31, 9/03-07, 9/10-14 と4クールした後で選抜大会予選のため9月下旬は休止して、10/01-05 でいったん終了である。但し各校でテストなどのために部活が休止期間に相当する場合はその学校は外れる。N高校の場合は9/10-11, 10/03-04 が試験のために休止である。 
会場はN高校の南体育館の2コートと、M高校の第2体育館(事実上バスケ部の専用)を使用する(N高校・M高校がお休みの日も使えることになったが、組合せ次第で他の会場が良い場合は振り替える)。ここにA商業のメンバーは本当に2kmの道をジョギングしてやってきて、L女子高とR高校のメンバーはスクールバスでやってきた。でもR高校は「帰りのバスはA商業発だから」と言われていた。つまり試合後2kmの道をジョギングする必要がある。
 
「頑張るなあ」
と留実子が感心したように言う。
 
「うちも頑張る?」
と暢子が訊いたが
 
「パス」
と千里は答えた。
 

22日の水曜日。千里は学校を休んで、早朝から札幌に向かった。
 
連絡のあった婦人科医の健診を受けるためである。お盆過ぎてから学校が始まる前に行こうかと思ったのだが、生理が来てしまったので、その出血量が減ってきた所で、念のためビデで膣洗浄した上で出て来たのである。
 
東京で千里をインハイ前に診察したL医師が書いてくれた紹介状と、千里の家に来ていたこの病院からのハガキを持参する。最初に血液と尿を取られ、レントゲンやCTまで取られてから、先生の診察を受けた。
 
「話は聞いています。高校生で性転換するというのは、欧米とか、あるいはタイでは良くあるものの、日本では珍しいですね」
 
と診察してくれたZ医師は言う。
 
「と思われているだけで、実際には日本国内でも年間数件あるというのを、ある筋から聞いています。私の場合はスポーツ選手でインハイなんかに出たからこうやって先生方の知るところとなりましたけど」
と千里。
 
「ああ、そうかも知れないですね。ちょっと裸を見せてもらっていいですか?」
「はい」
 
それで千里は服を脱いでオールヌードになる。
 
「きれいなボディラインをしていますね。高校生とは思えない」
 
そうだろうね。この肉体は女子大生の時の肉体だもん。
 
Z医師は身体のあちこちを触っている。
 
「贅肉が凄く少ない身体とは聞いていましたが、下腹部には少し脂肪がありますね。まるで子宮を守るかのように付いている」
 
「ああ、あんたは赤ちゃん産めるなんて良く言われます」
「そうそう。このレントゲン写真見て思ったんですよ。これ完璧に女性の骨格だって。骨盤が女性型なんですよ。染色体がXYであるのと前立腺が存在しているのを見落としたら生まれながらの女性だと判定してしまう」
 

内診台にも乗せられる。
 
「人工的に作ったものに見えない!」
「東京のL先生にも言われました」
「どこの病院?」
「プーケットの**病院というところです」
「うーん。聞いたことないな。しかしこの先生巧いね!」
「プリーチャ先生のお弟子さんらしいですよ」
「なるほどー」
 
クスコも入れられて中を観察される。
 
「凄い。まるで本物みたい。どうやったらこうできるの?」
「私も詳しいことは分かりません」
「これS字結腸法だよね? 膣壁に物凄くたくさんヒダがあって粘液で満たされている」
「実は私も詳しい術式はよく分かってなくて」
「うんうん。いいよ」
 
実際には千里は陰茎反転法の手術を受けたのだが「まるで本物に見える」のは、「あるお方」の悪戯の結果のようである。また生理があるのは瞬嶽の勝手な親切の結果。更に体内で女性ホルモンが分泌されているのは青葉がやってくれたのであるが、どれも合理的に説明する方法がないし、千里もこの時点ではそのことを知らなかった。
 

「ダイレーションしてる?」
「最初の頃はしていたのですが、最近はサボってます」
「私が見た感じではダイレーションは、たまにやる程度でも充分だと思う」
「じゃ取り敢えず月に1回くらいしようかな」
「うん。それでいいよ」
 
あとは主として色々お話をした。女性器や排尿などに関するトラブルは無いか、おしっこが出にくいと感じることはないか、排尿の時に尿道口が痛むことは無いか。不正出血はないかなどといったことを聞かれる。セックスについても尋ねられたので正直に彼氏と年に数回程度のレベルでしていることを話した。 
「セックスではローションとか使ってる?」
「最初の頃はKYゼリー使ってましたけど、無くても行けるみたいなので最近はあまり使ってません。いつも使えるように小分けした容器に入れて準備はしています」
「うん。これだけ潤湿ならそれでいいと思う。普段はパンティライナーか何か使ってる?」
「いえ。特に一応パンティライナー、ナプキン持ち歩いてはいますが使うことはほとんど無いです」
 
ここでは生理があるなんて話はしない。混乱させるだけである。
 
「へー。それは珍しいね。S字結腸法の欠点はおり物が多いことなんだけどね」
「特にそれは感じたことないです」
「体質の問題かな。もしかして水が少ないタイプかな」
「ああ。私元々便秘気味ですよ」
「それで結果的にちょうど良い潤い度になっているのかもね」
 
女性ホルモンの処方箋はいつでも書いてあげるからと言われたが、取り敢えず東京のL先生に書いてもらった処方箋で4ヶ月分確保したのでストックと合わせて年明けくらいまでありますと言ったら、切れたらいつでも連絡してくださいと言われた。次回は年末くらいに診てもらうことにした。
 
「でもこれ1年くらい前に手術したんだっけ?」
「はい、そうですけど」
「凄いなあ。まるで手術してから7−8年経ってるみたいに見える」
「友だちからはよく、あんた小学生の内に性転換していたのでは?とか言われますけどね」
「ほんとに小学生の内に性転換したってことは?」
「さすがに小学生に性転換手術はしてくれないのでは?」
 
「常識的にはそうなんだけどねー。ただあなたの骨格が完璧に女の子だから、これって思春期に女性化が起きていなかったら有り得ないと思って」
 
「骨格は分かりませんけど、性器の状態については、私、普通の怪我とかも人より速く治るみたいだから、そのせいではないかと」
 
「うーん。速く治る人と考えても5年くらい経ってるように思えちゃうんだよね」
 
正解!!
 

健診が終わったのがお昼近くであった。千里はそのまま札幌の運転免許センターを訪れた。ロビーで貴司を見つけて寄っていく。手を振ってお互い挨拶し、彼の隣に座る。
 
「どうだった?」
「うん。通ってるとは思うけどね」
 
貴司はこの半月合宿方式の自動車学校に行っていた。第1段階の修了検定・仮免試験も、卒業試験も一発合格して順調に16日間で昨日自動車学校を卒業し、今日最後のペーパーテストを受けに運転免許センターに来たのである。なお一緒に入校した佐々木さんは第1段階の修了検定を(前を走っていた検定車のトラブルを見て焦って脱輪させ)1回落として1日遅れになり、今日卒業検定を受けているらしい。
 
「貴司は運動神経はいいから、私はペーパーテストの方だけ心配していたんだけどね」
「そのあたりは最後は勘と運で」
 
やがて合格者の受験番号が表示される。
 
「お、番号あった」
「やったね。おめでとう!」
と言って千里は貴司の頬にキスした。
 

やがて講習を受けて緑色の帯の入った運転免許証をもらって貴司が出てくる。 
「凄い凄い。お祝いにケーキでも買ってあげるよ」
「ケーキより千里が食べたい」
「ストレートだなあ」
「だめ?」
「じゃケーキの後で私も食べていいよ」
「よし」
 
「留萌に戻れる最終は何時だったっけ?」
「札幌駅を19:00」
「それまでにはさすがに終わるね」
「ついでに10月の連休にと言ってたインハイのお祝いをちょっとだけ先取りしない?」
「じゃ今日は3回。10月に12回」
「OKOK」
 
そんなことを言ってから貴司はちょっと心配そうに言う。
 
「ね、千里、ヴァギナに入れていいよね?もちろんちゃんと避妊するから」
 
「そうだね。もしヴァギナがあったら入れてもいいよ」
「無いの?」
「私、男の子なんだからヴァギナがあるわけないじゃん。スマタでもちゃんと気持ちよく逝かせてあげるから」
 
「ちょっと待て。だって千里、医学的な検査で女子と確定したからインハイに女子チームで出たんじゃないの?」
「うん。だから私、バスケットする時だけは女の子なんだよ」
「そんな無茶な!」
 
 
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