【振袖モデルの日々】(2)

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タクシーの中で玲花が母に電話して、急に休んだ人がいて、そのカバーのためバイトの作業時間が延び遅くなるということを連絡した。母は鈴佳が玲花と同じ所でバイトすることになったというのは聞いているものの、多分それが「女の子モデル」のお仕事だなんて思ってもいないだろう。バレたらやばいかな、と鈴佳は少しドキドキしながら思っていた。
 
やがてタクシーが着いたところは貸衣装屋さんである。ここで今年の新作の振袖を着て写真を撮るのだという。
 
鈴佳は振袖の写真を撮るのだから、今着ているポロシャツやジーンズを脱いで振袖を着ればいいのだろうと思っていたのだが、そんな単純なことではないことを知る。
 
当然ポロシャツやジーンズは脱いで下着姿になる。
 
しかしその上に肌襦袢というものを着て、長襦袢というものを着て、その上に振袖と帯だと説明される。
 
和服ってそんなに大変なの!?
 
「あんた胸無いね」
と着付けをしてくれる人から言われる。
 
すると隣で着付けしてもらっている玲花が
「この子、建前は中1だけど、本当はまだ小学6年生で胸が未発達なんですよ」
と言ってくれる。
 
「ああ、小学生なら仕方ないか」
「すみませーん」
「いや。和服は胸が無い方が着せ易い」
「え?そうなんですか?」
「うん。だからお姉ちゃんみたいに胸が大きいと、その胸の膨らみを消すように細工しないといけない」
「へー!」
 
「でもあんたもきっと来年中学生になったら胸膨らみ出すだろうし、お姉ちゃんがあれだけ大きいから、あんたもきっと大きくなるよ」
などと着付けしてくれる人は笑顔で言う。
 
胸が大きくなる!? えーっと僕、胸が膨らむんだっけ?? 鈴佳はしばし頭の中が混乱した。
 

実際玲花の方はたくさんタオルを巻かれたりして、胸の膨らみやウェストのくびれが目立たないようにしていく。一方の鈴佳の方はそもそも胸も膨らんでないし、ウェストもくびれてないので、修正をほとんどしないまま肌襦袢の装着に進んだ。
 
「あんたほんとに和服が着せ易い」
と言われる。これって褒められてるんだっけ??
 
肌襦袢のあとは長襦袢になる。肌襦袢は白い服でいかにも下着という感じであったが、長襦袢はピンクの服で、これ自体が着物のようである。
 
それから振袖を着せられるが着付けする人もけっこう大変そうで途中で何度もやり直している感じであった。何とか着せ終わった所で帯をしめる。これがけっこうきつい感じであった。
 
「緩く締めると、ほどけちゃうから強く締めるけどごめんね」
などと言っていた。
 
髪のアレンジはどうするのかな?と思っていたら、これはウィッグをつけさせられた。その上で軽く整えて、カンザシなどを刺す。
 
もっとも鈴佳は日本髪のウィッグでカンザシだったが、玲花はボブの髪でカチューシャをつけていた。
 
それで撮影用のスタジオに入り、写真を撮られる。いろいろなポーズ・表情を注文され、それをしたところで写真を何枚も撮影する。
 
振袖を着るのに30分くらい掛かったのだが、この写真撮影で20分ほど掛かった。
 

一通り撮影が終わるとお着替えである。
 
長襦袢まではそのままなので、帯をほどき振袖を脱いだ上で、次の振袖を着てまた別の帯をする。この変更に15分ほど掛かる。そしてまた撮影で20分掛かる。
 
この日は玲花と鈴佳は結局各々6枚の振袖を着て撮影をした。
 
「今日の撮影はこれで終わりです。お疲れ様でした」
「お疲れ様でした。ありがとうございました」
 
ということで脱ぐが、この脱ぐのにも結構かかり、終わってから石原さんと一緒にタクシーで水戸駅まで戻って来たのはもう21時前である。結局5時間ほど拘束されたことになる。
 
「ごめーん。ちょっと思っていたのより時間が掛かった。これ今日の御礼ね」
と言って封筒を各々渡される。
 
中を見ると1万円札が入っているので、鈴佳は思わず笑顔になった。
 
「本当は振袖のモデルは単価が安いんだけど、今回は急に頼んだから色をつけておいた」
と石原さんは言っている。
 
「ありがとうございます」
 
「もし少し単価安くてもいいなら、またやってくれないかなあ。この時期振袖モデルの仕事はたくさんあるんだよ」
 
「ああ、いいですよ」
と玲花が何だか気軽に返事する。
 
「じゃまた姉妹で頼むよ」
「はい」
と玲花と鈴佳は一緒に返事した。
 
しかし鈴佳はそんなに女の子モデルしていたら、その内男の子だということがバレないだろうかとドキドキした。
 
「でも戦車ギャルの方とはぶつかりませんか?」
「うん。大丈夫。あちらは次は1月の撮影だから。振袖モデルの方は逆に年内ばかりなんだよ」
 
「なるほどですね」
 

実際石原さんからはその週の半ばにも連絡があり、今度の土日2日間頼むと言われた。報酬は10時から18時まで、8時間拘束で1日12000円ということであった。戦車ギャルの方は時給2000円もらえるのに対してこちらは1500円ということのようなので確かに単価は安い。しかし中高生にとっては、魅力的な金額なので、玲花が鈴佳に相談もしないまま「行きます」と返事をしていた。
 
そして金曜日の晩のことである。
 
「あんたさ、先週は最初のうちは良かったけど、最後の方ではけっこうガードルでの締め付けが崩れてきて、注意してみると、お股に何かあるのが分かるような状態になっていた」
 
と玲花は鈴佳に言った。
 
「僕も実は気になってた。これトイレに行って直してこれないかなと思ったんだけど、次から次へと着せられてトイレ行く暇も無くて」
 
「こないだは4時間だったけど、今度は8時間だからね。まあトイレくらいは行かせてもらえるだろうけど、あれきちんと整えるの時間かかるでしょ?」
「うん。こないだ3〜4分掛かったね」
 
「トイレであまり長く入っているとよくないしさ。あれ崩れないように細工しようよ」
「細工って、何するの?」
 
「まあいちばん簡単なのは、お股にある突起物を全部撤去してしまうことなんだけどね」
「え〜!?」
「タマタマを取る手術は5分くらいで終わる簡単な手術らしいよ。おちんちんを切る手術も単純に外に出ている部分を切るだけなら30分くらいで終わるんだって」
 
「手術して取っちゃうの〜?」
「取っちゃえば、スッキリしたお股になるよ。どう?」
「そんな、取りたくないよぉ」
「あんた、おちんちんとかタマタマとか要るんだっけ?」
「要る!」
「無くたって別に困らないのに」
「お姉ちゃんは無くてもいいかも知れないけど、僕は要るよぉ」
 
「仕方ないなあ。じゃ切らずに隠すか」
「隠すって?」
「切ったりしないから、ちょっとあんたのおちんちんとタマタマを私に預けてよ」
「預けるって?」
「うまく処理してあげるから」
「切らないならいいよ」
 

それで鈴佳は姉に言われるままにズボンとパンツを脱ぎ、横になる。そして足を広げて、あの付近をよく見えるようにした。お姉ちゃんにこんなの見せるなんて恥ずかしい!!
 
姉は鈴佳のおちんちんとタマタマをいじって、どうも体内に押し込もうとしている感じであった。しかしそんなところを人に触られたら、健全な中学生男子としては立ってしまう!
 
「ちょっと。大きくしたらできないじゃん。大きくしないでよ」
「触られたら大きくなるよぉ」
 
「困ったな。やはり切り落とすしかないか」
「それは勘弁して」
 
それで姉は少し考えたようだが、やがて言った。
 
「あんたさ。ちょっとトイレに行って一度出しておいでよ」
「え〜〜!?」
「あんた、液は出るよね?」
「あ、うん」
「あれ出しちゃったら、しばらくは大きくならないでしょ?」
「うん。次大きくするには30分くらいかかる」
 
「じゃ行っておいで」
「ひぇー」
 
それで鈴佳はトイレに行って、おちんちんをいじった。さっき姉にいじられて少し変な気分になっていたおかげで5分ほどで出るに至った。ていねいに拭き取ってからパンツとズボンを穿き部屋に戻る。
 
「ああ、スッキリした顔してる」
「顔で分かるの?」
「分かるよ。はいあそこ出して寝て」
「うん」
 
それで姉はまたあのあたりをたくさん触るが、今度は大きくなったりはしなかった。ちょっと痛いけど。どうもセロテープか何かを貼られたりしている。そしてやがて何か冷たい感触がある。何かを塗られているようだ。何を塗られているんだろう?
 
「できたよ。見てごらん」
と姉が言うので起き上がって見る。
 
鈴佳は息を呑んだ。
 
「うっそー。無くなってる」
「体内に全部折りたたんだんだよ」
 
そう言われて鈴佳は自分のお股に触ってみて、取り敢えず体内におちんちんが存在することは確認できてホッとする。タマタマの感触が分からないが、別に痛みとかは無いので無事なのだろう。さすがにタマタマを除去されたりしたら激しい痛みがあるはずだ。
 
「でもこれ、まるで女の子のお股みたいに見える」
「そうそう。触らない限りは分からないよね。これ接着剤で留めているから、2〜3日は外れないらしいよ」
 
「へー。だったら、このまま日曜日まで持つのか」
「たぶん持つと思う」
 
しかし鈴佳は急に不安になった。
 
「これ、おしっこはどうすればいいの?」
「2〜3日我慢すればいいんじゃない?」
「無理だよ!」
「冗談、冗談。おしっこは座ればちゃんとできるんだよ。トイレに行ってきてみてごらん」
 
それで鈴佳はいったんパンツとズボンを穿いてトイレに行き、座ってみる。それでおそるおそるおしっこをしてみると、おしっこはちゃんと出てきた。
 
が、後ろに飛ぶ!
 
こんな方向に飛んで便器を汚さない??と思ったものの、便器の外には行かないし、むろんお尻なども濡らさない。ちゃんと後方下方に飛んでいるようである。しかし、こんな方角におしっこが飛ぶというのは今までにない感覚で、出終わるまで、かなり不安があった。
 
これたぶん拭かないといけないよね?と思い、トイレットペーパーを少し取って拭くが、後ろに向けてわずかに露出しているおちんちんの先だけでなく、その周囲の皮膚までかなり濡れていることに驚く。
 
これたぶん女の子がおしっこした後の濡れかたに似てるんじゃないかな、という気がした。たぶん女の子ってこんなにたくさん濡れるから、ちゃんと拭かないといけないんだ。
 
鈴佳は初めて「拭く」意味が分かった気がした。
 

部屋に戻り、ちゃんとおしっこできたことを報告する。
 
「良かった、良かった。まあそれで、こんなパンティ穿いてみない?」
と言って姉は何だか凄くレースのたくさんあるパンティを見せる。
 
「それ凄いハイレッグだね」
「そうそう。しかも前の布は7割くらいがレース」
「それだとこぼれちゃう・・・あっ」
「そうそう。今の鈴佳は、こぼれるものが無いから穿けるはず」
 
それで渡されたパンティをおそるおそる穿いてみる。
 
何だかきれいに穿けて拍子抜けする。前布には何も支える力は無い。今まではふつうにビキニのパンティを穿くとおちんちんとタマタマの重量がパンティに掛かり、どうしても膨らんでいた。ところが今はお股に突出物が存在しないので、何もパンティに重量を掛けるものもなく、こんな頼りない前布でも問題が起きないのである。
 
「これちょっといいかも」
「うふふ。鈴佳(すずよし)、だいぶ女の子下着にハマって来てるでしょ」
「えーっと・・・」
「もう、あんたのこと鈴佳(すずか)って呼んであげようか」
「ちょっと待って」
 

それで土曜日の朝、また鈴佳は女の子パンティ(結局姉が昨日渡してくれたハイレッグを穿いた)とブラジャーをつけた上で、上に中性的なポロシャツとジーンズを穿いて姉と一緒に指定の場所まで出かけた。姉からはスカート穿いてかない?と言われたものの、その格好で母のいる居間を通過する勇気が無かったので、ズボンにした。そもそも姉もズボンだし!
 
肌襦袢と長襦袢は下着なので各人専用にするからと石原さんに言われ、先週のを洗濯しておいたというのを渡された。サイズは姉の方が大きいのでどちらがどちらのかはすぐ分かった。名前書いておいてもいいですか?と訊くと、いいよいいよと言うのでマイネームか何かで名前を書いておくことにした。普通に洗濯機で洗濯できるということだったので、次週からは自分たちで洗濯して持参することにする。
 
今日の所も貸衣装屋さんであるが、先週行った所より大きな所であった。モデルさんも玲花・鈴佳以外に3人来ていて、5人で分担して振袖を着て撮影する。
 
先週は着替えのタイミングが玲花と鈴佳でほぼ揃ったのだが、今回は途中でバラバラになってしまう。しかし着替え・着付けしている最中にモデル同士、他の子の下着姿をふつうに見ることになる。
 
しかし鈴佳は緊張していたこともあり、他のモデルさんの下着姿を見ても特に何も思わなかった。また他の子も鈴佳の下着姿をチラっと見ることはあっても特に気にしている様子は無かった。ただ宏美さんという子が
 
「私いつもペチャパイってみんなから馬鹿にされてるけど、あんたも絶望的に胸が無いね」
などと言った。確かに彼女も胸の膨らみがほとんど無い感じだった。
 
「まだ小学生なので」
「へー。それにしては結構背丈があるし、顔も大人っぽいね」
「背丈は母も168cmあるからかも」
「なるほどなるほど」
 
宏美さんは中学2年生ということであった。
 

結局そこの貸衣装屋さんで土日2日かけて大量の振袖を着ては写真を撮った。もう何枚着たのか、分からなくなるくらいたくさん着た。日曜の撮影は16時で終わったのだが、報酬は18時までやったということで計算するからと言われ、2日間16時間で24,000円もらった。
 
「まだ早いし、良かったらみんなでお寿司でも食べる?私がおごるよ」
と石原さんが言うので
「わぁ、行きます、行きます」
という声がみんなからあがる。
 
それで石原さんが運転するアルファードに乗って一緒に移動する。お寿司屋さんと聞いたのだが、着いた所はスーパー銭湯である。
 
「いや、折角だから、汗を流してから食べるのもいいかなと思ってね。ここのスパに入っているお寿司屋さんが、大洗漁港からの直送品使ってて美味しいのよ」
と石原さんは言う。
 
「ああ、お風呂もいいですね」
と声があがるが、鈴佳はえ〜!?と思う。それって、もしかして女湯に入るんだよね?僕だけ男湯に行っちゃダメだよね。
 
そんなことを思いながら車を降りて建物の方に向かう時、玲花が鈴佳のそばに寄って小声で言った。
 
「念のために言っておくけど、今あんた男湯には入れないよ。おちんちんが無い子は男湯には入れないからね」
 
そうだった!
 

石原さんが「おとな6枚」と言って入場料を払う。鈴佳はモデル仲間には小学生を装っていたのだが、元々は中学1年ということで登録されている。実際に鈴佳は中学生なので、それでいいと思った。
 
フロントの人はこちらを見て、赤いタグのついた鍵を後ろの鍵がたくさん掛かっているところから6つ取ってこちらに渡してくれた。後ろには赤いタグの鍵と青いタグの鍵が1列おきに並んでいる。これきっと赤いタグのは女湯用、青いタグのは男湯用かなと思った。
 
鍵の番号は2103-2105, 2116-2118 と3つ続きが2組である。石原さんは自分でひとつ取ってから、こちらに2つまとめて続き番号のをくれて、残りの3つを宏美さん・松美さん・弓恵さんに1個ずつ渡した。
 
女湯・男湯が別れている所でみんなおしゃべりしながら女湯の暖簾が掛かっている入口に入る。鈴佳はかなり躊躇したものの、玲花が
 
「鈴佳(すずか)何してんのよ?」
と言われて手を引いて中に連れ込まれた。
 
きゃー。女湯の中に入っちゃったよ。男とバレたら僕警察に捕まるよね?
 

それでドキドキしながら少し俯いたままロッカーの所に行く。石原さんと玲花・鈴佳がひと続きのロッカーで、残りの3人がまた一続きのロッカーである。
 
みんな服を脱ぎ始めるので仕方なく鈴佳も脱ぐ。ポロシャツとジーンズを脱ぐともうブラジャーとパンティしか身を守るものは無い。姉が少し悪戯っぽい目をしながら自分のブラジャーを外す。豊かなバストが露出する。
 
えーい。どうにでもなれ、という気分で鈴佳はジュニアブラを外した。
 
「あんた、本格的に胸無いね」
と言って石原さんが鈴佳の胸を触る。あははは。石原さんは姉より更に大きなバストである。
 
「発達が遅いみたい」
と言いながら鈴佳はハイレッグのパンティも脱いでしまう。姉も既にパンティを脱いでいる。
 
「良かった。ちんちんは付いてないね」
「そんなの付いてませんよぉ」
「いや、あまりに胸が無いから、男じゃ無いよね?と思ったけど、間違い無く女の子だね」
 
「あんた病院に行って少し女性ホルモンの注射してもらった方がいいかもね」
などと玲花は言っている。
 
「確かにまだ毛も生えてないしね」
と石原さん。
 
毛はあったのだが、その付近を処置する時に全部剃られてしまったのである。
 
しかし女性ホルモンって何だろう?その注射するとおっぱいが大きくなるのかなあ。でもおっぱい大きくなっちゃったら、水泳の授業の時に困るしなどと鈴佳は考えていた。
 

それで浴室の中に入る。
 
脱衣場にはお客さんは鈴佳たち以外には3〜4人60-70代の人がいただけだったが、浴室には結構なお客さんがいる。鈴佳が浴室に入って最初に目に飛び込んできたのは、20代くらいの女性で、すごくきれいなバストの形をしていた。
 
すごーい、きれーい、あんなバストあるといいなあ。
 
などと思ってから、ハッとする。ちょっと待て。僕別に女の子になりたい訳じゃないから、おっぱいなんて要らないよぉと思い直す。
 
とりあえず流し場で各自身体を洗う。鈴佳はあの付近に指を突っ込んで「中」をきれいに洗った。この股間偽装をしていると、強制的にアレは皮をかぶった状態になってしまっているのである。そこをきれいにしないと浴槽には入れないよな、と思った。
 
弓恵さんは髪まで洗っていたのが、他の5人は身体を洗っただけで浴槽に入る。
 
「なるほどー。おっぱいの無ささ加減では、女王・鈴佳(すずか)、準女王・宏美だ」
などと松美さんが言っている。
 
「あまり言わないでくださいよぉ。気にしてるんだから」
と宏美さんが言う。
 
「あんまりおっぱいの発達遅い場合は、婦人科に行って女性ホルモンの注射を打ってもらうのもひとつの手だけど、注射までもと思う場合はエステミックスを飲む手もあるよ」
と松美さんは言う。
 
「何ですか?それ」
「コンビニで売ってるサプリなんだよ。プエラリア・ミリフィカという芋の成分が入っていて、タイではこの芋を食べている女性が多いんだって。タイって、おっぱい大きい人多いじゃん」
「へー」
 
「コンビニで買えるっていいですね」
 
「よし、私それ飲んでみようかな」
などと宏美さんが言っている。
 
「よし、私もそれ買っていって鈴佳(すずか)に飲ませよう」
と玲花が言っている。
 
ちょっと、ちょっと。
 
「でも和服のモデルするにはむしろペチャパイの方が便利みたいだけど、夏の水着モデルとかするんなら、ある程度おっぱい無いと無理だよね」
 
「そうそう。それで私、水着モデルの仕事もらえないのよ」
と宏美さん。
 
「20代のモデルだとシリコン入れてる人もいるけど、10代の子はあれは手を出したらいけないよ」
と石原さんが言う。
 
「シリコンって何ですか?」
と鈴佳が訊くと
 
「おっぱいに詰め物するのよ。目立たないような場所を切り開いて、皮膚の下にシリコンという柔らかい材料でできたバッグを埋め込む」
 
「痛そう」
「無茶苦茶痛いよ。その上、不自然な形になりやすい。だからシリコン入れてるモデルを排除しているところもある」
 
「痛いのは嫌だなあ」
と宏美さんが言うが、鈴佳もつい頷いてしまった。
 
するとそれを見て玲花が言う。
「やはり鈴佳(すずか)もおっぱい大きくしたいんだよね?」
 
あっ・・・・
 
「そりゃ女の子はみんなおっぱい大きくしたいと思ってるよ」
と松美さん。
 
「よし。じゃ帰りにエステミックス買ってってあげるから、それを飲みなよ」
と玲花は言った。
 
え〜?そんなの飲んで、本当におっぱい大きくなったら、僕どうしよう?
 

少し遅れて髪を洗い終わった弓恵さんも入って来たが、話の議題はバストのサイズから形論議、ブラジャーのタイプ論議まで及んだ。
 
ここで鈴佳はブラジャーには「ハーフカップ」とか「4分の3カップ」などといった種類があること、また前で留めるフロントホックブラというのもあると聞いて興味を持った。フロントホックブラって面白そう。お金たくさんもらっちゃったし、1つ買ってみようかな、などと思ってから、あれ〜僕マジで女の子下着にハマリつつある?などと考え、自分自身に不安を感じた。
 
しかしそんなおっぱい論議などしていたおかげで、鈴佳は自分が女湯の中にいるという事態についてはあまり深く考えることもないままになった。
 
お風呂からあがってスパで用意されているバスタオルで身体を拭き、服を身につける。
 
「あ、お風呂上がりはスカートにしようかな」
と言って宏美さんがスカートをバッグから取り出す。ここに来る時スカートを穿いていたのは松美さん(と石原さん)だけで、他の4人はズボンを穿いていた。
 
「ああ。お風呂あがりは何か蒸れるもんね」
と松美さんが言う。
 
「だったら私もスカートにしようかな」
と言って玲花もスカートを取り出す。そして
 
「鈴佳(すずか)もスカートにしない?持って来てないなら貸してあげるよ」
と言って玲花は1枚鈴佳にスカートを差し出した。
 
「あ、えっとどうしよう」
と鈴佳が迷うようなことを言うと
 
「身体の火照りが収まるまではスカートがいいよね」
などと既にスカート姿になっている宏美さんがいうので
 
「じゃ私もそうしようかな」
と言って鈴佳は姉から渡されたスカートを穿いた。
 
穿いてみて気づく。
 
これ、お姉ちゃんが僕にくれたスカートじゃん! それをわざわざ持って来たのか。つまり僕に穿かせるつもりで持って来てたんだ!
 
と鈴佳は思い至ったものの、
「まあいいけどね」
と思った。
 
でもスカートってすーすーするよなと思っていたけど、お風呂からあがった直後はそれがいいなと思う。ズボンだと確かにお股の付近が蒸れる感じがあるのである。
 
でもこのままじゃ家に帰れないから、途中どこかで着替えなくちゃ。
 

それでまたしばらく脱衣場でおしゃべりしていたのだが、鈴佳は急におしっこがしたくなった。それでトイレを目で探すと、それっぽいものがある。それで「ちょっと」と言って、その場を離れ、トイレっぽいドアの前まで行くのだがあれ?と思って戸惑う。
 
それで立ち止まっていたら後ろから来た宏美が
「どうしたの?」
と訊く。
 
「いや、ここ男女表示が無いけど、女子トイレだっけ?」
「そりゃ当然。女湯の脱衣場に男子トイレがあったら大変だよ」
「あ、そうだよね!」
 
「鈴佳(すずか)って結構楽しい性格のような気がしてきた」
「あはは」
 
それで宏美と続くように女子トイレの中に入る。なんか今更女子トイレに入ること自体は平気になったなあと思った。中は個室が2つあり、2つとも空いていたので、ふたりともそのまま個室に入り、用を達す。
 
便座に座る前にズボンをさげようとして、あっそうか。スカートだった。と思い、スカートの中に手を入れてパンティを下げ、そのままスカートをめくって腰掛ける。
 
それでおしっこをしてからトイレットペーパーで拭く。立ち上がってパンティをあげる。
 
その時、ふと気づいた。
 
スカートって・・・トイレが楽だ!
 
ズボンに比べて随分短時間でトイレができるじゃんと鈴佳は思った。これからは女の子として出歩く時はスカートの方が便利かもね、などと考えてから、僕、そんなに女の子として出歩くんだっけ?と再度考え「うーん・・・」と悩んだ。
 

個室から出たタイミングがほぼ同時だったので、手洗いを譲り合い、結局宏美が先に手を洗い、その後鈴佳が手を洗って、一緒にトイレの外に出た。ふたりが戻って来たところで全員脱衣場を出て2階の食堂街に移動した。
 
お寿司屋さんに入り、テーブルに座る。カウンター型になっているので、6人が横一列に並ぶ形になった。
 
「どのくらい食べていいんですか?」
と松美が訊くと
 
「好きなだけ食べていいよ」
と石原さんが言った。
 
「わーい」
という声があがり、それぞれ回ってきたものを適当に取る。鈴佳も何気なく目に付いたサーモンを1皿取った。
 
好きなだけいいのなら、サーモンと中トロと、ブリとヒラメと、甘エビとタイと、イカあたりかなあ。。。などと考えていたら、隣の席の玲花が「3皿にしときな」と小声で言った。
 
え〜?3皿。
 
そのくらいで遠慮しておけということかな、と思い計画を変更する。3皿しか食べられないのなら、今サーモンを取っちゃったし、マグロは外せないから、残るひとつは・・・うーん、甘エビかなあ。
 
それでサーモンを味わいながら食べ、次に回ってきた甘エビを取る。1日仕事をして、お風呂にも入って、かなりお腹が空いている。3皿では全然腹の足しにならないのは確実なので、お茶をたくさん飲みながら食べた。
 
しかし甘エビもすぐ無くなってしまう。えーん。もう終わっちゃったよ、と思いつつも、中トロが回ってきたのでそれを取ってそれもゆっくり味わって食べた。
 

その後はお茶を飲みながらみんなとおしゃべりしていたが、お腹が空いて空いてたまらない気分で、でも我慢するためにお寿司が流れて来るコンベアは見ないようにしていた。
 
40分くらいおしゃべりしてから、そろそろ出ようかということになる。
 
「私もうお腹いっぱい」
などと松美が言っているが、彼女の前には皿が2つしか無い。嘘。2皿しか食べてないのに?と思うが、見ると他の子も2〜3皿しか食べてないようだ。石原さんだけが4皿食べていた。
 
お勘定をしてお寿司屋さんを出る。
「おごちそうさまでした」
と全員石原さんに声を掛け、またアルファードに6人で乗って水戸駅まで送り届けてもらった。
 

駅近くのコンビニに入る。サプリメントが並んでいるコーナーを見るとエステミックスというのが並んでいる。
 
「じゃこれ買ってあげるから飲んでごらんよ」
と姉が言う。
「本当に飲むの〜?」
「おっぱい大きくしたいんでしょ?」
「そんな・・・別に大きくしたくないけど」
「おっぱい少しあると和服以外のモデルもできるよ」
「うーん・・・・」
 
レジでお金を払った後で、とりあえず3粒渡されたので、飲んでみた。
 
「味がしないね」
「まあ無理に味つける必要もないしね」
 

切符を買ってから改札を通り、玲花と2人でホームで電車を待っていると、電車が入ってくるが、目の前に停まったのは、何だかピンク色の派手な色彩の車両である。
 
「何か凄い塗装」
「ああ、これは女性専用列車だから」
「え?じゃ僕乗れない?」
「あんた今は女の子でしょ?」
「あ、また忘れてた」
「しっかりしてね。自分が女だという意識をもっとしっかり持たなきゃ」
 
と言って姉はさっさと乗り込むので鈴佳も慌ててそれに続いて乗り込む。
 

そして電車は発車する。鈴佳はその頃ようやく車両内を見渡す余裕ができた。
 
「あれ、男の人も乗ってるよ」
「うん。この車両が女性専用車両として運行されるのは朝の通勤時間帯だけだから。今の時間帯は男性も乗車できる」
「なーんだ。じゃ最初から悩むことなかったのか」
「もっともあんたは女の子として行動している限り、どんな時間帯でも迷わず女性専用車両に乗れる」
「うーん・・・」
 
(※実際には水戸駅を発着する列車で女性専用車両を連結しているものはありません。常磐線は朝の通勤時間帯のみ、取手から都心方面に向かう普通列車に女性専用車両が設定されていますが、取手以北では使用されていません)
 

その時、玲花が言った。
 
「お寿司屋さんで、なぜ私が3皿までにしておきなと言ったか分かる?」
「そのくらいで遠慮しとけということ?」
「違うよ。女の子の食欲はそのくらいだから」
「あっ・・・」
 
「女の子は回転寿司で7皿とか10皿とか食べないから」
「女の子って、そんなに少食なの?」
 
「まあ若干例外の子はいるけどね」
「はぁ・・・」
 
「モデルする子は特にカロリー制限しているから。松美ちゃんとか明らかにダイエットしてるね」
 
「松美さん、細いのに!」
「モデルは体型を維持するのも仕事の内だもん。あの子W55と言ってたから」
「嘘!? 高校生なのに」
 
「そのお陰で今日はすごい補正してたね。でもファッションショーとかに出るモデルやろうとしたら、そのくらいのウェスト維持しないとね。ただこれは日本の場合で、ヨーロッパだとそんな細いモデルは使ってもらえないんだよ」
「へー」
 
「向こうの考え方は健康的なモデルでないとダメということで、細すぎるモデルは排除されている」
「その方がいいなあ」
 
「鈴佳(すずか)、ヨーロッパに行って女の子モデルになる?」
 
鈴佳はわざわざ玲花から「女の子モデル」と言われて、本当に自分が女の子としてモデルをする場合を考えていたことに思い至り、かぁーと顔が赤くなった。そして言う。
 
「鈴佳(すずか)はやめてよ〜」
「いや、私もずっとこの2日間、あんたのこと鈴佳(すずか)と呼んでたら、それが普通になっちゃった」
 
「うーん・・・。石原さんからも鈴佳(すずか)ちゃんとずっと言われてたし」
 
「もう面倒だから改名しちゃおうよ」
「え〜〜!?」
 

自宅の最寄り駅で降りる。今になってまとめて疲れが出てきたせいか、トイレに行きたくなったので、少しボーっとした状態でトイレの男女表示を見て女子トイレの方に入る。
 
ここ2日間女の子していたので、当然その間は女子トイレを使っていた。それで何だか女子トイレに入るのが普通になってしまっているのである。個室に入り、便器に座っておしっこをし、拭いて出る。手を洗ってからトイレを出る。
 
「お待たせ」
と言って姉のそばに行き、一緒にいろいろ話しながら家に向かっていたのだが、家まであと100mくらいになってから唐突に鈴佳は自分がスカートを穿いていることを思い出した。
 
「しまった。僕、スカート穿いたままだった。ズボンに替えなくちゃ」
「なんで?」
と姉が訊く。
「だって、こんな格好、お母ちゃんに見せられないよ」
「別にいいじゃん」
「どうしてスカートなんか穿いてる?って言われるよ」
「『僕女の子になっちゃったの』とは言えばいいよ」
「そんなあ」
 
「どっちみち、もう着替えられるような場所は無い」
 
確かにもっと早く気づくべきだった!
 

家の玄関まで来て、姉が鍵を開け
「ただいまあ」
と言って中に入る。
 
すると普段なら母が「お帰り」と返してくれるのだが、反応が無い。あれ?
 
「鈴佳(すずか)、入っておいでよ。誰もいないよ」
と玲花が言うので、鈴佳はおそるおそる中に入る。
 
「お母ちゃん、買物に出かけてるみたい」
と言って、机の上に置かれていたメモを見せる。
 
「良かった。今のうちに着替えよう」
「残念だったね。カムアウトできなくて」
「カムアウトって何?」
「まあいいよ」
と姉はおかしそうに笑いながら言った。
 

母が戻る前に着て行った服やスカートなどを、肌襦袢・長襦袢と一緒に洗濯機に放り込むが、その時、肌襦袢・長襦袢らついては、玲花のものにはR、鈴佳のものにはSというマークをマイネームで入れた。洗濯機を回す。
 
「これ私の部屋に干しておくから」
「ありがとう。僕の部屋に干してたら、お母ちゃんが仰天する」
「とうとう目覚めたかと言われそうだけどなあ」
「目覚めるって?」
 
姉はまた凄くおかしそうに笑った。何だろう?と鈴佳は考えるが分からない。
 

自分の部屋に戻り、ふっと息をつく。その時、スカートは脱いで洗濯機に入れたものの、女の子下着をまだ着けたままであったことに気づく。
 
しまったぁ。
 
なんかここ2日間ずっと女の子下着つけてたから、なんか違和感が無くなってしまってたよなあ、などと思う。それで服を脱いでブラとパンティを脱ぎ、シャツとトランクスを着ようとしたのだが、ここでもっと大事なことに気づく。
 
「お股の形を元に戻さなきゃ!」
 
それでとりあえず男物の下着を身につけて再度服を着、脱いだ女物の下着を持って居間に出ていく。
 
「お姉ちゃん、これ洗濯機に入れるの忘れちゃった。まだ間に合うかな」
「ああ、行ける行ける」
と言って姉は洗濯機を一次停止させ、鈴佳の下着を放り込んでふたを閉め、洗濯を再開させる。
 
「それとお姉ちゃん」
 
「なあに?」
「お股の所、元に戻してくんない?」
「ああ。それその内外れるだろうから、放置しておけばいいよ」
「だって、これしてると僕立っておしっこできないよ」
「座ってすればいいじゃん」
「そんなあ。いつも男子トイレで個室に入ってたら変に思われる」
「そしたら女子トイレを使えばいい」
「逮捕されるよぉ」
 
「あんた最近モデルする時には女子トイレ使っているけど、それで騒がれたことあった?」
「うーん・・・。それは無かったけど」
 
「だから鈴佳(すずか)は女子トイレ使っても問題無いということだね」
「でも学校じゃ困るよぉ」
 
「私の中学の時の制服、まだ取ってあるから、あげようか?それであんた女子制服を着て学校に行ったら?」
「無茶な」
 
「無茶じゃないと思うけどなあ」
 

「そうそう。女の子になってる時はね、大をしたあとは前から後ろに拭いてね」
「何それ?」
「男の子は大をした後、後ろから前に拭く人が多いらしいけど、それやると女の子は汚れが割れ目に付いて炎症を起こすのよ。だからそれを避けるために前から後ろへと拭く」
「へー」
 
夕食を食べて少ししてから、お風呂に入りなさいと言われたが、今日はバイト先の人のおごりでスーパー銭湯に行ってきたと言うと
「ああ、それもいいね。年末とか家族で行きたいね」
などと父が言う。母も
「やはりのんびりとそういう所で疲れをとるのもいいよねー」
と言っている。
 
しかしそんな会話をしている内にトイレに行きたくなったので行く。大まで出たので、その後拭こうとして姉のことばを思い出す。
 
それで前から後ろへと拭こうとするのだが、これが難しい。力が入らなくてうまく拭けないのである。
 
これたぶん慣れの問題かなと思った。きっと女の子は小さい頃から前→後と拭いているから拭けるんだ。
 
しかし試しに後ろから前に拭いてみると、紙が隠しているおちんちんの先付近にぶつかる感覚がある。なるほど、これはヤバい。おちんちんが炎症起こしたら大変だ。ということは、この女の子式の拭き方を覚えなくちゃと鈴佳は思った。
 

翌日の朝になってもお股の処置は外れていなかった。仕方なく鈴佳はそのままの状態で、学生服を着て学校に出て行った。
 
しかしお股の形が女の子のようになっていると、立っておしっこをすることは不可能である。それで個室を使うのだが、毎回個室に入っていると変に思われるかなあと思い、教室の近くのトイレ、職員室の近くのトイレ、図書館のトイレ、体育館のトイレなど、その日鈴佳はおしっこに行きたくなる度に、別の所のトイレに行って男子トイレの個室を使用した。
 
そして結局、このお股の処置は1週間経ってもびくともしなかったのである!おかげで鈴佳はこの1週間、立っておしっこをすることができず、ずっと個室を使って女の子のようにおしっこをしていた。
 
大の後の拭き方については3日目くらいに大きな発見をした。お股の前から手を入れてそれで前から後ろへ拭こうとすると力が入らないのだが、腰を少し浮かせ横から手を入れると、ちゃんと前から後ろへ拭けることを発見したのである。ただし腰を浮かせるだけの筋力は必要である。
 
これが正解かどうかは分からないけど、やっぱり女の子って色々大変みたいと鈴佳は思った。
 

翌週の土日は神社のお正月用のCMの撮影ということであった。肌襦袢・長襦袢を持って指定の神社まで行き、そこの女性用更衣室で石原さんが持ち込んだ振袖と帯を着付けしてもらう。この日は玲花・鈴佳・宏美の3人であった。
 
それで参道を歩いている所、お参りしている所、御札を買っている所、おみくじを引いている所、破魔矢や熊手・枡などを持っている所などを撮影される。お参りは2拝2拍1拝ということで、神職さんがお手本を見せてくれたのを真似してやってみた。また参道を歩く時の歩き方は、最初モデルとしての訓練を受けている宏美がお手本をやってくれたので、そんな感じで玲花も鈴佳も歩いてみたが一発でOKが出た。
 
「やはり君たち、私が見込んだだけあってセンスいいよ」
と石原さんが言う。
「こういうの、できる子はわりとすぐできるし、できない子は何度やってもダメだったりしますよね」
と宏美は言っている。
 
「ちなみにこれは和服での歩き方だから。スカートやドレスでの歩き方は少し違うんだよね」
「うん、またそれは機会あった時に覚えてもらおう」
 
なお、今日の撮影はビデオカメラ・スティルカメラの双方で行われている。
 
また昇殿してお祓いをしてもらい、その様子も撮影された。鈴佳は昇殿してのお祓いなんて初めてだったので、へー!こんなお参りの仕方があったのかと驚いた。
 

奥宮の方でも撮影します、と言われそちらに歩いて行く。この神社には8つの奥宮があり、その最初の淡島神社の所まで来た時だった。
 
「すみませーん」
とこちらに声を掛ける女の子がいる。何気なくそちらを見てギョッとする。
 
親友の尚美である!
 
「こちらの神社の御札はどちらにありますか?」
と尋ねるので、一緒に居た神社の神職さんが
「下の本社のほうの授与所で一緒に出してますので」
と答える。
 
「分かりました。ありがとうございます」
 
鈴佳は「尚美が僕に気づきませんように」と祈る思いだったのだが、玲花が声を掛けてしまう。
 
「尚美ちゃん、淡島様にお参り?」
「あれ、スズのお姉さん、こんにちは〜」
 
きゃー。姉貴、なんで声掛けるんだよぉ。
 
「小さい頃可愛がってくれてた伯母ちゃんが子宮の病気で。女性の病気には淡島様が利くと聞いたんでお参りに来たんですよ。御札買っていってあげようと思って」
と尚美は言っている。
 
「お姉さんは何かお仕事ですか?」
「そうそう。神社の広報用のポスター作成。新年になると初詣だから」
「ああ。七五三じゃないんですね」
 
すると神職さんが
「七五三のポスターやCFは9月に撮影したんですよ」
と言う。
「あ、そうですよね。こんなに近くになってから撮影しませんよね」
と尚美。
 
そんな会話をしていた時、尚美はとうとう鈴佳に目を留めてしまった。
 
「ん?」
などと言ってこちらを見る。
 
あはははは。もうどうにでもなれ。
 
「スズ〜?」
と尚美は声を挙げた。
「あはは。ちょっと恥ずかしい。こういう服あまり着慣れてないから」
と鈴佳は言う。
 
「確かに着慣れてないだろうね」
と尚美は半ば呆れたような顔で言う。
 
「私たち姉妹で振袖の撮影モデルやってるのよ」
と玲花がとっても大雑把な説明をする。
 
「へー!《姉妹》でね〜」
と感心したように言ってから、少し考えるようにして言った。
 
「スズって和服着るのにいい体型でしょ?」
「うん。言われた。身体の凹凸が少ないから」
「なるほどね〜」
「おっぱい小さいし、ウェストくびれてないし」
「確かに確かに。スズって男みたいな胸だもんね」
と言ってニヤニヤしている。
 
えーん。このネタできっと後からいじめられそう!
 
「私なんかたくさんタオル巻いて補正してるけど、鈴佳(すずか)は補正無しで肌襦袢を着けられるんだよ」
「ああ、それは便利だ」
と言ってから
 
「あ、お仕事の邪魔してすみませんでした。じゃ、すずかちゃん、お姉さん、がんばってね」
 
ああ、今度から僕ナオに「すずか」って呼ばれそう!
 

それで別れて、尚美は本社の方に歩いて行った。玲花や鈴佳たちは淡島様で撮影した後、弁天社、濡髪社、住吉社、大黒社、山王社、多賀社と撮影を続け、最後の稲荷社で撮影したあと、再度本社拝殿前で撮りましょうということになり、本社の方に戻る。
 
するとそこに拝殿の昇り口のところで靴を履きかけている尚美の姿があった。神社の紙袋も持っている。ああ、昇殿してお参りしてきたのかなと思った。袋はさっきモデルとして持って撮影したが、御神酒・かつおぶし・塩・米に御札や御守りが入っているはずだ。
 
尚美が笑顔で手を振るので、こちらもヤケクソで手を振った。
 
それで拝殿前で撮影をして「お疲れ様でした」ということになる。尚美は撮影中ずっとこちらを見ていた。
 
ちょうどその時、神社の入口の方から、ひとりの男子がやってくる。同級生の嵩蔵くんだ。それを見て、尚美が不快そうな顔をした。彼はまっすぐに尚美のそばにやってきた。
 
「こちらの神社に来ていると聞いたから」
「こないだも言ったけど、私、嵩蔵くんとは付き合えないから」
「こないだは乱暴なことして申し訳無かった。あんなこともうしないから、話を聞いて欲しい」
 
乱暴なことって何だろう?と思う。その時初めて鈴佳は自分の心の中にもやもやした感情が起きるのを感じた。鈴佳はそれが「嫉妬」という感情であることをまだ知らなかった。
 
「悪いけど、恋愛の話はできない。私、嵩蔵くんに恋愛的な興味は無いの」
「どうして? 俺、円山さんのこと好きだし。結婚できる年齢になったら結婚したいくらいに思ってる」
「悪いけど、私、恋愛そのものに興味無いし」
「なんで? 男と女がいれば恋愛は生まれるんだよ」
「私、男の子に興味無いし」
「嘘」
 
「私ね、女の子が好きなの」
と尚美は大胆なことを言った。そして唐突に鈴佳に寄って来る。何だ?何だ?と思っていたら、尚美はいきなり鈴佳に抱きついてキスをした。
 
え〜〜〜!?
 
鈴佳はびっくりしながらも尚美から抱きつかれたので、こちらも抱き返した。
 
「私、この子と愛し合っているのよ」
と尚美は言う。
 
ちょっと待て。
 
「ほんとなの?」
と嵩蔵くんは驚いたような顔で言う。そこで鈴佳も言った。
 
「うん。私も尚美のこと好き」
 
「そうか。それなら仕方ないか。ごめんね」
そう少し辛そうな顔で言うと、嵩蔵くんは帰って行った。
 

その後ろ姿を見送るようにして、鈴佳と尚美は身体を離した。
 
「ごめん。突然変な事して」
と尚美。
「ううん。ナオのためになることならいいよ。でもレスビアンだって噂がたっちゃったらどうする?」
と鈴佳は言う。
 
「いいよ。その時はスズに責任とって結婚してもらおう」
と尚美。
 
「あ、尚美ちゃんなら、歓迎だよ」
などと玲花が言っている。
 
「ああ、最近は女同士で結婚する人もいるよね」
と宏美が隣から言う。
 
「うん。ふたりとも白無垢で結婚式だよ」
と尚美も笑顔で言う。
 
嘘。僕まで白無垢着るの?と考えて鈴佳は焦った。
 

仕事も終わりなので、尚美も一緒に帰ることになった。
 
「しかしびっくりしたなあ。振袖似合ってたよ」
と帰りの電車の中で尚美は言う。
 
「なんかなりゆきで、こういうことになっちゃって」
「ふーん。でもスズって女装とかしないのかなあ、って以前から思ってたよ」
「こないだ唐突に女の子の服を着せられて、まだドキドキしてる」
「元々女装する趣味とか無かったの?」
「無いよー」
「何だ。でも最近は男の娘のモデルもいるのね〜」
 
「いや、僕は事務所の人には女の子と思われているみたい」
「ああ。スズってわりと女顔だもん」
「そうだっけ?」
 
「これを機会にいろいろ女装してみよう」
と尚美。
「やめてよー」
と鈴佳。
「それ私も唆してるんだけどね」
と玲花。
 
尚美は盛んに鈴佳の身体に触り
「お、すごーい。ブラジャーつけてる」
などと言って楽しそうにしていた。
 
やがて駅に到着する。とりあえずトイレにという話になり、駅のトイレに行く。それで3人で何となくおしゃべりしながらトイレに入るが、女子トイレの中に入ったところで尚美がギョッとした顔をする。
 
「スズなんでこちらに来るのよ?」
「え?なんでと言われても」
「まさかあんた『今だけ女』を主張したりしないよね?」
と尚美が詰問するように言ったが、玲花がそこで言う。
 
「大丈夫。この子『今だけ女』じゃなくて『これからずっと女』だから」
 
尚美は「へー」という顔をした。そして言った。
 
「自分は女の子になります、というのならまあ女子トイレ使ってもいいと思うよ。あっ。先週もここの女子トイレに居たよね?あの時はスカート穿いてた。何かスズに似た子がいるなと思ったんだよね。スカート穿いてるから別人だと思ったんだけど」
 
「ここの女子トイレ使ったかどうかは覚えてないけど、確かに先週はスカート穿いて帰った」
「でも、スズって、ちんちん付いてるんだよね?」
と問う尚美の顔はまだ厳しい。
 
鈴佳は答えに窮す。でもナオ、こないだは自分の前で《ちんちん》とか言うなって言ってた癖に、自分で言ってるじゃん!
 
すると玲花がフォローするかのように言う。
「まだ付いてるけど、20歳までには女の子になる手術も受けさせるから」
 
すると尚美は笑顔になって
「ああ、どうせ手術するなら、そのくらいまでに手術した方がいいみたいね」
と言った。
 
え〜!? 女の子になる手術って何? 嫌だよぉ、そんなの。
 
鈴佳はこの後自分はどうなるんだろう?と不安がいっぱいであった。
 
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【振袖モデルの日々】(2)