【白雪物語2021】(2)

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語り手:グスタフ少尉に命じられて白雪の探索をしていたカミルとマルコ・ヨゼフは夜の森を探索するも、なかなか手がかりを見つけることができずにいました。
 
しかしやがて、青い血のようなものが点々と続いているのを見つけます。
 
「なんだ、これは?」
「たどっていってみましょうか」
「うん。何かあるかも知れない」
 

語り手:一方、グスタフ少尉たちはホーフランドの国境まで辿り着いていました。女連れなので結構時間が掛かったのです。国境は堅く閉ざされていましたが、白雪王太女の部下であると名乗ると、大公の城館から、レオポルト王子(ロビン・フライフォーゲル)と兄のルードヴィッヒ王子(ステファン・フランケ)が数人の護衛を連れて来てくれました。
 
(フランケさんは、ロビン・フライフォーゲルと一緒にドイツから送り込まれてきた、脇役要員のひとり)
 
「では白雪殿は無事なのか?」
とレオポルト王子が尋ねる。
 
「分かりません。しかし白雪殿は剣の腕もたちます。狩人ごときにやられるとは思えないのです。それで私たちの手のものがお捜ししております」
とグスタフは答えた。
 
「こちらからも大量に人を入れてお捜ししよう」
とレオポルトは言うが
 
「待て。うちの者が大量にエンゲルランド領内に入れば、それを侵略行為だと言われて、それを口実にホーフランドは攻撃される。本格的な戦争になったらこちらに勝ち目は無い」
 
と兄のルードヴィッヒがたしなめる。
 
「でしたら兄上、私に4人付けてください。私は白雪の許嫁(いいなづけ)です。行方不明の“家族”を探索するなら、侵略行為にはならないはず」
 
「分かった。だったら、お前と護衛4人だけで夜の森に入れ」
「私たちもお供します」
とグスタフが言う。
 
語り手:レオポルトには武術にすぐれた者3人と、万一白雪が怪我などしていた時のために軍医のルターと、合わせて4人を付けました。それで侍女たちはそのままホーフランドで保護してもらい、レオポルト王子とその護衛4人が馬に乗ってエンゲルランドに入ります。グスタフ以下、白雪の護衛たちも馬を交換してもらい、一緒にエンゲルランドに引き返して、夜の森で白雪を探すことになったのでした。
 
つまり、白雪が鉱山技師の小屋に保護された頃、狩人のイェーガー兄妹、カミルたち、レオポルト王子たちの3組が白雪の行方を捜していたのです。
 

語り手:青い血の跡をたどっていっていたカミルたちは、やがて川のそばまで辿り着きました。
 
「何か落ちてる」
 
「それは白雪様が大事にしておられたロケットではないか」
「ここにおられたんだ」
「もしかしたらここで川に流されたのかも」
「下流にむかってみよう」
 
それで3人は川の下流へと進んでいきました。
 

語り手:一方、鏡の答えから、白雪は死んだものと安心していたグネリア女王ですが、数日後、なにげなく鏡に尋ねました。
 
「鏡よ鏡、地上で最も美しい女は誰?」
 
すると鏡は答える。
「それは白雪様です。白雪様が地上で一番美しい女です」
 
グネリアは驚くというより激怒した。
 
「お前、叩き割ってやろうか?こないだは私がいちばん美しいと言ったし、白雪はこの地上にはいないと言ったではないか?」
 
「あの時は、白雪殿は川に落ちて流されている最中でした。水の中におられたので地上におられた訳ではありません」
 
グネリアはもうカンカンに怒って、本当に鏡を叩き割ってやりたい気分になった。しかし鏡を叩き割る前にするべきことがある。
 
「では白雪姫は生きているのか?」
「生きておられます。夜の森の中の、夜の山の麓、7人の鉱山技師の住む小屋で怪我した所を養生しておられます」
 
怪我している?やはり妖獣に襲われた時に怪我したのだろう。だったら、動けるようになる前に仕留める必要がある。
 

グネリアは、この国に住む年老いた黒魔女・カンドラを呼んだ。
 
「お久しぶりでございます、アルチーナ様」
「その名前をもう一度口にしたら今すぐ殺してやる」
「おお、恐い恐い。あんたの本当の年齢のことも言わないよ」
 
グネリアがギロっと睨む。
 
「それで何か用か?」
とカンドラは涼しい顔をして訊く。
 
「白雪を殺してきて欲しい」
「亡くなったのではないのか?」
「それがしぶとく生きている」
「白雪様が生きておられるのなら、あんたには女王になる資格はない」
 
「だから始末してこいと言っている。褒美は何でもやるぞ」
「だったら、ディアナのダイヤモンドをもらおうか」
「・・・・・」
「嫌ならいいよ。私も若い頃はあんたとつるんで色々悪いこともしてきたけど、もうこの年になって危ない橋は渡りたくない」
 
「分かった。渡すから殺してきてくれ。手段は問わない。騒ぎにならない方法ならな」
「まあいいだろう。白雪様がどこにいるか分かるか?」
「夜の森の中の、夜の山の麓、7人の鉱山技師の住む小屋って分かるか」
「ああ、それなら分かる。じゃな」
 
カンドラを演じているのは滝野英造さん(42)である。先日、人魚姫でも魔女役を演じたが、この人はこういう役が似合う。海外では男性が演じていることに気付かなかった人も多かったようである!それでこの配役に関しては宗教的に異性装に厳しい国でも倫理委員会のような所からのクレームは無かった(そもそもアクアの一人二役は姉弟が演じていると思われている!)。
 
ちなみに、国王役に当初アサインされていた村里さんが降板(詳細は明日の配信で)したため、滝野さんが今回の出演者で最年長になった!彼はホテル昭和のデラックスルームに泊めている。(インベーダーゲームにハマったらしい!)
 

語り手:白雪が妖獣に襲われた翌日のお昼頃、やっとイェーガー兄妹が鉱山技師たちの小屋に辿り着き、白雪と再会を喜びました。
 
「しかし他人への警戒心が強いあんたたちがよく、白雪様を保護してくれたな。政治的な事柄に関わるのも嫌っていたのに」
とレオン(アクア)は言うが、白雪姫の警護も兼ねて留守番していた木蔵(弘田ルキア)は、
 
「僕たちは、誰が女王になろうと、王宮でどんな殺し合いがあってようと関係ない。ただ、怪我してる女の子を放り出すほど薄情じゃないよ」
と答えた。
 
そしてその日の夕方、カミルたちがここに辿り着く。
 
「殿下!」
「よくご無事で」
とマルコとヨゼフが泣いて喜んだ。彼らはレオンの姿を見ると拘束しようとしたが、白雪が止める。
 
「その者は、私を殺さなかった。そして私に全てを告白し、私に命を預けると誓った。貴重な私の手駒である。決して危害を加えてはならない」
 
「そうでしたか」
 
「妹殿を殺すぞと脅されてやむなく王妃の命令に従おうとしただけだ。罪は無い」
「そういう事情でしたか。了解しました」
 
「そうだ。白雪様。ここへ来る途中これを拾いました」
「私のロケット!嬉しい。ありがとう」
 
「何か入ってるの?」
と木蔵(弘田ルキア)が尋ねる。
 
「私の大事なもの」
と言ってロケットを開く。中には一枚の絵が収められている。
 
(この絵はこれまで数回画集まで出版している明智ヒバリが、描いてくれたアクアの絵である。30代っぽくは描かれているが、物凄く可愛い!)
 
「お母様の絵姿ですか」
「うん。どんなに辛いことがあっても、これを見ると私は頑張ろうという気持ちになる」
と言って、白雪はそのロケットを抱きしめた。
 
(このシーンは葉月をボディダブルに使って2回撮影してうまく編集している)
 

語り手:人数が増えてしまったので、マルコとヨゼフにレオンも手伝って、鉱山技師たちの小屋のそばに簡単な小屋を数時間で建ててしまいました。そこで、マルコ・ヨゼフ・カミル・レオンが寝て、マルガレータは鉱山技師たちの小屋の女部屋で、白雪のそばに添い寝してガードすることにしました。鉱山技師たちはマルガレータ用のベッドも作ってくれたのですが「私は殿下のすぐそばに居たい」と言って、自分のベッドではなく、白雪のベッドで添い寝したのです。
 
さて、小屋を建てるので一緒に作業したこともあり、マルコ・ヨゼフとレオンはすっかり仲よくなってしまいました!どうも3人が鉱山技師の男性陣たちと一緒にお酒まで飲んでいるようなので、マルガレータや月子は「全くあの連中ときたら。あれではいざという時に役立たんではないか」と呆れていました。
 

語り手:1週間ほど休んでいる内に、白雪の足もすっかり良くなりました。明日にもホーフランドに向けて出発しようと言っていた日の午後のことです。
 
昼間なので、白雪姫の守りに留守番の火吉(大山弘之)を置いて他の6人の鉱山技師は仕事に出ていましたが、レオンとマルガレータ、マルコとヨゼフもいるので安心です。カミルはグスタフが誰か追加のガードを派遣しているかも知れないし、また逆に女王が追っ手を差し向けているかも知れないので、小屋の近くを中心に数キロ以内を歩き回って見張りをしていました。
 

最初に気付いたのは、マルコだった。
 
「誰だあいつは?どこから来た?」
「農婦のようですね」
とレオンが言う。
 
小枝で編んだカゴに果物を入れているようである。
 
「この付近の者か?」
「いえ、見たことがありません」
 
「物売りかな?」
「火吉が追い返すだろう」
 

小屋のドアがノックされるので留守番の火吉は
「はい、どなたですか?」
と声を出す。
 
「近所の農家の者です。果物を売ってまわっております」
「そんなものここに来たことないぞ。一体どこの者だ?」
「狐の里で果物を摘んで暮らしております。今年はなかなか売れなくて、それで少し遠出してきました」
 
「それは気の毒だが、うちは要らないから帰ってくれ」
と火吉は言う。
 
「孫たちがお腹を空かせているんです。どうか果物と交換にパンの1本でも頂けませんでしょうか?」
 
火吉は「孫がお腹を空かせている」という言葉につい同情してしまった。それに老婆の声がいかにも無害に思えた。それでつい扉を開けてしまった。彼はこのことを長く後悔することになり、それがトラウマになって、ドアを開けずに外の人物を確認できるドアスコープを発明することになるのだが、それは後の物語である。
 

火吉が扉を開けた。
 
果物売りの老婆(実はカンドラ)が小屋の中でマラス大公への手紙を書いていた白雪を認識する。老婆はカゴの中に入れていたりんごを取ると、思いっきり振りかぶってそれを白雪に向けて投げた。
 
「何する?」
と火吉が声をあげる。
 
「え?」
と言って白雪がこちらを見る。
 
りんごが飛んでくる。
 
白雪はうっかりそのりんごを受け止めてしまった。
 
「あっ」
と声を出して白雪が崩れるように床に倒れた。
 
「白雪様!」
と火吉が声をあげる。
 
外で警戒していたレオン・マルコ・ヨゼフが立ち上がる。
 
老婆が逃げる。レオンたちが追いかける。
 
「あいつ足が速いな」
「きっと王妃の刺客が変装してるんだ」
「逃がすなよ」
「左右から追い詰めよう」
 
それでマルコとレオンが左右に分かれて老婆を追う。
 
そしてもう少しで追いつきそうと思った時であった。
 

「あ、そこはいけない!」
とレオンが声をあげた。
 
「え!?」
と老婆が声をあげる。
 
「え〜〜〜!?」
と老婆は声を出すが、老婆の身体はどんどん沈んで行く。そこは底無し沼だったのである。よく見ないとふつうの地面と区別できない。この夜の森にはこのような所が多数あり、気をつけて歩かないと、とても危険である。
 
追っていた3人はその様子を黙って見ていた。
 
「おいお前、誰に頼まれた?言え」
「言うから助けてください!女王陛下に白雪様を殺すよう言われました」
 
老婆は自白したものの、さすがに3人も彼女を助けるすべは無い。やがて老婆は沼に飲み込まれてしまった。
 
このシーンの撮影では、この“底無し沼”は本当は深さ1.2mほどしか無い(すぐ沈まないようにするには結構泥の濃度が難しい)。それでカンドラを演じている滝野英造さんは自分でしゃがみ込んで沈んで行く様を演じている。そして全部沈んだ所まで演じたら10秒くらい待ってから立ち上がっている。
 
しかし!この沈んで行く速度が不自然とか、立ち上がるのが早すぎる、とか言われてこのシーンは4回もNGを出してしまい、彼は何度もこの泥沼にハマっていく所を演技するはめになった!
 
42歳のベテラン俳優も、リアクション芸人並みの扱いである。
 
彼も何度もやる内に疲れてきて、いかにも死にそうという雰囲気がよく出る感じになった!それで結果的には映画公開後、迫真の演技と言われて随分評価され、彼も気をよくした。
 
なおこの“底なし沼”はマジで危険なので、撮影が終わったらすぐ水分を含んだ泥を除去し、普通の土で埋めておいた。泥は滑走路の近くに薄く延ばして敷き、数日掛けて乾燥させた。
 

3人が小屋に戻るが、白雪が倒れていて、マルガレータが介抱している。しかしマルガレータは兄の顔を見ると泣き顔で言った。
 
「兄上、白雪様が息をしてないよう」
「何だと!?」
 
3人が白雪のそばに寄って脈を取ったり胸に耳を当てたりしているが、彼らは白雪が死んでいるとしか思えないという結論に達する。
 
(ここからしばらく、白雪姫は人形である!ロミオとジュリエットの撮影に使用したものと同じ仕様の精巧なフィギュア。今年の初めに50万円で市販したアクアの1/1フィギュアよりもっと精巧なものである。なお、この人形にはちゃんと胸の膨らみはあるが、むろん、ちんちんは存在しない!)
 
「ナイフか何かでも投げられたのか?」
「そこに転がっているリンゴを投げつけられた。かばおうとしたが間に合わなかった」
とマルガレータは言う。
 
「りんご?」
「私も油断した。本当に申し訳ない」
と火吉がいう。
 
「老婆がリンゴを投げつけて、白雪様がそれをつかんだら倒れられた」
 
「そのリンゴか?」
と言ってマルコが触ろうとするので、
 
「やめろ。きっと触っただけで効く毒が塗ってあるんだ」
とレオンが言う。
 
「毒?」
「たぶんそうだと思う」
「でも老婆はこのりんごに触って投げたんだろう?」
「もしかしたら触っても大丈夫な部分と猛毒の塗ってある部分があるのかも」
 
「どんな毒だろう?」
「水恵殿には分からないだろうか?」
「呼んできます」
と言って、火吉が飛びだして行った。マルコとヨゼフが2階の女部屋から白雪のベッドを降ろしてきた。その上に寝せる。
 

やがて仕事に出ていた6人が作業を中断して帰って来る。
 
水恵があらためて白雪を診たが首を振った。
 
沈痛な空気が流れる。
 
「そのリンゴを受け止められたら倒れられたのだが」
 
水恵は手袋をはめてリンゴを拾い、虫メガネで観察している。
 
「確かに何か塗られている部分と塗られていない部分がある」
「そこに猛毒が塗られていたんだな。毒の種類が分かるか?」
「待って」
 
水恵はリンゴの一部をナイフでえぐり、それを多数の素焼きの小皿に入れてから、何か試薬のようなものを何種類も掛けていた。
 
「これは化学的な毒ではないよ」
と水恵は言った。
 
「どういうことです?」
「これは多分ただの尿だと思う」
「にょうって?」
「おしっこ」
 
「え〜〜〜!?」
「このりんごには、おしっこが塗ってあったのか?」
 
「しかしおしっこに触った程度で倒れる訳が無い」
「それで倒れるなら、俺は毎日倒れてるな」
 
「だからこれはおそらく呪い(のろい)の類いだと思う」
「呪い!?」
「尿とか、男なら精液、女なら経血というのは、呪詛の道具としてはよく使われるのだよ。尿に何かの念をこめてから塗ったんだと思う」
 
「そんなものを使うのか」
 
「だから、その呪いを解除すれば、白雪殿は蘇生する可能性がある」
 
「ほんとか!?」
 
みんな一瞬にして顔が明るくなる。
 
「解除の仕方は?」
「それは呪いを掛けた本人に訊かねば分からん」
「老婆は死んでしまったぞ」
「呪いを掛けたのが老婆なのか、それとも王妃なのかは微妙」
 
「うーん・・・・」
 

「めんどくさい。王妃を殺せば白雪殿は生き返るのでは?」
と金也(斎藤良実)が言った。
 
「おお、それは行けるかも」
とマルコが言う。
 
「可能性はある」
と水恵。
 
「しかし逆に永遠に解除できなくなる可能性もある」
と水恵は付け加える
 
「うむむ」
 

そんなことを言っていた時、多くの人数がやってくる音がする。マルコが外に出てみた。
 
「グスタフ様!」
とマルコが声をあげた。
 
グスタフ以下の白雪の護衛兵たち、そしてレオポルト王子とその護衛たちであった。彼らをカミルが見つけ、ここへ案内してきたのである。
 
「白雪殿は?」
「それが・・・・」
とマルコが俯く。
 
「どうしたのだ?」
 

白雪姫がベッドに寝せられていて、息をしておらず、死んでいるように見えるのを見て、今到着したみんなが嘆く。
 
グスタフがレオンを見る。
 
「おい、お前が殺したのか?」
と言って、グスタフが剣を抜く。今にも刺し殺しかねない。
 
「違います。この男は逆に白雪様の危機を救ったのです」
と慌ててマルコが言う。
 
「どういうことだ?」
 

語り手:それでマルコは、レオンが脅されて王妃の命令で白雪姫の命を奪おうとしたが、殺せなかったこと。そして全てを白雪姫に打ち明けて、逆にその後は姫が追っ手から逃げる手助けをしてきたことを説明しました。
 
また、白雪姫の状態についても、死んだように見えるが、呪いが掛かっている状態で、その呪いを解除すれば蘇生する可能性があることを説明しました。
 
「ああ、なんてことだろう。せっかく君に会えたのに」
と言って、レオポルト王子が嘆き、白雪姫の枕元に跪いてその唇にキスをした。
 
(ロビン・フライフォーゲルは人形とキスしている)
 
化学的な毒にやられたのであればキスも危険なのだが、呪い(のろい)に掛かっている状態なら問題無いだろうと、みんな王子を停めなかった。それに実は「愛する人のキスで魔法が解ける」というのに少し期待したのもあった。しかし白雪は王子がキスしても変わりはないようだった。
 

王宮ではグネリアがカンドラの帰りを今か今かと待っていたが、一行に音沙汰が無い。グネリアはたまりかねて、鏡の前に立った。
 
「鏡よ鏡、地上で最も美しい女は誰?」
 
「それはグネリア様です。グネリア様が地上で一番美しい女です」
 
「やった!白雪は死んだのだな?」
「生きてはいないようですね」
 
それで女王は大喜びしたのであった。
 
「カンドラは白雪のガードにやられたのかもしれんなあ」
と呟く。
 
だったら、ディアナのダイヤモンドやらなくて済んだ!
 

「白雪殿が倒れられてから、どのくらい経つ?」
とレオポルト王子の部下の軍医ルター(ユリアン・ウェステマン)が尋ねた。
 
「5時間くらいだと思う」
とレオンが答える。
 
「白雪殿の体温は普通に生きている人間よりはかなり低くなっている。しかし死んだ人間の体温はもっと急速に低下する」
「うん」
 
「人が死ぬと、3時間くらいで死後硬直が始まるが、見た所そのようなことは起きていない。死斑も現れていない」
 
「ということは?」
「白雪殿は本当に死んでいるのではなく仮死状態なのだと思う」
とルターは言った。
 
「私も同意見です。白雪殿は仮死状態です」
と水恵も言う。
 
「だったら助かる可能性はあるな?」
とグスタフが言う。
 
「ある。だから何とかして呪いを解く方法を見つけよう」
 

ルター役のユリアン・ウェステマンはドイツからロビン・フライフォーゲルと一緒に脇役要員として送り込まれたひとりである。残りの3人の王子の護衛役は、都内でスカウトしたドイツ人留学生である(バイトのために資格外活動許可を取得しているので報酬を受け取って仕事をすることができる)。全員何かのスポーツをしており体格が良い。王子の近接ガード役としては、とても絵になる。演技の経験は無かったが、みんな演技的なセンスがあって、監督が喜んでいた。
 
ちなみに3人の内1人は実は女性だが、レスリングをやっているというだけあって筋骨隆々なので採用した。
 
「女役で出ます?男装なさいます?」
「ボクは男装しなくてもたいてい男と思われるから」
「えっと・・・」
 
(向こうが日本語ペラペラなので日本語で会話しているのだが、どうも彼女はボク少女のようである。ちなみに彼女は競技に便利といって頭を五分刈り!にしている。女装?する時はウィッグを使うらしい!?)
 
「性別なんて些細なことだよ」
「そうですよね!」
 
ということで彼女の性別については何の注釈もしていないが、ほぼ全ての人が男子と思ったようである(むろんドーピングになるので男性ホルモンなどは飲んでいないし、女性機能を捨てるつもりは無い)。彼女の名前(Voname/First name)は“ルカ”(Luka)で、この名前も男性・女性どちらでもあり得る名前であった!
 
なお、ルターはそれほど筋肉は無いが、軍医という役柄を与えることで、自然な感じになった。
 

語り手:マルガレータがどうしても白雪のそばを離れたくないと言うので、彼女をそばに置いて、みんな取り敢えず休むことにしました。マルコたちが建てた小屋では全員を収容しきれないので、その小屋にレオポルト王子とあまり体力の無い軍医のルター、そして護衛の中で最も強いカールの3人を入れ、他の者は簡易なテントを張って野営しました。
 
夜中、レオンが目を覚ましますが、気になって小屋の中に入りました。マルガレータがさすがに疲れたのか、白雪のベッドに寄りかかったまま眠っています。レオンは妹の肩に触れました。
 
「兄上」
と言って、マルガレータが目を覚ます。
 
「私がついているよ。だからお前も少し横になって休むといい」
「私は姫様に付いていたい。だって私すぐそばに居たのに、姫様を守れなかった」
 
「火吉殿からも聞いたが、誰にも防げなかったと思う。自分を責めすぎるのはよくない。24時間ずっと付いていることはできないし、もしかしたら明日何か行動を起こすかも知れない。その時、寝不足だと何もできないぞ」
 
「分かった。じゃ夜が明けるまで少し寝る」
「うん。そうしなさい」
 
それでマルガレータは2階の女部屋に行った。そして鉱山技師たちが作ってくれていたベッドに横になった。
 

語り手:それでレオン(アクア)はずっと白雪のそばに付いていました。
 
レオンの頭の中で一週間ほど前の夜の出来事が蘇る。自分が弓矢でこの方を射ようとしても、この方は全く怯える様も見せず堂々としていた。この方こそ本当の女王にふさわしいお方だ。自分はこの方に命を預けると誓ったのに、今何もできずにいる。自分が王妃にニセの報告をしに行く時、この方は、私に祝福のキスまでしてくださったのに。(この部分のナレーションはアクアの声)
 
そんなことを考えていたレオンは思わず、白雪の額にキスをした。
 
そしてレオンはずっと白雪の顔を見ていた。
 
「ん!?」
 
気のせいか、白雪の顔に少し赤味がかかってきた気がしたのである。
 
「白雪様!?」
 
レオンは白雪の胸に耳を当てる。
 
「心臓が!心臓が!」
 
レオンは2階への階段を駆け上がった。一瞬ためらったものの、女部屋の扉を開ける。
 
「失礼する。水恵殿」
と声を掛けた。
 
その声で水恵だけでなく、マルガレータも月子も起きた。
 
「どうした?兄上」
とマルガレータが言う。
 
「水恵殿。ちょっと白雪様を見てくれないか」
「何か変化があったのか?」
 
この時、水恵も、マルガレータも月子も、“悪い方向への変化”を想像した。仮死状態を保っているというのは奇跡であって、何の操作もなければ、本当の死に進むことの方が多い。
 

レオンを先頭に女子3人が階段を降りる。
 
「これは!」
と水恵が声をあげた。
 
水恵も胸に耳を当てる。弱々しいものの心臓の鼓動が感じられることを確認する。口と鼻の上に手をかざす。
 
「少しだが息をしておられる」
 
「助かるか?」
「まだ分からん。しかしこれは回復する可能性があるぞ」
「何か薬のようなもので、手助けできないか?」
 
「身体を刺激する薬草を調合する。待て」
 
それで10分ほどで水恵が薬草を調合した。
 
「これを飲ませたいのだが。スポイトでは時間が掛かりすぎるし」
「私が口移しで飲ませます」
とマルガレータが言う。
 
「分かった。頼む」
 
それでマルガレータ(七浜宇菜)はその薬草を口に含み、白雪(アクア)の唇に自分の唇を合わせ、少しずつ押し出すようにして薬草をアクアに飲ませた。
 
(この部分の白雪も人形である。念のため。顔色などは調整できるようになっているし、心臓も好きな速度で動かせるし、呼吸もさせられるので、むしろロボットというべきかも。薬草・・・ということにしている野菜ジュース!は宇菜が自分で飲んでいる)
 

「頬に赤味が出て来たぞ。もう一度飲ませられるか」
「やります」
と言って、マルガレータは再度、白雪に口移しで薬草を飲ませた。
 
「これは蘇生に向かっていると思う」
 
「レオポルト様を呼んできます」
と言って月子が出ていく。
 

騒がしいので、鉱山技師の男性5人も起きて降りてきた。
 
「どうした?」
「蘇生するかもしれない」
「おお!」
 
レオポルト王子が飛んできた。他の者たち、テントで野営していた者たちも小屋に入ってきて、小屋の中が密になる!
 
あまり多いので、グスタフは兵たちに外に出るように言った。
 
レオポルトの部下の軍医ルターも、白雪が蘇生に向かっていることを認めた。
 

「しかし何があったのだ?水恵殿、何かなさったか?」
とルターが訊く。
 
「何もしてません。蘇生する兆候が見えたので、その後で、強壮藥を差し上げただけです」
 
「どうして白雪殿は快方に向かっているのだろう?」
とレオポルト王子が言う。
 
「何もしてないとしたら、白雪殿は、自力で回復に向かっているのかも知れない」
とルター。
 
「何て生命力の強い人なんだ!」
と鉱山技師たちから声があがる。
 
レオンは自分が白雪に口づけをしたのがきっかけになったとは、思ってもいない!
 
「ただ、殿下、覚悟していただきたいのですが」
とルターがレオポルト王子言う。
 
「何だ?」
 
「今は快方に向かっておりますが、いつこの過程が停止して死に向かうかも知れません。これは何ともできません。神の思し召し次第です」
 
「だったら白雪殿の回復を神に祈ろう」
 
「そしてもうひとつ問題があるのですが」
と言って、いったん言葉を切る。
 
「このまま蘇生なさった場合も、半日ほど血液の流れがほとんど止まっていましたので、脳や身体に何らかの障害が出るかも知れません。記憶も失っているかも知れません」
 
王子はしばらく絶句していたが言った。
「構わない。白雪殿の命さえ助かれば、私はその全てを受け入れる」
 
「御意」
 

語り手:みんなが見守る中、白雪は少しずつ生気(せいき)を取り戻していきました。レオポルトはずっと神への祈りの言葉を捧げています。そして回復の兆候を見せ始めてから3時間ほどで完全に脈拍も呼吸も回復しました。そして4時間ほど経ったところで、とうとう白雪は目を開いたのです。
 
「白雪様ぁ」
と言ってマルガレータが白雪に抱きついて大泣きする。王子は自分も抱きつきたかったのだが、先を越されてしまった!
 
「みんなどうしたの?」
と白雪はまだ起き上がれないものの、多数の人が自分の周囲に居るのを見て戸惑うように、しかし微笑みながら言った。
 
このシーンは白雪が目を覚ます直前までは人形を使っての撮影で、目を覚ますところからは、葉月にレオン役をさせて一発撮影である。
 
あまりにも感動的な場面なので、2度撮影するのが困難だった。後で葉月の顔が映っている所だけ、コンピュータで編集してアクアの顔に差し替えている。
 
アクアと葉月は背丈だけでなく、顔のサイズと形もほぼ同じなので、こういう編集がしやすい。葉月は本当に理想的なアクアのボディダブルなのである。
 

語り手:それから2時間ほどで白雪は立ち上がれるようになりました。みんなと会話を交わし、また白雪の歩く様子を見ても、障害の類いは起きていないようでした。鉱山技師たちも、レオンとマルガレータの兄妹も、白雪姫のガードたちも、レオポルト王子とそのガードたちも、みんな泣いて白雪姫の回復を喜びました。
 
レオポルトの部下が1人馬でホーフランドまで行き、このことをマラス大公に伝えました。大公も大喜びでした。またマラス大公からは少し情報がもたらされたのですが、そのことは後述します。
 

カメラは古ぼけた家を映す。
 
(イェーガー兄妹の家を建設途中で、少し異なる仕様の家を一時的に作ったので、そこでこの場面は撮影した。廃屋の部材を使ったので本当に古い家に見える)
 
分厚い本が開かれていて、見たことも無い文字で文章が綴られている。その場面に字幕スーパーが入る。
 
“この液に触れた者は、その者が過去14日以内にキスしたことのある者に、倒れてから14日以内にキスされなければ、14の14乗の年数だけ、眠り続けるであろう”
 
死ぬとは書かれていないが、14の14乗年(*6)眠り続けるのなら死んだのと等しいだろうと思い、カンドラはこの魔法を使った。
 
つまり、レオンは王宮に戻る時に白雪にキスしてもらっていたので、白雪を蘇生させる資格があった(だから実はマルガレータにもできた)。しかし、レオポルト王子は(少なくとも14日以内には)白雪にキスしてもらっていないので、彼がキスしても、何も起きなかった!
 
(*6)1414 (14の14乗) は、カンドラは計算しきれなかったが、約1京年(1016 年)になる。1414 = 1,1112,0068,2555,8016.
 
これは太陽系の寿命よりは遙かに長いが、宇宙の寿命よりは遙かに短い。宇宙の寿命は10100 (10の100乗)年くらいと考えられている。但し実際には100兆年(1014 年)もすれば、もう生命は存在できないような状態になると思われる。なお“五劫のすりきれ”の“五劫”(阿弥陀如来の修行時間)はだいたい1027 年ほど。阿弥陀如来は恐らく多数の宇宙に転生しながら修行したと考えられる。
 

白雪が完全に回復した所で、この後のことを話し合った。
 
会議に加わったのは下記5人である。
 
白雪、レオポルト王子、グスタフ少尉、鉱山技師の代表・日郎、レオン。
 
「だったら、フランク殿とマリアは幽閉されているのか」
と白雪が言う。
「はい。王宮内の協力者からマラス大公へ密書があり判明しました」
とマラス大公の所まで伝令で往復して来たレオポルトの部下が言う。
 
「王宮はみんな王妃の味方か?」
 
「純粋な王妃の味方は、あの女に以前から仕えていた侍女たちと護衛とだけだと思います。ツァイス中佐以下、城の護衛兵は中立です。バウアー大臣は、あの女が女王であるなら、自分は女王の部下である、という言い方をしてあの女に従っているそうです」
 
「食えん奴だ」
と言って、白雪は笑っている。
 
「だったら、私が王妃を倒せば、みんな私を支持してくれるかな」
 
と白雪が発言すると、みんな「おぉ!」と声をあげる。
 
「大半は白雪様の味方になると思います。多少の反乱分子は私たちが抑えますよ」
とグスタフが言う。
 
「だったら私は今夜にも城に乗り込んで、王妃を倒す。王妃のガードだけは排除する必要があると思う。願わくば何人か私に命を預けてくれないか?」
と白雪が言うと
 
「私の命はとうに姫様に預けております」
とレオンが言う。
 
先をこされてしまったグスタフも
「当然私は白雪様の盾になります」
と言う。
 
「私は君の許嫁だ。当然君と一緒に行動する。王妃も私が倒そう」
とレオポルトが言うが、白雪は止める。
 
「それはいけない。ホーフランドの王子が女王を倒したら、それは反乱になる。他の者が倒せば大逆罪になる。あの女を倒すことが許されるのは父の仇を討つという大義名分がある私だけなのだよ」
 
と、これまでグネリアのことを“王妃”と呼んでいた白雪もとうとう“あの女”呼ばわりをした。少なくともここにはグネリアを“女王”と呼ぶ者はいない。
 

「心配しなくていい。私はたくさん剣を習った。私は負けない」
と白雪は言う。
 
「だったら私は君をそばで見守る」
「うん」
 
「私たちも侵入路の確保くらいは手伝うぞ。私たちはみんな身が軽い。城門の中に忍び込んでカンヌキを開ける程度のことはさせてもらう」
と日郎が言う。
 
「君たちは政治的なことには関わらないのかと思った」
 
「我々の家でふざけたことをしてくれた仕返しだ」
 
語り手:それで結局今夜、ここにいる全員で王妃を倒しに行くことになったのです。
 

「ところで今気付いたが」
とレオポルトが言う。
 
「白雪殿とレオン殿は顔立ちが似てないか?」
「え!?」
「あれ〜!」
「そういえば似ている気がする」
 
「男と女の違いがあるので今まで気付かなかったが確かに似ている」
 
「だったらレオンには私の影武者をしてもらおうかな」
と白雪が笑いながら言っている。
 
「私は殿下に命を預けております。必要でしたら影武者もいたします」
とレオンは真面目な顔で答えた。
 
「だったら、女の服を着る練習もしてもらわなければ」
とマルガレータが言っている。
 
「女の服を・・・・俺が着るのか?」
とレオンが言う。
 
「そりゃ白雪殿下の影武者なら、当然白雪殿下が着られるようなドレスとかを着てもらわなければ」
「え〜〜〜!?」
とレオンは情けない顔で声をあげた。
 
「お化粧も覚えてね」
「ひぇ〜〜〜!」
 
(このシーンは元々性におおらかな日本や東アジア、またフランスやイタリアなどラテン系の地域では大いに受けたのだが、一部の国で公開する版ではカットした!)
 

語り手:今夜の決行について、マラス大公への連絡は、考えた上で、何もしないことにしました。万一失敗した場合、自分たちが勝手にしたことということにしないと、ホーフランドが攻撃される理由にされる可能性があると白雪が言ったからです。
 
みんなは昼間の内は少数の警備役(*7)を除いて全員仮眠し、日が落ちてから行動開始しました。
 
(*7) 昼間の警備はカミルと鉱山技師の女性2人が担当した。この3人は今夜の攻撃にはお留守番である。失敗した場合は、カミルが女性2人をホーフランドに連れて逃げることになっている。
 

語り手:一行は、白雪・イェーガー兄妹、レオポルトと4人のガード、グスタフを含めて5人の白雪のガード、鉱山技師の内男性5人の合計18名です。
 
レオポルトやクスタフは馬を9頭連れてきています。人数より1頭多いのは、白雪を乗せるつもりだったからです。マルコたちが馬3頭で来ています。それにレオンの馬まで入れて馬は13頭です。
 
それで白雪をレオンの馬に乗せ、鉱山技師の中で馬の扱いが上手い木蔵は単独で乗り、残りの4人がグスタフの部下の馬に同乗することにしました。カミルが使っていた馬にマルガレータが乗ります。
 
白雪がレオンのゴールデナファイル号に同乗するのは、万一向こうが待ち伏せなどしていて、攻撃前に逃げるハメになった場合、この馬に追いつける馬はそうそう居ないからです。
 
(カミルの馬にマルガレータを乗せることは白雪とグスタフが密かに話し合って決めた。カミルの馬もかなり速いので、待ち伏せされていた場合に、軍人ではないマルガレータが逃げられるようにするためである)
 
一行は目立たないように、3方向から分かれて首都に進入しました。夜中なので誰も彼らを見とがめる者はありませんでした。
 
やがて王宮の城門の所に集結します。白雪以外の全員が下馬します。レオンは降りて白雪の馬を引きます。
 

語り手:身の軽い鉱山技師たちの中で、日郎と火吉が壁によじ登って向こうに入ります。この役割は万一見つかると弓矢や鉄砲で撃たれる可能性があり、とても危険な役割なのですが、火吉がぜひ自分にやらせてくれと言ったので、リーダーの日郎と2人で実行しました。
 
幸いにも彼らは見つからずに内側に入り、そっと城門を開けました。一行が中に入ります。鉱山技師たちはここに残し、馬を見ていてもらいます。彼らには万一の場合はすぐ逃げるように言っています。
 
門が開くのでさすがに警備兵が気付いてこちらに走ってきます。しかしグスタフが
 
「控えろ。王太女殿下である」
と言うと、全員動きを止め、あるいは跪き、あるいは低頭してそのまま行かせました。中にはお供したいと言う者たちもいるので、従うことを許します。
 
ぞれで一行は宮殿の玄関まで来た時には40人ほどになっていました。
 
ここで白雪も下馬します。白雪の馬は軍医のルターが預かり、彼はここで待機します。
 

「何事だ?」
と言って、バウアー大臣が姿を見せる。
 
「白雪様!?」
と大臣が驚いたような声をあげる。
 
「この国の正当な後継者である私が、父の仇(かたき)を討ちに来た。通せ」
と白雪が言うと、大臣は
 
「白雪殿下が生きておられるのであれば、グネリア殿に女王になる資格はありません。白雪様こそが正当な女王様です」
と言います。
 
「全く食えん奴だ」
と言って白雪は笑っている。
 
語り手:この大臣の言葉で、この王宮に居るほぼ全ての者が白雪の味方になったのです。なお、レオポルト王子のガードたちは、ツァイス中佐が彼らの安全を保証してくれたので、ここで待たせることにし、白雪たち8名の戦闘員(白雪・レオン・マルガレータおよびグスタフを含む白雪のガード5名)+見届け人のレオポルト王子だけが先に進みました。
 

白雪の侍女マリア(坂出モナ)とフランク軍曹(松田理史)が解放される。
 
「どうしたのだ?」
とフランクが訊く。
 
「白雪王太女殿下がお戻りになりました。グネリア殿は女王ではなくなりましたのでツァイス様から、マリア様とフランク様の解放命令が出ました」
 
「生きておられたか!」
「良かった!」
 
と2人は思わず手を取り合い、そのまま抱き合ってから、慌てて離れる。
 
「白雪様はどこに?」
「今グネリア様のお部屋に向かって進んでいるようです」
「すぐ行こう」
と2人は駆けだした。
 

グネリアはもちろんこの騒ぎに気付いた。
 
疲れたような顔で鏡の前に立つ。
 
「鏡よ鏡、地上で最も美しい女は誰?」
 
すると鏡は答えた。
「それは白雪様です。白雪様が地上で一番美しい女です」
 
「お前、一昨日、白雪姫は生きてないと言ったではないか」
「白雪殿はあの時、仮死状態になっていました。生きていた訳ではなかったので、生きている女の中ではグネリア様がいちばん美しかったのです。しかし白雪殿は仮死状態から回復なさいましたので、現在は白雪殿が一番です。」
 
「そうか、そうか。それは良かった」
と言うと、グネリアは剣を抜いて、鏡を叩き割ってしまった。
 
(この鏡は破片が飛び散らないように加工している)
 

グネリアは自分の侍女たちに
「女は命までは奪われないだろう。お前たちは逃げなさい」
 
と言ったが、侍女長のローザ(石川ポルカ!)は
 
「私たちは姫様と一蓮托生です」
と言い、他の侍女も頷いて逃げなかった。
 

語り手:白雪たちが歩いて行くと、途中で遭遇した多くの兵士や官僚たちが白雪に跪いたり礼をしたりして中には一行に加わる者もありました。白雪の一行はどんどん人数が増えていきました。
 
何人かグネリアの警備兵が白雪たちを阻止しようとしましたが、レオンやグスタフたちに排除されて、大半が拘束されました。
 
「白雪様!」
と言ってマリア(坂出モナ)とフランク(松田理史)が駆け付けてくる。
 
「白雪様ぁ、ご無事で良かった」
と言ってマリアが白雪に抱きついて泣く。
 
「よしよし。お前たちにも苦労を掛けたね」
と白雪はマリアの背中をなでてやった。
 
しかし最近、モナは本当にアクアと抱き合うシーンが多い!
 

王妃の部屋に行く途中、向こうから2人の騎士(白鳥リズム・榊森メミカ:友情出捐!)がやってくる。今まで阻止しようとしてきた兵たちとは違って強そうである!
 
「通せ」
とグスタフが言うが、
 
「女王陛下のお許しがない限り通せません」
と答える。
 
「もはや、グネリアは女王ではない。こちらにおられる白雪様こそが正当な女王様だ」
 
「それでも私たちはグネリア様に命を預けております。ここは通せません」
「だったら実力で通るのみだ」
 
グスタフとフランクが剣を抜いた。グネリアのガード2人と闘う。
 
「ここは我々にお任せを、殿下は先に」
「分かった。死ぬなよ」
「はい。命に代えても倒します」
 
全然意味が分かってない!
 
しかし白雪は先に進んだ。グスタフの部下、ハンスとヴェルターを万一の時の抑えとして残した。
 
白雪の両側をレオンとマルガレータがガードしている。その後にレオポルトとマリア、白雪の護衛のマルコとヨゼフ、そして途中で加わった多数の兵士が続く。
 
そして白雪はグネリアの部屋までやってきた。
 

「白雪、よく来たな」
とグネリアが言う。侍女たちには離れていて決して手を出さないように言う。
 
「母上、父上の仇を討たせていただきます」
「返り討ちにしてやるから掛かってこい」
 
白雪はレオンとマルガレータ、そしてレオポルトに「手を出さないで」と言ってひとり前に進んだ。
 
グネリアが剣を抜くので、白雪も剣を抜いた(グネリアが先に抜いたのが重要)。
 
2人が闘う。これが物凄い戦いになった。
 
誰も声を出すことができず、2人の戦いを見守る。
 

グネリアの剣が白雪の身体に僅かに接触した。
 
「あっ」
とマリアがたまらず声を出す。
 
白雪の両乳房の間、首の付け根から数センチの所から血が出ているが、それほど大した出血ではない。またこの時、白雪が付けていたロケットの紐が切れて床に飛んだ。
 
しかし白雪はめげずに闘う。
 

2人の戦いは続くが、白雪はグネリアの剣を避けようとしてバランスを崩した。
 
それで転んでしまう。剣まで落としてしまう。
 
「勝負あったな。返り討ちだ」
と言って、グネリアは白雪の傍に寄り、心臓を突き刺そうとした。
 
「キャー!」
とマリアが悲鳴をあげる。マルガレータが思わず助太刀しようとした。
 
ところがグネリアはそこで何かを踏んで滑ってしまった!
 
すかさず白雪は剣を取り直し、グネリアが体勢を回復する前にグネリアの心臓に剣を突き刺した。
 
「白雪、強くなったな」
とグネリアが言う。
 
「母上に鍛えられましたから」
「私を母と呼んでくれるのか」
「ここまで育ててくださった恩は忘れません」
「そうか。お前はきっと良い女王になる」
 
そう言って、グネリアは力尽きた。
 
レオンがグネリアのそばに寄る。
 
「亡くなっておられる」
と言って、グネリアの目を閉じてあげる。グネリアの侍女のひとり(石川ポルカ)も駆け寄ってきたがグネリアが死んでいるのを認識すると短剣を出して殉死しようとした。しかしレオンが短剣を取り上げ「死んではならん。お前たちはグネリアの菩提を弔え」(*8)と言い、侍女も力なくうなだれた。
 
(*8)この部分は日本や東アジアの仏教圏以外では、各国の宗教事情にあわせてセリフを差し替えている。
 

マリアが白雪の傍に駆け寄り、白雪の傷の手当てをする。レオポルトは絶対に手を出してはいけないと白雪に言われていたので抑えていたものの、ホッとして涙を流して白雪の手を取っている。彼はもし白雪が負けたら自分も死ぬつもりだった。
 
「今、グネリア殿は白雪殿に『お前はきっと良い女王になる』とおっしゃったな」
といつの間にか、ここに来ていたバウアー大臣(大林亮平)が言った。
 
「確かにそう聞いた」
とレオポルトが答える。
 
「つまりグネリア殿は白雪殿に譲位なさった」
「なるほど」
「だから何の問題もなく、これからは白雪殿下が女王である」
とバウアー大臣は宣言した。
 

マルガレータは床を見ていた。グネリアが白雪を刺そうとして何かを踏んで滑ったのである。
 
「これだ」
と言って拾い上げる。
 
「姫様、これを」
と言って、白雪に渡す。
 
「私のロケット!」
「グネリアはそれを踏んで滑ったんだ」
とレオポルト。
 
「白雪様のお母様が助けてくださったんですよ」
とマルガレータが言うと、白雪はロケットを抱きしめて
「お母様」
と言って涙を流した。
 

なお、グネリアのガード2人(白鳥リズム・榊森メミカ)と、グスタフ・フランクの戦い(映画では画面切り換えで何度もその様子を映している)は、いづれもグスタフ・フランクの勝利で決着が付いていた。
 
グネリアのガード2人は
「とどめを刺せ」
と要求したが
 
「戦意を失った者の命は奪わない」
と言って、グスタフ・フランクともに剣をおさめ、ガード2人は拘束された。
 

王宮での騒動は結局1時間ほどで決着した。死者はグネリア以外ではごく僅かであった。特に白雪側は死者ゼロであった。
 
翌日、王宮ではバウアー大臣名で
「白雪様がお亡くなりになったと思われていたが、実はお亡くなりになったのはグネリア様であった」
という全く訳の分からない発表をし、あらためて白雪の女王就任が発表された。
 
語り手:白雪は女王に就任すると、すぐにマラス大公の王位継承権取り消しは誤りであったとして、名誉回復と、王位継承権の復活を宣言しました。
 
そして自分とレオポルト王子との婚約を発表しました。
 
国民たちは結局何があったのか、訳が分からない思いでしたが、白雪が元々国民に人気が高かったことから、白雪の女王就任は歓迎されます。
 
国王ステファンと“王妃”グネリアの葬儀が盛大に行われ、白雪とレオポルトの結婚式は1年間の喪に伏した後、来年執り行うことも発表されました。それまではレオポルトは白雪の婚約者としてこの国に滞在します。
 

「白雪、僕は君がほしい」
「だーめ。万一結婚式前に妊娠したら困るもん」
ということで、レオポルトはお預けを食わされている!
 
「レオポルト様、誰かお気に入りの娘がおりましたら、夜のお供をさせますが」
とマリアが言ったが
「いや。白雪以外の者を愛したくない。我慢する」
と答える。
 
実際、白雪以外の女が白雪より先に万一男の子でも産んだりすると、将来の火種を作ることになりかねない。王族というのは本当に大変な職業である。
 
「あのぉ、でしたら男の娘を添い寝させましょうか?凄く可愛い子がいるんですが」
「・・・。ちょっと待って。少し考えさせてくれ」
とレオポルトは焦って言った。
 
(この最後の会話は一部の国ではカット!)
 

語り手:白雪とレオポルトのプライベートな事情がどのようになっているかは少数の者だけが知る中、1年が経ち、2人は盛大な結婚式をあげました。
 
そういう訳で、マラス大公の2人の息子の内、長男のルートヴィッヒ王子がホーフランドの後継者となり、レオポルトはエンゲルランド女王・白雪の夫(王配 Prinzgemahl / Prince consort)になって、結果的にはマラス大公の血統が両国を統治していくことになったのです。
 
マラス大公はエンゲルランドの摂政などの地位を望めば得られたかも知れませんが、大公はそのような野心は無かったので、若い女王の純粋な相談相手として、国を支えていくことになります。むろん大臣バウアーも、グネリアの下でも大臣として振る舞っていたことなど知らぬかのように、ちゃんと白雪配下の大臣として政治の実務を担当していきました。
 
「まあバウアーは油断はできないけど、使える奴だよ」
と白雪は笑って、秘書役となったマルガレータに言っていました。
 
そして数年後、白雪とレオポルトの間には王子2人と王女1人が生まれて、跡継ぎも安泰と思われました。この王女はずっと後、ルートヴィッヒの王子と結婚することになります(いとこ同士の結婚)。
 

その子供たちを白雪とレオポルトが見守っているところで 終 / End / Ende の文字が入り、その後、エンドロールになる。↓はその一部である。
 
白雪姫:MS AQUA
レオン:MR AQUA
(例によって MAQURA, SAQUMA から MR AQUA, MS AQUA に変化する)
 
レオポルト王子:ロビン・フライフォーゲル (前後に大きく間を空ける)
 
マルガレータ:七浜宇菜
マリア:坂出モナ
フランク軍曹:松田理史
グスタフ少尉:岩本卓也
鏡(声)今井葉月
 
ステファン王:水川耕祐
バウアー大臣:大林亮平
カンドラ:滝野英造
女王の護衛1:白鳥リズム(友情出捐)
女王の護衛2:榊森メミカ(友情出捐)
 
日郎:広原大司
月子:元原ユミ
火吉:大山弘之
水恵:斎藤恵梨香
木蔵:弘田ルキア
金也:斎藤良実
土雄:花園裕紀、
 
マラス大公:ミハエル・クラウスナー
マラス大公妃:エリザ・ヘンネフェルト
ルードヴィッヒ王子:ステファン・フランケ
軍医ルター:ユリアン・ウェステマン
 
ツァイス中佐:柏木義昭
馬番カミル:大山紀之
料理女アンナ:直江アキラ
お城の少年:望月春奈
 
白雪の護衛:広河和也、永田敏明、佐藤光史、中村繁彦
レオポルトの護衛:ルカ・マイスナー、カール・シュピーラー、グンター・エンデルス
群臣:森原准太、本騨真樹、木取道雄
白雪の実母の侍女:恋珠ルビー、花貝パール、鈴鹿あまめ
白雪の侍女:今川容子、坂田由里、鹿野カリナ、信濃町ガールズ関東
グネリアの侍女:石川ポルカ、箱崎マイコ、豊科リエナ、信濃町ガールズ東海
 
白雪姫(3歳):白雪めぐみ
白雪姫(5歳):白雪やまと
白雪姫(10歳):白雪さくら
レオポルト王子(5歳)ゲオルク・ストラウス
ルードヴィッヒ王子(7歳)オリバー・ストラウス
 
城の警備兵:∞∞プロ
パーティーの客:熊谷市内の大学生の皆さん
 
(大きく空ける)
 
白雪のボディダブル:今井葉月
語り手:中村昭恵
 
(大きく空ける)
 
王妃グネリア:雨梨美貴子(“起こし”表示)
 
(スタッフ・協力などの表示:略)
 
監督:河村貞治
 
制作:大曽根三朗、アウグスト・ジールマン
 

エンドロールが終わった所で短いエピソードが入る。
 
語り手:白雪女王は妊娠中も摂政は置かず、出産の前日まで女王として執務し、出産の一週間後には政務復帰するなど超人的な働きぶりを見せて周囲を驚かせるというより、ほとんど呆れさせました。
 
「せめて出産の前後1ヶ月くらいは休まれても良いのに」
と多くの家臣たちが言うものの
 
「休めば、女だから休まなければならないと言われる。私は男並みに仕事する」
と言っていました。
 

語り手:でも・・・実は出産前後には、レオンが白雪の影武者を務めていて、白雪はちゃんと休んでいたのでした!
 
最初の子、オットーを産んで間もない頃
 
「レオポルト様は?」
と部屋に入ってきたマルガレータ(七浜宇菜)が訊く。
 
「クリスちゃんの所じゃない?」
とオットーに授乳しながら白雪は言った。
 
(アクアの授乳シーン!だが「可愛い」「アクア様、いいお母さんになりそう」とファンには好評だったようである)
 
「ここだけの話、嫉妬しないんですか?」
「クリスは私も好きだよ。性格もいいし。まあ私の妊娠中と出産後1年くらいはあの子に貸してあげるよ。変な女と浮気されるよりいいし」
 
「確かにそれはありますよね。でもあの子、ほんとに可愛いですよね!」
「マリアもいい子を見つけてくれたよ」
 
そのマリアの方は、大量の書類に白雪に代わってサインするのに忙しい。マリアは白雪とそっくりの署名ができるのである。普段でも実は半分くらいマリアが署名してるし、大臣など最初から書類をマリアの所に持ってくる!
 
「そうそう。兄上の方もだいぶ女装には慣れたようですよ」
とマルガレータが言う。
 
「レオンもその内本当の女になりたい気分になったりしてね」
と赤ちゃんを抱えた白雪(アクア)が笑うところで、本当に終 / True End /Wahres Ende という文字が表示され、その後“?”が表示されて、映画の尺は終了する。
 
ただし、例によって、一部の国用のバージョンではこの最後のエピソードもカットされた!
 
 
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【白雪物語2021】(2)