【白雪物語2021】(1)

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この物語の主な配役:
 
白雪姫・白雪姫の実母:アクア
狩人レオン:アクア(二役)
 
レオンの妹マルガレータ:七浜宇菜
アクアのボディダブル:今井葉月
レオポルト王子:ロビン・フライフォーゲル
 
王妃(→女王)グネリア:雨梨美貴子
鏡(声)今井葉月
大臣バウアー:大林亮平
 
白雪の侍女マリア:坂出モナ
フランク軍曹:松田理史
グスタフ少尉:岩本卓也
 
鉱山技師:広原大司(日郎)、元原ユミ(月子)、大山弘之(火吉)、斎藤恵梨香(水恵)、弘田ルキア(木蔵)、斎藤良実(金也)、花園裕紀(土雄)
 

語り手:昔、エンゲルランドという国に、王様とお妃様がいました。ある雪の日、お妃様は、趣味の刺繍をしていました。
 
カメラは雪景色の城からズームインして雪の積もった窓を映し、更にその中で椅子に座って刺繍をしている王妃の姿を映す。部屋の中には侍女が3人控えている。
 
ここで雪景色はオーストラリアの協力会社に依頼して撮影してもらった雪の降る様に、今回のセットの城の映像を合成している。窓に積もっている雪は小麦粉である。
 
ここで王妃を演じているのはアクア!である。侍女は§§ミュージックから恋珠ルビー、花貝パール、鈴鹿あまめ、の3人が演じている。この3人は結構忙しいのだが、白雪の実母の侍女は出番が限られることから起用した。みんな16世紀頃の貴婦人の衣裳を着けている。
 
その内、王妃がうっかり指に針を刺してしまったようで「痛」と声をあげる。侍女のひとり、恋珠ルビーが駆け寄る。
 
(このシーンはむろん刺したふりをして指に赤インクを付けただけである)
 
「すぐ治るとは思いますが、清潔にしておきましょう」
と侍女は言って、お酒を布に染み込ませて王妃の指を拭いた。
 
「ありがとう。うっかり刺しちゃって」
 
「疲れてるんですよ。今日はお休みになったほうがいいです」
と花貝パール。
 
「そうね」
と言いながら王妃は窓を見た。
 
「雪がたくさん降ってるみたい」
と王妃は言う。
 
「雪の被害が出なければいいのですが」
と鈴鹿あまめ。
 
王妃が何か考えているようなので、侍女が尋ねる。
「どうかなさいましたか?」
 
「あの雪のように白くて、この血のように赤くて、この黒檀のテーブルのように黒い子供が欲しい」
と王妃が呟くと、侍女のひとりが言います。
 
「あのぉ、国王陛下のご都合を訊いて参りましょうか」
 
「それもいいわね」
と王妃(アクア)は言って微笑んだ。侍女(恋珠ルビー)が急ぎ足で部屋を出ていった。
 

語り手:1年後、お妃様は可愛い女の子を産みました。その女の子は王妃が願ったように、雪のように白い肌、黒檀のように黒い髪、そして血のように赤い唇を持っていました。それでこの子は白雪(snow white / Schneewittchen)という名前を付けられました。
 
王妃(アクア)が赤ちゃんを抱いている所が映る。この赤ちゃんはロボットである。
 
語り手:白雪が3歳になった頃、国王の従弟・マラス大公夫妻が、幼い王子2人を伴って王宮を訪問してきました。マラス大公はエンゲルランドに隣接する小国ホーフランドを治めています。上の王子は7歳でルードヴィッヒ、下の王子は5歳でレオポルトと言いました
 
(子供2人は日本在住のドイツ人の兄弟の子役を使っている。また大公役はロビン・フライフォーゲルと一緒にドイツから送り込まれてきた脇役要員の中で年長のミハエル・クラウスナーさん、大公夫人役は日本在住のドイツ人女性で過去にテレビのドイツ語講座にも出演したことのあるエリザ・ヘンネフェルトさんを起用した)。
 
語り手:2人の子供は遠出してきたのではしゃいで、王宮内を走っていたら、弟のレオポルトは転んでしまいました。するとそれを手を取って起こしてくれた女の子(白雪)が居ました。
 
「だいじょうぶ?」
「うん。大丈夫。でも君、可愛いね。僕のお嫁さんにしてあげるよ」
「およめさんってなぁに?」
 
子供たちのたわいもない会話だったが、それを見ていた各々の両親は言う。
 
「ほんとに将来、白雪姫殿をうちのルードヴィッヒかレオポルトの嫁にもらえないかね?」
「いいかも知れないね」
「レオポルト様が白雪をお気に入りになったみたいだし、レオポルト様でいいかも」
 

語り手:お妃様は白雪が5歳の時に病気で亡くなってしまいました。王様はお妃様の死を悲しみましたし、再婚などする気持ちはありませんでした。しかし女の子1人だけを産んでお妃が亡くなったとあらば、お世継ぎを作るために再婚して欲しいと周囲は言います。それで不本意だったのですが、2年後に王妃の喪が開けた所で、王様は後添えを迎えました。後添えはグネリアといい、国王の又従妹に当たる女性でした。若い頃から美人として名高かった人でしたので、多くの国民がこの再婚を歓迎しました。
 
王妃が亡くなった時の様子、お葬式の様子、再婚の結婚式の様子と映像が続く。
 
国王役が水川耕祐さん(40), グネリア役が雨梨美貴子さん(25)である。年齢的には釣りあわないが、継室の役割は世継ぎを産むことなので当然若い人でなければならない。物語上はこの時に19歳という設定なので、雨梨さんは若く見えるようなメイクをしている(元々若く見える人ではある)。
 
新しい王妃グネリアは白雪と対面し
「お母様が亡くなって大変だったね。私はあなたのお母様ほどうまくはできないかも知れないけど、私には、お母さん同様に甘えていいからね」
と優しい笑顔で言うので、白雪も
「うん。よろしくね。お母さん」
と笑顔で答える。更に
「でもお母さん、凄い美人だね」
と言った。
 
そのしっかりした様子を見て、新王妃は
「この子はただものではないぞ」
と思ったのであった。
 

グネリア役は悪役だし超美女の設定なので制作陣も人選に悩んだのだが、結局、過去にミス・アース日本代表にも選ばれたことのある女優・雨梨美貴子さんが、アクアに次ぐ高額ギャラで引き受けてくれた(実際高額のギャラをもらう価値のある重要な役どころだと思う)。彼女は過去にはサスペンス・ドラマで殺人犯の役をしたこともあり、汚れ役は初めてではない。
 
彼女とアクアが撮影前に顔合わせした時、アクアが「凄い美人!」と思わず言ったので、彼女はマジで気を良くしたようであった。
 
「ボク男の子なのに、雨梨さんを上回る美女と言われる役とかしてもいいのかなあ」
とアクアが不安そうに言うので
 
「あら、アクアちゃんは女の子でしょ?なんか病気で性別が変化してしまったと聞いたけど。男の子がこんな美人の訳が無い」
などと雨梨さんは言っていた。
 
「女の子になったのがもしかしたら不本意なのかも知れないけど、アクアちゃんは充分女の子としてやっていけると思うよ」
 

ここで3歳の白雪は、アクアと雰囲気が似ているということで、劇団桃色鉛筆の白雪めぐみ(4)が起用された。そして5歳の白雪は、そのお兄さん!の白雪やまと(6)が起用された。
 
実は白雪めぐみは神田あきらの妹である。つまり実はアクアの“三従姉妹違い”になるのだが、そういう縁があって採用されたのではなく、全くの偶然である。しかし親戚であれば雰囲気が似ていたのは、偶然似た遺伝子が出現したのだろう。
 
(配役が決められた時点でアクアの父が高岡猛獅であることを、白雪兄妹の祖父・白河夜船は聞いているが、まだ公表はされていない)
 
なお苗字が白雪なのは、全くの偶然である!
 
5歳の白雪には最初、白雪めぐみと似ている子ということで、姉の白雪みずほ(小2)の起用が検討されたのだが、さすがに8歳の子を5歳の役に使うのは無理がある。それで、男の子ではあるが、幼稚園年長さんの白雪大和が起用された。
 
彼女・・・じゃなくて彼が7歳の白雪も合わせて演じている。
 
クレジットとしては、まるで女の子みたいに「白雪やまと」とひらがな書きにした。それより本人は女の子の服を着て演技するのを凄く恥ずかしがっていた。髪はロングのウィッグをつけている。(この子はきっとまた女装させられる)
 
しかし白雪めぐみは、白雪姫と王子のなれそめシーンをしっかり演技したし(声の録音時点で)セリフもとちらなかったので、この子凄いと監督たちも共演者も感心していた。王子役のドイツ人兄弟のほうがとちって録音で5回、演技で3回やり直している(*1).
 
6歳の白雪やまともしっかりした演技で、兄妹に付き添ってきた母・りんごが、「将来が楽しみですね」と言われていた。
 

神田あきら(本名白雪ほのか)の姉妹(以下、数字は“出生年度”)
 
白雪ほのか(2005 高1)“神田あきら”
白雪なぎさ(2007 中2) 信濃町ガールズ関東所属
白雪ひかり(2009 小6) 同上
白雪さくら(2011 小4) 劇団桃色鉛筆所属
白雪みずほ(2013 小2) 同上
白雪大和 (2015 年長) 同上
白雪めぐみ(2017 今年4歳) 同上
 
7人姉妹というと驚かれるが、性別を見ると「なるほど」と言われる。ほのかからみずほまで5人続けて女の子が生まれている。「次は男だろう」と産み続けた結果である。それで6人目でやっと男の子の大和が生まれ、これで打ち止めのつもりだったら、もうひとり女の子・めぐみができてしまったのである。
 
「もう避妊手術しようよ」
「あんたがして」
と言われて、7人姉妹の父(りんごの夫)がパイプカット手術を受けたので、これ以上はもう生まれない(はず)。
 
「睾丸取っちゃってもいいよ」
「やだ」
 
「だけどパイプカットしても精液は出るのね」
「出なくなったら困るよ!」
「何に困るの?別に出なくても構わない気がするけど」
「困るったら困るの!」
 
なお、姉妹の父は普通の会社勤め(母とは高校時代の同級生)だが、母の白雪りんごの(実は仮名での)作曲・編曲での収入が物凄いので、子供が7人いても、経済的には充分な余裕がある。
 
(アイドル歌手“神田いずみ”として売り出し始めて間もなかったりんごは、妊娠によりアイドルの道は断念することになり、作曲家に転じた。現在でも中堅の作曲家として活躍している。妊娠により引退した時は違約金を1億課せられたが、分割で真面目に払っていっていたら2000万まで払った所で残りは免除してもらった。彼女は娘のほのかがアイドルデビューした時点で「娘が忖度されることのないように」と言って作曲家を引退したが、実は“東郷誠一”名義で書き続けているし、イリヤ工房と契約して、若手歌手の歌唱指導などもしている)
 

(*1)コロナのおり、万が一にもクラスターのようなものを発生させないため、この映画は全て演技と声の録音が別録りである。
 
『ロミオとジュリエット』の時は、無言撮影の後で声をアフレコしようとしたら合わなくなったので、今回はその反省から、制作が始まった7/24から8/15までを“声の収録”のために使用した。つまり朗読劇のような作り方をした。
 
基本的には日本語版の台詞で収録しており、8/15以降、ドイツのスタジオで向こうの俳優さんたちにより、ドイツ語の台詞の吹き込みを行った。日本に来ているフライフォーゲルほか数名については、ドイツで代役さんが取り敢えず吹き込んでおき、彼らが撮影を終えてドイツに帰国(して向こうでの隔離期間が終わった)後に差し替える。彼らはこちらでは日本語でセリフを言う。つまり彼らの声は日本語版でもドイツ語版でも本人たちの声が使用されることになった。
 

語り手:王妃は白雪に日々優しく接したので、白雪も王妃になつきました。王妃は「王家の姫君は教養も身につけなければなりません」(ここは王妃の声)と言い、先生を付けて、白雪に、ラテン語、数学、音楽などを習わせました。また王家の者である以上、最低限の武術も身につけておくべきと言って剣や弓矢も習わせました。
 
白雪は歌やリコーダー、チェンバロなどの演奏に天才的な才能を示しました。それでお城でパーティーが行われる時は、幼い白雪が演奏を披露して喝采を浴びたりしていました。
 
パーティーの客は、熊谷市内の大学生20人を募集して参加してもらった。撮影の3日前に郷愁マンションに入れて毎日検温報告・外出禁止の上で撮影している(むろん撮影当日を含めて4日分のギャラを払っている)。
 
チェンバロの演奏を披露したのは、白雪めぐみたちの姉で小学4年生の白雪さくらである。さくらはピアノもエレクトーンも上手いので、チェンバロも一週間練習しただけできれいに弾きこなした。
 
さくらはこの演奏をして、笑顔で挨拶しただけでセリフが無い!
 
演奏した曲目は16世紀スペインの作曲家アントニオ・デ・カベソン(Antonio de Cabezon) の作品 "El Canto del Caballero" ほかである。ルネサンス期の音楽(で現在も譜面などが残っているもの)は教会で演奏するような厳粛な雰囲気の曲が多いが、この人はわりと明るい感じの世俗的な曲を多数書き、その譜面が残っている。
 
この撮影に使用したチェンバロは、埼玉県の楽器工房からサマーガールズ出版が購入したものである。実は『ロミオとジュリエット』を撮影した時にサマーガールズ出版所有のバージナル(ドイツの工房からの輸入品)を貸し出したのだが、バージナルは簡易なチェンバロなので、難しい曲を演奏するには困難がある。そんなことを言っていた時、国内にチェンバロを制作できる工房が存在することをアスカから教えてもらい、問い合わせてみた。
 
すると近代チェンバロだけでなく、古いイタリア様式のチェンバロ、その次の時代のフランドル様式のチェンバロなども制作していることが分かり、たまたま制作してキャンセルになった(今の時代はキャンセルは仕方ないと社長さんも嘆いておられた)フランドル様式の二段鍵盤のチェンバロを(少しだけ調整の上で)300万円で提供してもらえたのである(普通はオーダーしてから半年くらい待つ)。
 
(初期のイタリア様式は底板が厚く横板が薄いので、音がすぐ消える特徴がある。フランドル形式のものは横板を厚く作ってあるので、音が長く響き続ける。またこのフランドル地方で二段鍵盤のチェンバロが生まれた)
 
ローズ+リリーのアルバムで使用するつもりだったのだか、その前にこの映画が急浮上したので貸し出した。私は映画のことは9月になって知ったもので、この時はコスモスが
「最近チェンバロ買ったと言ってたよね。貸して」
というので、コスモスならいいだろうと思って貸したものである。まさか映画に使うとは思いも寄らなかった。
 

語り手:王妃グネリア(雨梨美貴子)は、ぜひ世継ぎを産んで欲しいということで、王妃になったのになかなか子供は生まれませんでした。そのことで陰にひなたに王妃を悪く言う者もありましたが、王は「むしろ私のせいだと思う」と言い、幼い白雪も「お母様を悪く言う人がいたら私がただではおかないから」などと言ってかばってくれていました。
 
語り手:ところで王妃は、若い頃から美人として評判だったのですが、実は魔法の鏡を持っていました。そして毎月1回鏡に問いかけていました。
 
「鏡よ鏡、地上で最も美しい女は誰?」
 
すると鏡は答えます。
「それはグネリア様です。グネリア様が地上で一番美しい女です」
 
ここで鏡の声を演じているのは今井葉月である。彼は録音作業中は鏡の声に専念し、録音作業が終わって演技収録に進んだ所でアクアのボディダブルに徹した。演技収録では鏡の出番が無いので、この組み合わせには無理が無いのである。
 

語り手:鏡の答えはいつも同じで、グネリアはその答えに満足しては、日々の王妃としての仕事に励み、また白雪の養育にも心を配っていました。白雪は13歳くらいになると“半人前”とみなされて、様々な王室の行事にも借り出され、また国内を巡行して国民たちと触れ合うことも出て来ました。
 
ここで白いドレスを着た13歳のアクア!の映像が流れる。実は当時品川ありさ・高崎ひろか・米本愛心たちがうまく本人を乗せてこういう可愛い服を着せて撮影したものが残っていたので、それを利用したのである。このビデオの存在はコスモスが覚えていた。アクア本人は「恥ずかしー」とマジで恥ずかしがっていた。映画公開後このシーンは「ほんとに可愛い」と随分書かれた。
 
語り手:さて、白雪姫の他に国王に子供が生まれないことから、王位に関しては白雪が継いで女王となるか、国王の従弟マラス大公が継ぐかという2つの意見が出ていました。
 
しかし大臣のバウアー(大林亮平)は
「国王の直系がいる限りは、やはり直系が継ぐべきだ。我が国では過去に何度も女王が出たことがある」
 
と言い、確かにその道理が通っているので、その方針で決まります。
 
「白雪殿は女とはいえ、とてもしっかりした性格であられる」
「やはり幼くしてお母上を亡くされたこともあるんでしょうね」
「それはあると思う。だからあの方は5歳で自立なさったんだ」
 
ここで群臣を演じているのは、森原准太・本騨真樹・木取道雄! (元wooden four)
 
語り手:それで白雪が19歳で成人式を迎えるにあたり、あわせて国王の正式の後継者とされる、王太女(Crown Princess / Kronprinzessin) に就任する儀式をおこなうことになりました。
 
ここでやっと“白雪姫”アクアの出番となる。アクアが白い豪華なドレスを着て大きなダイヤモンドのペンダント(本物!ただし宝石店からのレンタル)をつけて儀式に臨んでいる様子が映像として流れる。これは撮影には1時間掛けているが、実際に映画として取り込まれたのは1分ほどである。アクアが女性王族の正装をして儀式に出て、国王・王妃がそれを見て微笑んでいる様子が映っている。
 

語り手:この成人式・王太女就任式の翌月のこと、王妃グネリア(設定33歳)はいつものように、鏡に尋ねました。
 
「鏡よ鏡、地上で最も美しい女は誰?」
 
すると鏡は答えました。
「それは白雪様です。白雪様が地上で一番美しい女です」
 
グネリアは青ざめた。
 
「どうして突然そうなる?先月までお前は私が一番美しいと言っていたではないか」
 
「白雪様の美しさは数年前から、グネリア様の美しさを上回っておりました」
「何だと!?」
 
「しかしグネリア様は“一番美しい女”を尋ねられておりましたが、白雪様はまだ成人しておられない“少女”(girl, Maedchen)でした。しかし成人式をお迎えになり少女ではなく“女”(woman, Frau)になられましたので“一番美しい女”になられました」
 
語り手:グネリアは鏡の詭弁?にイライラして、この鏡を叩き割ってやりたくなりました。しかしこの日から、グネリアは白雪の“優しい母”ではいられなくなってしまったのです。
 

お城のテラスに白雪(アクア)が立って庭を見ている。近くに侍女マリア(坂出モナ)が付いている。むろん侍女は白雪の方を見ている。背後からグネリア(雨梨美貴子)が来る。グネリアは侍女の後方に小さなボールを転がした。
 
音がするので、侍女がそちらを見る。その瞬間、グネリアは白雪の背中を押した!
 
「きゃっ」
と声をあげて白雪が転落する!
 
侍女が慌てて白雪の居た方向に向き直り、テラスの傍に寄って下を見る。
 
地面にぶつかったような音がしない!?
 
王妃がテラスに寄って見ると、下に居たフランク軍曹が白雪を抱きかかえている。軍曹も白雪も青い顔をしている。
 
侍女が「大丈夫ですか?」と声を掛ける。
 
「大丈夫。私うっかりバランスを崩してしまって」
と抱きかかえられている白雪(アクア)は青ざめながらもしっかりした声で答える。
 
「私がそばに居てよかったです。姫様が落ちたのを見て駆け寄って受け止めさせて頂きました」
と軍曹(松田理史)が答え、そっと白雪を地面に降ろす。白雪もしっかりと地面に立った。
 
この場面、松田君は『ロミオとジュリエット』でちゃんと演技ができなかったことで美高さんから随分叱られ、今回は反省文も提出しているので、しっかり私情を殺して演技した(アクアとの関係が安定しているのもあると思う)。
 
「良かったぁ」
と侍女がホッとした様子で胸をなで下ろす。そしてそばにいる王妃に言った。
 
「大変申し訳ありません。私、姫様のすぐそばに付いていたのに」
「いや、そなたのせいではない。今のは誰も間に合わなかった」
と王妃はマリアには非が無いことを明言した。
 
なおこのシーンは、王妃が白雪を押した場面は、テラスの手摺りだけあって、その向こうは50cmほど下がった所に走り高跳びで使うようなしっかりしたクッションが敷いてあるセットを使い、アクアは背中を押されたら自分で前転するような感じで向こうに落下している(アクアは充分運動神経が良いので難なくこれをこなす)。そしてテラスの上と下で会話する場面は実際のお城のセットのテラスと庭で演技している。
 

更に王妃が言葉巧みに白雪を地下室に連れて行き、急に用事を思い出したと言って、王妃だけ外に出た後、その地下室に水が満ちてくるというシーンがある。
 
しかし白雪の不在に気付いた侍女マリアが、他の侍女たちにも言って探し回る。王妃と一緒に地下室に行くのを見たという少年がいたのでその少年と一緒に地下室に向かう。白雪が閉じ込められていることを知り、人を呼びに行くと、フランク軍曹が居たので連れて行く。
 
フランク軍曹が銃(*2)で鍵を破壊して扉を開け、更に水の中に飛び込んで、必死で泳いでいた白雪を救出した。
 
侍女を演じているのは、今川容子、坂田由里、鹿野カリナ、及び信濃町ガールズ関東の選抜メンバーである。少年を演じたのは、劇団桃色鉛筆の望月春奈ちゃん(多分女の子:中性的な雰囲気なので少年役で起用した)である。水は本当に地下室に満たしたが、アクアは水泳が大得意なので溺れる心配は全く無かった。
 
(*2)白雪姫の時代には既にドイツでは火縄銃が使用されていた。火縄銃の発明は15世紀初頭とされている。ちなみに日本(の種子島)に火縄銃が伝来したのは1543年である。
 

「王妃様は姫様の命を狙っています。こないだのテラスから落ちたのもきっと王妃様が突き落としたんですよ。運動神経の良い姫様があんな所でバランスを崩すとは思えません」
と侍女マリア(坂出モナ)は白雪に言った。
 
「父上様に相談して対処してもらいましょう」
とマリアは言うが、
 
「そのようなことを軽々しく言ってはいけません。お母様は私を愛していつも優しくしてくれています」
と白雪(アクア)はたしなめる。
 
語り手:しかしこれ以降、マリアはフランク軍曹の上官に話をつけ、王太女になられた白雪様にはガードが必要であると言って、フランクと、もうひとりグスタフ少尉(岩本卓也)および数人の兵士を交替で、常に白雪のそばに付けておくようにしました。
 
白雪の警備が厳しくなったのを見て、王妃は次こそは確実に仕留めなければと思うのでした。
 
白雪姫の護衛の兵士を演じているのは、ΘΘプロ所属の若手俳優さんたちである。こういう時期なので健康管理がしっかりしてそうなプロダクションから選んでいる。
 

語り手:翌月、就寝中の国王を男が刺そうとしますが、気付いた侍女が悲鳴をあげ、護衛の兵士が男を拘束しました。男はマラス大公に頼まれたと供述しました。マラス大公は自分はそんな男は知らないし、国王暗殺なんてとんでもないと否認します。拘束されそうになりましたが、大公はすばやく自分の領地に逃げ帰り、国境を閉鎖して立て籠もる姿勢を見せたので、国王も当面彼を黙殺することにしました。暗殺未遂犯はその内何かの証人になるかもということで、死刑にはせず、牢獄に入れておきました。しかし1ヶ月もしないうちに自殺してしまいました。
 
国王はマラス大公の王位継承権を取り消す宣言しました。これにより、マラス大公の王子であるルードヴィッヒとレオポルトも王位継承権を失いました。そして白雪に次ぐ第2王位継承権を持つのは実は国王の又従妹であるグネリア王妃になったのですが(グネリア王妃の父は2年前に亡くなっている)、そのことにこの時点で気付いた人はほとんどいませんでした。
 
白雪が王の後継者として立派に成長してきているので、誰も後継者のことを心配していなかったのです。
 
「白雪様は女にしておくのがもったいないほどしっかりしたお方だ」
「白雪様は男王として立って、王妃を娶ってもよいのではないか?」
などという声まであるほどでした。
 
「王妃を娶られた場合、子供はできるのか?」
「白雪様なら、何とかしそうな気がする」
 

語り手:数ヶ月経った時、白雪王太女は国王の名代で、国内第2の町・ボウルを訪問していました。むろんマリアたち侍女10名に、フランクとグスタフをはじめとする白雪姫のガードの兵士たちも付いてきています。
 
市長主催のパーティーが開かれていた時、ひとりの男(アクア!)が駆け込んでくる。
 
「そなたは王妃付きの狩猟長であったな。どうした?」
とマリアが尋ねる。
 
「申し上げます。国王陛下がお倒れあそばされました」
「何ですと!?」
「白雪王太女殿下におかせられましては、至急王宮にお戻りくださいということでございます」
 
「分かった。では馬車を仕立てて」
 
とマリアは言うが、狩猟長のレオンは
 
「失礼ながら、私と一緒に早馬でお戻りになっていただけませんでしょうか。国王陛下は何か王太女殿下にどうしても伝えたいことがあるようなのです」
 
みんなが遺言では?と思う。
 
「分かった。だったら私と・・・」
 
とマリアが見回すとフランクと目が合うので
 
「私とフランクも馬で付き添う。よいな?」
「もちろんでございます」
 

それで、白雪、レオン、マリア、フランクの4人が市庁舎を出る。他の侍女たちは翌朝、グスタフ少尉や兵士たちと一緒に王宮に戻ることになった。
 
フランクが自分の馬を連れてくる。レオンの馬の後ろに白雪が同乗し、フランクの馬の後ろにマリアが同乗する。レオンが馬を出すのでフランクも自分の馬を出す。
 
それで2頭の馬は首都・ホーニッヒに向けて走って行く。
 
ところが次第にフランクの馬は離されていく。
 
「どうした?フランク。距離が空いてるぞ」
「申し訳ありません。向こうの馬は物凄く速いのです」
 
やがてフランクの馬からはレオンと白雪が乗った馬は見えなくなってしまう。
 
「申し訳ありません。見失いました」
「だったら王宮へ。そこへ姫様たちも行くはずだ」
「はい」
 
それでフランクとマリアは首都に向かった。馬を必死で走らせ、到着すると宮殿に駆け込む。
 

たまたま玄関近くにいたバウアー大臣(大林亮平)か驚いて声を掛ける。
 
「お前たち、何の騒ぎだ?」
 
「大臣閣下!陛下のご容態は?」
とマリアが叫ぶように言うが、大臣は
 
「容体とは何のことだ?」
と問う。
 
マリアとフランクは顔を見合わせる。
 
「心配なら面会するとよい」
と言って、大臣が2人を国王の居室に連れて行く。
 

書類を見ていた国王が驚いたようにこちらを見て
 
「何事だ?」
と言う。
 
「陛下!?」
「ご無事で!?」
「倒れられたと聞きましたが」
「私はピンピンしているが」
 
マリアとフランク軍曹はホッとしたら力が抜けてしまい、座り込んだ。
 
「そうだ。白雪王太女殿下はどちらに?」
とフランクが尋ねる。
 
「お前たち一緒ではなかったのか?」
 
マリア(坂出モナ)が青くなって
「やられたかも」
と声を出した。
 

「白雪の身に何かあったのか?」
と国王が立ち上がって訊いた。
 
「王妃様のお使いが見えられて、陛下が倒れられたから至急王宮に戻るようにと言われて、私たちより先にこちらにお着きになったと思っていたのですが、まだご到着なさっていないということは・・・」
 
「グネリア?」
と王が王妃の方を見る。
 
王妃は・・・笑っている!?
 
「お前、白雪に何をした?」
と王が王妃を詰問する。
 
「今頃は狼の餌になったか、熊の餌になったか」
「何だと!?」
 
王が剣を抜く。すると王妃も剣を抜いた。
 

周囲の者たちは固まった。どちらに手を貸していいのか判断がつかないのである。普通に考えれば男と女では勝負にならないだろう。だったら激高している国王を押さえて落ち着かせるべきなのか。あるいは王妃を拘束すべきなのか。
 
それにこういう場面では下手に手助けしようとすると、かえって邪魔になる場合もある。
 
王と王妃は数回剣を交えたが、すぐに王妃の剣が王の身体を貫き、王は倒れた。
 
王妃は冷静に剣を布で拭いて鞘に収める。みんなまさか王が負けるとは思いもよらなかった。
 
「陛下!」
と叫んで、マリアとフランク軍曹が駆け寄った。
 
「絶命しておられる」
とフランクが言い、マリアが
「何てこと!」
と悲鳴のような声をあげる。
 
王妃がバウアーに言った。
 
「大臣よ」
「はい」
「国王はお隠れになった。白雪も亡くなった。だから今日からは私がこの国の女王である」
 
バウアー大臣(大林亮平)は、腕を組んで考えた。
「確かに王位継承権の順序ではそのようになります」
 
マラス大公が王位継承権を剥奪されたので、そういうことになっているのである。
 
フランク軍曹が声をあげる。
「そんなことは認めんぞ。この大逆女め」
と言って剣を抜こうとしたが、マリアが必死になって彼の腕にしがみついた。
 
「フランク殿。短気を起こしてはいけません。こんな所で剣を抜いたら、あなたこそ大逆罪に問われて即死刑にされます」
 
「その2人は拘束しろ」
と王妃が命じる。周囲の兵士たちは顔を見合わせている。
 
大臣が言った。
「女王陛下のご命令である。その2人を拘束せよ」
 
それで兵士たちがマリアとフランク軍曹を拘束した。
「すまんな」
と兵士たちのリーター・ツァイス中佐(柏木義昭)が言ってふたりを取り押さえた。フランクの剣と銃も取り上げる。大臣が
 
「その2人を乱暴に扱ってはいかんぞ」
と言うので、結局2人は適当な部屋に軟禁された。
 
ここで兵士たちを演じているのは、∞∞プロの20代の俳優さんたちである。
 

マリアは軟禁された部屋の入口を守っている兵士に言った。
 
「ボウルからひたすら走ってきたからお腹空いて。申し訳無いけど、何か食べ物をちょうだい」
「分かりました、マリア殿。何か持ってこさせます」
と言って、兵士は若い兵士を使いに行かせて、食事を持ってこさせた。食事を運んで来たのは、料理女のアンナ(直江アキラ)である。兵士が見ているので、アンナは無言で食事のトレイをマリアの前に置いた。
 
「アンナちゃん、ありがとう」
と言って、マリアは彼女と握手した。アンナも微笑む。
 
それで出て行った。
 
この場面、直江アキラは女の子になってしまってから初めての女役である!(でも男の子だった頃も女の子役の方が多かった気もする)
 

厨房に戻ったアンナはそっと手を開いた。小さな紙片がある。
 
「カミルに言ってボウルまで馬を走らせて、グスタフ少尉たちにこちらに戻らずどこかに身を隠すように伝えて」
 
と書かれている。アンナは他の料理係たちに見つからないように密かに厩舎に行くと、馬番のカミル(大山紀之)を掴まえて伝言を頼んだ。
 
「分かりました。行ってきます」
 
それでカミルは早い馬を走らせて、ボウルに行き、このことを伝えた。グスタフたちは驚いたが、マリアの言う通り、王宮には戻らないことにした。しかしボウルに居ては迷惑を掛ける。
 
「ホーフランドに行きましょう」
と侍女のひとりカリナ(鹿野カリナ)が提案する。
 
「それがいい。これはいづれ決戦をすることになる。我々もマラス大公のところに身を寄せよう。しかし白雪殿下は本当にお亡くなりになったのか?」
とグスタフはカミルに訊く。
 
「王妃様はそのようにおっしゃったそうです」
 
「どう思う?」
とグスタフがみんなに訊く。
 
「白雪様は女ではあっても剣や弓も一通りこなします。簡単に殺されるとは思いません」
と侍女ユリア(坂田由里)が言う。
 
「それを信じよう。白雪様が生きておられたら、我々は王妃を倒す大義名分ができる」
 
「白雪様を連れ去った狩猟長ですが、どこの出身でしたっけ?」
「夜の森の出身だ。実際そこに住んでいたはず」
 
「では姫様をそこに連れ去った可能性があります。何人かで探しましょう」
「よし。マルコ、ヨゼフ、そなたたち2人で悪いが姫様を探してくれないか。もしレオンを見つけたら拷問してもよいから吐かせろ」
「分かりました」
 
「でも夜の森は迷路のような森です。知らない人が入るとすぐ底なし沼とかにはまりますよ」
とカミルが言う。
 
「カミル、そなた夜の森の地理が分かるか?」
「それほど詳しい訳では無いけど、危険な所は結構分かると思います」
「だったら悪いが、この2人に付き添って可能な限り、道案内してくれんか」
「やります。どうせ私は王宮に戻ればきっと捕まるし」
「すまんな。危険なことに巻き込んで」
「俺もあんな奴が女王になるなんて許せません。できるだけのことはします」
 
それで、カミル・マルコ・ヨゼフの3人で白雪を探すことにし、他のものはいったんホーフランドに退避することにしたのであった。
 

一方、王妃付き狩猟長レオンの馬に乗って首都ホーニッヒに向かっていたはずの白雪だが、レオンの馬が停止する。
 
「どうした?休憩か?」
「ちょっと降りてください」
「うん?」
 
それで白雪(アクア)は馬から下りる。レオン(アクア!)も降りる。
 
馬から下りた白雪に、レオンは弓矢を向けた。手をいっぱい引く。
 
月明かりの下、白雪は怯えもせずにレオンに言った。
「おぬし、誰に矢を向けているか、分かっておろうな?」
 
「王妃様のご命令により、白雪殿下のお命、頂戴申し上げます」
とレオン。
 
「ほう、そうか。撃てるものなら撃ってみよ」
 

白雪があまりにも堂々としているので、レオンは圧倒される。
結局撃てないまま、座り込んでしまった。
 
白雪はそのままレオンの前に行くと護身用に持っている短剣を抜いて彼の額に当てる。血が出るが、レオンは黙って耐えている。(むろん血は絵具)
 
「再度尋ねる。おぬし、誰に矢を向けたか、分かっておろうな?」
と白雪はレオンに言った。
 
「申し訳ありませんでした。私は大逆罪です。どんな処分でもお受けいたします」
「母上に命じられたのか」
「はい。姫様をひとり連れ出して、森の中で命を奪い、殺した証拠にその心臓を持ち帰れと命じられました」
「ほほお」
「母上様には、そんな恐ろしいこと、どうか考えお直しくださいと申し上げたのですが、言うことを聞かなければ私も家族も命はないぞと言われまして」
 

「そなた家族がいるのか?」
「妹がひとりいます」
「どこに住んでいる?」
「この森の中に家があります」
「そこはすぐ退去した方がいいな」
 
「殿下、私の家族のことまで心配してくださるのですか」
 
白雪はレオンがもう自分に危害を加える気は無くなっていることを確信した。白雪は剣を鞘に収める。レオンは土下座する。
 
「名を名乗れ」
「レオン・イェーガー(Leon Jaeger)でございます」
「面白い。苗字も狩人(Jaeger)なのか」
「祖父が当時の国王陛下、白雪様の祖父陛下から頂いた苗字でございます」
「だったら、お前は私に恩があるな」
「はい。それなのにお命を狙って申し訳ありませんでした」
 
(ここはずっとレオンは土下座したままなので、ボディダブルが使いやすい、と他の出演者には説明しているが、実際にはアクアMとアクアFで撮影している)
 

「私に恩があるのであれば、その命、私に預けよ」
「はい、お預け致します」
 
「そなたに命じる。まずお前の家に行き、そなたの妹君にすぐ逃げるように言え。そしてそなたは何か適当な獣の心臓でも持って王宮に行き、わが母にそれを見せて、私を殺害したと報告しろ。そしてすぐにそこから逃げ出せ。私が死んだと思ったら少しの間でも母は油断するはずだ」
 
「分かりました。すぐそう致します。姫様はどうなさいますか」
「取り敢えずマラス大公のところに身を寄せようと思う」
 
「でしたら、妹に案内させますよ。この森は色々危険な場所があります」
「そうしてもらうと助かるし、妹殿も行き先ができるな。マラス大公の所に着いたら、君と妹殿の身柄は私が保証する。だからそなたも王宮を出たらすぐホーフランドに向かうが良い」
 
「ありがとうございます。それでは失礼ながら、私の家までご案内します」
「頼む」
 

それで2人は再度馬に乗り、しばらく馬を走らせた。
 
「しかしフランクの馬を振りきったようだな。大したもんだ」
「このゴールデナファイル(Goldener Pfeil / Golden Arrow)号はそんじょそこらの馬とは違いますから」
「ほほお」
 
それで2人はレオンの家まで辿り着く。
 
レオンが妹に事情を説明した。妹のマルガレータ(七浜宇菜)は驚く(*3).
 
「なんと。白雪殿下のお命を奪おうとしたとは。何とお詫びしてよいか分かりません。すぐに、兄を処分し、私も責任を取って自死いたします。兄上覚悟なされよ」
と言って、マルガレータは自分の弓を兄に向けるので
 
「待たれよ。そなたたちに今死なれては私は途方にくれる。そなたたち自死するつもりがあるのであれば、その命を私に預けて欲しい」
 
「分かりました。お預けいたします」
とマルガレータも土下座して誓った。
 
(*3) 宇菜は久々の女役と聞いて「私女みたいなことば使えるかな」と不安がっていたが、女狩人と聞いて張り切った。しかし海外では女装男性と思われたようである!イスラム圏で倫理委員会からクレームを付けられたものの、日本側から確かにこの人は女性であるという中映社長名の証明書を出したら、それで納得してくれた!
 

「それで先ほどレオン殿にも言ったように、レオン殿は王宮に行き、私を殺したという偽りの報告をせよ。その間に妹殿には、私をマラス大公がおられるホーフランドまで案内して欲しい。そしてレオンも母上に私を殺したと報告したらすぐ王宮を出て、ホーフランドに来て欲しい。君たち2人は今私の貴重な手駒だ」
 
「分かりました。ではすぐにホーフランドにご案内します。2〜3日で着けると思います。兄上はすぐ王宮に」
 
「うん。猪か何かでも倒してその心臓を持っていかなければ」
「だったら私が今日の午後倒した猪があるから、その心臓を持って行けば良い」
「そうさせてもらう」
 
それで、レオンは家の裏手に置かれていた猪から心臓をえぐり出した。
 
この猪は、最初はそれっぽい造形のものを道具係さんが作るつもりだったが、うまい具合に制作期間中に、県内で猪の捕獲(農作物保護のための檻型の罠にかかったもの)があったという情報があり、その猪を譲ってもらって使用した。このシーンの撮影はその猪の捕獲翌日に行った。レオン役を演じたアクアFはマジで本物の猪の死体(血抜きは済んでいる)から心臓をナイフでえぐり出したので「凄い」と監督にも共演の宇菜にも感心された(*4).
 
(*4) 実は山村(こうちゃん)が事前に別の猪の死体で練習させていた。なおこのシーンはふたりのアクアを使って撮影している。宇菜は“マクラ”の存在を知っているので全く問題無い。
 

それですぐレオンは王宮に戻ることにするが、アクアは彼を呼び止めた。
 
「何か?」
「そなたが無事戻ってこられるように」
と言って、白雪はレオンの額にキスをした。
 
「ありがとうございます。行ってきます」
と言ってレオンが嬉しそうな顔で出て行く。
 
「あの馬鹿兄貴、調子に乗ってやりすぎなければよいが」
とマルガレータが言う。
 
「そなたにも」
「はい」
 
白雪はマルガレータの額にも祝福のキスをした。
 
「ありがとうございます。行きましょう」
とマルガレータも嬉しそうな顔で言った。
 

このシーン、白雪を演じているアクアFは本当にレオンを演じているアクアMとマルガレータを演じている七浜宇菜にキスをしている。宇菜は
 
「アクアちゃんにキスしてもらった」
と後日、自分のプログに書いたが、むろんファンたちはみんな“女の子同士”と思っているので、特に騒がなかった。
 
またレオンとのキスについては、ファンたちは実際にはボディダブルの葉月の額にキスしたのだろうと考えたが、ファンたちはやはり“女の子同士”と思っているので、「まあ額へのキスくらいはいいんじゃない?」とこちらもあまり大きくは騒がなかった。
 

夜間ではあるが、白雪はマルガレータと一緒にホーフランドに向けて出発することにする。ただ白雪はボウル市でパーティーに出ていた所を飛び出してきているので、服もドレスだし、靴も厚底靴(*5)だった。これではとても長時間の歩行は無理である。それでマルガレータは
 
「自分の服で失礼ですが」
 
と言って、白雪に庶民が着るような粗末な服と、森の中で歩きやすい革靴を渡した。それで白雪も(自分で着脱できない服を着ていたのでマルガレータに手伝ってもらって)それに着替え、靴も借りて、一緒に家を出た。
 
レオンは馬を走らせて王宮に戻って女王(になっていたのでびっくりした)に白雪の殺害を報告。心臓を提出した。女王グネリアは大喜びでレオンに褒美の金貨を与え、その心臓は自分で煮て食べてしまった!(ハツか?)
 
レオンはすぐに王宮を出ると、妹たちの後を追いかけた。
 
(*5)パンプスが生まれる前、貴婦人たちは厚底靴を履いていた。そういう靴を履いた主たる理由は、後に生まれたパンプス同様に、床や地面にたくさん落ちている大小便を避けるためである!この時代の西洋には、トイレというものが存在せず、みんなその辺で適当に用を達していた。
 
当時の上流階級の男性はブーツである:民話の“ブーツを履いた猫”で猫がブーツを履くのは上流階級のシンボルだから。“長靴を履いた猫”というのでは意味が伝わらない。女性用のパンプスが生まれたのは17世紀て、白雪姫の時代より少し後である。
 

グネリア女王はその夜はぐっすり寝て、翌朝、起きてからきれいに化粧をした上で、鏡の前に立った。
 
「鏡よ鏡、地上で最も美しい女は誰?」
 
すると鏡は答える。
「それは白雪様です。白雪様が地上で一番美しい女です」
 
女王はぶるぶると震えた。
 
「白雪は死んだのではないのか?」
「生きておられますが」
「どこに居る?」
「今は夜の森で仮眠を取っておられるようですね」
 
「あの狩猟長め、裏切りおったな」
と女王は怒りに満ちた表情をした。
 
語り手:狩猟長の処分も考えなければなりませんが、それよりも白雪が生きているとなると、自分の女王としての正当性が失われます。それどころか自分が王を殺したことを知ったら、白雪はきっと敵討ちをしようとするでしょう。女王は密かに地下室(白雪を閉じ込めた所とは別)に降りると魔法円を描き何か呪文を唱えました。
 
妖獣のようなものが姿を現す。
「我がしもべよ。夜の森にいる白雪を殺してこい」
 
妖獣が走り出して行った。(妖獣はCG)
 

語り手:白雪とマルガレータはある程度狩人の家から離れた所で、木の上に寝床を作りそこで寝ました。明るくなってから、持って来たパンと干し肉を食べ、ワインを飲んで水分を取り、また歩いて行きます。そして起きてから1時間ほどした時、ふたりは川のそばまで来ていました。
 
「何か来る」
とマルガレータが言う。
 
「猪か鹿?」
と白雪が訊く。
 
「もっと大きなものです。でも熊とは違う気がする」
 
やがてそれは明らかに大きな音を立ててこちらに来た。この相手は弓矢では倒しきれない。マルガレータは背中に抱えている銃を取った。火薬と弾丸を詰める。
 
「姫様逃げて」
と言って、マルガレータが白雪を川に突き飛ばす。
「姫様、水に潜ってください!」
と叫びながらマルガレータは銃を構え、火縄に点火する。その妖獣が自分を飛び越えて白雪の方に飛びかかろうとした時、マルガレータの銃が火を吹いた。
 
妖獣の大きな身体がマルガレータに覆い被さり、マルガレータは気を失った。
 

女王はまだ秘密の地下室に居たが、気配で振り返る。妖獣の姿がある。
 
「戻って来たか。首尾は?」
と尋ねたが、妖獣は倒れると消滅してしまった。しかし黒く長い髪が数本あり、血が付いている。
 
「やったのか?相打ちか?」
 
女王は自分のガードに狩猟長を呼びに行かせたものの見つからなかったので逃げたなと判断した。もしかしたらその狩猟長が逆に白雪をガードしていてこの妖獣を倒したのかも知れないと思った。この妖獣を倒したとしたら、相当腕が立つ者である。
 
しかしこの黒く長い髪はきっと白雪のものだろう。狩猟長の髪はこんなに長くない。
 
女王は自分の部屋に戻ると、鏡に尋ねた。
 
「鏡よ鏡、地上で最も美しい女は誰?」
 
「それはグネリア様です。グネリア様が地上で一番美しい女です」
 
「やった!白雪は死んだのだな?」
「この地上にはおられません」
 
それで女王は安心したのであった。
 

「マルガレータ、マルガレータ」
と呼ぶレオン(アクア)の声に、マルガレータ(七浜宇菜)は意識を戻した。
 
「兄上」
と声をあげて、マルガレータは起き上がる。が、まだ立てない。
 
「どうしたのだ?白雪様は?」
「見たこともない大型の獣に襲われて。白雪様は川の中に突き落として水に潜るように言ったんだけど。獣は銃で仕留めたつもり。確かに手応えがあった」
 
「銃を使うほど大きかったのか」
「熊より大きい気がした」
「じゃこの青いのはその獣の血か」
 
青い血の跡が点々と続いている。
 
「仕留めたつもりだったのになあ。まだ動けたのか」
「しかしこれはかなり大量に血が出ている。たぶん助からないと思う」
「でも青いから白雪様の血ではないね」
「うん。それは間違い無い」
「しかし青い血の獣なんて聞いたことないな」
 
「白雪様は川に流されたのかも知れない。川下を探そう。立てるか?」
「うん」
 
それでマルガレータは兄に手を取ってもらってなんと立ち上がった。そして兄の馬に同乗して、川下へと行き白雪の行方を捜す。
 
この森の場面は、郷愁村と郷愁空港の間の実際の森の中に怪しげな木の造り物なども置いて作ったオープンセットである。川は本物の川であるが、業者を入れてかなり徹底的に清掃したので、危険なものは残っていないはずである。撮影の時は上から水を流して増水させている(この川は郷愁村の浄水場に繋がるので増水させても下流で被害などが出る心配は無い)。
 
レオンたちの家や鉱山技師たちの小屋もその森の中に作った。これらは全て、音声の録音をしている最中に準備したものである。
 
なお、アクアも宇菜も元々乗馬はできる(以前の仕事で必要になり習っている)。フランク役の松田理史は乗馬を学びに音声吹き込みの傍ら、乗馬教室に一週間通った!
 

語り手:白雪姫(アクア)は妖獣に襲われた時、マルガレータ(七浜宇菜)に突き飛ばされて川に落ちた後、「水に潜って」と言われてすぐ潜りました。しかし間一髪、鋭い爪のようなもので頭をかすめられ、鋭い痛みが走りました。そしてそのまま気を失って川に流されてしまいます。かなり流されてから意識を戻し、体勢を立て直し、川から出ました。服がずぶ濡れなのでいったん全部脱いで手で絞り、再度着ました。(むろん着替え中は映さない)
 
白雪が歩いて行くと、一軒の山小屋がありました。
 
ドアをノックしますが返事はありません。そっと開けてみると誰も居ませんが、人が住んでいる雰囲気はあります。テーブルの上に放置されている食器が放置されてからまだ数時間しかたってない感じでした。
 
「取り敢えず待とう。そしてここの人が戻ってきたら、ホーフランドへの道を訊こう」
と白雪は独り言を言って、小屋の中で休ませてもらうことにした。
 
白雪が小屋の中で待ったのは服が濡れているので風にさらされる外では寒いからである。
 

しかし疲れていたので、白雪は座ったまま眠ってしまった。
 
「もし」
「もし」
という声で白雪は目を覚ました。
 
「君は誰だね?」
と問われる。7人の男女の顔がある。
 
ここで7人の鉱山技師を演じているのは下記である。
 
鉱山技師:広原大司(日郎)、元原ユミ(月子)、大山弘之(火吉)、斎藤恵梨香(水恵)、弘田ルキア(木蔵)、斎藤良実(金也)、花園裕紀(土雄)
 
ルキアは男装である!
「最近女役ばかりオファーが来て参ってたから、男役でホッとした」
などと言っていた。
「でも性転換手術受けたんでしょ?」
と旧知の広原大司から言われるが
「それも勝手にそんな噂が流れてるから困ってる」
と本人。
 
「ボク、モナと結婚するのに性転換とかするわけないじゃん」
「じゃ睾丸だけ取ったんだ?」
「取ってないよぉ」
 

「それにしても性別の微妙な人が」
などと声があがるので花園裕紀が
「ボクは女装しませんからね」
などと言う。本人としては予防線を張ったつもりだが
「大丈夫だよ、声の録音中は女の子の格好しててもいいよ。誰にも言わないから」
などと言われる。
 
“誰にも言わないから”って素敵な言葉!
 
「僕、スカートは穿きませんからね」
と斎藤良実は言うが
「良実ちゃんのスカート姿、可愛かった」
とみんなから言われていた。
 

さて、映画の方だが、鉱山技師7人に声を掛けられて目を覚ました白雪は
 
「すみません。獣に襲われて川に落ちて流されて。人が住んでおられるようだったので、帰ってこられるまで待って、道をお聞きしようと思ったのですが、服が濡れてて寒いので、勝手に中に入って待たせていただきました」
と答えた。
 
「川に落ちたのか」
「まだ服が濡れてるじゃないか」
「おい、月子、お前の服を貸してやれ」
と女性のメンバーが言われる。
「うん。みんな台所に行ってて」
 
それでメンバー7人の内、男性5人が出ていく。残った女性メンバーの月子(元原ユミ)と水恵(斎藤恵梨香)で、白雪(アクア)の服を脱がせる。そして月子が自分の服をクローゼットから持って来て白雪に着せてあげた。
 
「あんた怪我してる」
「獣に襲われたので」
「そう言ってたね!獣にやられたのなら、そのままにしておいてはいけない。薬草を塗ってあげるよ」
「すみません」
 
それで水恵が、白雪の手と頭の怪我している所をお酒で消毒した上で、薬草を塗ってあげた。手は頭を襲われそうになった時にとっさにかばったのだろう。
 
また自分では気付いていなかったが、足を捻挫していたので、そこには湿布薬を塗ってもらった。
 

着替え終わったので、男性メンバー5人も戻ってくる。
 
「だけど、あんた道を聞くって、どこに行くつもりだったの?」
「ホーフランドに行きたいのですが」
「それはまた遠くまで、あんた1人で?」
「連れがいたのですが、獣に襲われた時にはぐれてしまって」
「連れってどういう人?」
「この森で狩人をしているイェーガーさんと言うのですが」
「ああ、あいつらなら知ってる。兄貴の方?妹の方?」
「妹さんです」
 
「だったら大丈夫だよ。あいつ兄貴より強いから」
「そんな気はしました!」
 
「じゃあいつらの家まで送ってこうか」
「それがそこは危険になっていて」
「なんでまた?」
 

それで白雪は鉱山技師たちに事情を話した。
 
「あんた白雪王太女様だったの!?」
と日郎。
「すみません。こんな汚い小屋で」
と土雄。
 
「いえ。とても助かりました。長居したら、あなた方にもご迷惑を掛けます。でも一晩だけ泊めていただけませんか?明日の朝にはホーフランドに向けて出発しますので」
と白雪は言った。
 
鉱山技師たちが考えている。
 
「あんた捻挫してるのに動いたらダメだよ。こんな所まで女王の追っ手もこないだろう。その足が治るまでここに居なさい。その間にもしかしたらイェーガーたちもここに辿り着くかも知れないし。きっと向こうはあんたを探している」
 
とリーダー格っぽい日郎(広原大司)が言った。他のメンバーも頷いている。
 
「女王?」
と白雪が尋ねる。
 
「ああ、あんたまだ知らなかったか。国王がお亡くなりになって、王妃が女王になると宣言した」
 
「そんな・・・」
と白雪はショックを受ける。
 
「まあ王妃に殺されたんだろうな」
 
「王宮の発表では白雪王太女殿下もお亡くなりになったということだった。発表では伝染病を匂わせていたが、あんたの話も訊くと、きっと国王陛下も欺されて殺されたんだと思う」
 
「そんなことする人だったなんて・・・」
 
「確かにあんたはホーフランドに逃げた方がいいと思う。でもその身体で無理してはいけない。取り敢えず一週間くらいここに居なさい」
 
「済みません。ご迷惑おかけします」
 
それで鉱山技師たちはほんの1時間ほどで、月子・水恵が寝ている“女部屋”にベッドを1個作ってくれたので、白雪はそこで休むことにした。
 
 
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【白雪物語2021】(1)