【ジョイの診察室・父子家庭】(1)
カインドリー・ジョイはその日最初の患者を診察室に入れた。
30歳くらいの男性である。
「どうなさいました?」
「6年ほど前に結婚しまして、1年ほどで息子を授かりました。ところが妻は息子が生まれて半年も経たない内に亡くなってしまったのです」
「それはお気の毒でした」
「その後、私は息子を男手ひとつで育てています。今は幼稚園に行っているのですが、最近息子が言うんです。参観日などに他の子はみなお母さんが来るのにうちはお父さんしか来てくれないと。息子がよく「お母さんが欲しいよ」と言って泣いたりもします。しかしわたしは再婚するつもりはないですし、どうしてあげたら良いのでしょう」
「そうですね。再婚の意思がないのであれば、いっそあなたがお母さんになってあげたら、いかがでしょう?」
「え?でも私男ですが」
「別に肉体上の性別は関係無いと思いますよ。『じゃお父さんは今日からおまえのお母さんになるよ』と宣言して、家の中ではスカートを履いて女言葉を使って暮らしてみましょう」
「なるほど。息子のためならスカート穿くくらい平気ですよ」
「もちろん、スカートを履くのですから、スネ毛はちゃんと処理してください。またヒゲなどがあったら変ですから、きれいに抜いてしまいましょう。そのうちレーザー脱毛などでもう生えてこないようにすればあなたも髭剃りから永久に解放されてとても楽になるでしょう」
「ああ、髭剃りをしなくてもいいのは楽かも」
「もちろん参観日にはその格好で行きますから、次の参観日までに外に出てもおかしくないようにお化粧の練習を頑張ってしてくださいね」
「分かりました。頑張ります」
【ジョイの診察室・父子家庭】(1)