【春二】(2)

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さて、アクアのほうは、8月31日にネットライブをした後、
 
「アクアさん、待ってましたよ」
と言われて、関西に振袖CMの撮影に行った。一昨年・昨年とCM撮影した呉服屋さんである。
 
「私もう成人式すぎたのに」
「では20歳のタレントさんと一緒に」
 
と言われて下記のメンツを31日の夕方、千里のG450で神戸空港に運んだ。(アクアたちは別便ということにして実は転送した。他に葉月は先週の内に現地入りしている)
 
原町カペラ・木下宏紀・南田容子・三田雪代・安原祥子・立花紀子・神谷祐子・竹原比奈子
 
「え?振袖の撮影なの?」
と詳しい話を聞かされないまま飛行機に乗せられた木下宏紀が驚いて言う。
 
「じゃ僕はアクアの弟か何かの役で」
「いや振袖を着てもらおう」
というので、しっかり豪華振袖を着せられることになる。
 
(木下君は成人式でも振袖着ていいと思うよ:親や姉は当然振袖と思っている)
 
ということで呉服屋さんから多数の振袖を渡されてみんな思い思いの振袖を着せてもらっていた。木下君も他の子と一緒に着付けしてもらったが、彼は女子と一緒に着替えても全然問題無い。着付けしてくれた人も彼が女の子でないことには気付かなかったようであった。
 
なお葉月とカペラは特別な振袖を着る。アクアは超特別な振袖を着る。
 

最初は♪♪ハウス所属の神谷・竹原(いづれもFlower Sunshine)は入ってなかったのだが、立花紀子が「もしよかったらこの子たちも入れてください」と頼んだので、クライアントも「うん、おいでおいで」と言い一緒に呼んでもらった。
 
おかげで、この2人は自分ではとても買えないような豪華な振袖を着ることが出来た。
 
「これ成人式本番の時にレンタルとかできませんよね?」
「ああ、お安くお貸ししますよ」
ということで、格安でレンタルすることができた。しかも半分は紀子が出してあげたので本人たちは普通の振袖レンタル程度の出費で豪華な京友禅の振袖を借りることができることになった。
 

今回の撮影は、一応先週のうちに、今井葉月(20)・中村昭恵(18)・太田芳絵(19)の“女優組”3人を使って既にロケハンしている。葉月はロケハンの上で本番にも参加することになった。でもこれはいつものことである。
 
さて昨年・一昨年が暑い中の撮影できつかったという声があったので、今年は冷房の入っている屋内で撮影が行われた。
 
しかし振袖の最初の着付けには1時間、交換にまた1時間掛かるので、撮影はなかなか大変である。着替えてる時間が撮影している時間より長い!
 
初日9月1日(木)は、まず午前中、この呉服屋さんの京都本店に行き、そこのVIPルームでお茶会でもしているかのような感じの絵を撮る。
 
ただし実際には茶碗にお茶は入れていない。高価な着物だけに万一こぼしたりしたら大変である。ここでは亭主役は立花紀子(*19)が務め、アクアの隣は今井葉月、原町カペラであった。またコロナの折、全員別の茶碗を使用している。各々の茶碗(唐津焼き:値段は知らない方がいい)に名前を書き、その名前(*20) も一緒に映されている。
 
上品な懐石料理(*21) を頂いた後、午後は京都現代アート・ミュージアムで2時間ほど撮影した。シュールな絵や彫刻、またインスタレーションの中で伝統的な和服を着るのは結構いい絵になった。(使用した振袖は全て本式の京友禅)
 
軽食にお好み焼きを食べてから(もちろん普段着で食べている)、夕方からは大阪市立・住まいのミュージアム(別名:大阪くらしの今昔館)に閉館後お邪魔し、江戸時代の町並みで多数の映像を撮影した。
 
しかし木下君は女子たちの中に完全に埋没していた。
 

(*19) 立花紀子はお茶を習っているので動作が様になっていた。
 
(*20) 名前は千里が書いた。下手な字で書かれたものを映したくないからである。撮影後、茶碗は全員記念にもらった。オークションなどへの流出防止で名前を直書きすることにした。神谷と竹原は「すごーい、鴨乃清見先生の直筆!家宝にしなきゃ」などと言っていた。
 
茶道の茶碗は、1楽2萩3唐津といわれ、この3種類がよいとされる。しかし楽焼きは黒くて名前を書きにくく、萩焼は中に入れた液体が染み出す特性があり初心者には使いにくいので、唐津焼を選択した。1個1万円ほどの品で、呉服屋さん側から提供された。CMの制作予算の一部。コロナの折なので紛れないように記名した上で再利用はしないことにして結果的に参加者がもらえることになった。
 
(*21) 懐石料理を食べた“後”お腹が空いたぁ!という声多数、それでおやつにお好み焼きを食べた。
 
『懐石料理』というのは、お腹が空くのを、暖めた石を懐に入れて我慢するという“我慢の美学”なので、お腹がいっぱいになるのは本物の懐石料理ではない。
 
でも高い!!
 

§§ミュージック音楽教室の姫路分室で1泊する。
 
“うちわ”の場所なので夕食の焼肉も思いっきり食べられたし、お部屋の外に出るのにお化粧しなくて済むからほんとにリラックスして休めたという声多数。ホテルなどに泊まった場合、アクアだけでなくガールズたちも盗撮の危険を常に意識する必要があり“変な格好”はできない。
 
リラックスしすぎて下着姿で出歩いていた子はさすがに高村マネージャーに叱られていた。
 

翌日(9/2)の午前中は分室内に作られた神社のセット(?)で撮影する。本職の女性神職さんがお祓いしてくれた。そして分室内でお昼に猪カツ!(*22) を食べる。
 
(*22) アクアや葉月は、九重たちのおかげで猪肉はたくさん食べている。また立花紀子はグルメ番組で実に様々なものを食べていて猪も食べたことがある。
 
しかし猪と聞いて中には食べる前に顔を見合わせていた子も居た。アクアや紀子たちが美味しそうに食べていたのでおそるおそる食べて見て「あ、行ける」と思ったようである。最終的にはみんな美味しい美味しいと言って食べていた。
 

午後は姫路市内のイーグレット美術館にお邪魔した。ここを今日の午後は貸し切りにしている。
 
「あ、西村南風さんの彫刻だ」
とアクアが言うと
「よくご存じですねぇ!」
と御主人が感心している。
 
アクアが高村マネージャーの顔を見ると頷いているのでアクアは言った。
 
「実は西村南風さんの作品を大量に並べた西宮市の“彫刻の森”で写真集を撮影してきたんですよ」
「そうだったんですか!いや私も4日の開園式には出席します」
と館長さん。
「そのオープン前にお邪魔しました」
と言ってアクアはみんなに説明する。
「西村南風さんの彫刻を108点並べた野外美術館が明後日4日にリニューアル・オープンするんだよ」
 
「へー。108って凄いですね」
 

こちらの美術館エントランスにも、西村南風さんの彫刻が12体並んでいる。
 
アクアたちはこの西村南風作の彫像の前、そしてこの美術館に納められた多数の彫像、木彫り人形、陶磁器、などの前で映像を撮影した。招き猫などの常滑焼きも多数展示されている。
 
他に東北地方の様々なコケシ(鳴子・遠刈田・作並・弥治郎・肘折(ひじおり)など)、神戸人形、姫路独楽、佐世保独楽、福岡・太宰府天満宮の木彫りの鷽(うそ)、東京・亀戸天神社の木彫りの鷽、など。
 
北海道の“鮭を咥えた熊”の木彫り、網走刑務所謹製ニポポ人形、なども並んでいる。木彫りの熊は50年ほど前の北海道観光ブームの時にお土産用に作られ人気になったものだが、最近はあまり生産されていないので、ガールズたちの中では知らない子が多かった。木下君と立花紀子だけが「見たことある」と言った。アクアと葉月は制作した職人さん自身!から頂いたものを所有している。
 

撮影は16時で終了し、大宮万葉(青葉)の結婚祝賀会に参加する人は姫路分室からあけぼのテレビを見ていたようである。お料理はここに配送してもらっていた。
 
この祝賀会では、アクアと常滑舞音も余興で演奏しているが、ふたりとも伴奏はマイナスワン音源を使用した。バックバンドのメンバーは物凄く多忙なので、このような私事にまで動員してはいけないとどちらも考えていた。
 
しかしお陰で木下君は9月2日が空いていたので振袖CMの撮影に動員された!
 

9月3日から10日までアクアはレギュラーのCM撮影を20本くらいこなした。もはや何の撮影しているのか自分で分からなくなるくらいこなした。ここ半年くらいどうしても時間が取れなかったので、松梨詩恩・羽鳥セシル・水森ビーナ・白鳥リズム・町田朱美・姫路スピカなどが代替してくれていたものに復帰である。
 
(万が一にも疲れたような表情で映ってはいけないのでMF交替で出演した)(*24)
 
CMの歌も何本か録ったような気もするが、ほぼ初見で歌ったので、録音したら即忘れている。これはだいたい8小節程度の短い曲が多い。
 
(*24) アクアたち自身も気付かないうちに代理の“カブちゃん”も混ぜて2人を休ませている。このあたりの操作は和城理紗がしている。
 

明確な記憶が残ったのは太陽光パネル(アマテラス)とアクアのアクアくらいである。太陽光パネルはMが撮った。これは信濃町ガールズ10人くらいとの撮影で、富山県の大宮万葉の自宅までDo228で往復して来た。結婚したばかりの大宮先生も出て来てくれて全員とエア握手してくれた。Do228なので、調布飛行場から氷見飛行場までの往復で済み、あまり時間が掛からなかった。アクアはすぐ帰京したが、ガールズたちは翌日の帰還となった。
 
アクアのアクアの方はFが出演した。これは富士スピードウェイでの撮影となった。国際C級ライセンスも持っている醍醐春海が運転する同型車(リミッターが解除されている)の助手席に乗って 200km/hの世界を体験したが、醍醐春海の運転はこの速度が出ていても凄く安心感があった。この部分ではアクアはレーシング・スーツを着ている。(アクア自身も一応国内A級ライセンスは取っている)
 
この日の午後からはローカルな町道?を30km/h で走って御殿場の小さなスーパーの駐車場に入る所、駐車場にアクアのアクアが駐まってアクアが傍に立っているところを撮影した。この部分ではアクアはオレンジ色のワンピース(サンローラン)である。アクアが自分で運転している。
 
この急・緩の対比が今回のテーマだった。
 
CM撮影はこのスーパーの許可を取って撮影しているが、このあと“聖地巡礼”に訪れる人が増えて、オンエア後ここのスーパーの売上が倍になって年末年始は臨時バイトを雇ったらしい!
 

ところでアクアMの身体であるが、8月24日に「水着撮影するから」というので勝手に女の子に性転換させられてしまったのだが、25日の夜アクアMが千里に電話して「これ困るから男の子に戻してください」と言ったら、「いいよー」ということで、すぐ来てくれてコテージのベッドで再度性転換を掛けてくれた。
 
「せっかく素敵なおっぱいができきたのに男みたいな胸に戻っていいの?」
「おっぱいが大きいのは困ります」
「せっかく邪魔なちんちん無くなったのにまた生えてきていいの?」
「ちんちん無いと困ります」
 
「無くてもいいよねー」
「そんなのあったら邪魔なだけですよねー」
と千里とFの間では意見一致するがMは、ちんちんが是非欲しいと言う。
 
「じゃ男の娘にしちゃうよ」
「お願いします」
 
それで再度意志を確認してから千里が性転換を掛けるとMは眠ってしまった。
 
(男に変えるのは何度も意思を確認する。女に変えるのは本人の意思は無視して強引に変えちゃう)
 

「でも翌日に性別を戻せるんですね。西湖ちゃんはいったん女の子にされた後、男の子に戻すには1年待たないといけないと言われたというのに」
とFが訊いた。
 
「それは使ってる術が違うからだね」
「え〜〜!?」
 
「千里たちの中で、2番・3番は“羽衣・瞬嶽式・チンターマニチャクラ逆転の法”(*25)を使っている。これは性別を変えるのと同時に年齢を若返らせる。成長期の人に使うと身体も縮む。どちらかというと若返りがメイン。性別が変わるのは副作用。そして1度掛けると1年間は掛けられない」
 
「これに対して1番が使ってるのは“子牙・虚空式・リンガチャクラ回転の法”。これは若返り効果が無い。そして使用制限も無い。また性別円盤(リンガチャクラ)を任意の角度で停められる。しかしこの術は人に教えることができない」
 
(*25) “チンターマニチャクラ”は日本語では通常“如意輪”と訳される。如意輪観音の如意輪である。ただし“チンターマニチャクラ逆転の法”も“リンガチャクラ回転の法”も実は千里が今適当に今思いついたことばである!次に訊かれたらきっと別の言葉を言う。
 
また羽衣はこの法を途中で停められるので結果的に性別軸を任意の角度にできる。
 
でも1年間変更できない!(それで千里1に助けてもらった)
 
なお1番は両方の術を使い分けているもよう。意識して掛けているのは瞬嶽式だが、本人も気付かないうちに!掛けてしまうのは子牙式である。
 

「教えられないならどうやって覚えたんです?」
 
「内緒。性別を変える術には実は他にも、千里B(*26) が使っている方法、千里Aurumが使っている方法があるけど、全部別の方法みたい。詳細は不明」
 
「うーん・・・(千里さんは何人居るんだ?と思っている)」
 
「龍ちゃんが赤ちゃんの時に出会ったのは千里3(本当は千里Y)で、小学1年の時に出会ったのは千里2だよ」
 
「へー!!」
 
(「赤ちゃんの時に出会ってたのか」と思ってる)(*27)
 
「西湖が男性器を奪われるのを防ぐためにいったん女性に変えたのは3番。チンターマニチャクラ逆転の法を使っているから、1年間次の術は掛けられなかった」
 
Fはしばらく考えて言った。
 
「今ここにいる千里さんは6番さんですよね」
「内緒。私明日の夜も再度来るから」
「分かりました」
 

(*26) ここで言う“千里B”はBlueの意味では無くABCDEのB。千里の代理人である。
 
A=千里1,B=貴人、C=青龍、D=天后、E=朱雀、F=勾陳。
 
なお勝手に千里の振りをして暗躍?している“偽千里”として下記が居る。
 
千里X=虚空、千里Z=円。
 
(*27) 2003.12.26に松戸市のコンビニで遭遇した。龍虎が泣いていたので千里は彼の頭を撫でて「お化けが来たらお姉ちゃんがやっつけてあげるから」と約束した。その約束通り、翌日朝、龍虎を殺しに来た生霊(いきりょう)を千里が倒した。
 

翌日の朝、Mが寝ている内にFはMのベッドを襲撃?してMのお股を見てみた。
 
「へー。完全な男性にしたのか。ちんちんもタマタマもあるし、ヴゥギナは無い。これおしっこはどこから出るんだろう」
 
と呟きながらペニスを握ると往復運動する。
 
ちゃんと立つ!
 
しかしさすがにMは起きた!
 
「こら何してる?」
「遊んでただけ」
「そういうのは理史君にしてやれよ」
「自分の身体なんだからいいじゃん」
「それ人が聞いたら絶対誤解する」
 
「これ立つし、ぼくとセックスしない?」
「そんなことして万一妊娠したらどうすんだよ?」
「コンちゃん付けてたら大丈夫だよ」
「それにしても浮気!」
「自分とセックスするのはオナニーの一種だと思うけどなあ」
「その考えかた絶対おかしい」
 

そんなことを言っていた時、桜井さんから電話が掛かって来たのである。
 
「ねぇ、龍ちゃん。私たち長い付き合いなんだからさ、もう欺しっこは無しにしようよ。龍ちゃんの性別について本当のこと教えて」
 
電話を受けたFはMと顔を見合わせる。Mは頷いた。
 
「でしたらこちらのコテージにいらっしゃいませんか?」
「うん」
 

ノックがあるのでカメラで確認してから中に入れる。
 
「やはり双子だったのね」
と桜井さんはアクアFとアクアMが並んでいるのを見て言ったが、アクアたちは
「違います」
と言い、
「私たちは“同一人物”なんです」
と主張する。
 
それで双方アルコール検知器で0mg/Lの状態でFがチューハイ(自分がCMしてる製品!)を飲むと、FだけでなくMもアルコール度数が出るのを見せる。またMだけに見せた単語をFが答えるなどの実演もしてみせる。
 
「私たちが同一人物というのは分かりました?」
「それで片方と撮影した時のポーズを他方も覚えていたのか」
「台本を覚える時は2つに分けて半分ずつ覚えるんですよ」
「便利だね」
「でも、片方が電車を降りるともう片方もつられて電車を降りたりするんです」
「不便だね!」
 
「それで結局女の子と男の子なんだよね?」
「桜井さんだからお見せしますよ」
と言って2人は服を脱いで裸を見せた。
 

「すごいね。バストとお股の形以外は完全に同じ体型だ」
「お酒の実験でもお見せしたように私たち体液が共通なんです。だからホルモン状態が同じなので体型も同じになっちゃうようです」
「なるほどー」
「私だけバストが発達するのはきっと女性ホルモンのレセプターの問題です」
「ああ」
 
実際にはMのバストも膨らむのだが、しばしば誰かに元に戻してもらっている。
 
「でも確認させて」
と言って桜井さんはMのペニスを刺激してそれが立つことを確認していた!
 
「うん、これは本物だ」
などと言っている。
 
更に桜井さんはFのバストをくすぐって!本物であることを確かめた。
 
「だから私たちバストの分だけFの方が体重があるんですよ」
「確かにペニスと睾丸はバストより遙かに軽い」
 
「でもFちゃんのほうが僅かに背が高いね」
「Mが高い日もあります。でもふたりの身長差は朝と夕の身長差の範囲より小さいです」
「それでは服着たら見分け付かない」
 
2人は服を着た。
 

「今Mちゃんが女の子の服、Fちゃんが男の子の服着た」
「さすが写真家の観察眼ですね〜」
 
「でもあなたたち、最初から2人なの?」
「私たちは2017年4月に唐突に3人に分かれました」
「じゃ5年前からか・・・3人!?」
「2017年にM.F.Nの3人に分かれたんですが、2020年1月にNが消えてM,Fの2人になりました。その後Nは時々出て来ていたのですが、半年ほどで全く出てこなくなりました。だから次に消えるのは私だと思って、私が存在した証(あかし)に室田先生にヌード写真を撮って頂いたんです」
 
「やはりあの時、ヌードも撮ったのか」
 
「これ一部コピーしました。コスモス社長の許可も得ましたから桜井先生にも1個進呈します」
と言ってUSBメモリを渡す。
 
桜井がアクアのパソコンを借りて見てみる。
 
「おぉ!すごい!」
と桜井さんは興奮している。
「さすが室田さんだね。これ女の写真家には撮れないよ。この写真集発表したらきっと100万部出るよ」
「でもその後は一切写真集は売れなくなります」
「あっそうか」
「だからこれは永遠に非公開です」
「なるほどー。もったいないけど」
 

「この写真撮った時は私もいづれ消えるだろうと思ってたんですけどね」
「実際2020年の11月から2021年のお正月くらいに掛けて1人になったり2人になったりを繰り返していたんです」
「うーん・・・」
「1人になる時は私が残ったりMが残ったり不安定でした」
「あぁ」
 
「でも2021年1月下旬くらいからは安定して2人のままです」
「でもいつ1人になっちゃうか分かりません」
「うむむ」
 
「私たちが2人であることを公開できないのは、だからなんです」
「へ?」
「つまり2人だったはずなのに1人だけになったら、片方は殺されたのでは?と世間の人は思います」
「ああ」
「そうなったら警察に取り調べされたりして大変なことになります。人間が分裂したり統合されたりとか誰も信じてくれませんよ」
「私今でも信じがたいんだけど」
 
「だからアクアが2人いるということは絶対に公開できないんですよ」
「実際、2年前に3人から2人になっちゃいましたからね」
「うーーん」
 
「だから他の人が誰も居ない状態なら、2人で写真撮ってもいいですよ。§§ミュージックのスタッフも、そちらの助手の方もいない状態なら」
「それでいいから撮らせて!」
 

それでアクアたちと桜井さんは、葉月・千里とアクアの個人秘書である竜崎由結・和城理紗だけを助手に使って「希望」の像のところの写真を撮った。実はこれが写真集の表紙に使用された。そのほか30点ほど(600枚くらい)の写真を撮った。この撮影には§§ミュージックのスタッフも桜井さんの助手も関わっていない。花ちゃんは昨日ガールズたちと一緒に帰っている。
 
「あなたたちFちゃんが男装してMちゃんが女装すること多いの?」
「Fの女装とMの男装では雰囲気が違いすぎるんですよ」
「なるほどー」
「Fはどうしても表情が女っぽくて、Mは男っぽくなります。だからFが男装してMが女装したほうがどちらも中性的になるんです」
「なるほどー」
「それもここ1〜2年が限度だろうというのが醍醐先生のご意見です」
 
桜井さんは考えていた。
 
「私もそんな気がするよ」
と桜井さんは言った。
 

この“秘密の撮影”は15時頃終了した。それで Honda-JetRedで神戸空港から仙台空港に移動する。クレールの社員寮4号館で休む。
 
と千里が出てくる。
「みちおちゃーん、男の子の身体は不快だよね。少し調整してあげるね」
「何を調整するんですか〜?」
「まず睾丸を除去する」
「取っちゃうんですか?」
「だって付けてたら声変わりしちゃう」
「ああ、それは困りますよね」
とFが言っている。
 
「国民の総意によりアクアに睾丸はあってはならないことになっている」
「国民の総意なの〜?」
 
「それとヴァギナも造ってあげるね」
「え〜!?」
と嫌そう。
 
「だって膣が無いと彩佳ちゃんが困るよ」
「うーん。膣があると半分女みたいで」
「ちんちんがあれば男だよ」
とFは言う。
 
「ちんちんのサイズは0.5cmくらいでいいかな」
「それではクリトリスです!おしっこもしにくいし」
「大丈夫。おしっこは女の子と同じ位置から出るようにするから」
「そんなぁ」
 
でも千里は構わずMにタッチすると出て行ってしまった。
 

翌朝またFが寝ているMのおまたを確認している。
 
「ほぼ女の子の形だなあ。これ女湯に入れるのでは?」
などと言ってクリトリスを刺激する。
 
(バストが無いから女湯は無理だと思う)
 
FがMのクリトリスを刺激していたら、クリトリスが伸びてくる。
 
「おっこれ凄い」
などといってたところでMが目を覚ます。
「何してんだよ!」
 
「自分の身体なんだから触ってもいいじゃん。みちおもぼくの女性器好きにしていいからね」
「触らない」
「フィニッシュまでしたら?ぼく見ててあげるから」
「見るなよ」
「見られてたほうが興奮しない?」
「いや、トイレでしてくる」
 
「ぼくのヴァギナに入れてもいいよ」
「入(い)れない」
「あるいは自分のヴァギナに入れてみるとか」
「物理的に無理〜」(*28)
 
それでMはトイレでそのペニクリ?の性能を確認してきたようだった。Mの表情から、ちゃんと射精できたようだなとFは思った。わりと早く出てきたので、どうも昨年秋にMのペニスが実質消滅する以前より性能は改善しているようである。但し睾丸が無いから彩佳を妊娠させることはない(はず)。
 
(*28) 1960年代頃?完全両性体の人が話題になり、彼(彼女)は「そのペニスをそのヴァギナに入れてみたいと思うことは無いですか?」と訊かれていたが「結果が怖いのでしません」と言っていたらしい。しかし物理的に無理な気がする。自分のペニスを自分のヴァギナに入れるにはかなり曲げる必要があるが勃起した状態ではそんなに曲がらない。
 

Mはバストも消失していた。ちなみにアクアMの骨格はFと同形なので完全に女子の骨格である。1万年後に化石で発見されたら「ホモサピエンスのメスの骨格」と判断されるのは間違い無い。きっと赤ちゃんも産める。もし子宮があったら!
 
それで8月27,30日のライブはいつものように前半をMが白いドレスで歌い、後半はFがメンズスーツで歌った。
 
「女装するなら、バストはあったほうがいいだろうに」
「やだ」
「だって偽乳を着けてたら蒸れない?リアルおっぱいを大きくしようよ」
「ブレストフォームで充分」
 

でも彩佳からは
「あれ〜?このクリトリス、まるでペニスみたいに大きくなる。千里さんからは『みちおちゃんは完全な女の子に変えたからよろしく』と言われたのに」
 
「男の子に戻してもらった。睾丸は無いけど」
「セックスにはヴァギナしか使わないんだからペニスなんて要らないのに」
「ぼくも入れたい」
「じゃジャンケン」
 
それでじゃんけんすると彩佳が勝った。
 
「じゃ今夜も龍が女の子役ね」
「えーん」
「寝てていいからね」
 
龍虎は、ペニスを“生殺し”状態にされた上で、ヴァギナにインサートされ、彩佳が出し入れしている最中に眠ってしまった!実は3月頃からずっと性交中に眠ってしまう状態が続いている。
 

ところで吉田邦生は、この春に投資課に配属変えになったのだが、最初は投資のことが全然分からなかった。セミナーに出たりしていたが、千里さんが
「投資のゲームがあるからやってみない?」
と言ってゲームのURLを渡してid/passwordを教えてくれた。それで彼はそれをやってみることにした。
 
ゲームの初期状態では口座に1000万円があり、これを株式・FX・仮想通貨などに投資して増やして行くというゲームである。資金がゼロになったらゲーム・オーバー。実際には10万円未満になったら投資先がほぼ無くなり、ゲームの続けようが無くなると思った。
 
始めてすぐの頃にFXでロスカットされて10万円(レバレッジに25倍も掛けたので250万円の投資)を失う目に遭う。この時邦生はロスカットという仕組みを理解していなかった。レバレッジが大きすぎたことから相場の僅かな変動でロスカットが作動してしまったのである。
 
「うっそー!?相場はすぐ戻したのに」
と言ってもムダ。僅かでも一瞬でも限度額を越えたらロスカットは実行される。
 
「でも10万円で良かったぁ」
と邦生は思った。
 
「それとゲームで良かったよ」
とも思う。
 
リアルで10万円失ったら真珠から叱られるよ。
 

しかし邦生はそういう痛い目にも遭いながらも少しずつ主として株式で資産を増やして行った。
 
「FXはやはり専業の人向きだな。常時相場に貼り付いていられない一般人は株式がいちばん安全な気がする」
と邦生は思いながらも、ゲームの目的は様々な投資を知ることだからというので、FXや仮想通貨も少額ながら継続した。6月には仮想通貨で1000ドル(約13.5万円)分の仮想通貨が40倍の約4万ドル(540万円)になるという思わぬ出来事があり一瞬
「1万ドル(135万円)買ってたら40万ドル(5400万円)になってたのに」
と思ったが
「まぐれまぐれ」
と考えて、すぐドルのリアル通貨に戻し、それ以上高額の投資はしないように自分を戒めた。
 
実際相場はその後50倍くらいまで上がったものの急落してほぼ無価値になった。あそこでやめといて良かったぁと思った。
 
(投資の格言「まだはもうなり、もうはまだなり」欲の強い人は相場に向かない)
 
そんな感じで1000万円から始めた投資“ゲーム”の口座残高は8月時点で5000万円と5倍になっていた(間違い無くビギナーズラック)。
 

真珠は何通か、未開封の封筒が散らばっていることに気付いた。
 
「くーにん、これ何?」
「ああ。投資ゲームの配当金」
「配当金?」
「4月から千里さんに勧められて投資の練習で投資ゲームしてるから、それの配当金領収証が送られてきてるんだよ。ゲームなのにこんなのまでわざわざ送ってくるって凄い凝ってるよな」
 
「・・・・ねぇ、これ郵便局で交換してと書いてあるけど、ほんとに郵便局に持って行ったら現金と交換できたりしない?」
 
「まさか。何千円とかじゃなくてゲーム内のお金で何千ゴールドとかになるのでは」
「てもこれ凄くリアルっぽいよ」
「え〜〜!?」
 
邦生はてっきりゲームの中のものと思っていたので、まじめに見ていなかったのだが、真珠に言われてよくよく見てみると本当に本物っぽい。
 

邦生は千里さんに電話してみた。
 
「何だか凄くリアルっぽい配当金領収証が送られてきているんですが、これってゲームのアイテムですよね?」
 
「リアルの配当金領収証だと思うけど」
「なんでゲームをやっててリアルの配当金が送られてくるんです?」
「投資もリアルだから」
「え〜〜!?ゲームじゃなかったんですか!?」
 
「だってゲームと思ってたほうが気楽に投資できるでしょ」
「確かにゲームと思ってたから大胆な投資してました」
「お金はいくらか増えた?」
「今5200万円くらいあります」
「随分増やしたね!」
と千里さんが感心していたが
 
「ビギナーズ・ラックだよ」
と隣で真珠が言う。
 
「これどうましょうか?id/passをそちらにお返しすればいいですか?」
「そのまま投資の練習を続ければいいと思う」
 

邦生は少し考えた。
 
「確かにそうかも知れません。最新の投資の経験をしておいたほうがお客さんにいいアドバイスができる気がします」
「じゃそのままで」
「せめて最初の1000万円はお返ししますよ」
「5000万円になったのなら1000万円返して残り4000万円でも充分投資続けられるね」
「あと儲けの半分も」
「それは受け取る名目が無い。最初の1000万円は私がくにちゃんに貸したお金ということでそれを返してもらうという名目で受け取れる。でも儲けは受け取ると贈与税を取られてしまう」
「あぁ・・・利子ということでは?」
「そんなの無しでいいよ。くにちゃんの力でそこまで増やしたんだから持っておきなよ」
「そうですね」
「あと忘れてはいけないのはこの儲けには約半額の税金がかかるということ」
「今言われるまで忘れてました!」
「だから私に1000万円返して残り4000万円から半分税金で取られることを考えて無利子普通預金か何かに移動して,残り2000万円のうちの半分は“投資しない資金”にして。残り1000万円で更にゲーム続ければいいよ」
「それがいい気がします.卵はひとつのカゴに盛るなですね」
「そうそう」
 
それで邦生は年明けくらいまで掛けて、所有株式を売れるタイミングで少しずつ売却して現金に換え、まずは千里さんに1000万円返した上で税金の分を確保。そして1000万円は安全度の高い国債に移し、残りの約1800万円(売るタイミングが良くて増えた)で翌年以降の投資を続けたのである。しかし翌年は1800万円が2600万円にしかならなかった!
 
(それでもかなり優秀な投資成績だと思う。実際問題として邦生は“経験のため”低位銘柄を広く買っているので、突然値上がりした時大きな利益が出やすい)
 
ちなみに配当は全部真珠がもらった!!更に株主優待もたくさんもらった!もっとも宝石購入の優待券みたいなのは使い道が無いのでゴミ箱に捨てていた。
 

杜屋鈴世(もりや・りんぜ/すずよ:水巻アバサ)は『竹取物語』の撮影が終わった後も、しばらくは東京に滞在して、§§ミュージックの様々な制作に参加したり、ライブに出演したりした。8月31日に母に迎えに来てもらい水戸の実家に戻った。
 
東京に居た間は妹の幸代(水巻イビザ)にかなり唆されて100%女装生活を送っていた。彼は元々女装好きというより、物心付いた頃から女の子の服を普通に着ていた。彼の兄弟はこうなっている。
 
杜屋月夜(つきよ♀大1)
杜屋鈴世(りんぜ△高1 水巻アバサ)
杜屋幸代(さちよ♀中2 水巻イビザ)
杜屋和誉(かずほ♂小6)
 
洋服の“お下がり”のサイクルが、月夜→鈴世→幸代となっていて、鈴世は元々“女の子サイクル”に組み込まれていたのである。だから実は彼は女物の服を着てても女装しているという意識がほとんど無かった。それで鈴世は姉からもらった、高校の女子制服も所持していた。
 
9月3-4日(土日)は文化祭があり、それに友人のガールズバンドに、直前に怪我したメンバーの代理で出た。ガールズバンドなので女子制服(ブラウスにスカート、胸元にはリボン)を着た。彼は友人たちからは“半分女の子”とみなされているので彼が出ていても“ガールズバンド”からは逸脱してないとみなされた。
 
これの練習のため、9月1-2日も女子制服を着た。
 

文化祭の代休で5-6日は学校がお休みである。そして9月7日から学校は再開された。彼は普通に?ワイシャツとズボンで学校に出て来た。
 
「すずちゃん、どうしてズボンなの?」
「え?ズボンじゃいけない?」
「女子はスカートだよ」
「それに上もそれワイシャツじゃん。ちゃんとブラウス着なきゃ」
「ぼく男子なんだけど」
「でも女子になったんでしょ?」
「なってないよー」
「いや、すずちゃんは東京で性転換手術を受けてきたという確かな噂がある」
 
“確かな噂”って何〜〜?噂って不確かなものなのでは?
 
「そもそも胸があるよね」
と言って胸に触っている。
 
「このバストはBカップはある」
「それにブラジャー着けてるし」
「ブラジャーなんて昔から着けてたじゃん」
 
「とにかく女子制服に着替えなよ」
「やだ」
「着たくないの?」
「着たいけど、着てたら自分に歯止めが効かなくなるから着ない」
「歯止めなんて利かせなくてもいいのに」
 

まあそれでも友人たちは彼が男子制服を着るのを一応容認してくれたように見えた。
 
この日の1時間目には身体測定が行われた。最初に男子が行く。鈴世は自分も立って保健室に行こうとした。ところが男子の保健委員から言われる。
「杜屋(もりや)さん、先に男子の測定するからまだ待ってて」
「えっと。ぼく男子だけど」
「そういう建前で中身は女子なんでしょ?杜屋さんの書類は女子の方に入れておいたから」
「え〜〜!?」
 
女子の保健委員が言う。
「大丈夫だよ。みんなすずちゃんが本当は女子だというの知ってるから」
「でもぼく男子制服着てるのに」
「だから女子制服着てくれば良かったのに」
 

鈴世は「まあいいか」と思った。東京でテレビ局に出る時とかは女性用楽屋を使ってたし。女子の下着姿見て変な気持ちになることもないし。
 
それで女子たちと一緒に身体測定に行く。男子制服着て女子と一緒に保健室に入るのは少し気が咎めたが、服を脱いでしまうと下は女子下着である。すると他の女子たちも当然女子下着なので、かえって目立たなくなってしまった。
 
「これで男子と一緒には測定できないなあ」
と女子たちから言われる。実は身体測定のこと忘れてて女子下着で出て来てしまったのである。
 
「少なくとも下着姿を見る限りは女子にしか見えん」
「解剖検査してみたい」
「お代官様、それはご勘弁を」
「まあいいや。体育の時の着替えも女子更衣室に来なよ」
「いいのかなあ」
「少なくともこの身体ではもう男子更衣室は使えないよね」
「せっかく性転換手術まで受けたのに勇気無いね」
「そんな手術受けてないんだけど」
 

「だいたい、すずちゃんって雰囲気が女子だよね」
「ああ、それは昔から意識してる」
「手とか触った感触も女の子の手だし」
「そうかなあ。男っぽいと思うけど」
 
などといったら10人くらいの女子と握手することになる。
 
「少なくとも男の子の手ではない」
「この程度の感じの女子はわりと居る」
「うーん・・・」
 
「性格的にも優しいし、可愛いものが好きだし」
「それは昔からだよ」
「普段はスカート穿いてるんでしょ?」
「ぼく制服以外のズボン持ってない」
「ああ」
「だったらスカートの制服着て来なよ」
「やだ」
「今日はスカート持って来てないの?」
「持っては来てるけど穿かない」
「持って来てるなら穿けばいいのに」
「やだ」
 
このあたりが真和とかなら乗せられて穿いてしまうのだが、鈴世は女子の服を着慣れているがゆえに冷静である。
 
しかし彼は初めて女子たちと一緒に身体測定されたのであった。
 

『竹取物語』の撮影で男役をするために出て来てくれた人は次の日程で地元に戻って行った、
 
杜屋鈴世(水巻アバサ)水戸市 8月31日
藤弥日古(広瀬のぞみ)都城市 8月31日
松崎貴美(月城朝陽)鹿児島市 8月21日(野球の練習があるらしい)
松崎元紀(月城すずみ)福岡市
松崎真和(月城としみ)薩摩川内市 8月31日
 
それで大学生の松崎元紀(月城すずみ)のみが9月になっても残った。彼は夏休みが9月末までである。それで10月2日(日)に藺牟田飛行場に送り届ける予定である。そこから福岡市まで自分の車を運転して帰る。
 
なお彼の車はバッテリーが上がっていたが、父の手でイエローハットに運びバッテリー交換してもらった。その後、バッテリーが上がらないように数日に一度母が起動してくれている。
 
さてこの5人の内男性的で、すぐ帰郷した松崎貴美(月城朝陽)以外の4人が元々女性的だったのが、東京に滞在している間に急速に女性化しているのを心配した複数の人が、彼らに精液の冷凍を作るよう勧めた。それで杜屋鈴世、藤弥日古、松崎真和の3人は8月中に2回精液の採取をした。元紀は9月まで残るので、9月に入ってからも2回採取して合計4本の冷凍精液を作る予定である。
 
松崎元紀・真和兄弟の場合、精液の採取は1週間置きに、8月22,29日にやり、元紀は更に9月5,12日にもやる予定だった。初期の頃は採取前の禁欲が物凄く苦しかったものの、9月に入ってからはあまり“したい”気分にならず普通に禁欲できた。それで9月5日の採精は順調にできたが、元紀は採精のために自慰すること自体に罪悪感を感じた。
 
ぼく女の子になりたいのに、男の機能を使うのって嫌だな、と思うのである。でもあと1回だから頑張ろうと思った。
 
“魔女っ子千里ちゃん”との約束で、精液採取が終わったら睾丸を除去してもらうことになっている。睾丸を取ったら性欲も無くなってもう自慰したくなくなるんじゃないかなあと思った。その最後の採精は9月12日(月)である。
 

9月11日(日).
 
元紀は昼間はあけぼのテレビでドラマの男役を演じてきた。ドラマの中では男役だから男装だが、局に出入りする時はレディススーツ(スカート・タイプ)を着て、お化粧もしていた。男子寮に帰ってから服を脱ぎ、お化粧を落とす。大学のお勉強をしていたら夕食がデリバーされてくるのでそれを食べる。
 
リムーバーと小型のハサミを使ってタックを解除する。お風呂に入ってあの付近をよく洗うが、ペニスに触っても立たない。今の所女性ホルモンは飲んでいないが、気持ちが女の子の気持ちになってるから立たないんだろうなと思った。
 
それで花柄の女性的なパジャマを着て布団に入る。うとうととしていた時、時計が0時になる。すると同時に部屋の中に小学生くらいの女の子が現れる。
 
「もときちゃん、こんばんわ。睾丸もう要らないんだよね。取ってあげるね」
 
と言って“魔女っ子千里ちゃん”は元紀の服の中に手を入れ、睾丸を取っちゃった♪
 
「じゃこれ捨てとくね」
と言って彼女は姿を消した。
 
「ちょっとぉ、まだ精液の採取する前なのに!」
と元紀は言ったが、“魔女っ子千里ちゃん”はもう姿を現さなかった。
 
「どうしよう?睾丸無しじゃ射精できないよー」
と元紀は思った。
 

翌朝、元紀が少しぼーっとしてダイニングのテーブルの所に座り紅茶を飲んでいたら朝食がデリバーされてくる。
 
「ありがとうございます」
と元紀が言った時、デリバーしてくれたユキさんだかツキさんだか(元紀にはこの2人が区別付かない)が、
 
「どうかしたの?」
と訊いた。元紀は、ユキさんやツキさんはこの話を理解してくれる気がした。
 
「あの、相談したいことがあるんですが」
「じゃ朝御飯食べてからキュアルームに来て。あそこの相談室で話そう」
「はい、お願いします」
 

それで元紀は朝御飯を食べた後、普段着の可愛いブラウスを着て秋っぽいグリーンのスカートを穿き、キュアルームに行った。ユキさんだかツキさんがいて、相談室に入る。
 
それで元紀は事情を話した。するとユキさんかツキさんは笑った。
「オーリンは昔から勘違いや物忘れが酷いんだよ」
「オーリンというんですか?」
「ニックネームね。本名は何か難しい名前」
「へー」
 
「でもそれ何も問題無いよ」
とユキさんかツキさんは言った。
「問題無いと言われても」
「だって精液は睾丸から出てくるわけではない」
 
へ?睾丸から出てくるのでなかったらどこから出てくるのだろう?卵巣??
 
「精子は睾丸で生産されるけど、精嚢に溜められる。睾丸が油田、精嚢がガスステーション」
「あ、そうか」
「だから君の身体には1回分の精液が貯められている。ちゃんと射精できるよ」
「なるほどー」
「君の最後の射精になるけどね」
「最後か。。。」
 

それで元紀はそのユキさんかツキさんに車で送ってもらい(←免許持ってるのか?)婦人科に行って、採精をした。立つかどうか不安だったが、これが最後の射精かと思うとドキドキしてすぐ射精できてしまった。先生が顕微鏡でチェックして「うん。精子は元気だよ」と言った。それで冷凍してもらった。
 
元紀はホッとした。
 
これで安心して女性ホルモンが飲める!女性ホルモン飲み始めたら、もうぼく男の子じゃ無くなるよね?
 
(睾丸を取った時点でもう男子廃業済みと思いますが?)
 

松崎典佳(月城たみよ:元紀・真和の妹)が学校から帰宅し、女子寮の自分の部屋でフルートの練習をしていたら、唐突に小学生くらいの女の子が出現した。
 
「わっ、君誰?」
「ぼくは“男の娘の味方・魔女っ子千里ちゃん”だよ。君凄くフルートうまいね」
「うん。ぼくピアノはあまり自信無いけど、横笛は小さい頃から頑張って練習してたから。吹奏楽部の助っ人とかもよくやってたよ。そんな時はセーラー服着て参加するんだよ」
「ああ、フルートを吹く少女って絵になるもんね」
「でしょ?」
「君、セーラー服着てたら女の子に見えないこともないかもよ」
「うん。スカートとか履き慣れてないからセーラー服なんて着るとよく裾に足がぶつかって転んじゃうけど(←事実である)、スースーして夏は涼しくていいよね。女装にはまる子がいるのが分かる気がするよ」
「そうそう。女装の一番の楽しみがスカート穿いた感覚だというね」
 
ん?この子、男の娘?普通に女の子に見えるけど。でも“男の娘の味方”とか言ってたぞ。
 
「ねね、フルート合奏してみない?」
「いいよ。何吹く?」
「そうだなあ。ペールギュントとか」
「ああいいね」
 
それで2人はグリーグの『ペールギュント』をあまりにも有名な『朝』から吹き始めたのである。
 

『ペールギュント』は劇伴音楽で26+1(後で1曲追加された)の音楽からなっているが、それを通して演奏されることはまずない。だいたい4-10曲程度をピックアツップして適当に並べ直して演奏される。最初が『朝』というのはお互いの暗黙の了解だったが、そのあと何をどの順番で吹くかは何も決めてない。でもひとつの曲が終わると“魔女っ子千里ちゃん”はこちらを見るので、典佳が次の曲を吹き出すと彼女も合わせてくれる。それで2人はこのような曲を吹いた。
 
『朝』→
『花嫁の略奪とイングリッドの嘆き』→
『山の魔王の宮殿にて』→
『山の魔王の娘の踊り』→
『オーゼの死』→
『アラビアの踊り』→
『アニトラの踊り』→
『ソルヴェイグの歌』→
『ペール・ギュントの帰郷』→
『ソルヴェイグの子守唄』→
 
『ソルヴェイグの子守唄』が最後というのもお互いの暗黙の了解だった。全部で10曲合計40分程度の演奏だった。
 
「君上手いね」
「君上手いね」
とお互いに言い合う。
 
「ねね。凄くいい演奏聴かせてもらったし、ぼくのフルートと君のフルートを交換しない?」
「ん、まあいいよ」
 
それでフルートを交換したが受け取ってギョッと思った。何この重さ?
 

「今日は楽しかった。じゃね、また」
「うん、また」
 
「あ、そうそう。君のこと気に入ったからお礼に君を女の子に変えてあげようか。本当は君は男の子にしか見えないからぼくのサービスの対象外なんだけど」
 
「女の子になるとか要らないよ。ぼくちんちん無いと困るし」
「そっかー。ちんちんで遊ぶのって楽しいらしいもんね。でも女装はするといいよ。楽しいから」
「考えとく」
「女の子になりたい気持ちになったらぼくをまた呼んで」
「うん」
「この護符を見ながらアニトラの踊りを吹いてくれたら出てくるよ」
と言って何か複雑な図形を描いた護符をくれる。
 
「分かった。でもぼくより兄貴の真和(まな)を女の子に変えてあげてよ。今鹿児島にいるんだけど」
 
「ああ、薩摩川内市の真和ちゃんなら、今月2日に女の子に変えてあげたよ」
「そうなんだ!」
「そろそろ生理が来るんじゃないかなあ。そうだ、典佳(のりよし)君、真和ちゃんに連絡付くなら、そろそろ生理だからちゃんと準備しとけって伝えてあげて」
 
典佳は少し考えた。
 
「それナプキンも買ってあげたほうがいいかな」
「あ、そうかも。女の子になってすぐはナプキン買うの恥ずかしいもんね。でも典佳君はナプキン買えるの?」
「不純な動機で買ったことあるから大丈夫」
「へー。男の子なのにナプキン買えるって偉いね。中学生だと女の子でも自分で買えない子いいるのに」
「ああいるよね」
「だったら典佳君、女の子ショーツとかも穿くといいよ」
「考えとく」
「じゃねー」
「じゃ」
 
それで“魔女っ子千里ちゃん”は消えちゃった。
 

典佳(のりか)は少し考えたが、ほんとに真和(まな)“姉ちゃん”にはナプキン送ってあげたほうがいい気がしてきた。きっと生理のこととか何も考えてないよ。
 
これが9月12日(月)夕方のことである。
 

その真和(高1)は『竹取物語』の制作に参加したあと、様々な音源制作に参加したりテレビに出演したりした後、8月31日に薩摩川内市の実家に戻った。彼が女装で帰宅したのを見ても両親は特に咎めなかった。真和の女装は小さい頃から普通であった。母は真和に
 
「明日から女子制服で学校に行く?」
などと尋ね、“性別変更届け”なんてのまで書いてくれた。
 
え〜!?ぼく明日から女子制服通学?などと両親が書いてくれた“性別変更届け”を手にして悩む。決断ができず、取り敢えず9月1-2日は学校を休んだ。日曜日まで悩んだ末に9月5日(月)は本当に女子制服で家を出る。
 
でもその時母は言った。
 
「あんたその格好で学校に行く気?」
 
やはり“性別変更届け”は冗談だったのか!うちの母ちゃん、マジとジョークの区別が付かないよ〜。ぼくたくさん悩んだのに、と思う。
 
でもこの日はその格好で学校に出ちゃった。
 
すると友人たちは
「とうとう決断したか」
などと言って彼の女装通学を受け入れてくれた。
 
でも丸一日女生徒として学校生活を送ったが
「ぼく女の子のことがあまりにもよく分からない!」
というのを今更ながら実感した。
 

それで翌日は普通のブラウス+ズボンという男子制服風の服装に戻してしまった。
 
「うそ。なんでスカートじゃないの?」
「まだ女子制服通学が怖くて」
 
それから9月中は、上はブラウスを着ているものの下はスカートにしたりズボンにしたり、日によってふらふらしていた。
 
女子の友人からは「根性が無い」と非難されている。でも男子トイレの使用を男子たちから禁止されたので、スカートを穿いている日は女子トイレに入れてもらっているものの、ズボンの日は1階の多目的トイレを使っている。
 
友人女子たちは「ズボンでも女子トイレに来ていいよ」と言ってくれているものの真和は「恥ずかしいよぉ」と言っている。
 
でも真和は名前の読みについては「まさかず」ではなく「まな」と呼んでもらうようになった。そして完全な女子に移行するのは時間の問題かなとみんなに思われている。
 

ズボンで出て来た日でも部活(コーラス部)ではスカートを穿き、ソプラノで歌っている。ズボンとスカートのチェンジは
 
・スカートを穿いてからズボンを脱ぐ
・ズボンを穿いてからスカートを脱ぐ
 
というので、普通の教室でも変更可能である。でも体育の着替えの時は保健室の先生と話しあった上で、保健室のカーテンの向こうで着替えさせてもらうことにした。でも水泳の授業では女子水着姿を曝すことになり(さすがに男子水着を着ることは出来ない)、バストが結構あるし、お股はスッキリなラインであることをみんなに見られている、
 
「ズボン穿いてても中身は女の子なんだから女子更衣室に来ればいいのに」
と女子たちからは言われた。
 
なお体育の柔軟体操はわりと仲の良い初海ちゃんと組んだ。彼女からは「身体に触った感じが完璧な女の子」と言われていた。それで多数の女子にハグされることになる。
 
また男女で分かれる場合は、女子の方に入った。水泳の授業の仕上げに行われた水泳大会でも、真和は女子の部に出場するよう言われた。でも25mが、一緒に泳いだ女子8人中7位だった。
 
身体測定については、個別測定にしてもらい、彼の下着姿は、保健室の先生と、保健委員の紗希ちゃんだけが見ることになった。でも女子水着姿を曝したのに今更!!
 
でもそういうわけで真和は取り敢えず性別曖昧?な学校生活を送っているのである。
 

9月14日(水).
 
そんな真和(まな)の所に妹の典佳(月城たみよ)から宅配便が届いた。何だろうと思って開けてみると生理用ナプキンである!羽根つきの昼用・夜用、サニタリーショーツが3枚、携帯用のナプキン入れ、それにパンティライナーも入っている。典佳の手紙も入っている。
 
「“魔女っ子千里ちゃん”から聞いたけど、マナ姉ちゃん女の子になったんだって?性転換おめでとう!お姉ちゃんきっといいお嫁さんになれるよ。ところで女の子になったら生理も頑張らないといけないよ。でもお姉ちゃん、女の子初心者だから、生理のことよく分かってないよね。取り敢えず生理用品一式送るから頑張って勉強してね」
 
「ナプキンの銘柄は中高生女子に人気の高いセンターイン。生理用ショーツの使い方は中の説明を読んで。股布の二重になってる所の間に羽根を入れるんだよ」
 
そうだったのか!
 
「生理用品入れには普段はナプキン2枚とパンティライナー2枚、生理中はナプキン3枚入れておけばいいと思う。ところで付け方・捨て方は多分知ってるよね?分からなかったら電話して私に訊いてね」
 
「でも生理?ぼくに生理がくるの〜!?」
 

でも真和はその日の夜からナプキンを付けて寝ることにした。ちなみに下着はもう女の子下着しか使ってないが、この夜から念のため生理用ショーツを着けた。
 
「でもナプキンって男性器があるときちんとフィットしないよね。邪魔なペニスも睾丸も無いから、きちんと着けられる」
 
次の日(9/15)、生理のことを意識したらなんかお腹が痛い気がしてきた。学校で少しお腹を押さえていたら
「どうかした?」
と初海ちゃんに聞かれる。
「なんかお腹が痛くて」
「どの辺が痛いの?」
「この辺」
「それ生理の予兆だと思う」
「やはり?」
 
でも翌日までには学年中の女子が「まなちゃん生理みたい」と知っていた!
 
そして翌日16日(金)の朝、生理は来た。
 
「ほんとに来たんだ!」
 
でも夜用ナプキンを付けてて、生理用ショーツまで着けてたお陰でパジャマを汚さずに済んだ。
 

「マナちゃん、お腹の調子どう?」
「今朝、来ちゃった」
「わあ来たんだ」
と言って女子が数人集まってくる!
 
「生理になるの初めて?」
「うん」
「ナプキン付けてる?」
「付けてる」
「交換の仕方分かる?」
「分かると思う」
 
真和は「生理が来た以上、もう完全な女の子たよ」と言われ女子トイレに連行された。それで初めての“学校でのナプキン交換”をしたが、朝にも一度しているので、何の困難も無かった。でも女子トイレでのナプキン交換はドキドキした(←少し不順な気持ちもある)。
 
そしてこの日以降、生理が終わった後も、真和はボトムがスカートかズボンかを問わず、女子トイレを使うようになった。でもまだ着替えは保健室でしていた。
 
 
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