広告:彼が彼女になったわけ-角川文庫-デイヴィッド-トーマス
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■宴の後(3)

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深夜のお出かけはその後1月くらいの間に5〜6回に及んだ。ファミレスやラーメン屋さん、コンビニ、お弁当屋さん。その間女の子らしい声の出し方もだいぶ訓練させられた。そしてお弁当屋さんではとうとう声を出して注文するのに初挑戦した。
 
昼間のお出かけはしてみると以外に怖くなかった。さんざん夜出歩かされたので慣れたおかげだろうか。何度かの短い練習の末、翌月にはもう外に出掛ける時は女の子の格好をする、というのが当たり前という気になってきた。
 
2月後、妻が「知り合いに色々聞いたけど、ここなら安心そう」と言って美容整形外科に連れていってくれた。最初はカウンセリングである。結婚しているのに、いいんですか?とか、男性なのにどうして?とか聞かれるかと思ったが、そういう質問は無かった。主としてどのくらいのサイズにしたいのかというのを聞かれ、また幾つかの方法を説明されて、どの方法を選ぶかということを聞かれた。食塩水パックの挿入をすることになった。
 
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実際の手術はその一週間後、金曜日に会社は有休を取って受けに行った。ちょうど月曜が祭日で3連休なので手術後3日間からだを休めることができる。普通は部分麻酔で自分でサイズを確認しての手術になるのだが妻にサイズを決めて欲しいと頼み、全身麻酔にしてもらった。部分麻酔だと、かなり痛い手術なのだそうだが、お陰でそんなに痛い思いをせずに済んだ。それと折角全身麻酔をするからついでに?ということで喉仏を取ってもらうことになった。
 
麻酔から覚めて膨らんだ自分の胸を見た時は、初めてたいへんなことしちゃったかなという気がしてきた。ちんちんが無くなってしまったのは自分の意志ではないし、考えると分からなくなるので考えないようにしていたのだが、胸を大きくしたのは妻に勧められたとはいえ自分の意志である。初めて自分がもう男には戻れないんだということを実感し、少し涙が出てきた。胸の方に考えが行っていたので喉仏を取ったことについてはあまり考えずに済んだかも知れない。元々自分でそう意識していたものではないということもあるかも知れないが。
 
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その晩、そんな私の気分を配慮してくれたのか、妻はとても優しく、私のからだを愛撫してくれた。ただし胸はまだ触れない。傷が安定してからでないと、強くもんだりはできないようである。
 
胸のサイズはBカップである。妻と一緒に買いに行ったBカップのブラジャーで包んでみると、ピッタリとフィットして気持ちいい。今まではAカップが余っていたのに。でもこの大きなバストが自分のからだに付いているという感覚に慣れるのに、かなり時間がかかった。妻が寝ている間に、全身を鏡に映してみたりした。いいプロポーションだという気がする。この2月髪も切らずに伸ばしていたので、何とか女性の髪の長さに見えないこともないし。でももう少しウェストを絞った方がいいかな?
 
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翌日妻は私の乳首を吸ってくれた。大きくする前より感度が上がったような感じがする。すごく気持ちがいい。私はおもわず喘ぎ声をあげた。「声もう出してもいいの?」「うん。大丈夫かな」「でも、無理しないでね」
 
このところ私はキャミソールやスリップのあの優しい感触がすごく気に入るようになっていた。以前は家に帰ると女物に着替えても、会社に行く時は全部男物だったのだか、そのうち下は会社に行くときもショーツにして2週間ほど前からは上もブラジャーとスリップを付けるようになっていた。
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「明日会社に行くときは下着どうする?」連休の最終日妻に聞かれて私も困った。何も考えていなかったのである。「カミングアウトして会社でも女の格好で通す?」「うーん。それはさすがにクビになると思う」「どうして?別に悪いことしてる訳じゃないのに」「それはそうだけど」
 
結局私はブラジャーは普通にした上でスリップの上にワイシャツを着、その上にゆったりしたセーターを着てから背広を着た。「冬だから、これで背広を脱がなきゃ大丈夫だよ」「夏になったら?」「それまでに考える」
でも、ほんとどうしよう?この身体のまま働ける所ってオカマバーくらいだろうか??
 
ともかくもその格好で会社に出て、最初の内はバレないだろうかとヒヤヒヤだったが、そのうち慣れてくると全然平気になってきた。それが日常になると、どんどん心の余裕が出てきて、更に翌月には足の毛とヒゲも永久脱毛してしまい、面倒な処理から開放された。特に毎朝ヒゲを剃らなくて済むようになったのは、とても気持ちの上で助かった。
 
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そしてそんなある日。あのおチンチンが無くなった日からもうそろそろ4ヶ月がたとうとしていた2月中旬のある日。
 
その日私は朝からちょっと体調がすぐれなかった。ちょっとお腹が痛いような気がする。しかし今日までに提出しなければならない書類がある。私は風邪かなと思って風邪薬を飲み、そのまま会社に出た。そして16時頃。多くの同僚が営業で外に出ていた。それが幸いだった。自分の机でパソコンに向かって書類を書いていた私はまた腹痛に襲われた。急な痛みではなく、ジワっとくるような痛みである。そしてその次の瞬間、今まで感じたことのないような感触を下半身に感じた。
 
何かがズボンを伝って滴り落ちる感触があった。え?何、これ?
 
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戸惑っていた時、私の隣りに座っていた諸橋慶子がさっと椅子を寄せて来て私の手に何かを握らせ「トイレ行ってきなさい。ここ私が拭いといてあげるから。まだ誰も気付いてないよ」と囁いた。
 
私は訳が分からずに、言われるままにトイレに飛び込んだ。
 
ズボンを下げるとショーツが赤く染まっていた。何か怪我したんだろうか?そうだ。もしかして性転換手術を受けた?時の傷が開いた??
 
と思いつつ、諸橋さんが渡してくれたものを眺めた。それは生理用ナプキンだった。
 
「まさかこれ生理?」私は頭が混乱してくるのを止められなかった。性転換すると生理も来るものなのだろうか??しかし以前テレビの深夜番組に出ていたニューハーフの人が「子供が作れないのだけがねぇ」などと話しているのを見た気がする。そもそも生理は卵巣と子宮が無ければ来ないのではないだろうか。元々男である私にそんなものがある訳がない。性転換手術を受けても、形だけ女になっているだけであって、生理が来るはずがない。でも今ここにあるのは何だろう?
 
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私は全く訳が分からなかった。しかし落ち着いてくると、とにかく諸橋さんが渡してくれたものが今使えそうだということだけは理解できた。私はまずトイレットペーパーにできるだけ血を吸い取らせた上でとにかくナプキンを付けることにした。以前妻のをふざけて開いてみたことがあるので、使い方だけは分かる。袋を破いて中身を出しシールを剥がしてショーツに付ける。その前にショーツについた血もできるだけトイレットペーパーに吸わせた。そしてナプキンを装着したショーツをきちんと履く。ふわっとした感触。でもなんだか安心感がある。
 
そのあと足に付いた血、それからズボンにも少し血が付着していたのでそれもぬぐう。使ったトイレットペーパーを水流で流してボックスを出る。手にも血が付いていたので丁寧に洗う。外に出ると諸橋さんがいた。
 
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「大丈夫?」「え、うん。ありがとう。でも....」「いいのよ。少し前から気付いていたわ、中村さんが本当は女性だって」「え?」「心配しないで。誰にも言ってないから。胸のふくらみがあるのにこないだ気付いて。それに何ヶ月か前に下田さんたちと一緒に飲んだ日、あの日私も酔ってたから中村さんの股間なんかに目が行っちゃってさ。その時、あんまり膨らんでないのね、なんて思った記憶があったし。それで最近実はよく観察してたんだけど体のバランスの取り方が男性の取り方じゃないのよね。まるで子宮でバランスを取っている感じ。それに喉仏も無いし。ヒゲなんか伸びてる所見たことないし。でも凄いわ、完全に男の振りして。結婚もしてるんでしょう。相手は女性?」「うん」「そうか。そちらの趣味もあるのか。それに中村さん、仕事やり手だもんね。そのくらい出来たら、お茶くみOLなんか、やりたくなかったよね」「いや、それは....」「大丈夫、誰にも言わないよ。頑張ってね。でも男に徹しすぎて生理のこと忘れてちゃだめよ。じゃ」
 
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そう言って諸橋さんは女子トイレに消えていった。彼女にはバレてしまったようだが、彼女は口は硬そうだし、それ以上は広まらないかも知れない。何よりもナプキンをもらって助かった。しかし今日はできるだけ早く帰ろう。とにかく私は生理のことで頭がいっぱいだったので、諸橋さんの言っていた言葉については深く考えていなかった。
 
机に戻り、パソコンで書類の最後の方の計算を行い、充分チェックした上で課長に電子メールで送る。課長は出張中で今夜遅くしか戻ってこない。私は定時になると、そそくさと机の上を片づけて帰り支度をした。諸橋さんと目が合う。軽く微笑んで感謝の礼をした。そして電車に乗っていて、諸橋さんの言葉の中の重要なフレーズに気が付いた。股間が膨らんでなかった!?
 
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そうだ。あの日最後まで飲んだのが下田君と諸橋さんだった。下田君とは翌日話を交わしたが、諸橋さんの方は翌日飲み過ぎでダウンして休んでいた。それでなんとなく話は聞かないままになっていたのだった。飲んでいた時に股間の膨らみが無かったということは既にその時に、もうおチンチンは無かったのだろうか??
 
私は何とかあの日のことを再度思いだそうとした。あの日最後に自分のチンチンに触ったのはいつだろうか?会社では何度かトイレに行っている。その時はあったはずだ。まだ全然酔ってないのだから、無くなっていたら気付くはずである。その後下田君の話では居酒屋からスナック、カラオケ、ホテルのラウンジと移動したはずだ。諸橋さんが私の股間を見たのはいつだろうか?私は席順を思い出してみた。居酒屋では諸橋さんとは別のテーブルだった。スナック?いや。彼女は近くにいたが間に香山君がいた。カラオケ?確かにこの時隣りだったような気がする。ホテルのラウンジは3人で丸いテーブルを囲んでいた。とするとカラオケの時?そういえば居酒屋では一度トイレに行っている。その時は立ってしたと思うからチンチンはあったはずだ。その後は....トイレに行ってないかも知れない。するとチンチンが無くなったのは居酒屋からカラオケに移動するまでの間??
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■宴の後(3)

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