広告:まりあ†ほりっく6(MFコミックス)
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■12時になったら(1)

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(C)Eriko Kawaguchi 2011-05-13
 
「じゃ佐理夫はお留守番なのね?」
母から聞かれて僕は「うん。模試も近いし勉強しておかなくちゃ」と答えた。
 
今日はうちの町で曳山(ひきやま)祭りがおこなわれている。けっこう名の通った祭りらしく夏休み中でもあり、あちこちから観光客も集まってくるようだ。母と高校生の姉は浴衣を着て、夜祭りに出かけるということで、さきほどから準備をしていた。父は残業でまだ戻らない。いつもだいたい夜中の2時すぎに帰ってくる。
 
僕も子供の頃はお祭りというと浴衣を着せてもらって、提灯なんか持って母や姉といっしょにお出かけしていたものだ。しかしどうしたんだろう?小学校も高学年になると、そういうのであまりワクワクしなくなったし、今や中学2年生ともなると、受験勉強も意識しないといけない。模試も頻繁に行われているし。
 
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お祭りは11時半くらいからの火祭りがクライマックスとなるが、姉たちはその後どこかでお茶でも飲んでから1時頃帰ると言っていた。たぶん僕もそのくらいまでは勉強しているだろう。僕は姉たちを見送ったあと、数学の問題集に取り組み始めた。
 
それは夜9時を過ぎた頃だった。玄関のチャイムが鳴る。誰だ?こんな時間に、と思ってインターホンに出てみたら、従姉の大学生・鳩美だった。鳩美の実家は少し離れた町にあるのだが、うちの町にある大学に入るため、アパートを借りてひとり暮らしをしている。
 
「こんばんは。どうしたの?」
僕は取りあえず鳩美を中に入れながら聞いた。
「今日はお祭りでしょう。だから、奈津美ちゃんに浴衣を縫ってきたのよ」
「・・・姉ちゃん、もうとっくに出かけちゃったよ」
「えー!?うそっ。私浴衣縫ってあげるからって言ってたのに」
「鳩美姉ちゃんの約束ってだいたい当てにならないこと多いもん」
「そっかなあ」
「それにもう9時過ぎだよ。お祭り半分くらい終わっちゃってる」
「うーん。確かにちょっと遅くなったけどね」
 
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「姉ちゃんたち7時には出たよ」
「ちぇっ。せっかく浴衣作ったのになあ・・・・・」
「鳩美姉ちゃんが着るとか?」
「自分のも作ったよ。だから2着」
「ああ」
「奈津美といっしょに浴衣着てお祭り行こうと思っていたのに」
「お母さんと適当な浴衣着て出かけたよ。鳩美ねえちゃんも今から行けば?その作った浴衣着て」
 
「ひとりで出かけるのもなあ」
「同級生とか誘うとか」
「今日の今日じゃ捉まらないだろうなあ、誰も」
「まあ遅くなっちゃったから仕方ないのでは」
「ああん。誰か私の作った浴衣着ていっしょに出かけてくれそうな人・・・・」
「あちこち電話しまくるとか」
「うーん」と鳩美はしばらく考えていたが、突然こんなことを言い出した。
 
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「ね、佐理ちゃん、この浴衣着ない?」
「はぁ?それ女物なんでしょ」
「いいじゃん、佐理ちゃん、雰囲気が優しいから女の子にも見えるって」
「別に女の子に見える必要無いんだけど」
「いいから、いいから。ほら、これなの。可愛いでしょ?佐理って昔から可愛いもの好きだったじゃん。ちょっと着てみるだけでもいいから」
 
僕は何となく鳩美に乗せられて、着てみるだけならいいかなと思い、その浴衣に袖を通してみた。
「ほら、鏡見てみて」
僕はこの時『あ、悪くないかな』という気がした。それに・・・・何か以前にもこんな感じのこと無かったっけ??
 
「ね、けっこう似合ってるじゃん。眉切っていい?」
「あ、うん」
鳩美は僕の眉を少し細く切った。
「ルージュ入れるね」「うん」
「髪型も少し変えてみるかな・・・」
僕は髪は七三に分けていたのだけど、鳩美は僕の前髪をまっすぐ下ろして、少し女の子っぽい感じにアレンジした。
 
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「浴衣もきちんと着ようね」
鳩美はあらためて浴衣をきちんと僕にきせると、帯もきれいに締めた。「さて。私も着よう。後ろ向いてて」「うん」
鳩美は僕が後ろを向いている間に自分で浴衣を着た。
「OK」
鏡の前で並んでみると、まるで姉妹のようだ。
「子供の頃、よくこんな感じで私と奈津美、歩いてたなあ」
「ふーん」
あれ?なんか・・・・・
 
「でも、佐理ちゃん、凄く可愛くなっちゃったから、イヤリング付けてあげるよ」
「あ、ありがとう」
鳩美は僕の両耳に可愛いペンギンのイヤリングを付けた。
鏡に映してみるとなんだか可愛い。
「可愛い」
と言ったら「じゃ、それあげる」と鳩美は言った。
 
「さて、お祭り行こう」
「でもけっこう遅いよ」
「車で行くから大丈夫よ。10分もあれば着くよ」
「ね、お姉ちゃんたちが1時頃に帰るらしいんだ」
「分かった。じゃその前に戻って来て着替えられるようにするよ」
「うん」
 
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鳩美は自宅前に駐めていたジャック・オ・ランタンのペイントが入ったワゴンRに僕を乗せると祭りの会場まで走って行った。
「でもなんでこの車、ジャック・オ・ランタンなの?」
「さあ、前のオーナーの趣味なんだろうけどね。可愛いから気にしてないけど」
 
「さて到着〜♪。もしはぐれたら、ここに12時10分ね」
「うん」
「念のためスペアキー渡しておくから、先に戻って来たら乗ってて」
「ありがとう」
 
僕たちはとりあえず一緒に祭りの会場を歩いた。各町の曳山が威勢の良い木遣歌に乗せて、ひとつまたひとつと集結してくる。拍手や歓声もあちこちであがっていた。ビデオを回している人も大勢いる。テレビ局も来ているようである。
 
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鳩美は出店でイカ焼きを2本買うと1本渡してくれた。
「わあ、美味しい」
「こういうところで食べると不思議に美味しいよね」
「なんか、お祭り久しぶりに来た気がする」
「勉強もたいへんかも知れないけど、たまには息抜きも必要だよ。
あくまで『たまに』だけどね。お祭りって、そのためにあるんだよ」
「そうなんだろうね」
「リオデジャネイロとか、みんなカーニバルのために1年間働くっていうし」
「あああ」
 
「あれ。浜崎町の木遣り、歌い手が若い人になってる」
「よくそういうの覚えてるね」
「町ごとに木遣歌は違うからさ。それぞれが楽しみだよ」
「ふーん」
 
僕らはイカ焼きを食べながらしばらく曳山に見とれていたが、そこに鳩美に声を掛けてくる人がいた。
「鳩美ちゃん、来てたんだ」
「あ、川嶋くん」
どうも同級生かなにかのようである。
「あ、私ちょっと向こうのほうで見ている」と僕は言ってその場を離れた。
 
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僕は出店をずっと見て回った。風船釣り、抽選、鈴カステラ、サーターアンダギー、お好み焼き、....こういうのって昔から変わらないなと思った。
 
少し歩き疲れたので、大きな街灯の周囲に設置されている丸い手すりに腰掛ける。曳山はまだ集まってきている。かなりの数になってきた。もう全体の7〜8割は集まっただろうか。
 
「君ひとり?」
突然声を掛けられて驚いてそちらの方を見る。高校生くらいだろうか?男の子が2人僕の左右に立っていた。
「可愛いね、君。ひとりなら僕らといっしょに少し歩かない?」
「すみません、連れがあるので」
僕は立ち上がり、歩き始めたが2人は付いてきた。
 
「ねえねえ、別に何もしないからさ」
「何か買ってあげるよ」
ひとりが僕の浴衣の袖をつかむ。
「離してください」
「お連れさんいるなら、そのお連れさんと落ち合うまででもいいからさ」
などと言っている。
 
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そこで少し揉めていたら、突然その男の子の腕をつかんで停めた人がいた。
 
「この子、僕の連れなんだけど」
とその人物は言った。この人は知っている。同じ学校の中3で山下君だ。
 
「あ、すまん」
といって高校生2人は退散する。
 
山下君はバスケット部の主将で、小柄だけど素早いポイントガードである。敵陣を華麗に突破するプレイでバスケット部を県大会準優勝まで連れて行った。女の子に凄い人気があり『バスケット王子』などとも呼ばれている。
 
「大丈夫だった?」と山下君は心配そうに訊く。
「ありがとうございます。助かりました、山下さん」
「あ、僕のこと知ってるんだ」
「うちのクラスの女子にも人気だから。こんな所で話しているのみられたら嫉妬されそう」
「あはは。そうか。うちの学校の子か」
 
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「2年生です。山下さん、ひとりなんですか?」
「うん。ぶらりと出てきたから。君は?」
「従姉のお姉さんと一緒に来たのですが、知り合いの男の子と遭遇しちゃったので、私遠慮して離れてきたところなんです」
「へー。気配りなんだね」
「はい」
「あ、君の名前を聞いてなかった」
「えっと。。佐理・・・」
「サリちゃん?あ、僕も大季でいいよ」
「あ、はい。大季さん」
 
僕たちは何となくなりゆきでいっしょに歩いていた。
「なんかね。お祭りって小さい頃はよく来ていたのに、ここ数年は全然来てなくて」
「あ、私もです。ここしばらく来てませんでした」
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