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私と彼女との間には1年目に女の子、3年目に男の子、5年目に女の子が生まれた。彼女は「3人子供ができたから、子供はもういいかな」
というので「じゃ、ちゃんと避妊するようにしようか」と言ったら
「生でできないのも寂しいから、不妊手術とかはダメ?」などと
言いだした。
「それ、どちらが受けるの?」「あなた。私が手術してあげるから」
「別にいいよ。僕も君以外の人と子供作るつもりはないから」
ということで私は彼女の手でいわゆるパイプカットの手術を受けた。
それが10月のことだった。
手術が終わったあと、彼女はこんなことを言った。
「私のわがままであなたの体をいじっちゃって御免ね。代わりに
クリスマスには、あなたにプレゼントをあげる」と。
その時は私もこんなことになるとは思ってもみなかった。
ちなみにパイプカットしても、彼女との性生活には特に変化はなかった。強いて言えば以前より彼女が優しくなったかも知れない気もする。
クリスマスイブ。
子供達を寝かせ付けてから、私たちは居間でシャンパンを飲みながら
歓談をしていた。子供の前ではいつも男の格好をしているが、こういう時には私も女の格好である。今日は彼女が白っぽいブラウスとスカート、私は黒っぽいセーターとスカートだった。私も女声で話しているから
他人が見たら姉妹か仲の良い女友達同士の会話だろう。
そしてその時、彼女が突然こう言った。
「ねえ、ダーツしよう!」
彼女が紙袋からダーツのセットを取り出したが、どうも的の方は
彼女の手作りっぽい。私はこの時になって初めて少し嫌な予感がした。
「ねえ、これどんなダーツなの?」
「あなたへのプレゼントを決めるダーツよ」と彼女は言う。
私は苦笑した。
「的に書いてあるアルファベットは何なのさ?」
「秘密。あとで教えてあげる」
私はどうもかなりやばいダーツのような気はしたが、半ばなるように
なれ、という気分で矢を取ると、彼女が壁に貼り付けた的めがけて
投げた。
『B』という所に当たった。
「大当たり!おっぱいをプレゼントするね」
「ちょっと待って。それどういう意味?」
「あなたのおっぱいを大きくしてあげる。豊胸手術ね」
「えー?いやだよ。それじゃ会社に行けなくなっちゃう」
「大丈夫。FカップとかGカップとか巨乳にはしないから。少しだけ
膨らませれば、女の子の格好した時には自然だし、男の格好している
時もそんなに目立たないし。そうね・・・BからDの間で選ばせてあげる」
「Aは無いの?」
「Aじゃ詰まらないよ。お勧めはCかな。充分『おっぱい』という
感覚が楽しめるから」
私はくらくらとしてきた。
「うーん。せめてBにして」
「じゃ決まり!Bカップのバストにしてあげるね」
「いや、僕はまだ同意してないんだけど」
「しょうがないなあ」
彼女は「ちょっと待ってて」というと、部屋を出て行き病院エリアの
方に行ったようだった。やがて何か肌色の物体を2個持ってきた。
「これうちで豊胸手術する患者さんが事前に自分の好みのサイズを
確認するための小道具。あなたならたぶんこのサイズのパックを挿入
するとBカップになる。ちょっと胸に付けてみて」
私は促されて上半身裸になった。それは胸に密着するようになっていた。
「これでワイシャツと背広と着てみてよ」
「うーん、背広を着れば目立たない。でも背広脱げないよ、これ」
「いいんじゃない?折り目正しい人だと思われるし」
「でも夏になってクールビズとか言われたら・・・・
そうだ、健康診断受けられないよ!」
「まあ、クビになったら、うちの病院で雇ってあげるよ」
私は大きく息をした。
しかし性転換しろと言われているわけでもない。
自分の体におっぱいがあるという状態にちょっと興味を感じた。
それにどうしても嫌だと思ったら、あらためて手術してパックを
抜いてもらえばいい。
「まあ、いいや。ありがたくプレゼント受け取ることにする」
「わーい。あなたのおっぱいを揉んでみたかったの」
「そうか、揉まれるのか・・・」
「じゃ、早速今から手術する?部分麻酔で出来るから」
「なんか痛そうだ」
「我慢我慢」
「ところでさ?」
「なぁに?」
「ダーツの他のは何だったの? AとTとPとV?」
「ああ。Aは喉仏を削る、Tは睾丸を取る、Pはおちんちんを取る、Vはヴァギナを作っちゃう」
私はもう笑うしか無かった。どうやら比較的「当たり」を引いた
ようだ。彼女はこれからする豊胸手術の詳しい説明を始めた。
「クリスマスの朝には豊かなバスト〜♪」
彼女は即興の歌を歌っている。私はあと何年自分は「男」でいられる
のかなぁ、と少し困惑するような気持ちで彼女の説明を聞いていた。
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■クリスマスプレゼント(2)