■庭園物語(2)

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八重作はここは事情を説明して、その後はこの医者の考えに身を任せるしか無いと考え、これまでのことを全部話した。
 
「なるほどな」
 
医者は頷きながら聞いていた。
 
「災難だったな」
「はい」
 
「取り敢えず私は通報しない。おまえたちに任せるが、逃れるすべは少ないぞ。あの関所は簡単には越せない。山の中には至る所に触ると大きな音が鳴る仕掛けがあるから、夜中などに越そうとするならすぐにそれに触れて気付かれてしまう」 
「やはりそうですか」
八重作は力無く答えた。
 
「じゃほとぼり冷めるまで藩内で何とか隠れて過ごすしかないのかな」
「それも難しい。作事奉行配下の侍が多数、街道沿いの村の探索をしているなどと、関所の役人たちが話していた。今は城下町から西の方面への一帯を探しているようだが、そのうち東側にも来るだろう」 
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「どうしよう」
与吉はもう思考停止しているようだ。八重作もいい案は浮かばなかった。 

「そこの南蛮さんみたいに、今のおいらたちと全然違う風体にでもなったらバレないかも知れないけどな」と八重作は苦笑しながら言う。
 
「はっはっは。南蛮人になるのは無理だな。第一おまえ達南蛮の言葉を知らないだろ?」 
と仁庵もまるで笑い事のように答える。
 
「言葉か。それなら女になるんだったら誤魔化せるかもな。女言葉なら何とかなりそうな気もする」と与吉がつぶやく。
 
「女の格好するのか? 確かに俺もおまえも背は低い方だから見た目は誤魔化せるかも知れないが」 
と八重作は答えた。しかしすぐにその先に考えが及んで
 
「関所を女が通る時は検見の婆が、身体を触ったりして調べるぞ」
と付け加えた。
 
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「そうか。服だけ女の服着たってだめか」
そんな会話をしていた時、仁庵の目が光り出した。
 

「おまえたち。いっそ女になってしまうか?」
 
「え?お医者様は、やはり女に変装するのが良いと思いますか?」
「違う。服装だけ女の服を着て、女に変装するのではない。本当の女になってしまうのだ」「はぁ?」
 
「身体もちゃんと女になって女の服を着ていれば検見の婆に触られても問題ない」
「身体も女に?」
「そういう南蛮の秘術があるのだ」
 
「どうすれば女になれるんですか?」
「男と女の形の違う所を変えるだけのことだよ。お前さんたち腹にはけっこう脂肪が付いとるのう」 
と仁庵はふたりのお腹を触った。
 
「この腹のところから余っている肉を少し取ってそれを胸にくっつければ、女のような乳房になる」 
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と仁庵は何だか楽しそうに説明しはじめた。八重作と与吉はどきっとして自分たちの胸を触った。
 
「でもお医者様、もっと違う所がありますが」
と与吉が尋ねる。
「それも合わせ付ければいいこと。棒と袋を取って穴を開け割れ目を作る」
 
「と、取る?」
与吉は引きつったような顔をして復唱した。
 
「それ後で元に戻せるんですか?」
「無理だな、この秘術をした以上、一生女のままだ」
と仁庵はあっさり答えた。
 
「おまえたち完全に女になってしまえば、何とか関所を抜けることができるだろう。手形を持っていなくても、お伊勢参りに行くと行って、多少の金を包めば通してくれる」と仁庵は言う。
 
「お伊勢参り!」
八重作と与吉は声をあげた。その言い訳に気付いてなかった。
 
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「しかし、男のままであったら多少の変装をしてもバレて城下に送られ、首を撥ねられるだろう」「う・・・」
 
「というわけで、ここで魔羅を切って女になるほうがいいか?それとも魔羅を切るのはやめて首を切られるほうがいいか?」 
八重作と与吉は顔を見合わせた。どっちも嫌だ。しかし。。。。。。
 
八重作は村の女房と娘の顔が浮かんだ。自分が下手な捕まり方をすれば女房たちにも害が及ぶかも知れない。しかし自分が永久に発見されなければ、監視くらいは付くかもしれないが、拘束されたりまではしないだろう。向こうも騒ぎをあまり大きくはしたくないはずだ。
 
「お医者さん、やってください」
と八重作は言った。
 
まだ決断が付かずにいた与吉は驚いたように、その八重作の顔を見た。 
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(C)Eriko Kawaguchi 2005-01-04 (改)2013-07-26
 
八重作が「やってください」と言ったことで与吉もやっと気持ちが決まったようであった。
 
「分かりました。おいらも御願いします。ところでお代は?」
男を女に変える秘術など高そうだ。
 
「そうだな」
仁庵は序流寿となにやら南蛮の言葉で話していた。
 
「10両くらい欲しい所だが、おまえさんたち幾ら持っている?」
「待って下さいまし」
 
と八重作は自分の懐を探った。まず自分の財布が出てきたが中身は、工賃と褒美でもらっていたお金を貯めたもので全部で3両と1分あった。更にもうひとつ袋を出す。仁庵の目が険しくなる
 
「その財布は?」
「はい。実は私たちを逃がしてくださったさるお方が下さったものです。どなたかは詮索しないで頂けますか?」「ああ。そういうことなら構わない」
 
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その中を出してみると7両と2朱あった。この端数が如何にも手持ちのお金をくれたという感じだ。八重作は村上に感謝した。
 
「これで何とか10両に」
「あ。でも、もしかして1人10両ですか?」
 
「その7両2朱を財布ごと貰おう。そのような立派な財布をおまえ達が持っていては怪しまれるだろう。私が適当に処分しておく。3両1分はこのあとの路銀用に取っておけ」 
「ありがとうございます」
 

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「それと確かに本来は1人10両なのだが、今回は1人分はタダだ」
「それはまたどうして」
 
「実を言うとな」
と仁庵はふたりに笑顔で話し始めた。
 
「そういう秘術があることを私もさっき序流寿医師から聞いて知ったばかりでな。手本に序流寿が1人手術して、それを私が見学して、もう一人は私が自分でやってみようと思っているのだよ。私の分は勉強を兼ねてだからタダで良い。しかし序流寿医師の分は払ってもらいたい、というわけだが、7両2朱おまえたちに出してもらって残りは私が自分の勉強代で出すことにする」 
自分たちは実験台か!とふたりは少し嫌な気分になったが、お陰で安くしてもらえるのであれば仕方ない。
 
「で、どちらが序流寿に手術されたい?」
ふたりは顔を見合わせる。
 
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「南蛮人さんにされるのは何だか怖いな」
と与吉がつぶやいた。
 
「じゃ。俺が先に南蛮人さんにしてもらうよ。俺が先にやってくれと言ったし」
 
と八重作が言った。
 

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翌朝。ふたりは仁庵の療養室の寝台の上で痛みに耐えていた。喩えようのない凄まじい痛さで、ふたりともこの手術を受けたことを、かなり後悔していた。
 
が、選んでしまった道は後戻りできない。もう男の印は切ってしまった。ふたりは自分たちでも気付かない内に女の服に着替えさせられていたようだ。髪型も変えられていた。どうも化粧までされているようだ。
 
そして仁庵からは
 
「お前たちはもう女になったのだから、この後は男言葉は使ってはならない。全部女言葉で話せ」 
と命じられていた。ふたりは練習にお互い女言葉で会話してみたが最初はどうしても吹き出してしまったりして、なかなかうまく行かなかった。 
ふたりはずっと寝ていた。半月ほどしても痛みは引かなかったのでふたりはとにかくひたすら寝ていたが、ある日、仁庵医師宅に作事奉行配下の侍がやってきた。
 
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「ここにおるのは将軍様の所に行く途中の南蛮医師と患者2人だけだぞ」
「先生、その患者とは村のものですか?」
 
2人と聞いて侍は緊張したようであった。侍は元侍医が相手なので敬語で話している。
 
「旅の者だ。先日近くで行き倒れになっていたので連れてきて治療した」
「どのような者です?」
侍が乗り出してくるが
 
「女だぞ」
と医師が言うと、侍はがっかりしたようだった。
 
「念のため、人相を改めさせて頂けますか?」
「うん。よい」
 
仁庵は侍をまだ苦しんでいるふたりの部屋に案内した。侍は手配書とふたりの顔を見比べたが
 
「全然違う顔だな」
とつぶやいた。
 
髪型を変え化粧までしていてはさすがに同じ顔には見えなかったようである。 
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「患者さん、申し訳ないが、女の人の場合ここまで確かめろと言われているので」 
と言うと、侍はいきなりふたりの股ぐらを触った。激痛が走ってふたりは悲鳴をあげた。
 

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「無礼申した。確かに女でござった。隠れるために女の格好をしている場合もあるからということで言われておりましたので」 
侍はふたりと仁庵に謝って退去した。この時ふたりはやはり手術を受けて良かったのだと確信した。
 
八重作たちが普請場を逃げ出してから2ヶ月たったが、何の手がかりも得られなかった。作事奉行兼普請奉行の金岩も総奉行の木鳥もかなりイライラしていた。
 
金岩が
「どうしましょう。木鳥様。ご家老に報告してもっと探索の手を広げましょうか」
と尋ねたが木鳥は
 
「馬鹿。そんなことしたら、我々の不手際が分かってしまうではないか」
と叱りつける。しかし叱り付けても仕方ないことであった。その時、同席していた与力の村上が
 
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「おそれながら」
と口を開いた。
 

「取り敢えず監禁している死体始末係のふたりなのですが」
「あぁ、そうだった。あいつらも始末しなければ」
「いえ。村に帰してやってはどうかと思いまして」
「何?そんなことができるわけが」
と金岩が言いかけたが木鳥が遮った。
 
「なるほど。一石二鳥になるかも知れない。よい。おまえに任せる」
と言った。村上は一礼して出て行った。金岩はまだ意味が分からずにいた。 
村上が死体始末係の吾作と勘八に各々百両渡して奉行所から解き放った。ふたりはてっきり殺されるものと思って毎日震えて過ごしていたので、この処置に驚いた。
 
「もしかしたら松阪様が何かしてくださったのでは?」
勘八は吾作に言うと
 
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「これからどうする」
と尋ねた。
 
「もちろん村に帰るさ」
と吾作は言う。
 
「そうか」
と勘八は少し考えているようだったが、お互いの幸を祈ってふたりは別れた。 
『あいつらにも逃げる時間は与えていた。仕方ない』
村上は心の中で呟いた。
 

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吾作が水分村に戻ってくると村人達は驚いた。工事中の事故で全員死んだという報せが届いていたので、吾作の妻は泣いて喜んだ。そして吾作にとって平和な日々が戻ったかと思ったのだが、そうではなかった。
 
吾作は村共同の農作業をしたり、庚申待ちの寄りに出たりしながら、次第に周囲の視線が冷たいことに気付き始めた。たまりかねて解放される時に渡された百両を
 
「工事で死んだ仲間の供養のために」
とお寺に寄進したが、その百両がまた疑惑を招いたようだった。
 
いつしか吾作は毎日夕方寺のお堂で念仏を唱えるようになった。その様子を見て多くの村人たちは吾作を許してやってもいいのではないかという雰囲気になってきた。しかし中には納得していない者たちもいた。
 
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ある日の夕方、念仏を唱えていた吾作の所に八重作の妻・ツルがやってきた。ツルはしばらく八重作と一緒に念仏を唱えていた。そして吾作の念仏が108回繰り返されていったん中断した所でツルが一言尋ねた。
 
「吾作さん、あなたも多分とても辛い思いをなさったんでしょうけど、もし教えてもらえることがあったら何かひとつでもいいから教えて下さい」 
吾作はしばらく沈黙していたがやがて迷いを振り切るかのようにこう言った。「八重作はひょっとしたら生きているかも知れない。でもあんたに会うことはないと思う。もし会おうとすればあんたたちごと捕まる」 
ツルはもう八重作とは会えないのだろうということは覚悟していたが、生きているかも知れないと聞いて、少しだけ嬉しくなった。それに付いてツルがもっと聞こうとした時だった。お堂の戸が開いて、やはり人足に出ていて死んだ弥平の妻・トメが荒々しく入ってきた。
 
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「もう我慢できない。吾作、うちの人は本当はどうなったんだ?」
 
吾作は何も答えられなかった。弥平の妻は次々と吾作を詰問するが吾作はただ
「済まん」
と言うだけで何も言わない。
 
たまりかねた弥平の妻が吾作につかみかかる。しかし吾作は抵抗しなかった。ツルが止めようとするが、突き飛ばされてしまう。ツルはこれは自分の手に負えないと思い、寺守を呼びに行った。
 
しかしツルが寺守の老僧と一緒にお堂に駆け戻ってきた時、そこには呆然としているトメと、もう息がなくなって倒れている吾作がいた。
 
村人たちは吾作は事故で死んだことにして、トメの罪は問わなかった。吾作の妻も泣く泣く状況を受け入れることにした。
 

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