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■旅一夜(たびひとよ)(2)

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トイレを済ませてから部屋に戻ると瑞穂は何やら携帯でメールか何か打ち込んでいた。少しドキドキしながらその姿を見る。男の子としては美形だよなあ。私と同じ部屋に案内されて、特に何か誘うような感じもなかったけど。。。いわゆる草食系というやつ?いやむしろホントに男の娘ならそもそも恋愛対象は男の子でふつうに私は女の子同士のつもりでいればいいのだろうか。。。。
 
でも向こうが男女の意識でいた場合、夜中に襲われたらどうしよう。いや待てよ。旅先の一夜の体験なんて悪くないかなあ。後腐れもないだろうし。私セックスしたことないし、一度経験しておくのもいいのかも知れない。。。。
 
私の思考は半ば妄想が混じったものになっていた。
 
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「あ、春奈、夕飯前にお風呂に行かない?」
「あ、え?お風呂?」
「ここの大浴場、広いんだよ。ね、一緒に行こう」
一緒に行こうと言われても。。。。一緒に入る訳じゃないよね!?
 
しかし私はなんだか瑞穂の勢いに押されて、着替えを持って瑞穂と一緒に浴場の方へ行ってしまった。通路の奥、突き当たりに「天然温泉大浴場」の看板があり左側に「姫様」、右側に「殿様」と染められた暖簾が掛かっている。
 
「じゃまた後で」と私が言いかけたところで瑞穂は
「さ、入ろ、入ろ」といって、私の肩を押して、一緒に「姫様」の暖簾をくぐってしまった。なに〜?
「ちょっと瑞穂、なんでこっちに来るのよ?」
私はたまらずそう尋ねた。すると瑞穂は
「え?なんでって、こちら女湯だよね」と言って、きょとんとした顔をしている。
 
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はぁ?私はどう反応していいのか分からず、そのまま脱衣場の中に進む。すると瑞穂はロッカーの前で洋服を脱ぎ始める。あっけにとられて見ている。え?ポロシャツを脱いだ下に瑞穂はブラジャーを付けていた。やはり女装趣味??ズボンを脱ぐと下には女の子パンティを穿いている。そのパンティの中にあれを収めているのだろうか?よくこぼれないな、などと考えた。
 
「ん?どうしたの?脱がないの?」と瑞穂は不思議そうな顔をしてこちらを見ている。そしてそのままブラを取ると、Bカップくらいの乳房が姿を現した。もしかして豊胸済み?などと思っていると、瑞穂はパンティも脱いでしまう。そこには・・・・何も付いてなかった。
「どうしたの?私先に入っちゃうよ」
「あ、私も脱ぐ」
といって私は瑞穂の隣のロッカーを開け、服を脱いでそこに入れた。
 
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一緒に浴室のほうに行く。掛かり湯をし、あのあたりを洗ってから湯船につかった。瑞穂のそばに行き、あらためてその身体を見た。
「瑞穂って・・・・女の子?」
「えー?何を今更。ボク、男の子に見える?」
「いや、女の子だよね・・・・」
私はそれではさっきトイレで小便器の前に瑞穂が立っていたのは、幻か何かだったのだろうか?と思いたくなった。
 
お風呂から上がり、部屋に戻ると、ちょうど中居さんが晩ご飯の用意をしている所だった。最近は食堂で御飯を提供するところが多く、このように各部屋まで持ってきてくれるところは珍しい。
 
「焼き魚が、今焼いたばかりって感じだね」
「そうそう。ここのサービス凄いんだよね。ここまでするのって普通は1泊3〜4万取るところでしょ。1泊2食付き8000円の宿で、ここまでするって全国他に例がないんじゃないかな。ボクここに泊まるの3回目なんだけど、感心する。ここの温泉の宿の中ではいちばん好きな宿のひとつ。配膳の時間と人員配置まで考えて計画的に調理をしているのよね。だから作りたての料理を各部屋にきちんと配膳できるんだ。凄いプログラムが動いているんだって。人間の勘だけでは無理だよね」
「へー」
「わあ、美味しい」
 
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焼き魚にしてもトンカツにしてもほんとに作ったばかりという感じである。それでいてお刺身も新鮮な感じだ。
「御飯も炊きたて!」
「うん。各部屋毎にその部屋用の炊飯器で炊いてるから。炊くこと自体は炊飯器に任せちゃうかわりに、ちゃんと炊きたてで持っていく。良い米を使うとか、プロの炊き方したりしても、炊いてから時間がたっちゃうと味が落ちる。少し等級の落ちる米を炊飯器で炊いたのでも、炊きたては美味しい」
 
「でもここ何度も来てるのね」
「うん。妹の命日に合わせてね」
「え?妹さんが亡くなったの?」
「もう5年前になるな。夏に家族で遊びに来ていて崖から落ちてね」
「それは・・・・」
「両親は辛いからここに来たくないというんだけど、ボクはこの時期に来ると妹と会えるような気がして、毎年来てるんだ。泊まるのはこの宿だったり、あるいは別の宿だったり、毎回いろいろだけどね」
 
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その時私は急に眠気が襲ってきた。
「ごめん、なんだか眠くなって来ちゃった」
「ああ、少し寝るといいよ。残った御飯、起きてからまた食べるといい」
「うん、そうしようかな」
「膳を下げにきたら、あとでまた食べるから待ってと言っておく」
「ありがとう」
 
私はとにかく眠たかったので、そのまま布団に潜り込んでしまった。
瑞穂はまだ妹さんのことを言っていた。
「ずっと一緒にいたのに、事故の起きる30分くらい前にちょっと喧嘩しちゃって別行動してたんだよね。それが悔やまれて」
「そういうのって、なんか悔しいよね。でも瑞穂のせいじゃないよ」
「うん。そうは思うんだけど・・・でも兄1人妹1人の兄妹でさ、いつもは凄く仲良くしていたのに。ボクは兄として、何かできなかったろうかと悔やまれて・・・」
ん?兄!?ちょっと待て・・・・瑞穂って、やっぱり・・・・
 
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と思った時、私は強い睡魔に襲われ、そのまま眠りの中に落ちてしまった。
 
目が覚めた時、私は部屋の中にひとりでいた。携帯の時刻表示を見ると1時間くらい寝ていたようだ。御飯が冷めているが、部屋は冷房が効いているし、痛んだりはしていないようなので、私は食べかけの御飯を少し食べた。冷めても美味しい。だけど。。。瑞穂はどこに行ったのだろう。お膳は1つだけ残っている。瑞穂の分は下げられたのだろう。そして仲居さんが下げに来た時、私の分は待ってと言ってくれたのだろう。
 
しかし眠り込んでしまう直前の瑞穂の話って。。。。。
 
その時だった。部屋のドアをドンドンと叩く音があった。
「はい、どなたですか?」
私はドアを開けないまま、ドアの向こうの人物に尋ねた。
「すみません。宿の者です。お連れの男の方が崖から落ちて大怪我して」
「え?」
私はドアを開けた。
 
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宿の法被を着た男性2人が担架を持っていて、その上に瑞穂が横たわっている。
「ちょうど通りかかりの人が見つけて、うちの宿の浴衣を着ておられたのでうちに通報がありまして」
「あ、春奈。妹の落ちた崖のところでお祈りしてたら足すべらせちゃって」
「とにかく中へ」
 
担架が中に運び込まれる。
「今、お医者さんを呼んでますので、少しここで休ませてあげてください」
「はい」
 
宿の人が出て行く。私はドアを閉めて、それから瑞穂の所に駆け寄った。
「大丈夫?」
「うん。足折れたかも知れないけど、それ以外は大丈夫っぽい。あ、いたた」
「痛いのね。手握ってあげる」
「ありがとう」
そういえば瑞穂の手を握るのはこれが最初だ。暖かい手だなと思った。
 
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そんなことをしていて5分も経った頃だった。
ドンドンドンとドアを叩く音がする。お医者さんが来たのだろうか??私はドアの所に寄ると
「はい、どなたですか?」
とドアを開けないまま尋ねた。
「すみません。宿の者です。お連れの女の方が崖から落ちて大怪我して」
「え?」
私は驚いて、部屋の中にいる瑞穂のほうを振り向いた。
 
瑞穂が真っ青な顔をしている。
「だめだ!それはきっと妹の幽霊だ!開けちゃだめ」
 
しかし私はドアの方を見て、それを開けた。
 
宿の法被を着た男性2人が担架を持っていて、その上に瑞穂が横たわっていた。
「ちょうど通りかかりの人が見つけて、うちの宿の浴衣を着ておられたのでうちに通報がありまして」
「あ、春奈。兄さんが落ちた崖のところでお祈りしてたら足すべらせちゃって」
「大丈夫?」
「うん。足折れたかも知れないけど、それ以外は大丈夫っぽい。あ、いたた」
「今、お医者さんを呼んでますので、少しここで休ませてあげてください」
「はい」
 
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その時、私は部屋の中を振り返った。
果たしてそこには誰もいなかった。
担架も無かった。
 
「とにかく中へ」
担架が中に運び込まれ、さきほど担架が置かれたのと同じ場所に瑞穂を乗せた担架は置かれた。私は瑞穂の手を取ってあげた。
暖かい手であった。なんかさっきと同じ感触がした。
「大丈夫だよ、瑞穂。私がずっと手を握っていてあげるからね」
「うん。ありがとう」
 
「ね、瑞穂。瑞穂の学生証、見せてくれない?」
「え?なんで?いいけど。そこの黄色いバッグに入ってるよ」
「じゃちょっと見せてね」
 
私は瑞穂の黄色いバッグを開け、中に入っている学生手帳を取り出し、最後のページを開けた。そこにはセーラー服を着た瑞穂の写真が貼り付けてあった。
 
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