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彼がそれに気づいたのはある日、ずっとライバルと思っていた同僚が先に部長に昇進した日の「お祝い会」の帰り、ひとりでコンビニで更にお酒を買って駅のベンチで飲み、トイレに入った時のことであった。
 
「何だろう」そこにしこりのようなものがあった。が、その日はもう疲れていたので、気にする力も無かった。実際その日どうやって家まで帰ったのかもよく覚えていない。
 
そのしこりは少しずつ大きくなっているような気がした。1ヶ月ほどたったある日、彼はそのことを女房に言った。女房は彼のそれをチェックして、「これ病院に行ったほうがいいと思う」と言った。
 
そんなのを見てもらう時にどこに行けばいいのか検討も付かなかった。おそるおそる産婦人科に電話をしたら、泌尿器科に行きなさいと言われた。その週は忙しかったし、病気の場所を言って会社を休むのも恥ずかしい気がしたので、土曜日の午前中に予約を入れておいた泌尿器科を訪れた。
 
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診察した医師はかなり難しい顔をした。何かたいへんな病気なのだろうか。「組織検査をしますので、この部分少し切りますよ」と言われた。そんな所にメスを入れられるとは思っていなかったので、ぎょっとしたが検査なら仕方ない。一応麻酔を打ってもらったが、その麻酔の注射自体がけっこう痛かった。また切られたあとも数日痛かった。
 
検査の結果は翌週になるといわれて、翌週もまたその病院を訪れた。
医師は先日より少し明るい感じの顔をしていた。彼は検査の結果が比較的良かったのかなと思って少し楽な気持ちで椅子に座った。
 
「で検査の結果ですが、悪性のものではないですね」「悪性というと?」
「つまり癌ではありません」「あぁ、そうですか。良かった」
「ですから手術して、これを取ってしまえば問題ありませんよ」
「助かります。まだ家のローンも15年残ってますし、息子も中学と高校で今私が死んだりしたら大変ですから」
「では手術しますか?」
「ええ、御願いします」
 
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「手術の方針なのですが、MRIで見たところ、良性ではあるのですが、病巣がかなり根深いんですよ。それで、安全を優先したら、陰茎を全摘したほうがいいのですが、構いませんか?」
「ゼンテキって何ですか?」
「全部取ってしまうことです」
と医師はにこやかな顔で言った。が彼はそれまでの笑顔が凍り付いた。
「ちょっと待って下さい。先生、ちんちん取っちゃうんですか?」
 
「そうです。その方が安全です。病巣を万一残してしまうと、そこが
今度は悪性化、つまり癌に変わってしまったりする危険もあります」
「ちんちん取っちゃったら、私はどうすればいいんです」
「別に取っても大丈夫ですよ。もう子作りは終了なさっているんですよね」
「ええ、まあ」
「排尿はちゃんとできますし。立ってするのは難しいかも知れませんが。ああ、そうですね。排尿の障害になるので、陰嚢もいっしょに取りましょう」
「**タマも取るんですか?」
「いえ。睾丸は取りません。体内に埋め込みますのでホルモンバランスが崩れたりすることはありません。もっとも体内に埋め込んだ睾丸はまれに障害が発生することもあるのでいっそ取ってしまった方が安全性は高いですが。あなたの年齢を考えると、取った上でホルモンの補充療法をしたほうが、いいかも知れませんね。」
「ちんちんも**たまも無くなったら、私は女になっちゃうんですか」
「別に性転換手術するわけではないですよ。膣を作ったりはしませんし」
「どんな感じになるんですか、。。。。ああなんか頭が痛くなってきた」
 
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「うーんとね。仕上げの仕方として、股間におしっこをする穴がひとつあいている状態にする手法と、それだと尿道口が下着にこすれて炎症をおこすことが良くあるのでね、ひふのヒダを作ってその中に尿道口を
あける手法があります。後者のほうがおすすめですよ」
「それってひょっとした見ただけだと、まるで女の股間なのでは?」
「いえ。尿道口のあく場所が女性とはまるで違います。女性の場合よりずっと前ですね。ですからおしっこは前に飛びます。むろん女性と同じような場所に調整して、下に飛ぶようにすることもできますが。この
付近は患者さんの希望にそって処理します」
 
「あの。済みません。少し考えさせてもらえませんか」
「いいですけど。時間がたつと、それだけ病気は進行しますよ」
「では来週までに考えておきますから」
「分かりました。では来週、決断できたら即手術できるように準備
だけはしておきましょう」
「済みません」
 
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彼は家に帰ると女房に相談した。
「ちんちんもタマも取らないといけないらしいんだ。どうしようか」
「取ればいいんじゃない?」
と女房はあっけらかんと答えた。
「俺のちんちんなくなっても構わないの?」
「あたしのじゃないし。それにそもそもそのちんちんずっと使ってないじゃない。私たち最後にHしたの、いつよ?」
彼は思い出すことができなかった。
「あの時はフランスでワールドカップやってたわよね。もう何年たつのかしら」
確かにここ数年は仕事が忙しくて、夜の生活はとんとしていなかった。
「ちんちんなくたって私は何も気にしないから、ちゃんと病気の治療のことだけ考えて。あなたが死んじゃったら、私少しは悲しいんだからね」
彼はその言葉で手術を決断した。
翌週の土曜日、病院には女房も付き添ってきてくれた。
ふたりでどこかに出かけるということ自体、なんだかひさしぶりのような気がした。
 
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結局手術の方針としてはもっとも安全策をとるということで陰茎は全部切除。睾丸も除去して、陰嚢もかなり切り取った上で残りを利用してひだを作り、その中に尿道口が開くようにしてもらった。おしっこが前にとぶと実際問題として座っておしっこをした時に不便ということで、下にとぶように、尿道口は比較的うしろのほうに開けてもらった。
 
手術は全身麻酔でおこなわれたが、麻酔からさめた時、結構な痛みを感じた。ちょうど連休にひっかかったので有休を何日かとって一週間休ませてもらい、その間入院していた。傷口が完全に治ったのは1ヶ月後である。最初にその部分を見た時、彼はショックであった。見慣れたものがなくなり、まるで形が変わってしまっていた。死にたい気分だったが、女房や子供たちのことを考えると頑張らなければと思った。
 
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女房が手術したあとの状態を見たがったが、完全に傷がなおるまではさすがに見せるのを渋った。とうとう根負けして見せた時女房は「あらきれいになったわね」と面白そうにいい、そのままそこを口でなぐさめてくれた。
 
「これってもうフェラじゃないよね。クンニなのかな」と女房は冗談めかせていったが、女房とこういう睦みごとをするのは久しぶりなので、悪くない気がした。結果的に、ふたりはその後長く途絶えていた夜の生活をしばしばするようになった。子供達が小さいころは邪魔されるという問題もあり、できずにいたし、またそれ以上子供を作りたくなかったので不用意な妊娠をおそれていた面もあった。しかしもう子供も理解してくれる年齢になっているし、妊娠の心配はなくなったので自由にできるのである。それと彼はペニスがなくてもけっこうな性的快感があることに気づき、結果的にこの手術は良かったのかなとも思った。
 
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排尿は座ってしなければならないのでトイレはいつも大の方に入ってするようになった。それまで前あきのあるブリーフをはいていたのだが、前あきを見ると何だかいやな感じがするので、前あきのないのを少し買っておいてと頼んだら、女房は「いっそ女物はいてみる?」と言い出した。「だってその方が安いし」
という。安いと言われては反論できない。住宅ローンは大変だし、今回の病気で医療費もけっこうかかったのである。試しにといって女房が買ってきたものをはいてみたら意外にはきごこちがいいので楽しくなった。女房は悪のりしてレースの派手なのとか、花柄のとか、バックプリントの可愛いのとかまで買ってきた。さすがにレースは勘弁してもらったが、花柄などはくと何だか明るい気分になるのを感じて、彼は結局これにハマってしまった。
 
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女物のパンツの次はスカートだった。「おしっこする時にいちいちズボン脱ぐの大変でしょ。家の中だけでもスカートはかない?トイレが楽だよ」という。騙されたと思ってはいてみたら、確かにトイレが楽だ。ふたりの息子たちも「父さん、けっこう似合うよ」などというもので、すっかり乗せられて、日常家の中ではスカートをはくようになってしまった。スカートをはいていると、足に毛がはえているのは何だか見苦しい気がした。女房に相談したら剃ればいいというので、彼は毎日お風呂で足の毛を剃るようになった。
 
翌年の春、その年は結婚20周年だった。女房がどこか旅行に連れて行けと言い、息子達もふたりで行っておいでよと言った。「フルムーンパス使えるかな」
といって調べてみるとこれはふたりの年齢が合計88歳以上でないと使えないことが分かった。彼は45歳、女房が40歳なので、まだ無理である。そこで安いツアーなど無いかなとも言ったのだが、女房はツアーは忙しいから嫌だと言う。そして突然思いついたように「ナイスミディパス使おうよ」と言い出した。調べてみるとこれはどちらも30歳以上であれば使える。しかし対象は女性である。「いいじゃん。あなたも女性で通せば。万一裸になってもちんちん付いてないんだから大丈夫よ」結局、彼はこの意見に押し切られてしまった。
 
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初めてブラジャーなど付けさせられて、眉も削られお化粧をほどこされ、不安げにワンピースを着てパンプスを履いた彼は、にこやかな表情の女房に手をとられてナイスミディパスを片手に特急のグリーン車に乗り込んだ。
 
彼は自分の人生の行方が分からなくなりつつあった。
 
(2004.09.17)
 
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