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■願い事の木(1)

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(C)Eriko Kawaguchi 2003-09-07

 
和佳(かずよし)は会社の帰りがけ、なにげなく商店街を通った。これから3日間の連休。同僚たちの中にはあちこち旅行に行く人もいるようだったが和佳は特に予定はなかった。「3日間何をしようかな...」ぶらぶらと歩いているうちに、イベントスペースに大きな木が立っていてその周りに人だかりがしているのに気が付いた。
 
なにげなく近づいてみると「願い事の木」と書かれている。
 
この木は願い事が叶うことで有名なフランスのルルドにあった木を1ヶ月間だけ借りて、特別に輸送して来たものです。ここにあなたが気持ちを込めて願い事を書けばきっと叶うでしょう。
 
そんな説明を読んで、和佳は何か書いてみようかと思った。木のそばに置かれた短冊を手に取る。取った瞬間書きたいことは決まっていた。それは彼が子供の頃から心ひそかに思っていたことだった『女の子になりたい』
 
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そういう気持ちがあったのを彼は今まで25年間ずっと隠してきていた。小学生や中学生の頃、ひとりで家で留守番をしている時など、母親の洋服をこっそり身につけたり、こっそりお化粧したりしていた。しかしそういう思いはずっと心に潜めていたので、そのことを知る友人などもいない。名前の「和佳」が「わか」と呼んでしまうと女性の名前に見えるので、名前だけから女性と間違われたことはよくあるが、そういうことで友人からからかわれたりしてもただ笑ってやりすごしていた。
 
彼はドキドキする思いで短冊に「女の子になりたい/和佳」と書いた。しかしそこでいつも彼を抑圧していたもうひとりの自分が動き出した。『そんな願いまるで変態じゃん』彼はその声になんとか抵抗しようとしたが無駄だった。そして結局その声に妥協して「可愛い」ということばを先頭に付け足した。「可愛い女の子になりたい/和佳」これなら変な願い事には見えない。彼はその短冊を、あまり人に見られないように、木の内側のほうに吊した。
 
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自宅に帰った和佳はお腹が空いたので、ありあわせの材料で晩ご飯を作り、お風呂に入って寝た。その頃には「願い事の木」のことはすっかり忘れていた。彼は4つ下の妹の黎子とふたりで暮らしている。本当はひとりで暮らせたら、せめて家の中だけでも女装できるのにと思っているのだが、大学に通う黎子をひとり暮らしさせたくなかった両親が、黎子に彼の所で一緒に暮らさせるようにしたのである。自分自身の学生時代は大学の寮のふたり部屋だったし、結局彼は一度もひとりで暮らすという体験をしていない。
 
その妹は友人たちと一緒に4日前から海外旅行に行っている。そこで月曜日の夕方までの3日間は彼ひとりなのであった。
 
和佳のその日の夢はなんだか不思議だった。夢の中で和佳はスカートを履いていた。これは実はよく見る夢だったが、スカートを履いているのに会社の同僚の田中が目の前にいた。向こうがこちらをじっと見ているのに気づいて彼は急に恥ずかしくなって逃げだそうとした。そこをその同僚が手をのばして彼の手を引っ張る。手を振り払おうとするが、向こうの力が案外強い。彼はそちらに向き直ってもう一方の手で相手の手を外そうとして。。。。
 
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そこにいるのが田中ではなく見知らぬ女の子であることに気づいた。
「あなたが和佳(わか)さん?」
 
そう名前を呼ばれるのには慣れているので彼は反射的に「はい」と言ってしまった。「私は願い事の木の精です。1日にひとりだけ願い事を叶えることになっていますが、今日はあなたの短冊が木のいちばん内側にあったので、あなたの願いを叶えることにしました」
 
え?え?
 
そういえば夕方そんなことをしたんだった。夢の中なので記憶が正常に働いていない。
 
「『可愛い女の子になりたい』ですね。了解です。では早速。こちらを向いて。うーん。ちょっとエラが張っていて男っぽい顔ですね。もっと女らしくフォルムを変形してあげれば、目鼻の配置とかは、元々けっこう可愛いタイプですよ」
そう言うとその女の子は彼の顔の両頬のあたりに手をあてぎゅっと押してきた。なにか彼女の手から暖かいエネルギーが流れ込んでくる感じがする。
 
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「はい。OKです。鏡を見てみて。えっと、あぁ隣の部屋に鏡台があるわね」
彼女は和佳の手を引いていき、たまたまふすまが開いていた妹の部屋の中の鏡台のところに彼を座らせた。鏡の中をのぞき込んでびっくりした。確かに顔自体は間違いなく自分の顔なのだが、どことなく女っぽく変わっている気がする。
 
「じゃあ、私はこれで。。。。あれ?」その時、彼女は突然顔をしかめた。「あなた、全然胸が無いわね」「あ、はい」
 
「しょうがないなぁ。胸も大きくしてあげるか。まるで男みたいに平らな胸だわ。でも材料が。。。あ。このお腹。。。あなた少しダイエットしなさいよ。なぁに?このお腹。お腹の方が胸より大きいんじゃない?女の子として失格。ちょっと上半身裸になって」
 
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和佳は言われるままにパジャマを脱いで上半身裸になる。「ほんっとに男みたいな体型ね。ちょっとそこに横になって」和佳が横になると、女の子は和佳のお腹のあたりに手を当ててぎゅっと力強く押した。強く押されてはいるのだが全然痛くない。とても暖かい感触が伝わってくる。その暖かい感触がお腹の付近から次第に胸のあたりに移動してきた。すると胸が急に張る感じがしてすこし皮膚がひっぱられる感覚がある。
 
「こんなもんかなぁ。起きてみて」和佳は起きて目の前の鏡の中を見る。すると鏡の中にバストの豊かな人物が映っていた。その代わりウェストの付近がくびれている。ハッとして自分の胸を見ると、いつの間にかそこに豊かな膨らみができていた。「ブラジャーはCカップが必要だから買い直してね。あなたの胸なら今まではAカップだったんでしょう?」
 
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と言われても和佳はブラジャーはしたことがない。「いえ。いつも付けていません」というと、女の子は呆れたように「だからなおさら胸が発達しないのよ。小さくても、寄せて集めてのブラとか付けてれば、少しは大きくなるんだから」
と言う。
 
「うーん。肩も少し張ってるな。もう少しなで肩にしてあげる」女の子が和佳の両肩に手を置き、しばらくしてから離すと、肩のラインが確かに柔らかくなっていた。「あー、あなた喉仏も大きい。まるで男みたいに大きな喉仏ね。これも小さくしてあげる」女の子は今度は喉のところに手を当てた。しばらくしてから離すと、喉の出っ張りがなくなりスムーズなラインに変化していた。「あなた、けっこう低音だもんね。これで少し声のピッチも高くなるかも」と言う。
 
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「じゃ、これでもう帰るわね」といって女の子はいったん玄関の方を向いたが、ふと思い直したように「足見せて」と言った。「足が太すぎちゃ『可愛い女の子』
とはいえないし。とっくに私の本来の作業時間オーバーしてるけど、ここまでやったら徹底的に改造してあげるわ。サービス残業だけど、まぁいいや」
 
和佳がパジャマのズボンを脱ぐと、女の子はため息をついて和佳の足を触った。
「太いなぁ」
 
和佳は女の子志向から足の毛はいつも剃っているが、太さはやはり女性の足のサイズではない。
 
「少し引き締めるか」女の子はそういうと、和佳を立たせたまま、両方の足の先付近に片手ずつ手をやり押さえると、そこから上のほうに、ゆっくりと手をあげてきた。手が通過した付近が細くなっていくのが分かる。その分彼女の手の上のあたりが異様に膨らんでいた。その膨らみを彼女は足の付け根の付近で後ろの方に押しやり、おしりの付近に押し寄せた。それでおしりが大きくなった感じがする。しかしそれでも肉が余ってしまったようだ。彼女はそのまま余った分の肉をからだの上のほうに押しやり、最終的にバストの所に押し寄せた。
 
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「バストがDカップになっちゃったな。突然AからDになったら肩がこったりするかも知れないけど、美女の宿命。頑張ってね」そういってから彼女は、ふと足のつけね付近の前の方に、うまくおしりのほうへ移動できなかった肉が少し残っていることに気づいた。「おっとあたしとしたことが。これもお尻へと」と言って寄せようとした時、彼女の指が『そこ』に触れた。
 
「え?」
 
彼女は目をぱちくりさせた。「えー!?」
 
彼女は和佳のトランクスを無理矢理脱がせた。
 
「うそー!?あなた男だったの?」
 
「はい」和佳は小さな声で答えた。
 
彼女は、どっと疲れたようで、鏡台の椅子に腰をおろし、頭を抱え込んでしまった。そしてたっぷり5分くらいしてから「男が『可愛い女の子になりたい』なんて書くなよ。この体型どうすんの?この身体でこれから生きてくつもり? これ結構無理して肉を移動させたからさぁ、最低1年くらいは元の体型には戻せないよ」
 
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「いえ。本当に女の子になりたかったんです」
 
和佳がそう言うと、願い事の木の精の女の子はしばらく考えているようだったが「確かに、時々そんな人いるよね。でもそういう人って単に『女の子になりたい』と書くからさ、それでこちらも最初からそのつもりでやるんだけど。まいったなぁ」と言い、大きくため息をつくと
 
「じゃあ。そこもちゃんと女の子にしてあげるから」
 
と言い、和佳に仰向けに寝て、股を開き足を曲げるように言った。
 
「気持ちを楽にして。変に興奮すると失敗するから」「はい」
 
女の子は和佳の男性の印を手で握った。女の子からそんなことをされれば普通なら興奮してしまうのだが、今日は自分の身体がどんどん女性化していくのを見ていたせいか、あまり変な気分にならなかった。普段ならそこを自分で触れば大きくなるのに、彼女に触られ静かにさすられていると逆に小さく小さくなっていく気がした。彼女の手からは不思議な暖かさが伝わってくる。こちらの気持ちもなんだか静かな気分になっていく。彼女の手がその後ろの袋の部分にも掛かった。そこも一緒に押しているようだが痛くもないし、特に興奮もしない。心がとても澄み切っていくような気分だ。
 
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彼女の手がゆっくりと身体を押している。長い時間が経過した気がする。やがてその手が身体の中に入ってきているのを感じた。それは最初は少しだけ入ってきて、やがては身体の中に手首より先がすっぽり埋もれてしまったかのような感覚だった。「もういいよ。見てごらん」
 
そこには見られたものは無くなっていた。代わりに可愛い割れ目ができていて、おそるおそる広げてみると、少し湿度のある領域ができていた。
 
「いろいろ触ってみて。違和感のある所は修正しないといけないから」
 
割れ目の中の上のほうからそっと触ってみる。ちょっとこりこりする部分がある。その下に小さな穴があり、更に後ろのほうに指をすべらせていくと、指がいれられるくらいの穴があった。おそるおそる指を入れてみるとけっこう入っていく。
 
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「そこが膣だよ。ちゃんと男の人とセックスできるだけのものを作ってるから。その先にはちゃんと子宮と卵巣も作った。前立腺は消してる。卵巣は君の精巣を改造して作っているけど、急増だから女性ホルモンは2〜3ヶ月もしたら分泌するようになるけど、卵子ができるまでには最低でも5年はかかると思う。だからそれまでは月経もないし、赤ちゃんも産めないよ。ただ骨盤は広げてあるから、月経が始まったら妊娠も可能なはずだけどね」
 
赤ちゃんが産める??自分が??
 
なんだか信じられない気分だ。
 
「さて、それじゃ私は帰るけど、このあとは色々大変なこともあるかも知れないけどさ、そこまでは私も面倒見切れないから、自分でなんとかしてよね。どうにもならない気がした時は私を呼んで。アフターサービスで3回までは助けてあげる。私の名前はローライナ」
 
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「ローライナ?」
 
「そう。でも『みんなが自分はずっと女だったと思ってくれるようにして』
とか、そういうのは無しよ。人の記憶を操作したり歴史を改ざんすることは禁止されているから。じゃ、さよなら」
 
彼女はそう言うと、ドアの方に向かって歩いていき、そのまま姿が消えた。
 
次の瞬間、和佳は夢から覚めて、目をぱちくりさせ、見慣れた天井の模様を眺めていた。
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