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■稚児灌頂(1)

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目次

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(C)Eriko Kawaguchi 2001-08-07

 
私は沐浴斎戒するよういわれ、院の奥にある心字池の前で服を脱ぎ、裸になって水に入った。冬の水は冷たいが2年間の修行の成果でそんなに辛くはなくなっている。「観自在菩薩....」私は水の中で身体を引き締めて般若心経を唱えた。
 
水から上がると先輩の徳大和尚が手ぬぐいを渡してくれたのでそれで身体を拭く。冬の風が身体の表面を削るように吹き抜ける。まだ水の中にいた内のほうが楽だった。そして徳大和尚が今夜着ることになる服を渡してくれた。今夜は下着は付けない。純白の衣装は、人身御供の名残なのだという。これは一種の捨身の行なのかも知れない。
 
まるで女性の長襦袢のような感じの白い衣装を付けるととても暖かくて気持ちがいい。更に白い長着を着せられ、次に引きずるような裳を付け、最後に白い羽織を付ける。婚礼衣装に似ているが、これもさきほど言ったように人身御供の儀式に通じるものがあり、要するに仏に捧げられる「いけにえ」、仏との結婚を意味するのであろう。この灌頂を受けた者は一生結婚することを禁じられることになっている。(その本当の意味は半年後に知ることとなった)
 
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更にまさに婚礼に望む花嫁のように化粧を施される。お白粉を塗られ、アイシャドウのような隈取りをされ、頬には伊勢の最高級の頬紅、そして唇にも紅を乗せる。「特別に鏡を見せてあげるよ。本当はこんなことしないのだけど」と徳大和尚が懐から小さな鏡を出してくれた。夕日の中で自分の顔が映る。その美しさに私はちょっと驚いた。素敵な花嫁になれたようだ。
 
夕日が落ちると共に和尚が手を引いて、院の再奥の琵紹殿の階段を登っていく。その奥に普段誰も近寄ることを許されていない小部屋がある。その襖は豪華に金を使った琳派と思われる絵が描かれていた。
 
私はかねて教えられていたようにその前で膝を折って正座すると、3本の指で襖を開け、立たずに座ったままひざで進んで中に入る。そして先導の徳大和尚を外に残したまま、やはり3本の指で襖を閉めた。徳大和尚が去っていく足音がする。
 
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室内は暗い。しかし目が慣れてくると中央に白い布団がひとつ敷いてあるのが分かった。私はやはり座ったままそのふとんのそばまで進み、枕元のところで正座して時を待った。
 

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(C)Eriko Kawaguchi 2001-08-21
 
やがて足音がして、襖がすっと開く。私は緊張した。
 
誰かが入ってきたようだがもう暗くて顔は見えない。しかし徳大からは「偉い人」
とだけ聞かされていた。その「偉い人」は私のそばに近かづいてくると後ろから突然強く私を抱きしめた。あんまり強く抱きしめられたために私はかえって緊張が解けてしまった。声を出しそうになったが『絶対に声をあげてはならない』という指示を思い出し、かろうじてもちこたえた。
 
「偉い人」は私をそのまま布団の中にひきずりこむと、私の裳を荒々しくめくり、その下の服のすそもめくって私の下半身を顕わにした。そして指で蟻の戸渡りの部分をなぜ始めた。思わずからだが反応する。肉を食べない食生活のおかげで久しく感じていなかったものであった。
 
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それは長く続いた。私はもう頭の中が空白になり、つい指示を忘れてあえぎ声を出してしまった。それを聞くと「偉い人」は別の部分に指をずらし始めた。頭が完全に空白になり、自分でも何をされているか分からない時間が過ぎ去っていった。
 
覚えているのは「偉い人」が襖を閉じて去っていった時の足音からである。そこまでの途中の記憶が飛んでしまっている。しかし私はそのままの状態で長い間何もできずにいた。やがてまた足音が近づいてきた。「もう一度されるのかな」
ほとんど死にかけた頭がそんなことを考えていた時、襖の向こうから小さな声がかかった。「裕高和尚」それは徳大だった。「はい」私は慌てて返事をした。
 
「ちゃんと始末しましたか?」「はい、今すぐ」私の頭が再び回転し始めた。私はかねて言われていた通りに懐紙でその部分をきれいに拭くと、布団の乱れを整え、またひざで歩いて襖の所に行き、三つ指で襖を開ける。そして徳大に詫びをするようにおじぎをして外に出て、また三つ指で襖をしめた。
 
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「さぁ、行きましょう。本当は一人で降りてくるべきところなのですが、初めてですしね」そうこれは単に「最初」のできごとなのだ。徳大に連れられて階段を降り、階下の支度部屋に戻る。ここで私は花嫁衣装を着せられたのである。「疲れたでしょう。これをお飲みなさい」徳大が暖かい薬草の茶のようなものを飲ませてくれた。からだがほてって、ホッとした。「半年間続く大事なお勤めですからね。頑張ってくださいよ」徳大が言う。そう、このお役目はこれから週に2回、半年間続く。それが完了すれば私は住職の資格が得られることになっている。
 
花嫁衣装のような感じの衣装を付けたのは最初だけであった。2度目からはどちらかというと、まさに女性の和服という感じの服を着せられ、化粧はしっかり施された。3度目の時に眉を細く剃られた。また5度目の時は足の毛を全部きれいに剃られてしまった。それ以降は毎回剃られたが最初に剃られた時ほどは時間がかからなかった。先導してくれるのは徳大さんか正伝さんである。終わるとあの薬草の茶が待っていた。
 
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このお役目をしている内に私は自分の身体の変化に気づいた。毎回女人のような扮装をしているせいだろうか、灌頂部屋で「偉い人」から灌頂を受ける時にごく自然に反応ができるようになり、意外と気持ちよくなるのを感じた。またそれと反比例するかのように男の部分があまり反応しなくなってきた。徳大に聞くと「余分な欲望が起きなくなっているのですよ。修行が進んでいる証拠ですね」と褒められた。3ヶ月目ころからは、それは全く大きくならなくなった。それどころか自分でそれを触りたくなる気もあまりしなくなった。以前は性欲が落ちているとはいっても週に一度はしてしまっていたのであるが。
 
そしてもうひとつ、心持ちか胸板が厚くなってきているのを感じていた。灌頂の時は「偉い人」からかなり強烈に胸をもまれる。そのせいで胸が発達しているのかも知れない。もうあと灌頂も1ヶ月くらいで終わりという頃になると、胸はまるで女人の胸のように膨らんでいた。さすがにちょっと恥ずかしい気がして徳大に尋ねたが「私も灌頂を受けていた頃はそのように大きくなりましたよ。やはりもまれているせいでしょう」と言った。正伝さんに聞くと何故か笑っていた。
 
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(C)Eriko Kawaguchi 2001-11-05
 
やがて最後の灌頂の日が来た。
 
今日はまた花嫁衣装のような衣装であったが、最初の日と違ってカラフルである。本物の花嫁衣装のような感じである。角隠しに懐剣までもたされた。こんな格好をするのも最後かと思うと、全然苦にならない。半年間ですっかり灌頂にもなれてしまったが、おわってみるとそう悪いものでもなかったという気がする。
 
この時期には胸はかなり大きくなっていたので徳大さんは胸にさらしを巻いて押さえてくれた。男の部分はもう全然大きくならなくなっていた。その下の袋のほうも小さくなっていて、まるで無いかのようになっている。私は修行の邪魔になる余分な欲望に悩まされなくなったことを嬉しく思っていた。
 
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徳大が先導して階段をのぼり、いつもの灌頂部屋に入る....と思ったら徳大は灌頂部屋を通り越して、その奥の部屋を開けた。そこに部屋があるというのは今の今まで知らなかった。そこはまお寺の中には似つかわしくない洋風の部屋だったが、かなり殺風景な部屋だった。椅子がいくつかと小さなベッドがあるだけだか、強烈に明るい照明が付いていた。
 
私がびっくりしていると徳大は私にそこの椅子に腰掛けるように言い「どう、最近は欲望に悩まされますか?」と聞く。「いえ、全然。灌頂のお陰でしょうか。これが終わってまた悩まされたりしないかとちょっと心配しているくらいです」と答える。すると徳大は「ではもう心配しなくてもいいようにしませんか?」という。「それはすばらしいですが、どうやって?」と聞くと徳大は驚くようなことを言った。
 
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「欲望の元凶となるものを取ってしまうのです」
 
私はさすがに血の気が引いた。しかし徳大は続ける。「今日はあなたのお相手は来ません。最後の灌頂というのは、実は永遠に欲望に悩まされなくて済むようにすることです。もちろん、あなたはそれを断ることも可能です。今どうするか返事をしてください」
 
私はなんとこたえていいか分からずに困ってしまったが、その時からだがふらついて、まるでクビを縦にふるような動作をしてしまった。すると徳大はそれをYESと取ったようであった。「よかった。それでは早速始めます。大丈夫ですよ。今はちゃんと麻酔をするようになっていますから。昔は麻酔無しだったのですさまじい痛みだったようですが」そう言うと徳大は私のそばに寄り、うむを言わさず注射針を私の腕に立てた。私は取り消す暇もなく意識を失った。
 
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意識が戻った時、私は自分が知らない部屋に寝かせられているのに気づいた。
 
お寺にこんな部屋があったのだろうか。明るい色調の壁紙が使われていて、周りをみるとなにやら人形やら鏡台などが置かれている。まるで女性の部屋である。
 
私はだんだん意識を失う前の記憶が戻ってきた。重大なことを思いだし、そっとそこへ手をやるが、どうも包帯がまかれているようである。よく分からない。
 
ずいぶん立ってから誰か入ってきた。「おや気がつかれましたね」それは女性の声だった。え?ここはどこ?
 

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(C)Eriko Kawaguchi 2001-11-14
 
「戸惑っているようですね。ここはあなたがいた寺のお隣の尼寺ですよ。あなたは灌頂を完全に終えられたので尼寺の管轄になったのです。あなたはここで今後は修行を続けることになります」
 
なるほど、あれが無くなってしまったら女と同じということなのか。自分がいちばん避けていたものに自分がなってしまったというのが、私は自分のことながら面白いことだと思って笑い出してしまった。「大丈夫ですか?」善抄尼と名乗ったその尼さんは心配そうに聞いた。
 
善抄尼がいろいろ教えてくれた。私は「裕高和尚」あらため「裕子尼」ということになるらしい。ローマ字で書いたらどちらも yuko で全く同じだが、priestと priestess が異なる。
 
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私はそのまま一週間ほどその部屋に寝かされていた。パイプが包帯の中から飛び出していて、おしっこはそこから出ているようであった。一週間後、慶善尼という尼さんが包帯を外し、きれいにそこを洗ってくれた。私は目を疑った。単に切られたのだとばかり思っていたのだが、そうではなく、まるで女のような形にされていた。
 
「ちゃんと女として機能できますよ。だからあなたは男としては結婚できないけど、女としては結婚できます」それはちょっとショッキングな話だ。女として結婚。では男と結婚するなんて.....と考えて思った。別に抵抗感はない、今更。
 
そういえば胸が大きくなってたんだっけと思いだしそのことを言うと「ブラジャーを付けるとよいでしょう」と言う。そんなものを付けるなんてと思うと顔が真っ赤になったが、早速善抄尼が胸のサイズをメジャーで測り、翌日にはブラジャーを付けさせられた。「灌頂のあとで毎回女性ホルモンを取っていたはずですよ」と善抄尼が言う。あの薬草!だから正伝さんは笑っていたのか。
 
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「半年間女性ホルモンをとり続ければ、あなたはもう男としての機能は消失していたはずです。だからあなたはもう女になるしかなかったんですよ」と善抄尼は続けた。修行のせいではなかったのか....今考えてみれば、あんなことで修行になっていたわけがない。女になったことで色々なものから目が覚めたような気がした。してみると、女になるといいうこと自体が、案外自分にとって悟りに近づくことだったのかも知れない。そんな気もしてきた。
 
慶善尼はこんなことも言った。「仏法では男の根本を男根といい、女の根本を女根といいます。あなたは男の体で生まれてきましたから、その因縁として男根を所有しています。男の性器も男根と世間では呼んでいますが、それは表面的なもの。今あなたは表面的にはそれを取り除いたのですが、それでも因縁としての男根からは逃れられません。ですから逆に表面的に女根を付けることによって、少しでも相殺することができます。観音様は女のような外見をなさっていますがその根本は男神です。あなたは観音様に少しだけ近づくことができたのですよ」
 
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私はその昔、帝釈天が姦淫の罪により体中に千の女陰を付けられたという話を思い出した。あれはひょっとして、このようなことを言っていたのかも知れない。女の印を付けるというのも、修行のひとつの経過点なのだろうか。
 
そんなことを慶善尼に言ってみたら、うんうん頷いていた。帝釈天はのちにその千の女陰を千の目に変えてしまい、全てを見通す力を得たのである。しかし慶善尼は最後に謎の一言を付け加えた。
 
「でもね、あなたそういうまっすぐした発想しかしていない、ということ自体が、あなたの修行不足、認識不足を表しているのですよ。自分が何をされたのかということを、もういちど『常識』で考えてご覧なさい。禅の十牛図って知ってる?その十番目は何かしら?」
 
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私は慶善尼の言葉がその時には理解できなかった。そして私はそのままその尼寺で1年間修行を続けた。
 

(C)Eriko Kawaguchi 2002-02-22
 
私はずっと尼寺で修行を続けていたが、慶善尼がいつか言っていた「十牛図の十番目」というのが、ずっと気に掛かっていた。しかしそれを確かめる機会はなかなか、なかった。なにせこの寺は密教寺院である。
 
その機会がやってきたのは私が女になってしまってから1年ほどたった時であった。宗派の大きなお祭りがあり、私はその裏方として出かけていった。そのお祭りには他宗派からも人が来ており、その中に禅宗のお年を召した尼さん・覚正尼がいて私はちょうどそのお世話係をすることになった。お祭りが一段落した時、私は、こんな機会を逃してはと思い、尋ねてみた。
 
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『十牛図に興味をお持ちですか? いいことですね。これはお釈迦様の教えの性格を良く表していますから、宗派を越えて、色々な方が学んで良い物なのですよ。
 
十牛図というのは、牛を探しに行った人達の物語なのです。それが十枚の絵に別れているので「十牛図」と言います』
 
覚正尼はなんと、その十牛図を手近の紙に墨でささっと描きながら説明してくれた。私はこれには感動してしまった。
 
『第一は尋牛。まず牛を尋ね歩かなければなりません。 
 第二は見跡。牛の足跡を見付けた所です。 
 第三は見牛。牛自体を見付けた所です。 
 第四は得牛。牛をとにかくつかまえた所。 
 第五は牧牛。牛を自在に乗り回すのに成功した所。 
 第六は騎牛帰家。その牛に乗って家に帰ります。 
 第七は忘牛存人。家に帰ったら牛のことは忘れてしまいます』 
 
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「忘れてしまうんですか!?」私は思わず口をはさんでしまった。「この牛って、つまり悟りですよね」覚正尼は曖昧にしか答えない「そうですね。私も、あなたくらいの年には、牛=悟りと思いました」私は少しだけ考えさせてもらった。「そうか。悟りは知識で覚えておく物ではなく、身に染みついて、行動の規範にならなければいけないんだ。だから、牛は忘れなければいけないんですね」覚正尼は微笑んで言う。「今の段階ではその理解でもいいですよ」
 
『第八は人牛倶忘。今度は牛だけでなく自分の存在も忘れてしまいます。 
 第九は返本還源。全ての源に帰ります。浄不浄といった概念も消えています。 
 第十は入廓垂手。すすんで自ら賑やかな町の中に入っていきます』 
 
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私は第八までは何とか分かったが、第九で悩みの底に放り込まれてしまった。「元に戻ってしまったら、何のために今までしてきたのか」私が困っていると、覚正尼は言った。「禅定なさい。お釈迦様も菩提樹の下でそうなさいました」
 
私は目をつぶって瞑想に入った。うちの宗派ではこういうことはしないのだが仏教者として最低限の心得はある。自分の感覚では3分くらいだったが実際にどのくらいの時間がかかったのかは分からない。「分かりました。浄と不浄を分けること自体が間違っているんです。そうか!だから、一休禅師は飲酒と女犯をなさったんですね!!」私は突然、禅の偉大さが分かったような気がした。
「この世は本当は、そのまま聖なる世界なんだ。何も汚れてなどいないんだ」
 
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「そんなことは般若心経にでも書いてありますよ」
「え?あっそうか。どうして気づかなかったんだろう」
 
「覚正尼さま」「はい?」
「性欲は悪いことじゃないんですね」
「理趣経を読んだことはありませんか?」「いいえ」
「理趣経には、性欲は素晴らしいもので、それは菩薩の境地であると書いてありますよ」
「私は、それはいけないものかと思って、実は性器を取ってしまいました」
「分かりますよ。私も色々な人見てきましたから。あなたは男根を取り除いて代わりに女根を付けたのでしょう?」「はい」
私は半ば告白のように続けた。
 
「女根が付けられていることを知った時には、こんなもの無しで良かったのにと思ったのですが、今やっと分かりました。私には女として性欲を全うして、菩薩の道に進むこともできるんですね」
 
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「それもできますよ。でも、その前に第十を考えてください」
 
それは後から考えれば、覚正尼のそばにいたからこそ、ひらめいたのだと思う。
「そうだったのか! やっと私がするべきことが分かりました」
 
「そう」覚正尼は変わらぬ微笑みを浮かべていた。
 

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そのお祭りが終わって1ヶ月後、私は還俗した。
 
「裕子尼」として住職の資格はあるので、機会があればどこかの尼寺の住職に収まってしまうこともあるかも知れないが、それよりも今は自分の女としての可能性を試してみたかった。
 
最初は元男というのがバレるのではないかとヒヤヒヤの感じだったが、お化粧の技術が上がってくるのと共に、いつも自分が商店で、道路で、電車の中で、女として扱われていることが確認できると、だんだん大胆になっていった。それでも、商店で買い物ができるようになるまで一週間(それまでは自販機で命をつないでいた)、昼間道を歩けるようになるのに二週間、電車やバスに乗れるようになるのに1月かかった。
 
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ご丁寧に「工藤裕子」の戸籍と架空の履歴が用意されていたので、私はそれを使ってやがて普通の会社に就職した。そして今OLとして働いている。髪は初期の頃はウィッグを使っていたが、1年もすると髪がのびてきたので自毛に切り替えた。さすがにまだ男性と恋をしたり結婚したりする気にはならない。
 
しかし女としての生活はまるで世界が違っていた。女物の下着は結構気に入ったし、スカートという履き物は案外楽しい。男だった頃、こんなに洋服を着ることが楽しいことだとは思わなかった。いろいろなバリエーションがあり、何を着てもいいというのが、自分の可能性を無限に広げるかのようである。ミニスカートも履いてみたしマーメイドスカートなども楽しい。フレアースカートをはくと優雅な気分になるし、仕事の時はさすがにタイトスカートが身が引き締まる感じである。
 
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お化粧もたのしい。毎朝鏡の中で自分の顔が変わっていくのが面白くて仕方ない。眉がきれいに引けて、唇が一発できれいに塗れた時はとても嬉しくて、その日いちにち、とても調子よくいきそうな気がする。男はみんな一度女になってみるべきだとまで思う。
 
女子トイレに入るのは最初はちょっとドキドキだったがすぐになれた。排尿自体は1年間お寺の中でやってきているから問題なかった。
 
水着を買ってプールにも行ってみた。これはものすごく楽しかった。夏になると浜辺で寝転がってみた。男の身体ではとても体験できない気持ちの良さである。開放感がすばらしい。おまけに男の子が声を掛けてきたりすると、ちょっと楽しい。気に入った子とは一晩限りのセックスも楽しんだ。男の子とすること自体には全然抵抗がない(最初だけは緊張したが、してみたら大したこと無かった)。
 
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女としての教養をもっと身につけようと、お琴、お花、お茶、そしてバレエを習っている。どれも男だった頃にも興味は持っていたものだが男が行っていいものだろうかと恥ずかしくて教室に通えなかった。今は何の抵抗もなく通える。毛筆とお茶とお花で名前も取ったので、いざとなればこれが生活の糧になる時もあるかも知れない。しかし基本的に女であるということは、何かして絶対に生きていけることという気がする。男ではそうはいかない。やはりこの世の中は女にとって便利にできているようだ。
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■稚児灌頂(1)

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