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■のろいの、雛人形(1)

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(C)Eriko Kawaguchi 2012-03-04
 
発端は2月上旬の日曜日だった。
 
母が買い物に行っている間、勉強しながらひとりで留守番をしていた俺は宅配便屋さんの荷物を受け取ったのだが、何やら巨大な箱であった。
 
差出人は個人名だが知らない名前である。母はヤフオク好きなので、また何かくだらないものを落としたなと思った。母はとにかく安く落とすのが好きだがそれが「使えるものか」というのはあまり考えないたちなので、しばしばそのまま粗大ゴミに出さなければならないようなシロモノも多い。
 
俺は箱に鼻を近づけた時、何か上品な香りがしたような気がした。
 
「おふくろ、何買ったの?」
帰ってきた母に俺は聞いた。
「雛人形」
「は?」
「七段飾りの凄く立派な人形なんだよ」
「へー」
「それがたったの500円で落とせたんだ。凄いと思わない?」
「500円!? 七段飾りの雛人形が? それ絶対おかしい」
「ま、送料は1500円かかったけどね。なんかいわく付きのものらしいのよね。それを承知でお願いします、なんて書いてあったから、応札する人がいなかったみたいでさ」 
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「ちょっと待て。それを買うって、やばいだろ?」
「あんた、幽霊とか信じるの?」
「おいおい、幽霊が出るのかよ?」
「いわく付きって、そういう意味じゃないのかね?」
「勘弁してくれよ。これ、そのままリサイクルセンターに持ってかない?」
「まあ、そんなこと言わないで、とりあえず出してみようよ」
 

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母のこういうのは、今に始まったことではないので、俺はしぶしぶ母と一緒に雛人形を開封した。
 
「なんかかなり古いものだね、これ。顔が古風だよ」
「うん。どうも明治時代のものらしいよ」
「へー」
 
人形はひとつひとつ箱に入っていて、俺達は幾つかの箱を開けて人形を眺めてみた。人形の顔はちょっと古風で、とても上品なもののようだ。どこかお金持ちの家に置かれていたものなのだろう。
 
「なんか、そんな悪いものには思えないなあ。のろいの雛人形とかだったら、もっと怖い顔していると思うよ」「だよね。これ飾ろうよ」
「うん。じゃ、雛壇を俺、組み立てるよ」
 
俺はそういって、箱の中から木の枠や板を取り出すと、仏間に持って行き、だいたいの見当を付けて組み立てて行った。七段飾りだけあって、かなり巨大なものである。組み立てたあと、赤いビロードの布を掛ける。
 
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「おお、なんかこれだけでも綺麗だね」
「でも、俺、どの人形をどこに置けばいいか分からないけど」
「あ、私も知らない。子供の頃、うちには雛人形なんて無かったからなあ」
「そういえば、だいたい何でうちに女の子なんて居ないのに雛人形なんて、落札したのさ?」「うん?安かったからに決まってるじゃん」
 
俺は天を仰いだが、せっかくの人形だ。きちんと飾ってやりたい。誰か配置が分かりそうな友だちはいないかな・・・と考えてみて、学校で一緒に図書委員をしている、柴島小町(くにじま・こまち)のことを思いついたので電話をしてみた。委員会の関係で時々連絡を取るので携帯に番号が入っている。
 
「もしもし、指月(しづき)だけど、今時間ある?」
「うん。ちょっと暇してた所。何か図書館の用事?」
「そうじゃなくて個人的なことなんだけどさ、柴島さん、雛人形の配置分かる?」
「雛人形の配置って、段飾り?」
「うん。実はおふくろが七段飾りの雛人形を落札してさ。飾ろうと思うんだけど、配置が全然分からなくて」「七段!それは凄い。五段なら従姉の家にあったから、見てるけど」
「じゃ、そこまででもいいから、ちょっと配置手伝ってくれない?」
「いいよ。指月君のうち、どこだっけ?」
 
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俺はこの家までの来かたを概略で教え、近くまで来たらまた連絡してくれるように言った。
 
1時間ほどで柴島がやはり図書委員で一緒に図書館報の編集をしている広田五月といっしょにやってきた。バス停まで来た所を俺が迎えに行った。
 
「五月は人形が好きで、七段の配置もたぶん分かると言うから連れてきた」
「ありがとう。助かる」
「でも、指月君の家、女の子いたんだっけ?」
「いない。俺とあとは今、大阪の大学と京都の大学に行ってる兄貴が2人いるだけなんだけどね」「なんで、雛人形なんて買ったの?」
 
「安かったからだって。500円で落としたらしい。送料は1500円だったそうだけど」
「500円!? 七段飾りの雛人形が? 500ドルじゃないよね?」
「雛人形がドルってことはないだろ?」
「じゃ、まさか変なものでも憑いてるとか?」
「いわく付きのものです、と書かれていたらしい」
「きゃー」
 
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「でも人形の顔、少し見たけど、そんな変な物には見えなかったぜ」
「ふーん」
「もし、やばいという気がしたら、遠慮無く逃げてくれ」
「うん。その時は指月を殴って逃げ出すから」
「なんで俺を殴るのさ?」
「ひとり倒してから逃げたら、逃げ遅れた人に憑いてくれるんじゃない?」
「そうか、逃げるのがのろい奴に憑くんだな」
「のろい人に憑くのろいなのね」
 

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馬鹿話をしながら家に入ったが、巨大な段飾りの雛壇と、無茶苦茶たくさんある人形の箱に、柴島と広田は絶句した。
 
「これ、夕方までかかりそう!」
「おやつくらい出すよ。おふろくがいつもどっさりストックしてるから」
「よし、おやつ食べながら頑張ろう」
 
俺達はまずいちばん大きな箱を、たぶんお雛様・お内裏様だろうと見当を付けて開けた。とても凛々しい感じのお内裏様に、とても美人のお雛様だ。柴島も広田も「すごーい」「びじーん」と歓声をあげている。
 
「お雛様とお内裏様の並べ方はね、2通りあるのよ。古式の並べ方は左がお雛様、右がお内裏様なんだけど、大正天皇の即位の礼の時に西洋式に天皇陛下が左、皇后陛下が右に立ったんで、それにならって、左にお内裏様・右にお雛様を置く流儀が生まれたのね。だから、最近ではその配置が多いんだけど、どうする?」と広田が解説をしてこちらに尋ねる。
 
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「古式に並べたい気がするな。だってこの雛人形、明治時代のものらしいし」
「へー、すごい」
 
俺達は古式の配置で、お雛様を左、お内裏様を右に並べた。次に大きな感じの箱が3つあったので開けると三人官女であった。
「三人官女が二段目だよ。座ってる人が真ん中。立ってる人が左右なんだけど、えっと・・・こっちが左だね」と広田は長い柄の銚子を持つ官女を左に置いた。 
そんな感じで、三段目に五人囃子、四段目に左大臣・右大臣、五段目に仕丁(泣き上戸・笑い上戸・怒り上戸)と並べていったが、箱が必ずしも同じ段に並べるものが近くにあるとも限らないので、広田でさえも少し悩んだりして、配置していった。
 
人形だけ取り敢えず並べたところで、母がお茶を入れてくれたので一休みする。 
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「でも、すごくきれいな雛人形ですね。傷んでないし、大事に保存されていたんですね」と柴島が感心したように言う。
 
「私、少し霊感がある方だけど、変な感じはしませんよ。私も母も人形蒐集の趣味があるから、フリマとかにもよく行ったりして物色してて、これまでに何度か、呪いの人形も見たことあるけど、この雛人形にはそんな感じってしないなあ。もし憑いているとしても、悪いものじゃないと思います」と広田は言った。
 
「私のうち貧乏だったから、子供の頃、雛人形って欲しかったけど、買ってもらえなかったのよねえ。そんなのもあって、この値段に飛びついちゃった」と母。
 
「じゃ、お母さんのための雛人形ですね」
「どうせなら娘さんがいたら良かったのにね」
「ほんとほんと、いっそ信明が女の子だったら良かったんだけどね」
「いっそ性転換させちゃうとか」
「なんでそうなる?」
 
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「でも信明君って、女の子でも行ける顔立ちって気がするなあ」と柴島。「あ、私もそう思う」と広田は言い、更にこんなことを言い出した。
「こないだ図書館報の編集してる女の子でちょっと集まった時に、編集の男の子で誰が女装が似合うかって、話をしたのよね」「ああ、あの時のね」
「女子はそういう話題が好きだよな」
 
「それで一番は田中君、二番は横田君、なんて言ってたんだけど、それで結構盛り上がった後で、指月君を忘れてたって話になってさ」「じゃ、俺が三番?」
「ううん。別格、即刻性転換推奨という話になった」
「おいおい」
 
「ああ、性転換いいんじゃない?」と母。
「あんた、女の子になりたいとかいう気持ち無い?」
「そんなの無いよ!」
「もし、性転換したくなったら手術代は出してあげるからね」
「やめてくれ」
 
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「お母さん、寝ている間に病院に運び込んで、スパッと切ってもらうという手もありますよ」
「ああ、それいいね。やっちゃおうかしら」
「安心して寝てられないな」
 

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少し休憩した後で、みんなで手分けして、様々な小道具を置いて行った。屏風を立て、ぼんぼり、右近の橘、左近の桜、駕篭(かご)、牛車、長持ち、タンス。この手の道具がひじょうに多く、広田でも悩むような微妙な道具などもあったので、なかなか苦労し、並べ終わったのはもう17時ちかくであった。
 
「遅くなっちゃって、ごめんね。私、車でふたりを送っていくわ」
「すみません」
 
母がふたりを送りに行っている間、俺は箱や人形を包んでいた新聞紙などを片付けていく。新聞紙を見ると10年くらい前のものだ。少なくともこの10年前の時点でこの人形は飾られていたということなのだろう。
 
あらかた片付けてから、あらためて人形を見ていたら、なんだか心和むような気がした。ああ、こんなの飾るのもいいなあ、と俺は思った。
 
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ぼんぼりにはロウソクがたてられるようになっていたが、こういう燃えやすいもののところで火を使いたくない気分だ。小型のLEDランプでも買ってきて、入れてやろうと思った。また菱餅を載せる台、紅白の丸餅を載せる台もあったので、それも買って来ようと思った。
 
しかし笛とか銚子とかの小さい道具が全然紛失していないのは凄い。あるいは無くなったりしたものを補充したのかもね、とも広田は言っていた。ただ補充したにしても、腕のいい職人さんに見立ててもらい、作ってもらったのだろうと言っていた。
 

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渋滞にかかったのか母がなかなか戻って来ないので、俺は晩御飯を作り始めた。母が買ってきた材料を見て、八宝菜かな?と思ったので、材料を準備して中華鍋に入れて炒め、味付けをして、そろそろできあがるという頃に母は帰ってきた。 
「うーん。うまく出来てるね。私が作るのよりうまいじゃん」
と食べながら母は言った。
「まあ、けっこう作ってるからね」
「あんた、小学生の頃から、晩御飯、よく作ってくれてたもんね」
 
「おふろくは仕事で7時くらいになること多いし、兄貴2人は夕飯なんて作るそぶりも見せないから、単純に自分が早く飯食いたいから作ってただけだけどね」「これだけ料理できたら、あんたお嫁さんに行けるよ」
「ははは、もし性転換したらお嫁さんに行ってあげるよ」
 
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「どうせなら20歳前に性転換してくれないかねぇ。そしたら成人式に振袖も着せてあげられるし」「そんな高いもん、いらないよ」
「大丈夫、ヤフオクで安いの落とすから」
「また500円かい?」
「きっとそのくらいのあるって!」
「いわく付きなんだな」
「そうそう」
 
御飯が終わった後、食器を片付けて洗う。そういえば、こういう食器の片付けも小学生の頃からずっと自分がしているなと思う。柴島は性転換推奨なんて言っていたが、そういえば小さい頃は、女の子とばかり遊んでいたし、女の子だったら良かったのにね、なんて言われたこともあったっけ。そんな自分が嫌で、5〜6年の頃からはことさら男らしくしてきたし、中学では剣道部をしていた。 
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高校ではさすがに自分のレベルでは付いていけない感じだったので剣道部に入ることもせず、2年生になってからは、図書委員になったので図書館報の編集をやっていたが、編集委員のうち、男はあまり出てこないので、女子と話していることが多く、そういう時間はちょっと快適な感じはしていた。特に柴島とは結構気が合う感じだったのだが、といって柴島との関係は恋愛とは違う気がしていた。 
そんなことを考えていた時、母が言った。
 
「でも、あんた本当に女の子になる気、無いよね?」
「え?無いけど」
「そっか。女の子の服とかを隠し持ってるようでもないしね」
「何それ?」
「いや、こっそり女装していたりしないかなと思って」
「そんなのしたことないよ」
「ふーん」
と言う母の意図を自分は正直、はかりかねていた。
 
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