■夏の日の想い出・新入生の初夏(8)

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私と政子はそのあと通りがかりのスーパーで食料を調達した上で一緒に東京に戻り、私のマンションに入った。戻って来たのがもう夕方であった。一緒にお風呂に入り、ベッドに入って愛し合ってから、一息ついて夕飯を作っていた時、政子の携帯に須藤さんから電話が入った。
 
「あ・・・はい、ちょっと待って。ハンズフリーにする」
政子がリビングの棚においてあるハンズフリーのセットに携帯をつなぐ。 
「冬も一緒なら好都合だわ」と須藤さんは言った。
「実はN*K FMからローズ+リリーの特集をやりたいという話が来てるのよ」
「え?」
 
「政子の方が限定的な活動になっているんで私はあまり気が進まなかったんだけど、町添さんは、結果的にはローズクォーツのプロモーションにもなるはずだということで積極的でね」「はい」
 
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「演奏する曲目は、明るい水, ふたりの愛ランド, その時, 遙かな夢, 甘い蜜, 涙の影, あの街角で, 天使に逢えたら, 影たちの夜, 私にもいつか, 夏祭り, Diamonds, Sweet Memories, カチューシャ日本語版, All the things She said英語版, そして長い道。以上 16曲」 
「それって・・・・特集というより網羅してますね」
「うん。で、だいたいはCDから音源を取るのだけど、あの街角で, 天使に逢えたら, 影たちの夜, 私にもいつか の4曲はCDが無いんだよね」「ええ」
「TFMが4月にやった番組の録音を持っているので、使わせてもらえないかと打診したらしいけど、演奏者の許可が無ければ出せない、ということで、結局こちらに話が回ってきた」「なるほど」
「でもあれをそのまま出すのは気が進まないのよね」
「私も気が進みません」と私。「流すなら録り直しましょうよ」 
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「だよね。それで急な話で申し訳ないけど、時間の取れる時でいいから録音させてもらえない?」「私はいいですけど、マーサは?」
「いいよ。明日でもいいよ」と政子。
「ありがとう。じゃスタジオを確保して、ミュージシャン手配して連絡する」
「はい」
 
須藤さんからの電話は20分後にあった。
「明日朝8時から★★スタジオの麒麟スタで」
「了解です。いつもの∴∴スタジオじゃないんですね」
「そ。今回★★レコードが全面的にバックアップしてくれるから。ミュージシャンも町添さんが手配してくれる。実はまだ誰が来るのか分からない。一応構成は、ギター・ベース・ドラムス・管楽器・ヴァイオリン・キーボードの6人というのを要求している。管楽器はサックスは絶対吹けることで他にフルートまたはリリコンができること」 
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「4月に公開した4曲、その構成でちょっとアレンジし直しますね」
「ありがとう。頼む。それとね、向こうはトークを交えて2時間楽曲を流し続けるということで15-16曲欲しいということで、さっき言ったラインナップになったんだけど、町添さんがさ、これだとベストアルバムの曲が全部入っているので、それはできれば勘弁してくれと言って。それで、シングルのタイトル曲6曲と4月に公開した新曲4つはどうしても流したいけど、他の曲は少し差し替えてもいいという話なのよ。何か差し替えられるのってあるかな?」 
「それ私もさっき思ったことでした。興味持ってくれた人がベストアルバムを買ってくれると嬉しいから。それでですね。タイトル曲6曲と新曲4つ以外ですが、『長い道』はやはり残したいんですよね」「うんうん」
「残りの5曲ですが、CD音源から、『その時』に入ってる『恋に落ちて』、『甘い蜜』に入ってる『せつなくて』(マリ&ケイの作品)と『終わり無き恋』(ダイアナ・ロスとライオネル・リッチーの Endless Love のカバー,政子の詩)
あたりはとりあえず使えると思うのですが」「ああ、行ける行ける」
 
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「それから『あの街角で』ですが、ローズクォーツ版を使ってはいけませんか?」
「ああ、交渉してみる」
「その代わりにですね、未公開曲を出せたらと思うのですが。『ふわふわ気分』と『恋座流星群』を新録音で」「なるほど。新録音予定のを1つ既存音源版に変えて、代わりに2つ入れる訳か」
「1日で5曲は行けますよね」
 
「うん。行ける。すると冬の案では流す楽曲は、明るい水, ふたりの愛ランド, その時, 遙かな夢, 甘い蜜, 涙の影, あの街角で, 天使に逢えたら, 影たちの夜, 私にもいつか, 恋に落ちて, せつなくて, 終わり無き恋, ふわふわ気分, 恋座流星群, 長い道、以上16曲」「はい」
 
「その内、『あの街角で』はローズクォーツ版を使用して、新録音するのが、天使に逢えたら, 影たちの夜, 私にもいつか, ふわふわ気分, 恋座流星群, の5曲」「そうなります」
「OK。町添さんと話してみる」
 
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更に10分ほどしてまた須藤さんから電話がある。
「『あの街角で』のローズクォーツ版を使用する件はOKだって。それから、可能だったら、明るい水とふたりの愛ランドも新録音できないかと言われた」 
「時間さえあれば、私もその方がいいです。シングル版は私も政子もまだ歌があまりうまくない時期だったし伴奏も打ち込みだったし。ベストアルバム版は伴奏は録り直してますが、歌はそのままだから。どちらかというとアルバム版の歌を差し替えたい気分ですが」「あ、それで行こう。アルバム版の伴奏はしっかりできてるもん。歌を録るだけなら、明日それも行けるよね」「ですね」
 

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そういう訳で、翌日私たちは朝早くから★★レコードの付属スタジオに出かけて行った。ミュージシャンの人たちは10時に来るということで、それまで私たちは歌録りと、打ち合わせをすることにした。
 
「『明るい水』なんだけどね。今朝町添さんから連絡あって、4月の放送の時に聴いた、ケイのピアノ伴奏で歌ったバージョンが凄く良かったら、その形で音源作れないかと言われた」「ああ、いいですね。それに良かったらヴァイオリンとフルートもフィーチャーしませんか?」「そのパートすぐ書ける?」
 
「はい」と言うと、私は『明るい水』の譜面を取り出し、それを見つつ、他の打ち合わせをしながら、五線紙にヴァイオリンパートとフルートパートを5分ほどで書き出した。私が書いている最中に時々須藤さんは「ここはこうした方がいい」などと、譜面を指さしながら指摘するので、それにあわせて修正していく。政子が「ふたりとも何で楽器も使わずにそんなことできるのよ?」などと言っている。
 
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そして私はあらためて信号音に合わせてピアノで『明るい水』を演奏した。そのピアノを聴きながら、次に私と政子で『明るい水』を歌う。
 
「OK。ふたりともホントに上手くなったよね。特に政子が2年前とは別人くらいに上達してる」 
続けて『ふたりの愛ランド』の歌部分を録音した。元々は2年前に3時間で5曲などという録音で最初のCDを作った時のものであり、昨年夏にアルバムを作る時に、私があらためて編曲をして、伴奏部分だけスタジオ・ミュージシャンの人たちに演奏してもらって差し替えたものである。今回はその歌の方を差し替えることにした訳であった。
「最初の版から残るのはテンポだけだね」
と須藤さんは笑って言った。
 
私は昨夜のうちにあらためて調整しておいた、天使に逢えたら, 影たちの夜, 私にもいつか, ふわふわ気分, 恋座流星群 の5つの曲のスコア譜を見せる。(MIDI編集ツールからプリントしているので、MIDIはそのまま伴奏に使える)
 
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「うん。これで問題無いと思う。でも『天使に逢えたら』と『影たちの夜』はいづれシングルカットして発売したいね。これクォリティが物凄く高いよ。ひょっとしたら『甘い蜜/涙の影』以上に売れるかも知れない。実はさ、5月にこの曲をラジオで聴いた時、ふたりが一緒に復帰してくれるなら、これを復帰第一段シングルにしようかって思ったのよね」「わあ」
 
「じゃ、9月に録音する、ローズ+リリーのアルバムに入れますか?」
「この2曲は入れない。もったいない。『私にもいつか』,『ふわふわ気分』,『恋座流星群』はアルバムに入れたい。中核曲になるだろうしね」「なるほど」
 
「ローズクォーツが早く立ち上がってくれないかなあ・・・そしたら早めにローズ+リリーのシングルも出せるんだけど」 
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町添さんから連絡があり、ミュージシャンさんたちの都合がうまくつかず12時頃になりそうだということであった。
 
「昨日の今日だもんね」
「町添さんは、適当にすぐ動ける人だけで構成したりする人じゃないもん。けっこう実力のある人に無理言って都合つけてもらってるんだと思う」「妥協が無いですよね、町添部長って」
「私たちは歌だけ録っておきましょ」
 
そういう訳で、私たちは午前中にMIDIデータによる伴奏を聴きながら、今日録る予定の5つの曲の歌を吹き込んだ。
 
11時すぎから、ミュージシャンさんたちが到着しはじめた。町添さんも11時半にやってきたので、午前中に録った『明るい水』と『ふたりの愛ランド』を仮ミクシングしたものを聴いてもらう。(『明るい水』のヴァイオリンとフルートは私のエレクトーンで弾いたものを仮にオンしている) 
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「おお、いい感じだね」と町添さん。
「ヴァイオリンとフルートの音もいいね。この曲にはアコスティックが似合うよ」
「ですね。ちなみにこれは仮にエレクトーンの音で入れてますので、今日来ていただくヴァイオリンと管楽器の方に、あらためて演奏してもらって差し替えようと思っています」「うんうん。『ふたりの愛ランド』の方は、やはり賑やかな伴奏が似合うね」
「ですね」
 
町添さんはその後、2時間に1回くらいのサイクルでこちらに顔を出してくれた。(スタジオは★★レコード本社の隣のビルにある)
 
12時すぎまでにミュージシャンの人たちが全員集合したので、全員にスコア譜のコピーを配って、まずは録音する楽曲の説明をし、打ち込みデータと午前中に吹き込んだ歌を仮ミクシングした、各5曲の音源を聴いてもらった。
 
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「打ち込みは昨夜大急ぎで調整したので単調になってる部分も多々ありますので、あまりとらわれないようにお願いします。あくまで参考にということで」と私が説明する。
「了解」とギターの小林さん。この人は『その時』の録音にも参加してくれた人である。今日来た時「久しぶり」と言って、私と政子と握手をしてくれた。 
まずは弦楽器担当の松村さんと、管楽器担当の長谷部さんに『明るい水』のヴァイオリンとフルートのパートを演奏してもらった。長谷部さんはアルト・サックス、トランペット、フルート、クラリネットが吹けるということだった。 
その後、1曲ずつ録音していく。制作はまず派手なディスコナンバーである『恋座流星群』から始め、フォーク系の『私にもいつか』、小気味良いテンポで歌も楽器パートも追いかけっこが入っている『天使に逢えたら』、少し大人っぽいダンス曲『影たちの夜』、そして最後に、少しアイドルっぽい感じの『ふわふわ気分』と進んだ。
 
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『天使に逢えたら』は実は高2の時に書いた作品だが、政子がきちんと音程を取って歌えるようになったため追いかけっこ式歌唱が可能になったのであった。 
みんなほんとに上手い人たちばかりであったので録音はほんとに順調に進んだ。ミュージシャンさんたちの録音作業が進む中、そちらの指示を須藤さんがしているので、それと並行して私がミキシングルームで、それらの録音の仮ミクシング作業を進めた。それを合間合間に須藤さんや時々来る町添さんに聴いてもらい、若干の録り直しが発生したので、それをまた演奏してもらう。政子はみんなにお茶を入れたり食事の買い出しなどをしたり、パソコンでスコア譜の修正作業をしたりしてくれた。
 
録音作業は23時頃終わり、打ち上げに行った。町添さんが手配して、しゃぶしゃぶのお店に行き、1時間ほど食事をしながら話をした。お店は普段は22時で閉めるのを、私たちの貸し切りとして店を開けてくれていたらしい。町添さんはお店で席につくと盗聴器の探知機をテーブルの下に置いていた。ところがミュージシャンさんのひとりがその探知機のそばにうっかり自分の携帯を置いたら警報が鳴り、慌てていた。
 
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「ね、ね、須藤さん、今日録音した曲をCDにして発売しない?」と部長。「そうですね・・・年末くらいなら考えてもいいかなあ」と須藤さん。 
ずっと後で聞いた所では、須藤さんは実際、『影たちの夜/天使に逢えたら』はその年の12月くらいなら出してもいいと思っていたらしい。ところがローズクォーツの方で、ヴァーチャル・クリスマス、雅な気持ち、と予定より早めにレコーディングしなければならないものが出て来て、結果的に先延ばししていたところに東日本大震災が起きてあれこれ混乱、タイミングを逸したのだということだった。
 
「だけどふたりとも凄く歌が上手くなってましたね」と小林さん。
「マリは受検勉強やってる最中も自宅に入れたカラオケシステムで毎日歌ってたんです」と私。
「でも今日はなんか凄く刺激になりました」と政子。
「スタジオでの録音作業自体が1年9ヶ月ぶりで、私、正直な所、なしくずし的に引退しちゃおうかなとかも思ってたんですけど、少しだけやる気が出てきました。私、少しちゃんと1度、歌のレッスン受けてみようかな」「やる気あるなら、いい所紹介するよ」と町添さん。
 
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「それと、これは情報流してもらっていいですけど、ローズ+リリーはこの秋から新しいアルバムの制作を始めますので」と町添さん。
「ただ、発売がいつになるか未定なんですよね」と須藤さん。
「物凄く遅くなる可能性もあります。来年の春以降になる可能性も」
 
「随分ゆっくりした制作ですね。それとも色々おとなの事情かな?」
などと小林さんが笑う。
「ところで、ケイちゃん、もしかして性転換した?」
「まだ全部の手術は終わってません。でも7割くらい女の子になりました」
「おお」
「昨日は女の子の友だち数人で温泉行ってきたもんね」と政子。
「おお!!」
 
「私の身体の改造は別に隠してませんから、人に言ってもらっていいです。こないだ私は胸を大きくしたのかってスレッドが2chに出来てましたけど、胸は確かに大きくしました」「ぜひ水着姿の写真集を」
 
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「こないだ撮ったんですけどねー。これもおとなの事情で発売が先になりそうです」と私は笑って言った。
 
この日新録音された音源も利用したローズ+リリー特集は8月29日に放送され大きな反響を呼んだ。4月に公開した新曲4曲に続いて、ここでも新曲が2曲公開されたことで、ファンは沸いた。
 
 
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