■続・夏の日の想い出(5)

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そして「ローズクォーツ」のファースト・シングル「萌える想い/ふたりの愛ランド」は8月3日にダウンロード開始となった。須藤さんが足とコネで宣伝してまわっただけで広告などは打ったりしなかったが、初日に3000ダウンロードとまずまずの滑り出し。1ヶ月で3万ダウンロードに達した。関東近辺のコミュニティFMにたくさん足を運んで宣伝したのもそれなりの効果があったようだ。最初に訪れたコミュニティFMは、あのローズ+リリーが初めて出演したFM局であった。同じ番組の同じコーナーで、あの時と同じDJさんに、今度はローズクォーツを紹介してもらった。仕事の都合で全員は出られなかったので私とマキさんの2人だけであったが。
 
「ご無沙汰しておりました」と私はDJさんに挨拶した。
「久しぶりですね。でもなんか色っぽくなった感じ」
「2年たちましたから」
などといった会話を交わした。
 
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ちなみに8月3日は、私が「リリーフラワーズ」の突然の失踪で、政子とふたりで、代役でデパートのイベントをこなした日からちょうど2年目に当たる日だった。政子から発売のお祝いのメールが来てたので、挨拶回りや宣伝活動の合間に政子に電話した。
「あれから2年たつのね」
「2年経っちゃったね」
「思えばあの時私がいったひとことが冬を今の道に走らせちゃったのね」
「うん。でもたぶん私はああいうきっかけがなくても、どこかで女の子になる道に進んでいた気がする」「そうかもね。冬、女の子の姿がはまりすぎだったもん」
 
2chでは「ふたりの愛ランド・裏バージョン」が話題になっていた。私の男声と女声の切り替えはおおむね「面白い」という意見が多かったが、曲全体の感想として、脱力感があっていい、投げやりな歌い方でうまく味が出ている、などという書き込みが多かった。私はそれを見て苦笑するくらいの心の余裕はできていた。あの打ち上げの日の夜にマキさんから言葉を掛けてもらったのが大きな救いになっていた。
 
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「萌える想い」がとりあえず1ヶ月で3万ダウンロードされたことから須藤さんはクォーツのメンバーに仕事をやめてこちらの専業にならないかと打診した。年末までは月30万の給料を保証すると須藤さんは言ったのだが、マキさんは20万でいいから1年間保証して欲しいと言った。須藤さんは30分待ってと言って会議室に籠もり、どこかに電話して話をしていたようであったが、やがて出てくると「マキさんの条件飲んだ。1年間20万の給料を保証する。その代わり10月からはフルタイムこの仕事ができるようにして欲しい」と言いマキさんは了承した。なお、私の方の契約は従来通りで、単純に売り上げに対するマージンであり、給料という形も無しであった。
 
マキさんが事務所を出て行くのを見送ってから私は須藤さんに
「男の人はやはり色々と大変なんですよね」
などと言った。
「まあ、女は多少気楽な面はあるよね」と須藤さんも笑って言う。
「でも今回のローズクォーツのデビューにはかなり先行投資してるでしょ?だいじょうぶなんですか?」 
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「冬子ちゃんが心配しなくてもいいよ。お金のことは何とかするからさ」
「私、頑張りますね。色物の仕事でも何でもしますから。AVとかだけは勘弁してほしいけど」「あはは。うちはそういう事務所じゃないよ。バラエティの仕事は確かに1件引き合いがあったんだけどさ。私が断った」「あら」
「あくまでも音楽で売りたいんだ。ケイもローズクォーツも」
須藤さんはとても楽しそうな表情をしていた。
 
このシングルは当初ダウンロードのみでの販売予定だったが、思った以上の売り上げがあったことから、9月にはCDとしてもプレスされることになった。 
9月にはローズクォーツの活動と並行して、政子と私のふたりで「ローズ+リリー」の新曲録音もおこなった。
 
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政子が書きためた詩に私が曲を付けたものについて須藤さんは細かいダメだしを入れていた。それにあわせて私達は詩や曲を修正し、そういう作業を半月ほどやってからOKが出たので、私達はふたりの歌をスタジオであらためて録音した。政子が書いた詩は20曲あったが、録音することになったのはその内の13曲だった。その他にローズクォーツでも出した『あの街角で』、また上島先生が2曲提供してくれたのがあり合計16曲のアルバムとなる。
 
演奏はクォーツのメンバーにやってもらいたかったのだが、どうしても時間が合わなかったので、スタジオミュージシャンの方達にお願いした。その中でギターを弾いてくれた近藤さんは「甘い蜜」の制作にも参加してくれた人だった。 
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「ローズ+リリー復活ですか?」と訊かれたが、私も政子も須藤さんも「いえ、復活はしません」と異口同音に答えた。
「むしろメモリアル・アルバム、追悼版ですね」と私は笑って言った。
 
なお政子はこの録音に先立ち1ヶ月ほどに渡って歌のレッスン(自費)を受けたので、「うまくなりましたね」と近藤さんからも言われていた。
 
この録音については来年の春くらいの適当な時期に発売するということだった。また、それが売れる売れないに関わらず、この第二弾も制作したいから詩を書きためておいてと須藤さんは政子に言った。また発売時のジャケットに「使うかも知れない」と言われて、私達はミニスカートの衣装を身につけて写真を撮られた。 
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「こんな服着ると、あの頃を思い出すね。女子高生に戻った気分」
「やっぱ楽しかったよね」
「でも4ヶ月で終わったからこそ楽しい想い出なのかもね」
「うん。あのペースで3年やってたら、思い出したくない記憶になってたかもね」
などと私達は言い合った。
 
なお政子はこの録音に先立って、芸能活動契約書にサインした。録音やそれに付随する活動までの限定で、公演をしたりテレビ出演したりはしないという契約内容にして、親の許可を取ったということであった。その程度なら問題無いと政子の両親も言ったので、タイまで郵送で書類を往復させてハンコをもらい提出した。 
9月に私はエレクトーンの6級の試験も受けた。7級までは「唐本冬彦」の名前で受験していたのだが、担任の先生に「唐本冬子」名で受けることは可能か?と尋ねた。先生はあちこちに問い合わせていたようだったが、最終的にそれを通常使用しているのであれば構わないと言われ、冬子名義で受験。合格証をもらった。女名前で印刷された合格証を眺めて、私は自分がまた1歩女の世界に入り込んできたことを実感した。
 
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9月の下旬、私は須藤さんからお正月のことで尋ねられた。
「お正月?かなり先ですね」
「でも今から準備が必要なこともあってね。お正月にはあちこち挨拶回りすると思うんだけど、その時、振袖を着て欲しいんだよね」「わあ、振袖は着たことないから楽しみ」
「で、その振袖なんだけど、レンタルで済ませる?それとも買う?
レンタルなら費用出すけど、買うなら自費でお願いしたいんだけど」「買います」
 
「安物では困るんだけど、いい?」
「振袖っていくらくらいするの?」
「安いものは3万くらいから高いものは何千万、更にはプライスレス」
「さすがに何千万は買えないよ」
「最低100万くらいのは買って欲しい。でお仕立てに時間が掛かるから今の時期に買わないといけないんだ」「なるほど、それで。でもそのくらいはいいですよ。どこで買えばいいのかな?」
「連れてく」
 
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ということで私は須藤さんに連れられて呉服屋さんに行ったのであった。私は身長が167cmあるのだが、こういう背の高い女性向けの「モデルサイズ」と呼ばれる製品があることをその時、初めて知った。
 
私には派手な柄が合いそうだということで加賀友禅の振袖を買うことにした。考えていた予算よりかなり高めではあったが、柄が気に入ったので買っちゃうことにした。お仕立てあがりは12月初めになるということであった。須藤さんは私が和服を全然着たことがないというと「和服自体に少し慣れたほうがいいね」という。呉服屋さんが、友禅をお買い頂きましたし付下げの既製品を1枚サービスしましょうか?というので、お店の人と一緒に倉庫まで行って、在庫しているものの中で、好みの柄のものを選ばせてもらった。
 
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その場で着付けしてもらう。
「なんか、これ新鮮な感覚・・・」
「そういう格好すると、大和撫子って感じだね」といって美智子は
その場で私の付下げ姿を撮影する。
 
私は自分でもなんだかとても嬉しくて
「女の喜びを感じちゃう。でもこれ、自分で着れるようになりたいなあ」
などと言った。ローズ+リリーの時に、浴衣は着る機会があり、その時に着方を覚えたのだが、ふつうの和服は着たことがなかった。
「着付けの講座行ってみる?短期間の集中講座とかもあるし」
 
呉服屋さんが出入りの着付け士さんが開いている講座を紹介してくれたので(受講料もサービスしてもらった)、私は9月下旬、そこに毎日通って着付けの練習をした。
 
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クォーツのメンバーは9月中に全員勤めを辞め、バンドのほうの専業となった。私のほうが朝9時から午後4時まで大学の講義があるので、ローズクォーツの平日の「勤務時間」は夕方5時から夜1時までで途中休憩1時間。週2日は休みの日にする(原則として月曜・火曜)という形に定められた。私は2学期の講義は月火は5時間目まで入れて、他の日はできるだけ3時限までで終われるように調整した。特に金曜日は午前中で終わるようにして週末行動しやすいようにした。 
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