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カインドリー・ジョイはその日最初の患者を診察室に入れた。
20代の男性で男性用スーツを着ている。
「どうしましたか?」
「ちょっと会社での自分のポジションに悩んでいまして」
「どういうことでしょう?」
「私、今年専門学校を卒業して会社に入ったのですが、入ってすぐ新入社員の歓迎会の時にセーラー服女装させられたら『すごい似合ってる。ほんとに女子高生みたい』なんて言われて、その後、宴会の度に女装させられるようになってしまったんです」
「まあありがちですね。特にノリのいい会社ではよくやらされるんですよ」
「最近は会社の帰りに飲みに行く時も『女装しろよ。飲み代はいらないから』とか言われて、それで、いつでも女の子にチェンジできるように女装道具一式を会社に置いています。頻繁にスカート穿くので足の毛はいつもきれいにしてないといけないし、眉も細くしておかないといけないし結構大変なんですよね」
「そのあたりは普通の女性社員でもけっこう苦労していますよ」
「更に最近では、取引先の偉い人とかを接待する時は必ずきれいにお化粧して普段より少しだけいい服着せられて社長のお供とかしてます。『女性社員を連れて行くとセクハラだのなんだの昨今はうるさいからな。君がいてくれて助かるよ』とか言われて。私、こんな仕事してていいのでしょうか?」
「それセクハラされます?」
「されます!胸とかあそことかよく触られて。『なんだ、君ついてるの?ついてても構わないから一晩寝ない?』とか言われて」
「それどうしたんですか?」
「さすがにうちの社長が止めてくれました」
「よかったですね」
「今夜処女喪失するんだろうかと、けっこう焦りましたよ」
「そういう状態なら、いっそのこと普段のお仕事の時もずっと女の子の格好をしていたら、どうかしら?」
「えー!?」
「そうしたら男性用・女性用と服を2つ用意する必要もないし、衣裳チェンジの必要もないし。着換えるのたいへんでしょ?」
「そうなんですよ!最近ではお客様にお茶を出すのに、女子制服着てとかも言われるし」
「それは慌ただしいですね。だったら最初から女子制服を着て勤務すればいいんですよ」
「あと、冗談か本気かよく分からないんですが、社長から言われているんですよね」
「はい?」
「接待の時に取引先の人にバストタッチとかよくされるから、いっそおっぱい大きくしておいてくれないかって」
「それはそういうセクハラ接待がいけないと思いますけどね。でもおっぱい大きくするのは簡単ですよ。手術費用は会社が出してくれるんでしょ?」
「それは出すと言われました」
「じゃ、大きくしてもいいと思いますよ」
「それって女性ホルモンとか飲むんですか?」
「将来本当に女性に性転換したいのなら女性ホルモン飲んだ方がいいですが、そのつもりが無いなら、胸にシリコンを入れればいいんです。そしたら女性と結婚する時は、そのシリコン抜けばいいですから」
「ああ、元に戻せるんですね」
「そうですよ」
「じゃ、やっちゃおうかなぁ」
それで彼は結局、バストにシリコンバッグを入れる豊胸手術を受け、更にヒゲ、すね毛、脇毛の永久脱毛をした。バストがあるのでブラジャーが必要である。ついでに彼はパンティも女物に変え、パンティストッキングを穿いて、女子制服を着てパンプスを穿いて、ほぼ女子社員として勤務しはじめた。髪も伸ばして半年後には普通に女性の髪の長さになり、髪を切る時も理容室ではなく美容室に行くようになった。お化粧もかなり練習してうまくなったようである。
そして接待ではセクハラされる!女子社員役を務めていたようだが、そういう身を犠牲にしたご奉仕(?)が評価された彼は入社3年目で係長に昇任したらしい。そして社内の「女性管理職懇親会」にも入れられてしまった!ということであった。
彼が本当に男性として結婚できるか、ジョイはかなりの疑問を持っている。
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■ジョイの診察室・新入社員(1)