【宴の後】(1)

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(c)2001.01.03-2001.02.07 Eriko Kawaguchi
 
頭がガンガンする。昨夜飲み過ぎたかも知れない。
「あなた、そろそろ起きてね。もう7時よ」
妻の声に無理矢理からだを起こそうとする。なかなかいうことを聞かないからだに鞭を打ってベッドから抜け出しトイレに入った。まだ頭もからだも半分寝ている。立ったまましようと思ったが、からだがフラフラするので、便器に座る。機械的に放出する。若干の違和感を感じたが、ボーっとしているので深くは考えない。しかし終わったあと、いつものように滴を落とすために手でそれを振ろうとして手が空を切った。
 
「ん?」私は何だかよく分からないまま、もう一度チンチンをつかもうとしたが、うまく行かない。「まだ酔ってるのかな」と思い、しっかり目で確認してつかもうとして........戸惑った。
 
チンチンが見あたらないのである。「どこ行ったんだろう」と手で股間を探るが、どうしても手に当たらない。私はやっと目が覚めてきた。手で探すのを中断して目でじっくり見ると股間がいやにスッキリしている。そこにあるはずのチンチンもタマタマも見あたらない。それどころか割れ目ができていて、おしっこはその割れ目から出ていたようである。濡れているのでどうしていいか困ったが、トイレットペーパーで拭いてみた。
 
「何がどうなってんだ?」私は訳が分からず呆然としていたが、そこに妻の声があった。「あなた大丈夫?今日は会社お休みする?」「いや、行く。大事な打ち合わせがあるんだ」私は考えるのを中止して、パンツを上げると水を流してトイレを出た。

会社に行くまでの間私はそのことについて考えようとしたがサッパリ分からなかったので結局何の結論も出なかった。会社に行くと後輩の下田が声を掛けて来た。「中村さん、昨夜はありがとうございました」「あ、うん」
「昨夜は何時頃までだったかな?」私は昨夜何があったかよく思い出せないのでヒントがつかめないかと思い、さりげなく聞いた。
 
「えっと解散したのは3時くらいでしょうかね。私がタクシーで家にたどりついて、シャワーを浴びてからテレビを付けたら4時でしたから。でもすっかりおごってもらって済みません」「どこらへんで飲んだんだったっけ」「えっと最初みんなで蔵田屋に行ったでしょう。8時頃に6人でスナックに行って、10時半くらいに中村さんと諸橋と香山の4人でカラオケに行って、その後香山が帰って残り3人でニューホテルのラウンジで飲んで」「俺最後は一人だったよな」「多分。ホテルの前で方向が違うからというので、私と諸橋は反対車線に渡ってタクシーを拾ったので。何か忘れ物でも?」私はギクっとした。確かに忘れ物かも知れないが......
 
私はコーヒーを飲んで再度頭をスッキリさせてからトイレに入ってズボンを下げ、その部分をじっくり見てみた。やはり無い。こんなもの、どこかに忘れてくるようなものだろうか。陰毛もきれいになくなっていて、その割れ目がハッキリと見える。私は割れ目の中に指を入れてどうなっているか調べてみた。上の方にちょっと突起のような硬い部分がある。この付近からおしっこが出るのだろうか。ずっと下の方に指をまさぐっていくと指が少し沈み込む部分がある。入れてみるとかなり入る。でもあまり深く入れるとちょっときついようだ。私はできるだけ体の緊張を解き楽な気持ちになってみる。入る。ゆっくりと入れていくと結局人差し指が全部入ってしまった。まるで妻のヴァギナに指を入れているみたいだ。
 
と考えてハッとなった。そうだ、これはまさにヴァギナではないか。そう考えると次の考えが浮かんだ。これはまるで女の形ではないか。私の股間はまさに女のような形になってしまっている。なぜ?
 
「性転換?」そう考えてから私はその言葉にショックを覚えた。まさにこれは性転換手術でも受けたような状態である。しかしいつ?下田達と分かれたのが3時頃らしい。妻に起こされたのが7時。その4時間の間に何があったのだろう。

その日は得意先を3件回り色々と打ち合わせをして7時頃まで仕事をした。その間何度かトイレに入ったが、その度にズボンを下げる前に「チンチンよ戻っていてくれ」と願ったが、元に戻っているようなことはなかった。そしてそもそもおしっこをするのに、かなり苦労した。朝は無意識だったので出来たのだろうが意識すると、力の入れ具合がよく分からず、うまく出せないのだ。また何とか出ても、おしっこの飛ぶ方角がチンチンのあるのとは全然違うので、相当戸惑いと不安があった。
 
帰宅すると妻はもう帰っていた。「お帰りなさい。御飯今作り始めた所なのよ。先にお風呂入る?」「あ、うん」「じゃ、ちょっと待っててね」妻がお風呂に湯をためてくれた。いつもは部屋で裸になってから風呂に行くのだが、それではチンチンが無くなっているのを見られてしまう。私は着替えを持ったまま脱衣場に行き、そこで服を脱いで風呂に入った。
 
風呂場で改めてそこを見る。やはり無い。ほかからだを確認するが、変化したのはそこだけのようである。喉仏はある。胸は別にふくらんでいない。体毛も普通通り残っている。手術されたのなら痛みなどないだろうか、と思ったがよく分からない。傷口等も探してみたが特に見つけきれなかった。
 
取り敢えず汗を軽く流してから湯船につかろうと思ったが。その付近をどう洗えばいいのかよく分からなかった。適当にお湯をかけ少し割れ目の中に指を入れて洗う。湯船につかってから落ち着いて昨夜のことを思い出そうとしたが、どうもはっきりしない。昼間何かヒントが残っていないかと思い財布の中のレシート類を見たのだが、これといったものは無かった。お金が1万円札を5枚入れていたのが2枚に減っていたが下田たちにおごってあげてその後タクシーで帰ったとすれば不自然な額ではなかった。
 
考え事をしている時に脱衣場のドアが開く音がした。「湯加減良かった?」
私はちょっと焦ったが「うん、ちょうどいいよ」と答えた。すると、妻は「私も入っちゃおうかな。あと30分くらい弱火で煮込むだけなの」という。私は慌てた。このからだを見られては。私はちょっと咳き込むと「ごめん。もう上がるから」といい湯船からあがると股間をタオルで隠した。脱衣場との間のガラス戸をあけると妻は既に裸になっていた。私は「ゆっくり入ってて。鍋は時々見てるから」というと、そのまま着替えを持って部屋に逃げていった。

やがて妻があがってきて夕食になる。私は昨夜の自分の様子が聞きたくて、できるだけさりげなく聞いた。「昨夜は御免。俺何時頃帰って来たんだっけ」「うーんと、私も2時頃までは待ってたんだけど、いつの間にか眠っちゃってて、よく分かんないけど5時くらいだったかな」「待っててれたんだ。御免ね」「うーん。でも電話の一本も入れてくれたら嬉しかったな」
「御免」「じゃお詫びに何してくれる?」妻は明らかにしたがっているようだ。しかし今は....
 
私の困惑とは関係なしに妻は食事もそこそこにからだを寄せてきた。熱いキスをする。私はまずいという気持ちがあるためにかえって興奮してきた。しかし興奮すれば反応するはずのものがからだに付いてない。それでも、まるでそこが立つかのような感じがした。「ひょっとして復活した?」私は微かな希望が一瞬出たような気がして積極的になった。
 
妻はしっかりと体を密着させ、やがて私の首筋を吸い始める。これだけ強く吸われたら痕が残りそうだが別に構わない気がする。やがて妻は私の股間に手を伸ばしてきた。でもあるんだろうか?感触は感じるのだが。でもさすがにいきなり触られるのは怖い。先に自分で確かめたい。私は妻の手をさえぎって、からだを起こしベッドに連れて行った。
 
抱き合いながら妻の服を脱がせる。乳房を愛撫し、やがてその手を下の方にずらしていって股間を下着の上からまさぐる。この感触!自分の股間を昼間触った時の感触と同じだ。下着の上から一番敏感な部分を刺激すると妻は思わず声をあげた。
 
私は一気に妻のパンティを下げると、体を布団の中にもぐりこませてクンニをしてあげた。一瞬「きゃー」と小さな声をあげる。忙しく舌を動かしていると妻は気持ちよさそうに体の緊張を解いてきた。指を入れてみるとかなり濡れてきている。私はここで自分のパンツも脱ぎ、先ほどから感じている感触を確認しようと思ったが.....
 
やはり無かった。手が確認した感触は妻の股間と同じようなものである。私は硬い物が立っていない代わりに、その割れ目の中がかなり濡れていることに気づいた。さっきからの興奮した感じはこれだったのか。私の動作が止まったのに気づいた妻が「今度は私がしてあげる」と言った。まずいと思ったが遅かった。
 
妻はさっと体を起こすと私の股間めがけて顔を突っ込んで来た。そして一瞬動作が止まったが「やだ。隠してるの?」と言って笑い「して欲しかったら出しなさい」と言う。私がチンチンを後ろにまわして隠しているのだと思ったようだ。そういえば、そんなことをしてふざけたことが何度かあった。「でも今日は上手に隠してるのね。まるでホントの女の子みたいよ。女の子モードがいいんだったら、それでしてあげる」と言って、妻はそのまま私の割れ目に舌を付けてきた。
 
私は顔が真っ赤になるのを感じたが、そのうち今まで感じたことのないような至上の快感を感じた。もしかしてこれは女の子の快感?女の子って、こんなに気持ちいいものなんだろうか。私はそんなことをつい考えていた。そして気持ちよくなったあまり体を倒してしまった。股間が全開になる。「え?」妻の声がした。しまった。
「おちんちん、ホントどこに隠してんの?」「それが....」「やだ、もしかして取っちゃったの、手術して?」「そんな覚えはないんだけど....」
「でも、どこにも無いよ。それにこの割れ目は何?本物じゃない。あなた私にだまって性転換手術しちゃったの?」「それが今朝見たら、こうなってたんだよ。僕も全然記憶が無いんだ」「ふーん」
 
妻は意外に落ち着いているようだ。そして私のからだに興味を持ったようである。「ねぇ、ヴァギナもあるの?」「うん」「じゃ、入れさせて」
「え?」「だって、いつも私ばかり入れられてるんだもん。たまには私も入れてみたいと思ってたの。ちょうどいいわ」そう言うと妻は私の割れ目の中に指を入れ、上の方のコリコリした部分を刺激し始めた。
 
「さっき嘗めてて何か変なかんじしたのよね。ここまるでクリちゃんみたいって」そう。その感じやすい部分はクリトリスなのだろう。ものすごく気持ちがいい。「私のもして」妻はそう言って腰を私の手の付近に寄せた。「うん」私がしてあげると妻は気持ち良さそうだ。「入れるよ」妻は言うと指を私のヴァギナに入れてきた。あっと思ったが抵抗無くスッと入っていくようだ。昼間自分でした時にはあんなに抵抗があったのに、と思ってからすぐ納得した。クリトリスを充分刺激して濡らしたからだ。「1本じゃスンナリは入りすぎね。2本にする」妻は指を2本にしたようだ。私も指を妻のヴァギナに入れてあげる。妻が指を出し入れし始めた。私も同じようにする。妻はクリトリスの刺激もずっと続けている。ものすごく気持ちがいい。時が静かに熱く流れていった。

「おちんちん無くても私たちやっていけそうね」妻がそう言った。「あなたが女の子になりたがってたなんて知らなかったけど、私、あなた自身が好きだから、これでも構わないよ。ほんとなら子供ができてからにして欲しかったけどね」妻は私が自分の意志で性転換手術を受けたと思っているようだ。私は自分でも訳が分からない状態なので、とても妻に説明できる状態ではなく、取り敢えずはそう誤解されたままでも仕方ないかと思った。
 
その夜は何だかさわやかな疲れでそのまま眠ってしまった。

翌日会社から帰ると妻がニコニコして寄ってきた。「お帰り」「どうしたんだい?」「あなたにちょっとプレゼント」「え?」「御飯のあとでね」
 
お風呂に入ってあそこを洗って、ふーっとため息をつく。気を取り直して湯船であたたまり上がって、食事がだいたい済むと妻は紙袋を取り出してきた。「はい、これ」「何だい?」と言って私があけると、そこには女物のパンティー、ブラジャー、ストッキング、それにブラウスとスカートが入っていた。「これは?」
 
「だって、あなた女の子になったのに女の子の服持ってないじゃん。プレゼントよ」「でも....」「恥ずかしがらなくていいのよ。さ、着てみて」
「でも、こんなの着たことないから」「うそばっかり。隠さなくていいのよ。きっと私と結婚する前はずっと女の子の格好してたんでしょ?でも、私と結婚するのにお洋服とかお化粧品とか捨てちゃったんだろうな、と思って。私を大事にしてくれるのは嬉しいけど、自分を隠さなくてもいいのよ。私の前ではずっと女の子の服着てていいから」「だけど、ほんとに、こういうの着たことないから」「もう何恥ずかしがってるのよ」
 
妻はそういうと私の服を全部脱がせ、買ってきた下着を私に着せ、ストッキングも履かせてスカートにブラウスも着せてしまった。ほんとに恥ずかしい!でも何もない股間に女物のショーツがピタッと決って心地よいような気がした。そして妻は更に私を鏡台の前に座らせると、お化粧を始めた。
 
「パフが引っかかる。ヒゲ剃らなくちゃ。動かないで」妻はシェービングフォームを付けるとヒゲをきれいに剃っていく。ちょっと痛いくらいだ。「眉も太すぎるわ」と剃ろうとするので「待って。剃られると会社が」と言う。すると妻はしょうがないわねと言い「じゃ控えめに細くするから」
と言って、やはり剃りはじめた。
 
剃った毛を柔らかいティッシュできれいにふき取り、化粧水を付け、乳液を付けて、そのあとファンデーション。何だかいい匂いだ。そしてアイメイクに入る「目つぶらないで。ダメちゃんと開けてなくちゃ」目のふちをペンシルでラインを書かれ怖い。でも何とか終わったようだ。そして頬紅をパフではたき、最後に口紅を入れる。それまで違和感を感じていた鏡の中の顔が、この口紅でガラリと変わった。「きれい」思わず私は言ってしまった。
 
「うん。すごい美人じゃん。これなら女の子になりたかったわけね」妻は納得したような声を出す。「ね、今度の日曜一緒に買い物に行って、もっと女の子の服買いましょう」「うん」「その前に足の毛なんかも、何とかしなくちゃね」
 
その晩妻はたっぷりと私を気持ちよくさせてくれた。お化粧は翌朝の朝食後に落としてくれた。

翌日から私は家に帰ると即女の子の格好にさせられた。そして私が本当に服の着方とかお化粧の仕方を知らないようだと分かると、呆れながらも、詳しく丁寧に教えてくれた。「そんなの抜きでいきなり取っちゃうなんてあなたも大胆ね。結婚したことで、よほど男でいるストレスがたまったのね。ごめんね」「いや、そういうわけでは」
 
足・腕・脇の下と全身の体毛を剃られた。毛がなくなってさっぱりした足を見ると、自分のからだって、こんなにきれいだったのかと不思議な気分になる。
 
「オッパイも大きくしなくちゃね。どこかもう予約してる?」「ううん」
「じゃ、いい所探してあげるわよ」「いや別に」「だって女の子になったのに、そんなに小さな胸じゃ変だわ。私もあなたのバストもんでみたいし」
 
もめるようなバスト。。。ドキンとした。そんなものが自分の体にできてしまうのだろうか。どんな気分なんだろう?考えていたら何だかまた興奮してきた。立つ感じ。でも、実際は立つ物が存在しないのは知っている。
 
そのことを言ってみたら、妻はしばらく首をひねっていたが「幻肢って奴じゃない?事故なんかで腕や足を切断した人が、なくなったはずの手や足の先がかゆいことがあるんだって。あなたの場合は幻肢じゃなくて幻茎というのかな。でも実際は立ってるんではなくて濡れてるはずよ」
 
そう言って妻は私の股間を触ってきた。気持ちいい。
 
ここの所私たちの夜の生活はかなり長いものになっている。新婚当初みたいだ。あの頃は毎日2〜3時間していたというのに最近は月に2〜3度、それもすぐ終わってしまうようになっていた。

その夜、長く熱い時が過ぎたあと妻は「お腹空いた。ね、ファミレスとか行かない?」と言ってきた。私は妻の言外の声が聞こえたような気がした。「もしかして女の子の格好のまま?」「もちろん」
 
おちんちんがあった頃はセックスが終わると即気分も平静に戻っていたのだが、なくなって以来、いつまでも気分の高揚が持続しているような気がしていた。その高揚がなかったら、私も外に出てもいいかなという気分にはならなかったかも知れない。
 
妻に再度念入りにお化粧をしてもらった。青い体に密着するようなカットソーにプリーツのロングスカート。長い髪のウィッグも付けた。ドキドキして....きっとまた濡れてるのかな?妻も準備して外に出た。
 
途端、ちょっとドキドキの内容が変わった。期待するような感じではなく怖い感じに。「ね、もし男ってバレたら」「何言ってるのよ、女なのに」
そういえばそうだった。「声出さない方がいいわ。あなた発声も練習しなくちゃね。注文は私がするから」
 
マンションの地下の駐車場に行き、車に乗ってスタートさせる。「落ち着いてね。女装していることは取り敢えず頭の中から消して運転に集中して。それとも私が運転する?」「あ、いや大丈夫だと思う」
 
運転に集中したおかげで恥ずかしさもどこから消えたような気がした。近くのファミレスの駐車場に入れる。キーを外して、外に出る。風が吹いてきてスカートが風に揺れた。足がスースーする。なんか頼りない感じ。靴は用意がなかったのでスニーカー。「今度パンプス買おうよ」「うん」
階段を上ってドアを開けて。
 
「いらっしゃいませ」と係の人が来る。私は思わず恥ずかしくてうつむいてしまった。「お二人様ですか?」「ええ」妻が応じてくれる。私たちは窓際の席に案内された。パスタとサンドイッチを注文する。係の人が行ってしまうと私はちょっと落ち着いて周りを見回す余裕が出来た。
 
町中なので深夜だがパラパラと客がいる。男の子4人のグループ、疲れた表情の中年のサラリーマン、若いカップル。。。私たちも本当はカップルなのだが、今は女の二人連れだ。「あなた、外出るのに慣れてないみたい」
「うん」「じゃ、どんどん慣らしていきましょう。度胸が付いてきたら次は昼間ね」
 
昼間。。。真っ昼間に堂々と自分が女として外を歩けるのだろうか?凄く怖い気がした。
深夜のお出かけはその後1月くらいの間に5〜6回に及んだ。ファミレスやラーメン屋さん、コンビニ、お弁当屋さん。その間女の子らしい声の出し方もだいぶ訓練させられた。そしてお弁当屋さんではとうとう声を出して注文するのに初挑戦した。
 
昼間のお出かけはしてみると以外に怖くなかった。さんざん夜出歩かされたので慣れたおかげだろうか。何度かの短い練習の末、翌月にはもう外に出掛ける時は女の子の格好をする、というのが当たり前という気になってきた。
 
2月後、妻が「知り合いに色々聞いたけど、ここなら安心そう」と言って美容整形外科に連れていってくれた。最初はカウンセリングである。結婚しているのに、いいんですか?とか、男性なのにどうして?とか聞かれるかと思ったが、そういう質問は無かった。主としてどのくらいのサイズにしたいのかというのを聞かれ、また幾つかの方法を説明されて、どの方法を選ぶかということを聞かれた。食塩水パックの挿入をすることになった。
 
実際の手術はその一週間後、金曜日に会社は有休を取って受けに行った。ちょうど月曜が祭日で3連休なので手術後3日間からだを休めることができる。普通は部分麻酔で自分でサイズを確認しての手術になるのだが妻にサイズを決めて欲しいと頼み、全身麻酔にしてもらった。部分麻酔だと、かなり痛い手術なのだそうだが、お陰でそんなに痛い思いをせずに済んだ。それと折角全身麻酔をするからついでに?ということで喉仏を取ってもらうことになった。
 
麻酔から覚めて膨らんだ自分の胸を見た時は、初めてたいへんなことしちゃったかなという気がしてきた。ちんちんが無くなってしまったのは自分の意志ではないし、考えると分からなくなるので考えないようにしていたのだが、胸を大きくしたのは妻に勧められたとはいえ自分の意志である。初めて自分がもう男には戻れないんだということを実感し、少し涙が出てきた。胸の方に考えが行っていたので喉仏を取ったことについてはあまり考えずに済んだかも知れない。元々自分でそう意識していたものではないということもあるかも知れないが。
 
その晩、そんな私の気分を配慮してくれたのか、妻はとても優しく、私のからだを愛撫してくれた。ただし胸はまだ触れない。傷が安定してからでないと、強くもんだりはできないようである。
 
胸のサイズはBカップである。妻と一緒に買いに行ったBカップのブラジャーで包んでみると、ピッタリとフィットして気持ちいい。今まではAカップが余っていたのに。でもこの大きなバストが自分のからだに付いているという感覚に慣れるのに、かなり時間がかかった。妻が寝ている間に、全身を鏡に映してみたりした。いいプロポーションだという気がする。この2月髪も切らずに伸ばしていたので、何とか女性の髪の長さに見えないこともないし。でももう少しウェストを絞った方がいいかな?
 
翌日妻は私の乳首を吸ってくれた。大きくする前より感度が上がったような感じがする。すごく気持ちがいい。私はおもわず喘ぎ声をあげた。「声もう出してもいいの?」「うん。大丈夫かな」「でも、無理しないでね」
 
このところ私はキャミソールやスリップのあの優しい感触がすごく気に入るようになっていた。以前は家に帰ると女物に着替えても、会社に行く時は全部男物だったのだか、そのうち下は会社に行くときもショーツにして2週間ほど前からは上もブラジャーとスリップを付けるようになっていた。
「明日会社に行くときは下着どうする?」連休の最終日妻に聞かれて私も困った。何も考えていなかったのである。「カミングアウトして会社でも女の格好で通す?」「うーん。それはさすがにクビになると思う」「どうして?別に悪いことしてる訳じゃないのに」「それはそうだけど」
 
結局私はブラジャーは普通にした上でスリップの上にワイシャツを着、その上にゆったりしたセーターを着てから背広を着た。「冬だから、これで背広を脱がなきゃ大丈夫だよ」「夏になったら?」「それまでに考える」
でも、ほんとどうしよう?この身体のまま働ける所ってオカマバーくらいだろうか??
 
ともかくもその格好で会社に出て、最初の内はバレないだろうかとヒヤヒヤだったが、そのうち慣れてくると全然平気になってきた。それが日常になると、どんどん心の余裕が出てきて、更に翌月には足の毛とヒゲも永久脱毛してしまい、面倒な処理から開放された。特に毎朝ヒゲを剃らなくて済むようになったのは、とても気持ちの上で助かった。
 
そしてそんなある日。あのおチンチンが無くなった日からもうそろそろ4ヶ月がたとうとしていた2月中旬のある日。
 
その日私は朝からちょっと体調がすぐれなかった。ちょっとお腹が痛いような気がする。しかし今日までに提出しなければならない書類がある。私は風邪かなと思って風邪薬を飲み、そのまま会社に出た。そして16時頃。多くの同僚が営業で外に出ていた。それが幸いだった。自分の机でパソコンに向かって書類を書いていた私はまた腹痛に襲われた。急な痛みではなく、ジワっとくるような痛みである。そしてその次の瞬間、今まで感じたことのないような感触を下半身に感じた。
 
何かがズボンを伝って滴り落ちる感触があった。え?何、これ?
 
戸惑っていた時、私の隣りに座っていた諸橋慶子がさっと椅子を寄せて来て私の手に何かを握らせ「トイレ行ってきなさい。ここ私が拭いといてあげるから。まだ誰も気付いてないよ」と囁いた。
 
私は訳が分からずに、言われるままにトイレに飛び込んだ。
 
ズボンを下げるとショーツが赤く染まっていた。何か怪我したんだろうか?そうだ。もしかして性転換手術を受けた?時の傷が開いた??
 
と思いつつ、諸橋さんが渡してくれたものを眺めた。それは生理用ナプキンだった。
 
「まさかこれ生理?」私は頭が混乱してくるのを止められなかった。性転換すると生理も来るものなのだろうか??しかし以前テレビの深夜番組に出ていたニューハーフの人が「子供が作れないのだけがねぇ」などと話しているのを見た気がする。そもそも生理は卵巣と子宮が無ければ来ないのではないだろうか。元々男である私にそんなものがある訳がない。性転換手術を受けても、形だけ女になっているだけであって、生理が来るはずがない。でも今ここにあるのは何だろう?
 
私は全く訳が分からなかった。しかし落ち着いてくると、とにかく諸橋さんが渡してくれたものが今使えそうだということだけは理解できた。私はまずトイレットペーパーにできるだけ血を吸い取らせた上でとにかくナプキンを付けることにした。以前妻のをふざけて開いてみたことがあるので、使い方だけは分かる。袋を破いて中身を出しシールを剥がしてショーツに付ける。その前にショーツについた血もできるだけトイレットペーパーに吸わせた。そしてナプキンを装着したショーツをきちんと履く。ふわっとした感触。でもなんだか安心感がある。
 
そのあと足に付いた血、それからズボンにも少し血が付着していたのでそれもぬぐう。使ったトイレットペーパーを水流で流してボックスを出る。手にも血が付いていたので丁寧に洗う。外に出ると諸橋さんがいた。
 
「大丈夫?」「え、うん。ありがとう。でも....」「いいのよ。少し前から気付いていたわ、中村さんが本当は女性だって」「え?」「心配しないで。誰にも言ってないから。胸のふくらみがあるのにこないだ気付いて。それに何ヶ月か前に下田さんたちと一緒に飲んだ日、あの日私も酔ってたから中村さんの股間なんかに目が行っちゃってさ。その時、あんまり膨らんでないのね、なんて思った記憶があったし。それで最近実はよく観察してたんだけど体のバランスの取り方が男性の取り方じゃないのよね。まるで子宮でバランスを取っている感じ。それに喉仏も無いし。ヒゲなんか伸びてる所見たことないし。でも凄いわ、完全に男の振りして。結婚もしてるんでしょう。相手は女性?」「うん」「そうか。そちらの趣味もあるのか。それに中村さん、仕事やり手だもんね。そのくらい出来たら、お茶くみOLなんか、やりたくなかったよね」「いや、それは....」「大丈夫、誰にも言わないよ。頑張ってね。でも男に徹しすぎて生理のこと忘れてちゃだめよ。じゃ」
 
そう言って諸橋さんは女子トイレに消えていった。彼女にはバレてしまったようだが、彼女は口は硬そうだし、それ以上は広まらないかも知れない。何よりもナプキンをもらって助かった。しかし今日はできるだけ早く帰ろう。とにかく私は生理のことで頭がいっぱいだったので、諸橋さんの言っていた言葉については深く考えていなかった。
 
机に戻り、パソコンで書類の最後の方の計算を行い、充分チェックした上で課長に電子メールで送る。課長は出張中で今夜遅くしか戻ってこない。私は定時になると、そそくさと机の上を片づけて帰り支度をした。諸橋さんと目が合う。軽く微笑んで感謝の礼をした。そして電車に乗っていて、諸橋さんの言葉の中の重要なフレーズに気が付いた。股間が膨らんでなかった!?
 
そうだ。あの日最後まで飲んだのが下田君と諸橋さんだった。下田君とは翌日話を交わしたが、諸橋さんの方は翌日飲み過ぎでダウンして休んでいた。それでなんとなく話は聞かないままになっていたのだった。飲んでいた時に股間の膨らみが無かったということは既にその時に、もうおチンチンは無かったのだろうか??
 
私は何とかあの日のことを再度思いだそうとした。あの日最後に自分のチンチンに触ったのはいつだろうか?会社では何度かトイレに行っている。その時はあったはずだ。まだ全然酔ってないのだから、無くなっていたら気付くはずである。その後下田君の話では居酒屋からスナック、カラオケ、ホテルのラウンジと移動したはずだ。諸橋さんが私の股間を見たのはいつだろうか?私は席順を思い出してみた。居酒屋では諸橋さんとは別のテーブルだった。スナック?いや。彼女は近くにいたが間に香山君がいた。カラオケ?確かにこの時隣りだったような気がする。ホテルのラウンジは3人で丸いテーブルを囲んでいた。とするとカラオケの時?そういえば居酒屋では一度トイレに行っている。その時は立ってしたと思うからチンチンはあったはずだ。その後は....トイレに行ってないかも知れない。するとチンチンが無くなったのは居酒屋からカラオケに移動するまでの間??
会社が引けてから、私はあのスナックに行ってみることにした。
 
「いらっしゃい」と若いママが声をかける。時間が早いせいか客は他に誰もいなかった。水割りを注文する。「中村さんでしたわよね」とママが言う。「すごいですね、覚えていてくださったんですか」「それが商売ですから」
 
「実はちょっと訊きたいことがあるのですが」とママの顔を伺う。「先日、こちらに来た時に、私たちの様子で何か変わったことはなかったかな、と思いまして」と自分でも訳の分からない聞き方をする。
 
するとママはしばらく考えていた風だったが、やがて「違ったら御免なさい。もしかして、あなた女の方ですか?」「え?」ドキっとする。ママは続けた。「違うわね。最近、女になった方ですね」私はあまりにストレートに言われて、返す言葉を失っていた。
 
「でしたら、もしかしたら、ここがお役に立つかも知れないわ」ママはそういうと、近くのメモ用紙に何かを走り書きして渡してくれた。
 
そこには「青木クリニック」という名前と簡単な地図が書かれていた。
 
「もし、そこに行かれるのでしたら私の服をお貸ししてもいいから、女の格好に戻ってから行かれた方がいいわ。そちらの部屋で着替えれるけど、どうします?」
 
私は何をどう考えていいのか分からず、取り敢えずその小部屋に入った。休憩用の部屋のようである。ママはいくつか服を取り出して渡してくれた。
「これとこれ、着ていくといいわよ。返さなくてもいいから。じゃ、私は店に出てるから」といってママは先に小部屋を出る。
 
私は手渡されたブラウスとスカートを手に取ったまましばらくながめていたが、やがてため息を付き、それに着替えて外に出た。するとママが「あらやはり可愛くなるわね。お化粧品は?」私が用意してないというと、ママは手近のバッグを取り出して、簡単にメイクをしてくれた。私はお礼を言い、1万円札を2枚出して渡そうとしたがママは「多すぎるわ」と言って1枚返してよこした。私はおじぎをしてスナックを後にした。着てきた背広はママが紙袋に入れてくれた。
 
私は近くの駅から電車に乗り、そのメモ用紙を眺めていた。「青木クリニック」私はここで手術されたのだろうか?とにかくそこに行けば、何かが分かるに違いない。もしかしたら男に戻れるかも。
 
そんなことを考えている時、電車の中に若い女の子たちの集団が乗ってきた。今からコンサートにでも行くか、どこかのクラブに踊りにでも行くのだろうか。かなり派手ないでたちをしている。楽しそうな声。
 
ふと、視線が近くに座っている会社帰りのサラリーマンらしき人たちに行った。会社が終わった後だけあって、少しくたびれたような格好をして、一人はスポーツ新聞を読んでいる。一人は他人の迷惑も考えずに大股を開けて座っている。
 
電車が乗換駅に到着した。
 
しかし私は降りなかった。紙袋に入った背広のポケットから手帳を取り出して路線図を確認する。「2つ先で乗り換えたら、そのまま家に帰れる」私はそう思うと、ママからもらったメモを手の中でクチャクチャにした。そして、乗換駅のゴミ箱に放り込んでしまった。

やがて駅に着き、自宅への道をたどる。そしてドアを開けると妻が飛びついてきた。「どうしたの?」「ふふふ。ちょっとお祝い」と言ってキスをする。「思わずお赤飯炊いちゃった」私はドキッとした。そういえば女の子の初潮の時ってお赤飯炊くんだっけ?
 
「なんで私に生理が来たこと知ってるの?」最近私は妻と話す時には一人称が「私」になっていた。言葉も完全に女言葉である。「生理?何それ?あのね、私妊娠してたのよ」「え?」「あら、そういえばどうしてあなた今日は女の子モードなの?」
 
妻はそもそも生理不順のたちだったのだが、ここしばらくあまり生理が来ないので今日病院に行ってみたところ妊娠4ヶ月くらいということが分かったということだった。「あなたが女になっちゃう3日くらい前に一度セックスしたじゃない。あの晩に出来た子よ、きっと。私たちにはもう子供はできないのかって諦めていたから、私嬉しい」
 
妻はとても喜んでいた。私もとても嬉しかった。しかし私は更に自分に生理らしきものがきたことを妻につげなければならなかった。妻はまたびっくりしたようだった。「ね、あなたも一緒に病院に行って見てもらいましょう。取り敢えず、私の友達ってことにして。保険に入ってないから自由診療ということにしちゃいましょう。あなた今裸になっても完全に女の子の姿だから婦人科に行っても大丈夫よ」
 
そこで私は数日後生理が終わった所で1日会社を休み、妻の友人の平沢玲子という女性ということにして婦人科の診察を受けた。「生理不順なので少し詳しく検査してください」ということにしたのである。すると『子宮の中』
まで調べられて「大きな問題は無いですが、少しお薬出しておきましょう」
ということになった。つまり今の私には確かに子宮が存在しているようなのである。しかし婦人科のあの診察台は!超恥ずかしかった。ああいう経験をすることになるとは、半年前の自分には信じられないだろう。
 
ちょうど28日後に私には2度目の生理が来た。間違いない。私は完全な女になってしまったようである。このことについては自分でもやっと開き直りができてきた。妻の妊娠の方は順調であった。私は仲の良い友人ということで、妻の子宮の中の赤ちゃんの様子も超音波で見せてもらうことができた。春が近づいていた。いつまでもゆったりしたセーターで胸を隠しておくことはできないであろうと思われた。3月末で私は会社を退職した。
 
しかし子供は夏頃には生まれる。稼がなければならない。私は最初から女性の格好でまた平沢玲子の名前を使いファミレスの皿洗いの仕事を得た。それと合わせてインターネットのホームページで女装する人向けの化粧品や衣服・靴などの通信販売をするサイトを立ち上げた。
 
自分が最初なかなか合う靴がなくて苦労した経験などをもとに、服にしても靴にしても詳細なサイズを掲載し、また画像の色数をうまく減らしてカタログの閲覧をとても軽くできるように工夫したことと、荷物を局留めで送れるようにし支払いもコンビニでできるようにしたため、家族にかくれて女装する人たちにうけたようで、バナー広告による収入も合わせると、月間10万円近くの収入になった。それとファミレスのバイトの収入を合わせると月収22万円。会社では給料は月に18万円くらいしかもらっていなかった(しかもボーナスは不況で出ていなかった)ので、結果的に収入は増えたことになる。
 
これだと子供が生まれてもなんとかやっていけそうである。来月には別のドメイン名で、普通の女性でややサイズがイレギュラーな人向けの通販サイトも立ち上げる予定。
 
「パパがいなくてママが二人って子供の教育に良くないかな?」「気にすることないよ。世の中、理想的な親なんていないし、いたら気持ち悪いもん」
 
プラス志向の妻の言葉に支えられて、私は8月か9月には自分を遺伝子的には父とする娘(超音波の診断では女の子とのことだった)の母の一人になる。
 
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