【続・トワイライト】(1)

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「はるかちゃん、仙台で被災したんだって?」
常連のお客様に呼びかけられて和実は
「ええ、そうなんです。大変だったんですよ!」
と明るい声で答えた。その胸に青いリボンが留められている。
「もう津波がすぐそこまで来て怖かったですよ。津波の方見つめて『お願い、来ないで』と言ったら停まってくれたんで、その間に何とか逃げ切りました」
 
朝から、連日たくさんの『ご主人様・お嬢様・奥様』達につかまって、和実は地震と津波の話をさせられていた。最初はかなり事実に沿って話していたのだが、あまり何度も話させられるもので、だんだん創作が混じりはじめていた。
 
その日の朝、和実は焦った顔でお店に飛び込んできた。「ごめんなさい。遅刻」
と言ってドアを開ける。時刻は9:50であった。もう開店前のミーティングが始まっているはず。。。。。と思ったら、なんだか人数が少ない。
 
「あ、お帰りなさいチーフ」
「もう、計画停電なんてやってるって、駅まで来てから知って。。チーフ??」
「お帰り、和実ちゃん。君、今日からチーフだから」
「え?」
「美波ちゃん、辞めちゃったんですよ」とサブチーフの麻衣が言う。
「親にバレちゃって、そんなことするなら田舎に戻ってこいと言われたって」
「あらあ」
「それで、君にチーフしてもらうことにした」と店長。
「ちょっと待って。美波ちゃんが辞めたなら、サブの麻衣ちゃんが昇格じゃないの?私、まだこのお店1年だし。麻衣ちゃん2年で、年も3つ上ですよ」
「こら、年バラすな。たしかにこのお店では私2年だけど、和実ちゃんメイドさん歴4年でしょ。しかも前の店ではチーフやってたというし。それにコーヒーや紅茶の入れ方は絶品。オムレツの形も凄くきれいに作るし。私は今でも和実ちゃんに教えられることのほうが多いもん。外国語も10種類くらいぺらぺらで外国人のお客様の対応にも心強いし。ここビジネス街だから外人さん多いもんね」
「ということで、チーフのリボン付けてね」と店長は和実に青いリボンを渡した。
 
「10ヶ国語もしゃべれないよ。。。しかし確かにメイド歴は長いかもしれないけど。そうだ、そもそも私男の子ですよ。男の子がチーフメイドって変です」
「え?男の子?和実ちゃんが男の子だと思う人手を挙げて」
誰も手を挙げない。
「じゃ、和実ちゃんが女の子だと思う人手を挙げて」
全員手を挙げた。
「全員一致で、和実ちゃんは女の子と認めます。問題無し」と店長は言い切った。「よろしく、チーフ」とサブの黄色いリボンを付けた麻衣が言う。
「うーん。仕方ないなあ。分かりました!チーフ拝命します!」
和実は青いリボンを手に持ったまま敬礼のポーズをとって答えた。
「ところで人数少なくない?」
「計画停電の影響で、時間通り出て来れない子が多くて。じきに出てくると思う。和実ちゃん東京に居なかったから分からないと思うけど、この計画停電というのが、実に無計画停電で、首都は大混乱なんだよ。当面は遅刻者続出はしかたないということで。さあ、そろそろ開店だ」
「はい。急いで着替えてきます」和実は女子更衣室に飛び込んだ。
 
最初のきっかけは開店早々にやってきた常連さんが「あ、はるかちゃん帰ってきたんだ。仙台かどこかに帰省してたんじゃなかったっけ?地震大丈夫だった?」
と聞いたのが発端であった。『はるか』というのは和実のメイド名である。ちなみに麻衣のメイド名は『もも』である。
 
「いや。それが九死に一生を得たというか、マジで危なかったんですよ。私のすぐ後ろにいた人まで津波に飲まれちゃいましたから」
「ほんとに!それは怖かったろうね」
「でももう元気です!昨日はボランティアで被災地に支援物資届けてきました」
「ええ?そんなことまでしてるんだ。凄いね。そうだ。僕も少し寄付するよ。その支援活動に使って」
「ええ?ありがとうございます。でもどうしよう」といって和実は店長と相談して、店に急遽募金箱を置くことにしたのだった。その常連さんはいきなり募金箱に3万円入れてくれた。
ちなみに、このお店は「本日のコーヒー」1杯380円、オムレツセット700円などというとっても健全な価格のお店である(コーヒー系約20種類,紅茶系約10種類)。「接待行為」もNGであり飲食店営業の登録になっている。
 
常連さんと地震や津波の様子について話していたら、それを聞きつけた他のお客様からも呼び止められて、現地の様子を聞かれるなどという連鎖反応が起きた。そして、そのお客様たちが、ある人は100円、ある人は1000円、そしてどうかした人は万札を数枚募金箱に入れてくれた。
 
どうもかなりの高額が入ってそうだと判断した店長が「そのまま置いておくのは不用心だからいったん回収しよう」といって募金箱を引き上げ、中の金額を確認した。10時開店なのだが、今日は13時の段階でなんと42万7823円の現金が入っていた。「この1円玉は・・・・」「財布を逆さにして小銭全部放り込んでいったお客様がいましたので」と麻衣がにこやかに言った。「小切手まであるじゃん・・・げっ」和実も額面を見てびっくりした。「500万?」「こんなに頂いていいものなんでしょうか」「余裕のある人には出してもらえばいいさ」
と店長は割り切っている。
 
「でもこれ、和実ちゃんのしている支援活動に使ってくれといってたんだよね」
「支援活動といっても、石巻に2回入って、避難所4ヶ所に支援物資を届けただけなんですけどね。これは又行けということですよね。ちょっと一緒に行った人と相談してみます」
「このまま赤十字とかに寄付してもいいけど、それだけと被災者に義捐金として届くのはずいぶんあとになる。和実ちゃんの話を聞いてると、今現地に物が要る感じだよね」「そうなんです。とにかく食料がないし、基本的な日用品が無いし。自治体の職員も少ない人数でフル回転で、なかなか末端の避難所まで物資が届かないんです」
「じゃ、この頂いたお金で物を買い込んで直接届ければいい」
「そうですね」
「その和実ちゃんのお友達の女性?その人だけではこれは辛いな。うちの従兄が大型のバン持ってるから借りられないか相談してみる」
「ドライバーもちょっと友達関係あたってみます」
 
そういうわけで、このメイド喫茶を拠点としたにわか支援グループが出来てしまったのであった。和実や麻衣が各々の大学の友人などに電話をかけまくり、ドライバーのボランティアをしてくれる男子学生を5人確保した。店長は従兄からデュトロを借りることができた。また買い出し隊としてやはり和実や麻衣の友人関係で5人の女子学生の協力者を得ることができた。和実は淳に連絡して、お兄さんのトヨエースをしばらくこの作業に使わせて欲しいと言った。淳が兄に交渉してゴールデンウィーク明けまで夜間と土日は使っていいことになった。
 
募金についてはこの活動の買い出しとガソリン代に充当することにしてきちんと会計管理することにした。その報告をするためのホームページを急遽立ち上げた。会計は和実が帳簿を付けて管理することにしてサイトは淳が作ってくれることになった。管理用の口座を郵便局に作り、とりあえず今日の募金額は今日の買い出しに使う分を除いてそこに入金した。郵便局にしたのはここまで決まったのがもう15時過ぎだったからである!この活動は資金が尽きるか5月10日までとして、その時点で残金があった場合は赤十字に寄付して活動終了することにした。(赤十字や放送局などに寄せられた義捐金は「配分委員会」を通して被災者に渡される)
 
取りあえず金曜は夕方6時で上がった和実がまたトヨエースを持ってきた淳と合流して買い出しをし、夜間の東北道を走って石巻まで行った。向こうも3回目の支援なので流れが確立したようで、こことここに行って欲しいと頼まれた。
 
「妹さんの方はご自身被災者だそうですね」「ええ、津波はほんとに危ない所を逃れることができて。そのあと石巻の避難所に3日間お世話になりました。住んでたアパートも流されちゃったんですけど、じっとしてられなかったし、何かしなきゃと思って、この活動始めたんです」ふたりは姉妹と思われている感じだった。淳はこの支援活動が多人数のプロジェクトに発展したことを報告し(プロジェクト名はメイド喫茶の名前をとって「エヴォン友達会」とした。被災地の人も私達も友達ですという意味だ)、デュトロも使うので緊急車両の許可証発行を警察にお願いしてもらえるよう市の人に頼み、デュトロの車検証のコピーを渡した。
 
この日は、市の物資集積拠点からの物資移動もお願いできないかといわれ引き受けた。現地は緊急車両といえどもなかなかガソリンが調達できす、配送が思うようにできていないらしい。その日は女川と鮎川の避難所までも行くことになった。
 
「しかし2週間の旅から戻って家で寝たのは昨日だけで今日はまた車中泊か」
と淳は荷室で夜食のカップ麺を食べながら言った。車は東京に戻るところで東北道のSAに駐めている。「車中泊も楽しいよ」と和実もカップ麺を食べながら言う。今日は都内の買い出しでは淳が運転したが、石巻との往復は和実が運転している。ドライバーを頼んだ男子学生が活動できるのが火曜からなのでこの連休はふたりで活動する予定である。つまり家で寝られるのは最短で火曜の夜になる予定であった。
 
「さあ、寝ようか」
「うん。2−3時間寝てから出発すればいいね」
「何してんの?和実」
和実は服を全部脱いでしまった。淳は和実のボディラインをほんとに綺麗だと思った。これを維持するには凄い努力をしているはずだ。思わず注視する。なぜかバストは手で隠しているが、ウェストのくびれが凄い。モデルさん並みではなかろうか。ウェストサイズは57cmだと言ってたっけ。そして股間はどう見ても女の子の形だ。余計なものは認められない。淳はいいなあと思った。自分もああいう形にしたい。タック練習しようかなと思った。
「さあ、寝るよ」と言って和実は淳に抱きつきキスをした。バストが押しつけられてこちらの胸も圧迫される。淳も抱き返して一緒に布団の中に入った。和実がランタンのスイッチを切る。ふたりの間に熱い時間が過ぎていった。
 
その日、淳は和実の「疑似V」で2回逝ったが疲れがたまっていたのか、もう立たなくなってしまった。すると和実はお口でしてくれた。それがあまりにも気持ち良かったので淳はされながら眠ってしまった。「疑似V」というのは和実だけが持っている特殊な器官だ。眠りに落ちる直前、昨夜のH後の会話が一瞬フラッシュバックした。
 

「てっきりAを使うことになるのかなと思ってたからびっくりした」
 
「自分でタックの出来を確認しているうちに『あれ?ここって物が入らない?』
と思ったのよね。そんな時にネットでタックした所に指を入れて楽しんでるという書き込みを見かけて。指が入るならもう少し大きい物も入るんじゃんないかなと思って色々研究したの。でもマジックインキとか試しに入れてみたりはしていたけど、『本物』がインサート可能というのは今夜初めて確認しちゃった」
 
「でもこれ和実の特異体質だよ。タックでHできるなんて話聞いたことないもん。そもそも入るスペースがあったら固定できない。普通は無理だよ」
 
「うん。私って女の子的に興奮すると、あれが小さくなっちゃうのよね。あれの存在が脳内から消えちゃって自分が女の子の体になってる気がするの」
 
「女の子的興奮ってドライというやつだよね。男の子がドライで逝く場合は普通あれは大きくなるんだけど、逆に小さくなるという人もたまに聞くんだよね。ひょっとしたら女の子がクライマックスでクリちゃんが包皮の中に隠れちゃうのと同じ現象かも。和実のも縮むからそこにスペースが出来て入れられるようになる。多分和実って、元々精神構造が女の子的なのかも」

 
かなり熟睡した感覚のあと起きたら和実も目を開けて「おはよう」と言ってキスした。「おはよう」「そうそう。淳のおちんちん取っちゃったから」「え?」
股間に手をやる。嘘。無い。
起きて灯りを付け、目で確認した。きれいにタックが完成している。
「えへへ。タックってあれが立たない状態でないと出来ないから。絶好のチャンスだと思ってやっちゃった。だって淳ったら私のおまた触りながら、いいないいなって何度も言ってたでしょう」
「うん。。。。」「これで女の子同士♪」と和実は楽しそうだ。
 
「ごめん。ちょっとトイレ」淳は尿意をもよおしたので手早く自分の服を着ると、SAの女子トイレに飛び込んだ。戻って来た淳に和実が訊く。
「どう?トイレした感想は」
「最初戸惑ったけど、不思議な感覚。なんか女の歓びを感じた」
「だってもう淳は女の子だよ」「うん」
「このままHしたいけど、時間が無いのよね。出発するね。淳寝ててもいいよ」
「いや、座席に行くよ」
 
車は一気に東京を目指す。和実の運転をうまいじゃんと淳は思った。MTは教習所で動かしただけなどと言っていたので、前回石巻から青森、青森からまた石巻経由で東京まで走った時はずっと淳が運転していたのだが、さすがに今夜は疲労がたまっていたので少し運転させてみた。すると最初何度かエンストさせたものの、その後はひじょうにスムーズに運転してくれた。たぶん教習所の時に練習していた感覚がすぐ戻ってきたのだろう。このあたりも若さだ。
 
「ねえ、淳。しばらく私、淳のところに居てもいい?」
「そうか。ひとりで寝られなかったんだったね」
和実は津波に襲われた時のPTSDが残っているのであった。
「うん。私今誰かにくっついてないと寝られないんだけど、女の子の友達にくっついたら、向こうが貞操に不安を感じるだろうし、といって男の子の友達の家では、私、着替えにも困るし、そもそも男の子にくっつきたくないし」
「女の子の前でなら着替えられるの?」
「いつも女子更衣室で着替えてるし。メイド喫茶の仲間と一緒に温泉物語の女湯に入ったこともあるよ」
「ちょっと待て、それは犯罪」「そうかなあ・・・」
 
「まあいいや。荷物持っといでよ。着替えとか勉強道具とか。この車に乗るよ」
「ありがと」
「それともいっそのこと、うちに引っ越してくる?この車で引っ越しできるよ」
「え?引越か・・・・いいかも。やっちゃおうか?」
「じゃ和実のアパートに着いたら荷物を運び出そう。和実を適当な駅に置いてからうちに戻って、搬入しておくよ」
「搬出も淳にお任せして、私シャワー浴びてていい?」
「いいよ。汗臭いままお店には出られないもんね」
「ありがとう」
 
和実のアパートに着いたのが6時頃だった。まず和実の今日の着替えだけキープしてから、ふたりで協力しなければ運び出せない大物を一緒に車まで運んだ。そのあと和実はシャワーを浴びはじめ、その間に残りの小物を淳が車に運び込んだ。洋服がけっこうな量あった。和服も浴衣や街着があった。しかし女の子の服しか無いんだな、と淳は思った。和実は「時々」女の子の格好のまま大学に行くと言っていたが、実際には、女の子の格好でしか大学に行ってないなと思った。
 
本がまた大量にあった。天井近くまでのサイズの本棚が3個あり、本は2000冊くらいかと思った。彼女の専攻の物理学の本が多い。ほかメイド喫茶の仕事のために研究しているのか、コーヒーや紅茶の本、お菓子の本、貴族関係の本、喫茶店経営関係の本などもあった。20代までしかできない仕事などと言っていたがあるいはメイド喫茶の経営者になることも考えているのかも知れない。女の子らしくファッション関係の雑誌も多かった。スクラップブックもかなりあり、背にケーキ、朝食軽食、卵料理、ロリータ、トラッド、エロかわ、和服などと書いてあった。チラっと見ると中身もかなり詰まっていた。研究熱心な子だ。
 
物を搬出すると和実の部屋はガランとしてしまった。冷蔵庫、洗濯機、こたつ、ストーブ、電話機、は持って行く必要も無いだろうということで置いておいた。
 
シャワーを終えた和実が出てきて服を着る。浴室から出てくる時和実は胸を手で隠していた。隠しているからそこにバストがあるのか無いのかよく分からない。こちらに背を向けてブラを付ける。よく後ろ手ですんなりホックがはめられるなと淳は思った。淳はそれができないので前で留めてぐるりと180度回す。しかし淳はまだ和実のブラを外した胸を1度も見ていなかった。布団の中で触ると柔らかい弾力があったし乳首も大きかった。抱きつかれた時はバストの圧迫を感じる。布団の中で豊胸してるの?と聞いたが「秘密♪」と言われた。しかし後ろから見た和実のボディーラインは女の子そのものだし、凄く素敵だ。淳は自分が女の意識なので憧れの目で見てしまうが、これがふつうの男ならきっと思わず興奮する。
 
今日の和実の服装はゴスロリだ。そのままお店に出られそうな気もするが、これはあくまで通勤用で、お店では普通のメイド服に着替えるという。
 
「今携帯で停電の影響を見てたんだけど、こういうルートで神田までたどりつけそうだよ」「ありがとう。どれどれ。。。。。なるほど。毎日確認してからでないと移動できないね。東京都民でも大変だから、地方から出てきた人はまともに目的地に辿り着けないかも」「それでなくても東京の交通機関は複雑だからね」「じゃ★★駅まで送るね。あそこ駅そばにロッテリアがあったから、駅近くの駐車場に駐めて、朝ご飯にしよう」「うん」
 
「小物だけ降ろして昼間の間にリストでもらった買い出ししておくから、和実が仕事終わって戻って来てから一緒に大物降ろして、かさばるものを買ってから、また宮城に行こうか」と淳はペッパーポーク&エッグサンドを食べながら言った。
「うん。ありがとう」
「それから。これ」と言って淳は和実に鍵を1本渡す。
「うちの鍵。オリジナルだからコピー取って返してくれる?」
「ありがとう。わあ、鍵なんて同棲でもする気分!」
淳はドキッとした。そういえば今気付いたがこれって同棲なのかも知れない!
 
土曜日も和実はお客さんにひたすら地震と津波の話をしまくった。募金箱にもお金がたくさん入れられていた。話を聞きつけて、カップ麺の箱やミネラルウォーターの箱を持ち込んでくるお客さんもいた。店の前にワゴン車で乗り付けてトイレットペーパーを山のように積み上げていった常連の社長さんもいた。店長が店内に置き場所が無いと悲鳴をあげた。そこでいただいた物資を、ちょうど空き屋になった和実のアパートに運び込み、倉庫代わりに使うことにした。冷蔵したほうが良さそうなものは、うまい具合に残っている冷蔵庫に入れた。この搬送作業は店長がしてくれた。店長がいなくても店の運営はチーフの和実がだいたいできるが、和実がいないと地震や津波の話を客にする人がいなくて困るという理由だった。店長は和実の話を客寄せに良いと考えているようだったが、その結果支援してくれる人が増えるからというので和実も割り切っていた。つまり店長の利害と和実の利害が一致したのであった。
 
店長は念のため募金箱を最初使っていた紙の箱から、木製・鍵付き・チェーンでテーブルに固定するものに変えて3時間単位で回収する方式にした。和実の勤務時間外は店長が帳簿への金額記入と口座への入金作業をしてくれた。口座は火曜になったら銀行にも作り24時間全国のコンビニで手数料無しで入出金可能なようにする予定である。
 
18時で上がるつもりだったのだがお客さんが多くて結局19時上がりになった。電車で淳の家の最寄りまで行くと連絡を受けて淳がプリウスで迎えに来てくれていた。「わあ、プリウスだ。初乗車。ね、ね、運転させて」と和実がはしゃいでいるので運転させる。「わあ、凄い快適」「今日はこれで都内買い出しに回ったんだ。都内は渋滞がひどいから、プリウスはエネルギーの無駄が無くていい」
「あ、そのやり方いいね。あ、使用したガソリンは記録しておいてね。精算するから」「うん」「でも静か〜。今度、これでドライブデートしよう」「いいよ」
自宅までのルートはカーナビが教えてくれるので迷う心配もなく淳の自宅近くの駐車場まで辿り着く。淳がトヨエースを自分の駐車スペースから出して、和実がそこにプリウスを入れた。一発でピタリと和実が入れたので『ほぉ、やるな』と淳は思った。実は淳はいつも2〜3度やり直しているのである。
 
ふたりでトヨエースに乗り自宅そばに付けて、まず和実がトレーナーとジーンズに着替えてきてから、一緒に、タンスや本棚などの大物を運び入れた。「でも朝の内に自宅撤去しといて良かったのよ」と言って、和実が自分の家が臨時物資置き場になったことを説明すると、淳は笑っていた。
「じゃ、和実のアパートに寄って、今日持って行ったほうがいい物資を積んでからお出かけだね」「うん。一応リストはテキストエディタで打ち込んでおいた。USBメモリにコピーして持ってきたよ」と言って淳に渡す。なんだか可愛いコアラのUSBメモリだ。「可愛いな。ありがとう。私が今日買い出ししてきたのもテキストにしといたし、ウェブ上で管理しようかな。もちろんパスワード付きで。そしたらiPhoneや携帯から入力したり、引き渡し後に消し込んだりできる」
「あ、いいね」「明日も休みだからプログラム作っておくよ」「そしたら連休明けから入ってくれる人たちの作業がやりやすくなるね」
 
「ところで女の子になっちゃった感想は?」と和実が訊く。
「えっとね。つい超ハイレグのショーツ買っちゃった」と淳が少し恥ずかしがりながら答える。
「うふふ。私も最初の頃、つい買っちゃったよ」と和実は楽しそうだ。
「あそこに余計なものが付いてると、こぼれちゃうもんね。後で見せて」
 
その夜は最初石巻のいつもの避難所に行き、デュトロ用の緊急車両許可証を受け取った。週明けからドライバーとして来る可能性のあるボランティアさんの名前と顔写真のリストを渡した。それから、頼まれていたものをそこと近隣2ヶ所の避難所に届けたあと、市の配送拠点に行き、北上川流域の避難所まで物資を届けた。大須にも届けたいのだけどと職員さんは言っていたのだが、道路状況が良くないようであったので、夜間の走行はやめておくことにした。北上地区の人が翌日届けるということになり、その分まで北上地区の避難所に置いてきた。その日も夜2時すぎまで活動してから帰路に就いた。
 
いつもの東北道のSAで車中泊する。今夜の夜食はピザだ。荷室にはヒーターを入れていないので、この時期には冷蔵庫無しでもOK。それをポータブル電源(避難所で携帯充電に使った)につないだオーブントースターで焼いて食べた。
「うーん。美味しい美味しい。私、この石窯工房好き。今日の四種のチーズもいいし、マルゲリータもいいよね」「うんうん。私もあれ好き。今日はこれが半額だったからね」「半額大好き」
 
「さて寝ようか」「うん」「女の子同士の初夜だね」
ふたりは服を脱いでお互いの体を見つめる。和実は例によってバストを手で隠しているが、そこ以外は完璧な女の子。淳もバストこそ無いものの、あそこは女の子の形になっている。灯りを消す。和実が淳を押し倒すような感じで布団の中に入った。
約1時間後。
 
淳は足腰立たない状態で果てていた。こんな世界が存在したということを今まで知らなかったのが損失のようにさえ思えた。女の子同士のHは淳の想像を超えて異次元の体験だった。行為中淳は我慢できずに大きな声を出していた。頭が壊れてしまいそうな気分。嫌、壊れてしまったのかも。脳は快楽物質があふれていた。
 
正直女の子同士のHって基本は「貝合わせ」なのかなと思っていたので、どのくらいの快感なのだろうと不安があった。ところが和実が仕掛けて来たのは単なる貝合わせ(トリバティ)だけではなかった。トリバティだけでもびっくりするくらい気持ち良かったが、和実はそこから更にもう1段深く結合するテクを使ってきた。その時淳はあたかも自分の体の中に和実の何かが入ってきたかと思ったくらいだった。和実はそのテクを「メッシュ(噛み)」と言っていた。更に乱れ牡丹で理性を破壊され、最後は和実が上になった69で脳が昇天してしまった。クンニされるのがこんなに気持ちいいとは思いもよらなかった。フェラよりいい!
 
「ずっとやっていたいけど、東京に帰らないといけないから、今日はここまでね」
と言って和実は立ち上がり運転席に戻った。淳は立ち上がれずにそのまま布団の中で仰向けになって寝ていた。和実が運転席に行く時、淳は「今夜続きをして」
と懇願するような声で言った。
 
しかし・・・と淳は思った。和実はこんな様々なテクをどこで覚えたのだろう。以前レズの恋人がいたのだろうか?そんなことを考えるとちょっと嫉妬を感じた。
 
その日は早めに東京に着いたので、そのまま自宅に戻り、和実がシャワーを浴びている間に淳が御飯を作って一緒に朝ご飯を食べてから、淳が和実の出勤を見送った。淳はちょっとだけ新妻にでもなったような気がして、楽しい気分になった。和実は今日もゴスロリ系の服で出かけていた。
 
20日の日曜も21日の祝日もふたりは日中都内で、和実は仕事に行き、淳は買い出しをしたり、この支援活動のホームページの作り込みや、実際の作業用のシステムを作り込んだりする作業をし、夕方和実が帰ってきてから一緒に宮城まで救援物資を運ぶという作業を続けた。運び終わってから(事故防止のため)早めに車中泊して睡眠をとるのがパターンになっていた。
 
この活動のことはtwitterを通して知れ渡り、FM局まで取材に来た。おかげで物やお金を単純に持ち込む人が出てきた。お店がオフィス街にあるので、仕事の合間にちょっと寄れるのが影響しているようだ。名前が知れ渡ったことからふつうに喫茶の客として来る人も増えたし、そういうお客がまた募金箱に少しずつのお金を投入してくれた。なお、最初に決めたように募金は救援物資の購入とガソリン代のみに使い、ボランティアしてくれるドライバー・買い出し組のお弁当代・ジュース代などは店長と和実が折半して個人的に負担していた。
 
「今日の午後、客先に移動するのに車使ってラジオ付けてたら、いきなり和実の声が出てきてびっくりしたよ」
「偶然聴いてくれるって愛の力だね。でもあの放送の直後から、物資持ってきてくれる人やお客さんが急増してお店はフル回転だったよ」
「たくさんお客さんからも地震や津波のこと聞かれたんじゃない?」
「うんうん。もうたくさん創作してしゃべっておいた。だけど放送局はさすがだよね。インタビュー前に帳簿見せてくださいと言われた」「ああ、確認するだろうね」「入出金の帳簿、物資の購入引渡記録、車の運転日誌とか見せてあげたら、きちんとしてますね!って驚いていた。NPO法人格を取っている団体でもそのあたりがいい加減なところあるらしい」
 
「購入表もプリントアウトして持って行って引き渡した時に回転式スタンプ押してるからね。避難所の人のサインももらって」「あのアイデア良かった。楽に管理できるから。購入表は買出し組が買った時点でiPhone使って入力してるし。あのあたりのプログラム、淳が速攻で作ってくれて助かった」「あのくらいはね。引き渡しの所もiPhoneでやるつもりだったんだけど、結局は物理的なやり方で正解だったみたいね」「うん。あれは紙のほうが便利。そのスタンプ押したやつを原本として残せばいいし。でも、どうしても現金過不足出ちゃうなあ」「それは仕方ない。あの金額だもん」「買出し組には過不足出てもいいから自腹切るな、と言ってる」「うん。それは過不足勘定で処理していいと思うよ」
 
「お金だけ送りたい人のために送金口座を教えてと言われたから放送でも言ったんだけどその直後からじゃんじゃん入金してきてる。おかげで帳簿付けが大変で大変で」「ありがたいね。そうだ口座の入出金明細から帳簿に転記するプログラム書いておくよ」「それ助かる。でもほんとにありがたい。物資にして現地に届けてるのが評価してもらってる気がする。もちろん量的には大企業の支援にかなわないけど、品物の種類が限られるし。私たちはその隙間を埋める作業かな」「だけど運ぶ物資もそろそろ食料品中心からシフト必要かもね」「うん。避難所の市職員さんの方からも、衣料品を頼めないかと言われてるから、明日の買出しは衣料品で50万円分頼んでおいた」「そういう予算を組めるのは、浄財を提供してくれた人達のおかげだね」「うん。私たち2人だけでは無理だったよ、これ」
 
ふたりは自分達の関係は何なのだろうかということも話し合った。和実は「夫婦だったりして」などといったが淳が却下した。淳は「友達でもいいんじゃない」と言ったが和実が却下して「それはない」と言って睨みつけた。結局、恋人でいいよねということでお互い同意できた。和実が更に「婚約者というのはどう?」という案を出したが、それは5月くらいになってから再検討してみることにした。
 
また、ふたりは自分たちの性的志向として、双方ホモ×・ヘテロ△・レズ○ということを確認し合った。お互いの意識として自分も相手も女性とみなしているからこの恋愛は成立していた。結局、あの後ふたりはヘテロ型のHをしていない。タックは体に負担を掛けないように長時間はしないようにしているが、様々な工夫をして毎晩「レスビアン・セックス」をしていた。
 
「でも凄く気になるんだけど、和実、実際のところ、おっぱいあるの?」
なぜか和実は灯りが付いているところでは、絶対に自分のバストを見せないのである。ブラを外している時は必ず手で隠している。
 
「うふふ。秘密。でも触ってるでしょ?いつも」
「触るとあるんだよな・・・・抱きしめてもバストに圧力感じる」
「ちなみに前にも言ったけど、私、女湯に入れるよ」
「でもおっぱいあるなら、なぜ隠すの?無いのを隠すなら分かるけど」
「えへへへへ」
「まあいいや。Je les touche. donc elles sont.(我触る。故にそれあり)」
「むむ。デカルトで来たか。あまりデカくはないけどね。私のブラBカップだし」
「最近思うのよね。和実ってそもそも男の子の器官は付いてるのかなって」
「付いてるよ。最初に会った時触ったでしょ」
「ジーンズの上からね。でもよく考えたら実物を見たこと1度もない」
「じゃ、それも企業秘密ということで」
と和実は笑っている。
 
その頃、メイド喫茶では最近早番で入っている和実のあとを引き継いで遅番で入っていた麻衣が束の間の休憩中に、女子更衣室で同僚の若葉と会話をしていた。
 
「サブチーフ、こないだチーフ選任の時、店長がチーフは男の子か女の子かってみんなに聞いたでしょう?」
「あれ?若葉ちゃんは、和実ちゃんが男の子だって知らなかった?」
「いえ、本人からは何度かその話は聞いていたんですけど、見た目どう見ても女の子だし、声も女の子だし、着替えの時にもちゃんとおっぱいあって、下も付いてない感じですよね。喉仏もあるようには見えないし」
「うん。私は和実ちゃんと大江戸温泉物語とか熱海の温泉とかも一緒に行ったことあるよ。その時は裸になっても女の子にしか見えなかった。プール行った時なんて凄い布面積の小さなビキニ着てたし」
「性転換手術済みなんですか?」
「私も多分そうなんじゃないかと思って聞いたんだけど、本人は手術はしてないと言ってた。シリコンも入れてないと。でも単なる公式見解じゃないかな」
「SFとかにあるみたいなまるごと着るタイプのカモフラージュ・ランジェリーでも付けてるとか」
「まさか。ほんとに手術してないんだったら多分凄いテク使っているんだと思う。盛岡のメイドカフェにいた時代に覚えたのかも。だけど時々ふと、そもそも和実ちゃんが実は男の子ということ話自体が大嘘なんじゃないかと思いたくなるのよね」
「私むしろそちらを信じたいです。性転換したってあんなきれいなボディーラインは出ない気がする」
 
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