【十二夜】(1)

目次
 
その夜私は最悪の精神状態の中で車を運転していた。年末までに完了させることになっていた設計で、先週、突然の仕様変更を顧客から要求された。設計はほぼ完成していたのだが、それを変えるとなるとかなり根本から見直さなければならない。向こうはその変更もした上で年末までに設計を終わらせてくれと言ったが、それはいくら何でも無茶でしょというので、かなり激しいやりとりをした上で1月末まで納期を延ばすことと、設計料金の1割り増しを勝ち取った。
 
しかしそれにしても、かなりギリギリのスケジュールになる。ここの所ずっと夜遅くまで残業していたし、クリスマスも正月も無いなというのは覚悟していた。
 
昨日は私が通販で頼んでいた品で欠品が生じるという連絡が会社の電話宛にあった。私が仕事が忙しくてほとんど自宅に戻らないので、連絡先を会社にしていたのだが、最初事務の糸崎さんが電話を取ったのを、向こうは本人か家族と思い込んでしまったようで 
「ご注文頂いた品の中で『エンジェルフルート・フロントホックブラジャー』がただいま品薄になっておりまして、年明けのご配送になってしまうのですが」
などというのを彼女に言ってしまったのである。
 
糸崎さんは変な顔をして、私に電話を回した。そりゃそうだ。27歳の独身男がブラジャーを注文したって、何の目的で?と思われてしまったろう。まあ、いいけどね。もうこの会社に勤め始めて5年。今まで自分の趣味が知られずに来たのが、半ば奇跡のようなものである。そろそろカムアウトしちゃってもいいくらいだ。
 
私は会社には背広を着て出て来ているものの、私生活は完全に女性の服で過ごしている。下着はそもそも女物しか持っておらず、背広とワイシャツの下には実はいつもブラジャーを付けているし、パンティも常時女物である。残業でひとりになってしまった場合は、会社で女性の服に着替えて仕事をしている時もある。
どちらかというとそういう服装をしている時の方が効率良く仕事ができる気がしていた。今も女性仕様のズボンと上着を着て、ピンクのダウンジャケットを着て、この車を運転している。ウィッグも付けて、お化粧もしている。
 
しかしここ数日の残業ではほんとに私は疲労がたまっていた。一番中核部分の変更はとにかくも年内に終わらせてしまわないと、部下に変更作業をしてもらう部分の指示が出せない。年明け一番にそのあたりの作業を始めないと1月末までに設計作業を完了させることができない。
 
そういう状況の中で、3日前にうちの部署の責任者である課長と、古株の係長とが会社で衝突してしまった。立場的には課長が上司であっても係長はこの仕事を30年やっており、顧客の覚えも良いし、様々な関連会社との強力なパイプを持っている。簡単には折れない。そこで私がふたりの仲介役になり、何とか仲直りさせようと苦労していた。
 
更にこの夕方、40代のベテラン社員が信じられないことにホストマシンの重要なファイルを誤って削除してしまった。幸いにもデータはバックアップがあるので復旧したが、復旧作業が21時すぎまで掛かった。クリスマスイブで予定があるといって嫌がる部下たちを説き伏せて、何とか復旧したが、こちらも正直クタクタになった。
 
みんなを帰してから残務整理をし、やっと会社を出たのが23時だったが、日本列島は強烈な寒波が押し寄せていて、かなりの雪が降っている。会社から自宅までは山を越えて20km。車で30〜40分なのだが、この雪では慎重に運転しなければならない。私は精神状態はかなりひどかったが、自分をなだめながらゆっくりとした速度で車を進めていた。
 
年末なので道は混んでいる。しかし雪が凄いのでみんなスローペースで走っているようだ。私は前の車のテールランプを見ながら、だいたい前の車と同じペースで車を運転し続けた。こういう時は脇から人が飛び出してきたりした場合に気付くのが遅れがちである。そこで意識して両側に目をやりながら運転をしていた。
 
しかしそれにしても今日は何だか時間が掛かる。この車にはカーナビを付けていないし雪がひどいので、正確な場所は分からないが、感覚的にはもうそろそろ自分が住む町の街灯りが見えてきてもいいと思うのだが、車はまだずっと山道を走っている感じだ。
 
私は突然眠気が込み上げてきた。やばい。これはやばい。こういうスローペースで走っている時はそもそも眠くなりやすいのだ。疲れも溜まっているこの状態で運転していると事故を起こす危険がある。
 
私はちょうどうまい具合に左脇に小さな駐車帯があるのを見ると、そこに車を寄せて駐めた。一度降りてワイパーを立ててくる。車に戻ってきちんとロック。
後部座席に移り、荷室から毛布と布団を出してきてかぶって、取り敢えず寝た。
 

起きてみると、夜2時であった。雪はますますひどく降っているようだ。しかし車の行き来は途絶えてしまったようである。
 
かなり冷えていることもありトイレに行きたくなった。。。。でもこの道にはトイレのある休憩場所は無い。幸いにも車の通りは無い。私は車から降りると道の脇に行き、ズボンをさげパンティもおろして、しゃがんでおしっこをした。
 
こんな時、男の人は便利だよなと思う。自分もまだ手術はしていないので立っておしっこをする機能自体は存在しているが、自分のアイデンティティとして、そんなことはできないと思っていた。会社でトイレに行く時もいつも個室を使っている。
 
しかしこの雪の中、お尻を出して用を達するのはマジで寒かった。車に戻ってから、車内に常備しているカセットコンロでお湯を沸かし、コーヒーを入れて飲んだ。それで人心地付く。さあ、出発だ。
 
相変わらず雪が激しいので、ほんとにどのあたりを走っているのかがよく分からない。ただ会社のある町から自宅のある町までは大きな分かれ道は無く、実質的に1本道なので迷ったりする心配は無いはずだ。雪が激しいので一応時速30kmくらいのゆっくりした速度で走る。もし道のちょうど真ん中付近であったとしても20分も走れば着くはずだ・・・・・ 
と思ったのに30分走っても町灯りが見えてこない! 
迷った?どこかで道を間違った??しかし間違うような道は無いぞ。
 
私はいったん車を脇に寄せた。場合によってはもう下手に動かず、朝になるのを待った方がいいかも知れない。今3時。どこか邪魔にならない場所で朝まで寝ようか? 
そう思っていた時、後ろから車のヘッドライトが近づいてきた。私はその車に付いていってみようと思った。通り過ぎるのを待ち車をスタートさせ、その車の後を同じペースで走った。この雪道なのに向こうは50km/hも出している。
かなりこの道に慣れている人だろうか。そしたら、とりあえずどこかの町まで行けそうだと思う。
 
ところがその車は5分も走ると、脇にそれて道の駅のような所に入って行ってしまった。え?近所にこんな施設あったろうか?もしかして最近出来た?新しい施設ができてれば気付くはずなのに。やはり根本的に道を間違っているのだろう。私は道の駅ならそこで朝まで過ごしてもいいと思い、前の車に続いてそこの中に入っていく。
 
前の車はトイレのそばに駐めて、乗っていた人が男子トイレの中に入っていった。
私は少し離れた場所に駐めて様子を伺っていたら、その人はトイレから出て来て車に乗ってまた出発してしまった。
 
私はトイレから少し離れた場所の端の方に駐め、車を降りてトイレの建物まで行き、女子トイレに足を向けた。私は会社では背広を着ているので男子トイレを使うが、ふだんは基本的に女子トイレを使っている。入口の前まで行く。入口の上に何か文字が書いてあった。何だろう? 
《Lasciate ogne speranza, voi ch'intrate》 
イタリア語っぽいなと思ったが、私はイタリア語は分からないので意味が分からない。intrateが英語のenterに似てるので『入る』だろうか?入ってくつろいでねとでも書いてある?まあ最近は意味が分かってるのか分かってないか、適当な横文字を書いてる所ってあるからなあ、と思っていたら自動でドアが開いた。
私は中に入った。
 
中はきれいだ!どうもここは最近できた施設のようである。でもこれどこの付近なのだろう。やはりカーナビ買おうかなあ。車はほとんど通勤にしか使わないしと思って買っていなかったのだが・・・などと思いながら個室に入った。さっき道の脇でしたばかりだったが結構出る。やはり雪の中では身体が緊張してたからだよな、などと思いながら、ほっと一息ついた。
 
手を洗い車に戻ろうとドアを通った・・・・ところで戸惑った。あれ? 
外に出たつもりが、別の間に出てしまった。道の駅の施設の一部かな?間違って出入口と反対に出てしまったんだろうと思うが、そこは不思議な間だった。
 
無機質な何も無い部屋の中にテーブルがひとつあり、パソコンが置かれていた。
のぞいてみると、自分が今している設計の図面が表示されている。え!? 
ここに来て私は自分は今夢を見ているのかも知れないと思い至る。そうだ、夢だからいつまでたっても町に辿り着かず、こんな道の駅が突然できているのを見たりしているのだろう。じゃ、夢なら目を覚ませるはず・・・と思うが目を覚ますことができない。あれ? 
取り敢えず私はパソコンの前に座る。設計をしながら悩んでいた部分があった。
一応の解決策は考えたのだが、我ながらスマートではないと思っていた。もう少し何か美しい方法がないものかと思っていたが、思いつかない。時間も無いし、今考えている方式で行こうかと思っていたのだが・・・・・ 
その時1羽の鳥がどこからともなく飛んできた。パソコンのモニタの上に留まって鳴いている。こんなに人のそばまで寄ってくるというのは珍しい。それとも人によく餌をもらっているのだろうか?道の駅のトイレに雀が住み着いているのは旅に出た時に見ることはあるが、この鳥は雀とは違うようである。そのさえずりを聞いていた時、あ!と私はあることを思いついた。
 
パソコンを操作して、設計図に変更を加えていく。私は夢中になって作業していた。多少の試行錯誤の末、とてもうまいやり方に到達した。使用する建材もそう多くないし、強度は仕様の変更前よりかえって強くなる。見た目も美しい。こんなやり方があるとは思わなかった。
 
満足していた時、パソコンの向こう側にドアがあるのに気付く。私がそのドアの前に行くと、ドアは自動で開く。私はそこを通った。
 

ここは倉庫か何かだろうか?と思った。箱がたくさん積み上げられている。その中央に畳が一枚あり、そのそばに鳩が2羽いた。私が近寄っていっても鳩は逃げずにそのあたりを歩いている。私は畳の上に置かれた1枚のスカートに目が吸い寄せられた。畳の傍にコート掛けが1本立っていたので、私はダウンコートを脱ぎ、そのコート掛けに掛けた。
 
このスカート・・・と思って畳に斜め座りし、触ってみる。このスカートには覚えがある。私が買わなかったというか買えなかったスカートだ。あれはまだ女装して外を歩く勇気が無かったころ。私は旅先の札幌で、地下街のお店のショーウィンドウにとても魅力的なスカートがあるのを見つけた。可愛い!でも男の自分がスカートなんて買ったら変に思われるかな、と思ってどうしても店に入ることができなかった。
 
でも「いいなあ」「穿きたいなあ」という思いが強くて、お店の前を何度も往復した。今の自分なら堂々とお店に入って即買っているだろうけど、当時はそんな勇気が無かった。
 
穿いてみようかな?と思う。どうせこれ夢みたいだし、好きにしていいだろう。
私は穿いていたジーンズを脱ぐと、そのスカートを穿いてみた。ウェストはぴったりである。ああ、でも足の毛はちゃんと剃ってて良かったなと思った。
冬になると、ついサボりがちだし、ここのところ忙しかったが、昨日たまたまお風呂に入ることができて、その時ちゃんと処理したのである。
 
姿見があったので映してみる。コートを脱いで上半身もセーターになっているので、バストが目立つ。髪も長いし、お化粧もしているし、スカートを穿いたら一応ちゃんと年齢相応の女には見えるよなと思う。でも10代の頃に女の子の服を着て外を出歩く勇気があったらな、などと昔のことを思い出す。特に中学・高校で6年間学生服を着て通学したのは、ほんとに辛い時代だった。あの時代の自分の歴史を抹消してしまいたい気分だ。同級生が着ている女子制服に本当に憧れていた時代だった。
 
畳の上に座ったことで、少し睡魔が呼び起こされてしまった感じだ。部屋は暖かいし、このまま寝ても風邪を引くことはあるまいと思った。いやそもそも今夢を見てるんだっけ?とにかく私は少し寝ることにした。
 

起きたら部屋の灯りが落ちていた。起き上がって服の乱れを直す。私は寝た時と同様、上半身はセーター、下半身はチェックの膝丈スカートを穿いていた。
向こうにドアがあったので、開けて向こうへ行ってみる。
 
この部屋には緑色のカーベッドが敷き詰められていて、壁にV6のポスターやマリーローランサンの額絵などが掛かっている。なぜか鶏が3羽部屋の中を歩いていた。鶏は別としてこの部屋には覚えがある。これは高校時代に交際していた彼女の部屋にあったものだ。
 
甘く切ない思いが蘇る。
 
彼女は私に訊いた。
「私という女の子が好きなの?それとも私みたいな女の子になりたいの?」
私は答えた。
「ボクは女の子になりたいと思っている。でも君のことは真剣に好きだ」
 
その後、私たちはキスをして、そしてセックスをした。私の生涯で1度だけの男としてのセックス経験だ。彼女は「女の子になりたいんなら、おっぱいを触られたら気持ちいい?」などと言って、乳首をたくさんいじったり吸ったりしてくれた。「私の女の子の部分、見てもいいよ」などと言って見せてくれて私は彼女にクンニをした。「入れるより入れられる方が好きだったりして?」
なんて言って、指にコンちゃんを付けて、後ろまで責めてくれた。
 
彼女とのセックスは結局その時1度だけで、その後は「もし良かったら女友達として付き合わない?」などと彼女に言われ、私は自分の恋心を押さえ込んで、彼女が結婚するまで、女友達として交流を続けた。彼女の結婚式には私はお化粧してドレスを着て出席した。出席者の名簿にも、私は『和菜』という女名前で記されていた。今では時々メールをやりとりしているだけの関係だ。
 
私はもう3年前から女性ホルモンを飲んでいるので、おちんちんは既に勃起能力を喪失している。もう男性としてセックスすることはできない。そのうち手術しちゃったら、女としてセックスする機会も出てくるかも知れないけど、手術を受けるめどはたたない。みんなどうやって手術費用を稼ぎ出してるんだろうなと思う。それに手術を受けたあとすぐには仕事に復帰できないだろうし。結果的には職を失うことになりそうな気もするし。そもそも会社は自分の性別変更を受け入れてくれるだろうか。。。。難しい気がした。やはり最低1年程度の生活費を貯めてからでないと手術には踏み切れないな、などとも思う。
 
そんなことまで考えているうちにけっこうな時間も経った気がする。
 
どこからともなく音楽が流れてくる。これは「ひいらぎ飾ろう」だ。これってミックスボイスで歌えそう。大きく息を吸い込み、喉の感覚をミックスボイスが出る状態にシフトする。
「Deck the hall with bells and holly, Fa la la la la-la la la la・・・」
 
それを歌い終わったら次は「アデステ・フィデレス」だ。
「Adeste fideles laeti triumphantes,・・・・」
 
こういう高音で歌える歌は気持ちいい。なかなかうまくこういう音域が出なくて頻繁にカラオケ屋さんに通い、カラオケは流さずに持参のポータブルキーボードで弾きながら高い音を必死に練習した時代が懐かしい。
 
私はミックスボイスでしゃべるのは苦手だが、歌うのはわりと得意で、録音して聴いてみても、ちゃんと女の人の声に聞こえるなと思っていた。
 
その後「荒野の果てに」。これもまた高音を使う曲である。
 
「Angels we have heard on high, Sweetly singing o’er the plains And the mountains in reply, Echoing their joyous strains Gloria in excelsis Deo, Gloria in excelsis Deo」
 
このあと私はひたすらクリスマス系の歌を歌いまくった。30曲くらい歌ったと思うが、われながらよくちゃんと歌詞を覚えているなと思った。
 
さすがに歌い疲れてちょっと休もうかと思った時、向こうにドアがあるのに気付く。私はドアを通って次の部屋に歩いて行った。
 

そこは浴室だった。ちょっと微笑む。湯は温かく沸いているようである。浴槽に手を入れてみたらちょうどいい湯加減だ。シャワーも付いている。なぜか、浴室の中を黒い小鳥が4羽歩いていた。私は夢の親切?に感謝してお風呂に入ることにした。服を全部脱ぐ。
 
スカートを脱ぎ、セーターを脱ぎ、その下のカットソーを脱ぎ、キャミソールを脱ぐ、バストパッドを抜いてブラジャーを外し、パンティも脱ぐ。ウィッグを外した。
 
シャワーを浴びて身体をよく洗い、それから浴槽に入った。
 
お風呂もいろいろ思い出があるな、と思う。小さい頃は子供シャンプーみたいなのを使っていたが、小学5年生の頃から、父が使っているトニックシャンプーを使えと言われた。でも私は母が使っているビダルサスーンのシャンプーとコンディショナーをこっそり使っていた。特にコンディショナーを髪に塗り込んでいると、少しだけ女性の気分が味わえて気分が良かった。
 
実家の風呂は釜で焚く方式だったので、釜から熱いお湯が出てくる部分がある。
私は小学校の高学年の頃から、自分の睾丸をその噴出口のそばに寄せて熱いのを我慢しながらも、睾丸の機能をできるだけ阻害するようにしていた。おかげで?自分は体毛やひげなども普通の男性に比べると薄い方だという気がするし、肩もわりとなで肩の方である。オナニーなども中高生の頃、同級生の男子などの話を聞いていると毎日何度もしてるなどということだったが、自分は週に3〜4回くらいしかしていなかった。おちんちんの長さも高校生の頃に測ってみたのでは縮んでいる時で4cmくらい、勃起した状態で13cmくらいで、平均?よりはどうも下のようであった。
 
浴槽の中に入っている時に、おちんちんを股にはさんで無いように見えるようにするのも、いつもやっていた。そしていつか本当に無くなっちゃうといいなと思っていた。
 
いったん浴槽からあがる。女性用カミソリの未開封のものが置いてあったので、開封して足や脇を剃った。昨日(クリスマスイブの前日)にも一応お風呂に入り体毛は剃っていたのだが、やはり1日たつと少し伸びたりしているので再度きれいに剃っておく。この浴室は明るくて剃りやすい。自宅の浴室はここまで明るくないのでけっこう剃り残しに気付き、部屋でシェービングフォームを付けて再度剃ったりする場合もある。
 
その後、シャンプーとコンディショナーがあったので髪を洗いコンディショナーを掛け、そのあとボディソープもあったので、それで身体を洗った。コンディショナーを流して、再度身体にシャワーを掛けてから、浴槽に入った。
 
そういえばしばらく公衆浴場にも入ってないなと思った。最後に入ったのは4年くらい前だろうか。ずっと昔は旅先でカプセルホテルに泊まったりしたこともあったが、今はそれはできない。個室でお風呂が付いている部屋でないと、私はもう男湯には入れない。ふだん女物の服を着ているし、仕事での出張で背広を着ていても、下着はやはり女物だから、男性用の脱衣場を利用できない。それに今女性ホルモンを3年やってきて少しだけバストも膨らんでいた。もうこの胸ではそもそも男湯には入れない。
 
でも私はまだ下の方は手術していないので女湯にも入れない。ネットを見ているとタックして女湯に入っている人たちもいるようだが、私はそれはよくないと思っていた。頼むから誰か下手くそなタックで女湯に突撃してそれが途中で外れて大騒ぎになり、本人が逮捕されるのはいいけど、タックに対して世間の目が厳しくなったりしなければいいが、と思っていた。
 
随分長く入っていた気がしたのであがった。バスタオルがあったので髪と身体を拭いたが・・・・私は戸惑ってしまった。着替えがない。夢特有の現象だなと思う。
でも裸では困るなと思う。
 
向こうに扉があったので私は裸のままそちらに進んだ。
 

そこに白衣のお医者さんのような40代くらいの男性が座っていた。私はなんとなく裸のままその人の前に座った。ここに来てから人間に会ったのは初めてだが、私は何となくお医者さんにいろいろ聞いたりするのがはばかられる気がした。
 
お医者さんは黙って私の身体を聴診器で調べたりしたあと、私のお股にあるものを触った。棒のほうを触られるが私のは全く反応しない。玉の方もさわられる。
なんか指でころころとされた。
 
「では手術していいですか?」といきなり訊かれた。
「えーっと何の手術ですか?」
「え?去勢手術を受けに来られたんですよね?」と言われる。
私は思わず頷いてしまった。
 
ではこちらへと言われて、カーテンのかげにあったベッドに寝かされた。
あれ?手術室とかに運ばれるのじゃないのかな?と思っているうちに看護婦さんのような人からその付近の毛を全部剃られた。
「麻酔を打ちます。部分麻酔ですから性器だけ感覚が無くなります」
と言われた。
 
注射を打たれた後、その付近に触ってみると、おちんちんにもたまたまにも感触がない。しかし足の付け根とかには感触がある。へーと思う。
 
「見ていますか?目隠ししますか?」と訊かれたが「よそを向いてます」と答える。
「そのほうが気分悪くなったりしないでしょうね」と言われた。
 
脈拍や血圧などを測る機械のようなものを取り付けられ、更に両手首、両手足と首に金色の輪っかのようなものを取り付けられた。万一パニックになったりした時に暴れられたら危険なので申し訳無いが押さえさせてもらいますと言われる。まあいいけどね。
 
どうも手術が始まったようである。レーザーメス?を使っているのか、肉が焼けるような匂いが少しした。痛みは全く無いが、時々カチャカチャと金属が触れ合うような音がする。
 
「睾丸を今から切断しますが、よろしいですね?」と再度訊かれたので私は頷いた。
「切断しました。見ますか?」と訊かれるが「手術が終わってから見ます」と答える。今見たら気分が悪くなりそうだ。
 
手術はそのあと自分の感覚で15分くらい続いたようであった。切断したあとの処理とか縫合とかをしているのであろう。
 
やがて「手術が終わりました」と言われ、私は別のベッドに移され、布団を掛けられた。「ここで少し休んでいてください」と言われた。私はそのまま眠ってしまった。
 

目が覚めた時、お股の付近が痛いと思った。麻酔が切れたのだろう。しかし、これ全体が夢なのだろうけど、ほんとに長い夢だなという気がする。
 
ひょっとして自分は交通事故か何かにあって昏睡状態にあるのでは?という気がしてきた。以前、交通事故で半年間昏睡状態にあったあと目覚めたという人に会ったことがある。その人がその時ずっと夢を見ていたと言っていた。その夢は、長い夢がやがて終わると、続けて次の夢が始まるという感じであったらしい。ここで痛いと思うのも、実は実際には事故に遭って身体のあちこちが痛いし、去勢手術受けた夢というのも、実は身体があちこち怪我していて、その手術を受けたのかも、などとも思ってみた。夢から起きようとしても起きられないのは、身体が起きられる状態ではないのかも知れない。
 
でもまあそれなら、体力が回復するまで寝ていれば自然とそのうち眠りから覚められるはずだ。焦ることはない。
 
包帯は既に取られているようであった。その付近に触ってみる。棒の下に袋がある。これまではこの中に玉が2個入っていたのだが・・・触った感触として何も認められない。ああ、やはりこの夢の中では玉はほんとに除去されたんだなと思い至る。現実でも去勢手術受けたいなという気がしてきた。
 
性転換手術は身体への負担も大きいし費用もかかるが去勢だけなら仕事もそう休まなくて済むし、費用も20万くらいで手術してくれる病院は多数ある。そういう病院に連絡を取ってみようかなと思って見る。実際3年間のホルモン投与で既に睾丸の機能は停止している。もう取っても何の問題もないはずである。
 
しかし・・・・裸なのは困るなという気もする。洋服がどこかで出てこないのだろうか。
 
ベッドから起き上がると、向こうにドアがあったので、そこを開けて向こうの部屋に進んだ。
 

その部屋は全体的に薄いピンク色の内装であった。ピンク色の白衣を着た30代くらいの女性がにこやかに近づいてきた。
 
「脱毛のご予約でしたね?」と訊かれる。
あれそうなんだっけ?まいっかと思い、私は「はい」と答えた。
 
「こちらにどうぞ」と言われて、椅子を勧められ、私はレーザー脱毛に関する説明を受けた。
「施術する場所は、足・脇・ヒゲでよろしいですね?」
「はい」
 
私は腕には薄い毛しか生えておらず、処理の必要性を感じたこともない。腕の毛を処理するのは水着を着てプールに行く時くらいである。プールにはここ数年毎年女性水着で行って泳いだりスライダーなどを楽しんだりしている。
 
プールではもちろん女子更衣室を使う。プールに行く時、私はスカートを穿いて行っていたので、最初に行った時、男子更衣室に入って女性用水着に着換えようとしたら、スタッフの人が寄ってきて「こちらは男性用の更衣室ですが・・・」
と言われてしまったので、女子更衣室に移動した。初めて女子更衣室に入った時はドキドキだったが、すぐに慣れてしまった。実際問題として私は女性の裸を見ても何も感じないし、むしろ中学生の頃にクラスの他の男子と一緒に水着に着換えたりする時はかなり緊張していた。胸を隠してくれない男子用水着を着るのはあの当時、物凄く恥ずかしかった。
 
サングラスを渡され、ベッドに寝るように言われた。ベッドに寝ようとしたらそこに羽をむしられた鵞鳥が6羽置かれていた。
 
「あ、済みません。出力確認のために使っていたんです」と言ってそれをどこかに持って行く。シーツを交換してくれたので、私はその上に横になった。
 
施術してくれる人もサングラスを掛ける。何やら大きな機械を持ち、まずは足から照射をしていった。
 
ヒゲまで終わるまでにはけっこう時間がかかった。レーザーで焼けた毛が抜け落ちるまで一週間くらいかかりますのでと言われる。
「それが過ぎたら、女の子のようにすべすべのお肌になりますよ」
と施術してくれた人は笑顔で言った。
 
私はリアルでもレーザー脱毛がしたくなった。全身やるとけっこうな費用がかかりそうだが、日常の毛の処理から解放されるのは嬉しい。去勢もして脱毛もしたら、自分の身体はかなり女の子に近くなりそうな気がする。来年はそういう年にしちゃおうかなという気がした。そこまでしてしまうと、数年後には性転換手術を受けることになっていく気もする。私は可能なら30歳前に性転換してしまいたい気がしていた。
 
「こちらのベッドで少し休んで行かれるとよいです」と言って奥の方のベッドを案内される。私はそこに横になったら眠くなったのでそのまま眠りに落ちた。
 

目が覚めた時、かなり時間が経っている気がした。起き上がってあごとか足とか触ってみると、すべすべのお肌になっている。あれ?私って一週間くらい寝ていて、その間にレーザー脱毛で焼いた黒焦げの毛はもう落ちてしまったのかなという気がした。
 
ああこういうスベスベのお肌はいいよなと思う。思えば小学校の5年生頃に、足に毛が生えてきはじめた頃、最初は頑張って抜いてたよな、などというのも思い出してしまう。自分がどんどん男性化していく、といのうが当時ホントに悲しくて悲しくてたまらなかった。
 
この夢?の中ではさきほど去勢手術を受けたが、できたら小学4-5年生で去勢しておきたかったという気分だ。そしたら、ほんとにこんなに苦労しなくても済んだのに。
 
ドアがあるのに気付く。私は静かにそのドアを開けて、向こうの部屋に進んだ。
 

そこはどこかの劇場のようであった。舞台に白いチュチュを着た女性が7人いて何かの踊りを踊っている。何か聴いたことのあるような音楽だ。これって『白鳥の湖』かな? 
バレエ。。。。それも小さい頃の憧れだった。バレエを習いたかったが、男の子の身ではチュチュを着ることができないのが悔しかった。でもバレエを題材にした漫画はたくさん読んだ。大きな都会ではないから実物のバレエ公演を見る機会は無かったけど。
 
やがて7人の踊り手が舞台から降りてきて、私の手を取り、舞台の上に連れて行った。こちらは裸なのに恥ずかしいと思うが、彼女たちは私を舞台の奥の方に置かれていたベッドに寝せた。
 
踊り手たちが退場し、やがて青い手術着を着た50代くらいのお医者さんのような人と数人の看護婦さんが近づいてきた。
 
いきなり麻酔を打たれた。そして脈拍や血圧を測る機械を取り付けられる。
え?え?また手術されちゃうの?今度は何の手術?? 
お医者さんは無言で作業を進めていく。私はまるでyoutubeの動画でも見るかのようにそれを見ていた。もしかしてこれって・・・・ 
お医者さんは私のおちんちんにメスを入れて、あっという間にそれを「解体」
してしまった。先の部分と皮と尿道だけ残して、本体はチョキンと切り落とされてしまった。ゴミ箱に捨てられる。あはは。何かあっけない。あんなに自分を苦しめてきたものなのに。私はその瞬間勝利をしたような気分になった。
 
お医者さんは手際よく、そのあたりの形を変えていく。まるで工作でもしてるような感じだ。たぶん時間的にはけっこうな時間が経っていたのであろうが、私が見ている前で、私の股間は完全に女性の形に作り替えられてしまった。
 
新しく設置された穴におちんちんの皮を反転して埋め込まれる。更に詰め物をされた。お股に割れ目があるのは、何だかまぶしく感じる。尿道にカテーテルを入れられ、その付近全体に包帯を巻かれた。
 
お医者さんたちは去って行った。まだ白鳥の湖の音楽が流れていた。私はまた眠ってしまった。
 

またかなり寝ていたような気がする。
 
そっとあの付近に手を伸ばしてみると、もう包帯が取られていた。カテーテルも付いていない。そして私は確かにその付近が女の子の形になっているのを確認した。もうおちんちんは無い。そっと触っていくと、クリトリスっぽいところがある。そして確かにヴァギナがある。少し指を入れてみるとそのまま入って行く。湿った感触だ。私は起き上がれる気がしたので起き上がって見た。
 
そばの壁に大きな鏡がある。映してみると、そこには女性の身体として思えない肉体が映っていた。
 
バストの膨らみは小さいが一応あることはある。そしてお股にはぶらぶらするものは何もなく、割れ目が縦に走っているのが見える。手術のために毛は全部剃られてしまっているので、今の所陰毛がなく、いわゆるパイパンの状態だ。
しかし手術の傷口はもう治ってしまっているようで、縫合跡はあるものの触っても痛くない。これはもしかして手術から2ヶ月くらいたっていたりして・・・ 
自分が交通事故にあってこういう夢を見ているのだとしたら、半年くらい昏睡状態でいるのかも知れない。
 
ドアがあったのでそこを通って次の部屋に進んだ。
 

まぶしい! 
太陽の光がいっぱいに注いでくる感じだ。私は身体の芯からリフレッシュしていくような気分になった。
 
「お帰りなさいませ、奥様」
という声がいきなりかかる。みるとメイドのコスチュームを着た20歳くらいの女性が立っていた。よく見ると、喫茶店か何かのようである。メイド喫茶?? 
「どうぞ、こちらのお席へ」と言われてそちらに進んでいく。
 
途中に大きな乳牛が居て、メイドさんがみんなで乳搾りをしていた。
「当店では新鮮な牛乳を使用しております」とメイドさんは言った。乳牛のまわりにいるメイドさんが7人いて、総勢8人のメイドさんがいるようである。
 
案内された席に1枚のショーツが置かれていた。
「それはサービスでございますので、良かったらご利用下さい」と言われる。
裸なので、とりあえずパンティだけでも恵んでもらえたのだろうか?? 
私はそのパンティを穿いた。かなりのハイレグだ。レースたっぷりでキュート。
お股の部分の保持力がほとんど無いくらいに弱い。これは、おちんちんが付いていたら、こぼれてしまうので穿けないタイプのショーツである。おちんちんが無くなると、こういうのが穿けるんだな、と嬉しくなってしまう。
 
「お召し上がりは何になさいますか?」
というので、その新鮮なミルクと、オムレツを注文した。
 
しばらく待っていると、メイドさんは湯気の立っている暖かい牛乳と、きれいな形のオムレツを持ってきた。ケチャップを出して、オムレツに文字を書く。
何だろう?・・・・『Buon anno』と読めた。
 
フランス語の『Bonne annee』と似ている。お正月の挨拶かな? 
私は指を折って数えてみた。この部屋はここに来てから8つ目の部屋だ。もし、最初の部屋に入ったのが25日のクリスマスで、1日で1つの部屋を通過してきていたとしてら、今日はちょうど1月1日のはずである。
 
私はこの夢?をもう数ヶ月見ていると思っていたが、意外に実はまだ1週間くらいなのかも知れないという気もした。
 
新鮮な牛乳は美味しかった。身体が活性化されていくような感じだ。オムレツも半熟で、舌触りがとても良かった。
 
私は立ち上がって入口の方へ行ったが、乳牛もメイドさんも見あたらなかった。
しかし歩いていて、ショーツ1枚でも着ていると、裸とは違う。これだけの布で随分落ち着くなと思った。
 
ドアがひとつあった。こういうシチュエーションには慣れてしまった。私はそのドアを開けて、次の部屋に進んだ。
 

そこはダンスホールのようであった。ウィンナ・ワルツが流れている。この曲はたしか『春の声』だ。ホールの中で着飾った女性たちが踊っている。みんな裾が広がるスカートを穿いている。女性たちはひとりで踊ったりペアになって踊ったりしていたが、人数を数えてみると9人いた。
 
奇数なのでふたりずつペアになるとひとり余る。その余ったひとりがこちらに近づいてくると「これをどうぞ」と言って何か渡してくれた。
 
見るとブラジャーである。私が胸をあらわにしているので、取り敢えずこれで隠しなさいということなのだろうか。サイズを見るとB75だ。ちょうど私のサイズである。私は肩紐を通し、後ろのホックを留めた。さきほどのメイド喫茶でパンティーをもらい、ここでブラジャーをもらったので、けっこうこれで落ち着く感じがする。
 
私は近くのテーブルの所の椅子に座ると、彼女たちの踊りを眺めていた。
 
踊り・・・といえば小学校から高校までの間に踊ったフォークダンスを思い出す。
私がいたほとんどの学級で、男子の方が少し人数が多かったので、あふれた数人が女子の役を踊っていた。私は名簿順で並んでも背の順番で並んでも、どちらの端にもならなかったため、一度も女子の方で踊っていない。でもいつも、ああ、あちらで踊りたいと思っていた。ひそかにひとりで女子のパートを踊る練習をしていたが、結局一度もそちらで踊ることはできなかった。ほんとに女の子になることができたら、社交ダンスとか習いに行ってみようかな・・・なんて思った。
もちろんドレス着て、女性として踊る。ただパートナーになってくれる男性がいるかな、というのは少し不安になった。
 
私は一度だけ男性とのお付き合いの経験がある。会社務めをして1年目のころ、仕事で知り合った取引先の男性が、私の性別を見透かして「ちょっとデートしてみない?」と誘ってくれた。女の子の服を着て出て行って、一緒にお茶やお食事をして、ドライブに行ったり、パーティーに同伴してもらったり、クリスマスのディナーショーにも連れて行ってもらった。
 
あくまで「デートのまねごと」というだけで、お互い恋愛感情はなかったつもりだ。でも彼が転勤で遠くへ行ってしまい交際が終了したあと、けっこう心に空洞が空いてしまって寂しかった。
 
私はあの当時のことなども思い出しながら、貴婦人たちの踊りを見ていた。
 
やがて、貴婦人たちがどこかに行ってしまった。ホールはがらんとしてしまう。
向こうにドアがひとつあった。私は立ち上がると、そこ所まで行き、ドアを開けて次の部屋に進んだ。
 

そこは会議室か何かのようであった。
 
私が部屋の中に入るとすぐに若い男性が近づいてきて「これを」と言って何か渡してくれた。みるとチュニックである。私は微笑んでそれを着た。
 
部屋の中にテーブルがあり、背広を着た男性たちが何か話している。しばしば意見を述べるのにいちばん前にある壇に登って発表するのだが、その壇に上がるのに、みんな飛び跳ねてそこに登っていた。どういう意味があるのだろう? 
私にチュニックを渡してくれた男性も何度もその壇に登っては何か言っている。
私はまるで傍観者のようにその様子を見ていた。
 
しかし彼らの声は全く聞こえない。私は自分が彼らに疎外されているというのを感じたが、やがてその原因に察しが付いた。それは私が女になってしまったからだろう。だから男社会からはドロップアウトしたんだ。
 
私はその時、もし自分が性転換したら、素直に今の仕事は辞めたほうがいいかもという気がした。男として5年間仕事をしてきたけど、女になったら、またゼロからやり直そう。最初から女として雇ってくれるところを探して少しずつまた社会人としてのキャリアを積み上げていこう。何か資格を取ったほうがいいかも知れないなとも思う。性転換手術を受けたらしばらく身体も休めないといけないかも知れないし、その間にいろいろ資格を取るのもいいかもなと思う。
専門学校なんかに通うのもいいかも知れない。
 
しかしさすがに何も聞こえない中にいるのは詰まらない。
 
ふと横の方を見るとドアがあったので、そちらに行く。ドアを開けて次の部屋に進んだ。
 

その部屋には多数の女性がいて、みんな笛を吹いていた。
 
笛の種類はフルート系統のもののようだが、様々な種類のものが混じっていた。
人数を数えてみると11人いる。
 
その中のピッコロのようなものを吹いていた人が近づいてきて「これを穿いて」
と言って、チェックのスカートを渡してくれた。私は「ありがとう」と言って受け取ると、そのスカートを穿いた。2番目の部屋にあったスカートと似ているが、色合いが違う。あれはグリーン系だったが、これはブルー系である。
ああ、この配色もいいなと思う。
 
しかし11本のフルート属の合奏は圧巻である。美しいし音色が豊かだ。この曲は・・・バッハのメヌエットかな。
 
その後「アルルの女の第2メヌエット」「ボッケリーニのメヌエット」と、メヌエットが続いていく。私は聴き惚れていた。
 
続いて「ユモレスク」「女学生」「金婚式」「トロイメライ」などといった小学生の頃、音楽の時間に聴いたような曲が続いていく。
 
小学生の頃の思い出が蘇ってくる。自分は小学4年生の頃までは合唱では高音部の方に入れられていて、女の子たちと一緒に歌っていたが、やがて悪夢の変声期が来てしまう。中学以降はずっとテノールで歌っていたが、内心ソプラノでもアルトでもいいから、女の子たちと一緒に歌いたかった。
 
家で「鵞鳥を絞めるような声やめろ」と親から言われながらも、高い声を出す練習をして、高校生の頃にはアルト声域まで何とか歌えるようになっていた。
ミックスボイスを覚えたのはそれからずっと後、ほんの3〜4年前である。東京や名古屋などで「女声で歌う」集まりがあり、そこに何度も出席して、他の人たちからもテクニックを盗んでいった。
 
でももし小学4-5年生くらいで去勢することができていたら、そんな苦労もしなてく済んだろうし、今よりもっときれいな声で歌えたんだろうな、などといったことも思ったりした。
 
やがて「タイスの瞑想曲」が演奏される。ヴァイオリンでならよく聴くけど、フルートでは珍しいなと思った。そして「G線上のアリア」「アヴェマリア」と続いて「歌の翼に」で終了となった。私は大きな拍手を送った。演奏者たちは微笑んでどこかに行ってしまった。
 
向こうの方にドアがあった。私はそろそろこの旅が終わりに近づいているのを何となく感じた。
 

次の部屋には、様々な種類の打楽器が置かれていた。そこにやがてブレザーと赤いチェックのスカートを穿いた女子高生たちがぞろぞろと入ってきた。人数を数えてみると12人。この世界では、部屋がひとつ進む度に出てくる人数が1人ずつ増えて行くのだ!だからここは12番目の部屋である。そしてたぶん、私はあの雪の夜から12日夢を見続けているんだ。
 
打楽器の各々のそばに付いた女子高生たちはその打楽器を演奏しはじめた。
 
メロディを取る楽器が無く、打楽器だけなのに、その演奏はとてもワクワクした。
全然飽きないし、とても楽しい。彼女たちは色々な曲を演奏しているようである。
打楽器でこれだけ表現力が出るというのは凄い。それはまるで水墨画で多彩な絵が描かれていくような感覚にも思えた。
 
演奏はかなり長時間続いた。そして私は満足して彼女たちの演奏を聴き終えた。
 
女子高生たちが退場していく。ひとりの女子高生が近づいてきて「これにサインして」と言う。
この夢の請求書だろうか?とも思ったが、とにかくもサインして渡した。
彼女は「どうぞ」といって、真新しいパンプスを渡してくれた。私は微笑んでその靴を履いた。
 
向こうのほうにドアが見える。私はそこまで歩いて行き、ドアを開けた。
 

私は今自分がどこにいるのかを把握するのに苦労した。やがてそこが自分の車の中であることに気付く。私は夢の中で自分が交通事故にでもあったのではと思っていたのだが、どうも無事なようである。
 
服装を確認する。あれれ?これは夢の中で最後のドアを開けた時の服装だ。
茶色のチュニック、青いチェックのスカート、そして黒いパンプス。
 
もしかしてまだ夢の続き? 
ここはどこだろう? 
私は車から降りてみた。
 
あれ? ここは会社の駐車場だ! もしかして自分はクリスマスイブに帰ろうとして、車に乗り込み、そのまま眠ってしまった!? 
状況を把握しようとして何か記憶の断片のようなものがないか頭の中で模索していた時、事務の女の子が通りかかった。
 
「糸崎さん」と声を掛ける。
「はい。何でしょうか?」という返事。あら、そうか。自分は今女の子の服を着ているから、彼女はこちらを認識していないのかも。でも私は構わず尋ねた。
 
「今日は何日ですか?」
「1月6日ですが・・・・え?もしかして、前村さん?」
「うん」
「とにかく来て」
 
と言って、彼女は私の腕を引っ張って事務所の中に入っていった。
 

 
「え?前村なの?何その格好は?」と係長。
「どうしてたんだ!心配してたぞ」と課長。
どうも雰囲気的にこの2人、仲直りしたようである。良かった良かった。
 
「昨日も実家のお母さんと電話で話して、今日も手がかりが見つからなかったら警察に捜索願を出そうと思っていた」と課長。
「今までどこにいたの?」と社長の妹の総務主任さん。
「それがさっぱり分からなくて。12月24日の夜に車に乗って帰ろうとして、凄い吹雪にあって、その後さっぱり記憶が無いのですが、ついさっき気付いたら会社の駐車場に車が駐まっていたんです。服装もなぜかこんな状況で」
 
「会社の駐車場に車が駐まっていたら気付くはずだよな」
「そんなところとっくに探してますよ」
「本人も覚えてないというのなら、何があったんだろうね」
「でも、あなたその格好似合ってるわね」と総務主任。
 
「課長、○○の設計の件はどうなってますか?」
「25日の朝、君の机の上の端末が付けっぱなしで、きれいに基本的な設計が完了していたので、それをベースにみんなに指示を出した。作業は順調に進んでいる」
「完成していた・・・それって、もしかして△△を◇◇◇の形にする奴ですか?」
「そうそう。君らしい素晴らしいアイデアだと思った。先方も満足するよ」
 
その設計は夢の中でしたものである。夢の中の端末を操作して作ったのだが、あれが現実のデータにも反映されていた!? 私は夢と現実がどうもあれこれ混淆していることに思い至った。
 
「着替えに戻るのも時間もったいないし、今日はこの服装で勤務してもいいですか?」と私。
「君さえ構わなければ構わないけど。君に質問したり教えてもらいたい部下たちがたくさんいるぞ」と課長。
「あなた、その服装なら女子トイレ使ってもいいわよ」と総務主任。
 
そういう訳で、私はその日、この会社に入って初めて、女性の服を着て仕事をした。女装の私にみんな戸惑っているようであったが、やがて中身は変わらないということが分かると、これまでと同様に接してくれた。
 

トイレに行ってみる。もちろん女子トイレに入る。私はさっきから確かめたくて確かめたくてたまらない問題があった。感触としては「そうなっちゃってる」
気がしていたが、自分の目で確かめたかった。
 
個室は埋まっていて、同僚の智香子が待っていた。手を振って挨拶する。
 
「前村さん、女子トイレにいても何か違和感無いね」
「そう? もうずっとこちらにしちゃおうかなあ」と私。
「あ、そういうのだったら、私、応援してあげるよ」
「ほんと?」
「ね・・・・これまででも時々女装してたでしょ?」
「分かる?」
「前村さんのそばによった時、女物の化粧品の匂いがすること時々あったしね」
「まあね」
「歩き方がね・・・・女の子の歩き方してると思った」
「そうだね。いつもスカート穿いてるから、スカートで転ばない歩き方になっちゃってるし」
「ああ、やっぱりそうだったのね」
 
立ち話をしているうちにひとつ個室が空き、智香子が入って行く。続けて別の個室が空き、私は中に入った。
 
ショーツを下げて便座に座り、おそるおそるスカートをめくってみた。
 
私は声を立てないまま笑ってしまった。
 
そこには以前あったはずのおちんちんとか袋とかは無くなっており、きれいな割れ目ちゃんができていた。陰毛もけっこう生えている。触ってみるが痛くない。
自分が2週間だけあちらの世界に行っていて、そこで性転換手術されたのなら時間的に考えてまだかなり痛みがあるはずなのに。陰毛だって数日でこんなに伸びるわけがない。向こうとこちらでは時間の経ちかたが違うのかも知れない。
 
でも手術代の請求書が送られてきたりしないよな、などと少し不安になった。
 
新しいお股を使っておしっこをしてみる。飛び散りそうだと予測していたので、手で押さえるようにして服を濡らしたりはせずに済んだ。しかしこれは慣れるまでは大変そうだという気がする。おちんちんって意外に便利なものだったのかな?と一瞬思ったが、おちんちんが付いていることで逆にとんでもない方向におしっこが飛び、靴やズボンの裾を濡らすこともよくあったからどっちもどっちかなという気もした。
 
トイレットペーパーで手とお股をよく拭いてからショーツをあげスカートを整える。流してから外に出て手を洗った。
 

夕方近くになってから、課長が声を掛けてきた。
 
「なんか今日の前村は凄く調子いいな」
「そうですね。もしかしたら、女装で仕事すると効率が上がるのかも」
「そうか?じゃ、いっそ明日からもそれで出てくる?」
「あ、そうですね。じゃそうさせてもらいます」
 
課長は冗談で言ったようだが、こちらは本気である。このまま女装でずっと勤務しちゃおうかなと思った。
 
夕方になり、今日は早く帰ったほうがいいと言われたので、定時で退社させてもらった。
 
半月ぶりの自宅はけっこう大変だった、年賀状も含めて郵便受けが満杯ですごいことになっていた。あやしい請求書などがないかと思って見てみたが特にこれといったものは無かった。
 
服を脱いでヌードになり、姿見に映してみる。
 
わあ・・・・いいなあ、これ。
 
美しい女体だ。胸がまだ小さいけど、お股に何も余計なものが無いのが素敵だ。
 
もしかして自分はまだ夢を見ているのだろうか。それならそのままでもいい気がした。何が現実で何が夢かなんて、きっと、相対的なものでしかない。
 
お風呂に入ってシャワーを当てて、お股を洗う。こんな感覚初めてだ。嬉しい。
こんな身体が自分のものになるなんて、ほんとに夢のようだ。もしホントに夢なら、ずっと覚めないで欲しい。
 
お布団に入って、裸でちょっとアソコをいたずらしてみた。やり方はだいたい見当が付く。う・・・・・これ、気持ちいいかも。指もちょっと入れてみた。
 
なんかこんなことしてると、男の子とHしてみたくなっちゃうじゃん。
 
私はその晩は新しい身体をたっぶり堪能して、結局12時すぎくらいに寝た。
 

翌日、私は起きると顔を洗い、新しいブラとパンティを身につけると、白いブラウスを着て、その上におとなしめのセーターを着て、灰色のブリーツスカートを穿いた。きれいにお化粧してから昨日履いていたパンプスを履き会社に出かけた。
 
「え?今日もその服装なの?」と課長。
「はい。昨日も言ったようにこちらのほうが調子いいみたいなので、当面これで通勤します」
「まあ、中身が君なら構わないけど・・・・」
 
そういう訳で結局私はなしくずし的にこの日以降、ずっと女性の服で会社に行くようになってしまったのである。女子社員たちともすぐに仲良くなることができた。
 
例の設計は無事1月末までに完成し、先方に納品した。納品の際、私が女性用スーツで訪問すると向こうはびっくりしたが、先方のスタッフの中のひとりの女性が「前村さんって、もしかしたらそっち?と実は思っていた」などと言っていた。向こうも仕事が確かであれば別に性別は気にしないと言った。
 
その納品が終わってから帰宅すると、1通の郵便物が来ていた。
家庭裁判所??何だ何だ? 
開けてみて私は驚愕した。
 
「申立人の性別の取り扱いを男から女に変更する」
「申立人の名《和志》を《和菜》と変更することを許可する」
 
そんな申請出したっけ?と思ってから思い至る。例の「夢」の最後の部屋で女子高生から「これにサインして」と言われた。たぶん、あれが改性改名の申立書だったんだ! しかしまあ、なんと親切な。
 
和菜というのは私が以前から使用している女性名である。ソフトウェアのユーザー登録などはたいていその名前でしている。mixiもその名前での登録であるし、美容室などのカードもその名前で作っている。
 
翌日は土曜日で休みだったので、私は運転免許センターに行き、裁判所から来た書類を見せて、性別と名前の変更手続きをした。ちょっと恥ずかしいが裏書きでの訂正である。しかしどうせ今年の夏には更新だから、それで新しい名前の免許証に変えることができる。
 
月曜日、私はむろん女性の格好で通勤していった。さすがに社長に呼ばれた。
 
こちらの性別について問われた。自分はこのまま女性として勤務したいし、今の仕事で問題があるようであれば配置転換などされても構わないと言った。
社長は少し考えているようであったが、君の仕事は評価しているので、今のまま勤務して欲しいと言われた。
「実際、この1ヶ月、女装の君は凄いパワーで仕事をしてくれたしね」
 
登録上の名前を変更するかと訊かれて、実は戸籍上の名前が訂正済みであることを明かし、名前が訂正された免許証を見せ、会社にも「和菜」の名前で登録してもらった。
 
そういう訳で、私は女子社員になってしまったのであった。女子の制服も支給された。
 
しかしあの十二夜は不思議だ。私は休日に車で近隣の道をかなり走り回り、例の道の駅みたいな場所がないか調べてみたが、やはりそれらしき所は無いようであった。もうあそこが既に異世界だったのだろうか。。。
 
あの女子トイレの上に書かれていた文字も調べてみたら、ダンテの「神曲」
に出てくるあの世への門のところに書かれた文字であることが判明した。
「この門を通るものは全ての希望を捨てよ」という意味らしいが、私の場合はあそこを通ることで、大きな希望を得たという気がする。
 
この後どうなるかは分からないが、せっかくもらった女の身体と社会的な立場をたっぷり楽しんでいきたいと思っている。
 

 
クリスマスの12日1日目にもらったものは桃の木にいる1羽の山鶉。
2日目にもらったものは2羽の小雉鳩。
3日目にもらったものは3羽のフランス鶏。
4日目にもらったものは4羽の黒い鳥。
5日目にもらったものは5つの金の輪。
6日目にもらったものは横たわっている6羽の鵞鳥。
7日目にもらったものは泳いでいる7羽の白鳥。
8日目にもらったものは乳牛の乳を搾る8人のメイド。
9日目にもらったのは踊っている9人の貴婦人。
10日目にもらったのは跳ねている10人の殿方。
11日目にもらったのは笛を吹いている11人の笛吹き。
12日目にもらったのは太鼓を叩いている12人の太鼓叩き。
 
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