【続・赤と青】(1)

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これは私とアレクサンドラが本人たちから聞いた話を整理してみたものである。
 
ヘンリエッタと私とアレクサンドラは2年生の前期以来ずっと同じクラスだった。最初ヘンリエッタが赤クラスに来たのは2年生の4月半ばだった。おちんちん検査に不合格になったので、彼女はちゃんとした男の子になりたいといって青クラスを希望したものの、青クラスの厳しい鍛錬に耐えられず、君はこのクラスは無理だと言われて、赤クラスに入れられてしまった。「僕女の子なんか嫌だ」といって最初の数日は泣いてばかりいたが、初めて着たという女の子の服がとても似合っている気がしたのを覚えている。
 
2年生の後期では私やアレクと一緒に男子クラスに行ったものの3年生の前期ではまた赤クラス。そして3年の後期ではまた男子クラスに行ったものの、4年生前期でまたまた赤クラスに来てしまった。この時期は私たち3人は男子クラスと赤クラスを半年単位で行き来した。しかし、4年生以降はずっと赤クラスだった。ヘンリエッタは6年生になった時、2年以上赤クラスにいたということで、女性ホルモンの強制投与が行われた。本人が嫌だ嫌だと言っていたので最初の頃は学校監視員から女性ホルモン剤を無理矢理飲まされていたが、クラスメイトが「無理矢理はやめて」という抗議を校長にして一時中断した後、結局は親に説得されたらしく、自分で飲みますと言ってもらった製剤を自主的に飲む姿が見られるようになった。
 
そのためヘンリエッタは6年生の秋頃になると、おっぱいが膨らみ始め、おちんちんは全く立たなくなってしまっていた。そして6年生が終わり小学校を卒業した時点で「赤クラス連続3年」という条件を満たしてしまったので、性転換手術を受けることを勧告された。しかしヘンリエッタはそれを拒否した。しかしこの条件を満たしている場合、もう男子としての戸籍は失われる。そのためヘンリエッタの戸籍上の性別は空欄になってしまった。このままにしておくと年金や健康保険にも加入することができない。男の子ではないから兵役には行く必要はないが、就職で正社員にもなれない。戸籍の性別を戻すには性転換手術を受けて女の子になる以外無い。(元々半陰陽の子は性別欄保留のままでも年金や保険の加入は可能だし性別保留のまま正社員にもなれる)
 
そこでヘンリエッタが中学1年の10月の木曜日、両親は学校から帰ってきた彼女にお茶を勧めたが、このお茶に眠り薬が混ぜられていた。眠ってしまった彼女を両親は車に乗せ、病院に連れて行った。病院にはもう話が付けてあり、そのまま入院して、翌日朝から性転換手術が行われることになっていた。両親としてはこのまま性別が無いのは不憫だと思って、有無を言わさず手術を受けさせてしまおうと考えたのであろう。
 
「どうなさったんですか?ずっと寝ておられますが」と医師は尋ねたが、
「手術は受けたいけど怖いと言って、寝たまま連れて行ってくれと娘から頼まれたんです」と両親は答えた。確かに時々そういう子はいる。
「手術前に本人の意志確認をする必要があるのですが」
「本人が書いた同意書を預かっています」と同意書を見せる。むろん偽造である。
 
「うーん。まあご両親もそう言っておられるのなら、このまま手術しますかね」
と医師は言い、看護婦に陰部の剃毛を指示した。
 
翌朝、まだ眠っているヘンリエッタは服を脱がされ、手術着に着替えさせられた。ストレッチャーに乗せられ、手術控え室に入れられる。そこであらためて全身麻酔を打たれ、やがてひとつ前の手術が終わるのを待って、手術室に入れられ、ストレッチャーから手術台に移された。
 
呼吸などの補助具、脈拍や血圧の測定器などを取り付けられ、やがて麻酔がきちんと効いているのを確認の上、出血を押さえるため生理的食塩水の注射をされたあと、彼女の陰嚢にとうとうメスが入れられた。
 
中に指を入れて睾丸を取り出す。まずこれを切除する所から性転換手術は始まる。睾丸を身体につないでいる精索にハサミが入れられようとしたまさにその時、「ちょっと君、やめて」という他の医師の声とともに、手術室のドアが開けられひとりの少女が飛び込んで来た。
 
「手術を中止してください!」と少女は叫んだ。走ってきたようで息が荒い。
「何だね?君は」
「彼女は性転換手術に同意していません。両親にはめられたんです」
「君は?」
 
「私は彼女の同級生のサマンサです。彼女いつも自分は女の子にはなりたくない、なりたくないと言っています」
「それは確かかね?」
「嘘だったら、私を生体解剖の実験台にしてもいいです」
 
「いや。そんなことはしないけどね」
と医師は言ったものの、この手術の妥当性に疑念をはさんだ。
 
そこで医師は今切り離そうとしていた睾丸をまた陰嚢の中に収めると、切開した陰嚢の中央線を縫合して、この手術をいったん中断。とりあえず延期することにした。そしてヘンリエッタが麻酔から覚めるのを待った。
 

ヘンリエッタは意識を回復した時、そこが病院のようで、お股の付近に痛みがあるのを感じ、傍に心配そうに自分の手を握っているサマンサの姿があるのを見て、あ。自分はきっと強制的に性転換手術されてしまったんだと思い、涙があふれてきた。
 
しかしまだ手術はされていなかった。痛みもいったん陰嚢が切開されたことによるものだった。
 
サマンサが医師を呼ぶ。医師は病室に入ると、両親に部屋の外に出るよう言った。
 
「ヘンリエッタさんですね?」
「はい。そうです」
「性転換手術を希望しているということで、君はここに連れて来られたのですが、君は確かに性転換手術を受けたいと思っていますか?」
「いやです。僕、女の子になんかなりたくありません。男の子に戻りたいです。もう、おっぱいも膨らんで、おちんちんも立たなくなってるけど」
「分かりました」
 
ヘンリエッタは医師の職権で両親から隔離された(裁判所の命令で親権が停止され、彼女が信頼できると言った家庭科のグレン先生の自宅にヘンリエッタは預けられた)。そして精密検査の結果、彼女の男性機能はまだ完全には死んでいないことが確認される。そして彼女は女性ホルモンをもう飲まないよう言われ、男性ホルモンを投与された。
 
このような治療ができるようになったのも、独裁政権が倒れ、戦争も終わり、「おちんちん検査」やそれに伴う様々な性別制御の制度が廃止されたからであった。赤クラス・青クラスは残ったが、何年か赤クラスにいたからといって女性ホルモンを強制投与されたり、性転換手術を受ける義務が出ることはなくなった。ホルモン摂取も手術もあくまで本人の希望に沿っておこなうものとされていた。ヘンリエッタ自身、新制度に移行した後は一切女性ホルモンは飲んでいなかった。
 
それでも6年生の4月から中学1年の5月まで14ヶ月にわたって女性ホルモンを飲んでいたことで、彼女の身体はかなり女性化していた。しかし男性ホルモンを取り始め、また医師に言われて毎日たくさんおちんちんを揉んだり触ったりするようにしたことで、少しずつ彼女の体質は変わっていった。
 
おっぱいは大きいままであったが、男性ホルモン摂取2ヶ月目で、性的に興奮した時に、おちんちんが熱くなるようになり、3ヶ月目で少しだけ大きくなるようになり、半年後には弱いながらも勃起するようになった。そして中学2年生の6月、彼女は5年生の時以来、26ヶ月ぶりの射精を経験した。精液を調査されたところ、精子がふつうの男の子よりは随分少ないものの、確かに精子は精液に含まれていることが分かった。
 
射精能力を回復したことで、医師はヘンリエッタは医学機能的に男の子であるという診断書を書いた。その診断書によって彼女の戸籍の性別欄には男という文字が復活した。そして、彼女は名前を既に法的にヘンリーからヘンリエッタに変更していた(ので、本来は改名は1度しか認められないのでふつうはもう変更できなかった)のだが、あらためて裁判所に再改名を申請して簡単な審判をおこなった結果、名前をヘンリーに戻すことが認められた。
 
そうしてヘンリーは男の子に戻ったのであった。
 
ヘンリーが男の子に戻った直後、ヘンリー(の男性器)を救ったサマンサは自分の意志で性転換手術を受け、女の子の身体になった。そのサマンサにずっとヘンリーは付き添っていた。いつしかふたりは恋人になっていた。多分ヘンリーが男性機能を回復できたのは、サマンサへの恋愛感情があったこともあるのだろう。サマンサは手術直後に戸籍を女性に変更されたので、ふたりは将来結婚しようと約束していると聞いた。ふたりは双方とも、男の子の生活・女の子の生活の両方を体験しているので、相互の理解が深いように見えた。
 

 
「ヘンリーは性転換手術受けてたとしても、男の子に戻ったんだろうか?」
とエミリーが訊いたが、「戻った気がするよ」と私は答えた。
「身体が女の子になってしまっても、きっと男装して高校大学に通って、男性会社員として就職する道を選んでいたと思う。ヘンリー、女の子としてすごく可愛いから、もったいないけど」
「今の時代なら、女の子から男の子に性転換する人と同じ手術受けて、おちんちんを新たに作っちゃう手もあるもんね」
 
私とエミリーは放課後、自転車で近くの丘まで来て、景色を見ながら話していた。
 
「でも激動の2年だったよね」
「ほんとに」
 

戦争が終わった後、政権はコロコロと変わった。最初に就任した新首相も総選挙に敗れて退陣し、一時は毎月首相が変わるなんていうとんでもない状況だった。長きにわたって幽閉されていた国王は最初政治的な発言は控えると言っていたものの、あまりの混乱ぶりに何度か介入して連立の仲介などもした。しかし再度の総選挙を経て、女性党首が率いる民主平和党が政権を握ってからは、何とか政府も安定した。そして安定政権ができたのを見て国王は戦争責任を取るといい退位した。戦時中、国王を人質にとられていたため政府寄りの発言をしていた皇太子もあわせて責任をとって退位したので、国王の孫の20歳の女王が即位した。
 
女王の国に女性首相というので、国民の雰囲気はかなり変わった。
 
戦時中に施行されていた多数の軍国主義的な政策、男尊女卑的な政策は軒並み廃止された。軍隊も10分の1の規模に縮小され、陸海軍の全ての将官が解任された。陸軍の半分は災害救助隊に、海軍の半分は沿岸警備隊に再編された。徴兵制も廃止され、軍は志願制となった。男子高校生に課されていた軍事教練や18歳から22歳までの男子に課されていた兵役も無くなった。
 
「おちんちん検査」は廃止され「発射訓練」も無くなった。学校で軍事的な訓練に携っていた教官は全員解雇された。また生徒の動向を見張っていた学校監視員、一般民衆の監視をしていた国民監視員は全員逮捕されて戦争犯罪者として裁かれた。
 
赤クラス・青クラスについては、おちんちんのサイズで振り分けられるのではなく、毎年2回行われる問診票提出と随時生徒の希望で行われる面談で、本人の行きたいクラスに行けるようになった。女の子でも男の子になりたい子が青クラスに入ったし、より女らしくなりたい女子が赤クラスに入ったりするようになった。赤クラスの雰囲気は以前とあまり変わらなかったが、青クラスは戦時中のように厳しいものではなくなり、医学心理学的に男性能力の強化が行われるようになった。
 
小学中学では男子クラスと女子クラスの区分けが廃止され、合同クラスになり、名簿も男女混合名簿になった。またこれまで禁止されていた20歳未満の男女間の会話も自由にできるようになった。これで小中学生で恋愛をする子がとても増えたので、小学中学の保健室に避妊具が常備されることとなった。
 
なお、女の子たちの祝いの舞の授業もなくなったが、女の子たちは休日や放課後に自主的に練習をして公園で舞を披露する形で文化は継承された。
 

 
「ヘンリーは大きくなったおっぱいは当面そのままにしておくんだって」
「へー。大きいおっぱいが癖になっちゃった?」
「ブラジャー付けるのは癖になっちゃったかも知れないけど、サマンサがそのままでいいよと言ってるからだって。サマンサにいっぱい胸揉まれてるらしいよ。ヘンリー、男子制服は着てるけど、下着は女の子下着みたいだし。水着はおっぱいあるから女の子水着を着てたね」
 
「あ、可愛いの着てたよね。そもそも体育は女子の方に来てるし。やっぱり女の子を6年間もしたら完全な男の子には戻れない面もあるんだろうね」
「ヘンリー、トイレも座ってするらしいし。プライベートでは時々スカートも穿いてるみたい。性格も女の子がしみついてるよね。こないだもクッキー焼いてサマンサにプレゼントしたとかいって嬉しそうに話してたし」
 
「完璧に女の子だ・・・・」
「サマンサがいい意味で漢らしい面あるし、ちょうどいいみたい。サマンサはお料理や裁縫は苦手って言ってたし」
 
「あのふたり、もうセックスしてるよね?」
「どうもまだみたい。でも、ふたりの話聞いてると、寸前くらいまでは行ってる感じだから、時間の問題かな」
「ふーん」
 
「でも中学に入る直前は、ほんとに私ちゃんと女子制服で通えるのかなって不安だったよ」
「なんか政府の言うことが毎日違うし大臣によって違うし、無茶苦茶だったね」
 
赤クラス・青クラスを廃止し、赤クラスで女子に性転換した子の戸籍をいったん男子に戻す、なんて発言をある大臣がしたが、その大臣は翌日辞任した。別の大臣が、小学4年と中学1年に進学する全生徒の性別をチェックして怪しい子は特別クラスに入れるし、既に性転換している子も再調査するなどと発言したが、その大臣も1週間で辞任した。
 
「今更男の子に戻れなんて言われてもね。私はこうやって女の子として暮らすのが自分に合ってると思ってるし」
「確かに一部ヘンリーみたいに男の子に戻りたい子はいるだろうけど、大半は女の子の生活になじんでると思うしね。フェリーは小学校に入る前から結構女の子っぽかったよ」
 
「赤クラスに入れられたことで、自分の中の女の子が育っていったのはあるだろうけど、やはり私男の子として育つのは無理だった気がする。変な軍事教育とかされなくても」
 
丘の上は静かで、私たちはふたりきりの時間を楽しんでいた。でも夕日が迫ってきている。後少しで太陽は港の向こうの水平線に沈んでしまいそうだ。そろそろ帰らなければならない。でも私たちはもうしばらくそこにいたい気分だった。
 
「フェリー、中学生くらいになってから、そのあたりが安定したね。小学校の頃って、性別の向きがけっこう不安定だったのに」
「6年生になった頃からあまり迷わなくなった。だから性転換手術受けた」
 
「そういえば、私性転換手術した後のフェリーのヌード、ゆっくり見てないや」
「男の子の身体は小さい頃に見せたね。エミの身体も見たけど」
 
「温泉にでも行く?今度の連休にでも。お互いのお母さんと一緒に」
私はドキっとした。
 
「いいよ。今度行こうよ。お母さんに話してみる」
「うん」
 
エミリーは嬉しそうな顔をした。私たちは自転車に乗り、町へ戻った。
 

自宅に戻って旅行のことを母に言うと「あら、いいわね」と言った。
お母さん同士で電話で話し合い、今度の連休に一緒に女4人で温泉にいくことが決まった。
 
その日の夕飯は私が作った。中学に入って以来、平日はずっと私が御飯作りの当番である。休日は母が作ってくれる。
「フェリーは料理うまいよ」
「小学2年の時からずっとやってるもん」
「いいお嫁さんになれるね」
「うん。お嫁さんに行けたらいいね」
 
性転換して女の子になった人は、男心も女心も分かるし、男女分離政策のせいで、あまり女子との会話になれていない男の人たちからも話し易いということで、子供が産めないという問題さえ気にしなければ理想的な奥さんだといわれていた。実際、性転換して女の子になった人たちは結婚率自体はどうしても低いものの、結婚した後の離婚率がひじょうに小さいのである。
 
テレビを付けると、いきなり「おちんちん取ってバリプロン島へ行こう」なんてCMが流れて私は吹き出してしまった。
 
性転換手術が普及していて、今は少し大きな町の病院ならどこででも性転換手術は受けることができる。企業も社員の性別変更に寛容だ。性転換手術なんて盲腸の手術みたいんもんですよ、なんて言っている人もある。まあ、おちんちんを切るのか、虫垂を切るのかの違いかも知れないが。病院が多いから、手術を受ける側も選択肢が多い。そういう訳で全国チェーンの病院の中にはテレビCMを流す所もあった。旅行や宝石などのおまけを付ける所も出て来ているのである。
 
テレビのドラマで、主人公が性転換して女の子になり、看護婦さんになって苦労しながらも精神的に成長し、やがて幼なじみの彼氏と結婚して幸せをつかむ、なんてストーリーのものが放映されていた。主人公を演じるのは本当に小学生の時に性転換して女の子になった人気女優さんで、性転換するシーンでは本物の性転換手術の映像が流されていた。その回の視聴率は凄かった。
 
メンバーが4人とも性転換した女の子というユニットが、そのドラマの主題歌を歌っていた。大ヒットを連発している人気ユニットであった。みんな声変わりの前に女性ホルモンの摂取を始めているので、女の子の声を持っていた。
 

赤クラスは中学2年までである。これは小学校の6年以降、おちんちん検査の基準が変わらないので、それ以降で新たに赤クラスに来る子はほとんどいなかったため「三年連続赤クラスなら性転換」のルールで、全ての赤クラスの子が中学2年が終わるまでに条件を満たし、性転換手術を受けて全員女子クラスに移籍して、赤クラスが自然消滅するためであった。
 
新制度になってからは、中学になってから自主的に赤クラスに移籍する子も出て来たしずっと赤クラスにいても性転換手術を受けない子も出て来たため、赤クラスは中3や高校でも必要では?という意見も出てはいたものの、戦後様々改革しなければならないものが多く、後回しにされている感じだった。
 
この時点で私たちの学年の赤クラスにはロザンナとオリアーナの2人が在籍していた。ふたりとも5年生になって初めて赤クラスに来た子であり、女性ホルモンは継続して服用していて既に立派なおっぱいができている。むろんおちんちんは立たないし睾丸は機能停止している。あとはもう性転換手術を受けるだけだったし、赤クラスがなくなる中2の最後までには手術を受けると言っていたのだが、その週の週末、ロザンナがとうとう性転換手術を受けた。
 
元赤クラスの同級生がみんな病室に御見舞い&お祝いに行った。彼女は4年生の時から密かに女性ホルモンを飲んでいたので、肉体のトランスを始めてから4年でやっと女の子の身体になることができて、ほんとに嬉しがっていた。手術後は女子病室なので、元赤クラスの子の中で男の子に戻ってしまったヘンリーは入室できないが、彼は手術前に男子病室にいた間に御見舞いに来てくれたらしい。サマンサはベッドに横たわって痛みに耐えているロザンナから、ヘティーにも御礼言っておいてねと言われ、またふたりの仲の進捗も聞かれて照れていた。
 
「もう手術後のお股は見た?」
「今朝はじめて見た。凄くきれいと思った」
「あ、私も手術後そう思った」とみんなが言う。
「なんか感動だよね。よく今までおちんちんなんて変なもの付けてたなと思ったし、よけいなものがないお股を見て触って、ほんとにスッキリした形になれて嬉しいって思った」
 
「もうほんと小学5年生まで待たずに、小学1年生くらいで手術受けたかったと思ったよ」などと、みんなの中で最初に手術を受けたカロラインなどはいう。
 
「でもある程度おちんちんが成長して、ヴァギナの材料として充分なサイズになってから手術したほうがいいんでしょ?」
「だいたいそういう意見だよね。でも私、物心ついた頃から女の子になりたかったし」
 
「でもおちんちんのサイズじゃなくて、本人の性別意識で赤クラスに行けるようになったのは、いいことだよね」
「ほんとほんと」
 
「ライルなんか、今の制度だったら自分は赤クラスに行って女の子になりたかった、なんて言ってるよ」
「ああ、ライルって確かに女性的な性格かもね」
「でもライル、おちんちんのサイズがいつもクラスでトップだったらしい」
「ああ、可哀想」
「でもそれなら、このあと自主的に性転換しちゃうかもね」
「うん。もし性転換するなら応援してあげたいね」
 
取り敢えずは、ライルに女子制服で学校に出てくるように、そそのかしてあげようよ、なんてみんなで言っていた。
 
「でも寂しくなるなあ。ロジーが一般クラスに移ったら、赤クラスは私ひとりだけになっちゃう」とオリアーナ。
 
「オリーも早く性転換すればいいのに」とみんなから言われる。
「お母さんは私の性転換に賛成してくれてるんだけど、お父さんがまだ渋ってるのよね。お母さんの承諾さえあれば手術は受けられるけど、もう少し頑張って説得してみる」
「だって、オリーの身体じゃ、もう男の子としては生きられないのに」
「私も男の子に戻る気なんて、全く無い」
 
「ヘティーが男の子に戻れたのは与えられた女性ホルモンをけっこう飲まずにこっそり捨ててたからだからね。まともに女性ホルモンを1年も飲んでれば、もう男の子には戻れなくなるもん」とサマンサ。
「オリーはもう3年半飲んでるもんね」
 
「でも捨てるっていってもゴミ箱に捨てたらバレるでしょ?」
「口に含んだままトイレに行って吐いたり、私がこっそりもらって代わりに飲んだりしてたよ」とサマンサ。
「その頃から、けっこう仲良かったんだ!」
 
「ヘンリー、最初はホルモン剤飲むの凄く嫌がったから監視員に無理矢理飲まされてたでしょ。私が『女の子になることにしました。自分で飲みます』と言えって言ったの。それで自主的に飲むようになったってんで、監視員も付かなくなったから、そういう抜け道ができるようになったのよね」
「わあ、頭脳プレイだったんだ!」
 
「私たち、ふたりの関係は隠してたからマークされてなかったのもある。でもヘティーが男子クラスにいた小学2年の時から、私実質的にヘティーの彼女だったの。何度もキスしたし。でもそれを徹底的に隠してた」とサマンサ。
「わあ」
「全然気付かなかった」
 
「私が5年生まで男子クラスにいたのは、ひょっとしてヘティーが女の子になっちゃったら、私は男の子のまま女の子のヘティーと結婚した方がいいのかな、というのを考えてたのもあるのよね」
「そうだったのか」
 
「声変わりする前にはホルモン飲み始めたかったし、もうあれが自分が女の子になれる限界と思ったのと、ヘティーはやはり男の子として生きるつもりだと思ったから私も6年生で赤クラスに行ったけどね。フェリシアとエミリーとかは凄く仲良いから、協力して変な事しないかとかマークされてた感じだよね」
 
「あ、それは意識してた。ふたりだけで話してる時に見えない視線を感じることあったもん。アレクサンドラとリアナなんかもそうでしょ?」と私。
「うん。明らかに監視されてた。それでさ、私、将来リアナとレスビアン結婚しようかと思ってる」とアレクサンドラ。
「おお、やっちゃえ、やっちゃえ」
 
この国では当事者同士の自由意志で、同性でも結婚することはできる。戦時中は男同士で結婚する場合は、どちらかが3年以内に性転換手術を受けることが条件だったが戦後はその義務も無くなった。女同士は昔から普通に結婚可能であった。母の友人にも女同士で結婚したカップルがいて、時々うちにふたりで遊びに来ていた。
 

10月の連休がやってきて、私は母と、エミリーとエミリーの母と4人でアルモシア温泉に行った。500年前に開発されたという古い温泉である。ここは温泉の成分に女性ホルモン類似物質が含まれているので男性は入浴禁止であるが、若い女性には、おっぱいが大きくなるといって人気だし、中年女性には更年期障害が軽減されるといって人気である。温泉に来ている客は果たして女性ばかりであった。
 
温泉旅館に到着して荷物を置くと、まずはみんなで温泉に入る。「女湯」と書かれたほうのドアを開けて脱衣場に入り、服を脱いだ。(ちなみに男湯は水道水)
 
「フェリシアちゃん、かなりおっぱい大きくなったね」とエミリーの母に言われた。「そうなのよ。私より大きいもんね」とエミリー。
「この子が女性ホルモン飲み始めておっぱい大きくなってきた時は、とうとうこの子も後戻りできない所に来ちゃったなって思ったけど、今はいい娘ができて良かったと思ってますよ」とうちの母。
 
「性転換手術の跡ってもう痛まないの?」なんて言われながらエミリーの母からお股を触られる。
「もう全然痛くないです。最初の半年くらいは時々痛むことありましたけど」
 
私たちは浴槽に浸かって会話を続けた。
 
「昔は2-3年痛みが残ってたらしいね。それにダイレーションとかいって、おちんちんみたいな形のシリコンの棒を入れてヴァギナを広げるのをしないといけなかったんだって」
「うん。その話は聞いた。今ではそんなの必要ないからね」
 
「技術革新が凄いよね。昔は人工のヴァギナは濡れなかったらしいけど、今はちゃんと濡れるし。女の子から男の子に性転換する場合もちゃんと立つおちんちんが出来るし。そのうち女の子に性転換して子供が産めるようになるかもね」
「ああ、その研究も進んでるみたいよ。こないだ犬では成功したみたいだし」
 
「卵子は無理だけど、子宮さえうまく作ることができれば妊娠は可能だもんね」
「将来、人間でもそんなことできるようになったら、フェリー、子供産んでみたい?」とエミリー。
「そうだなあ。私、中学に入った時のレントゲン検査では、骨盤が広いし形も本物の女の子のと似てますね、なんて言われたから、妊娠可能だったりして」
「もし妊娠したくなったら、私、卵子はあげるね」
「うん。ありがとう」
 
部屋に戻ってすぐに夕食の準備ができたという伝言が入ったので、みんなで大食堂に行き、御飯を食べた。
 
「ねえ、おかあさん、私フェリシアとたくさんおしゃべりしたいから、今夜は私とフェリシアで同じ部屋で、お母さん、フェリシアのお母さんと一緒とかにはできない?」とエミリー。
「あら、それもいいわね。私もルチアさんとおしゃべりしたいと思ってた」
 
などといったエミリーの提案で、夕食後は荷物を移動して、私がエミリーたちの部屋に入り、エミリーのお母さんは、私と母がいた部屋に移動した。
 
ふたりきりになって私とエミリーはカーテンを締めてから抱き合ってキスした。
 
最初にキスしたのは小学2年生の時だった。自分たちが監視されているのは承知で、その監視の目をかいくぐってキスするのが、私たちの楽しみのひとつだった。友人の家の納屋で裸になってお互いの身体を観察したこともあるが、あの頃はまだセックスを知らなかった。彼女とは半年に1回くらいキスしていたし、そのひとつひとつのシチュエーションをしっかり覚えている。そして中学になってからは、監視などされなくなったのもあり、毎月1度はキスしていた。
 
「こないだロザンナの病室でアレクサンドラが、リアナと同性婚するつもりなんて言ったんだよね。その時、私とエミの関係も話題にされてたから、そちらは?なんて聞かれないかってヒヤヒヤした」
「へー。言っちゃえばよかったのに。私フェリーと恋人ということでもいいよ」
 
「ほんとに?私もそういうことにしちゃおうかな」
「うちのお母さんは私たちの関係が友だち以上になってること気付いてると思う。フェリーのお母さんも。だから私たちを同じ部屋にしてくれたんだよ」
「そっかー。エミと同室になれそうで嬉しくて、そこまで考えなかった」
 
「フェリーが女の子にならなかった場合、私たちって男女の恋人になってたんだろうか?」
「男の子と女の子だと、まともに会話できなかったから厳しいかも。でも多分恋人になった後で、私女の子になってた」
 
しばし私たちは見つめ合って、またキスした。
 
「今夜はさ・・・・しちゃっていいの?」
 
小学校の女子クラス・赤クラスの性教育では、男女のセックスの仕方に加えて女の子同士のセックスの仕方も、ビデオなどを流しながら教えられていた。だから、女の子はみんな、女の子同士でどう愛し合えばいいかを知っている。
 
「してくれなかったら、私怒る」とエミリー。
 
私たちはキスして、それからいっしょにベッドに入り、抱きしめ合った。
 

「男の子とセックスするより女の子とセックスする方が気持ちいいんだね」
などとエミリーは言った。
 
「・・・小4の時に、ヘルム君としてたよね」
「うん。彼も未体験だったから、お互いの好奇心を満足させるだけって合意できちんと避妊して、やった」
 
「私、あの時、かなり嫉妬した」
「そういう視線感じた」
「でも当時私は男の子としてはエミとセックスできなかったろうね」
「そんな気もしたから、ふつうの男の子を誘った」
 
「小6の時にマイク君ともしたよね?」
「あー、あれもバレてたか!あれは勢い」
「私はエミのことは何でも分かるもん。でもエミが私のことも愛してくれてる確信があったから、あの時は嫉妬しなかった」
「嫉妬って愛の喪失の不安だからね」
 
「私まだ男の子との経験が無いや。元赤クラスの子の半分くらいはもう経験してるみたいだけど」
「彼女のいない男の子誘えば高確率でできるよ。セックスだけなら」
 
「うーん・・・でも女の子同士のほうが気持ちいいんだったら、もし彼氏ができてからも、私、エミとしたくなっちゃうかも」
「お互い彼氏がいても、お互い結婚してても、私たちはしていい気がする。わがままかなあ・・・」
 
「結婚か・・・・私とエミの愛って、結婚にもつながる愛?」
「私もそれはよく分からない。男女の恋愛と似たようなものなのか別物なのか。でも、もし28歳までにお互い結婚してなくて、決まった彼氏もできてなかったら、同性婚しない?」
「28歳か・・・分かった。約束」
私たちは指切りをした。
 
「でもほんとにきれいに女の子の身体になったんだね、フェリー」
といって、エミリーはあらためて私のバストやお股に触った。
「うん。エミと同じ形だ」
といって、私もエミリーの身体に触る。
 
「私もう自分の身体におちんちんが付いていた頃のこと忘れかけてる」
「フェリーはきっと小学1年のころから、おちんちんは無かったんだよ」
「うん。そんな気までしちゃう」
「女の子として暮らしてたら、実際使わないでしょ?」
 
「うん。立っておしっこしたのって、小2で赤クラスに入れられる前日が最後。男子クラスに入れられてた時も、おしっこは座ってしていた。おちんちんでオナニーしたこともないのよね」
 
「女の子になってからクリちゃんでオナニーした?」
「時々してる」
「ふふふ」
 
「最初2年生で初めて赤クラスに行く時、お父さんから訊かれたの。お前、ちんちん取るつもりかって。あの頃は単純に女の子の服着てみたいなってだけだったけど、そうか、女の子になるってことは、おちんちん取るってことなのか、ってあらためて自覚した」
「女の子にはおちんちん無いからね」
 
「私、おちんちん無くなるってどういうことかなって思って、自分でおちんちんを股にはさんで隠してみたりとかしてたし。男子クラスに戻されちゃった時とか、もう男の子でいるのが嫌で嫌で、自分で切り落としちゃおうかとも思ってカミソリを根本に当てて切ろうとしたこともある」
「切っちゃえばよかったのに」
「その勇気が無かったんだもん」
 

私はその時のことを思い起こしていた。
 
もう我慢できない気分だった。学校の帰りにお小遣いでカミソリを買ってきた。両親はまだ帰宅していなかった。
 
血が床を汚さないように、下にビニールシートを敷いた。台所からまな板を持ってきて、汚れないようにビニール袋で包んだ。
 
足を開いて、おちんちんをまな板の上に置く。そして上からカミソリを当てた。このカミソリを動かせば、おちんちんとサヨナラできる。
 
刃を当てて押さえてみたけど、動かす勇気が無い。おちんちんが見えてたら勇気が出ないかもと思い、おちんちんをボール紙で包んでみた。するとカミソリを動かすことができた。ボール紙が切れていく。でも刃がおちんちんの所に到達して軽い痛みを感じた所で、私はカミソリを動かすのをやめてしまった。
 
私はため息を付くと冷蔵庫からフランクフルトソーセージを出して来た。おちんちんを股にはさんで隠し、代りにフランクフルト・ソーセージの端をお股に挟んで立てた。ほんとにこれおちんちんみたい。根本付近にカミソリを当てる。カミソリを動かす。フランクフルトがどんどん切れていく。
 
やがてカミソリの刃がまな板に当たり、「おちんちん」は切れて、身体から分離した。ほら簡単じゃん。おちんちん切れちゃった。切り離された「おちんちん」を撫でてあげる。ごめんね。私、あなたが身体に付いてること我慢できなかったの。
 
そんな気持ちになった所で、ソーセージを片付け、股にはさんでいたおちんちんを取り出してまな板に乗せる。フランクフルトより少し柔らかいし小さい。きっともっと簡単に切れちゃうよ。カミソリの刃を当てる。ドキドキする。さっきと同じ要領で行こう。
 
でも切れなかった。ちょっと痛いだろうけど、それを我慢すれば済んじゃうのに。
 
こんなものが身体に付いているおかげで、どれだけ悩んだんだろう。どれだけ苦しい思いをしたんだろう。もう嫌だ。ボクはもう女の子になりたい。
 
思い切ってカミソリを動かそうとして・・・・やはりできなかった。
 

 
「当時全国で毎年20〜30人は自分でおちんちん切り落としちゃう子いたらしいね。やはり赤クラスから男子クラスに戻されちゃった子が多かったって噂。完全に切り落としたのが発見されたら、すぐ病院に運ばれて、たいていの場合、そのまま性転換手術してあげてたらしい」とエミリー。
「発見されなかったら怖いね」
「報道規制されてたけど、死んじゃう子も何人かはいたらしいよ」
 
「手当てしなかったら死ぬだろうね。ヴィクトリアは小学2年生の時、半分くらいまで切っちゃったんだよ。血がどんどん噴き出してくるし凄まじい痛みにひるんで、その先まで切るのをためらっていた所にちょうどお兄さんが入ってきて見つかって。すぐ病院に運ばれたけど、まだ2年生だったし、完全には切り落としてなかったから、つながると判断されてそのまま縫合されてしまった」と私。
「あ、ちょっと可哀想」
 
「もう少しだけ勇気があったらなあ、なんて言ってた。そこまで切ったので、さすがにもう立たなくなったから、次回の検査で不合格になって、赤クラスに入ることができたんだけどね」
 
「でも、おちんちんって、どの辺から生えてたの?このあたり?」
「それが私もよく覚えてないんだよねー。自分でも極力触ってなかったし」
 
「なるほど。じゃ、おちんちん無い同士でまたしよ」
「うん。長時間できるのが女の子同士のいいとこ、とかも言ってたね」
「でも夜1時くらいまでには寝ようか」
「でないと、明日がきついよね」
 
そんなこと言いながら、私たちはまた抱き合った。その晩は実際には2時過ぎまで、たくさん愛し合った。それはほんとうに気持ち良かった。男の子は出しちゃったら終わりらしいから、女の子になれたからこそ、こんな気持ちいいこといっぱいできるのかなと思うと、また幸せな気分になっていた。
 

私たちはその頃から、進学する高校について、どこに行きたいかだいたい決めるように、などと言われていた。
 
私とエミリーは共に普通科がメインの公立女子高校にしようかと言っていた。普通科で3年間勉強して、女子大を狙うコースである。戦争が終わって小学校・中学校は共学になったが、高校・大学はまだ女子校・男子校が別れていて、共学は高校で少し出て来ていたが、共学の大学はまだ無い。
 
普通科を希望する女子で、私とエミリーを含む7人がしばしば集まって勉強会をするようになった。その日私たちはカロラインの家に集まって勉強会をしていた。
 
「オリアーナがやっと性転換する日取りを決めたみたいね」
「わあ、それはめでたい」
「12月末にしちゃうらしいよ」
「これで赤クラスも消滅か・・・」
 
「私たちの1つ下の学年はまだ10人くらいいるみたいね」
「私たちは小学校卒業する時点で4人まで減ったのにね」
 
「下の方の学年には単純に女装を楽しみたいだけの子もいるみたい」
「そうそう。私たちの学年までは6年生でホルモン強制投与だったけど、1つ下からはその縛りが無くなったから、女装だけって出来るようになったもんね」
 
「でもヘンリーはまだ時々女装してるんでしょ?」
「時々というか、デートの時はいつも女の子の格好してるよ。だから私たち女の子の友だち2人で歩いてるようにしか見えないと思う。女子限定の場所で遊んだりもするし。トイレは一緒に女子トイレに入るし。プールに行った時も一緒に女子更衣室で着換えたし」とサマンサ。
「ちょっと待って。それなら何のためにヘンリーは男の子に戻ったのよ?」
 
「最近、髪もまた伸ばしちゃおうかなって言ってる。それに彼、私が可愛いって褒めると照れるし、おっぱい揉んであげると気持ち良さそうにしてるし。ブラとかスカートとか、よく一緒に買いに行く。私たちサイズが近いから服の共用もできるし。お化粧も一緒に練習してるよ」
「もしかして赤クラス時代より女の子してない?」
 
「ヘティー、今家庭科のグレン先生の所で暮らしてるからさ。先生からたくさんお料理とかお裁縫、習ってるのよね」
「わあ」
「こないだ一緒にピクニック行った時も作ってくれたお弁当、凄く美味しかったし、実は今私が着ている服も、ヘティーが縫ってくれたんだ」
「えー!?それ可愛いから、どこかのブランド物かと思ってた」
「かなり、女の子度、上がってるじゃん」
「もう女性ホルモン飲ませちゃえば?」
 
「女性ホルモンは飲んでないし、男性ホルモンをまだ飲んでるんだけど、なぜかバストが成長してるんだよね。『僕Bじゃなくて今度からCカップ買うことにした』なんて嬉しそうに話してた。おちんちんの機能は間違いなく少しずつ強くなってるから、ホルモンの飲み間違いはあり得ないんだけど」
「でもまあ、サムもそれでよければ、いいんじゃない?」
 
「ヘンリーって男の子に戻るのもったいないくらい可愛かったもん。性格も優しいしさ。料理やお裁縫は昔から得意だったね」とカロライン。
「私のほうがむしろ男性的だよね。私家事全般苦手だから、彼、私と結婚したら、料理・裁縫は任せてなんて言ってくれてる」とサマンサ。
「どっちが奥さんかよく分からないね」とメアリー。
 
「小2の時、私が女装して川のそばで遊んでて、足を滑らせて川に落ちちゃったことがあって。その時、偶然近くを通りかかった男装のヘンリーが『今助ける』
といって駆けて来て川に飛び込んだんだけど」
「わっ」
「彼、泳げなかったのよね」
「何なんだ!?」
「私は泳げるから、結局私が彼を助けて」
「おいおい」
 
「彼落ち込んでたなあ。でも水泳なんて練習すればいいんだよと言ったの」
「はあ」
「でも彼、自分は泣き虫だし運動も苦手だし、自分みたいなのは女の子になっちゃった方がいいかな、なんて言うんだけど、別に泣き虫の男の子がいたっていいじゃん。ヘンリーは優しくていいと思うよ。私、その内ほんとの女の子になりたいと思ってるから、ヘンリーの彼女にしてよって言ったんだ」
「おお、ダイレクト・アタック!」
 
「それで彼も男の子としての自分に少し自信を取り戻した感じだった。そして危ないことがあったら、きっと私が守ってあげるから、とかも言ったんだけど、本当に何度か助けることになった。でも性転換手術の時は危機一髪だったな」
「間に合って良かったよね、あれ」とエミリー。
「でもふたりって、面白い関係だね」とアレクサンドラ。
「色々な恋人の形があっていいと思うよ」とカロライン。
 
「私、女の子になりたい気持ちは小さい頃からあったけど、女の子らしさでは、ヘンリーに負けるって昔から思ってた。一応、ふたりの関係では、その時以来ずっとヘンリーが彼で私が彼女だったんだけどね。念のため彼が男性機能を回復させて間違いなく男の子として生きて行くの確信できたところで、私は手術して女の子の身体になった。もっとも私も女性ホルモンずっと飲んでたから男の子にはなれなかったけど」とサマンサ。
 
「ホルモンやってれば男性化は進まないから、1つ下の赤クラスの子たちって焦ってない子が多いね。18歳くらいまでに手術すればいいかな、とか言ってた子もいたし」
「だけど、性転換手術しないと、男の子とセックスできないよね」
「それはあるよね」
 
「れれれ?もしかして今ここにいる中で男の子とのセックス経験あるのはサマンサだけ?」
「私、まだへティーとセックスはしてない」とサマンサ。
「えー?もうしてるとばかり思ってた」
「私はエミリーが怪しいと思うんだけどね」とサマンサは矛先を変える。「うーん。経験はあるよ」とエミリーはあっさり答える。
 
「おお、やはり男の子時代のフェリシアとしたの?」
「してないよね」と私とエミリーは言った。
「えー、もったいない。女の子になっちゃう前に男の子としてのセックスも経験しておけば良かったのに。したいと言ったらエミリーさせてあげたんじゃないの?」
とグローリア。
 
「言われたらしてたと思うけど、言われなかった」
「私、男の子の機能使う気無かったもん」
「ああ、その気持ち分かるなあ」とカロライン。
「私も男の子的なことは一切したくなかった。ほら性転換手術の前日に男の子として最後の立小便とオナニーをしなさいなんて言われるじゃん」
「うんうん」
「みんなは、それやった?」
「しなかった」と私もサマンサもアレクサンドラも言った。
 
「だよねー。私もしなかった。私は女の子だから、そんなことしませんって答えた」とカロライン。
「実際、あれする子いるの?」とアレクサンドラ。
「ふつうしないよね。だって性転換手術受ける子って、もうおちんちん以外は、身も心も社会生活も人間関係も完全に女の子になってしまっているもん」
「手術は最後の仕上げだもんね」
 
「でもフェリシアとしたんじゃなかったら、エミリーが誰としたのか気になる」
とグローリア。
「そのあたりは企業秘密ということで」とエミリーは笑いながら言った。
「フェリシアはその相手知ってるの?」
「もちろん。私はエミのことは何でも知ってるよ」と私。
「私もフェリーのことは何でも知ってる」とエミリー。
 
「やはりフェリシアとエミリーって・・・友だち以上の関係だよね」
「うふふ。想像に任せる」と私。
 

その時、ドアが開いて、まだ6〜7歳かな?という感じの女の子が入ってきた。「お姉ちゃん、おやつどこ?」とカロラインに訊く。
「あ、ごめん。こっちに全部持って来ちゃった。ここで食べて良いよ」
「うん」と言ってカロラインの隣に座り、テーブルの上のチョコを手に取る。
 
「可愛い!妹さん?」
「うん。今小学1年生。ユリアっていうの」
「あれ?カロラインの妹って5年生くらいじゃなかった?」
「5年生の妹もいるよ。シンシア。実はユリアはこないだまで弟だったんだ。ユリウスっていって」
「えー!?」
 
「顔立ちが可愛いから、お前女の子になった方がいいよ、いいよって唆して、先月から女の子の服を着せてるの」
「カロラインが唆したのか!」
「赤クラスなの?」
「普通クラスだよ。でも女の子の服着て学校に行ってる」
「ああ、今それもできるんだよね」
「ちゃんと赤い学生証も発行してもらったよ」
 
「私、友だちだいぶ増えた。男の子だった頃は全然友だちできなかったのに」
とユリアが言う。
「よかったね。でもユリアちゃん、ほんと可愛いもん」
「女の子になるなら料理とか裁縫覚えなさいってお母さんから言われて、今習ってるけど、なんだか楽しい」
「うん、料理や裁縫は楽しいよね」
 
「最初スカート穿くの恥ずかしかったけど、だいぶ慣れた。今ズボンより好き」
「私がユリアのタンスからズボンも男の子パンツも全部撤去して燃やしたから」
「過激な姉ちゃんだ」
「じゃ女の子の服着るしかなかったじゃん」
 
「最初パンティに穴がないからどうやっておしっこすればいいのかと思った」
「パンティは脱いでからおしっこするから、穴はいらないもんね」
「でも男の子だった時より可愛いの穿けるから好き」
「ああ、私も最初それが嬉しかったなあ」
「でも女の子パンティ穿いてると、ホントおちんちんは邪魔だよね」
 
「お姉ちゃん、私、おちんちん切られちゃうの?こないだお母ちゃんから、ユリアのおちんちんはいつ頃切ろうか?って言われた」
「4年生か5年生くらいになってから切ればいいよ。別に無理矢理切られちゃうことはないから。自分で切りたいな、他の女の子と同じ形にしたいなって思うようになったら、お姉ちゃんかお母ちゃんに言えば病院に連れて行くから。麻酔掛けてお医者さんに切ってもらうんだよ」
 
「痛い?」
「少し痛いけど、平気だよ。お姉ちゃんも平気だったから」
「おちんちん無くなったら、おしっこはどうすればいいの?」
「ちゃんとおしっこ出てくる穴作ってもらうから大丈夫」
「おっぱいは、おちんちん切ったら大きくなるの?」
「大きくなるお薬飲むんだよ。4年生になったら飲み始めようね」
「私、お母ちゃんみたいな大きなおっぱい、いいな」
 
「ユリアちゃん、可愛いお嫁さんになりそう」
「こないだクロードからもそんなこと言われた。可愛いねって言われてキスされちゃった」
「おお、もうボーイフレンドができてる!」
 
「この子、私より可愛くなるかもって気がするのよね」とカロライン。
「でも親は何か言わなかった?」
「私が女の子になっちゃったから、唯一の息子だったし。期待してたみたいだけど、この可愛い姿見て、一瞬で諦めたみたい」
「なるほど」
 
「どうせ女の子になっちゃうなら、ちゃんと娘として教育した方がいいし、というので、学生証も黒から赤に変えてもらったんだよね」
「まあ、カロライン見てたら、親もいい意味で諦めが付くよね」
 

おやつをだいぶ食べて満足したのか、ユリアは部屋から出て行った。
 
「でも、あんな可愛い子、男の子にしちゃうのはもったいないもんね」とサマンサ。「そうそう。可愛い子はどんどん女の子に変えちゃえばいいのよ」とカロライン。「ちょっと待って。それは本人の気持ち次第で」とアレクサンドラ。
 
「そう?私がもし衛生大臣になったら、美少年は全員10歳までに性転換させるべしって法律作っちゃお」
「カロラインが国会議員に立候補したら絶対投票しないようにしよう」
 
「だけど、ポーラなんかもっと過激だよ。20歳までに男の子のおちんちんは全部切っちゃえ、なんてこないだ言ってた」
「それ、国が滅亡するって」
 
「精子を保存しておけばいいじゃん。中学高校に精子採取施設を併設して、オナニーしたくなった男子はそこに行って出してくる。それか、18歳になったら、男の子は精子保存施設に1年か2年くらい収容して、週1回搾り取って冷凍保存。施設から出る時に去勢してしまう」とカロライン。
「えっと、男の子の人権は?」
 
「兵役よりマシじゃん。死なないし。搾り取る時は最高に気持ち良くなれるような刺激装置使うの。テンガでもいいけど。2年間も快感を味わい続けたら最高じゃん」
「牛の精子採取並みだね」
 
「いや、こないだポーラと話してたら、その手の話で盛り上がっちゃって」
「うちの国の戦時中の体制って、まだ生やさしかったんだね」
 
「でも2年間ひたすら出し続けてたら、さすがにみんな馬鹿にならない?」
とアレクサンドラ。
「大丈夫でしょ。元々男の子って、みんな毎日してるし」とメアリー。「え?そうなの?」と私。
「たいていの男の子はしてるみたいよ。1日に3〜4回する子もいるみたい」
とエミリー。
「えー?信じられない。そんなに楽しいものなの?」とアレクサンドラ。「いや、ただの本能だと思う」とサマンサ。
 
「サマンサは男の子時代、日に何回とかしてたの?」とアレクサンドラ。
「私はしてないよ。オナニーは習慣だから、しないと決めたら、しなくてもいいのよ」
「いや。それはサマンサだけ。ふつうの男の子は我慢しようとしても我慢できないって」とメアリー。
 
「そうなのかなあ。結局、私射精したのって、おちんちん検査の時だけ。というか勃起も検査の時だけ。発射訓練も実は触るふりだけ。だから毎回おちんちん握られて地面を引きずり回されてた。当時の傷がまだ背中に残ってるよ」
「わあ・・・・」
 
「でも、やっぱり強制的に何何とかいうのは、よくないよ」と私。
「そうだね。じゃ、中学、高校、大学に入る時、自主的に1回ずつ採取とか」
とカロライン。
「根本的に発想が変わってない!」
 

勉強会が終わってから、私はエミリーと一緒に歩いて帰った。私たちがふたりで並んで帰ろうとしていたら、サマンサから
「頑張ってね」と声を掛けられたので
「そちらもね」と返した。
エミリーは「さっさとヘンリーとセックスしちゃいなよ」と言った。
「そちらさんもね」と言われたが、エミリーは
「私たちは、したもん」と答える。
 
「え?フェリシアとしたことないって、さっき言ってなかった?」
「男の子時代はしてないよ。フェリーが女の子になってから、した」
「そうか!」
「一度やったほうがお互いの信頼関係も深まるよ」
 
「そうだよね。。。。今度誘惑しちゃおうかな。彼、自分がちゃんと男の子としてセックスできるか自信が無いみたいで」
「それなら、なおさらやった方がいいよ。優しくしてあげて。そしたら自信が出て、きっとうまく立つから。フェラとかもしてあげるといいし、彼の場合、後ろに指でもいいから入れてあげると興奮するよ、きっと」
 
「それ行けるかも。今度頑張ってみるかな・・・・」
などとサマンサは言ってた。
 

「でも、やっぱり平和な時代になったんだね」
「うん。あんな馬鹿話ができるのも、そのおかげだよね」
 
私たちは川に沿った土手の上を一緒に歩いていた。河原で小学2〜3年生くらいの子供たちが遊んでいるのが見える。男女混合だ。昔はこんなことはできなかった。遊びも全部男女分離されていた。いい風景だね、なんて言う。
 
「カロラインは割と前からみんな女の子にしちゃえとか言ってたね」
 
「あれはね。。。。本人が小さい頃から可愛いとか女の子らしいとか周囲から言われて、それがまんざらでもなくて、つい成り行きで女の子になっちゃって、女の子として順応してるし、女の子ライフも楽しんではいるけど、内心は少し男の子になってみたかった気持ちもあるんだよ。みんな女の子にしちゃえ、というのは、きっとそういう気持ちの反動」
「ああ、そうかもね」
「ポーラとかウララもたぶん同類」
「その3人が同類だったら、フェリーも同類だったりして」
「あはは。私たち4人は小学1年生でいきなり女子クラスに入れられたから」
 
「あの日。フェリーが女子クラスに恥ずかしそうに入ってきたのを見た時、あ、フェリーって女の子だったのかって思って。結局その認識が今まで続いている気がする」
「あの日、女子クラスは居心地悪かったけど、後で男子クラスに行ったら、女子クラスに戻りたくなった」
 
「ふふ。でもユリアちゃん、自分の意志で女の子になりたいのかなあ」
「4年生頃までには、自分の性別意識はハッキリすると思うよ。それから男の子でいたいと思ったら、女の子やめればいいと思う。ホルモンとか飲み始める前に、そのあたりは自分で決められるでしょ」
「じゃ、あまり心配することないか」
「うん。その点はカロラインも見極めてあげると思うな。自分の大事な妹なんだから。でもあれだけ可愛かったらおちんちん切ってあげたくなるよね」
 
「・・・・・やっぱりカロラインと同じ発想じゃん」
「あはは」
「でもフェリーはどうなの?フェリーも実は男の子になりたい気持ちもあった?」
 
「成り行きって面はあるけど、女の子になれて良かったと思ってる。でも、カロラインなんて物心ついた頃から女の子の服を着てたというし。小1の時も髪長くして充分女の子に見えてたし。男の子の生活体験してないから男の子もしてみれば良かったかなと思うんだろうけど、私は赤クラスに行くまでは男の子してたから、それで、もう充分」
 
「じゃ、いいか。私も男の子のフェリーって、あまり想像できなくて」
「だって私は女の子だもん」
そういう返事にエミリーは微笑んだ。
 
私たちは周囲に人がいないのを確認して、近くの木の陰に入る。
そしてしっかり抱き合って、長く深いキスをした。5分以上はしてた。
 
「お勉強も頑張ろうね」
「一緒の高校、一緒の大学に行こう」
「同性だから一緒に女子高・女子大行けるしね」
「大学入ったら一緒に暮らすのもありかもね」
「あ、同棲してみたい気がする」
「フェリーの方がお料理うまいから、同棲したらお料理任せるね」
「うん」
 
私たちは再度キスしてから、木の陰から出ると、エミリーの家に向かって歩き始めた。日が落ちるまでに彼女を送り届けて、それから彼女の家に置いてきた自転車で帰宅するのだ。
 
エミリーの手を取ると、向こうも握り返して、ニコリと笑う。手をつないだ.まま、私たちは歩いて行った。
 
 
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【続・赤と青】(1)