【棹無き世界】(1)

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2130年。その年は後の時代の歴史の教科書では「にゃい棹(さお)」という語呂合わせで覚えられることとなる。
 
この年、世界議会は「7歳を超える年齢の男性は陰茎を所持してはいけない」という世界法を制定。これは俗に「去勢法」「断茎法」あるいは7歳の内にペニスをカットするということから seven cut law などと呼ばれた。
 

50年後。
 
東方の島国・ヤンマに住む男の子ノブトは憂鬱な気分だった。
 
「明日からいよいよ。ノブトも小学生ね」
とお母さんから言われ、ランドセルをしょった写真も撮ったし、明日から小学3年生になるお姉ちゃんマユカ、5年生になるお姉ちゃんヒロミと3人で並んだ写真も撮った。
 
今日の晩御飯は前祝いということでノブトの大好きなハンバーグである。 
「友達たくさんできるといいね」
とヒロミが言う。
 
お父さんが会社から戻ってきてから夕食になるが、お父さんはビールを飲みながら
 
「あんなちっちゃかったノブトもとうとう小学生か」
と感慨深げで、指を矩形状に動かして目の前にバーチャルディスプレイを具化させると、そこにノブトが生まれた時、お宮参りの時、1歳の誕生日の時、幼稚園に入った時などの写真を表示させて懐かしむようであった。
 

夕食が終わった所で明日の入学式用の書類を書く。
 
「おまえ、性別はどうするの?男の子のまま?女の子になる?」
「女の子ってやだなあ。僕は男の子のままがいい」
「わかった」
 
と言ってお父さんは性別欄の男の方に○をつける。なお性別は男・女・無の3つの中から選ぶことができる。
 
「まあ10歳になる時、それと中学に進学する時もまた性別は選べるから、気が変わったらその時、女の子にしてもらえばいいし」
 
「女の子の方が絶対いいよ、と言ったんだけどねー」
と長女のヒロミが言う。
 
「ノブトすごく可愛いからね。幼稚園でもずいぶん女の子と間違えられていたよね」
「だからいやなんだよぉ」
 
「従姉のサトミちゃんとかは、小学生の間は男の子してたけど、中学に進学する時に女の子を選択したね」
 
「サトミちゃん美人だもん。あんな子が男になっちゃいけないよ」
「うん。みんなからそう言われている内に、本人も女の子でもいいかなあと思って性別を再選択したみたいね。今では女の子になって良かったと言っているよ」
 
「うん。女の子に移行して後悔する子なんて、めったに居ないもん」
 

ノブトはその日はなかなか寝付けなかった。
 
何度もトイレに行く。
 
トイレの前に立ち、ズボンの前開きに指を入れ、ブリーフの前開きにも指を入れて、おちんちんを取り出す。そこからおしっこをする。こういうことも今日までしかできないのかと思うと、気が重かった。
 

翌朝、起きてからトイレにまた行き、名残を惜しむようにおしっこをする。朝ご飯を食べてから、入学式なので男児用のスーツを着る。上は黒いブレザーで下は黒いズボンである。このズボンを穿くのもきょうでいったんおしまいだ。お母さんは可愛いピンクのワンピースを着ていた。
 
2人のお姉ちゃんは先に7時半頃登校していった。ノブトは9時頃になってお母さんと一緒に家を出る。
 
学校までは歩いて15分ほどである。もっともそれは小学1年生の足で歩くからで、5年生のヒロミお姉ちゃんは10分も掛からないよと言っている。
 
昔は町中でも自動車が走っていたので道路ってかなり危険なものだったらしいが、もう70-80年前から都市内での自動車の使用は禁止されているので、道路を通っているのは人間とペットの犬や猫くらいである。田舎町だとタヌキ・キツネ・サルなども見るらしいが、ノブトは見たことが無い。
 

校門を入り、正面玄関の所で6年生の子たちに
 
「入学おめでとうございます」
と言われて、きれいな菊の形にまとめられたリボンをつけてもらう。
 
体育館に並べられた椅子の自分の名前が書かれた所を見つけて座る。お母さんは後ろの方の保護者席に座った。
 
周囲を見ると、黒とかピンクのドレスを着た子が多い。男の子の服を着ているのは全体の3割くらいである。
 
「あれ、タケシ君は女の子になるの?」
と幼稚園で親しかった子に話しかけた。タケシはピンクのジャケットとミニのスカートを着ている。
 
「うん。僕男の子の方がいいと言ったんだけど、あんたは女の子になりなさいとお父さんからもお母さんからも言われて。うちは上2人が男の子だからさ。僕は女の子にしたかったみたい」
 
「わあ。僕もさんざん、あんたは女の子の方がいいと言われたけど、僕は男の子でいたいと言った」
 
「ノブトの所は上2人がお姉さんだもんなあ」
「うん。だから男の子のままでもいいことにしてもらえたのかも」
 

世界共生歌、ヤンマ国歌を斉唱したあと、新入生の名前がひとりずつ呼ばれる。タケシ君は「カンザキ・タケミ」と呼ばれて「はい」と返事していた。女の子になるので名前も女の子風にタケミと変えたのだろう。僕は女の子になるなら「ノブコ」になるのかなあ、それとも「ノブヨ」かな、などと思っている内に「ササキ・ノブト」と呼ばれるので元気よく「はい」と返事した。
 
全部の新入生の名前が呼ばれた後
 
「以上108名の入学を許可する」
と校長先生が言った。
 
そのあと、校長先生、来賓の市長さん、教育長さん、そして警察署長のお話がある。
 
「イカノオスシと覚えて下さいね。知らない人から来てと言われてもイカない。車に乗ってと言われてもノらない。襲われそうになったらオおごえをあげる。そしてスぐ逃げる。そしてそのことをおとなの人にシらせる」
 
と警察署長さんは話していた。
 

その後、在校生代表で6年生の児童会長の女子が歓迎のことばを言い、新入生代表でスズキ・ユウコちゃんが誓いのことばを言った。ユウコちゃんも幼稚園ではユウタちゃんの名前で男の子だった。小学校にあがるのと同時に女の子になることになったのだろう。
 
その後でこの学校の校歌を教えられながら全員で歌って、入学式は終わった。 
各教室に入って担任の先生からお話を聞く。
 
ノブトは1年3組で、担任の先生はハヤマ・エルカ先生と言った。優しそうな先生である。ちなみに小学校の先生は校長や教頭も含めて全員女性ということになっている。男の先生は中学からである。
 
教科書が各自の机の上に置かれている。なんだか重いなあとノブトは思った。ひととおり先生のお話があったあと、全員自己紹介をする。たいていは名前を言って「よろしくお願いします」と言うだけである。タケミは
 
「えー。カンザキ・タケミです。昨日まではタケシで男だったんですけど、今日から女になってタケミになることになりました。よろしくお願いします」
などと挨拶していた。
 
ノブトは単純に「ササキ・ノブトです。よろしくお願いします」とだけ挨拶した。
 
このクラスは男子10名・女子17名の27名ということである。実際には17名の女子の内タケミを含む5人は小学校から女子になることになった子で、元の性別でいうと男子15人・女子12名である。男女の出生率はここ数十年男3:女2くらいの比率と言われている。しかし20歳になるまでに男子の7割が女子に移行し、女子の2割が男子に移行するので、20歳時点での男女比は男1:女3くらいになる。それで現代では女性同士の夫婦が約半数である(ごく少数男性同士の夫婦もいる)。幼稚園で仲が良かった女の子スズカちゃんのところもお父さん・お母さんともに女の人だった。
 

ひととおりお話などが終わった所で、身体検査をしますので、みんなその前にトイレに行ってくるようにと言われる。
 
それでみんなでぞろぞろとトイレに行く。身体検査は時間がかかるのでクラスごとに時間帯をずらすようになっていたようである。
 
ちなみにトイレには男女の別が無い。幼稚園までは男子トイレ・女子トイレの別があったが、小学校以上には無いので、男の子も女の子もみんな一緒にトイレに行って列を作り順番を待つ。
 
小学校のトイレには、幼稚園の男子トイレにあったような小便器は無い。小便器を使う子が存在しないからである。
 
タケミはまだ「女の子になりたくないなあ」などと言いながら列に並んでいた。僕は女の子になる訳ではないけど、それでもけっこう憂鬱な気分である。やがて順番が来たので、空いた個室に入り、立ったままズボンとブリーフの前開きからおちんちんを出し、最後のおしっこをした。
 
おちんちんを中にしまい、ため息をつく。水を流して個室を出る。手洗い場で手を洗って、他の子たちと一緒に保健室に行った。それぞれのお母さんも付いてきてくれる。
 

保健室では出席番号順に並ぶ。
 
ひとりずつ名前を呼ばれたら、カーテンの向こう側に行き、そこで服を脱いでから身長と体重、それに血圧・体温・脈拍を測られる。タケミはノブトの3人前である。
 
タケミはそこまではおとなしくしていたのだが、その後、更にもうひとつ先のカーテンの向こうに行き、次のキザキ・レイカちやんが身長・体重を測られていた時
 
「いやだ!いやだ!」
という声をあげるのが聞こえてくる。
 
ノブトは思わず後ろに並んでいたスズカちゃんと顔を見合わせた。
 
「男の子って大変ね」
「僕も憂鬱〜」
 
タケミは「いやだ!女の子になりたくないよぉ!」と叫び、お母さんがなだめていたが、どうも最後は鎮静剤か何か注射をされたようである。静かになったかと思うと、泣き声が聞こえてきた。
 
「ああ、かわいそう」
とスズカ。
「でも女の子になっちゃった以上はもう仕方無いから女の子としてやっていくしかないよ」
とノブトが言うと、スズカの後ろに並んでいるコージは
「どっちみち、おちんちんは切っちゃうんだから、男も女も大差無いと思うけどなあ」
などと言っていた。
 
確かにそうかもね。
 
ノブトは2つ上の姉マユカが、お風呂に入った後、服も着ずに裸で歩いているのを見たことがある。おまたの所に何だか縦の割れ目のようなものがあった。女の子って、ああいう形になるのかな。でもあの割れ目の中ってどうなってるんだろう?と思うとドキドキする気分だった。
 

カーテンの向こうに行く時は女の子はドレスやスカート、男の子はズボンを穿いているが、カーテンから出てくる時は全員ドレスかスカートである。タケミは泣きながら、お母さんに手を引かれてミニスカート姿で出てきた。
 
「タケミちゃん、元気出してね」
「女の子もすぐ慣れるよ」
とみんなで声をかけてあげたが、タケミは涙が止まらないようだった。 

やがて「ササキ・ノブト君」と呼ばれるので「はい」と答えてお母さんと一緒にカーテンの向こうに行く。服を脱いでと言われるので、上着を脱ぎ、ズボンを脱ぐ。ズボンを脱ぐ時、ああ、これでしばらくズボンは穿けないんだなあと思った。
 
下着姿のまま、身長と体重を測られる。そのあと体温・脈拍・血圧なども測られて異常ないですねと言われる。ちなみにここで発熱があったりした場合は、後日体調が回復してから別途病院に行って、手術されることになる。
 
ノブトはため息を付きながら脱いだ服を持ってお母さんと一緒にもうひとつのカーテンの向こう側に行く。優しそうな女の先生がいる。上のシャツをめくって聴診器を当てられる。口を開けて喉の様子もチェックされる。
 
「問題無いですね。ノブト君の希望は男の子のままということですね」
「はい、それでお願いします」
「手術方法は単純接続、睾丸温存ですね」
「はい、それで」
 
「じゃおちんちん切っちゃおうね」
とお医者さんは笑顔で言った。ノブトはああ、と思いながらもパンツを脱ぐ。おちんちんの所に箱型の機械を装着される。
 
「睾丸も一緒に取る場合、それと性転換して女の子の形にする時は玉袋も一緒にこの機械の中に入れるんですよ」
とお医者さんは言っている。
 
「単純接続で間違い無いですね?」
とお母さんに確認する。お母さんが機械のスイッチを見て
「間違い無いです」
と言う。
 
「では切りますよ」
と言うと、お医者さんはボタンを押した。
 
「はい。終わりましたよ」
と言われる。
 
全然痛くなかった!
 
ノブトはちょっと拍子抜けする思いだった。痛くはないよとは聞いて
いたのだが、結構不安があったのである。
 
機械が取り外される。
 
ノブトは「ひゃーっ」と思った。おちんちんが無くなっているというより、おちんちんのサオの部分が無くなり、おちんちんの先の柔らかい部分が直接身体にくっついた状態になっているのである。
 
「おしっこはここから出てくるから基本的には今まで通りね。でもおしっこする度にどうしても周囲が濡れるから、きちんとペーパーで拭くように」
「はい」
 
「ではいいですよ」
と言われて、ノブトは
「ありがとうございました」
と言って席を立った。
 

「おちんちん無くなったから、今日からはこの下着ね」
とお母さんから言われて、前開きの無い、ショーツを渡される。これは男の子用のショーツで、女の子用のショーツとの違いは玉袋を収納するだけのスペースの余裕があることである。
 
はあ・・と思いながらノブトはショーツを穿いた。もうおちんちんが無いので2度と今までのようなブリーフを穿くことは無い。でも小学生になったらもうブリーフからは卒業だもんね〜。
 
そのあと黒いスカートを渡される。
 
「小学生の間はスカートだからね」
「うん」
と言ってノブトはスカートを初めて穿いた。
 
中学生になると男子はズボン、女子はスカートになるのだが、小学生は男女ともスカートを穿くのが普通である。ただ、女の子はミニスカート、男の子は膝丈スカートを穿く傾向があるので、だいたいそれで男女を区別することができる。 

ノブトがカーテンから出ると、下着姿のスズカが代わりにお医者さんの所に行く。女の子の場合は、股間の形状を確認されて、女の子の形であって、本人が性別女を選択している限りは何も施術されない(性別男を選択している場合は、女子の尿道口に接続して使える疑似ペニスを装着されるが、手術して身体にくっつける訳ではない。中学進学の際にあらためて男子を選択する場合は初めて手術になり同時に卵巣の摘出が行われる)。
 
スズカがお医者さんの所に進んだので、次のコージがこちらに来て、身長と体重の測定をされることになる。コージはスカート姿のノブトを見て
 
「どうだった?」
と訊く。
 
「全然痛くなかったよ」
「うん。僕も痛くないよとは聞いたけどね。でもなんかまだ怖い」
「一瞬で済むから」
「ああ、僕も今日からはスカートになるのか」
とコージが言うと、コージのお母さんは
 
「可愛いスカート用意しているからね」
とにこにこ顔であった。
 

全員の身体検査と性器調整が終わった所で、あらためて担任の先生からお話があった。特に今日おちんちんを取った子、また男の子から女の子に変わった子は、慣れるまではおしっこするのにも、あるいは普通に歩くのにも違和感があるだろうけどすぐ普通になるからと言っていた。
 
エルカ先生は生まれた時は男の子で小学校に入る時はまだ男の子を選択したものの、4年生進級時に女の子を選択して手術を受け女性に生まれ変わったのだそうである。
 
「私も小学校に入った時におちんちんが無くなった時はしばらく変な感じだったし、4年生になって女の子になった時はまたすごーく変な感じだったけど、3日で新しい身体に慣れたからね」
 
などと先生は言っていた。
 
「今日は男の子を選択した子も、やはり女の子がいいなと思ったら遠慮無く先生やお母さんに相談してね。4年生になる前でも、変わりたい子はいつでも変わることができるからね」
 

その日家に帰ると、あらためて2人の姉から
 
「入学おめでとう」
と言われた。その日は入学お祝いと、おちんちんを取って、おとなへの1歩を踏み出したお祝いということで、お母さんがケーキを焼いてくれて、他にも鶏の唐揚げを作ってくれて、みんなで食べた。お父さんも嬉しそうにビールを飲んでいる。
 
「でも昔は。男の子はおとなになっても、おちんちん付けたままだったんでしょう? どうして切るようになったの?」
 
「まあ、子供には難しい話だけど、おちんちんが付いているとそれ使って悪いことする人が多かったからだよ。それで世の中からおちんちんを無くそうということになったんだよ」
とお父さんは説明する。
 
「悪いことって、立ち小便とか?」
「うーん。まあいろいろだな」
 
とお父さんは詳しいことは口をつぐむ。どうも「子供には話せないこと」のようだなとノブトは感じた。
 

「でもセブン・カット法が施行されて最初の頃は大混乱だったみたいね」
 
「うん。当時世界の人口は約30億人で、その内半分の約15億人が男だからね。その15億人のペニスを全部切るというので大変な作業だったんだよ」
 
「わあ」
 
「背景としては、70年ほど前の2106年に発明された無痛去勢機の登場が大きい。それまでもおちんちんを切りたい人ってのは結構いたんだけど、物凄く感じやすい場所を切るから麻酔を掛けて手術しても激しい痛みに耐える必要があったんだよね。ところが、この無痛去勢機を使うと、一瞬で何の痛みも無くおちんちんが切れるというので凄い評判になって、あっという間に大ヒット商品になったんだよ」
 
「へー。そんなにおちんちん取りたい人がいたんだ?」
 
「みんな取りたいけど、痛いしなあと思っていたんだと思う。結構邪魔に思っていた男は多かったんだよ」
 
「でもその無痛去勢機の開発はたいへんだったみたいね」
とお母さんが言う。
 
「うん。最初の段階では3Dプリンタで作った、人間の肉と同じ素材の人工男性器を使ってひたすら実験をして、それから動物を使っての実験もしたけど最終段階ではどうしても人間で実験する必要があった。それでボランティアを募った。こんなのに応募する人なんているかなと思ったら、殺到したらしい」
 
「へー!」
「でも最初の段階ではまだ結構痛かったらしい。それを数年掛けて改良していって、ほとんど痛みの無いものになったんだ」
 
「わあ」
 
「基本は、おちんちんの中身は根本から切るけど、皮は少し上の方で切るんだよね。そして切断した直後にその皮で切断面を覆って神経や毛細血管をつないでしまう。その作業を0.1秒以内にやると、ほとんど痛みを感じないことがわかったんだ」
 
「あ。今日切られた時、すぐ終わったからびっくりした」
 
「今はもっと改良されていて0.01秒以内に切断・縫合が終わるようになっているからね」
 
「なるほどー」
 

「最初開発されたものは、ペニスだけを切断するもので、しかもペニスは全切断して、おしっこを出す穴だけが身体の表面に残る方式だったんだ。でもその後バリエーションがいろいろ出てね」
 
「へー」
 
「まず要望が多かった睾丸も一緒に除去するモデルが2108年に登場した。それからバリエーションとして切断したペニスをそのまま保存液を満たしたガラス瓶の中で半永久的に保存して飾っておけるものが登場した。しかし大事なのが2112年に登場した亀頭接続型なんだよ」
 
「今ではおちんちん切る場合は亀頭接続するのが常識だもんね」
「そうそう」
 
「初期の去勢機はおちんちんを全部取ってしまうから、性的な欲求を満足させることもできなくなっていた」
 
「せいてきよっきゅうって?」
 
「ノブト、おちんちんいじってて大きくなって、気持ちよくなったことない?」
「ある」
と言ってノブトは恥ずかしそうに下を向く。
 
「それが性的欲求だよ」
「へー」
 
「亀頭接続型はペニスの根本から亀頭底部までを切除した上で、亀頭を直接体表に接続する。それでそこを刺激することで性的な快感が得られる。おちんちんは無い方がいいけど、性的快感は失いたくないと思っていた人たちに支持されたんだよ。だから、これ以降は亀頭接続方式でペニス切断する人が多くなった」
 
「あの時期は、男の子のアイドル歌手が『僕もおちんちん切っちゃいました』とCMやってたらしいね」
 
「うん。それで切ろうかなと思った男の子、彼女に『おちんちん無い方がいい』と言われて切る男の子が続出したんだよね」
 
「あの時代、18歳から28歳の男子の1割近くがおちんちん切ったらしいね」
 
「うん。あの時代から、もう今の流れはできちゃったんだよ」
 

「あともうひとつは2120年になって、一気に性転換して女の子の形に変えてしまうタイプが登場する。これはさすがに処置時間が掛かるから無痛という訳にはいかなかったんだけど、それまでは性転換するには手術代100デナリくらい払って、3時間くらいの手術を受けないといけなかったのが、この去勢機を使うと機械代は10デナリで、手術時間も10秒くらいだから、凄く売れたんだよね」
 
「女の子になりたい男の子は結構いる気がする。ポールちゃんとか幼稚園の頃から女の子になりたいなりたいと言っていたし」
 
「今日女の子になったの?」
「うん。女の子にしてもらって、すごく喜んでいた。名前もポーラに変えたんだよ」
「よかったね」
 
「今では性転換までするタイプでも値段は1デナリ程度まで下がって、施術時間は3秒くらいだからね。無痛ではないけど、痛いのもちょっとで済む」
 
「ユウコちゃんは性転換したけど、結構痛かったと言ってた」
「ユウコちゃんって元ユウタちゃん?」
「そうそう。あの子はお母さんが巫女さんで、その跡取りにしたかったみたいだし。それで女の子になってね、とずっと言われてたんだって。実際これまでもけっこう巫女服を着て巫女舞とか習ってたらしいよ」
 
「あの子、霊感が強いみたいだからいい巫女さんになるかも」
とマユカが言う。
 
「ノブト、あんたも女の子になって私の後継いで会計士になるつもりない?」
と母。
 
「お姉ちゃんたちに言ってよ」
とノブトは答えた。
 
民事弁護士と会計士は女性しか就けない職業である。刑事弁護士・裁判官・検察官・会計士補・税理士・司法書士などは男性でも女性でも就ける。そのため司法インターンを終えて法曹資格を取得した後で、性転換して女性になり民事弁護士になる人もいるし、会計事務所に勤めていて会計士補を数年やった後で会計士の試験に合格したあと性転換して女性になり会計士登録する人もいる。
 

「まあそれで2130年になってセブンカット法が施行されたんだけど、国によっては結構乱暴な方法で『ペニス狩り』をしたみたいね」
 
「うん。いろいろ過激な話を聞くね」
 
「ゴンドワナ地方やアトランティス地方には、そういう乱暴なことした国がかなりあった。軍隊が各村を回っては、男を全員並ばせて、次から次へと軍刀で切って行ったとか」
 
「痛いんじゃないの?」
「貧乏な国ではずいぶん安くなってきたとはいえ、男性国民全員分の無痛去勢機を買うお金がなかったんだよ」
 
「わあ」
「そういう国でもお金持ちは無痛去勢機を自分で買って自主的に切ったり、あるいは病院で切ってもらったりしたみたい」
 
「なるほど」
「わざわざお金を掛けて病院でお医者さんの手作業で切ってもらうと、自分の好きな形にお股をデザインできるから」
 
「確かに」
 
「おしっこの出る位置をどの付近にするのがいいかは、お医者さんの間でもかなり意見が食い違っていたんだよ」
 
「ぼくトイレに行って凄く後ろの方から出るからびっくりした」
「うん。今は女の子のおしっこの出る位置と合わせるのが主流だから」
「へー。これ、女の子と同じ位置なのか」
 
「性転換する訳ではないけど、割れ目ちゃんを作って、亀頭をその中に収納するという希望は結構多かったらしい」
 
「それ少し後で去勢機でもできるようになったよね」
「そうそう。それができるタイプが出たのは2132年」
 

「うちの国では10年がかりで断茎を進めたんだよね。毎年7歳,17歳,27歳,37歳,47歳,57歳,67歳,77歳に到達した人のおちんちんを切る」
 
「87歳は?」
「80歳以上はこの法律の免除対象だったんだよ。もう今は生き残っている人はいないけどね」
 
「最後のペニス保持者が15年くらい前に亡くなったはずだよ」
 
「じゃ、もうおちんちんのある大人の人って居ないの?」
「のはずなんだが・・・・」
と言ってお父さんは口を濁す。
 
「あくまで噂なんだけど、遙か海の向こうの誰も知らない小さな島に、世界連邦に所属しない国があって、そこだけおちんちんを切ることはせずにおちんちんを付けた大人がいるという噂がある」
 
「わあ、僕そこに行きたかった」
 
「でも不思議な話もあって」
「うん」
「そこに住んでいるのはみんな女だとも言うんだよ」
「女の人なら、おちんちん無いよね」
「まあ、だからそのあたりがただの伝説なんだと思う」
「へー」
 

「セブンカット法施行当時、7のつく年に切るといっても対象者は400万人くらいになるから一度にはできない。それで月単位で分散したんだよね」
 
「そうそう。7歳は10月の小学校入学式と同時に切る」
「うん。そのシステムが今も残っているんだよね」
「17歳の高校2年生は2学期が始まる4月に切る」
 
「あとは27歳が12月、37歳が1月、47歳が2月、57歳が3月、67歳が5月、77歳は11月と分散」
 
「学校の場合は集団でやりやすいけど、社会人の場合は招集状が出るから、届いた人は潔く病院に出頭して、無痛去勢機を支給されて、自分で好きな選択肢を選んで切断する。切断したペニスの存在を去勢機の中に確認されると、無事断茎済みの書類をもらえる」
 
「何度も招集されても出頭しなかった場合は逮捕されて強制的に睾丸まで去勢」
 
「当時何とか去勢を逃れられないかと、あの手この手の手法があったらしいね」
「うん。女装して出頭していって、私すでに性転換してますから、と言う奴もいたらしいけど、即身体検査されて、男性器が確認されたら、本人の希望通り性転換手術を受けさせてあげる」
 
「なんか結構強引だ」
とヒロミが言っている。
 
「まあ切りたい人も多いけど、切られたくない人の方がずっと多いから、あの時期は本当に大変だったみたいだよ」
 
「運転免許更新と同時に切る人もいたんでしょ?」
「そうそう。男性が運転免許を更新する場合は、断茎済みであることが確認されない限り、できないから、その場で無痛去勢機を渡されて、おちんちんを取ってから手続きというパターンになっていた。うちのじいさんとかも、それで切ったらしいから」
 
「公務員は率先して切ったんだよね?」
「うん。お手本にならないといけないから。最初に総理大臣以下、全男性閣僚が切って、皇帝陛下をはじめとして男性皇族方も全員切って、そのあと国会議員、全国の知事・市町村長まではセブンカット法の施行前にほぼ全員おちんちんを切っている。病院の先生たちに弁護士さん、学校の先生も切った」
 
「あの時期は、去勢機も特需だったみたいね」
「うん。だから去勢機を作っている会社は株価も高かったし、大学生たちに凄い人気があった。そこに男性が入社するには、そこの会社の去勢機の実験台になって、開発中の機械でおちんちんを切ることが条件」
 
「本当は22歳は5年後まで切らなくても良かったんだけど、上場企業では切ることを入社条件にしたところが多かったらしいね」
 
「社内設備の問題もあるんだよ。全員ペニスを切ってくれたら、社内のトイレを男女別にする必要がなくなるから」
 
現代ではトイレが男女別になっているのは、幼稚園くらいであるが、移行時期には、ペニスを切断済みの男性は女子トイレを使ってもよいという暫定法が施行されたため、男子トイレを使う人がほとんどおらず女子トイレが今までの倍混むという現象も起きて、それもあり急速にトイレの男女統合は進んだのである。 
「昔はトイレの行列って女性だけが強いられていたけど、ペニスカット以降、男女等しく行列に並ぶ文化になったんだよね」
 

時間を50年近く戻して、これはそのセブンカット法施行間もない頃の物語である。
 
2133年2月20日(金)。
 
学校の帰りがけ、マナミと並んで歩きながらおしゃべりしていたカズヤはマナミが唐突に言ったことばを一瞬理解できなかった。
 
「セックスさせてあげようか?」
 
カズヤは迷ったものの、答える。
 
「高校生がセックスとかしたらいけないと思う」
 
「でもカズヤ、セブンカット法で4月になったら、おちんちん切らないといけないよ。セックスするなら今の内だよ」
 
「でも婚約もしてない男女がセックスしたのがばれたら死刑だよ」
「そんなの言わなきゃバレないって。実際にそれで死刑になる人なんて年間数組しか出ないじゃん」
 
「まあネットに書けばバレるよな」
「お馬鹿さんすぎるよね」
「そもそもそういう個人的なことをネットに書くべきじゃないんだよ」
 
「ということで、しない?カズヤのおちんちんがある内に」
 
「おちんちん切った後でもセックスはできるよ」
「それはできるけど、気持ち良さは全然違うと思うよ。興味無い?」
 
とマナミは強く誘ってくる。それでカズヤも心が動いた。
 
「して・・・みようかな」
「うん」
 

マナミのお父さんは弁護士、お母さんは市会議員で両親ともだいたい不在のことが多いらしい。それでカズヤはマナミのマンションを訪問した。ふたりが「お友達」関係にあることは、双方の両親も知っており、カズヤはマナミのマンションに来るのも、もう5回目くらいである。しかし今まではいつも両親のどちらかが在宅している時であった。親が居ない時の訪問は初めてだ。 
マナミが鍵を開けて一緒に中に入る。
 
「シャワー浴びようよ」
「うん」
 
それで最初にマナミがシャワーを浴び、カズヤは居間で雑誌など見ている。やがてマナミが裸で出てくるので
 
「わっ、ちょっと何か着てよ」
と言うが、マナミは
「どうせ脱ぐんだからいいじゃん」
と答えた。
 
慌ててカズヤはバスルームに飛び込む。
 
石鹸を借りて身体をよく洗う。特にあのあたりはきれいに洗う。この後のことを考えるとドキドキして、あそこが大きくなってしまった。
 
俺・・・うまくできるかなあ・・・
 
そんな不安もよぎるがあまり深く考えないことにする。
 

あまり興奮しすぎないように自分を抑えてから、身体を拭いてバスルームを出る。服を持って裸のままマナミの部屋に行くと布団が敷いてあって、マナミが切ない顔でこちらを見ていた。
 
カズヤはどきっとした。
 
可愛い!
 
でも・・・もらっちゃっていいのかな?
 
いいよね?
 
本人があげると言っているんだから。
 
それでカズヤはマナミの布団に潜り込んだ。
 
「あ、しまった。避妊具の用意が無い」
「大丈夫だよ。お母ちゃんの机の引き出しからちょろまかしておいた」
と言って、マナミは1枚くれた。
 
「ちょっと待ってね。これ付けたことがないから」
と言ってカズヤは焦りながらも何とか装着に成功する。
 
「もうお母ちゃんたちは使わないしね」
「そうか。お父さん、弁護士だから、切っちゃったんだよね」
「うん。法律の施行前に切ってた。切った後しばらくは何だかボーっとしてた。やはり切ったのが辛かったんじゃないかな」
 
「男はみんな辛いと思う」
「カズヤ、切った後は舐めてあげるね」
「舐めるって、あんな所を舐めるの?」
「そういうの知らないの?」
「舐めるもんなの?」
 

お互い初めてなので、どんな感じですればいいのか良くはわからなかったもののカズヤは半分勘で、半分は本能でマナミの身体を愛していった。カズヤは実際問題としてあっという間に逝ってしまった。
 
「早かったね」
「ごめーん。これもっと維持しないといけないんだよね」
「いいんじゃない?逝けないよりいいと思う」
「かもね」
「あ、外してあげる」
 
と言ってマナミが避妊具を外してビニール袋に入れる。
 
「コンビニのゴミ箱に捨てちゃおう」
「なるほど」
 

ふたりはその後、裸で並んで寝たまま、いろんなことをおしゃべりした。その話題はありきたりのものだったが、カズヤはマナミとこういうことをした後、マナミのことが物凄く愛おしく、彼女のためなら何をしてもいい気分であった。 
これが恋ってやつなのかなあとカズヤはあらためて思った。
 

「そろそろお父ちゃん帰ってくるかも」
「じゃ服を着なくちゃ!」
「その前にもう一度抱き合おうよ」
「うん」
 
それでカズヤはマナミを抱きしめたが、もう手放したくない気分になり、ついマナミのあの付近を触ってしまった。
 
「ごめん。触って」
「私はもうカズヤのものなんだから、好きにしていいんだよ」
 
ドキッとする。そんなこと言われたら・・・・
 
カズヤは再度マナミを抱きしめると、あのあたりを指で刺激する。マナミが気持ち良さそうにしている。マナミのそういう表情を見ると、ますますマナミが愛おしくなる。
 

ガチャッという音がした。
 
ふたりはびっくりして飛び起きる。
 
「服、服着なきゃ」
 
慌ててふたりは服を着た。マナミはもうブラをつける時間が無いので、ブラは机の引き出しに放り込んで、なんとか裸の上にトレーナーを着た。下も急いでパンティを穿き、スカートを穿く。カズヤも慌てて服を着る。
 
ズボンを穿き終わった直後に部屋のドアが開く。
 
「あ、帰ってたんだ。カズヤ君もいらっしゃい」
とスカートスーツ姿のお父さんが笑顔で言う。
 
「お父ちゃん、お帰り」
「こんにちは。お邪魔しております」
 
とふたりも笑顔で答えた。
 
でも布団を敷いているのはしっかり見られたよな?とカズヤは思った。 

学校の1学期の授業は10月に始まり、12月25日から1月7日までの半月の冬休みを経て、3月上旬まで続く。その年は3月13日(金)が終業式であった。
 
これから4月12(日)まで約1ヶ月の春休みに突入する。
 
しかし多くの男子生徒たちが暗い顔をしていた。
 
「休み明けにはちょん切られちゃうんだよなあ」
「あれ何とか逃げる方法は無いのかね」
「自主的に病院に行って性転換手術とか受けてしまえば去勢機で切られることはない」
「それもっといやだ」
 
「チンコ切られるのはしかたないけど、女にはなりたくないぜ」
などと大半の声。
 
「そう?僕はむしろ女の子になりたいけど」
と言っている男子が若干1名いる。
 
「まあおまえは女の子になってもいいんじゃない?」
と数人の男子が言う。
 
「ハナちゃん、女の子になって女子制服着ればいいよ」
と女子からも言われている。
 

「チンコ切ってしまうと、オナニーの仕方も全然変わるらしいな」
とひとりの男子が言う。
 
「ちょっとそういう話を女子の前でするな」
と言う女子もいるが
 
「おまえらが聞かなければいい」
と男子たちは言っている。
 
「でも実際、チンコ無くなってしまったら、女と同じようなオナニーしないといけないらしい」
 
「なるほどー」
 
「サオが無くなっちゃうから握って上下とかできないじゃん。だから身体の表面にくっついている柔らかい部分を指で押さえて回転運動らしい」
とひとりの男子。
 
「ああ、じゃクリちゃんをいじるのと同じになるんだ?」
とアケミが大胆にも話に乗ってくる。
 
「まあ少し大きなクリトリスかもね」
「でもそれ割れ目ちゃんを作って中に収納する訳じゃないんでしょ?」
「割れ目は作らない。男だから」
 
「だったらそれ下着ですれて、いつも感じたりしないの?」
とアケミが訊く。
 
「それ防止するのに、男子用のショーツは、その柔らかい部分が当たる箇所がソフトな素材でできているんだよ」
 
「ああ、男子用のショーツというのも謎の多い存在だ」
 
「玉まで取っちゃう奴は微妙に布が余ったのがあそこを刺激してしまうらしいね。だから玉まで取っちゃった奴は女子用のショーツを穿かないといけないらしい」
 
「玉まで取る子、どのくらいいるの?」
「アケチは取ると言ってたな?」
 
「うん。僕は性欲に煩わされたくないから、玉も取ってもらうことにした」
 
「実際チンコ切って玉はそのままだと、今までよりオナニーの回数が増える奴が多いらしい」
「チンコ切った後の方が今までより気持ちよく逝けるという説もある」
 
「ほんとかなあ」
 

そんな話を友人たちとしたせいか、その日の帰り、カズヤは悶々とした気分になっていた。
 
「あ、セックスしたそうな顔してる」
とマナミから指摘される。
 
「してもいい?」
「もちろんですよ。私の旦那様」
 
それでその日もカズヤはマナミの家に行き、ちゃんと避妊具を付けた上でセックスをした。セックスした後の避妊具はマナミが取り外して処分してくれる。そしてふたりは裸のまま抱き合ったりしながら、たくさんおしゃべりをした。 
「これだけセックスしてると、おちんちん切るのが惜しくなってきたでしょ?」
とマナミが言うが
「そもそも切りたくない。世界的な法律だから、この世界の外にでも逃げ出さない限り、避けられないけどさ」
 
「世界の外ね」
と言って、マナミは考えるように窓の外を眺めていた。
 

ふたりは春休みの間、何度も会っては、マナミの部屋で快楽の時を過ごしていた。 
そしてそれはもう週明けから学校が始まるという4月10日(金)のことだった。 
その日もふたりはマナミの両親が不在なのをいいことにマナミの部屋で愛をむさぼった。
 
「あと2日になっちゃった」
「カズヤのおちんちんも後2日の命なのね」
 
と言って、マナミはカズヤのおちんちんをもてあそぶ。
 
「おちんちん切っちゃった後もセックスさせてくれる?」
「もちろんいいよ。切っちゃった後のセックスも凄く気持ちいいらしいよ」
「うーん・・・」
 
そのセックスってどうやるんだろう?と疑問はあるものの、多分何とかなるのだろう。どうもマナミはやり方を知っているようだ。
 
「おちんちんを中に入れないから、凄く妊娠しにくいんだよね。だから避妊具つけずにする人たちも多いみたい」
 
「妊娠したい時はどうするんだっけ?」
「精液を採取して、注射器で子宮内に入れてもらうんだよ」
「そうか。自分のおちんちんでは届けられないから」
「まあ無くなっちゃったら仕方ないね」
 

カズヤはふと気になった。
 
「そういえばこの1ヶ月、ずいぶんセックスしたけどさ。マナミ、生理はいつ来たんだっけ?」
 
「えっと・・・前回来たのは2月6日かな」
とマナミはカレンダーを見て言う。
 
「ちょっと待って。まさかその後、生理来てないの?」
「うん。でも私の生理って凄く不安定だから3ヶ月くらい来ないこともあるよ。来月くらいには来るんじゃないかなあ」
 
カズヤは突然厳しい表情になるとマナミの部屋のカレンダーを見た。
 
「このさ。赤いシールが貼ってあるのが生理の来た日?」
「うん。2月6日の前は12月5日だったんだよね。だから1月は一度も生理が来てない」
 
「この小さな緑のポチが付いているのが、もしかして僕とセックしした日?」
「良くわかるね」
 
「最初にセックスした日は、最後の生理から二週間後だ」
とカズヤは言う。
 
「え?どういう意味?」
 
「マナミ、性教育ちゃんと聞いてる? 生理の後、女の子は卵胞期になって卵巣の中で卵子が育っていく。そして約2週間後に排卵が発生する」
 
「排卵って生理のこと?」
「違うよ。卵子が卵巣から出て子宮に移動しようとする。そこに精子が来ると受精する。卵子は受精してもしなくてもとにかく子宮まで来る。この後が黄体期で、受精しなかった卵子は約2週間で子宮の壁から剥がれて排出される。それが生理だよ」
 
マナミは意味が分からないようでキョトンとしている。
 
「そして卵子が受精した場合は、生理が起きることなく、受精卵が子宮に着床したまま育っていく。そして十月十日の後、赤ちゃん誕生」
 
「え?」
 
「マナミ妊娠したのでは?」
 
「え〜〜〜〜!?」
とマナミは驚いてから
 
「でも私たち避妊したよね?」
と訊き直してくる。
 
「避妊したつもりだけど、失敗した可能性はある。避妊具に小さな穴が開いててそこから精子が漏れたり、あるいはそれ以外のルートで精子が子宮内に到達する場合もある。僕たち、セックスした後、避妊具を外して、手も洗わずにお互いのに触ったりしてた。それで付着した液から精子がマナミの体内に侵入した可能性もある」
 
「嘘。どうしよう?」
 

カズヤは頭を抱えた。
 
「取り敢えず産婦人科に行って妊娠しているかどうかを確認しようよ」
「あ、うん」
 
それでふたりは電話帳で調べた産婦人科に行ってみた。おしっこを取られる。それを検査すると、妊娠しているかどうかが分かるらしい。ふたりは20分ほど待たされた上で診察室に通される。
 
「妊娠してますね。ちょっと超音波でも確認しましょう」
と言われ、マナミはお腹を露出させられ、何かクリームのようなものを塗られた上で、スティック上の器具を近づけられる。モニターに何か画像が映る。 
「これが子宮の中。ほら、赤ちゃんがいるでしょ?」
 
「うっそー!?」
とマナミは驚いている。
 
「これ大きさから見て8週目くらいですよ」
「え〜〜!?」
 
「最終月経はいつですか?」
「あ。えっと2月6日です」
「うーん。だったら9週になるな。予定日は11月13日です」
 
「私・・・お母さんになっちゃうの?」
とマナミは自分の置かれた状況を理解できないかのように言った。
 
「お母さんになるようなことをふたりでしたんでしょ?あんたたち結婚はしてるよね?」
と産科医が訊く。
 
「あ、えっと。結婚する約束はしてますけど、まだ届け出は出してません」
「あんたたち何歳?」
「えっと16歳です」
「だったらまだ2年は届けを出せないじゃん」
と言った上で
 
「ちょっと控え室で待ってて」
と言われるので、いったんふたりで控え室に戻る。
 

マナミは事態をまだ十分呑み込めていないようで
「私どうしたらいいんだろう?」
などと言っている。
 
カズヤは考えていた。そうだ。お医者さんが言ったように、自分たちは母と父になるようなことをしたんだ。自分はその責任を取らなければならない。そしてマナミを守ってあげなければいけない。
 
カズヤは急速に強い責任感を感じ始めた。
 

しばらく控え室で待っていた時、カズヤは病院の外に停まる車の音を聞いた。 
車?
 
市街地では基本的に車の通行は禁止されている。通行できるのは救急車などの緊急車両のみである。
 
病院なのだから、救急車が来るのは変なことではない。
 
しかし・・・・
 
カズヤは突然「その可能性」に気づくと、マナミの手を取って言った。 
「逃げよう」
「え?」
 

戸惑っているマナミの手を引いて、そっと病院の奥の方に行く。廊下の角を曲がった時、表のドアがやや荒々しく開く音を聞いた。やはりそうだ。 
勝手口があるのを見て、カズヤはそこから表に出た。
 
「靴が無いよぉ」
「その程度気にしないで」
「それに病院代まだ払ってないのに」
「死にたくなかったら、一緒に逃げよう」
「死ぬ〜〜〜!?」
「あのお医者さん、僕たちが結婚もしてないのに子供を作ったというので、警察に通報したんだよ。捕まったら、ふたりとも死刑になる」
 
「うっそ〜!?」
 

ふたりは小走りに町を行く。
 
「でも私たち、住所も名前も書いちゃったよ」
「うん。だからもう家にも戻れない」
「え〜〜?じゃどこに行くの?」
「少し考えるけど、もう少し病院から離れようよ」
 
10分くらい走った所にスーパーがあったので中に入り、サンダルを買った。それをマナミに履かせると、マナミも少し落ち着いたようだ。
 
「誰かこういうのを相談できる子がいないかな」
「アケミはどうだろう?」
「よし。電話してみよう」
 
それでマナミの腕時計を借りて、アケミのシークレットサインをタップする。すると電話がつながる。
 
「アケミちゃん。ちょっと相談があるんだけど」
「ありゃ。マナミかと思ったらカズヤなんだ。あんたたちさあ、できてるでしょ?」
とアケミが言う。
 
「うん。そのことで何か参考になる話が聞けないかと思って。実は追われてる」
「は?」
「マナミを妊娠させてしまって。それで産科に行ったら11月13日が予定日だと言われたんだけど、警察に通報されてしまって」
 
「ばっかだねえ。普通の病院に行けばそうなる。先に私に相談してくれたら、ちゃんと内緒にしてくれる病院を紹介したのに」
 
「僕が浅はかだったよ。それでマナミも僕自身も命の危険にさらしてしまった」
「うん。あんたたち、捕まれば死刑だよ。カズヤは即処刑されるし、マナミも赤ちゃんを産んだら処刑される」
 
「何か逃げ道は無いかな」
 
アケミは電話の向こうでため息をついていたが
 
「取り敢えず、私が言う病院に行って、そこで相談してみて」
「分かった」
 

それでふたりは電車を乗り継いで、アケミが教えてくれた病院まで行った。 
「あんたたち、すでに手配されているよ」
と言って、そこの病院の医師はネット上に公示されている手配情報を見せてくれた。
 
「きゃー」
「捕まれば死刑だし、警官に見つかって逃げたらその場で射殺されても文句がいえない」
「ひぇー」
 
「あんたたち、子供はどうするつもり?」
 
マナミはしばらく考えていた。
 
「私、この子産みたい」
 
医師はうなずいている。
 
「その赤ちゃんを中絶してもいいのなら、即中絶して、処女膜再生術をして体力の回復を待ち出頭する手もある。そして自分達は決してセックスはしていないし、妊娠というのは誤診だと主張する」
 
「通るんですか?そんな言い訳」
「弁護士の腕が良ければ通るよ」
「そういうもんなんだ?」
 
「私のお父さんが弁護士です」
とマナミが言う。
 
「だったら中絶してお父さんを頼るのがひとつの手」
「はい」
「でも中絶したくないんでしょ?」
「私、この赤ちゃん、殺したくない」
 
「だったら、この国から逃げ出すしかないね」
「外国に逃亡するんですか?」
「外国に逃げても、どこの国でも未婚の男女のセックスは重罪だよ」
 
「どうしたらいいんでしょう?」
「この世界の外側に逃げればいいのさ」
「宇宙にでも行くんでしょうか?」
 

すると医師は立ち上がって、こちらを見ずに言った。
 
「その国の名はガンダーラ。どこにあるか知る者はいない。でもそこはどんな国も干渉できない独自の世界」
 
「そんな国があるんですか!」
 
「私も直接行く道は知らない。でも行き道を知っている人にたどり着ける人なら知っている。その人も直接の行き方は知らないけど、他の人を案内できる」
 
「何人かをたどっていけば、いつかそこに到達できるんですね?」
「本当に到達できるのかは私も知らないよ」
 
「そこに行きます」
 

「ただね」
と医師は言った。
 
「そこは女だけの国なんだよ。男子禁制」
 
「だったらマナミだけでもそこに送り届けます。マナミさえ無事なら僕は死刑になってもいいです」
とカズヤは言った。
 
「カズヤ・・・・」
とマナミは感動しているようである。
 
「死にたかったら死ぬのはかまわないけど、あんたも女になればいいんだよ」
「あ!」
 
「女になるのは嫌?」
「かまいません。マナミと一緒にそこに逃げ込めるなら」
 
「うん。じゃ、今すぐ女になろうか」
と言って医師は笑顔で箱形の機械を取り出した。
 
カズヤは頭を掻いた。
 
結局僕のおちんちん切られちゃうのか!!
 

それでマナミは切る前に舐めてあげていいですか?と医師に尋ねる。
 
「まあ好きなようにして。10分間時間をあげる。その間に私はツナギをつけられる人に連絡するよ」
 
それでふたりは病室をひとつ借りて、そこでマナミがカズヤのおちんちんを舐めてくれた。物凄く気持ちが良かった。こんなことまでしてもらえるなんてと感動する。この子のためになら、本当に自分は何を捨てても良い。
 
そう思うと、男を捨てるくらい平気な気がした。
 
「じゃやっちゃってください」
と言ってカズヤは下半身の服を脱いで、医師に言った。
 

「まあ切るのは今すぐでなくてもいいから。向こうに着いてから切ればいい。この機械はあげるから」
と言って、医師は性転換機能付き・無痛去勢機を渡してくれた。
 
「単なる去勢は無痛だけど、性転換のスイッチを選択してスタートボタンを押すと3秒くらい動いているから。その間は激痛に耐える必要がある」
 
「かまいません」
「男の身体のままガンダーラに上陸しようとしたら即射殺されるからね」
「ちゃんと女になります」
「よろしい。じゃ取り敢えず女の服に着替えて」
と言われて服を一式渡される。
 
カズヤはため息をついて今着ているを脱ぎ、その服を身につけた。
 
女物のショーツを穿くと、妙に圧迫されて変な気分だ。ブラジャーは何だか胸が締め付けられるようである。そしてスカートを穿くと、何だかくらくらとした。
 
「カズヤ、性転換するんでしょ?スカートでめげてちゃダメ」
とマナミに言われる。
 
「うん。頑張る」
 
雰囲気を変えるために2人とも渡されたウィッグを頭に装着した。ロングヘアのウィッグを付けるとカズヤは何だか変な気分になった。
 
「じゃ病院の前に停まっている3321のナンバーの車に乗って」
と先生が言った。
 
「はい」
 

ふたりが病院を出ると、その3321のナンバーを付けたパトカー!が寄ってきた。 
「行くよ」
「お願いします」
 
パトカーはふたりを乗せて町を走る。町の外に出るゲートの所で検問をしてる! 
検問の警官がパトカーの警官に声を掛ける。
 
「お疲れ〜。こういう顔の高校生男女が手配されているんだけど見なかった?」
「へー。凶悪そうな顔してるな。何したの?」
「まだ16歳のくせにセックスして赤ちゃん作ったらしい」
「そんな悪い奴は見つけ次第射殺だな」
「あれ?その後部座席に乗ってるのは?」
「ああ。この女2人はパチンコやってるのを捕まえた。矯正施設に連れて行く」
「まあ女2人連れは関係無いな」
 

それで検問を抜けて郊外に出る。やがて小さな港の岸壁に停まった。
 
「そこの船に乗って」
「はい」
 
ふたりを乗せた小さな漁船が海を行く。その日は結構荒れていて二人は酔いそうだったが何とか持ちこたえた。ふたりはその後、救急車に乗せられた。 
「あんたたち、このカプセルに入って」
と言われて生命維持カプセルに入れられる。点滴の針も刺されたが、これで栄養が摂れるからいいんだと言われる。
 
やがて何かに積み込まれる感覚がある。
 
そして浮遊感!
 
どうも飛行機に乗せられたようだ。カズヤはマナミと話したかったが、カプセルの中ではそれもままならない。でもカプセルの壁をトントントンと叩いてみたら少し離れた所からトントントンと音が帰ってくる。それでマナミの無事を確認してカズヤはほっとした。
 

その後、ふたりはカプセルに入れられたまま、また車で道を走り、大きな船に乗せられたりして、結局3日ほどに及ぶ旅をした。
 
そして
「そろそろ着くよ」
という声とともにカプセルを開けられた。40歳くらいの女性が優しい表情でこちらを見ている。
 
近くでマナミもカプセルから顔を出す。
 
「あ、だったら、僕性転換しないと」
「ん?あんた性転換したいの?」
「でもガンダーラって女性以外が上陸しようとしたら射殺されるって」
 
「それはそうだけど、女装していれば十分。身体まで性転換する必要は無い」
「そうなんですか!」
「でも性転換までする覚悟だったのなら女装で暮らすのはかまわないよね?」
「全然問題無いです」
 
「特に夫婦者には緩いんだよ。独身の男が上陸しようとしたら審査対象」
 
「へー!」
 
「でもここは自分たちで畑を耕して自分たちの食べる分の食料は調達しないといけないけど、あんたたちやっていける?」
「頑張ります」
「よしよし」
 

やがて船が島の桟橋に接岸する。
 
カズヤはマナミにキスをした。
 
「新入りの女子高生2名、お願いします。レスビアンの夫婦者で片方は妊娠しています」
とカズヤたちを送って来てくれた人が言う。
 
「ようこそ。この世にあらぬ島へ」
と上品な感じの女性が言った。
 
「奥さんが妊娠してるなら、旦那は2人分働けよ」
「はい。頑張ります」
 
カズヤは笑顔で答えた。マナミがキスしてくれた。
 
 
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