【満月の娘】

目次
ぼくとゆうちゃんは幼稚園のころからのお友だちだ。でも来年からゆうちゃんはカトリーヌ女学院っていって女の子だけの学校に転校してしまうことになっている。そこの先生がゆうちゃんのピアノがうまいのを気に入ってぜひうちに来てと言ったんだって。
仲良しのゆうちゃんと離ればなれになるのは嫌だけど、ぼくは男の子だからカトリーヌ女学院に行けない。どうしてぼくは男の子なんだろう。女の子だったらずっとゆうちゃんといっしょにいれるのに。
ぼくがゆうちゃんの家に行った時、電話では居るみたいに言っていたのに玄関で呼び鈴を押しても応答がなかった。
勝手知った家なのでぼくは庭の方に回ってみた。するとお部屋にゆうちゃんがいたので声をかけたら、ゆうちゃんはびっくりしたような顔をして、あわてて奥の方に行ってしまった。そのとき、ぼくはとても変なものを見たような気がした。
しばらくして「けんちゃん入っていいよ」というのでぼくは庭から上がらせてもらう。するとそこには、ふだんどおりのえがおのゆうちゃんが、ゆうちゃんのママと一緒にいた。
「ゆうちゃん、あのさ」
「見たのね?」
「うん」
ゆうちゃんの顔が少しくもったけど、すぐに思いなおしたように明るい声でこういった。
「けんちゃんにだけ見せてあげる。ね。ママいいでしょ?」
ゆうちゃんのお母さんがうなずく。ゆうちゃんはパンツを下げ、スカートをめくって、そこを見せてくれた。ぼくはびっくりした。
「ゆうちゃんって男の子だったの?」
「今はちがうわ」
良く見るとたしかに男の子のものとはちがう。男の子なら「それ」のむこうにタマタマの入ったふくろが下がっているはずなのに、ゆうちゃんの場合、その向こうには割れ目があって、というより割れ目の中から、それが生えてきているという感じだった。そもそも「それ」はぼくのものよりずっと小さい気がする。
「これ勝手に伸びてくるの」「え?」
「だから切るんだけど」「切っちゃう?」
「でもまた生えてくるの」
ゆうちゃんのママがゆうちゃんに代わって不思議な物語をかたってくれた。
ゆうちゃんは生まれた時は男の子だったらしい。でも両親が女の子が欲しかったので、生まれてすぐ病院の先生にお願いして手術して、男の子の印を切り取って、女の子に変えてもらったんだって。
ところが女の子になったはずなのに、3歳の誕生日の日、とつぜんそこから新しい男の子の印が生えてきたらしい。両親はびっくり。ゆうちゃんもそこにそんなものが出てくるとは思いもよらなかったからもうびっくり。みるみるうちにそれはのびて2月もすると、りっぱなおとなの男の人のものみたいなのになってしまったらしい。
そこで病院に行ってまた切ってもらったんだって。ところが切ったのにまたしばらくすると生えてくる。そこでまた切るのだけど、それがまた生えてくる。
結局今は毎月満月の日の晩に、ゆうちゃんはママにそれを切ってもらうことにしているらしい。
「切られる時はとても痛いの。けんちゃんは切ったことある?」
もちろん切ったことなどないからぼくは首を振る。
「でも一晩寝て次の日の朝になると、なにかうずく物を感じて、半月の晩ころになると、はっきり割れ目の中に変なものがあるのを感じるようになるの。そしてそれはそのうち割れ目に収まらなくなって。今日は新月でしょ。今頃はちょうどこのくらい。まるで赤ちゃんのみたい。これがあと10日もすれば、たぶんけんちゃんのと同じくらいになるわ。そして満月の晩になったらまた切ってもらうの」
ゆうちゃんのは特異体質なんだって。お医者さんによればこういう体質の子はときどきいるらしいのだけど普通はそれを切ったりしないから分からないんだって。
「けんちゃんも切ってみると特異体質かどうか分かるかもよ」
「別に切らなくてもいいよ。痛いんでしょ」
「とっても。小さい頃は痛くて痛くてたまらなくて大泣きしてた」
ぼくも切られるなんて想像しただけで痛くなってくる。
「ねぇ切ってみようよ」
「いやだよ。だって生えてこなかったら」
「その時は女の子になればいいのよ、ねえママ」
「うん。けんちゃんだったら可愛い女の子になれると思うわ。
そうだ、ゆうこも今日一緒に切っちゃいましょう」
そんなやりとりをしばらくしていて、結局30分後、ぼくはゆうちゃんのママと一緒にお風呂に入ってそこをきれいに洗ってもらい、ベッドの上にズボンもパンツも履かないまま、横たわっていた。となりにゆうちゃんがやはり腰から下は何もつけないで寝ている。ゆうちゃんがぼくの手をにぎってニッコリ笑った。
やがてゆうちゃんのママがカチャカチャと金属の音がするお皿を持ってきた。
お皿の上に小さなメスが何本か乗っている。
「こわがらなくていいから」
こわがらなくていいと言われても、それはとんでもなく痛かった。ぼくは泣きはしなかったけど、あまりの痛さにしばらく気が遠くなってしまったような感じだった。でもゆうちゃんが自分も痛いのを我慢しながらぼくをはげましてくれたから、だいぶ気分がやわらいだ。
ずいぶんたってから「もう起きてもいいわよ」といわれ起きあがる。おまたのところに見なれたものが無くなっていて、かわりに割れ目ができているのを、ぼくは不思議な気持ちで見ていた。ゆうちゃんのも見てみる。おそろいだ。
「うちのゆうこと同じ体質ならだいたい3〜4日のうちに生え始めるはずよ。
さいしょのうちは成長が遅いから2〜3ヶ月でもとの大きさにもどると思うわ」
「生えてこなかった時は?」
「わたしと一緒にカトリーヌ女学院に行きましょ」
それいいな、とぼくは思った。だったらもうはえてこないといいな。そしたらぼくも女の子になって、ゆうちゃんと同じ学校に行ける。
はたしてぼくのおちんちんはもうはえてこなかった。
ぼくは女の子として生活するようになった。
あれがなくなっちゃったから、もう立っておしっこができない。座っておしっこするのは最初は変な感じだった。でももっと変な感じだったのはスカートを初めて履いたとき。なんだか腰から下がとてもたよりない感じがした。それで外を歩くと、風がスースー入ってきてまるで腰から下はだかで歩いている気分。
でももうおちんちんは無くなっちゃったから、スカートはかないといけないんだ。ぼくのお父さんは少し不満そうな顔をしていたけどぼくのお母さんは「娘が欲しかったの」といって、すごく喜んでいた。
そして初めてスカート履いて学校に出ていったときは死ぬほどはずかしかった。
でも3日でなれてしまった。
けっきょく、ぼくはゆうちゃんと一緒にカトリーヌ女学院に転校した。
もしかしたらゆうちゃん、ぼくと一緒に行きたかったら、ぼくにあれを切って欲しかったのかもしれないな。そんな気がする。
だって、ゆうちゃんのもあの後、もう二度と生えてこなくなったんだって。
おかげで、ゆうちゃんもぼくも安心して女の子としてくらしていくことができる。
時々ゆうちゃんの「特異体質」というのさえ、てひょっとしたら作り話で、本当はゆうちゃんはあの時までふつうの男の子だったんじゃないかなって思う時もある。でもゆうちゃんはそのことを聞くと笑ってこたえてくれない。
でも、ぼくも女の子になれて良かったと思っているからそんなことはどうでもいい気がする。
だって女の子になって、女の子のともだちがたくさんできたら、もう男の子時代のことが、とてもつまらなかったように感じられるから。
(2003.01.08)(2011.01.31修正)目次