【栄光に向かって走れ】(1)

目次


 
 
レオンの両親はふたりともマラソン選手だった。父は一時的にマラソンのソビリア国・最高記録を持っていたことがあるらしい。母は優勝経験こそないものの、女子マラソンの黎明期に何度も上位入賞していたらしい。
 
レオンはそういう両親の元、小さい頃から走ることに興味を持ち、姉のユリアとともによくかけっこをして遊んでいた。ごく自然に国民学校でクラブ活動が始まる5年生の時から陸上部に入り、最初短距離走者としてたくさんの大会に入賞した。
 
レオンが7年生の時、突然両親が警察に逮捕された。国家反逆罪と言われたが、両親は無実を訴えた。しかし裁判は最初からふたりの有罪を前提として進んだ感じで、両親は極寒のサムイナ地方にある収容所に送られてしまった。
 
レオンは姉のユリアと励まし合いながらこの時期を過ごした。ふたりともスポーツ学校の寄宿舎に入れられる。この学校に入っていれば生活費は国から支給されるので、ふたりは経済的な不安からは解放された。しかし結局両親とは面会もできなかった。
 
レオンは心機一転を図って長距離に転向した。そして8年生の時、ハーフマラソンの大会で優勝して国の強化選手に選ばれた。
 
この時期、レオンは出る大会出る大会に優勝していたが、優勝する度に彼は孤独を感じ始めていた。
 
両親とは全く連絡がつかない。姉とは男女別の宿舎にいることもありなかなか面会できない。平日は面会禁止で日曜しか会えないのだが、日曜はたいてい、どこかの大会に出ていたり、あるいは練習があるのである。
 
彼は自分の才能についても悩んでいた。このままでいいんだろうか?天才だとかすばらしい才能だとかもてはやされて自分は自惚れていないだろうか。そして自分と競い合えるようなライバルがほしい。
 
そんなことを思っていたレオンは10年生になったある日、ジュニア大会で訪れたニコーツク地方でハーフマラソンを走った時、沿道をずっと自分に付いて併走する少年を見た。レオンはこの競技で優勝したのだが、彼が20kmのロードを走ってゴールのある競技場に入っていく時、少年はほんの200-300m後ろを走っていたのである。彼は自分がゴールした後、後続の選手が次々と競技場に戻ってくる中、少年を探して、競技場の外に出た。
 
「ねえ、君」
「あ、レオン・イワノヴィッチさん」
「僕を知ってるの?」
「カルラの大会で見た時格好いいなと思って」
「君、陸上部に入ってないの?」
「僕の家、貧乏なんで、スパイクとかも買えないから」
「そんなの国に出させればいいんだよ!」
 
レオンが陸上競技連盟に掛け合って、この少年ミハイルを陸上奨学生に推薦。彼は首都のオミグラードに出てきてレオンと同じスポーツ学校に入り、陸上選手としての訓練を受け始めた。
 
彼はすぐに頭角を現し始めた。1年後にはハーフマラソン大会で1位がレオン、3位がミハイルだった。その更に1年後、オリンピックの強化選手を決める大会でもふたりとも入賞し、20代の選手たちに混じって合宿所で訓練を受けた。レオンとミハイルは2つ違いではあるが、良きライバルとしてこの時期たくさんいろんなことを話した。そして半年にわたる訓練の後、オリンピック代表選考を兼ねた大会に出場する。
 
一応「優勝者はオリンピック代表に自動的に決定」ということにはなっているものの、代表選考レースはこの大会のみであり、従来この大会の1〜3位がオリンピック代表に選ばれていた。
 
レオンはミハイルに「ふたりで一緒にオリンピックに行こう」と約束した。
 

レースは男女のレースが同時にスタートする。男子では序盤からベテランのイワンがハイペースで飛ばしたものの、中堅のニコライは慎重に抑えたペースで走る。そしてレオンとミハイルはそのニコライに付いていく展開で進んだ。
 
35kmすぎ。突然イワンのペースが落ちる。この35kmという距離は人間が体内からそのままエネルギー源を取り出すことのできる燃料(グリコーゲン)を使い切ってしまう距離なのである。ここから先を走るにはそもそもグリコーゲンを温存する走り方をするとともに、燃えにくい燃料である脂肪を強引に燃やすことが必要になる。しかしイワンは今日はハイペースで走っていた。ハイペースで走るとグリコーゲンの方が優先して燃やされやすい。
 
ニコライを先頭にする第二集団はペースの落ちたイワンを捉え、やがて37km地点で抜き去った。そしてその後の5kmは3人の順位争いが展開される。自然とペースが上がっていくが、誰も譲らない。3人はほとんどそのまま固まった状態で競技場に入ってきた。
 
そしてあと200mというところで若いミハイルが強烈なスパートを掛け、残りの2人は置いてきぼりになる。レオンは必死にニコライと争うが、最後の30mでニコライの最後のスパートに後れを取り、3位でゴールした。
 
1位ミハイル、2位ニコライ、3位レオン、4位イワン。
 
という結果であった。しかしこれでレオンはミハイルと一緒にオリンピックに行けると思った。姉のユリアも女子の部で優勝していた。
 

数日後、レオンはスポーツ省に呼び出された。言われた会議室に入るとスポーツ大臣がいるので驚く。
 
「男子のオリンピック代表が決まった」
と大臣は言った。
 
レオンは違和感を持った。そういう話は陸上競技連盟の幹部が言えば済む話だ。なぜスポーツ大臣が出てくるのだろう。
 
「1人は選考会の優勝者ミハイル・ペトロヴィッチ」
 
それは大会の実施要項で定められていたはずである。
 
「そして一人はこれまでの数々の実績を考慮してイワン・アレクセイヴィッチ」
 
レオンは耳を疑った。
 
「しかし彼は4位ですよ」
「確かにこの大会は4位だ。だがこの選考会は真冬に行われた。オリンピックは夏に行われる。イワンは昨年夏の世界選手権で今回のミハイルを上回るタイムを出している」
 
「そんな・・・」
 
「そして3人目の代表は選考会2位のニコライ・セミニョヴィッチ」
 
レオンは目の前が真っ暗になった。選考会で3位に入ったのに自分は代表落ち?そんな馬鹿なことがあるか!
 

「君もオリンピックに行きたい?」
「行きたいです。そもそも私は選考会で3位までに入りました。オリンピックに行く権利があるはずです」
 
「この選考会で保証しているのは、優勝者が代表になるということだけだ」
 
「ひどいです。。。。私。。。。ミハイルとも姉とも一緒にオリンピックに行こうと言っていたのに。。。」
 
「ああ、君のお姉さんのユリア・イワノヴナは女子の代表に決定したよ」
「ありがとうございます。私はどうしても行けないんですか?」
 
「どうしても行きたいかね?」
「はい」
 
「では君には女子の代表として参加してもらおう」
「は?」
 
「女子の選考も揉めたんだよ。選考会1位のユリアは問題ない。2位のアンナも昨年夏の国民運動大会で好記録を出している。しかし3位のエレナはオリンピック標準記録をクリアできなかった。つまりIOCの基準ではアウトなのだよ。一時はもう引退しているオリガを出そうかという話もあったのだけどね」
 
「それで私に女子の方に出ろというのですか? でも私は男ですけど」
「うん。だから女子になってもらいたい」
「へ?」
 
「病院の方はもう準備ができている。今から君には女子になる手術を受けてもらう」
「えーーー!?」
 

体格の良い憲兵が2人入って来て、がしっとレオンの体を掴まえた。そして部屋の外に連行する。
 
「大臣閣下、ちょっと待ってください」
「オリンピックに行きたくないの?」
「それは行きたいですけど」
「うん。だったら女子になってね」
「嘘〜〜〜!?」
 
レオンは叫んだものの、憲兵はふたりともボクシングでもやっていたかという感じでものすごく腕の力が強い。スポーツマンとはいっても足を集中的に鍛えている陸上選手のレオンには全く抵抗できなかった。
 
彼はそのまま建物の外に駐めてある救急車に連れ込まれる。そして担架に身体をしばりつけられた。
 
俺どうなるんだ〜〜〜!??
 

やがて救急車は大きな病院に到着する。レオンは担架に身体を縛られたまま憲兵によって病院内に運び込まれた。そのまま手術室に入れられる。手術台に移される。この時抵抗を試みたが無駄だった。
 
あらためて手足を手錠でベッドに留めらる。身体もしっかりと縛り付けられている。
 
緑色の手術着を着た医師3人と看護婦数人が入って来た。
 
「では麻酔を打ちます」
と言って医師が注射を打ったら下半身の感覚が無くなってしまった。看護婦があらあらしくペニスをつかんではさみで毛をおおざっぱに切ると、そのあとカミソリで残った毛をきれいに剃ってしまう。散らばった毛を掃除機で吸い込むが、その時、ペニスまで吸い込まれそうになって看護婦が慌てていた。
 
「私、どんな手術をされるんですか?」
レオンは頭の中がまだ混乱の極致の状態で尋ねた。
 
「男性を女性に変える手術ですよ。あなたそれが必要なのでしょう?」
「あ、えーっと、必要なのかなあ」
「いいですよ。手術の直前になると不安を訴える患者さんは多いですが、手術が終わればみんな喜びますから」
「喜ぶんですか・・・」
「男性には労働の義務、兵役の義務、納税の義務という三大義務がありますが女性はそういう義務がありません。生活資金があるなら働かなくてもいいし兵役にも行かなくていい。納税の税率も男性の半分です。基本的には夫を支えて家庭を守るだけでいいですから、女の方がずっとこの世の中暮らしやすいのですよ。兵役から逃れるために女性になる人もいますし、高収入の実業家が納税を軽減するために男を辞めるケースも多いですね」
 
「確かに兵役はいやだけど」
 
レオンは現在18歳だ。20歳になれば3年間の兵役に行く必要がある。でも自分は戦争で人を殺すのはいやだと思っていた。確かに女になってしまえば兵役に行かなくても済む。
 
「私も18歳で大学に入った年に女にしてもらったんですよ」
「え?先生って女なんですか?」
「ええ。医学生は女になっちゃう人よくいますよ。勉強を兵役で中断したくないから。だから医学部って入学の時は男9女1くらいだけど、卒業の時は男8女2くらいになっているんですよ。練習台として先輩に手術してもらえば費用もタダですしね」
「そうだったのか」
 
「でも男を女にするってどうやるんですか?」
「まあ男と女で形の違うところを調整するだけですね。簡単な手術ですよ」
「はあ」
 
「手術内容ですが、あなたの胸は平らですが女性の胸は膨らんでいますので、まずそこを膨らませます」
「へー」
「のど仏も女性には無いので、そこは削ります」
「なるほど」
 
「そしてあなたには今陰茎と陰嚢が付いていますが、女性にはこのようなものは無いので取り去って、代わりに女性特有の膣や陰核を作り、大陰唇・小陰唇も形成します」
 
「ペニスを取るんですか!?」
「ペニスの付いた女性はいませんからね」
「えーー!?」
 
そんなチンコ取っちゃうなんて、いやだ〜〜!!!
 
「ペニス付けたまま女湯に入ったら痴漢として通報されるし、そんなの付いていたら赤ちゃん産む時も困りますよ」
「赤ちゃん?」
「女性は子供を産まないといけませんからね」
 
俺が赤ん坊を産む!??
 
「それ、チンコ取った後、後で元に戻せるんですか? たとえば冷凍保存しておくとかして」
「それは無理ですね。切断したペニスは世界ペニス機構に納めなければならないことになっていますから。いったん女になったら、ずっと女として生きていくしかないです」
 
やだ、やだ、やだ、やだよぉ!!! チンコ無くなったら、どうやっておしっこすればいいんだよ?オナニーするのにも困るじゃんか。チンコ付いてないなんてまるで女みたいだし、と思ってからレオンはそういえば女になる手術だったんだということをやっと思い起こした。
 
「それでは手術を始めます。あ、そろそろ眠くなってきたでしょ?」
 
レオンは何かを言おうとした。しかし睡魔の中に吸い込まれてしまった。
 

手術後、全身がすさまじく痛かった。一週間ほどひたすら痛みと戦った末に包帯が取れる。
 
「立てますか?」
「たぶん」
 
何とかベッドから起き上がる。大きな鏡があるので裸体を映して見る。レオンは信じられない思いだった。
 
そこには友人と一緒にこっそり見に行った成人映画でしか見たことのないような美しい女性のヌードが写っていた。
 
豊かなバスト。くびれたウェスト。そして2本の足の間に何もぶらさがっておらず、縦に1本割れ目がある。こんなもの見たら、俺チンコ立っちゃうじゃんと思う。実際立つような感覚があるのに、視線を下に向けて自分の股間を見ると立つようなものがなく、そこにもすっきりした股間に縦の割れ目があるだけだ。
 
「なんかちんちんが立つような感覚があるのに、立ちません」
「それは陰茎は無くなりましたからね。立ちようがないですね。でも陰茎を勃起させるシステムは残っているんですよ。代わりに濡れているはずですよ」
と医師は言う。
 
「濡れる?」
 
医師はレオンをベッドに寝せて、お股の割れ目の中に手を入れると、ビニールのようなものに包まれたかなり長い棒状のものを取り出した。
 
「そこにそんなものが入ってたんですか?」
「膣を作っていますから。男性の勃起した陰茎を受け入れられるサイズです」
「ひゃー」
 
確かにその棒状のものは大きくなったチンコサイズかもしれない。
 
「やはり性的に興奮したからでしょう。湿潤しています」
「そのビニールのようなものは?」
「コンドームですよ。ちょっと診察しますね」
 
と言って医師は今度は何か透明な筒状のものを取り出すと、割れ目の中の奥の方にできている穴に挿入する。
 
挿入される時に「うっ」という感覚があった。これ・・・・
 
気持ちいいじゃん!
 
医師は細い棒の先にライトと鏡が付いたものを使ってその中を観察しているようである。
 
「もう傷は治ってますね。でも念のため3ヶ月くらいは性交はしないでください」
 
「性交ですか? でもチンコ無くなったし性交なんて」
 
レオンは1年ほど前、悪友に誘われて売春宿に行った時のことを思い出していた。あの甘美な感覚はもう味わえない、と思っていたら医師は思わぬことを言う。
 
「ヴァギナができたから、あなたが男性の陰茎を受け入れるんですよ」
 
えーーー!? 男とセックスするのか!?
 
驚いたレオンのお股の穴の中に、医師はまたガーゼや脱脂綿を丸めたものを新しいコンドームに詰めて、挿入した。
 

もう普通の下着を着けていいですよと言われるが、唐突に連行されてこの病院に来たので荷物の類いがない。それを言うと、では病院で用意しますと言われ、渡されたのは女の下着である。
 
「これ女物みたいなんですけど」
「だってあなた女になったんでしょ?」
と年配の婦長さんが言う。
 
そっかー。女になったら女の下着をつけないといけないのか!?
 
おそるおそるまずパンツを穿いてみる。最初どちらが前でどちらが後ろか分からなかった。戸惑っていると若い看護婦さんが教えてくれた。
 
「左右の端で持ってみて、細い方が前ですよ」
「へー。でもこんなに細かったら、こぼれませんかね?」
「あなた、こぼれるようなものないでしょ?」
 
そっかー。チンコ取っちまったんだった。
 
ブラジャーの付け方なんて全然分からない。とりあえず両腕を通したら上下逆だったのでやり直す。しかしホックをとめきれない。
 
「どうやって留めるんですか?」
「練習するしかないと思います」
 
その日はどうしても留めきれなかったので看護婦さんが留めてくれた。しかしなんで後ろにホックがあるんだ? 見えなくて留めにくいじゃん。
 

それまでは導尿していたのだが、トイレでしていいですよと言われ行ってみる。念のためと言って看護婦さんがついてきてくれた。最初男子トイレに入ろうとして看護婦さんに止められる。
 
「あなたはこっち」
と言われて女子トイレに連れ込まれたが、初めて見る女子トイレの風景は不思議な感じ。ただドアだけがたくさん並んでいる。
 
「小便器が無い」
「女は立っておしっこしないので」
「じゃおしっこする時も個室に入るんですか?」
「当然」
 
どうもレオンの言動に不安を感じたようで個室の中までつきあってくれる。
 
「座ってするんですよね?」
「そのほうがいいと思いますが」
 
それで座るものの、どうやったらおしっこできるのか分からない。
 
「どうすれば出るんでしょう?」
「あの付近の筋肉を緩めたら自然と出るはずですよ。ただしお尻の方の筋肉は緩めないように。そちらも緩めると大も出ますから」
 
言われたように前の方だけ緩めようとするのだが、それがなかなか難しい。5分くらい悪戦苦闘してやっと出た時はホッとした。
 
「なんかおしっこの出る感覚が違う」
「男と女では、蛇口の形が全く違いますから」
「なんか袋の底が抜けて全部そのまま落下するような感じなんです」
「そのあたり、私は男になったことがないのでよく分かりませんけど、女の尿道口は下向きですからね」
 
そのまま立とうとしたら「拭いて」と言われる。女はおしっこした後、紙で拭くのだそうだ。全然知らなかった!
 
「男の人だとペニスを振って残った汁を飛ばしたりするみたいですが女は振ることができませんから。それにけっこう周囲に付着してるでしょ?」
「確かに」
「今手術の直後で毛が生えてないですけど、毛が生えてきたら、毛にも付着しますから」
「そりゃ拭かないといけない訳だ」
 

病院に入っている間は病院のパジャマを着ていればいいから服は不要だが下着は替えが必要だし、少し自分で選んでみてはと言われ、病院内のショップを訪れた。店頭にブラジャーとかスリップとか並んでいて、自分は中に入るのを拒絶されているような感覚になったが
 
「どうしたの?入りましょ」
と若い看護婦さんに促され、中に入る。ひぇー、こんな所に居たら、俺立っちまうと思ったものの、立つものが無かったことを思い出す。
 
「このあたり可愛いけど、どう?」
と言われて見せられるのは、イチゴ模様のパンティだ。これを俺が穿くのか?こんなもんを男が穿いたら変態じゃん!と思ってから、またまた自分は女になってしまったことを思い出す。
 
「こんなのも可愛いよ」
と言われて見せられたのは、可愛い小熊の絵が描かれている。
 
「これ絵があるのは前だけなんですか?」
「違う違う。模様は後だよ。バックプリントというの」
「へー!」
 
結局、イチゴ模様、バナナ模様、リンゴ模様に、白と赤のチェック、黄色と緑のチェック、それに小熊・子猫・カンガルーがバックプリントされたショーツを買い、またブラジャーはなんだかレースたっぷりのものを5枚ほど買った。
 
「あなたCカップだから、結構可愛いのが選べるのよね。私Hカップだから、なかなか可愛いのがなくて」
などと看護婦さんは言う。確かに看護婦さんの胸はでかい。
 

女は体毛が薄いからと言われて、手術の翌週から翌々週にかけて、レオナはずっと足やお腹、脇などの体毛や顔のひげなどの脱毛の施術を受けたが、針を毛穴に刺して1本ずつ焼き切るので朝から晩までずっとその施術をされていたし(施術する人は何人かで交代)、けっこう痛かった。しかしおかげで、お股の付近や胸の付近の痛みを少しでも忘れることができた。
 
でも脱毛が済んだ足とかを見ると、すべすべしていてさわり心地もいい。これ結構好きかなという気がした。女の子の足みたい、と思ってからまたまた自分が実際に女であることを思い出す。
 
でもこんなすべすべした足でいられるなら、女もそう悪くないかな、とレオンは初めて「女である喜び」を感じた。
 

手術から10日ほどした日、医師から「性転換証明書」なるものを渡された。
 
《患者名:レオン・イワノビッチ。当病院は上記の者に下記の治療を施した。陰茎深部切断、陰嚢睾丸除去、尿道短縮、喉仏切削、肩骨切削、腹部脂肪切削、乳房隆起、乳首肥大、膣・子宮・卵巣設置、陰核形成、大陰唇・小陰唇形成。この結果、レオン・イワノビッチはもはや男性ではなく完全な女性であり、全ての男性の義務から解放されるとともに、全ての女性の権利を獲得した。公的私的な書類上の性別も女性に変更されるべきである》
 
なんかすげーこと書いてある気がする。人間の身体ってこんなに大改造できるものだったのか。
 
「あなた陸上選手だそうですね」
「はい」
「陸上選手は元々身体をスリムに作り上げているから、女性になるのも比較的楽なんですよ。これがボクシングとかジュードーやレスリングの選手だと性器やバストだけ合わせつけても全然女に見えないんですよね」
 
「ああ、それは確かに厳しそうだ」
「これ1部は役所に出しておきますから」
「はい、お願いします」
「ついでに改名も申請しますか?」
 
「あ・・・」
 
確かにレオン・イワノヴィッチは男名前である。女になったら名前も変える必要があるだろう。
 
「じゃ、レオナ・イワノヴナで」
「自然な改名ですね」
 
それで医師は書類を出してくれたようだが、翌週、裁判所から性別変更および改名の許可という書類が届いた。新しい名前の健康保険証も渡される。もっとも今回の女になる手術の費用は全部、国から出ているようである。翌日には新しい学生証・選手登録カードも渡され、男名前の学生証・選手登録カードは回収された。なんだか用意がいいなと思った。
 
少し遅れてレオナ・イワノヴナ名義のパスポートも渡される。病院内で看護婦さんにお化粧してもらって撮った写真が貼られていて「Leona Ivanovna, Sex:F」と書かれているのを見て、ちょっと面はゆい気分になった。結構自分って美人じゃん。男に生まれて女になって死ぬのも悪くないかも知れないな。俺が死んだら墓にも故レオナ・イワノヴナと刻まれるのだろうか?そうだ。もうレオン・イワノビッチは跡形も無く消滅して、今は代わりにレオナ・イワノヴナが居るんだ。
 
レオナはやっと自分の存在を自分で受け入れられたような気持ちになった。
 

その翌週、スポーツ大臣が病室を訪れた。
 
「閣下、ひどいです。私もう死にたくなりました」
「死ぬのは勝手だけど、オリンピック代表になれないよ」
 
レオンはふっと息をつく。
 
「痛みは取れた?」
「はい。だいぶ痛くなくなりました」
「退院したらすぐトレーニング再開してもらわなきゃ。これ君の代表招集状」
と言って紙を渡される。
 
《レオナ・イワノヴナ。上記の者をトンキン・オリンピック、女子マラソン・ソビリア国代表として招集する》
 
「ありがとうございます」
「お姉さんのユリア・イワノヴナも同時に代表になっている。姉妹で表彰台を独占できるようにがんばり給え」
「はい、がんばります」
 

退院する日になって、レオンは初めて姉と会った。
 
「面会申請ずっと出していたのだけど、今日やっと許可が取れたのよ」
とユリアは言う。
 
「でもどういうこと? あんた、女になってまでオリンピック代表になりたかったの?」
 
「え?」
「あんた、代表選考レースで4位だったらしいけど、男子代表になれないんだったら女子代表ででもいいと言って、女になる手術を受けたと聞いたけど」
 
「そんな話になってるの!?」
「違うの?」
 
「僕、3位に入ったんだよ。でも4位のイワン・アレクセイヴィッチを代表にすると言われて、それで女の方はオリンピック標準記録を突破しているのが2人しかいなから、と言われて」
 
姉は腕組みをした。
 
「そういうことだったのか。あんたが、そこまでなりふりかまわぬ奴だとは思えなかったから、何かあるのかもとは思ったけどね。でもあんた、女になってよかったの?それとも元々女になりたかったの?」
 
「憲兵に強制連行されて病院の手術室に放り込まれて、意識が戻った時はもう全部手術終わっていたんだよ」
 
「まあ、わが国ではありがちだね」
 
「でも男を女に変える手術なんてものがあること初めて知った」
「世界で年間1万人くらいが男から女になっているらしいよ」
「そんなに?」
「女から男になる人も毎年2000人くらい居るらしい」
「女から男にもなれるんだ!?」
 
「ただし男から女に一度なった人は男になる手術は受けられないし、逆も同じ」
「それは無茶すぎる気がする」
 

退院するのに服が無いという話になる。それで姉が近くの洋服屋さんで買ってきてくれた。
 
「これボタンの付き方が変だ」
「女の服はそうなってるの」
「なんかうまくボタンを留めきれない」
「慣れるしかないよ。あんた女になっちゃったんだから」
 
上着のほうはまだ良かったが、ボトムの方を手に取ってレオナは情けない顔をする。
 
「スカートを穿くの?」
「女だったら穿いて当然」
 
それで穿いてみるが・・・
 
「これどっちが前?」
「うーん。どっちかな?」
「女の人でも分からないの?」
「ポケットとか付いてると分かるんだけど、これは本当に分からないな。まあファスナーを左側にしておけばいいよ」
「はあ」
「ファスナーのあるところは、だいたい左か後かだから」
「前になることはないの?」
「女はそこからおちんちん出しておしっこしたりはしないから」
 
レオンはその話で少しため息をつく。
 
「おしっこする度に凄く変な気分。つい立ってしそうになって、そうか、チンコ無かったんだと思う」
「あんた男子トイレ使ってるの?」
「パジャマのズボンからチンコ出そうとして無いことに気づいてから女子トイレに移動してる」
「そのうち捕まるよ。早く女に慣れなきゃね」
 

訓練所に戻るが、部屋は姉と同室にしてもらっていた。1ヶ月にわたる入院、それに大規模な手術を受けたおかげで最初はあまり激しい運動はできなかったものの、退院して1ヶ月もすると、また10kmくらいは快調に走れるようになった。
 
「さすが元男子だな。スピードがある」
と姉は言うが
「全然だよ。出るはずの速度が出ない」
とレオナは言う。
 
「まあどうしても女の身体ではパワーが出ないから」
「でも前よりあまりエネルギーを消費しない感じがある」
「女の身体はパワーは出ないけど効率がいいんだよ。だから短距離走では男にかなわないけど、マラソンでは将来的に女子の記録が男子の記録を抜く可能性もあると言われている」
「抜きそうな気がするよ!」
 
「だけど走るとおっぱいが揺れて痛いね」
「しっかりしたスポーツブラ付けておかないと痛いよ」
 

生活面でもレオナは姉からたくさんのことを習った。
 
一緒に行動していることが多いので、
「その仕草は男っぽい」
などと注意される。
 
「エレベータに乗ったらボタンのところに行ってオペレータしてあげよう」
「道でお見合いになったら即譲る」
「物を拾う時に腰をまげて拾ったらダメ。腰を落として拾う」
「座った時は膝頭を付ける」
 
など注意されるが男だった時は考えたこともないことばかりだった。
 
休みの日には美容院に行って一緒に髪を整えてもらったり、アクセサリーや洋服のお店を探訪したりした。そんなお店入ったことも無かったので、レオナは今度は自分の脳みそが解体されて女の脳みそに作り変えられていくような気分だった。
 
お化粧も習った。最初は全然うまくできなくて自分で鏡を見て気持ち悪くなったが、毎日練習することを課されているうちに少しずつうまくなっていった。
 

男女の選手は分離されているので、その後男子の選手たちとは競技場で何度か見かけただけで、言葉を交わす機会が無かった。それがオリンピックの開かれるイパーナ国の首都トンキンに入った日、宿舎になっているホテルのロビーで偶然ミハイルに遭遇した。
 
レオナはなんと言葉を掛けていいか分からなかった。
 
ミハイルはいきなりレオナの頬を平手打ちした。
 
「見損なった」
「何?」
「代表落ちしたからと言って、男をやめて女になってまで代表に割り込むなんて」
 
ああ、世間では全部自分が悪いことにされているのか。酷い!
 
それでレオナは全ての事情をミハイルに話した。
 
「そういうことだったのか。レオンがそんな卑怯な奴だとは信じられなかったから」
「レオナになっちゃったけどね」
 
「もうチンコ無いの?」
「女だから」
「おっぱい、あるの?」
「見ての通り」
「オリンピック終わったら男に戻るの?」
「それは無理でしょ。女として一生生きて行くしかない。誰かのお嫁さんにでもなって子供を産んで」
 
「嫁さんになれるの?」
「確かめてみる?」
「確かめたい」
 

それでレオナはミハイルの泊まっている部屋に一緒に行った。選手のフロアには警備のSPが立っているが、選手が女を連れ込むのはよくあることだからか、特に咎められたりはしなかった。
 
部屋に入ると、レオナは服を全部脱いでしまった。
 
「ほんとに女になっちゃったんだ?」
「何度死のうと思ったか分からない。でもオリンピックに出ずに死ねるかと思って」
 
「レオン、オリンピックが終わったら死ぬつもりなんだ?」
 
「・・・頼む。止めないでくれ」
「なせ死にたいの?」
「こんな身体で生きて行きたくないよ」
 
「・・・レオナって呼んでいい?」
「うん。俺、女になっちゃったし」
 
「レオナ。オリンピックが終わったら結婚しないか?だから死ぬのはやめろよ」
「結婚!? ミハイルと?」
「実は俺、レオナのこと好きだった。でも男同士でこんな感情持ってはいけないと自分を抑えていた」
 
「ミハイル・・・・」
「オリンピック終わったら、指輪買ってあげるからさ」
「・・・・」
 
ミハイルはレオナを抱きしめるとキスをした。
 
そしてベッドに押し倒す。
 

レオナはされるがままにされていたものの、頭の中は混乱していた。
 
好きだったって!?俺は友達のつもりだったのに!
 
ミハイルがレオナの身体のあちこちにキスをする。
 
「おっぱい大きいね」
「なんかお腹の脂肪を取っておっぱいのところにくっつけたんだって」
「なるほど。ウェストくびれてるのは、そのせいか。でもレオナ可愛いよ」
 
可愛い!?
 
そんなこと言われたのは初めてだ。
 
それで頭に血が上ってボーっとしていたら、ミハイルのおちんちんがレオナの中に入ってきた。きゃー! 入れられちゃった!!!!
 
ミハイルがレオナにキスしたままピストン運動する。レオナは放心状態だったが、結構気持ちいいな、これと思っていた。
 
だけど俺、男とセックスしちまったよ。でもまあいいか。ミハイルなら許してもいい気がする。
 
やがてミハイルはレオナの中で逝った。脱力したミハイルの背中をレオナは愛おしむように撫でていた。
 

夜中に目が覚めてふたりで冷蔵庫に入っているイパーナ産ワインで乾杯した。ライスで作ったワインという話だったがすっきりした味わいだ。
 
「私さ、夜中に起きておちんちん触ろうとして、あ、無かったんだと思って凄く落ち込んだりするのよね」
 
レオナは姉の前でも使ったことのなかった女言葉で半ばひとりごとのように言った。
 
「確かに俺が自分の股間触ってチンコ無かったらショックだろうな。だけどレオナにチンコ無かったらさ、俺のチンコ代わりに触って遊んでもいいよ」
 
「それもいいかもねー」
と言って、レオナは少し救われたような気分になった。やはり死ぬのやめようかな。。。。
 
「ところでさ」
「ん?」
「レオナのお股触らせろよ。俺、女のお股なんて、あまりじっくりと触ったことないから」
「もう!」
 
ミハイルは明かりを付けてじっくりとそのあたりを観察して
「すげー!」
「これいつでも触っていいよね?」
などと言っている。
 
「ミハイルも女になる手術受けたら触りたい放題になるよ」
「レオナのを触るから自分のは改造しなくてもいい」
 

男子のマラソンは最終日に行われるが、女子のマラソンは初日に行われた。世界中から集まった100人くらいの選手で一斉にスタートする。激しい順位争いの中から、アフリカの選手が3人飛び出し、その後を主催国イパーナの選手が2人、ユナイテド国・ステート国・シノワ国の選手が1人ずつが追い、そこに、レオナとユリアの姉妹が追いついて、10人で先頭集団が形成された。
 
レースはアフリカの選手がかなりのハイペースで飛ばす。このまま行くと世界新記録になるかもとレオナは腕時計を見ながら思った。
 
15km地点から緩やかな坂に入る。ここでシノワ国の選手とステート国の選手が遅れた。20km地点でやっと坂は終わるが、ここでアフリカの選手の1人が唐突に棄権した。
 
ああ、ラビットだったのかとレオナは思った。前半のペースを作るためのペースメーカーとしてこのレースに参加していたのだろう。
 
30km地点までにアフリカの選手がもうひとりとユナイテド国の選手が遅れる。残るはアフリカの選手1人、イパーナの選手2人、それにユリア・レオナ姉妹の合計5人である。
 

35km地点で、イパーナの王宮が見えた。イパーナは古い国である。その国の伝説では3000年も前に卓越した王が現れて国を建てたと言われている。その古い国の伝統的な建築が美しい姿を見せている。この国の王家もその3000年前から一度も絶えずに続いているのだという。30年か40年単位で血を見る権力争いでトップが交代しているうちの国も少し見習わなければならないかもとレオナはふと思った。
 
しかしここでイパーナの選手のひとりがスパートを掛けた。アフリカの選手が必死にそれに付いていく。ユリアとレオナも声を掛け合って付いていく。結果的にもうひとりのイパーナの選手が置いてきぼりになって4人の争いになった。
 
イパーナの選手とアフリカの選手の間で激しいデッドヒートが続く。ユリアとレオナはそのふたりと少し距離を置いてその様子を見ていた。
 
「あんた、体力残ってる?」
とユリアが訊く。
「十分」
とレオナは答える。
 
「行こうか?」
「行こう」
 
それで38km地点でふたりはスパートを掛けた。見る見る内に前方のふたりを捉え、一気に抜き去る。その後は全力疾走である。そしてやがてゴールの陸上競技場が見えてくる。
 

「レオナ」
「うん?」
「ここからは私、あんたを蹴落としに掛かる」
「いちいち言わなくてもいいよ。でも金メダルは僕がもらうから」
「あんたさあ、いいかげん自分のことを《私》と言いなよ」
「金メダル取ったら言うよ。金玉取られちゃったから、金メダルで取り返す」
「ここで下ネタを言うか〜!?」
 
それでユリアは強烈なスパートを掛ける。しかしレオナも負けずにスパートする、ふたりとも物凄いスピードで競技場の中に入り、トラックを走る。2人はほとんど併走している。一瞬ユリアが前になるも、次の瞬間にはレオナが前になる。ほんとうに抜きつ抜かれつの状態でトラックを1周半回った。そしてゴールの紐が目の前に見える。
 
気力を振り絞って足を動かす。地面を蹴る。胸を突き出す。くそー。姉貴の方が自分より胸が大きいよな。どうせなら俺も巨胸に改造してもらいたかったぞと思いながらゴール。
 
オーバーランした後、膝に両手をつけて呼吸しやすい体勢にする。激しく息をしている間に3位のイパーナの選手、僅差でアフリカの選手がゴールし、更にもうひとりのイパーナの選手もゴールする。
 
3位から5位までの選手の名前が電光掲示板に表示されるが1位・2位の名前が出ない。
 
「写真判定かな?」
「みたいね。でも私が勝ったと思ったけど」
とユリア。
「負けたとしたら胸の差かな」
とレオナ。
 
かなり時間が経ってから写真判定の結果が出たようである。
 
1位ユリア・イワノヴナ、2位レオナ・イワノヴナと表示された。
 
ユリアはレオナの身体を抱きしめキスをした。
 
「キスするの?」
「祝福のキス。女の子同士だから、いいでしょ?」
「そうだねー。僕も女の子になっちゃったから」
「《私》と言いなさい」
「じゃ明日から」
 

表彰式で、いちばん高いところに立った姉が金メダルを掛けてもらい、オリーブの冠もつけてもらい、拍手の中、観客席に投げキスをする。次にレオナが銀メダルをもらうと、観客席からわざわざソビリア語で「オカマ!」という声が掛かる。でもレオナは笑顔で観客に手を振った。すると観客も大きな拍手をしてくれた。最後に3位のイパーナ人が銅メダルをもらう。ひときわ大きな拍手が送られていた。
 
テレビ局が来てインタビューを求める。優勝したユリアは嬉しそうに喜びを語っていた。
 
「2位のレオナさんとは姉妹なんですよね?」
「そうです。私の可愛い妹です」
と言ってユリアはレオナを抱きしめた。レオナは姉にこんなに愛してもらっていたのかと思い、心がほんわかする気分だった。
 
そのあと、レオナもインタビューされるが、記者はいろいろ尋ねたあとで「そういえば、レオナ・イワノヴナさんは、元は男性だったそうですが」などと言われる。それに対してレオナは笑顔でこう言った。
 
「女の身体って調子いいわよ。あなたもちょっと女になってみない?」
 
後日、このレオナの発言で、女になる男が100万人は増えたと言われたらしい。
 

その日、宿舎に戻ってから夕食をゆっくり取った後、入浴し、またマッサージをしてもらった上で寝ていたら、急にお腹のあたりが変な感じになった。レオナはホテルの内線を使って姉に電話する。
 
「お姉ちゃん、何かお腹が痛い」
「どうしたの?」
 
と言って姉は飛んできた。が、レオナの様子を見てほほえむ。
 
「これは生理だよ」
「えーーー!?」
「あんた女の子になったから生理も始まったんだね」
「これどうすればいいの?」
 
「トイレに行って拭いてから、これをショーツに付けなさい」
と言って姉は生理用ナプキンを渡してくれた。
 
「これどうやって使うの?」
 
姉はやれやれという顔をして、とりあえず一緒にトイレに行き、レオナがその付近の血をペーパーで拭いた後、ナプキンを開封して、やり方を教えながらレオナのショーツに取り付けてくれた。
 
「ある程度たまってきたら交換が必要だから」
「うん」
「薬屋さんとかに売っていると思うから、明日になったら買っておいで。今夜は私のを使うといいよ」
「ありがとう」
 
「でも生理が来たということは、これで本当にあんたも女になったんだね」
「お嫁さんにいける?」
 
「まあ元男でもいいという男性はいるかもね」
「実は僕、プロポーズされちゃったんだ」
 
「とりあえず自分のこと《僕》とか《俺》じゃなくて《私》と言えるようにならないとお嫁さんには行けないぞ」
「がんばる」
 
レオナはまだ頭の中が混乱しつつも、ミハイルと並んでウェディングドレスを着て結婚式を挙げる自分を想像していた。
 
 
目次

【栄光に向かって走れ】(1)