【福引き】(上)

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繰戸里太郎(あやべ・さとたろう)は田舎のとっても無名な大学(名前を言うと9割くらいの人が何県にあるのか?と訊く)の建築科を出て中堅の工務店に入った。いくら建築科を出ていると言っても、大手なら数年見習いなのだろうが、従業員300人ほどの会社であったことと、その年は翌年消費税が上がるということで建設業界は少し特需になっていて人手不足の雰囲気があったのもあり、入社して1ヶ月でいきなりPC/RCなどのコンクリートのビルの設計と建築の現場指揮までするハメになる。
 
設計は実際問題として自社の過去の似たようなビルの設計を参考にさせてもらい、最初はベテランの人にチェックしてもらったりしながら進めた。現場では若いと馬鹿にされやすいというので、ヒゲをはやして渋めのダブルの背広を着て指揮したので、実際問題として、30歳くらいの設計士さんかな?とみんなには思われたふしもある。
 
そんな半ば泥縄的な仕事を2年続け、里太郎は無事一級建築士の資格も取った。そして人の入れ替わりが割と激しい会社であることもあり、大学を出てから3年で係長、5年で課長の肩書きをもらった。
 
入社以来はやしているヒゲは里太郎のトレードマークとなり、○○工務店のヒゲ課長などと下請けの人たちから親しみを込めて呼ばれたりするようになっていた。
 

そして里太郎が29歳の年。
 
彼はその年の春から、接待で行ったクラブのホステス・紀恵と個人的な恋愛関係ができてしまった。ホステスなどという仕事をしているのに、ひじょうに身持ちが堅いようで、彼と紀恵は半ば恋人同然になり何度もデートをしているのに、夏になってもまだ実はセックスをしていなかった。
 
里太郎はソープなどには行かないものの、これまで水商売の女性と何度か恋愛的なものをしたことがあったが、いつも3回目のデートくらいまでにはホテルに行っていた。それで逆に紀恵には里太郎も少し本気になってきていた。
 
「私、実はまだヴァージンなんだよ。あんた何やってんの? 18-19歳でヴァージンですと言ったら、それなりに価値があるけど、28にもなってヴァージンなんて、女として魅力が無いという意味だよ、とか先輩とかから言われるけどね」
などと彼女は言っていた。
 
「君は充分魅力的だよ。じゃ、そのヴァージンを僕にちょうだいよ」
と里太郎は言ってみたが
 
「そうだなあ。その内考えてみようかなあ」
と紀恵ははぐらかした。
 

セックスをさせてくれないことから、最初里太郎も彼女は「仕事上の付き合い」
で自分とデートしてくれているだけなのだろうか?と考えてみたこともあったが、キスは何度もしたし、深夜のドライブデートで運転席と助手席で「好き」と言い合ったこともある。その時は里太郎も思わず車を脇に寄せて停めて
 
「ね、ホテルに行かない? それか後部座席でもいいよ。毛布もあるよ」
と言ってみたものの
 
「遅くまで頑張ってると明日に差し支えるよ」
などと紀恵は言い、里太郎のズボンのファスナーを開けて棒を取り出すとそれを舐めてくれた。
 
「お風呂入ってないのに・・・」
「いいんだよ。私の、さとちゃんのだもん」
などと紀恵は言った。
 
里太郎は感激して紀恵の口の中であっという間に逝ってしまった。逝った後、紀恵はそれを舌で舐めてきれいにしてくれた。
 

その年の7月初旬の月曜日。里太郎は前日仕事だったので代休を取り、久しぶりにのんびりと町を歩いていた。
 
そこでツイードのジャケットを着た30代くらいの男性に呼び止められる。
 
「あなた、今お時間ありますか?」
「何ですか?」
と里太郎は反射的に返事をした。普段ならきっと宗教かマルチ商法かなどと思いこの手のは無視するのだが、相手が割ときちんとした人のような気がしたので返事をした。
 
「私○○テレビの者ですが、視聴者参加番組の出場者を集めているんです」
などと言う。
 
里太郎はその日は特に予定が無かったので
「ああ、そのくらい出てもいいですよ」
と言った。
 
これが里太郎の人生の大転換点となるとは、彼は全く思いもよらなかった。
 

近くで40人くらいの男女が集められていた。10代から40代くらいまでバラエティに富んでいる。きっと色々な層の人を集めたいのかなという気がした。
 
やがて大型バス2台に乗せられて、テレビ局に行った。バスの中で自分たちが素人カラオケ合戦とかいう番組に出場することを知らされる。最初予選がありその中から10名が本選に出るという。里太郎は接待でたくさんカラオケも歌っていたので、歌は割と自信があった。高校時代は友人3人と一緒にバンドをしていたこともある。里太郎はベースでリードボーカルだった。里太郎の声は基本的にはバリトンなのだが、当時A2からA5まで3オクターブの声域を持っていたし、特にハイトーンは女声かと思うほど澄んだ声で、けっこう女声ボーカルの歌を(オクターブ下げずに)そのまま歌ってみせたりしていた。
 
番組は1時間半の特番で、最初の30分で予選のダイジェストを流し、後半1時間が本選ということであった。参加者は全部で60人ほどだが、里太郎が敢えて今売れっ子の女性アイドルグループのヒット曲を、そのままの音域で歌ってみせると、審査員?の人が驚くような顔でこちらを見た。
 
「あんた、予選合格。でもよくそんな高い音出るね!」
などと進行役のタレントさんから言われる。
 
「接待カラオケでこれやると、うけるんですよ」
と里太郎が普通のバリトンボイスで言うと
 
「そりゃ受けるだろうね! 声だけ聴いたら18歳くらいの可愛い女の子が歌っているかと思うのに、顔見たらこんなおっさんなんだもん」
と言われた。
 
そうそう、そのギャップが物凄いのでうけるのである。
 
「あんた、実は女装趣味があるとかは?」
「あはは、それは無いですよ。私が女装で歩いてたら警察に捕まります」
「確かにそうだ!」
 

やがて予選が終わり、10人の本選出場者が決定する。予選でその場で合格と言われたのは、里太郎と、凄く可愛い感じの16-17歳くらいの女子高生、それに50代の歌手くずれか?と思うほど歌が巧かった男性の3人で、残り7人は予選の点数上位から、点数と《おもしろみ》で選択された感じであった。
 
里太郎は1番の番号札をもらった。例の女子高生が2番、物凄く巧い人は10番だった。何となくシナリオが読める感じだ。
 
本番が始まる。
 
里太郎はトップバッターで予選とは別の女性アイドルグループの歌をまたまた可愛く歌った。点数は85点だった。里太郎の歌は声はいいのだが、音程がやや怪しいのが問題点なので、その分を引かれた感じであった。
 
しかし司会者に捕まる。
「あんた、声だけ聴いたら可愛い女子高生かって感じなのに」
「あはは、本人はこれですから」
「いっそ性転換するつもりない?」
「女にはなれるかも知れないけど、今更女子高校には入れてくれないかもね」
などとやりとりをした。
 
「でも次出てくる時は性転換して女子高生の制服着て出てきてよ」
「そんな無茶なー」
 
その後司会者は
「今の人は《なんちゃって女子高生》でしたが、次は本物の現役女子高生です」
と言って2番の人を紹介した。
 
まあ、このセリフを言いたいからこの順番だよねー。
 
この女子高生は歌も結構うまく、点数は95点だった。
 
番組は進んでいく。結構うまい人もいるが、歌は適当でパフォーマンスに徹する人もいる。もっとも、だいたいは「外している」感じだ。
 
最後、10番のとっても巧い人が歌った。里太郎も彼の歌に聴き惚れていた。凄いなあ。どうしたらこんなに巧くなれるんだろう。そんなことも考えていた。そして点数は・・・・
 
94点!?
 
里太郎はてっきりこの人を優勝させると思ったのに、2番の女子高生に1点及ばない。歌った本人もちょっと不満そうだ。しかしこれは多分番組的には50代のおっさんより、10代の女の子を優勝させた方が美味しいとみた選択なのであろう。テレビの番組はあくまでショーであり、コンテストではない。
 
優勝した女子高生が「うっそー」などと言って出てきて、優勝トロフィーを受け取る。副賞は100万円とハワイ旅行ということだった。ちょっとバブリーな感じだ。10番の人も準優勝ということで、盾と副賞30万円に温泉の宿泊券をもらっていた。
 
「この他に特別賞があります」
と司会者が言う。
 
へーと思っていたら
「1番、****を可愛く歌ってくれた変なおっさん」
とコールされた。
 
苦笑いして出て行き、記念のメダルと副賞3万円をもらった。
 
「なお、優勝・準優勝の人と特別賞の人には後でどっきり企画もありますので期待していてください」
と司会者は言った。
 
この《どっきり企画》というのが、何だろう?と里太郎は思った。
 

テレピ局を出て、バスで帰ろうと思い、局前の横断歩道まで来た時、目の前を超格好良いポルシェが通り過ぎて行く。おっと思って、それに見とれていたら、背の高い女性とぶつかってしまった。
 
「あ、ごめんなさい」
「いや、すみません」
と言葉を交わす。それで横断歩道を渡ろうとした時、足下に何かチケットのようなものが落ちていることに気付く。今の女性が落としたのかな?と思い
 
「落とし物ですよー!」
と言ってみたものの、女性は急いでいるのか、小走りに向こうへ走っていく。ボストンバッグを持っているので、旅行者だろうか?
 
里太郎は取り敢えず落としたものを確認するのにチケットらしきものを見た。商店街の福引券だ。
 
女性は走っている。自分と女性との距離を考えると、こちらはかなり全力疾走しないと彼女を捕まえることはできない感じ。そして、どうするかなと考えている内に女性は地下鉄の駅への階段に入ってしまった。これではもう見つけられないだろう。
 
里太郎は取り敢えず商店街に届けておくかと思い、すぐ近くに見えた福引所に近づいて行った。
 
「いらっしゃいませ。福引き、引かれますか?」
「あ、いや。今、そこで女の人がこれ落としたんですけどね」
「あらら」
 
「誰が落としたかなんて分かりませんよ。お客さん引かれませんか?」
「でも・・・」
「問合せがあったら、そのお客さんには別途引いてもらいますから」
 
「そうだなあ。じゃもらっちゃうか」
というので、福引のガラポンを回す。金色の玉が出た。
 
「大当たり!!1等賞!!!」
と言って係の人とが大きな鐘を鳴らす。ちょっとちょっとそんなに鳴らしたら恥ずかしい。
 
「いいんだろうか?他の人の券なのに」
「いいんじゃないですか? お客さん、運が良いですね。あ、こちらに1等賞、受け取りのサインを頂けますか」
「はい」
 
と言って里太郎は何やら書類のサインをする。
 
「それでは1等賞を差し上げますので、こちらへいらして下さい」
「はいはい」
 
ということで、背広を着た40代くらいの男性に連れられ、里太郎は商店街の裏の方に行く。駐車場があり、車へと案内される。
 
「どこか遠くですか?」
と里太郎は戸惑ったように言う。
 
「ああ。すぐ近くです。ご心配なく。日本語も通じますから」
 
日本語も通じる!? なんだそれはー!?
 
やがと車は小さな病院に到着した。里太郎は戸惑う。
 
「病院で何するんです?」
「この商品は病院でないと受け取れませんから」
と商店街の人は言う。
 
それで病院の受付でその人が事務の人と何やら話していたが、やがて
 
「302号室ですから」
と言って、里太郎は病室に連れて行かれてしまった。
 

「あのぉ・・・・ここで何を」
「もちろん性転換手術です」
「は!?」
 
「福引きの賞品は1等がフル性転換手術、2等が豊胸手術、3位が去勢手術、4位が喉仏の除去手術、5位が全身永久脱毛です。各々上の景品には下のものが内包されていますので、あなたはフル性転換手術・豊胸手術・喉仏の除去手術に永久脱毛を受けて頂きます」
 
「凄い冗談ですね」
「ちなみに、この当選の権利は他の人に譲ることはできませんので。それでは女性としての良き人生を」
 
と言って、商店街の人は帰ってしまった。里太郎は「うーん」と考えたが、ハッとさきほどのテレビ局でのやりとりを思い出す。
 
あ、これきっとドッキリ企画だ!
 
だいたい商店街の福引きで性転換手術が当たるなんて有り得ないし。
 
どこかで「ドッキリ」とかいうプラカード持った人が出てくるんじゃないかな。この病室カメラで撮されているのではなかろうか? まあ、それまで楽しむか。
 
里太郎はそう考えた。
 

60歳近くかなという感じの看護婦さんが来て、体温・脈拍をチェックする。それから検査室に連れて行かれ、血液を採られ、レントゲン、心電図まで取られた。ここまでやるとは徹底している。ほんとに何かの手術でも受けるみたい!
 
病室でのんびりと寝ていたら、やがて30代くらいの女性医師がやってくる。
 
「それでは治療内容を説明します。あなたはフル性転換手術コースで登録されています。1ヶ月入院して頂きます。明日まずは性転換手術を行い、来週豊胸手術、再来週に喉仏と肩の骨を削る手術をします」
 
へー。1ヶ月かかるのか。たしかに男の身体を女に作り換えるといったら1日では済まないだろう。オカマさんとか大変だなあ、などと他人事のように考える。
 
「1ヶ月の間、治療の妨げになるので携帯電話、スマホ、パソコンの類は禁止になりますので、連絡をしたい方があったら、夕方までに連絡を済ませておいてください」
「はいはい」
 

医師は里太郎を診察室に連れて行き、里太郎に下半身裸になってベッドに寝るように言う。それでズボンとトランクスを脱ぎ、ベッドに横たわると、ペニスとタマタマを弄られる!ひぇー。 里太郎は女性医師にそんなことをされたので、あっという間に立ってしまった。
 
「女性ホルモンとかは飲んでないのですか?」
と訊かれるが
「そんなの飲んでません」
と答える。
 
「精液出るかな? ちょっと**さん、精液が出そうだったら採取しといて」
と言われる。
 
すると「はい」と言って、20代の男性看護師が寄ってきて、里太郎のペニスを掴むとピストン運動を始めた。ぎゃー。男にこんなことされるなんて。
 
と思ったものの、物理的な刺激には弱い。あっという間に里太郎は射精した。
 
射精した精液は何やら容器で受け止められる。医師はその液を一部スポイトで取り、顕微鏡で観察していた。
 
「ふーん。精子は元気ですね。ふつうに女性を妊娠させられるくらいの精子があります」
などという。そりゃ一応健全な男子のつもりだし。
 
「その精液、念のため冷凍保存」
と女性医師が言うと
 
「はい」
と男性看護師が言って、その容器を持って出ていった。
 
そのあとパンツとズボンは穿いていいと言われるが、今度は上半身裸になるように言われる。
 
「ふーん。おっぱいは全然大きくしてないんですか」
と女性医師は言って、里太郎の乳首をつまんでいる。
 
「してませんけど」
と里太郎は答える。
 
「分かりました。けっこうです」
 
ということで診察は終わった。
 

医師は手術の内容を説明してくれる。
 
「基本的には、陰茎と陰嚢・睾丸を削除し、代わりに陰核・陰唇・膣を形成します」
「はあ」
「しばしば、ポールとボールを取ってホールを作る手術と言われますね」
「なるほどー」
 
「基本的には陰茎の皮を裏返して体内に埋め込み、膣にします」
「へー!そうだったんだ」
「するとちょうど陰茎が入るサイズの膣が出来るわけです」
「なるほど。合理的ですね」
「その時、尿道も膣の一部に転用します。すると性的に興奮した時に分泌液が出て膣が濡れてくれるので」
「ほほぉ」
「陰茎の先端、亀頭の一部を利用して陰核にします。どちらも敏感な部分ですから、陰核を弄られると気持ちよくなることができます」
 
しかし話を聞いていると何だか自分のあそこがむずかゆくなってくる気さえする。こんなドッキリ企画に乗らなかったら、こんな話は知ることもなかったろうし世の中には色々な世界があるものだと里太郎は思う。
 
「結構、男の身体と女の身体って、似たような部品があるものなんですね」
「当然です。人間の身体は元々女性型で、それを改造して男の身体は作られています。ですから性転換手術というのは実は改造されてしまった男性が本来の女性の身体に戻る手術なんですね」
「わあ」
 
医師は性転換手術の「Before/After」の写真を数枚見せてくれた。
 
「これが・・・こうなっちゃうんですか?」
「そうですね」
「なんか普通の女性の形だ」
「もちろん、そういう形にしますから」
 
「ふつうの女と区別つかないですね」
「ふつうに女性の中に埋没している人は多いですよ」
「へー」
 
里太郎は一瞬、自分が本当に手術されてこんな形になってしまった場合のことを想像してみた。
 
これ、オナニーはできないよな?などと変なことを考えた上で、おしっこはどうやってするんだろ? などとふと里太郎は思ったが、そんなことを女性の医師に訊くのはちょっとためらわれた。
 
「あ、そうそう。性転換して女性になった後のお名前はどうしますか?」
 
ああ。さすがに女で里太郎は無いよね。
 
「じゃ、里子(さとこ)で」
「了解です」
と言って女性医師はその名前をカルテに書き込んでいた。
 

病室に戻った後、1ヶ月、携帯も使えないという話だったなと思い、念のため必要な所に連絡しておく。
 
まずは会社に掛けた。部長につないでもらう。
 
「部長、済みません。急になのですが、入院したので1ヶ月休ませて下さい」
「何やったの?交通事故?」
 
里太郎は入社以来、一度も病気などで休んだことがない。それで事故か何かと思われたようである。
 
「いや、それが手術を受けることになって」
「何の手術?」
「性転換手術なんですけどね」
 
「性転換? じゃ君、女だったんだっけ? それで男になるの?」
「えっと今私男ですけど」
「じゃ、女になるの?」
「はい」
 
どうせ明日くらいにはドッキリのプラカード持った人が出てきて撮影終了になるだろうけど、このやりとりもきっと記録されているだろうから、どうせなら真剣にやった方がテレビを見る人も面白いだろうなどと里太郎は変なサービス精神を起こしていた。
 
「それは好都合だよ」
「はい?」
 
「いや、実は男女共同参画社会とか言われてさ、特に日本は女性の社会進出が遅れていると外国からさんざん非難されて、それで上場会社は管理職の数の中で女性を3割以上、従業員300人以上の会社は2割以上にしなければならないという法律がどうも通ってしまいそうなんだよね。だけど今うち女性の管理職は30人管理職がいる中で2人しかいないから」
 
その2人の内のひとりは社長の奥さんの妹である。もう1人は・・・・女性に分類してもいいんだっけ?と悩みたくなるような猛者だ。短髪で日焼けしているし声も低いので女性だということに気付かない人も多いし、女子トイレや女湯で悲鳴をあげられたという伝説もある。
 
「それであと4人増やさなきゃというので候補者を選定していたんだけど、なかなか管理職を任せられそうな人がいなくて」
 
元々建設会社は男社会である。女性社員そのものが少ないし、新卒で入ってきてもほとんどが1〜2年で辞めてしまう。
 
「繰戸君が女性になってくれたら、女性課長が1人誕生することになるからさ。しかも男性管理職が1人減るから、比率の面でも助かる。とっても好都合。性転換してもうちの会社を辞めないよね? オカマバーとかに転職したりしないよね?」
 
「オカマバーには行かないと思いますが」
「じゃ、よろしくー。いや助かった。性転換手術って大変だよね?3ヶ月くらい休職にしてあげようか?その間、給料は保険から3分の2支給されるから」
「はあ。じゃ3ヶ月休職ということで」
「了解了解」
 
そんな感じで電話を切ったが、明日ふつうに会社に出て行ってから部長慌てるかな、などとも思ったりする。
 

次に妹の有華にも電話する。
 
「ちょっと1ヶ月ほど入院するから」
「入院って、刑務所のこと?」
「なんで俺が刑務所に行かなきゃならないんだ?」
「贈収賄か談合で挙げられたのかと」
「捕まるようなことはしてないよ」
 
「で何の病気?それとも怪我?」
「あ、いや、それが性転換手術受けることになっちゃってさー」
「へー。じゃ、お兄ちゃん、女になるの?」
「そうだけど」
 
こんなこと言っておいて明日ドッキリだよー、と言ったらどういう反応されるかな、などと思っちゃう。
 
「じゃさ、私大学行きたいから、学費出してよ」
「なんでそうなるの?」
 
「だってさ。お兄ちゃんが大学に行ったから私も大学に行きたいと言ったのに、お父ちゃん、女が大学なんか行ってどうする?と言って行かせてくれなかったからさ。お兄ちゃんが女になってしまうんだったら、お兄ちゃんが私の学資出してよ」
 
「お前、26にもなって大学の受験勉強できるの?」
「頑張るよ」
「ふーん。じゃその学費は考えとくよ」
「よし。でもさ」
「うん?」
 
「お兄ちゃんが女になっちゃった場合、私は長女から次女に変更になるの?それとも私は長女のままで、お兄ちゃんが次女?」
 
「う・・・それはどうなるんだろうね? よく分からないなあ。今度市役所で訊いてみるよ」
「うん。それじゃお大事にねー」
 
ということで、何だか日常会話のようにして電話を切った。有華もこれはきっと冗談と思ってくれたかな? でも学費の件は考えてあげていいと里太郎は思った。
 

紀恵にも電話しようかと思ったが、紀恵に自分が性転換するなんて言ったら、さすがにショックを与えそうだ。冗談では済まない気がしたので電話はしないことにした。どうせ明日くらいまでのドッキリだろうし。
 
そう思い、里太郎は看護婦さんが持って来てくれた女性向けのファッション雑誌などを読みながらその日の午後を過ごした。明日は手術というので水も食べ物も取ってはいけないということで、代わりに点滴をされた。更に浣腸までされて、腸内のものを全部出してしまう。浣腸なんてされたのは子供の頃以来だったので凄く変な感じだった。
 
しかし女性向けファッション雑誌って、どこを読んだらいいのやら、さっぱり分からない。何やらたくさん写真が載っているが、書いてある値段を見ると、Tシャツが3万円とかスカートが7万円とか、こんなのいったいどういう人が買うんだ!?と思ってしまった。モデルさんのメイクも何だかよく分からない。全然美しいと思えなかった。女性の感覚ではこれが美しいのだろうか???
 
21時消灯ということで、その直前に一度、昼間診察してくれた女性医師が病室に来てくれた。
 
「明日はいよいよ女の子になれますよ。ドキドキしてませんか?」
と医師は笑顔で言う。
 
「ドッキリ、ドッキリしてるかな」
と言ったら
 
「面白い形容をしますね」
と言って笑われた。
 
「これは睡眠薬です。手術前は興奮して眠れない人も多いので」
と言って薬を渡してくれる。
 
必要無い気もしたが、渡されたし、だいたいいつもは12時すぎに寝ているのでこんな早い時間には眠られない気もしたので、もらって飲んだ。
 
飲んでしばらくして妙にオナニーしたくなってしまったので、ティッシュを2枚ほど取って、一発抜いた。昼間診察の時に男性看護師に射精させられていたので少し時間が掛かったが気持ち良く昇天できた。液はあまり出なかった気もするが半日ではこんなものだろう。それを拭いてゴミ箱に捨てた所で記憶が途切れている。
 

激しい痛みの中で目が覚めた。
 
何?これ?
 
痛い。とにかく痛い。それで枕元のナースコールのボタンを押した。
 
「はい、どうされましたか?」
と看護婦さんの声。
 
「痛いんですが」
「あ、意識回復なさったんですね。今先生をお呼びします」
 
それで少し待つと昨日診察してくれた女性医師が来た、というかやっとそのくらいになって、部屋が明るいこと、翌日になっていることを意識した。
 
「ちょっと診ますね」
と言って女性医師は里太郎のお股の付近の包帯を外している。
 
包帯!?
そういえば自分は何て格好をしているんだ?
 
両足を釣られて、カエルみたいに両足を広げている。
 
「患部は落ち着いています。変な出血などもしていなくて順調ですよ。ガーゼ交換しておきますね」
 
「患部というと?」
「ああ、性転換手術をした患部です」
 
「手術を・・・した!?」
「ええ。手術は昨夜0時過ぎから始まり、2時間ほどで終了しました」
 
えーーー!?と里太郎は驚くし混乱する。
 
「あのぉ、ほんとに性転換手術しちゃったんですか?」
「しましたよ。あなた、そのためにこの病院に来たんでしょ?」
 
うっそー!! これドッキリ企画じゃなかったの? マジで俺、女になっちゃったの? いやだーーー!!!!
 
「手術って今日かと思ってました」
「ですから今日の日付になってから始めました」
 
そんなー。まるで騙し討ちじゃん!
 
「患者さんが恐怖心を感じなくて済むように、寝ている内に手術室に運び込んで手術するのがうちの病院の方針です」
 
そ、それは本当に女になりたい人なら、それでもいいかも知れないが、俺、女になっちゃって、これからどうすればいいんだ!?
 
「取り敢えず本当に痛いんですけど」
「痛み止めを打ちますね」
 
と言って医師は注射をしてくれたが、それでも痛い!
 
「少し寝た方がいいですよ」
と言われ、睡眠薬も飲まされたが、なかなか眠れない。里太郎は激しい痛みと戦っていた。このまま自分は死ぬんじゃないかと何度も思った。
 

目が覚めた時、はじめ里太郎は、全く酷い夢を見たものだと思った。
 
ドッキリ企画と思ったものが、本当に性転換手術されてしまうなんてねー。しかし本当に女になっちゃったら、いっそアイドル歌手にでもなってみるかね、なんて考えちゃう。
 
それで今朝の息子君のご機嫌はどうかな?と思い、自分の股間に手をやる。
 
何これ?
 
凄い包帯で巻かれている。
 
ちょっと待て。
 
まさか性転換手術されちゃったのって、夢じゃなくて現実だったりして!?
 
それで周囲を見回してみる。
 
自宅ではない。それでどうも病院のようだということに気付く。壁にネームプレートが貼ってある。《繰戸里子様》と書かれている。
 
う・・・・。これって・・・・。
 
そこに見覚えのある女性医師がやってくる。この人が存在するということは、やはり手術されたのって、夢じゃなかったの? 嫌だよぉ、女になんかなりたくないよう。里太郎は涙が出てきた。
 
「痛みはないですか?」
「痛くないです」
「あまり痛がっておられたので、ひじょうに強い薬を処方しました。2〜3日もすればかなり痛みは取れると思うのですが。それに、朝は精神的に錯乱なさっておられたようでしたので」
 
「錯乱ですか?」
「ええ。女になりたくなかった。男に戻してくれとか、叫んでましたよ」
「ははは」
 
それ、そうして欲しいんですけど。
 
「時々おられるんですよ。あまりの痛みに手術を受けたことを後悔なさる方も。でも落ち着いたら、みんな女になれた喜びを実感して精神的には前より安定しますよ」
 
「そうなんですか?」
「明日までは点滴のみです。明後日からお粥になりますので」
「はい、よろしくお願いします」
 
俺は何言ってるんだ? 女にされてしまっていいのか?>自分。
 

強い薬(後から考えると多分麻薬)のお陰で、痛みは無かったものの、その副作用もあるのか、何だかぼーっとした状態で里太郎は2日間過ごした。それはかえって、あれこれ自分のことについて考えなくて済んで良かった気もする。
 
医師が言ったように3日目からお粥、というか最初は重湯のような感じのものを食べたが、点滴はずっと続いていた。そして3日目くらいから、女になってしまった以上、もうジタバタしても始まらない。今後どうやって女として生きていくのかを考えた方がいい、という方向に思考は行った。
 
女になったら、やはりスカート穿くのかなあ。俺、スカート似合うかな?中学生時代に一度女装させられたことあったけど、凄く変だった。変態にしか見えなかった。女になってしまっても変態にしか見えなかったらどうしよう?
 
温泉で、女湯に入ろうとして悲鳴あげられて通報されて警察に捕まって。でも、チンコが無いことを確認してもらったら、解放されるかな?
 
と考えてから「チンコが無い」ということを再度認識してしまう。
 
涙が出てきた。
 
そうだ。俺のチンコはもう無いんだ。
 
えーん。俺、チンコ好きだったのに。
 
オカマの人たちはチンコが大嫌いなんだろうな。だから取っちゃうのかな?
 
そもそもチンコ無い場合、どうやっておしっこするんだろう? 俺できるかな?
 
3日目まではカテーテルを入れられて導尿されていたのだが、4日目にカテーテルを外され、トイレでおしっこしてきてくださいと言われた。
 
取り敢えず立ったままはできそうにないので便器に座ってみる。
 
うーん。。。。。
 
チンコが付いていた頃もどうやっておしっこするかなんて考えてみたこともなかった。いざそれが付いてないとなると・・・・さっぱり分からん!
 
おしっこするつもりだったのに、後ろの穴から別のものが出てきてしまう。どうすれば、前の穴(穴だよなあ・・・)から、おしっこが出てくる?
 
里太郎は5分くらいあれこれやっていたが、やがてちょろちょろと出てきた。
 
やった!!
 
それで安心したら、大量に飛び散った。ぎゃー!!
 
それで全部着替える羽目になる。
 
「最初なかなかうまくできない人もいるんですよね。指でおしっこの出てくる付近を押さえてコントロールしてみてください」
と主治医から言われた。
 
うむむ。女の身体もなかなか大変そうだ。
 

一週間後、今度は豊胸手術をすると言われた。
 
本来ならそんなのされたくない所だが、女になってしまった以上、おっぱいも無いと困るよなと思い直す。
 
「使用する素材はヨーロッパ社のコーヒー渋シリコン(と聞いた気がしたが、あとで紀恵から《ユーロシリコン社のコヒーシブシリコンでは?》と訂正された)を使用します。大胸筋下に脇から挿入しますので、傷跡は目立ちにくいです。とても丈夫な素材で、これを入れた女性兵士が戦闘で敵兵から撃たれたものの弾丸がシリコンの中で止まり無事だったという例もあります」
 
それは凄いなと思った。戦乱地域の支店に派遣されたら心強いかも? うちの会社は支店は国内にしか支店が無いが、数年前にニューヨークのビル建設に社員を派遣したことがある。確かニューヨークでの銃撃死亡率って、戦場並みと聞いた気がするし。
 
「部分麻酔で自分でバストサイズを確認してもらいながら手術する方法と予め希望サイズを言ってもらって、全身麻酔でそのサイズで手術する方法があるのですが、どっちにしますか?」
 
「痛くないんですか?」
「痛いですね。部分麻酔を選択した方はだいたい痛い痛いと言いながら、結局サイズはどうでもいい感じになってしまう方が多いです」
「だったら最初から全身麻酔でお願いします」
 
「サイズはどうします?」
「そうですね。折角女になっちゃったし、どうせならGカップで」
「Gカップの胸の重さは1kgあります。両方で2kg。大型ペットボトル1本の重さをいきなり胸に掛けると、筋肉がそれを支えきれませんよ」
 
「はあ」
「大きくしたいのなら取りあえずCカップくらいにしませんか?Cカップなら片方250g、両方で500gですから小型のペットボトルサイズ」
 
この先生、ペットボトルが好きなんだろうか。
 
「Gカップにしたいのでしたら、いったんCカップにして少し胸の筋肉を鍛えてから再手術した方がよいですよ」
「なるほどですね。じゃCカップでいいです」
 

そういう訳で全身麻酔で手術してもらったが、これがまた無茶苦茶痛かった。
 
「先生痛いです」
「そうですね。たいていの方が、性転換手術より豊胸手術の方が痛かったとおっしゃいますね」
「そんなの早く言ってください」
「でもどっちみち、どちらも受けるつもりだったんでしょう?」
「そうですねぇ」
 
性転換手術も豊胸手術も受けるつもりなんて無かったんだけどね。
 

豊胸手術のあと、また3日くらい苦しんだが、それが落ち着いた所で脱毛の施術をすると言われた。いったん足、腹、脇毛、それに自分のシンボルだった顔のヒゲも剃られた上で、レーザー脱毛の機械を当てられて脱毛されていくが、これが結構痛い。
 
しかし、それよりお股や胸の手術の跡のほうが痛いので、むしろ他の部位の痛みはそれらの痛みを一時的に紛らすような効果もあり悪くない気がした。
 
豊胸手術の一週間後、今度は肩の骨と、喉仏を削る手術を受けた。またまた身体の中で痛い箇所が増えた!! 更にしばらくはあまり声を出すなと言われた。もっとも携帯は取り上げられているから話す相手もいないけど。
 
そしてその手術の後10日ほど入院生活を送った上で里太郎は退院した。退院前に何かの書類に署名してと言われて名前を書いた。『審判申立書』とか印刷されていた。何だろうと思いながらも記名したが、病院の方で出しておくので1ヶ月くらいで連絡があると言われた。
 

アパートに戻ってから、しばらくボーっとしていた。
 
あらためてパンツを脱いであの付近を眺めてみる。
 
そこには長年慣れ親しんできた、チンコとタマタマは無い。代わりに女みたいな縦の割れ目がある。中を開くと上の方にちょっとコリコリした感じのものがあり、その向こうにおしっこの出てくる穴、そしてその奥にはまるで女のようなヴァギナがあり、指を入れてみるとかなり深くまで入る。
 
いや、女みたいなというか、これって女の身体そのものだし。
 
まだ手術の跡傷が生々しい。陰裂の両脇に針で縫った跡が縦にできている。なんで傷跡の線が2本あるんだっけ?と考えてみるが良く分からない。しかし数ヶ月で目立たなくなりますよと言われた。そもそもこの付近は陰毛が生えるからよけい目立ちにくくなるだろう。
 
。。。。。
 
泣けてきた。
 
なんで性転換するハメになったんだろう?と考えてみたが、どうにもよく分からない気がした。
 
ほんとに俺、女として生きていけるんだろうか??
 

1時間ほど泣いていたが、腹も減る。何か食べ物でも買ってくるかと思い着替えることにする。
 
病院で着替え用に使っていたパンツに履き替えるが、前穴の空いてないパンツを見て、また悲しくなった。ここに穴が空いてたって、そこに通すべき棒が無くなってしまったんだから不要である。棒が付いてない人は穴の空いてないパンツを穿くことになる。
 
以前なら女のパンツなんか触ったら、それだけで性的に興奮していたが、今は興奮したとしても立つようなものが無い。それとも俺、性的に興奮したら立つんじゃなくて濡れるんだっけ? そういえば濡れるようになると言われた気がするけど。しかし今はこんな女みたいなパンツを見ているだけで悲しくなる。
 
いや、女みたいなパンツって、これ女用のパンツだよな。この後、一生自分はこういうパンツを穿かなければならない。もうパンツの前開きからチンコ出して立ちションベンするなんてこともできなくなってしまった。おしっこは座ってしなければならないし。
 
そのまま考えていたら、とめどもなく落ち込みそうなので、首を振って少し気を取り直し、駐車場に行って自分の愛車ランドクルーザーの運転席に座る。1ヶ月ぶりのシートだ。ちょっと気が引き締まる。こういうSUVって男の車だよなあ。でも女になっちゃったし。俺、次車を買う時は、アルトとかタントとか選びたくなるのかなあ。。。
 
取りあえずランクルを運転して郊外のショッピングセンターに行った。冷凍食品やらカップ麺、レトルトカレーなどを大量に買う。このくらいあったら、しばらく外に出なくても何とか飢え死にしなくて済むかな?
 
いったん食料品を車に積んだ上で、里太郎は店舗に戻ると、恐る恐る、2階の衣料品コーナーに行ってみた。
 
1ヶ月の入院生活の間に結構髪が伸びている。それを退院前に美容師さんが病院に来てくれて、女性のショートヘアっぽくまとめてくれた。それで店内の鏡に自分を映してみると、女に見えないこともないよな、という気がする。
 
よし!
 

それで女性用の衣服を売っているコーナーに行った。
 
近づいて行く。
 
でも商品に触る勇気が無い。まるでたまたまそこに迷い込んだかのような顔をして通り抜けてしまった。
 
売場から離れてからちょっと溜息を付く。
 
しっかりしろ>自分。
 
痴漢とかじゃないぞ。自分は女なんだから、女の服を買いたい。だから売場を見に行くんだ。
 
そう言い聞かせて売り場に近づいていくものの、やはりしっかりと商品を見る勇気が無い。そのまま通り抜けて離れてしまう。
 
里子はまた溜息を付いた。
 

結局5回くらいタッチと&ゴーをした上で、やっと売場の端の方にあるTシャツコーナーに何とか《ランディング》することができた。
 
ぜいぜい。心が大きく息をしている感じ。たかが女物の服を選ぶだけでこんなに勇気がいるとは!!
 
でも買わなきゃ着る服が無い! 頑張るぞ!
 
というので取りあえずTシャツを見ていたが・・・・サイズが分からん!!!
 
困っていたら、店員さんが寄ってきた。
 
「何かお探しですか?」
「あ、いや。自分の服のサイズが分からなくて」
 
「お計りしますね」
と言ってポケットからメジャーを出して測ってくれる。
 
「上はLでよろしいようですね」
「はあ」
「ウェストが・・・・75cmですから、ボトムはXLか3Lサイズになりますね」
「なるほど、ありがとうございます」
 
「あのぉ、ブラジャーサイズとかも測りましょうか?」
「あ、お願いします!」
 
それで今度は胸にメジャーを当てられる。
 
「お客様、アンダーが88、トップが103ありますから、C85では少しきついですね。C90かD85ですが、C90という製品はあまり品揃えが無いのでD85を選ばれると良いかと思います」
「へー。Dですか?」
「カップが大きい分、豊かな胸囲を吸収してくれますので」
「なるほどですね」
 
それで結局、Tシャツ5枚、スカート3枚、ショーツ10枚、ブラジャー5枚を買った。会社に出て行く時の服も買わなきゃいけないけど、それはまだ後でいい。どうせ会社に行くのは2ヶ月後だ。
 
でも・・・俺、ほんとに女の格好で会社勤めできるんだろうか?
 
ちょっと不安になるが今は考えないことにする。里太郎は割と起きてしまったことはくよくよせず、その先の対策を考えるタイプである。だから会社でも里太郎はトラブルに強いと評価されていた。他のプロジェクトで起きたトラブルの解決に駆り出されることもよくある。しかし、性転換されちゃうなんて、今までで最大のトラブルだ!
 

買った洋服をいったん車に置いて、更に里太郎は買うものがあった。ドラッグストアに行く。あの付近を消毒する必要があるので、消毒用のアルコール綿を買う。それから・・・ナプキンを買う。ヴァギナの中の傷が癒えてないので、そのせいか、けっこうな下り物がある。今は一応病院で渡されたナプキンをしているが、自分で買ってストックしておく必要がある。やれやれ、こんなものを買うはめになるとは思いも寄らなかった。
 
しかし・・・ナプキンって何だか色々ある! どれがいいのかさっぱり分からない。昼用・夜用・多い日用・・・。うーん。どれだ? 夜用くらいにしておくかなあ。長時間換えなくてもいいということだよね?
 
羽付き・羽無しというのはさっぱり分からない! でも面白そうだから羽付きのを買った。
 
ナプキンの近くに避妊具が置いてあるのに気付く。そうかこれ近くにあったのか。もう避妊具を使うことはできなくなっちゃったなあ。チンコが無いから装着のしようもない。
 
と思った時、里太郎は紀恵のことを思い出した。彼女に何て言えばいいんだろう・・・。
 

最後に本屋に寄って、女性向けの漫画雑誌を数冊買った。
 
この手の雑誌を買ったことは無かったけど、俺、女だからこういうの読んでみるのもいいよね?
 
それで自宅に戻り、取りあえずUFO焼きそばを作って食べながら雑誌を読んでいたら、何となく気分が晴れる気もする。
 
しかし・・・
 
女性向けの漫画雑誌って、こんなにHだったの!?
 
嘘みたい。これって、女子高生とかも読む・・・よね?いいのか?ほとんど成人漫画じゃん!
 
安易にセックスするし!
 
 
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【福引き】(上)