【未来異聞/分離手術】(1)

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200x年、インドの科学者が男性の外性器を肉体から分離し、必要なときに装着して使用できるという画期的な手術を開発した。インドではガンジー首相時代に強引な不妊手術奨励政策をやったおかげで一時期人口増加が押さえられていたが、ガンジー首相暗殺後、また人口の増え方が問題になっていた。
 
不妊手術の場合は一度手術をしてしまえば二度と子供が作れなくなってしまうが、今回の性器分離手術の場合は、使いたい時に装着すればいいので、普段は分離した性器を妻が管理しておくことで、いつでも子供が作りたくなったら作れるし、一方で無計画な子供の誕生は防止できるという効果があった。
 
この性器分離手術は翌年には欧米や日本にも導入されたが、欧米でも日本でもインドとは少し違った展開を見せた。最初、この手術を受けることになったのは浮気がバレて妻の怒りを勝った中年の男たちであった。彼らは性器を分離して妻に預けることで、文字通り絶対に浮気のできない体になったのである。
 
そしてすぐにフランスの医師がこの手術の内容を改良し、分離性器でも以前と同様の快感を得ることができるようにした。インドで生まれた最初のバージョンでは、やはり快感まで元のままという訳にはいかなかったのである。更にはアメリカの医師が更に改良。前立腺につながる小さなファイバーを埋め込むことにより、性器を分離している状態でも前立腺刺激による快感が得られるようにした。つまり性器を装着していない状態でも自慰ができるようにしたのである。この新しい形式の手術を受けた人の中には、分離する前よりもっと快感が大きくなったという人も多かった。
 
すると、今度は一部の企業が男子社員にこの手術を奨励し始めた。多くの企業が近年セクハラ問題で悩んでいた。しかし分離手術をしている人は男性ホルモンの分泌が少ないため、性欲が小さく、セクハラ防止の効果があるという説が唱えられたことによる。実際、ホルモンの問題で、頭髪が薄くなるのを防ぐ目的で分離手術を受ける人もあったのである。更にいくつかの企業では社員応募の条件として分離手術済みであることをあげるようになった。
 
なお、分離されていても睾丸はちゃんと精子と男性ホルモンを生産していて、装着した時に体内に供給される。しかし装着の間隔があけば、その間にたまりすぎたホルモンや精子は破棄されるため、装着間隔のコントロールで自分の中の男性ホルモン量をコントロールできるのである。
 
 
村田淳が大学を卒業しようとしていたのは、そういう時代であった。彼が就職を予定していた企業は分離手術を半ば義務付けていた。あそこにメスを入れられ切り取られてしまうというのは、何だか怖い気がしたが、恋人の中川晶子が「万一なにかあってもちゃんと結婚してあげる」と励ましてくれたので、勇気をふりしぼって、手術を受けた。
 
切り取られた性器は文庫本サイズの特殊な保存容器に入れられる。容器には電池が入っていて、中で組織維持システムが稼動している。電池は10年は持つし分離手術をした人は念のため3年に1度はチェックしてもらうことになっているので安心である。淳はこの容器を晶子に渡した。「そもそもぼくの体は全てアキちゃんものだからね」
 
「じゃあ大事に保管しておくね」晶子はそれをドレッサーの引出しにしまった。彼女が通帳など大事なものをいつも入れておく場所である。「で、手術をして何か変わったことある?」
 
「まずトイレだね。少し慣れてきたけど」
 
性器を分離している状態では当然立ってトイレができない(装着すれば普通通りにできる)。当時日本の成人男性の約1割が分離手術をしていると言われていた。そして5年後には3割に到達することが予想されていた。そのため最近男子トイレのボックスはやたらと混み始めていた。国会では超党派で、いっそのこと公衆トイレは男女一緒にして、小便器は廃止し、全て個室化したほうがいいのではないかという旨の法案が提出されようとしていた。
 
(まだ核心に入っていないので、たぶん to be continued)
 

 
晶子は大事な「それ」を引き出しから取り出してセカンドバッグに入れた。その他、淳から借りていた本を返したいと思ったので、それは別途トートに入れて出かけた。
 
淳の家まで電車で約15分ほどである。いつもは淳に車で迎えに来てもらうのだが、今日は昨日淳が会社の宴会に出ていて、まだ二日酔いが完全に醒めていないということだったので、電車を使っていた。
 
しかし実は晶子も昨日遅くまで残業していたので、ちょっと眠い。
 
『今日は二人とも疲れてるし、なにもしないでひたすら寝るのもいいかな』
 
そんなことを考えていた。
 
電車に乗っている時間は15分なので、すぐと思っていたのだが暖かい暖房の入った車内のせいで、ちょっと疲れが吹き出してきた。晶子はついウトウトとしてしまった。そして「ハッ」と思ったのは腕に何かの力を感じた時である。
 
その男は晶子のセカンドバッグを強引に奪い取り、そしてちょうど開いていた列車のドアから降りてしまった。
 
「え?」
 
晶子がそう思った時、ドアは閉まり、電車は発車してしまった。
 
「そのバッグには淳の!」
 
あわてて駆け寄るが、ひったくり犯は走り出した電車の外。どうにもならない。
 
晶子は呆然と去りゆくホームを見つめていた。
 

 
晶子は次の駅に着くと「とても大事なものを取られた」ということで、そのセカンドバッグの特徴を書き、手配を頼んだ。
 
しかし見つかる確率はかなり低い。
 
どうしたらいいだろうか。困ったが、取り敢えず淳の家へ向かった。
 
呼び鈴を押すとドアが開いた。
 
「お早う」
 
淳が微笑んでいる。
 
「お早う」
 
中に入ってから晶子はなんと説明しようと迷った。
 
「あのね、あの、その例の大事なものなんだけど」
 
「うん」
 
「実は」
 
「え?」
 
「ごめん。忘れて来ちゃった」
 
やはり、ひったくられたとは、とても言えなかった。
 
「そんな、じゃ今日はできないの?」
 
淳はほんとに残念そうな顔をしている。よっぽどしたかったのかな。
 
「ごめん。でもその代わり、たっぷりサービスしてあげるから」
 
ここは何とかごまかすしかない。晶子はその場で淳に抱きつき、熱いキスをして、服を脱がせ始めた。
 
そして、そこを露出させると舌でなめてあげる。
 
淳が「あ」と声を出す。大丈夫感じているようだ。
 
『ここに割れ目があれば女の子と同じね』晶子はしてあげながら、ふとそんなことを思った。
 
そして思わず次のセリフを言っていた。
 

 
「ね、女装してみない?」
 
晶子は自分でも思いがけないことを言っていた。
 
「は?」
 
淳はきょとんとしている。
 
「だってさ、付いてない状態って女の子と同じじゃん。女の子の服が着れると思うな」
 
「それは晶子が忘れてくるからだろう」
 
淳は明らかに怒っている。晶子は焦ると、更に口が動いていた。
 
「だから、この機会に男女逆の役でやってみるのも面白いと思うんだ。淳が私の服を着て、私が淳の服を着て」
 
「えー?でも、俺、そんな趣味ないよ」
 
淳は戸惑っている。もう一押しだ。
 
「あったら、私もやだよ。そういう趣味がないからこそ、楽しめるんじゃない。ね、やってみようよ」
 
その言葉で、淳もちょっとならやってみてもいいかな、という気になったようである。晶子は淳の気が変わらない内に自分が着てきた下着を淳に付け始めた。
 
ショーツを履かせ、ブラジャーを付けてあげる。後ろは届かない。仕方ないから輪ゴムで留めた。
 
淳の心臓がどきどきしているのが分かった。明らかに興奮している。ちんちんが付いていたら、間違いなく立っているところだろう。その逆にもどかしげな様子が分かったので首筋をなめてあげてから、次はスカートを履かせた。
 

 
「うん、可愛いよ」
 
晶子はほんとにそう思った。淳は意外と女顔である。晶子はまじで乗ってきた。
 
「じゃ、お化粧しちゃおう」
 
「うそー」
 
といいながら、淳はそんなに嫌がっていない。晶子は淳を椅子に触らせてしっかりファンデーションから順にお化粧をしてあげ始めた。
 
数分後、晶子の前に可愛い女の子が座っていた。
 
「すごく可愛くなっちゃった」
 
「ほんと?」
 
淳はけっこう気に入っているようである。晶子はコンパクトの鏡で淳に様子を見せてやった。
 
「大きな鏡は。。。なかったんだよね、ここ」
 
「うん」
 
「困ったな。せっかく可愛くなったのに。そうだ、ちょっとだけ外に
出ようよ。近くのビルのウィンドウに映してみよう」
 
「えー?外に出るなんて」
 
「大丈夫、大丈夫。すごく可愛いから、男だと思う人いないから」
 
晶子は淳が着ていた服を「借りるね」といって身につけると、簡単に
お化粧を直して、淳の手を引き、玄関へと連れて行った。
 
いざ出ようとすると、また淳が抵抗する。
 
「やっぱ、まずいよ。これ」
 
「平気だって。さぁ行こう、行こう」
 
晶子は強引に淳を外に連れだした。
 

 
外に出た淳は極端に意気地が無い。恥ずかしがって常時うつむき加減。人とすれちがうとあわてて反対側を向いたりする。晶子はその淳の腕をぐいぐい引いて歩いた。なんかとても楽しい気分になってきた。
 
調子に乗って近くのマクドナルドに連れ込む。店の前で抵抗したが、強引に引き込んだ。女の子の格好をしていると淳はいつもの腕力がないみたいだ。
 
「男の子でしょ、ちゃんとしなよ」
「だって、今男の子じゃなくなってんだけど」
「あっそうか。でも女の子としても不完全だよね。胸無いし」
 
晶子はなんか気が大きくなってしまってダブルバーガーにぱくついている。淳のほうは胸がいっぱいのようで、普通のハンバーガーを半分で残してしまった。
 
「そうだ。決めた。きちんと女の子できるようになるまでアレは
無しにしよう。あたしがずっと預かってるわ」
「えー?そんなぁ」
「だから次のデートからはもっと女の子らしくするの、練習しよ?」
「なんで、そんなの練習しないといけないわけ?」
「だって、淳可愛いもん。女の子の服をきちんときこなして自分で
お化粧できるようになって、ごく普通に女の子っぽくふるまえるよう
になったら、また男女モードでデートしてあげる。それまでは女の子
同士のお出かけしよう」
「うーん」
 
淳はまんざらでもないような顔をしている。けっこう脈があるのかも
知れない。
 
「じゃ、その服は淳来週までずっと持ってていいから。毎日着てると
早く慣れるよ。来週はまた何着か持ってきてあげるし」
 
晶子は淳を自宅まで送っていくとそう言って帰って行った。淳は大きくためいきを付くとしばらく寝転がっていたが、ふと部屋の鏡に自分の姿を映してみた。小さいのでよく分からない。大きな鏡買って来ようかな。
 
今日は不完全燃焼ぎみなので頭の中がシフトしている。「チンチン無いし。困ったな」未練がましくパンツを脱いで指でそこを触ってみる。
その時、突然そのことに思い至った。
 
「あいつ、クレンジング置いてってない!どうしよう、これ?」
 

 
翌週、晶子が淳の部屋を訪ねると、雰囲気がガラリと変わっているのに驚いた。
 
「どうしたの?」
 
「うん、ちょっと気分を変えてみようかと思って」
 
そういう淳はちゃんとスカートを履いている。
 
「困ったんだよ。先週クレンジングも除光液も無かったから」
 
「ああ、忘れてた。どうしたの?」
 
「しょうがないから、コンビニで買ってきた」
 
「ふーん、コンビニに置いてあること知ってたんだ」
 
「だって、晶子がいつだったか買ってたじゃん」
 
そういえばそうかも知れない。
 
「それでついでに他にもいろいろお化粧品買ったのね」
 
「うん、よく分からなかったけど適当に」
 
淳は「いちおう」お化粧をしている。稚拙すぎて、とてもこのまま
外には連れ出せないが。
 
しかし、やはり派手なピンクのカーテンとか、変なフランス人形は
自分でも落ち着かない。
 
「このカーテン変だよ。お化粧直してあげるからさ、一緒に買いに行こう」
 
「えー、これ5000円もしたんだよ」
 
「だって変だもん」
 
晶子はまずクレンジングを取り出した。
 
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