【ブルーアーマーよ永久(とわ)に】(1)

目次
 
僕はエイコと幼なじみだった。元々家が隣同士で顔はよく知っていたものの、男の子と女の子が一緒に遊ぶことはあまり無いので、そんなに親しかった訳ではなかった。それがある時、幼稚園にも入る前だと思うが、僕が犬に襲われて泣いていたのを、彼女か棒を振り回して追い払ってくれたのがきっかけで急速に仲良くなったのである。
 
その話をすると 
「女に助けられるなんて情けない。お前男やめたら?」
なんて友だちにからかわれていた。
 
でも僕はそもそも動物が苦手で、猫に触るのも怖がる性格だった。そういう僕を見て、母は「あんた、いっそのこと病院に行って女の子にしてもらう?」
 
と言っていたが、僕は実はエイコのことが好きで、将来エイコと結婚できたらなどと幼心に思っていたので、 
「ううん。僕、男の子のままで居たい」
と答えていた。
 

小さい子供の常で、僕とエイコは幼い頃はけっこう危ない遊びもしていた。
お医者さんごっこをしたのも幼稚園の年少の頃だと思う。
 
「先生、かぜ引いたみたいです」
と僕が言うと「あら、たいへんですね。診察しますから、パンツぬいでください」
 
とエイコは言い、僕のズボンとパンツを脱がせると、おちんちんにおもちゃの聴診器を当て 
「あら、たいへん。こんなに大きくなっているのは病気です。注射しましょう」
と言って、おもちゃの注射器の先を僕のおちんちんの穴に入れて注射器を押したりしていた。
 
「痛いよぉ」
「注射は痛いものです。我慢しなさい」
とエイコは言っていた。
 
僕がお医者さんでエイコが患者の時もあった。
 
「診察します。パンツをぬいで下さい」
「はい、先生」
と言って、エイコはスカートをめくってパンティをさげる。そして僕は何の疑問も抱かずに、エイコのおちんちんに触ると、 
「おや。さわっても大きくなりません。これは病気です。注射しましょう」
 
と言って、僕はエイコのおちんちんの先におもちゃの注射器を差して、注射をするまねをした。僕はおちんちんに注射されるといつも痛くて泣きさけんでいたが、エイコはおちんちんに注射されても、痛いのを我慢していたようだった。
 

そんな時代から5−6年がすぎ、僕たちはもう小学校の高学年になっていた。
僕たちはこの頃から、性教育を受ける。男と女の身体の違いも学ぶので、男はおちんちんがあって、女はおちんちんが無いものだというのもしっかり習う。
 
ただそういう話を先生がしても、何か「かんじんのこと」は教えられていない気がしていた。
 
エイコはとっても美人に育ったし頭もいいので男子たちに人気が高い。一方僕はグズだとかヒヨワだとか言われて、最低の男子とみなされていた。学校の成績も悪い。ほとんど2か3だ。特に男子では重視される体育がいつも最低の1で、いつも先生から 
「お前、こんなに体育の成績が悪いと、男子成人テストに通らないぞ」
などと言われていた。
 
男子も女子も16歳になったら成人テストを受けなければならない。それに合格してはじめて成人男子・成人女子とみなされる。
 
男子でいちばん大切なのは体育だ。体育の試験で60点以上を取らないと、他の科目が優秀でも落とされる。落とされると、男子強化学校という所に強制収容されて、一切外に出られないまま、何だか物凄い強化訓練がおこなわれるらしい。
そして半年単位で再度成人テストを受けさせられ、合格するまで一生そこから出られない。
 
女子の場合、美人審査・才媛審査、そして僕たちは内容を知らなかったが「せいこう審査」というものがあるらしい。この3つの中のどれかでパスすれば成人女子になることができる。エイコは美人だし頭がいいので、美人審査でも才媛審査でも、どちらを選択しても合格できるだろう。
 
女子の場合は成人女子になることができなかったら、半成人女子という資格でいちおう不合格のまま社会人になることも可能である。そして半成人になった人は給料が成人女子の半分しかもらえないので、多くの子がフィニッシング・スクールという所に入り、仕事をしながら女子力を磨くことになる。そして多くの子が2年以内には再試験で合格して、成人女子に昇格する。
 
また半成人女子でも、成人男子と結婚すると、自動的に成人女子になる。それでフィニッシング・スクールに通わずに結婚を目指して、てっとり早くおとなの資格を取ってしまう子も居るようである。
 

ところで、その頃、僕は幼い頃の記憶に疑問があった。
 
幼稚園の頃、エイコと色々な遊びをしていて、僕はエイコのおちんちんを触っていた気がするのである。ふたりで並んで立ちションなどした記憶などもある。
 
でもエイコは女の子だ。
 
女の子におちんちんがある訳がないので、何かの記憶の混乱か、夢か何かで見た内容が記憶に混入しているのかな、などと僕は思っていた。
 
ある時、僕は母に尋ねた。
 
「女の子にはおちんちん無いよね?」
 
母は吹き出した。
 
「女の子におちんちんあったら大変じゃん」
「だよねー」
「おちんちんなんかあったら、赤ちゃん産むのにも邪魔だし」
「赤ちゃん産むのに?」
 
「赤ちゃん産む時は、女の子のお股に空いているヴァギナという穴から産むんだよ。だからそこにおちんちんがあったら邪魔なの」
 
「知らなかった! 女の子にはそういう穴があるのか」
「じゃどこから産むと思ってたのさ?」
「よく分からないと思ってた」
「あんたも私のヴァギナから出てきたんだよ」
「すごーい。じゃエイコちゃんにも、ヴァギナがあるのかな」
「あたりまえじゃん。女の子なんだもん」
「おちんちんは無いんだよね?」
 
「私、エイコちゃんと一緒にお風呂入ったことあるよ。町内会の旅行で。その時、エイコちゃんにはおちんちん無かったよ」
 
「そっかー」
 

しかし間もなく、僕は今までおとなたちが教えてくれていなかったことのひとつを知ることになる。
 
クラスで、僕と同様に、いつも体育の成績が1で、「お前なんか男やめちまえ」
 
なんて先生からまで言われていた、カズシ君という子がいた。その子がある日突然スカートを穿いて登校してきたのである。
 
「カズシ君? どうしたの?」
 
小学校に入る前なら自由な服装をしていいが、小学生以上は男子は黒いズボン、女子は赤いスカートを穿くのがルールである。
 
カズシ君も昨日までは黒いズボンを穿いて登校してきていた。ところが今日、彼は女の子が穿くような赤いスカートを穿いて登校してきたのだ。
 
「わたしね。男の子として成人するのは無理だから、女の子になりなさいとお母さんから言われて。それで昨日、病院に行って手術してもらって、おちんちん取って、女の子になったの」
 
「え〜〜!?」
 
すると事情を知っている風のトモミが言う。
 
「10歳にもなって性別を変更するのは珍しいね」
 
ユイカも言う。
「普通は2歳くらいまでに性別は決めて、遅い子でも小学校にあがる前に性別変更するからね」
 
すると男子の中には事情を知らない子が多いみたいで質問が入る。
 
「男か女かってのは変更できるんだっけ?」
 
「ヤプー国の法律では12歳未満であれば変更できる」
「ただ6歳未満で性別は確定させることが望ましいと医学的には言われている」
 
「その後で変更すると精神的に中途半端になってしまう場合があるんだよ。
でもカズシちゃんの場合、この子、いっそ女の子になった方がいいのにと私も思ってたよ」
 
とトモミは言う。
 

「手術ってどんなことするの?」
 
「男から女に変える場合も、女から男に変える場合も、事前に万能細胞を使って、目的の性別になるための生殖器を培養する。男から女になる場合は、卵巣・子宮・膣などを作る。女から男になる場合は、陰茎・睾丸などを作る。それで組織ができた所で手術する。男から女にする場合は、陰茎と睾丸を除去して、前立腺も大半を除去して小さくする。そして卵巣・子宮・膣を埋め込む。陰茎の一部は再利用して陰核にする。陰嚢は大陰唇に改造する。女から男にする場合は、卵巣と子宮を除去して膣口は閉じた上で、陰茎を身体にくっつけて、大陰唇を陰嚢に改造して、中に睾丸を入れる。陰核の神経を陰茎につなぐ」
 
「あと既におっぱいが大きくなっている女を男にする場合は、おっぱいの脂肪を除去して胸を平らにする手術が必要。既にのど仏が出ていたり肩が張ったりしている男を女にする場合はそののど仏や肩の張りを削る手術も必要」
 
「うん。だから男性的な身体、女性的な身体になる前に手術した方がいいんだよね」
「ただし性器の培養に時間が必要だから、手術の準備に半年かかる」
 
するとカズシが言う。
「私のお母ちゃん、私が男になるのは無理だと思って、ひそかに万能細胞を作って女性器を育てていたんだって。それで昨日学校から帰ったら、今から女の子になる手術を受けてもらうからと言われてびっくりした」
 
「いやじゃなかった?」
「いやだ、いやだ、女の子になんかなりたくないって泣いたけど、お前今のままじゃ一生男子強化施設から出られないよと言われて、諦めた。手術は部分麻酔だからおちんちんが切られる所見てたけど、お医者さんがおちんちんをはさみで切って、ゴミ箱に捨てちゃった時は悲しかったよ」
 
「でもカズシちゃん、女の子としてもやっていけると思う。名前はどうすんの?」
「カズエになることになった」
 
「可愛いじゃん」
「じゃ、カズエちゃんよろしくね」
「うん」
「今日から体育の時の着替えは私たちと一緒だよ」
「なんかはずかしいー」
「でも女の子の身体になっちゃったら、もう男の子と一緒には着替えられないもん」
「トイレも女子トイレに行こうね」
「昨日手術のあと、練習といわれて看護婦さんに連れられて女子トイレに入って座っておしっこしたけど、すごく変な気分だった」
 
「すぐ慣れるよ」
 

その日の晩、ちょうど回覧板を持って行く用事があったので、いつもは母が持って行くのだが、この日は「僕が持って行く」と言って、回覧板をエイコの家に持って行った。
 
「こんばんは。回覧板です」
と声を掛けると、エイコが出てきた。
 
「ヒロシ、何か私に聞きたいような顔してる」
と彼女が言うので、僕は「うん」
と答えた。
 
「ちょっとあがりなよ。私のお部屋でお話しない?」
 
それで僕は母に、学校で分からなかったことをエイコに教えてもらうから少し遅くなると電話して、エイコの部屋に一緒に入った。エイコのご両親やお姉さんたちと顔なじみなので歓迎してくれた。
 

「学校の性教育ってほんっとに大事なことは何も教えてくれないよね」
とエイコは言う。
 
「赤ちゃんがどうやってできるか知ってる?」
「え?男の人と女の人が結婚したらできるんでしょ?」
 
「結婚したからと言って、自然にできる訳ないじゃん。性交をするからできるんだよ」
「せいこうって?」
 
「男の子がおちんちんを大きくして、女の子のヴァギナに入れるんだよ」
「嘘!? だっておちんちんっておしっこ出すものなのに。そんなのを入れても大丈夫なの?」
 
「おちんちん揉むと気持ちいいでしょ?」
「うん」
「女の子もヴァギナに入れられると気持ちいいの。だからお互い気持ちよくなるようにするんだよ。好きな人の身体なら、おしっこする所であっても平気だよ」
 
「あ、好きな人ならいいかもという気がする」
「ね?」
 
と言ってからエイコは言う。
「私とヒロシも性交してみる?」
 
僕は少し考えた。
 
「だめだよ。まだ成人にもなってないのに赤ちゃん作ったら」
「成人にならなくても15歳になったら赤ちゃん作っていいんだよ。そして赤ちゃん作ったら、どちらも成人男子・成人女子と認められるの」
 
「え?」
「ヒロシ、私と赤ちゃん作ろうよ。そしたらヒロシも成人男子になれる」
「わぁ」
 
「まあ15歳になってからの方がいいかな」
「でも15歳って微妙だね」
「そう16歳になったら成人テストを受けないといけないから。ヒロシ、間違い無く落とされるよ」
「う・・・・」
 
「それともヒロシ、カズエちゃんみたいに女の子になっちゃう?」
 
「実はお母ちゃんから、あんたいっそ女の子になる気無い?って時々言われる」
「お母ちゃんも心配だよね」
「でも僕、エイコちゃんのこと好きだから。エイコちゃんと結婚したい。だから男の子のままでいたい」
 
エイコは何だか凄く嬉しそうな顔をしていた。僕は今自分が愛の告白をしたなどという意識が全く無かったので、エイコがなぜ嬉しがっているのか分からなかった。
 
「だったら体育ほんとに頑張るか、それとも15歳になったら私と性交して赤ちゃん作っちゃうか」
 
「僕、体育頑張る」
「うん。それでもいいと思うよ」
とエイコは微笑んで言った。
 

「私の性別のことにも、ヒロシ疑問持ったんじゃないの?」
 
「僕、エイコちゃんのおちんちん触ってたような記憶がある」
「うん。私、5歳の時までおちんちん付けてたからね」
 
「じゃエイコちゃん、元は男の子だったの?」
「ううん。最初から女の子だよ」
「え?そうなの?」
 
「赤ちゃんって生まれた時はみんなおちんちんあるんだよ」
「そうだったのか」
 
「でもDNAを検査して染色体がXXなら女、XYなら男と判定される。それでXXつまり女である場合、ふつうは4歳頃になるまでに、おちんちんを取る手術をして、ふつうにみんなが思っている女の子の形にする。XXの女の子の場合は、最初から体内に子宮や卵巣があるから、万能細胞で人工的に作ったりする必要もないんだよ」
 
「じゃ、エイコは最初から子宮や卵巣があったんだ」
 
「そうだよ。それでふつう女の子のおちんちんは早い時期に取るんだけど、私は小さい頃身体が弱かったのよね。それで6歳になるまでおちんちんを取る手術を保留していたんだよ。6歳の誕生日に手術してもらって私は完全な女の子になることができた」
 
「そうだったのか」
 
「男の子のおちんちんと、女の子のおちんちんの大きな違いはね」
「うん」
「男の子のおちんちんは、たとえ1歳未満でも刺激したら立つ。でも女の子のおちんちんは、どうやっても立たないんだよ」
 
「あ。エイコちゃんのおちんちん、いくらさわっても大きくならなかった」
「でしょ。私、女の子だもん」
 
「そういう話、全然知らなかった」
「女の子はみんなおちんちんを切られているから知っていることだけど、男の子はおちんちんは切られてないからね」
「切られちゃったら、女の子になっちゃう」
「そうそう」
 
と言ってエイコは笑っていた。
 
「じゃ性交はしないけど、サービスでヒロシのおちんちんさわってあげる」
と言って、エイコは僕にパンツを脱がさせておちんちんを触り大きくしてしまった。
 
「まだ出ないんだ?」
とエイコが訊いた。
 
「出るって何が?」
「おちんちんの先から液体」
「え?こんな場所でおしっこはしないよ」
「ヒロシがもう少し大きくなったら、ここからおしっこではないものが出てくるようになるんだよ」
「へー」
 
エイコは更に「こんなの見せたのは私たちふたりだけの秘密ね」
 
と言って、自分のお股も見せてくれた。
 
「女の子のお股ってこうなってたのか」
「ヒロシもこういう形になりたい?」
 
「うーん。なってもいいけど、おちんちんのある方が好きだな」
「ふふふ。じゃ体育頑張ってね」
 

エイコに言われたことで僕は毎朝ジョギングしたり、学校でも昼休みに毎日プールで泳いだりして、自分の身体を鍛えて行った。それでその学期の体育の成績が、小学校に入って以来はじめて2になった。その成績表を見て、母は 
「今学期も成績が1なら、あんたは病院に連れて行って、無理矢理にでも女の子に変えてしまおうと思っていた」
などと言っていた。
 

やがて僕たちは小学校を終えて中学校に進学する。僕は体育を頑張っていたので小学6年の後期の体育の成績はとうとう3になった。特に僕は水泳が得意になった。以前はほとんどカナヅチだったのが、この当時、25mプールを50往復でも100往復でもできるようになっていた。
 
そして僕は精通が来た。
 
あと半年もしたら13歳の誕生日が来る。13歳になってしまうともう性別の変更はできなくなるが、母はもう僕に「女の子になる?」とは訊かなくなっていた。
 

中学生になった頃から、僕はエイコと公然の恋人となった。僕は体育も他の科目も頑張っていたし、水泳では一度県大会で準優勝までしたので、友だちから「男失格」なんて言われることもなくなっていて、ふたりの仲を多くの友人たちが応援してくれていた。
 
15歳になった時、エイコから訊かれた。
「性交して赤ちゃん作っちゃう?」
「うーん。それって波紋が大きすぎるから、ちゃんと普通のルートで成人男子を目指すよ」
「うん。テスト頑張ってね」
「エイコは心配ないと思うけど頑張ってね。どれで受けるの?」
 
「そうだなあ、性交審査にしようかな」
 
それは男性の検査官と実際に性交をして、ちゃんと性交に耐えられる身体であることを証明すれば合格できるという審査である。
 
「ダメ!それだけはダメ! 僕以外とは性交しないで欲しい」
「うん。いいよ。じゃ才媛審査にしようかな」
「エイコは美人審査でも通ると思うけど、そちらがエイコの性格には合ってると思う」
と僕は言った。
 

やがて僕らは中学校を卒業した。成人テストを受けるのは16歳の誕生日が来てからなので、多くの子はそれまで「成人テスト予備校」に通う。(予備校は中学3年生から通えるので、4−7月くらいに誕生日を迎える子は中学校在学中から予備校に通っていた) 
僕もエイコも予備校に行ってテストの日を待った。
 
エイコの方が先に誕生日を迎えるので、予定通り才媛審査を受ける。エイコは数学や理科などの成績もいいが、それ以上に絵画の才能が高かったので、それを主教科に指定して受験。A級合格をした。A級合格者は、ふつうの成人女子には許されない、A級だけの特権があるらしいのだが、その内容は聞いても僕にはよく分からなかった。
 
やがて僕も誕生日が来て成人テストを受けた。
 
この日朝からエイコが来て、僕にキスをしてくれた。それで僕は物凄く頑張ったので、何とかC級で合格した。合格はA級からE級まであり、FやGだと不合格である。僕はほんとうはD級かなあと思っていたのでC級になれたのはエイコのキスのおかげかと思った。
 

そして僕とエイコはふたりとも成人男子・成人女子になれたので、届けを出して結婚し、夫婦となった。僕たちは18歳と20歳で子供を作った。子供が生まれた時、僕は立ち会い出産したので、エイコのお股から赤ちゃんが出てくる所を見て、すごーい。こんな小さな穴からよくこんな大きな子が出てくるもんだと驚いた。
 
もちろんふたりとも生まれた時はおちんちんが付いていたが、DNA検査とMRI検査の結果ふたりとも女の子と判定されたので、上の子は3歳の時、下の子は4歳の時に、おちんちんを切って、体内に隠れているヴァギナを露出させ、陰嚢の真ん中を切り開いて陰唇に改造し、おちんちんの先は陰核として割れ目ちゃんの上端に取り付けるという手術を受けさせ、ふたりとも立派な女の子となった。
 
僕たちは夫婦と子供2人でとても幸せな生活を送っていた。
 
しかしその生活はある日突然終わりを告げることになるのである。
 

僕は運送会社に勤務していた。中学時代水泳で鍛えていたので持久力があり、長時間の運転もできることから選んだ仕事である。その日は1200kmもの行程を走った後、休養日になっていた。それで家で寝ていたのだが、会社から電話がある。
 
「すまん。緊急に輸送しないといけない荷物があるんだ。悪いけど運んでくれない?」
「私、まだ前の勤務から規定の時間の休憩を終えていません。今走ったら違反になります」
 
「それは分かっているけど、**君と**君が緊急性陰茎腐敗症になっちゃって、人手が足りないんだよ」
 
緊急性陰茎腐敗症というのは、その名の通り、突然男性の陰茎が腐って落ちてしまうという怖い病気である。ウィルス性だが、事前に高熱が出るので、この時点で特効薬を注射すれば100%陰茎は失わなくて済む。
 
「怖いですね。それ他の奴にも移ったりしませんよね」
「移らないことを祈りたいね。君も気をつけてね」
「ええ」
「まあそれで、頼むよ。違反してもそう簡単に見付かるものではないからさ」
 
僕は気は進まなかったが、同僚の急病もあったというのでは仕方ないと思い、出て行くことにした。
 
荷物は実は移植手術のための心臓であった。患者が旅先で倒れて緊急に心臓を交換しなければならなくなったのだが、万能細胞ベースで作られた予備の心臓は本人の地元にあるので、それを急いで持って行かなければならないということだった。移動距離が500kmもあるが、空港が使いにくい地区同士なので地上輸送になることになった。遠距離なので救急車の普通のドライバーには辛いということで運送会社にドライバー派遣の要請があったらしい。
 
それで僕はその病院に急行し、救急車に乗り込むとサイレンを鳴らして走り出した。僕ともうひとりの同僚と2人で交代して運転して、500km先までを4時間で緊急輸送する。
 
これは本当に大変な仕事だったが、何とか届けることができて、患者も無事心臓の交換手術を受けたようであった。
 

「良かった良かった」
と言って、僕たちは救急車を今度は通常のモードで走らせ帰還することにする。
結果的には往復1000km走ることになる。僕も交代ドライバーの同僚も実は昨日1000km以上走ったばかりで2日連続の1000km勤務である。ふたりとも疲れてはいたが、患者が助かったことで気分は上々だった。
 
その交差点に到達するまでは。
 

もう出発地の病院まではあと5kmであった。最後は僕が運転していたのだが、同僚は疲れ切って助手席に座ったまま寝ている。僕は信号で止まった後、青になったので動きだし、左折した。
 
「危ない!」
 
という声が聞こえた。慌ててブレーキを踏んだが、その次の瞬間、何か大きな物体にタイヤが乗り上げる感覚があった。
 
轢いた!? 
僕は顔が真っ青になった。
 
慌てて降りてみると、80歳くらいかなというお婆さんが倒れていた。
 
「大変だ! 救急車を呼ばなくちゃ」
と僕は言ったが 
「あんたの車が救急車では?」
と通行人の男性に言われる。
 
ほんとだ! 
それで同僚とふたりでお婆さんを救急車に乗せ、しっかり固定して、サイレンを鳴らして病院に駆け込んだ。
 
病院では緊急手術が行われた。
 
しかしお婆さんは1時間後に死亡が確認された。
 

僕は逮捕され、裁判に掛けられた。
 
お婆さんが信号無視で渡ろうとしていたことは考慮された。しかし僕が充分な休憩を取らないまま連続で勤務していたことは重視された。また、人の命を助けるべき救急車が、交通弱者である老人の命を奪ったことについて世間から凄まじい非難があった。
 
エイコは優秀な弁護士を雇ってくれて、弁護士も頑張ってくれたのだが、僕は有罪判決を受けた。
 
「被告を宮刑に処する」
 
僕はショックを受けた。
 

現代では、人の命を奪った者は、理由の如何を問わず死刑が原則である。それは最初から覚悟していた。ただ、情状酌量の余地があれば別である。弁護士は、同僚が倒れて困った会社側が強引に勤務させたものであること。瀕死の患者を助けるための輸送をしてきたこと、などを訴えたが、及ばなかった。しかし、死刑だけは免れて、1等軽い刑である宮刑が宣告されたのである。腕の悪い弁護士なら間違い無く死刑になっていたであろう。
 
判決後面会をしたエイコは泣いていた。
「ごめんね、ごめんね」
と僕は何度も言った。
 
やがて刑が執行される日が来た。
 
「医学的な手術ではなく、これは処刑です。ですから麻酔も掛けません。
いいですね?」
と執行担当の刑務医は僕に念を押した。
 
「はい。お手数をおかけします」
 
僕は下半身裸にされて、医師の前で足を広げた状態で答えた。少し離れた所でエイコが心配そうに見守っている。ふたりの娘はしばらくエイコの実家に預けてある。
 
それで刑務医は「宮刑を執行します」
と言い、陰嚢の真ん中を縦に切り裂いた。
 
激痛が走る。しかしここで痛いとか叫んだりするのは男子としていさぎよくない態度であるとされる。僕は痛みを我慢した。
 
医師は陰嚢の中から睾丸を1個取り出すと、ハサミで精索を切断し、ゴミ箱に放り込んだ。もう1個の睾丸も取りだして、そちらも切断され、捨てられた。
 
「宮刑が執行され、あなたは男性ではなくなりました。また、戸籍データベースからもあなたの登録を削除しました。あなたはもう男でもないし、人間でもありません。ただのモノとなりました。従って、あなたを傷つけたり殺しても、相手は単に器物損壊罪に問われるだけです」
 
と刑務医は宣告する。
 
これでエイコとの法的な夫婦関係も消えてしまうことになる。
 
「それでは慣例により、被害者の遺族による陰茎の損壊をおこないます」
 
僕がはねたお婆さんの娘が寄ってきた。
 
「この人殺し!」
と言って、僕にツバを掛ける。
 
「お前みたいな奴、こうしてやる」
と言って、彼女は僕の陰茎にナイフを突き立てる。太い血管が通っているので凄い出血がある。僕は更なる痛みを感じたが、声は立てなかった。彼女は僕の陰茎に20-30回はナイフを立てた。それで彼女も大きく息をついている。
 
「そろそろよろしいですか? これ以上の損壊をすればあなたは罪に問われます」
と刑務医が言うので、彼女は外に出て行った。
 
僕の股間には半ばミンチと化した「陰茎であったもの」がちぎれかけたままになっている。血がたくさん出ている。放置すれば数分で死に至るだろう。
 
医師が言った。
「あなたはただの物体にすぎないので、私はこれを放置してもいいのですが、私の親切心で、大量出血によるショック死を防止するため、この激しく損傷した陰茎を切断したいと思います。いいですか?」
 
「お願いします」
と僕は答えた。
 
「では陰茎を切断した後、ブルーアーマー手術をおこないます」
と医師はエイコを見て言った。
 
「お願いします」
とエイコが言うと、医師は初めて僕に麻酔の注射を打った。
 
それで僕は意識を失った。
 

目が覚めた時、エイコが心配そうにそばに立っていた。
 
「手術は終わったよ」
とエイコが言う。
 
「ごめんね。もう僕は君の夫ではなくなってしまった」
と僕はエイコに謝った。
 
「ううん。いいの。でもあなたは人間ではなく、物体になっちゃったから、私、あなたを落札したから」
 
「ははは」
「あなたはブルーアーマーになってしまった。でも私だけのブルーアーマーでいて」
「エイコがそうしてくれるなら、僕は幸せだよ」
「うん」
 
それでエイコはキスしてくれた。
 
ブルーアーマーを「所有」できるのは「A級」の成人男子・成人女子に限られている。エイコがA級成人女子であったおかげで、僕は彼女のものになることができた。
 
医師が入って来て股間の包帯を外して手術の傷跡を確認した。それを見た時、僕はさすがにショックだった。
 
「一応説明しますが」
と医師はエイコを見て言う。
 
そう。僕は物体にすぎないから医師は僕に何かを説明する義務は無い。今や僕の「所有者」になったエイコに説明するのである。いわば僕はエイコのペットに似た扱いである。
 
「股間の物体は全て撤去されています。睾丸は処刑の際に廃棄されました。
陰茎はずたずたになって復旧不能でしたので恥骨結合部から全部除去してあります。尿道口・肛門も閉鎖したので股間には何もありません。このようにとてもスッキリした状態になっています」
 
「体内の余剰物質は強化された肝臓で全て浄化されてしまいますので、排泄物は出ません。またそもそも食べ物を取る必要もありませんが、水分だけは補給が必要なので、1日に2Lをめどに飲ませてあげてください」
 
「普通の食物を食べることはできるんですか?」
「食べられますが、食べても栄養にはなりません。消化機能は働かないようにしていますので」
「食べたものはどこかから出てこないんですか?」
「完全に浄化されてしまいます。汗が少し出るだけです」
 
「体内にオーナーさんの希望で原子力エンジンが埋め込まれていますので、食物や点滴などを取らなくても半永久的に稼働します。ただ原子力エンジンは核物質を使用していて怖いので、半年に1度の定期点検は確実に受けさせてください」
 
「飲んで下さい」ではなく「飲ませてください」だし、点検を「受けてください」ではなく「受けさせてください」である。私は物体であり、人間と会話する権利は無い。医師はエイコとだけ話している。
 

そして念のため点検された後、僕は退院することになる。エイコと一緒にタクシーで1年ぶりの我が家に帰った。
 
「ホントに苦労掛けたね」
と僕は言ったがエイコは 
「私あなたが生きててくれただけで嬉しい。ずっと愛してる」
と言ってキスをしてくれた。
 
それからこれから僕がずっと穿くことになるボトムを渡される。ショートパンツに似ているが、ふっくらとしており、やわらかく腰の付近を覆う。色が青いのでブルーアーマーと呼ばれる。
 
ヤプー国では男性は黒いズボン、女性は赤いスカートを穿くのが基本なのであるが、僕が受けたような手術を経た人はこのブルーアーマーを穿くことになっているのである。それは「人間ではない」印であるが、人間ではないからと言って何をされてもいいということはない。
 
一応ペットに準じた保護はされる。怪我させたり死なせたりすると「器物損壊罪」に問われる。一応「動物愛護法」の対象にもなるので、飼い主は予防接種や内部に埋め込まれたエンジンの定期点検などを受けさせる義務があるし、ちゃんと餌をやったり、最低限の躾けをする義務もある。
 
ブルーアーマーを穿く人には、僕のように刑罰を受けた人もいるが、実は大半は自らの意志で、または成人テストを受ける直前の15歳の時点で親に言われてこの手術を受けた人である。実際、15歳時点まできて、どうみても成人テストに合格できそうもない男性は、強制施設に収容されて虐待されるような日々を半永久的に送るよりは、性別を放棄して結果的に人権も消滅するものの、誰かのペットとして生きる方が、ずっと楽なのである。
 

「でも原子力というのはびっくりした」
「新型なのよ。雑誌の評価が良かったから頼んでみた」
「それもごめーん。お金掛かったでしょ?弁護士費用だって大変だったろうに」
「あなたを取り戻すためだもん」
と言ってエイコはまたキスしてくれる。
 
「でも原子力なんて使ってて周囲の人は大丈夫なの?」
「きちんと遮蔽されているから大丈夫だって。放射能検出器も付いてるから、万一放射能漏れが起きたら警報が鳴るし」
「あはは」
 
「ブルーアーマーになる人の主流は火力なんだけどさ、火力だと1日の活動に必要なエネルギーを作り出すのに毎日石油を400-500cc飲まないといけないのよ」
 
「うーん。石油は美味しくなさそうだ」
「まあどっちみち、もう普通の御飯は食べられないのだけどね。食べてもいいけど、それでは栄養取れないんだって」
「もう一度君のビーフシチューを食べておきたかった」
「まあ食べるだけなら食べてもいいから作ってあげるよ」
「ありがとう」
 
「もうひとつの選択肢が水力なんだけど、あれ大変なんだよね。エネルギーを生み出すための水車を回転させるために、頭の上から足の先に至る長さ1.5-1.8mの直径10cmのパイプを取り付けて、毎日2時間、それで滝に打たれる必要がある」
 
「冬は滝行は辛そうだ」
「それをしないと機能が停止してしまうからね」
 

エイコの実家に行っていた娘2人もこちらに戻って来て、学校にも復帰した。
2人はクラスメイトたちには「大変だったね」と声を掛けてもらい、刑罰を受けたモノの子供だからといって虐められたりもしていないようでホッとした。
 
まるで以前の日常が戻って来たかのようであったが、色々異なることもあった。
 
僕はもう人間ではなく「モノ」なので、色々制限されることも多い。
 
ひとつには僕は単独で外出することができない。犬などのペットがひとりで外出させられないのと同じで、誰か「人間」が連れていくという形を取らなければならない。それで、僕はエイコ、または娘に連れられた状態でのみ外に出ることができることになった。
 
ペットはもちろん税金はかからない。それは気楽であるが、仕事にも就けない。
犬や猫を社員として雇うところはないだろう。それと同じだ。もちろん資格の取得もできない。犬が運転免許や医師資格を取れないのと同じでブルーアーマーは車の運転もできないし、医者や弁護士になることもできない。
 
色々な施設に入る時も、僕の分の入場料は不要である。何でもタダで見ることができる。ただひとりでは来られないというだけである。電車や飛行機もタダである。エイコや娘たちに連れられている限り、無料で乗ることができる。
 
ブルーアーマーは人格が認められないから、何か悪いことをしたら飼い主が罰せられる。だから、僕は何か我慢しがたいことがあってもひたすら我慢した。
 
基本的にブルーアーマーは「餌」が要らない。但し、動力源が必要なので火力の場合は毎日石油を飲む必要があるし、水力の場合は毎日滝に打たれる必要がある。ここで僕は原子力なので、燃料は心配しなくて済む。
 
「ヒロシの原子力エンジンは高速増殖炉を積んでいるんだよね。消費した燃料より多くの新たな燃料が生まれる夢の原子炉。だからヒロシが生きている間に燃料の追加が必要になることはまずあり得ないよ」
 
とエイコは言っていた。
 
「でも初期投資が高かったのでは?」
「政府の実用実験の検体として応募したのが当選したからね。本当は何億円って必要らしいね」
「要するに僕は実験台か」
「まあいいんじゃない? 毎日石油飲んでいると、それだけで鬱になりそうって言うし」
「確かにね〜。でもこれホントに安全なの?」
「政府は安全って言ってるけど」
「政府の言うことって、あまり信用できない気もするんだけど」
「そうだなあ。もしヒロシがそのために死ぬようなことあったら、私も一緒に死んであげるから」
 
「いや、それはダメだ。僕もエイコも死んだら、娘たちが困る」
「あの子たちはもう充分おとなだよ」
「まだこどもだよ」
 

僕はエイコに勧められて、近所のこどもたちに勉強を教える仕事をするようになった。これは建前的には子供たちが近所の家のペットと遊んであげている状態である。報酬として子供たちの親がエイコに「ペットとの遊び賃」の名目で、教師としての謝礼をする。
 
僕は小学5年生の時まで成績が悪くて、そのあと頑張って勉強して成人男性テストに合格したので、そういう経緯から出来の悪い子に教えるのがうまいと評判になって、けっこう遠くから習いに来る子もあった。
 
しかし基本的に仕事に就けない僕が少しでも家計の足しになることができるのが僕は嬉しかった。他に電話相談員の仕事もした。悩める人から電話で相談を受けていろいろアドバイスする仕事である。僕は特に30-40代の女性から恋愛問題に関する相談を受けることが多かった。
 
そんな感じで、いろいろ変則的ではあるものの家族4人での幸せな日々が戻ってきたような感じはあった。しかしそれは僕が働けなくなった分、頑張ってひとりで生活費を稼いでいるエイコのおかげである。
 
「ヒモみたいでごめんね」
「髪結いの亭主と思えばいいよ」
「物はいいようだなあ」
「法的にはペットだけどね」
 
そしてふたりの子供はどちらも成人女性試験を「才媛審査」でA級パスして成人女性となった。さすがエイコの娘である。ふたりは就職のため都会へと旅だって行った。ふたりとも割としっかりした感じの企業に入ることができたので私もエイコもホッとした。
 

10年後、ふたりの娘はそれぞれ結婚して、私とエイコは孫の顔を見る幸せに恵まれた。上の娘の子供は男の子、下の娘の子供は女の子であった。どちらも生まれた時はおちんちんが付いているから、見た目では分からないのだが、女の子の方はMRI検査でもちゃんと卵巣・子宮が確認されているので3歳くらいで、おちんちんを切ってちゃんと女の子のお股の形に整える手術を受けさせる予定である。
 

その年、全国のブルーアーマーたちに激震が走った。
 
ある地区の原子力ブルーアーマーが突如爆発事故を起こし、周囲30kmが立入禁止になるという、とんでもない事態が発生したのである。死者も数千人単位で出たらしい。
 
爆発を起こしたのは旧型の原子炉を積んでいる人で、僕のような高速増殖炉ではなかったのだが、全国の原子力稼働のブルーアーマーに緊急検査を受けることが義務づけられた。
 
実際には事故を起こした人は本来は半年に1度受けるべき定期点検を20年も受けていなかったらしい。それで冷却パイプが詰まってきちんと冷却ができなくなったことから爆発に至ったという推測がなされていた。しかし今回の強制点検で10年以上点検を受けていない人が全国で100人以上発見され、国会で取り上げられる問題へと発展した。
 

「定期点検シールが発行されることになったよ」
とその日帰って来たエイコは言った。
 
「恥ずかしいかも知れないけど、これを顔か腕の外から見える所に貼って」
と言って定期点検された日時と、次に点検を受けるべき日時が印刷されたシールを渡される。
 
「腕に貼らせてください!」
「顔に貼るのはさすがに恥ずかしいよね」
「僕もう人間ではないし、男性機能も無いけど、恥じらいはまだあるから」
「うんうん」
 
それでエイコは僕の左手の肘より少し上の部分に貼り付けてくれた。お風呂に入った程度では剥がれない、強力な接着剤が使用されている。
 

****年。大統領の女装同性愛スキャンダルに端を発した政治闘争はこの国を100年もの間引っ張ってきた保守党が下野し、万年野党だった共和党が1世紀ぶりの政権を獲得するという事態に進展した。
 
そして新しい政権は原子力に対する厳しい規制を行った。
 
国内の全ての原子力発電所が停止させられた。そのため多くの工場が操業停止に追い込まれ労使紛争が起きたものの政府は脱原子力政策を強行した。原子力電池などで動作する車や工作機器が使用を禁じられ、その規制は更に原子炉を搭載したブルーアーマーたちにまで及んだ。
 
「酷い。いくら人権の無いモノが対象だからといって。この処置は酷すぎる」
とエイコは怒っていた。
 
原子炉を搭載したブルーアーマーは危険だからというので、本土から1000kmも離れた離島に全員強制隔離されることになったのである。
 
「政権が交代すればまた戻れるかも知れないよ。僕は何とか頑張るからエイコ身体を壊さないように」
 
そう言い残して僕は隔離される島に行く船に乗せられた。
 

隔離対象になったブルーアーマーは全部で100万体という話だった(ブルーアーマーは人ではないので「人(にん)」ではなく「体(たい)」または「個」で数えられる)。正直向こうの島で100万人も暮らせるのだろうかと僕は疑問を感じていた。
 
僕が乗った船にはたぶん2000人くらいの原子力ブルーアーマーが乗船している。
1000kmも離れた島まで行くので、片道半月も掛かる。
 
ちょうど台風が接近していて船は揺れていた。
 
本土を出たのが夕方である。夜中の0時頃、嵐が激しくなってきたが、その嵐の中で僕は砲弾の音を聞いた気がした。
 
へ? 
「大変だ。政府直属の直参軍がこの船を攻撃している」
「え〜〜?」
「政府はハナっから、俺たちを隔離なんかする気は無かったんだ。原子炉なんて危険だから海溝の底にでもみんな沈めてしまうつもりなんだよ。船ごと」
 
「なんて奴らだ!」
 
僕たちは憤ったものの、こちらには何も武器が無い。激しい砲撃を受けて僕らの船は沈んでしまった。
 
いやだ・・・・まだ死にたくない。
 
僕はその時、本気でそう思った。
 

気がついた時、僕は海を泳いでいた。
 
半分意識が飛んでいたのだが、死にたくないという気持ちから僕の手足が必死に動いてくれたようだ。僕は自分が裸になっているのに気づいた。服を着ていると泳ぐのに邪魔だから、脱いでしまったのだろう。嵐の中なので泳ぐのは辛かったが、泳ぐのをやめたら、その時点で深い海に引き込まれて死んでしまうのだからどんなに辛くても僕は泳ぐしかなかった。
 
そしてどれだけの時間が経ったか分からない。
 
僕はどこかの海岸にたどりついていた。
 
向こうに人影が見えた。僕はそのまま気を失った。
 

気がつくと、どこか屋根のある場所で、ひとりの少女が僕を介抱してくれていた。中学生くらいだろうか。
 
「あなた言葉分かる?」
などと訊かれる。外国人とでも思われたろうか。
 
「分かります。私、一応ヤプー人だから」
「ああ、良かった。でもあなた不思議な身体してた。あなた男?女?」
「少なくとも男ではないかな」
「ですよねー。ちんちん付いてなかったもん」
 
それで彼女は僕を女性と思ったようである。ブルーアーマーを見たことないのかな。都会ではけっこうあの独特なふんわりとしたシルエットのボトムを着て歩いている「モノ」はいるのだが、田舎では珍しいかも知れない。
 
それで彼女は僕が女ならと言って、女物の服をめぐんでくれた。自分の母親の服の捨てることにしていたものだという。僕はおっぱいも無いのにブラジャーを一応つけて、女物のパンティを穿き、中年女性が好んで着る青い花柄のブラウスを着て、女性の象徴である赤いスカートを穿いた。
 
彼女はいろいろ食べ物もめぐんでくれた。僕はふつうの食べ物を食べることはできるものの消化する機能が無いから食べても無意味なだけである。しかし食べないと怪しまれるだろう。幸いにも僕はいつもエイコが「形だけだけど」と言って作ってくれる御飯をたべていたので、ふつうの食べ物を食べること自体には慣れていた。
 
彼女はどうも親に黙って僕をかくまってくれていたようである。僕は1週間ほどで体力を回復して、御礼を言って彼女が僕をかくまっていた小屋を離れた。
僕が出発する時、彼女は僕に取り敢えずの食費などと言って1000円硬貨もくれた。僕は本当によく御礼を言ってから旅立った。
 

僕はほんとに20年ぶりくらいにひとりで町を歩いていた。エイコや娘たちに付き添われて歩くのが常になっていたから、ひとりで歩くのに不安を感じるくらいだ。でも今自分は女の服を着ているので、誰もブルーアーマーが勝手に単独行動しているとは思われないだろう。
 
僕は町の住居表示を見たり、鉄道があったので駅を何とか探したりして、ここがストーンハンド州の田舎町であることを知った。僕はコンビニでお茶を買って1000円硬貨を細かくし、電話代を作った。そして夜になるのを待って公衆電話からエイコの携帯に電話を掛けた。
 
「ヒロシなの?生きてるの?」
「うん。何とかかな」
「今どこ?」
 
それで僕は自分の居場所を伝える。それで彼女が迎えに来てくれることになった。
 

車で拾ってもらった僕は、エイコの熱いキスの洗礼を受けた。
 
「でも何て格好? まるで女の人みたい」
「浜辺まで泳ぎ着いたのを中学生くらいの女の子に助けてもらったんだよ。
田舎なんでブルーアーマーを知らなかったのかも」
「でもいっそ女の振りしているのもいいかもね。ヒロシ、去勢されてから長くてもうヒゲとかも生えてなかったし」
 
「ある意味、女みたいな体質になってるかもね」
「でもよく泳ぎ着いたね」
「考えてみたけど100kmくらいの距離を泳いだと思う」
「すごーい」
「だって僕水泳の県大会で準優勝したし」
「そうだった。水泳はあの頃から得意だったんだね」
「エイコに言われて身体を鍛えていたおかげだよ」
「そしてエネルギー自体は無尽に取り出せる原子炉を持っていたからだよね」
「うん。火力じゃガス欠になってる」
 

結局エイコは僕の件をバッくれることにしたようだ。
 
隔離島へ行く船が嵐で沈んで全員絶望と伝えられていたので、エイコは泣いて僕の葬式を出したらしい。だから僕という「モノ」はもう消滅したことになっている。まあ人間の戸籍からは20年前に抹消されていたんだけどね! 
僕は顔の整形手術を受けさせられて、男らしさを減らし女らしさを強調した顔立ちにしてもらった。結果的に前とはけっこう違った風貌の顔になった。
そして、エイコがひとり暮らしの寂しさを埋めるのに、一緒に暮らすことにした古い女友達ということにして、共同生活を再開した。
 
しかし女ということにしているので、僕は頑張って女言葉を覚えさせられた。
女としての基本的な常識は覚えてもらわなくちゃと言われて、お化粧はもちろん、料理や裁縫、女性に人気のタレントの名前なども覚えさせられた。
 
でも・・・これなんか楽しい!? 
スカートを穿いて歩くのは最初はちょっと抵抗があったものの、慣れるとそうでもなくなった。女として「パス」するようにと言われて、おっぱいを大きくする手術も受けさせられた。
 
なんかどんどん女性化させられているみたい! 
娘たちには落ち着いたところで、僕があの事故から生き延びて、また強制隔離されないように女を装って生活していることを打ち明けた。娘たちは僕が死んだと思っていたので、泣いて喜んでくれた。
 
僕はこの20年間、自分はエイコのお荷物になっているんじゃないかという気持ちがあった。しかし僕もエイコや娘にとって、一応大事な存在だったんだな、というのを認識して僕は自分の生きる希望を回復させた。
 

翌年。急進的な政策を採っていた共和党はあまりにも性急すぎる原子力政策の転換が引き起こした不況に反発した労働者たちの手による事実上のクーデターで倒れた。旧保守党の若手政治家を中心として結成された第三勢力・新生党が新たに政権を取った。
 
新政権は原子力発電所については停止政策を維持する代わりに代替エネルギーの発電所(太陽光発電所・風力発電所・人力発電所!)を大量に建設して逼迫する電力需要の対策を取った。
 
そして原子力ブルーアーマーについては、きちんと点検を受けていれば問題は無いという方針を打ち出すとともに、逆に火力や水力のブルーアーマーについても半年に1度の定期点検を義務付けた。
 
そして数十年来の大改革と後世に言われたのが、ブルーアーマーの自立法である。一定の試験を受けて、社会生活を営む能力があると認められたブルーアーマーについては、単独での外出を認め、一部の資格取得や仕事をすることを認めたのである。但し、この認定されたブルーアーマーは税金も人間並みに払わなければならないので、従来の「ペット並み」がいいか「自立型」がいいかは、本人が選択できるものとなった。
 
これで多くのブルーアーマーが「自立型」に移行した。
 

しかし私はそのような道を進むことなく、むしろ女として埋没した生活をしていた。私は闇の手術を受けて、股間に女性の外性器に類似した形を作ってもらった。長く閉鎖されていた肛門を開け、尿道口も設置した。
 
すると不思議なことに、おしっこはこの手術を受けて3日もしたら出るようになったし、食べ物を食べるようになってから1週間で便も出るようになった。
20年間もこういう機能は封印していたのに、排泄機能は死んでいなかったのだろう。人間の身体は不思議だ。
 
結果的に僕は外見上、女にしか見えない身体になってしまった。
 
エイコが言うには、政権が変わるとまたブルーアーマーに関する政策も変更されるおそれがある。もういっそ人間の女を装って生活していたほうが安寧に暮らせるというのである。
 
僕はもう隔離なんてこりごりなのでエイコの意見に同意し、結果的に女性化を受け入れることになった。夫を亡くした女性が、別の男と暮らしているというのよりは、女同士で暮らしているということにした方が、世間的にはあれこれ憶測を招かなくてすむので、僕も女として生活する道を選ばざるを得なかった。
 
それに長年ブルーアーマーとして暮らしてきて、男性ホルモンの作用が消えてしまっていることから、僕の体型はもう男は装えないような体付きになっていたのである。
 

あれから色々なことがあった。
 
そして、僕とエイコはもう60歳を過ぎていた。
 
僕たちは仲の良い女友達を世間的には装っているが、実はレスビアンの関係である。僕たちは結婚してから僕が刑罰を受けるまではふつうに男女のセックスをしていた。でも、ブルーアーマーになってからは僕に性的な機能が無いのでそういう戯れもずっと途絶えていた。僕たちは20年ほどただの友人のような暮らしをしていたのである。ところが僕がなりゆきで女を装って生活するようになってから、エイコは僕の「疑似女性器」に関心を持ち。うまく僕を乗せてレスビアン・ラブをするようになったのである。20年ぶりに逝った時はエイコも僕も感動だった。
 
レスビアン・ラブのいい所は、男女であれば、ちんちんが立たなくなってしまうともうセックスもできなくなるのに、女同士なら、死ぬまでセックスを楽しめることかも、などと僕は思っている。
 
僕は人前では女を装い、女言葉で話し「私」という自称を使っているが、エイコとふたりだけの時は意識だけは男になって「僕」という自称を使っている。
 
上の娘の所の孫息子は成人テストがかなりやばかったもののE級でぎりぎり合格してホッとさせられた。下の娘の所は成人テストはまだだが、結局女の子が3人になった。
 
上の2人はDNA的にも女だったので3歳の頃に普通におちんちんを切ってヴァギナを開放する手術をしたのだが、いちばん下の子は実は男の子だった。でも性格的に男向きではない感じだったので、女の子として育てることにして、万能細胞で女性器を作って培養し、5歳の時に男性器を全て除去して女性器を埋め込む手術をして、戸籍も女子に変更したのである。手術が終わった時その子は 
「おちんちん取られるの不安だったけど、これも悪くないかも」
 
と言っていたらしい。もっとも2人の姉は既に小さい頃おちんちんの切断手術を受けているから 
「おちんちんなんて、取っちゃうのが普通だよねー」
などと言っていたという。
 
その男の子から変わった女の子が、三姉妹の中ではいちばんの美人で、将来が楽しみだと娘は言っていた。
 
なお僕の体内の原子炉は一応ちゃんと半年に一度きちんと点検をしている。放射能漏れも一度も起きてない。高速増殖炉なので検査する度に燃料が増えているのが確認される。
 
「やはり研究用の実験品として大学の専門の先生たちの手で制作されているから品質が高いんだと思う。量産型は必ずしもちゃんと理解していない人が製造しているから、トラブルが置きやすい」
 
「それは言えるかもね」
 
取り敢えず今の所、問題は無いようなので、何とか死ぬまでもってくれそうな感じではある。
 
ただし原子炉を内蔵している身体は死んでも火葬にはできないので、産業廃棄物として処分する必要があるらしい。やっぱり僕は基本的に人間ではなくモノなのであろう。
 
女装者って時々いるみたいだけど、僕の場合は女装物かな? 
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