【あなたが言ったから合コンの日】(後編)

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駅前で待ち合わせて、まずはカフェに行ってオープン席でおしゃべりした。できるだけ多くの人にデートの現場を晒すのがこのデートの目的である。鈴太郎さんは女の子が好みそうな話題をたくさん振ってきた。僕は蘭にラブベリーとかスイートとか読んでおくといいと言われてあの後読んでいたので、その手の話に付いていくことができた。
僕たちは「あゆちゃん」「鈴(りん)さん」と呼び合うことにした。
 
しばらく商店街を散歩する。
「あ、歩く時に腰で歩く感じにすると色っぽくなるよ」
と鈴さんが教えてくれた。「へー」
「それと主として膝下だけ動かして歩く感じがいい」「やってみます」
「うん・・・そんな感じそんな感じ。今日のスカートとかは大丈夫そうだけど、タイトスカートだと、さっきみたいな歩き方してると転ぶから」「なるほど」
 
「話のネタ作りにはね、やはり女の子が読んでいるような雑誌とか、見ているテレビとかの話題をキャッチしておくといいんだよ」「鈴さん、女の子向けの雑誌読んでるんですか?」僕はびっくりして言う。「時々図書館で目を通したり、立ち読みしたり。面白そうな時は買うけどね」「ああ、図書館はいいですね」
 
「会話の基本は相手の話を聞くことなんだよね。相槌の打ち方とか、僕と会話しながら少し練習するといいよ」「はい」「特に女の子はたくさんしゃべってその話を聞いてもらいたがっている子が多いから。勝手に話を要約したり、批評したりする必要は無い。ちゃんとこちらが聞いているということを相手に感じさせることが大事」「なるほど」
「女の子はしゃべっていること自体を楽しむけど、男の子は何か内容を伝えようとするんだよね。だからあゆちゃんが女の子側なら相手の話の筋を追う必要がある」「ああ」
 
「デートで行く場所で、よく映画館に行きたがる男の子がいるんだけど、映画館って最悪なんだよね」「え?そうなんですか?」「だってせっかく並んで座っているのに、おしゃべりできないでしょ」「あ・・・」「特に中高生とかはデートに使える時間が短いから、それを映画館でおしゃべりできない1時間半とか2時間を過ごすのはもったいない。お茶飲んだり、散歩したり、公園とかで座ってお話したりするのがいいよね」「そうか」
 
「けっこう歩いたかな。どこかで少し休もうか」「はい」
 
僕たちはドーナツ屋さんに入り、鈴さんはドーナツ2個とコーヒー、僕はドーナツ1個と紅茶を頼んだ。店内で座ってお話しする。
 
「うん、そのオーダーは問題無いよ。こういう時に、女の子がボリュームのあるもの、たとえば汁そばセットとか頼むと、相手の男の子はびびるから」「確かに」
「女の子のこういう時の食事の基本は少ししか食べないように見せて、あとで足りない分を補う」「あはは」「だから汁そばを食べたかったら単品で頼むか、セットで頼むけど肉まんは食べて、などと男の子に言う」「ああ、うまい」
「逆に男の子は少し多めに頼むくらいでも構わない。男の子がたくさん食べるのを見て気持ちよく感じる女の子は多いんだ」
「うーん。勉強になります」
鈴さんは、女の子の僕と男の子の僕の両方にアドバイスしてくれている感じだった。
 
僕はトイレに立った。もう女装外出4回目なので抵抗無く女子トイレに入る。中に入った時、個室から出てきた人物と目があった。「あっ」「あっ」見斗の元カノだ。「ね、少し話していい?」「はい」
この人ちょっと苦手なんだけど。
 
「男の子と一緒だったよね。新しい彼に乗り換えたの?」
「ごめんなさい。私、別に見斗さんの彼女じゃなかったんです。元カノに絡まれてるから、彼女の振りしてくれと頼まれちゃって」
「なるほどねえ、そんな気もしたのよね。あいつが考えそうなことだ」
「でもあのあと無理矢理キスされそうになって、たまたま人が通りかかって止めてくれたんですけど、絶交しました」
「うーん。そういう奴なんだよな、あいつは。でも止めてもらえてよかったね」
「ありがとうございます」
 
「じゃ。今一緒のテーブルで話していたのが、元々の彼氏?」
「すみません。あの人からも彼女の振りしてくれと頼まれて」
「ちょっと・・・あんた、その手の話、請け合いしすぎ」
「ごめんなさい」
「まあ、自分の身の安全は自分で守りなさいよ」
「はい、ありがとうございます」
「あんた、凄く可愛いからさ。そのうち本物の彼氏できるよ。焦らないでね。あ、名前は何だったっけ?」
どうもライバルではないと分かったとたん親切になった感じだ。
「あゆみです」
「私は夏希」
「あ、夏希さん、あの後、見斗さんとはどうなりました?」
「連絡取れないんだよね。捕まらないし、携帯の番号変えちゃったみたいだし」
「頑張って下さい」
「うん、ありがと」
夏希は、手を振ってトイレを出て行った。僕は個室に入った。
 
その日、僕と鈴さんはまた少し散歩し、しばらく公園でお話ししたあとでファミレスに行き、パフェを食べた。そして夕方5時に駅前で別れた。別れ際に鈴さんが姉に「今帰しました」というメールを打った。
 
自宅に戻ると、そろそろ夕食の時間だからと言われた。僕は着替えてこようとしたが、母が可愛いからそのままでいいと言い、僕は女の子の格好のままでその日の夕食をとった。「あゆむが女の子の服を着ると、そんなに可愛くなるとは思わなかったなあ」などと母はニコニコしながら言っている。
 
「それでお母さん、あゆむ、ちょっとサークルに参加するのにこの格好で来てと言われててさ。このあとも月に1回くらいこの格好で外出させるから」と姉が言う。「うん。いいよ、いいよ。何なら毎日女の子の服着て、そのままほんとの女の子になっちゃってもいいよ」などと母は笑顔で言っている。「私、娘が2人欲しかったのよねー。3歳頃まではけっこうスカート穿かせてたんだけど」
「それ僕、覚えない」「あ、私は覚えてるよ。男の子にスカート穿かせていいの?とか言ったら、お母さん、この子は、そのうちおちんちん切っちゃうからとか言ってた」「そうだった。切り忘れてたなあ」
 
「じゃ、今からおちんちん切っちゃう?」「ああ、いいね」「あれって年取ってから切ってもオカマにしかならないけど、若い内に切るとちゃんと女に見えるようになるんだよね」「テレビに出てるきれいな人いるね」「うん、あんな感じ」
「じゃ切っちゃお、切っちゃお」「じゃお風呂上がったらはさみでチョキンと。あ、金を切るからチョキンというのかな?」
 
姉はこの手のくだらないだじゃれが好きである。しかし、母と姉の会話はどこまで本気か分からず、僕は笑うしか無かった。その日お風呂から上がった時、僕は男物の下着を用意していたはずなのに女物の下着に換えられていて、はさみが置いてあり『セルフサービスでどうぞ』と書かれていた。僕はセルフサービスは遠慮することにして、苦笑いしながら女物の下着を身につけた。でも女物の下着って、なんか肌触りがいいよなあ、と僕はこの時チラッと思った。
 
女装が母にも公認になってしまったので、姉のタンスに入れられていた女物の下着は僕のタンスに引越になった。またスカートやパーカー、カットソーやセーターなど、僕のサイズの女の子服も僕のタンスに収納された。母は調子に乗って他にも僕用の女の子服を買ってきたので、いつの間にか僕のタンスは女物の比率が増えていった。僕はしばしば母達のリクエストに応えて、家の中で女の子の格好をしていた。
 
お風呂上がりにしばしば女物の下着とパジャマが置いてあるのはお約束になってしまったので、僕はよく女の子の格好で寝ていた。でもそれまで来ていた男物のシャツとブリーフに比べて、女物のショーツやブラジャー、キャミソールはどれも彩りがあり、可愛い花柄とか幾何学模様とかのプリントや刺繍があって、それを見ているだけでも楽しい気がした。僕はしばしば自分のタンスから下着を出して畳に並べてみて、これ可愛いよなと思うものを身につけてみたりしていた。刺繍の入った下着などを身につけると、自分の男の子意識が破壊されて、女の子意識に作り直される気分だった。
 
母は僕が普段使っていた茶碗と箸を女の子っぽい可愛いのに交換してしまった。「だって可愛いの見つけて。これあゆみにいいなと思っちゃったのよ」などと言っていた。同様にして毎日使うハンカチとかティッシュのパッケージも女の子っぽいのに変えられた。こういう日常の品が女の子仕様になると、女の子の服を着る以上に、自分の精神が女性化していく気がした。
 
鈴さんとのデートは毎月1回くらいのペースで続いていった。2度目のデートでは前回より凄く女っぽくなったと言われ、3度目のデートではもうほとんど女の子だと言われた。3度目のデートでは、遊園地に行ってたっぷり遊んだ。鈴さんも絶叫系が苦手というので、そういう系統ではないところに行ってソフトなアトラクションで楽しんだ。凄く楽しかったので、僕がちょっと何か感謝の気持ちを表したいなと思いながら鈴さんを見つめていたら、恋愛光線が出てる。やめてと言われた。あ、恋ってこんな感じの感情なのかな?と一瞬思った。
 
蘭が時々遊びに来ることがあって、僕たちは3人でガールズトークをしていた。もちろんそういう日も僕はちゃんと女装している。
「でもさ、萌、弟さんがいなかったけ?」「ん?いないよ。うちは妹だけだよ」
「そうか。誰か他んとこと勘違いしてたかな」僕は心の中で冷や汗を掻いていた。僕が鈴さんと時々デートしていることを知るとびっくりしていた。
「恋人の振りしてと頼まれて。しばらく恋愛せずに勉強に集中したいらしいです」
「まあ、鈴太郎なら、中学生相手に変なことしないだろうけど・・・あゆちゃんだって可愛いから、付き合いたいと思ってる男の子いるだろうし、大学生とデートしてるの見かけたらショックかもよ」
 
「えー?私も恋愛するつもりしばらくないですし」
「そう?でも最近すごくあゆちゃん、女っぽさが増してる感じだし。鈴太郎だって本人も中学生には欲情しないだろうと思って、あゆちゃんに偽装恋人を頼んだのかも知れないけど、ここまで色っぽくなってくると、ふらふらっということもあるかも知れないから、あまり隙を見せないようにね」
「はい。でも鈴さん、Hはあまり好きじゃないとか言ってました」
「Hが好きじゃない男なんているのかなあ」と蘭が言う。
「実は女だったりしてね」などと萌。
「いや、それはない。だって私鈴太郎と2回Hしたよ。あ。でも受け身のHだったなあ。もっぱら私がリードしたもん。私としてはそれが不満だったんだけどね」
なんだかきわどい話になってきたので、僕は顔を赤らめてしまった。
 
僕の家の中での女装は少しずつ頻度が増えていっていたが、一応学校には男の子の格好で行かなければならないので、朝8時から夕方5時くらいまではとりあえず男の子の格好でいた。しかし夏休みに突入すると、その歯止めが無くなってしまい、結果的に、ずっと1日中女の子の格好のままになってしまうこともあった。どうかすると数日女の子のままということもあり、母も姉も僕のことを「あゆみ」
と呼ぶようになっていた。買い物などで外出する時など、母からわざわざ女の子の服で行っておいでよと言われ、女の子仕様の外出着で出かけていた。いつしか僕にとって、女の子の服を着ている状態の方がむしろ日常になってしまった。でも夏の暑い空気の中を歩く時、ノースリーブの服や短いスカートは凄く快感だった。男の子の服って暑苦しいよね、と僕は思った。
夏休みに(女装で)図書館で調べ物をしていたら、同級生の女子3人と偶然遭遇した。「もしかして歩じゃないよね・・・」と、その中で小学校以来の友人の早貴が遠慮がちに声を掛けてきたので、僕は彼女たちに女装をカムアウトした。彼女たちは「うそ、可愛い!」「え?歩なの?女の子にしか見えない」などと言った。僕は一応趣味の女装と言った上で、4月から時々女装していて、夏休みに入ってからはほとんど女の子の格好と言ったら「それもう趣味とは言わない」
と言われた。
 
彼女たちとは図書館で各々借りたい本を借りたあと、町に出てマクドでおしゃべりした。「あゆ、雰囲気が普通の女の子と変わらないね」とか「女装している男の子に見えない。ほんとに女の子の感じだし」とか「女の子の格好してるほうが自然な気がする」などと言われた。「仕草が女っぽすぎる」とか「お化粧うまいじゃん」
などとも言われた。お化粧については姉からかなり鍛えられたので、この頃は、けっこうできるようになっていた。仕草はやはり鈴さんから指導されたのが大きい。
 
「おっぱいは本物?」と聞かれたので「シリコンパッドだよ」(最初は靴下だったのが、ウレタンパッド、シリコンパッドと進化していた)と言ったら、どれどれと言われて早貴に触られた。「触られた以上触り返す」といって僕が早貴のおっぱいに触ったら、そのあとは乱戦気味の触りっこ合戦になってしまった。でも、それで僕たちは仲良しになってしまった。「しかしふつう女の子に胸触られたからって女の子の胸を触り返す?」と早貴が言ったが「だって私も女の子だもん」と僕は開き直って答えた。
 
僕たちは、そのあとサンリオショップを覗いたり、一緒にプリクラを撮ったりしたあと「また一緒に遊ぼうよ。女装でまた出て来れる?」と聞かれたが「私はいつも女の子だよ」と言うと、彼女たちは少し顔を見合わせてから僕のことをふつうに女友達と思うからと言われた。その日はまた早貴とおっぱいの触りっこをして別れた。
 
僕は小学校の低学年までは女の子の友達の方が多かったのだけど、5-6年生になると、何となく話がしづらくなっていた。といって僕は男の子達の会話にはどうにも混ざれなかったので、5-6年生頃はほんとに孤独だった。それが中学に入っていきなり女装させられたあたりから、女の子の友人達と何となく会話をするようになっていたのであった(4-5月頃の僕について早貴は『男の子の壁が無い気がした』
と表現した)。でも学校で少し話していただけで、放課後一緒に遊ぶようなことは無かったが、この時以来彼女たちと遊んだり一緒に勉強したりするようになったし、そこから芋蔓式に他の女子の友人とも遊ぶ機会が増えていった。
 
特に早貴たちのグループとは夏休み中に何度も一緒に遊んだ。いつしか僕たちは4人セットで行動することが多くなった。彼女たちとはファッションのことやお化粧のことなどもたくさん話した。脱毛のことも色々教わって、僕は足の毛とかを日々きちんと処理するようになった。顔の毛はたぶん抜いたほうがいいよと言われて僕はヒゲは剃らずに毛抜きで抜くようになった。彼女たちから「あゆ、おっぱい小さいから大きくなるように牛乳毎日飲みなさい」と言われた。僕は本当に牛乳をよく飲むようになった。
 
彼女たちとは恋愛のこともたくさん話した。僕が大学生の男の子とデートのまねごとしていると言ったら、びっくりされた。デートスポットの情報とかを出すと彼女たちは興味深く聞いていた。「キスした?」とか「Hした?」と聞かれたけど「それはしないことにしてる」と言うと、「ぜひ一度やって感想聞かせて」などと言われた。「でもあゆヴァギナがないからHできないんじゃないの?」とひとりが言ったが「いや、入れるところはあるよ」と別の子に言われた。僕は意味がよく分からなかったが、自分にヴァギナがあったら、鈴さんとHも可能なんだな、などと思ったりした。この頃から自分自身「ほんとに女の子だったらいいのに」
と思うようになってきた。早貴が「あゆ、そのうち性転換するの?」と言った。
 
「あゆみ、今年中に性転換しない?」などと母からも時々言われた。僕はとりあえず笑っておいたが、性転換か・・・・などとけっこうマジに考えてしまう。性転換手術というのがどんな手術か最初の頃分かってなかったので、色々調べてみた。最初知った時はけっこうショックで、そんな手術受けたくない、と思った。それに手術を受けても子供は産めないことを知ると、哀しい気がした。でも少し時間がたつと、けっこう性転換について妄想するようになった。
 
妄想の中で僕は、ある日母から「今日はあんたの手術だよ」と言われて病院に連れて行かれる。お医者さんから診察しますと言われてあのあたりを触られ、乱暴に引っ張ったり握られたりする。そして「手術してしまうともう戻せませんよ。いいですね?」と言われて、僕がこくりと頷くと、裸にされ手術台に乗せられ、麻酔を掛けられメスを入れられる。タマタマが抜かれる。おちんちんが根本からチョキンと切り落とされる。タマタマもおちんちんもゴミ箱に捨てられてしまう。その付近の皮膚を縫い合わせて割れ目ちゃんが作られ、クリトリスやおしっこのの出る所やヴァギナもその中に設置される(このあたりのこと、特にヴァギナが実はよく分かっていない)。そして胸にはシリコンが埋め込まれておっぱいが作られ、完璧に女の子の体になってしまう。
 
そして麻酔から覚めた時、胸には豊かなバストがあり、おそるおそるあそこを触ると、もう何もないすっきりしたお股になっている。トイレに行くと割れ目からおしっこが出てくる。お風呂で丁寧にその割れ目ちゃんの所を洗う。鏡に自分の体を映すと、きれいな女体がそこにある。手術前は男部屋だったのが手術後は女部屋にベッドがあって、家族や同室の女性患者さんから「女の子になれてよかったね」と祝福を受ける。白いワンピースとか着て退院する。市役所に行って、性別変更届け?を書き、僕の戸籍が長男から次女に変更される。
 
そして僕は女子の制服を着て学校に行き「今日から女になりました」と挨拶する。休み時間、ホントに女の子になったの?と女子達に捕まり、女子更衣室で裸に剥かれ、きちんと女の子の体になってるか詳細に調べられる。「ちゃんと割れ目ちゃんもある」とか「おっぱい大きいじゃん。悔しい」とか言われる。
 
ビキニの水着に豊かな胸とすっきりしたお股をおさめてプールに行く所とか、温泉に行って女の子の友人達といっしょにお風呂に入る所とか、なぜか生理が来ちゃってナプキンを当てるところとかも想像する。男の人に抱かれる所も想像した。やはりその男の人って鈴さんだ。鈴さんのおちんちんが大きくなって、僕の体に入ってくる。。。。このHの場面はどうも細かい所が分からなかった。
 
こういう妄想をしていると、なんだか頭の中が凄く熱い気分になった。僕は女の子の格好をしている時は、ちんちんをいじる気になれず、結果的に4月以降、あまりオナニーをしなくなっていたが(特に女の子生活の比重が増えた夏休み以降は全くしていなかった)、自分の性転換を妄想すると、オナニーしていた時と似た感じの気分になれた。ただしおちんちんは大きくならなかった。こういう状態を「脳で逝く」と言うのだということはずいぶん後に知った。
 
9月になり、僕は13歳になった。家でのお誕生日のお祝いでは、しっかり可愛いドレスを着せられ、記念写真を撮られた。バースデイケーキにも「Happy BirthdayAyumi」と書かれた。学校が始まってしまったので学校には仕方なく学生服で行くけど、もう家の中では僕は女の子の服しか着なかった。学校に行く時も女の子の下着で、女の子の下着がタンスに入りきれないというとは母は「男の子の下着はもう要らないよね」と言われ、捨てられてしまった。この時僕はもう自分が男の子ではなくなってしまったような気がした。上着にしても学生服・学生ズボン・ワイシャツ以外の男物の服は全部処分されてしまった。放課後女友達と遊ぶ時は家で女の子の服に着替えてから出かけていた。
 
9月の鈴さんとのデート日。これが一応最後のデートなので、最初の予定では、これが終わったらもう女装はしなくてもいいはずだったのだけど、女装をやめるどころか既に僕の生活はほとんど女の子になってしまっていた。このデートを始める時、鈴さんから僕が女の子と付き合う時に、こういうデート経験は役立つと言われたのだけど、僕・・・・いや、僕はこの頃からふだんでも一人称を『私』
に変えた。私自身、いつか恋をする時、相手は女の子なのだろうか、男の子なのだろうかと、疑問を感じていた。
 
「13歳になったよね?おめでとう」と最初に言われた。誕生日を言ったのって4月の最初のデートの時だったのにちゃんと覚えてくれたことが嬉しくて「ありがとう」
と言った。その時に自然に出た仕草が自分でもすごく女の子っぽいと思った。鈴さんも一瞬ギクッとしたようだった。
 
「やっぱり13歳になると女の子は大人になるのかなあ」などと鈴さんは言った。鈴さんは時々私が男の子であることを忘れているかのような発言をすることがあった。
「ね、知ってる?あゆちゃん。日本の法律では13歳未満の女の子とHすると、お互い同意の上であっても男のほうが強姦罪に問われちゃうんだ」
「え〜?どうして。同意してるならいいと思うのに」
「だよね〜。13歳未満の子はHに関して判断能力が無いとみなされてるんだよね」
「でも昔は10歳や11歳で結婚していたのに。女の子は初潮が来たらもう1人前でよくないかなあ」
「けっこう社会的にはそうみなされること多いけどね。でもあゆちゃんも、13歳になったから、法的に一人前になった。生理はもう来てるよね・・・あ」
「私、生理まだです」
「ごめん、一瞬、あゆちゃんのこと、女の子だと思っちゃった」
「デートしている間は私、女の子ですよ。Hできないの残念だけど」
「Hしちゃったら、萌さんに告訴されるよ」
 
その日は最後のデートということで、ゆっくり話せるのがいいよねということになり、カフェでお茶を飲んだ後、レンタカーを借りてドライブデートになった。鈴さん運転の車に乗るのは初めてだったけど、助手席に乗っているというのが、ほんとうに鈴さんの彼女になった気分で、なんとなく私は嬉しかった。
 
海岸をドライブして、海辺のレストランで食事をする。鈴さんはデートの時の話題作りとか、会話のポイントとかで、気をつけておいたほうがいいことを再度教えてくれた。鈴さんが教えてくれる内容は、男の子側・女の子側の双方に及んでいた。鈴さんって、ほんとに男の子の気持ち、女の子の気持ちの両方が分かってるんだな。さすがもてる人は違うな、などと私は思っていた。
 
4時になったので、そろそろ帰ろうと言われた。
ああ、これでデートも最後なのか、と思うと私は寂しい気分になった。鈴さんの車の助手席に乗る。車は帰路に就く。
 
「鈴さん・・・」
「なあに?」
「私、まだ帰りたくない。このままお別れなんて嫌」
「君・・・・もしかして僕のこと・・・・」
「好きになっちゃったみたいです。ごめんなさい。恋愛関係にならないように私を選んでくださったのに」
私はほんとに鈴さんの恋人になりたい気分になっていた。
 
「ね。ホテルとかに行きませんか?」私は思いきって言った。
「あゆちゃん、ホテルでどんなことするのか知ってるの?」
「よくは分からないけど、鈴さんが気持ちよくなること私のできる範囲でしてあげたい」
「でも萌さんと約束したからなあ」
「黙っていれば平気です」
「困った子だね」
「ごめんなさい。私、悪い子です」
鈴さんは少し考えていた風だったが、やがて
「分かった。じゃ今からのことはふたりだけの秘密だよ」と言った。
「はい」
 
鈴さんは時計を見ながら進路を変え、やがて海辺の素敵な感じのホテルに車を乗り付けた。玄関からボーイが出てくる。え?高そう・・・・
 
フロントで手続きをして、やがて部屋に案内される。
見晴らしのいいダブルルームだった。
 
「ごめんなさい。ここ高そう」
「というか、あまり安いホテルには行きたくない気分だった。あゆちゃんとの秘め事をするのにはね」
「すみません」
「謝る必要は無いよ。僕もあゆちゃんのこと、好きになっちゃったし」
「ほんとに?」
「ほんとに」というと鈴さんは私の唇にキスをした。
頭の中が沸騰する・・・・
「先にシャワー浴びておいで」「はい」
私は自分のお股とか胸とかをよく洗った。お股によけいなものがあって、ヴァギナが無いのが悲しい。おっぱいが無いのが悲しい。そんな気持ちを持ってしまった自分を認識して、あ、自分はほんとに女の子になりたいんだと感じた。
 
「ベッドの中で待ってて」と言われて私は裸のままベッドに入って待った。カーテンは閉めてあって、灯りも消されている。
 
しばらく待っているとバスルームの扉が開き、鈴さんがベッドの横に立った。その時、私はあれ?と思った。何か違和感があった。
 
ベッドに入ってきて、キスをされて。それから抱きしめられた。え?何これ?
「鈴さん、まさか・・・・」
「うん、僕は女の子なんだ」
えー!?うそ。だって蘭はセックスしたって言ってたのに!
 
そのことを言うと、鈴さんは照れながら説明した。
「実はゴールデンウィークにタイに行って性転換手術を受けてきた。だから蘭ちゃんとのセックスは僕にとって男の子としての最後のセックスになった。あ、ごめん女言葉に変えていい?」
「はい」
「それでね、私少しだけ嘘ついてたの。女の子を遠ざけておきたかったのは、勉強に集中したいというのもあったけど、もう女の子とはセックスできない体にしてしまう予定だったからと、手術のあとしばらくはHなんてできないから、体が落ち着くまで待ちたかったこともあったのよ」
鈴さんは口調が変わると同時に声のトーンも少し変えてきた。
男の子の鈴さんも優しかったけど、女の子になった鈴さんは物凄く優しそうだった。
 
「ね、私が女の子だったら、もう私のこと嫌いになった?」
私は何も迷わなかった。
「いえ、好きです」
「じゃ、今からセックスする?」
「鈴さんがよければしたいです」
「じゃ、私があゆちゃんに最後に教えてあげられること。セックスの仕方」
「はい。あ、私コンドーム付けます」
「持ってるの?」と鈴さんが驚いたように言う。
 
「実は蘭さんが、持たせてくれたんです。蘭さんは私が女の子と思ってるから、Hすることになった時、私の相手の人に付けてもらうようにだったんですけど」
「じゃ、あゆちゃんが付けるといいね」
「はい」
 

どのくらい時間経過したかは分からなかったけど、私は疲れ果ててしまい、しかもおちんちんが小さくなってしまった。立てようとするけど立たない。
 
「ごめん。これもうダメみたい」
私は挿入することはできたけど、結局射精することができなかった。
かなりしていたので腰が痛い。Hの時男の子は腰を動かすんだよと教えられて頑張ったのだけど、凄くしんどかった。男の子って大変なんだなと私は思った。
 
「いいのよ。最初のセックスでちゃんと最後までできる人なんてそうそういないから」
「そうなの?」
「あゆが次に他の女の子とHする時は、きっともっとうまくできるよ。でもこんなことしといて言う話じゃないけど、高校くらいまでHは控えようね」
「うん。そうする」
「さ、シャワー浴びて帰ろうか」
「そうね」
「一緒にシャワー浴びる?」「うん!」
 
浴室で一緒にシャワーを浴びた。鈴のきれいな女体を目にする。あ、そうそう。鈴は「こんな関係になった以上他人行儀な呼び方はやめよう」と言って、私達は『鈴』『あゆ』と呼び捨てするようになった。言葉も敬語を使うのはやめた。
 
「おっぱい大きくていいなあ」「ふふ。あゆもおっぱい欲しい?」
「欲しい。鈴、お股もすっきりしていていいなあ」
「そりゃ、そういう形にする手術受けたから。あゆも手術受けたい?」
「実は性転換手術されるところをよく妄想するの。でもヴァギナのあたりの女の子の構造がよく分かってなくて。それが今日分かっちゃった」
「うん。そのあたりは自分が手術受ける前に知っておいたほうがいい・でもあゆ、すっかり女の子になりたくなっちゃったみたいね」
 
「私、元々そうだった気がする。小学1-2年生の頃ってこっそりお姉ちゃんのスカート穿いたりしてた。小学5-6年の頃は無理に男の子になろうとしてたのかも」
「半年付き合って思ってたけど、あゆって性格が優しいよね。それにとても可愛いし。男の子にしちゃうのホントにもったいない。女の子になるのなら素敵な女の子になれると思うよ」
 
「あ」
「どうしたの?」
「私の女装見破られた時に、鈴が高校の同級生で女の子になりたい男の子がいたからって言ってたけど」
「そう、私自身のこと」
「そうだったのか!」
「ねえ、女の子のことで、これからも時々相談していい?」
「萌さんから叱られなかったらね」
「今日のことは黙ってるから大丈夫」
「ふふ」
 
その日は鈴は車で私を自宅まで送ってくれた。到着したのが6時半で、鈴は玄関まで入り、姉に30分超過したことを謝っていた。姉はこのくらいは許容範囲といって笑っていた。しかし、私と鈴の間にあった微妙な空気を感じ取ったようだった。
 
「ね。あゆみ、何もしなかったよね、鈴太郎さんと」
「何もしてないよ」
「ちょっと怪しいなあ。ま、いっか。危害は加えられてないみたいだし」
 
鈴はぼくとのデートの翌週の10月初旬、女の子の格好で大学に出て行き、みんなの度肝を抜いた。彼女がいるみたいということは噂として広がっていたが、それでも鈴を狙っていた女の子は何人もいたので、かなりのショックだったようであった。後から鈴は、私とのHでカムアウトする気になった、というより、学校には男の子の格好で行き、プライベートでは女の子の格好という高1の頃からの二重生活を解消する気になったのだと言ってた。
 
「先週のあゆみの様子が変だったのは、このせいか」
帰宅してきてから姉は私にそう聞いた。
「うん。鈴がゴールデンウィークに女の子に性転換しちゃったって、先週のデートで聞いた。最後のほうは、女の子2人の町歩きという感じになったんだよ」
「なるほどねえ。でもこれだともう偽装デートをする必要もないね」
「うん。でも鈴とお友達になりましょうって言った。私、連絡したり、また遊んだりするのはいいよね」
実は今月末にもまた一緒にお出かけすることを約束している。Hはしないし、今度からは女同士のお出かけだけど。
 
「まあ、女の子同士なんだから、構わないんじゃない?あ、費用は割り勘でね」
姉は私のことを最近ほとんど女の子扱いしていた。
「あれ?あんた鈴を呼び捨てするようになったんだ」
「うん。向こうもあゆって呼び捨てだよ」
「まあ、私もだけどね」
 
姉は姉で女の子同士になってしまったということで即女友達になり、お互い呼び捨てする関係になったらしい。向こうも「萌」と呼び捨てとのこと。ちゃんとおっぱいの触りっこもしたと言っていた。女の子っておっぱいを触りっこしたら友達になるんだろうか??私と鈴は触りっこ以上のことしたからいいよね。。。。
 
「でも今朝の事件はめったに見られるものではなかったわ」と姉は言う。
「一時限目が出席をとる授業でさ、鈴が入ってきた時、『あれ?こんな可愛い子いたっけ?』と思ったのよね。それで点呼が始まって、『川口鈴太郎君』と呼ばれた時にその子が「はい」と返事するじゃん。教官もあれ?って顔して『川口鈴太郎君なの?君女性に見えるけど』と聞いたら『間違いなく本人です』
と言うから、教室パニックになって5分くらい点呼中断。でも教官偉いわあ。静かにしなさいと言って『本人なら問題ありません』と言って、何事もなかったかのように点呼の続きをした」
「なかなか肝の据わった教官だね」と私は笑って答えた。
 
なお戸籍上の性別は20歳になるまで変更できないので当面男のままらしいが名前は「鈴子(りんこ)」に改名する手続きを進めているらしかった。法的な改名ができたら学籍簿上の名前も変更することになるのだろう。
 
「しかし金の週間に金を取ったのか」などと姉は下手なだじゃれを言っている。
「合コンに誘っちゃおうかな。女子側のメンツは、私と蘭と鈴とあんたと」
「それ、さすがに地雷多すぎだよ」
と私は苦笑した。
 
その時、私はふと思った。あの合コンの時に、鈴のほうが男の子のグレードとして高そうな気がしたのに、姉がそちらより見斗さん狙いに行ったのは、鈴が『男の子ではない』ことを直感的に感じ取っていたからかも知れないと。
 
見斗さんといえば、私はあの後、もう一度夏希さんに会った。見斗さんを再度口説き落とし更に同棲を始めたと言っていた。しっかり監視して浮気しないようにするんだから、などと言っていた。ああいうルーズな男の人がああいう強気な女の人にちゃんと管理されていると世の中のためにいいかも知れない気がした。
 
「でも鈴、男の子としても美形だったけど、女の子になると美人だわあ。見た瞬間、負けたと思ったもん。あゆみも女の子姿の鈴を見たんでしょ?」
「うん」と私は答えた。
もっとも私は正確には女の子の服装をした鈴は見てない。女の子の裸の鈴を見たんだけど、さすがにそれは言えない。普通の女の子姿で会うのは月末だ。
 
「あ、そうか、あゆみにとっては、性転換の先輩にもなるわけね」
「うん。それについても色々相談したくて」
「ふーん。。。。とうとうあんたも性転換する気になってきたか」
「私が女の子になっちゃってもいい?」
「あゆみ、既に女の子になっちゃってるよ」
「うん。でも・・・」
「女の子の体になりたい?」
「うん。むしろ男の子の体になりたくない。私、声変わりが来る前に
女性ホルモン飲みたい」
「女性ホルモンか。。。。でも1度でも飲んだらもう後戻りできないよ」
「うん。分かってる」
 
実はもう後戻りできなくなっている気はしていた。あの時は鈴が凄く巧かったから(フェラしてもらったし)、私のおちんちんは立ったけど、あの後、自分ではどうやっても立たなかった。長くオナニーしてなかったし、いつもピッチリしたショーツで押さえつけてるから男の子の機能が弱まっているのかも知れない。それにここしばらく足の毛は処理してないのに処理する必要がない程度の薄い毛が生えているだけだし、顔の毛も週に1度程度の処理で済んでいる。
 
「母ちゃんはあんたに性転換しちゃいなとかよく言ってるけど、どこまで本気なのか、あれよく分からないよね」
「うん」
「まあ、自分の気持ちが固まったら、ちゃんと母ちゃんに言いな。その時は、私も応援してあげるから」
「ありがとう」
 
しかし、鈴にとって、私とのHは、女の子になって最初のHだったんだなと私は思った。そして、あのHは私にとって、男の子としての最初のHで、同時に最後のHかも知れないという気がした。
 
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【あなたが言ったから合コンの日】(後編)