【サンタガール】

目次
「君のことが好きなんだ」
彼女は答えなかった。
「私、行くね」
彼女はベンチから立ち上がると走って行ってしまった。
ふられた・・・・充分マユちゃんとは親しくなっていると思っていた。
恋愛なのか友情なのか自分でもよく分からなかったけど、もっともっと彼女と一緒にいろいろ楽しく話していたいと思った。それでボクは告白した。
でもマユちゃんの返事は「御免なさい。ゆっくんとはお友達でいたいの」
ボクは掌から砂がこぼれていくような感覚に襲われていた。
その砂は確かに自分のものだと思っていたのに。
今夜はひょっとしたらHまでいくかも知れないと思って、実は生まれてはじめて避妊具を買っていた。あれも使うことのないままになるのかな。
ボクは長く立ち上がれなかった。
いろんな思いが脳内を駆け巡って、すごく辛かった。
「君君、大丈夫?」
突然声を掛けられて顔を上げると、懐中電灯を持った警官だった。
「あ、すみません。疲れたので少し休んでいました。もう行きます」
ボクはようやく立ち上がった。
「飲み過ぎかい?気を付けて帰れよ。飲んでるなら運転しちゃダメだよ」
「はい、タクシーで帰ります」
「それに夜更けに公園で女性がひとりでいるのは危険だから」
女性?あ、そうか。また女の子に間違われたのか。髪は長くしてるけど。
でもまあ、女の子と誤解されるのは子供の頃からのことでもある。
「ありがとうございます。すぐそこが大通りだから大丈夫だと思います」
「うん、気を付けてね」
自分は男ですと説明するのも面倒だと思ったので、ボクは素直にそう答えると、大通りの方へと歩いていった。コンビニでビールでも買って帰ろうかな。
お酒弱いから、めったにアルコールなんて買わないけど、今日は飲める気がした。

コンビニでビールを買っていたら、レジのそばにバイト情報誌が目に入った。
バイトか・・・・彼女と交際成立していたら、クリスマスイブや正月はふたりで熱い1夜を過ごすことになるかもしれないしと、この冬休み、バイトは入れてなかった。
バイトでもしようかな・・・・・ひとりでクリスマス過ごしたくないし。
ボクはそのフリーペーパーを取ると、持ち帰ってアパートでビールを飲みながら眺めていた。正確にはビール缶を開けたまま眺めていた。一口だけは飲んだけど、あとは身体が受け付けなかった。辛い気持ちが頭の中を駆け巡っていた。
「クリスマスケーキの配達か・・・・問合せ夜22時まで??」
時計を見ると21時58分だった。思わずその番号に電話してみる。
「夜分恐れ入ります。高木と申しますが、☆☆バイト情報で見たのですが、クリスマスケーキの配達のバイトまだ受け付けてますか?」
「えっと、大学生?」「はい」
「運転免許持ってる?MT車運転できるやつ」
「はい。最初ATで取りましたが、限定解除したのでMT運転できます」
「ん。じゃ−、明日にも履歴書持ってきてみて。朝9時くらいがいいかな」
「はい、よろしくお願いします」
ボクは少しだけ気持ちが軽くなった気がした。とにかく明日することができたから。
ボクは一口しか飲んでないビールを台所に片付けるとそのまま布団に潜り込んだ。

朝起きるとボクは鏡を見ながらひげを抜くと、身支度を調えてアパートを出た。
ひげは剃ると剃り跡が嫌なのでいつも抜いていた。今日の服は、黒いストレッチジーンズに、青いセーター。それにダウンコート。ジーンズは実はレディスだ。
メンズのはどうしてもサイズが合わなくて着られない。ウェストで合わせるとヒップが足りず、ヒップに合うものにすると大幅にウェストが余る。そんなことを学校で話していたら、同級生の女の子が「じゃ、ひょっとしてレディスで合うのでは?」と言われてドキドキしながら買って来てみたら、W63cmのレディスジーンズでぴたりと合った。それまでは76cmのメンズのをはいて、ウェストが大量に余るのをベルトで落ちないようにして無理矢理着ていたのが、とても自然に穿けたので重宝していた。ただしストレッチでないと微妙にサイズが合わない場合もあるので、最近はストレッチタイプばかりである。お店で試着して買えばいいのだろうけど、レディスのを試着させてもらう勇気が無かった。

お店は「準備中」の札が掛かっていたが、中に人がいるようだったし、鍵もかかっていなかったので、開けて中に入った。時計を見ると8:50だった。
「おはよう御座います。昨夜電話したバイト志望の高木と申します」
「ああ、早かったね。そこ座って。面接しよう」
店長さんという人に促されて席に座り、クリアファイルに挟んできた履歴書を出し色々話をした。感じのいい人だった。ああ、こんな所で働きたいと思った。
「おっけー。採用しよう。今日からできる?」
「はい、頑張ります」
「配達の衣装がサンタ服でね。これ、うちの売りになっているので、よろしくね。
サイズがSMLあるので、どれが合うかそちらの部屋で合わせてみてくれる?君なら細いからSでも行けそうな感じだなあ。ウェスト何cmの服着てる?」
「63cmです」と答えてからしまったと思う。それレディスでのサイズだからメンズなら76cmにしないと・・・・と思って言い直そうとする前に「じゃSで行けそうだ。みゆきちゃーん」と店長は席をたって中にいる女性に声を掛けた。27〜28歳くらいの女性が出てくる。
「制服のSのストック、まだあったかな?」
「Sならありますよ。Sだけ残ってるというか。取り敢えず着てもらいましょう」
みゆきと呼ばれた女性は私に来るようにいうと、スタッフルームと書かれた部屋に私を誘導し、棚の上から紙袋をおろした。
「これ、着てみてくれる。あ、ごめん名前なんだったっけ?」「高木です」
「下の名前は?」「裕(ゆう)です」
「じゃ、ゆうちゃんでいい?私は佐藤みゆきだけど、みゆきちゃんでいいよ」
「あ、はい」
「じゃ着てみたら呼んでね」といってみゆきちゃんは部屋を出て行く。
ボクは袋から制服・・・・を出して、着てみようとした・・・・が!?ボクは困ってしまって、袋に服を戻しドアを開けて、みゆきちゃんに声を掛けた。
「あの、すみません」
「どうかした?」
「これ、女の子用の制服みたいなんですけど」
「え?それが何か?」みゆきちゃんがキョトンとしている。それで分かった。
そうか。女の子と思われてしまったのか。
「すみません。ボク男なので。。。」
「え!?」 みゆきちゃんはびっくりした顔で、店長を呼んだ。
「え?君、男だったの」店長が驚いたような声で言う。「はい」
「あのさ。このバイト女子のみの募集だったんだけど」
「え、ごめんなさい。見落としていたみたいです」
ふられたショックとビール飲んでいたので気づかなかったんだ。恥ずかし−。
「すまないけど、この店は女の子サンタの配達員がケーキを宅配して、そこの家の人と記念写真も撮るというシステムなので、男子では困るのよ」
「ごめんなさい」
私が制服の袋をそばのカウンターに置き、一礼して店を出ようとした時に、みゆきちゃんが店長に声を掛けた。
「でも店長、この子、私全然女の子としか思いませんでしたよ」
「うん、俺もてっきり女の子と思っていた。  ああ、履歴書の性別は男になってるね。気づかなかったなあ」
「さっちーが26日まで来れなくなっちゃったでしょう。人手が足りないです。
ゆうちゃん、雰囲気いいし、この子がいたら何とかなるかなと思ったんですよ。
うちの宅配って置いてさよならじゃないから1軒あたり時間がかかるんです」
「ふむ。なるほど、その手か」
「ええ。ゆうちゃんがサンタガールの衣装で宅配してまわっても、お客さん誰も男が来たとは思いません」
「たしかに」
え?まさか?店長はおもむろにボクのほうに向かって訊いた。
「ね、君このバイトやってくれる気無い?服はそのサンタガールの衣装。
トナカイさんのカチューシャ付き。女の子仕様なのでフリルのスカートだけど」
「もしかして女の子で通すと・・・・」
「うん。もし君さえ良ければ」
「やります」
ボクは即答していた。え?なぜボクは同意しちゃったの??「助かるよ。でも絶対条件はバイト中は女の子として行動すること。
君のその声なら中性的だから、充分女の子と思ってもらえると思う。
でも女らしい動作を気を付けて。万一男とバレちゃうと大問題だから」
「ゆうちゃんなら大丈夫ですよ」
「でも少しメイクしたほうがいいかな」
「髪型ももう少し可愛く整えて、眉毛も細くしたほうがいいな。そうだ。
美容室で整えてもらって、メイクもしてもらっちゃうといいかも」
「おっけー。美容室代は俺のポケットマネーで出すから、みゆきちゃん、彼女−彼女と言うよ、君はもう女の子だから、この店では−彼女を連れて美容室、行ってきてよ」
「了解です。ゆうちゃん行こう」

ボクはみゆきちゃんの運転する車に乗って、おしゃれな感じの美容室に行った。みゆきちゃんから、女の子で通すのに一人称を「ボク」ではなく「わたし」にしてと言われた。美容室まで行く途中の車の中で何度も「わたし、○○です」と声に出して言う練習をさせられた。
なんかすごく恥ずかしい。
でもずっと言っていると、なんとなく慣れてきた。
美容室では髪を少し切られて、軽くパーマを掛けられ、前髪も眉毛くらいのところで揃えて、カールするようにされた。凄く女の子っぽい。
きゃー。こんな髪型にしちゃって、ボク・・いやわたしと言わなくっちゃ。
わたし普段の生活どうしたらいいのかしら?(女の子の言葉ってこんな感じ?)眉毛もほとんど削られて凄く細くなった。更にはメイク!ひぇー。こんなの初めて。
1時間ほどの間に物凄く女の子っぽくなったわたしを見て、みゆきちゃんが呆れたように言う。「うちの店のチームでいちばんの美人になっちゃったよ。
妬んじゃうくらい。たくさん配達先入れるから頑張ってね」
「はい」わたしは少し頬を赤らめながら言った。
「ねえ、ふだんから女の子の服着たりしてないの?」「女装は初めてです」
「じゃ、女の子の下着とかも持ってないよね」「そんなの持ってません」
「じゃ、それ買いに行こう。店長からその分のお金ももらってるから」
「えー?女の子の下着つけるんですか?」
「だってサンタガールの衣装の下に男物の下着付けてて、何かで見られたら困るし。
普段から女子用下着付けてるんなら、それを付けてもらえばいいけど、持ってないなら、お店の費用で買っちゃうから、バイト中はそれを付けてくれる?」
「はい」
みゆきちゃんに連れられてスーパーの女性用下着コーナーに行った。
きゃー、こんな所歩くだけでも恥ずかしい。
「ゆうちゃん、細いからなあ。ブラはたぶん70くらいでいいかな。
カップサイズはCにしようか。」
ブラのサイズなんて、さっぱり分からないからお任せである。
「C65とC70を1枚ずつ買ってみようか。実際につけてみて合いそうなほうを少し買い足すことにして。さすがに試着できないしなあ」
「それと、これ付けてね」と言われてみゆきちゃんが選んだのはガードルだ。
「万一、バイト中にいたずらん坊が起っきしちゃうとやばいからさ。
これで押さえておいてくれるかな」
みゆきちゃんは一通りの下着を買うとわたしにその袋を渡して「ちょっとトイレに入ってこれつけてみてきて」と言った。
「えー今ですか?」
「だって今日の午後から配達してもらうよ」「はい」
私がその袋を持って男子トイレに入って行こうとすると走ってきたみゆきちゃんと取り押さえられた。
「待った。君は女子トイレ」
かあ。。。。女子トイレ。
そうか女で通すからにはトイレも女子用に入るのか! ひぇー。
わたしは躊躇ったけど、仕方ないと思い直すと勇気を出して女子トイレに入った。
痴漢!とかいって騒がれないだろうか。ドキドキ。
中に入ると男子トイレで見慣れた小便器が無い。個室のドアだけが並んでいる。
不思議な感じだ。身近に存在していたはずなのに、今まで知らなかった世界だ。
手洗いのところでお化粧を直している人がいる。
個室の並んでいる手前で3人ほどの若い女性が並んでいた。
私はできるだけ他の人と顔を合わせないようにして、行列の後ろに並んだ。
男とバレたら・・・あ、でもお化粧してるんだった。じゃ大丈夫かな。
自分の順番が来るまで、ほんとに心臓がどきどきして息苦しいくらいだった。
列の先頭になり個室のドアが開くと、わたしはその中に飛び込み大きく息をした。
とてもきれい。
男子トイレで個室に入る頻度ってそう無いので、このスーパーでは個室に入ったことなかった。しかしこの個室はとてもおしゃれな感じのデザインになっている。
ストッキング交換にお使い下さいと書かれた台がある。そこで着替えればいいのか。
服を全部脱いで、まずパンティーを穿く。こんな小さいのが入るのか?と思ったらちゃんと入った。でも・・・・飛び出しちゃう。どうしよう。
そうだ、下に向けてみよう。 入った。でも膨らみが何か変。
こんな膨らみ、無ければきれいに穿けるのに・・・邪魔だなあ。
でもまさか取るわけにはもいかないし。
ガードルを穿いた。きつい。でもこれなら大きくなっても目立たないかな。
ブラジャー・・・・どうやって付けるんだ。
そうだ。母ちゃんは前でホックとめてぐるっと180度回してたな。
C65で行ける感じだった。C70では少しゆるい。
でも・・・・カップがこんなに飛び出していて・・・・・ひぃー。
ほんとはここにバストが収まるんだよな。わたし胸無いし・・・・などと思ったりすると、ちょっと変な気分になってきた。
子供の頃から女の子とよく間違われていたから、小学生の頃は同級生から、性転換すればいいのに、なんて言われたこともある。そんな頃を思い出していた。
小学2〜3年生の頃までは女の子の友達のほうが多かったけど、思春期になる頃につれ、女の子たちとは少しずつ疎遠になった。
でも男の子とはあまり話が合わなくて、友達が少なくなった。
わたしは女の子の下着をつけた上に、自分の上着を着ると、今まで着ていた下着をまとめてトイレの外に出た。
「お待たせしました。C65で良かったです」
「了解。少し買い足して行こうね。ショーツはSで良かった?」「はい」
「じゃ5セットくらい買っていこう」
そのあとみゆきちゃんに連れられて私は化粧品売場に行き、何点か化粧品を買ってもらった。説明されたけど、さっぱり分からない。
「じゃ、メイクは私がしてあげるから、これ一応持ち歩いてね」「はい」
「じゃ、御飯食べてから、お店に戻ろう。配達は3時からだから少し休めるよ」
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