【みずほのくにのものがたり】櫛名田姫

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高天原(たかまがはら)を追放された須佐之男命(すさのおのみこと)は地上に降りると、やがて出雲の国の肥川の所までやってきました。その時、川上から箸が流れてきたので、誰か人が住んでいるようだと思い、川に沿って上って行かれました。
 
するとそこに小さな村がありましたが、なぜか雰囲気が暗い感じです。通行人も須佐之男命の姿を見ても視線をそらして、そそくさと行ってしまいます。この村は一体どうしたのだろう?と不審がり、歩いておられますと、やがてひとつの家から年寄りの泣く声が聞こえてきました。須佐之男命は心配して、そこに行って声をおかけになりました。「お前たち、何を泣いているのだ」
 
そこには年老いた夫婦と、その娘か孫かと思える美しい姫が一緒に抱き合って泣いていました。
 
■八股大蛇
 
年老いた男は足名椎(あしなづち)、その妻は手名椎(てなづち)、娘は櫛名田姫(くしなだひめ)と名乗りました。涙を流しながら、足名椎が説明したことによると、この村には毎年巨大な怪物がやってきては、人身御供に娘を取って食うのだといいます。二人の間の娘は最初は8人いたものが、毎年一人ずつ食べられて、とうとう今年はこの末娘の番になってしまったのだといいます。
 
「それはどんな怪物なのですか?」と須佐之男命が訊きますと「それは八股大蛇(やまたのおろち)と私たちは申しております。ひとつの身体に8つの頭と8つの尾があり、あまりの大きさに身体にはたくさんの大木が生えていますし、その大きさは8つの山と谷を越えるほどあります」と言いました。
 
■酔わせて倒す
 
ここで須佐之男命は自分の身分を明かしました。「私は天照大神の弟の須佐之男命だ。私がその怪物を倒してやるから協力しろ」とおっしゃり、八股大蛇の身体の大きさにあわせて8つの門を作り、その中に桟敷を作ってそこにそれぞれ大きな酒樽を置きなさい、とおっしゃいました。老夫婦は相手が神様と知ってかしこまってさっそく動き始めました。娘の方は自分の命もあとわずかと思っていたのが、もしかしたら助かるかも知れないと希望が出てきたとともに、さすがに神様らしいとてもお美しい須佐之男命の美男子ぶりに、ぽぉっと頬を赤らめていました。
 
やがて八股大蛇が来る時期が来ました。須佐之男命は人身御供役の櫛名田姫に呪文を掛けて、櫛に変身させると、自分の髪に刺し、自ら姫の服を着て女装なさって、人身御供の箱の中に入って大蛇を待ちました。元のヒゲや体毛の濃い須佐之男命であれば女装は大変だったかも知れませんが、意外な所で高天原追放の罰が役に立ちました。
 
そのうち巨大なものが地面を引きずる男が響いてきます。「来たな」須佐之男命もさすがに緊張します。しかし八股大蛇は人身御供の箱に行く前に近くでぷんぷん酒の匂いがするのに気付くと、8つの頭をそれぞれ8つの門に差し込み、その中にあった酒樽の中の酒を飲み始めました。中には須佐之男命の指示でアルコール度の高い蒸留酒が入っています。するとさすがに8つ頭でそれぞれ飲んでしまうと、飲み過ぎて眠ってしまいました。
 
ここで須佐之男命は箱から飛び出し、持っていた太刀・天蝿折(あめのははきり)で大蛇をズタズタに切り刻んでしまいました。こうして須佐之男命は八股大蛇を倒したのです。この時、大蛇の尾の1本を切っていた時に、刀が何か硬いものに当たるのに気付かれました。そこを丁寧に切り出してみると、そこから立派な刀が一振り出てきました。これは立派な物だと感動され、丁寧に洗って整えられ、使いをやって高天原の天照大神に献上なさいました。これが現在では名古屋の熱田神宮に伝わる天叢雲剣(あめのむらくものつるぎ)です。
 
■結婚する
 
八股大蛇を倒した須佐之男命は村人全てから感謝され、この村に留まって、櫛名田姫と結婚することになりました。須賀(現・須賀神社)の地に八重の垣根をめぐらした立派なお屋敷を建て、そこに姫と一緒に暮らしました。この「須賀」という地名は、この時に須佐之男命が「すがすがしい場所だなぁ」とおっしゃったことによります。そして、このような歌をお詠みになりました。
 
八雲立つ出雲八重垣妻籠みに八重垣作るその八重垣を
 
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