【ファロスよさらば-Farewell to Phallus】(下)

目次
 
意識を回復すると、病室のベッドにいた。まだ麻酔が切れてないみたいで、特に下半身の感覚が無い。医師が来ていろいろ検査をしていたが「順調ですね」
と言われた。やがて麻酔が切れたが、思ったほど痛くもなかったので少しホッとした。
 
手術の翌日、初めて自分の股間を見た。きゃー!女の子の股間になってる! 
今まであったファロスとサックが無くなり、代わりに縦の割れ目が出来ている。
小学6年生のお正月以来、ファロスの付いてない状態を長く経験していたが、その時は真っ平らな股間におしっこの出る穴が開いているだけだったが、女の子の股間は割れ目があって、その中におしっこの出る穴がある。そしてその向こうには新しくマロスが形成されている。現在そのマロスには詰め物がされていた。女性医師が検査に来て、その詰め物を交換して消毒していた。
 
「一週間後にはシャワーしてもいいようになりますから」
「はい」
「明日までは導尿します。その後はふつうにおしっこできるようになりますが、ファロス切断状態でおしっこするのと同じ要領ですから問題ないですよね?」
「はい、問題無いと思います」
「1ヶ月くらいはおしっこした後、毎回消毒してください」
「はい」
 
一週間後には今度は豊胸手術を受けた。マロプラスティーは思ったより痛くなかったものの、豊胸手術はかなり痛くて、僕は手術のあと3日ほど痛みに耐え続けた。
 
「みなさん、こちらの方を痛がりますね。マロスを作る手術は覚悟を決めて受けるけど、豊胸は軽い気持ちで手術室に行って、激痛と共に戻ってくる感じ」
と担当の看護婦さんが笑顔で言う。
 
「あはは、まさにそんな感じです」
と僕は答えた。
 
そしてその更に一週間後には喉仏を削る手術を受けた。これは翌日には退院できるということだった。2週間の入院生活で、僕は完全に女の子の身体になってしまった。
 

退院した後、僕は管理局の女性に伴われて、新しく女性になった人のための学校に入ることになった。宿舎付きで、ここで3ヶ月間、女性としての教育を受けることになる。
 
病院を出る時は、フレアースカートを支給された。病院内では下着は手術後、これまでの前開きのあるブリーフではなく、ファロス切断時に穿いていたのと同様の、前開きの無いショーツを穿いていたが、その上は病院用寝間着だった。退院にともなって普通の服になるので、これまでならズボンだがもう女性の身体になってしまったので、女性だけが穿けるフレアースカートになる。
逆にもうズボンを穿くことは一生無いのだろう。
 
フレアースカートは、男性時代にたくさん穿いていたタイトスカートとはまた歩く時の要領が違う。裾がからまりそうで、最初何度か転びそうになった。
転ばないように歩くにはテンポを取り、裾が動くのを待ちながら、少し優雅な感じの歩き方をすることになる。ああ。だから女性はみんな優雅な歩き方をしていたのか、と僕は納得がいった。
 
学校での教育内容は、女性としての話し方、歩き方、行動の仕方などから始まって、女性として必要な教養、社会的なマナー、お化粧の仕方、そしてセックスの仕方なども教えられる。セックスはディルドーを装着した教官相手に実地で練習させられたが、特によく教えられたのは、下手くそな男性とセックスする時に、いかにも気持ち良くなっているかのように「演技」することであった。
ああ、自分が男性時代にセックスしていた時も、結構女性側は演技してくれていたのかも知れないな、などとも思ったりした。
 
学校の教育でいちばん苦労したのは発声である。女性らしい声が出るようになるまで最初1ヶ月近く掛かったが、その後も、話し方でかなり注意された。相手が声で男性か女性かを識別する場合、ピッチより響き、そして話し方だということもしつこく教えられる。少々低いピッチであっても、女性的な響きのある声は女性の声に聞こえるし、よく聞くと完全に男声であったとしても、話し方が女の話し方であれば、女性が話しているように思えてしまうのである。
 
女性として生殖奉仕をする場合に、相手の男性に自分が元男だということを気付かせてはいけないので、この付近は徹底的に鍛えられた。中にはなかなかうまく女性の声が出せなくて、この学校での教育に1年近く掛かる人もいるらしい。僕の場合は、規定の3ヶ月間の課程で、ふつうに女性の声にしか聞こえない声を出すことができるようになり、卒業証書をもらった。
 
そして僕の女性型生殖奉仕の日々が始まった。
 

初日はイストキャピタルの町に行った。この島に入って来た男性が最初に出る町なので、初心者の男性を捕まえやすい気がした。女になってまだ試運転の感覚なので、セックスに慣れた人より不慣れな人の方が誤魔化しやすい気がした。
 
もっとも今度は「捕まえる」のではなく「捕まえられる」ことが必要である。
 
イストキャピタルの入所案内所から男性たちが出てくるのはだいたい朝の10時頃である。そのくらいの時間に案内所の近くに行き、出口近くにある書店内で待機した。まずはこの島の地図を求めに、この書店に来る人が結構いるのである。
 
やがて10時になり、ポツポツと案内所から男性が出てくる。いきなり電車の駅に行く者もあれば、公園のベンチに座っている女性に声を掛ける者もいる。しかし半分くらいは書店に入ってくる感じだ。書店内には10人くらいの「客待ち」という雰囲気の女性がいる。やがて書店内に入ってきた25〜26歳くらいの男の子が恐る恐るという感じで、私に声を掛けてきた。
 
「あの、済みません。デートしてもらえますか?」
「うん。いいよ」
と私は笑顔で答えた。彼はホッとしたような顔をしていた。
 
彼がこの島の地理に全く不案内ということだったので、地図付きのガイドブックを勧めた。それから電車の駅に行って定期券を買わせ(私は自分の定期券を支給されている)、いくつかの町に一緒に行って、町の案内をしてあげた。
 
「ハルコさん、親切ですね。助かります。僕、この島のこと全然事前に情報が無くて」
「ふふ。頑張ってね。3年間の生殖奉仕。毎日子供を作ってたら3年間で1000人くらい子供を作ることになるからね」
「ひぇー、なんか信じられない」
 
「実際には精液が薄かったりして、3年間で作れる子供はふつう100人くらいらしいですよ。1000人作れる人はレアだって」
「はあ、それでも100人くらいですか」
「普通は100人も作ったら育てきれないけど、ここで生まれた子供はちゃんと里親が育ててくれるからね」
「実は僕もこの島で生まれたらしいんですよ。全然記憶が無いんですけど」
「まあ、3歳の誕生日に里親に引き渡されるから、3歳以前なんて記憶無いよね」
「ええ」
 
彼とはサンセットホームでお昼を食べ、賑やかなネオロテルの町でゲームセンターで遊んだりした後、女性になって初めて支給されたトワカフェの町にあるアパートに彼を案内した。自分自身昨日初めてここに入ったばかりなので、まだ生活感のようなものが無いが、彼は若いのであまりそういうのには気付かないだろう。
 
お茶を入れ、彼が買ってくれたケーキを一緒に食べながらおしゃべりをする。
それから彼が買ってくれたお弁当をふたりで一緒に食べた。
 
そしてセックスの時間である。女性の身体を使ったセックスは初体験になるが、男性とのセックスは営業マンとしてたくさん経験している。私はうまくやる自信があった。
 
彼の服を優しく脱がせて行く。裸にしてまずはフェラをしてあげた。彼は「きゃー、そんなのされるの初めて」
などと言っていた。あまり恋愛経験が無かったのかも知れない。
 
しかし彼の若々しいファロスはとても元気でちょっと羨ましい感じだ。ああ、ほんの4ヶ月前までは自分にもこういうのが付いてたのになと思った。ここまで元気な棒ではなかったけど。
 
彼がフェラだけで逝ってしまったので、自分の口内に射精された精液を採取容器に移した上で、今度は指で彼のを刺激する。このあたりは営業マンとして散々テクを鍛えているので、いざ女になってもかなり行ける。しかし営業マンやってた時は、よく「君は女になったら凄くいい奥さんになれる」なんて言われたものだけど本当に女になってしまうとは思いもよらなかった。
 
やがて彼が回復してきたので、彼のファロスを自分のマロスに導いた。
 
入ってくる。
 
うふふ。ディルドーは学校で随分入れられたけど、本物入れるのは初めて。
 
でもちょっと気持ちいいじゃん!これ! 
彼が腰を動かしてピストン運動をする。これはそんなに気持ち良くなかったが私は感じている振りをした。「あん、あん」などと可愛い声も出してみる。
 
そして彼は10分ほどで逝った。結構時間が掛かったのは、彼がまだセックスに不慣れなせいもあるかなという気もした。
 
「ハルコさん、すごくうまい。もうこの島、長いんですか?」
 
射精後の放心状態から回復して、彼が訊く。
「うーん。3年半くらいかな」
「へー。そんなにいたら、やはりうまくなるんですね」
「ミチヒロ君も、初めてにしては上手だったよ。頑張ってね」
「はい。頑張ります。またハルコさんに会いたい。どこに行けば会えます?」
 
「そうね。今日はたまたまイストキャピタルに来てたんだけど、普段はゴッドフィルドにいることが多いよ」
 
「ゴッドフィルド、ゴッドフィルド、・・・」といって彼は地図を見る。
「ああ、イストキャピタルの隣の駅ですね」
「うんうん」
「じゃ来月またそこに行ってみよう」
 
彼とはその後も時々会った。2〜3ヶ月に1度デートをして楽しんだ。
 

しかしゴッドフィルドに行くと、どうしても彼女と顔を合わせることになった。
 
「あれ?もしかしてハルキ?」
とユミコから声を掛けられた時、私は逃げたくなったが、がっしりと腕をつかまれてしまった。
 
「うん、まあ」
「あれ?女の子みたいな声。それにフレアースカート! もしかして特別奉仕生?」
 
こくりと頷く。
「わあ、可愛い女の子になれたね。ね、ね、うちのアパートで少し話さない?」
「でも、私もう女の子になっちゃったんだけど」
 
「女の子同士で話すのは別に構わないんだよ。午後からボーイハントに出ればいいよ」
「そうだね」
 
私たちはおやつを買って、ミッドヤードにあるユミコのアパートに行った。
 
3年半前にこの島に来た時、最初の頃ふたりで過ごしたアパートは四畳半の狭い所だったが、今では2DKのアパートに移っている。彼女は既に準娼婦の資格も取得していた。実は準娼婦の資格が取れる1200回目の記念すべきセックスを彼女は私としてくれたのである。そしてそれが私とユミコの最後のセックスにもなっていた。
 
「しばらく会えないなと思って、本土に帰ったのかなとも思ってたんだけどね」
「女の子になる手術を受けて、それから女の子教育を学校で受けてたんだ」
「へー。もう男の子とセックスした?」
 
「もう20回くらいしたかな。最初は恐る恐るだったけど、大分慣れてきた」
「うんうん。私も初めはセックスなんて大変そうと思ったけど、やってみたら意外に楽で好きになったよ」
「私もこの島に来る前は営業マンで男性とのセックス自体はたくさん経験していたから、この身体になってしまったのは少しショックだったけど、セックス自体は楽しくできてる」
「ああ、そういう経験があるから特別奉仕生に選ばれたのかもね」
 
「この島には特別奉仕生って結構いるのかな?」
「うん。この島の女性人口15万人の内、2割は特別奉仕生だと言われてるよ」
「ひぇー! じゃ、私も男性時代はたくさん特別奉仕生の人とセックスしてるよね?」
「うん、してるはず。特別奉仕生って妊娠の可能性が無いから、精液の採取作業者として優秀なんだよ」
「ああ」
 
「特別奉仕生にしても、私みたいな天然女性にしても、セックスする時はマロスに精液採取用のゼリーバッグを挿入してるから、それが破れたりしない限り誤って妊娠してしまう可能性はないけど、特別奉仕生の場合は、絶対に妊娠しないからね」
「あはは」
 

男性時代は1ヶ月以内のデートが禁止されていたので、ユミコとは月に1回しか話せなかったが、女性同士になってしまうと、その禁止規定が無いのでいつでも会えることになった。それで私たちは毎週のように午前中に会っては、ふたりでいろんなことを話していた。
 
彼女は既に通信教育で高校卒業の資格を取っていたので本土に戻れば大学に入ることができる。彼女はあと2年くらいしたら戻ろうかな、などと言っていた。
 
そうして私はこの島で特別奉仕生として、毎日男性とデートしてはセックスして精液を採取していった。ユミコ以外にも何人か、男性時代によくデートしていた女性と友人関係を築くことができた。その中の半分くらいが実は特別奉仕生と知って、私は爆笑した。こういうことは男性にはわざわざ話さないが女性同士では話してもいいのである。
 
この島にもう10年いるという元特別奉仕生(現在は任意滞在)のミズホさんが、この島に来た男性の行く末を教えてくれた。
 
「毎年2万人くらいの男性が赤紙もらってこの島に来るんだけど、2000人くらいは島内の喧嘩とかで死んでしまうんだよ。女性を取り合って喧嘩始める男って多いから」
 
確かにそういう喧嘩は見たし、自分がゲットした女性の横取りを試みられたこともある。そういう場合、女性の意志を確認した上で、どちらでもいいと言われた場合は私は後から来た男性に譲っていた。それで私は男性時代この島で喧嘩したことは無かった。
 
「あと犯罪を犯して刑務所送りになる男も1000人くらい毎年発生する。主として強盗とか、詐欺とかだね」
「まあ、そういうことする人はどこにでもいるでしょうね」
 
「あとどうしても女性をゲットできなくて、冬に野宿してて凍死する人もいる。
この島は2月には零下20度まで気温が下がるからね」
「ほんとに女性をゲットできないなんて、あるんですか? 男10万人に対して女15万人もいるのに」
 
「この島に居る女性は基本的に男性からデートを申し込まれたら先約が無い限り応じなければいけないけど、暴力を振るわれたら、即刻デートをキャンセルできるし、過去にデートして暴力を振るわれたことのある男のデート申し込みは拒否できる。だいたい凍死するハメになるのは、そういう暴力的な男だよ」
「ああ」
 
「あと女性をえり好みする男も危ない。理想が高すぎると死を招くね」
「うーん」
 
「それから精神的におかしくなってしまう人とか、糖尿病になって生殖能力が無くなってしまう人や、自信喪失からEDになってしまう人もいる。毎日セックスだけの生活してたら、おかしくなる男もいるよね」
「はあ」
「そういう人たちは本土の病院送り。生殖能力や勃起能力が無くなってしまったら男性資格も剥奪されるから、その後、炭鉱やウラン鉱とかで働く人も多いらしい」
「へー」
 
炭鉱は危険な職場であることから女性の労働が禁止されているが、男性資格を喪失して女性扱いになっている人は働いてもよい。女性扱いされると会社勤めなどではあまりまともな給料をもらえないが、炭鉱ではけっこう良い給料をもらえるのである。ただし炭鉱事故は毎年起きているし、死者は年間1000人を超える。
炭鉱の給料が高いのは、そういう危険の見返りである。
 
更に給料が高いのがウラン鉱山だが、ウラン鉱山で働いているとどうしても被爆する。基本的には年間100日以上働いてはいけないことにはなっているものの、複数の名前を使い分けたりして実際にはほぼ毎日坑内に入ったり、精錬作業に従事している人が多いとして、実態解明を求める市民運動も起きている。
 
「だいたい3年間きちんと生殖奉仕を勤め上げることができるのは全体の7割の1万4千人くらいと言われているよ。でもその内結構な人が延長奉仕を希望する。
これは毎年100人以上の子供を作った実績のある人でなければ認可されないけど、ある程度の精力があればクリアできる条件だよ。実際には4000人くらいは延長奉仕になってる」
「ああ」
 
「それからハルコちゃんみたいに女性の身体になって特別奉仕生になる人も3000人くらい。でもハルコちゃんみたいに女性として適応できる人はその中の3割程度というよ」
「残りの人は?」
「精神的におかしくなっちゃう人、どうしても女性として振る舞うことができず、強制退所になって本国に送り返されちゃう人、そして自殺しちゃう人。実は毎年500人くらい自殺している」
「きゃー」
 
「それから本土に帰らず軍務に就く人もいる。それも4000人くらいかな。ここでセックスだけの生活をしていたら、今更ふつうの生活に戻れないと感じる人もいて。
特に身体の丈夫そうな人にはかなり軍務の勧誘がされるんだよね」
「ああ」
 
「だからここに来た人の中で、ハルコちゃんみたいに元々女の子でも通るような優しい感じの子は本当に女の子に性転換させて、がっしりしてどこから見ても男という人は兵隊さんになってもらおう、という振り分けがなされるのよ」
「なるほど!」
 
「で結局、2万人来て、ふつうに3年間の奉仕を終えて本土に帰還する男性は1000人くらい。20人に1人って感じね」
「それで、ここに来ると生きて帰ってこれない、なんて話になる訳ですね」
「そうそう」
と言って、ミズホさんは笑っていた。女性の生殖奉仕は「見た目が」50歳までできるので、若作りして60歳くらいまではこの島にいるつもりだと彼女は言う。
 
なお、この島の最高齢女性は72歳のカオルさんという人だが、彼女はノーメイクでも44〜45歳、メイクすると37〜38歳に見えてしまうし、声も可愛くて20代女性の声にも聞こえてしまう凄い人である。実は私は彼女と男性時代にも5回セックスしていた。「ここまで若く見えると化け物だね」などと、本人も言っていたが、精神的にもとても若い人で、彼女とはよくアイドルや少年誌・少女雑誌のマンガの話で盛り上がった。私がサザンバード島にいる間、本土のアイドル情報やコミックス情報をしっかりキャッチできていたのは彼女のお陰である。
 

2年後、ユミコは22歳の誕生日でこの島を退所して大学に入るため本土に戻った。
私たちは友人何人かで集まって、送別会をした。
 
「本土でもまた会えたら会いたいね」
と言って私たちは別れを惜しんだ。
 
私の生殖奉仕は更に続き、女性の身体になってから4年たって、私は準娼婦の資格を取得した。1200人目になってくれたのは、私の「最初の男」であった、ミチヒロ君だった。彼には機会を見て、自分が元男性であることを打ち明けていたが、それは全然気にしないと言われた。確かに結婚するとかではないし、セックスするだけの相手なら、うまく結合できれば良いのであって生まれながらの女なのか、元男なのかはあまり関係無いのだろう。
 
ミチヒロ君は3年間の生殖奉仕を終えたあと、延長奉仕をしていた。最初おどおどした感じでセックスしていた彼も、今や立派な男になっていた。これだけ男としてのセックスが上達すれば、本土に帰っても結婚して良い夫になるだろう。この島では男は仕事をしなくても良いのだが、彼は特に志願して、コンピュータセンターで午前中パートをして、SEの資格も取得していた。基本的に男性は人目に付く所で仕事をすることはできない。(無論働いてもこの島ではお給料は出ない。男性の場合あくまでも生殖奉仕の資金として毎月30万サークル支給されるだけである) 
私が採取した1200人の精液が、妊娠奉仕をする女性の子宮に注入され、800人が妊娠し、うち650人は既に出産していた。
 
私はこの島に来てから自分の精子で1000人の子供を作り、自分が女としてセックスして男性から採取した精子で更に800人の子供を作ったことになる。そんなにうようよ自分の子供がいるというのはちょっと変な気分だ。
 
そして自分の採取した精子での1000人目の妊娠を報告された日、私は管理局に退所願いを出した。女性の身体になってからも既に3年間の奉仕をとっくに終えているので、私はいつでも退所できる状態になっていたのである。
 

「お疲れ様でした。結局8年間の奉仕になりましたね」
「ええ。この島も居心地がいいですが、また新たな自分の人生を切り開いていきたいと思って」
「頑張ってください。それではこれはあなたの新しい身分証明書です」
 
と言って渡されたカードは名前が「ハルキ・男」ではなく「ハルコ・女」になっている。
 
「この身分証明書があれば、女性として結婚することもできます。なおハルキの方は既に戸籍から抹消されていますので」
「分かりました」
 
そうして私は本土に戻った。8年ぶりの本土はなんか変な感じがした。サザンバード島はとても空気がきれいだったので、少しよどんだ空気で私は最初咳をしてしまった。
 
私はサザンバード島の生殖センターでは男性時代の3年間に貯金を150万サークルしたが、それは女性時代にほぼ使ってしまった。そして女性になってからは給料などももらってないが、5年間の奉仕の代償として退職金に500万サークルもらったので、それだけあれば2年くらいは何もしなくても食べていける。しかし私はすぐ就職するつもりだった。男性では無くなったので、もう営業職はできないが何か仕事を見つけなければ。
 
(女が営業をすると男よりどうしても楽に相手に射精させて契約成立させられるので競争適正化法という法律で、女性の営業行為、営業マンに付いていく行為は禁止されている) 
まずは島にいる間にアパートの契約予約をしていた不動産屋さんに行き、賃貸契約を済ませた。借りるのは3畳一間で風呂無し、トイレ共同などという所だが家賃が2万サークルと格安である。それから私は職安に行き、仕事を探している旨を言う。
 
「ああ、サザンバード島帰りの方ですか。向こうでは何かお仕事されてました?」
「ええ。サイドヌードルの手打ちの職人をしていました。サイドヌードルだけでなく、ウィートヌードルやパスタヌードルも打てます」
「おお、それは凄いですね。ではその関係を見てみますか?」
「あ、それもいいですね」
 
紹介してもらったサイドヌードル店に行くと、実際にやってみろと言われた。
そこでサイドパウダーをもらい、それに塩と水を混ぜて手打ちしてみせた。
 
「うまいね!採用!」
と人の良さそうな50歳くらいの感じの女性店主さんは言った。
 

そういう訳で、私は3畳一間のアパートに住み、サイドヌードル店で働くという生活を始めた。実家には連絡してない。女になってしまったなんて言うと、母が嘆きそうで、なんとなく連絡しづらかった。実家では私はきっと死んだものと思われているだろうし。実際ハルキの戸籍には死亡と書かれているはずだ。
 
サイドヌードル店のお給料は月6万円であった。女性としては比較的高い額だが、この給料で暮らしていくのはなかなか辛い。
 
仕方無いなあ・・・・ 
私はやや消極的に決断をすると、娼婦協会に登録手続きを取った。準娼婦のライセンスを見せ、料金は1回3万円と登録して、営業許可証をもらう。営業日としては店がお休みになる水曜日を選んだ。これで協会から娼婦の仕事を回してもらえるのである。
 
その水曜日、協会から連絡が入り、私は駅前に行って客を拾った。だいたいこういう行為はホテルですることになっている。私は客と一緒にホテルに行った。
 
「それでは縫合しますね。容器を貸してください」
「うん。よろしく」
 
客からファロスの保管容器を受け取り、取り出して、客の股間に縫合した。
サービスで先頭の柔らかいグランの部分を舐めてあげると客は「おお」と声をあげた。
 
それから約2時間コースで客とセックスをした。ベッドの上で抱き合い、まずは彼のファロスをそのまま自分のマロスに受け入れて、正常位でセックスする。
 
その後、シックスナインをして、バックでも一度結合し、最後は対面座位で座って抱き合ったまま逝かせてあげた。2時間の間に4回も射精すると、彼はもう完全に精魂尽き果てている感じだった。
 
「気持ち良かった。さすがにもう立たねえ。ファロス切られてもいい感じ」
などと客が言うので「じゃ、切りますよ」
と言って、私はレーザーメスを取り出す。
 
「きゃはは、君はそれで切るの?」
「はい。切るのは一瞬ですよ」
「ああ。確かに時間のかかる切断方法は辛い」
 
レーザーメスのスイッチを入れると、レーザービームが出てくる。私はサービスのパフォーマンスで鉄板を切ってみせる。彼が「わあ」と嫌そうな顔をする。
しかし情け無用。ファロスを付けたままホテルの外に出ることはできないから、私が切断してあげなければならないのだ。
 
股間にビームを向けて、0.3秒くらいで、彼のファロスとサックを切り落とした。
 
「うっ」と思わず彼が声を出したが、悲鳴などはあげない。悲鳴をあげてしまうとそれを私が報告しなければならないので、その報告によって彼は男性資格を失ってしまうのだ。
 
私は微笑んでファロスとサックを保管容器に入れた。彼のショーツに夜用ナプキンを装着してあげる。彼は微笑んでショーツを腰まであげた。
 
私はサザンバード島にいる間に、切断師の二段を取得していた。女性としてこの社会で生きて行くためには切断師の資格は絶対に必要なものである。
 
しかし自分も自分のファロスとサックをこうやって保管容器に入れてもらってたよなあと思う。もう今はそれはできなくなってしまった。
 
料金は3万円だったのだが、彼は凄く気持ち良かったからといって5万もくれた。
準娼婦の場合、5万サークルを超える報酬を受け取ったら違法になるがギリギリ5万までは許されるので、客の好意にあまえることにした。
 

切断師の試験はファロスやサック、そしてサックの中にある睾丸などの構造に関する知識、また生殖全般に関する知識、万一切断した男性が気分が悪くなった時の応急処置や緊急止血法などといったものも問われるが、やはり大事なのは実技である。
 
4級のペーパーテストではファロスに関する簡単な知識を問われるが、これは元男性ならふつうに知っている程度の知識だから問題無い。4級の実技は医療用メスを使って、プラスチック製の疑似ファロスを5分以内に切断できれば良い。
 
3級になると、男性器の細かい構造を問われるがこれは意外に男性自身でも知らないことがあるので、勉強が必要だ。実技はプラスチック製疑似ファロスを1分以内に切断することと、切断したファロスを10分以内に縫合することである。
 
これが2級になると、実際の男性のファロスを使い、刺激を与えて5分以内に射精させること、医療用メスで30秒以内に切断し、5分以内に縫合することが求められる。2級以降を取得する時は、ファロスを持つ男性を自分で調達する必要があり、一般には兄弟や父親などがその被験体となってあげる。私の場合、サザンバード島で2級以上の試験を受ける時は、島に居る男性の奉仕者に頼んで被験体になってもらっていた。ミチヒロ君にも初段を取る時にやってもらった。
 
1級では道具は自由になる。切断は10秒以内、縫合は3分以内と厳しくなるが、更に、ファロスに刺激を与えて射精寸前の状態にした所で切断するという、「絶頂切断」の技術が問われる。一般に会社の受付などになる場合、この絶頂切断ができなければならない。
 
初段になると、切口の美しさ、出血の少なさなどが問われる。切断は5秒以内、縫合は2分以内である。
 
二段以降は経験も問われ、二段の場合、最低1年以上、100回以上の切断・縫合の経験が無いと取得できない(サザンバード島では男性たちに私は1回1万サークルの報酬を払って切断・縫合をさせてもらっていた。お金を使いすぎて足りなくなってしまう男性は多いので、彼らはアルバイト感覚であるが、実は私の男性時代の貯金はこの報酬の支払いでほぼ無くなってしまった)。
 
また二段以降では切断は3秒以内、縫合は1分以内となる(この基準は三段以降も変わらない)。三段以上は切断作業や縫合作業の芸術性、男性に実際に与える痛みの少なさ、パフォーマンス性なども問われるので、実に様々な道具を使う人たちが出てくる。
 
それでもミツコが使っていた斧などというのは、やはりレアな部類である。というか、ミツコ以外に斧を使う女性を私は知らない。
 
私の場合は元々男性であったことから、やはり与える痛みのできるだけ少ない道具ということでレーザーカッターを選択した。しかしレーザーカッターは痛みは少ないものの、男性に与える恐怖心はけっこう大きいようである。
 

さて私がサザンバード島から戻ってから1年が経過した。私は普段の日はサイドヌードルのお店に勤め、お店が休みの日には準娼婦として男とセックスしてお金をもらうという生活を続けていた。そんな私も40歳に手が届く年齢になってしまった。
 
お店の同僚から「結婚はしないの?」などと訊かれることもあるが、結婚するためには相手に性別を変更していることを告知する必要があるし、告知すればたいていの男性が結婚に二の足を踏むことは想像に難くなかったので、私は結婚というものは諦めていた。私が元男性であったことは、同僚や店長などにも話していない。
 
そんなある日、私はカフェでコーヒーを飲んでいて、ふと向こう側のテーブルにいる女性と目が合ってしまった。
 
あ・・・・ 
とと思った次の瞬間、彼女はこちらのテーブルにやってきた。
 
「ね、ね、もしかしてハルキじゃないよね?」
「あはは・・・」
「やっぱりハルキなんだ!」
「えへへ。久しぶり、アキコ」
 
それは大学生時代の恋人、アキコであった。こんな姿になっているのを昔の恋人に見られるのはちょっと恥ずかしい。
 
「えー!?女の子の声。それにお化粧してるし。あ、フレアースカート穿いてる。
ハルキ、女の子になっちゃった?」
「うん」
 
「へー、ハルキにそういう趣味があるとは知らなかった」
「うーん。色々事情があって」
「でも、ハルキは女の子みたいに可愛かったもんね。こういう生き方もいいかもね」
「そうだね。だいぶ慣れちゃった」
「女の子になってから何年?」
「うーんと、6年かな」
「凄ーい。女の子がもう板に付いてて、違和感無いもん」
「今の職場では、元男だったことをカムアウトしてないよ」
「まあそれは結婚する相手以外には告知する義務は無いから、いいんじゃない?」
「うん」
 
「わあ、でも何だか懐かしいなあ。ね、仕事は何時まで?」
「サイドヌードルの店に勤めてて、20時に終わる。実際帰れるのは21時かな」
「じゃ、21時にどこかで待ち合わせない?私も今日はピアノのレッスンに行くから、それが終わるの20時過ぎだし」
「うん」
 

その日、仕事が終わってから駅前で待ち合わせる。一緒に彼女の家に行った。
 
「わあ、いい所に住んでるなあ」
彼女の家は一戸立てで、素敵な雰囲気だった。
 
「まあ、私なりに頑張ってきたしね」
「何の仕事してるの?」
「女でこんなに稼げるのは、医者か弁護士か会計士か娼婦くらいだよ」
「え?」
「そもそもそれ以外の女性は不動産所有が認められないからね。そのどれだと思う?」
 
「うーん・・・・アキコは理学部だったし。医者の資格を取るなら医学部、弁護士なら法学部、会計士なら経済学部、娼婦なら性学部に入り直さないといけないし・・・・どれだろう?」
 
「へへへ。実はどれでも無い」
「おっと」
「実は1度結婚してさ。旦那がお医者さんだったんだよ。それで離婚する時に慰謝料代わりにこの家をもらった。まあ女は不動産所有できないから名義は彼のままだけどね。永久に無償で賃貸できる契約書を書いてもらった」
「わあ、そうだったのか。大変だったね」
 
「うん。まあ結婚生活も悪くなかったけど、かなり浮気されたからね」
「浮気って、ファロスはアキコが管理してたんじゃないの?」
 
「週末はそうだけど、平日は勤務先に置いてるから。病院内の空き病室で看護婦と浮気してたのさ」
「なるほど。子供は作らなかったの?」
 
「うん。私との間にはできなかった。実は余所の女に生ませた子供が3人いた」
「わあ、嫌だなあ、それ」
「ね、嫌でしょ? ああ、私、ハルキと結婚しておけば良かったな。あ、でもハルキ女の子になりたかったんなら、私との結婚もできなかったか」
 
「うーん。私はバイだと思う」
「へー。じゃ女の子とセックスしても、特に違和感はない?」
「実はね。サザンバード島に居た」
「えー!? あそこから生きて帰って来たんだ?」
 
「うん。それで最初の3年間は男として女の子とセックスしまくり、その後の5年間は女に性転換してから女として男とセックスしまくり。自分としては、どちらのセックスも快適だったよ。まあ、女の身体になっちゃったから、もう男として女の子とセックスすることはできないけどね」
 
「ふーん。あそこで途中で性転換しちゃう人がいるというのは噂に聞いたことあったけどね。でもレスビアンならできる?」
「ああ。島の女の子の友だちと時々やってたよ。レスビアンセックスは」
「ほほお。ね。今夜私とできる?」
 
そう言って私を見つめたアキコの顔を見て、私はドキっとした。
 
「できるよ。やってみる?」
と言って、私はしっかりアキコの顔を見て答えた。
 

その晩、私たちは18年ぶりのセックスをした。
 
18年前、大学生の頃は、男女型のセックスもよくやったが、それができるのは週末くらいだったから普段の日はレスビアン型のセックスをしていた。
 
交替でシャワーを浴びてから、裸で彼女とベッドに入り、抱き合い睦み合った。
8年間毎日のようにセックスしまくりだったけど、この1年は週に1度男とセックスするだけだった。女の子とするのは1年ぶりだけど、身体が手順を覚えていた。
 
「ハルコ、凄くうまい。さすがサザンバード島帰り」
「アキコが感度いいから、気持ち良くなるんだよ」
 
私たちは、まず正常位でトリバディズム(擦陰)をし、それから松葉の形になってお互いの身体を90度ひねった状態でお股を組み合わせて刺激しあい、最後にダブルスプーンの形で、私が後ろ側になり、アキコのクリちゃんを指で刺激して逝かせた。
彼女は気持ち良さそうで、何度か大きな声まで出していた。
 
「私、逝ったの、18年ぶり・・・・」
「そう、良かったね」
「結婚してた頃は1度も逝けなかったんだよ」
「まあ、女性を逝かせられる男って意外に少ないから」
 
「ね。恋人にならない? セックスフレンドでもいいよ」
「そうだね。じゃ、セフレということで」
 
私たちは微笑みあってキスした。
 

それから私たちはしばしば夕方からのデートを楽しんだ。お互い独身という気楽さもあり、私たちのデートはしばしば深夜まで及んだし、ついついセックスに夢中になって、朝までセックスし続けている日もあった。
 
男女のセックスでは、射精でいったん行為が途切れるが、女同士の場合、終わりが無いのでずっとプレイが続いていき、昂揚状態もずっと継続する場合がある。
サザンバード島でも私は何度かユミコとのレスビアンセックスで徹夜したことがあった。(サザンバード島では男は毎日セックスする義務があるが女は週に3回以上セックスすればいいので、男とのセックスを休んで女同士で楽しむことも可能である) 
アキコとの交際が続く中、彼女は私が実家と連絡を取っていないことを気にした。
 
「恥ずかしいかも知れないけど、ちゃんと実家に自分の今の状態を話すべきだと思う」
と彼女は言った。
 
そこで私は休暇を取り、アキコにも付き添いしてもらって、10年ぶりに実家を訪問した。
 
突然の私の来訪に、そして「変わり果てた息子の姿」に、父も母も仰天した。
 
父は「女になったなんて・・・・もうお前とは縁を切る」などと言ったが、母が「女だろうと男だろうと、お前は私の子供だよ」と言ってくれた。そして「何より生きていてくれたことが嬉しい」と母は言った。何しろ私のハルキの戸籍は「死亡」になっていたから、それに気付いた時点でお葬式もしていたらしい。
 
私は涙した。
 
私が帰省した、しかも女になっていた、というのを聞いて、全国あちこちに行っていた妹や弟が緊急帰省してくれた。
 
「実はサザンバード島にいる間に、強制性転換させられちゃったんだよ」
と私が説明すると、みんな納得してくれた。
 
「あそこでは、女みたいな男は女に性転換させられるし、男らしい男は兵隊にされると聞いたことがある」
と一番下の弟が言う。
「うん。それ事実。でもその事、あまりしゃべったら駄目だよ」
 
サザンバード島からの帰還率が低いのはみんな知っているので、女になっても帰って来れただけで偉いなどと妹などは言った。弟たちはどちらかというと面白がっている感じだった。
 
「でもお前、それじゃアキコさんとの関係は?」
「良いお友だちですよ」と私は答えたが、アキコは「恋人です」と言った。
「じゃ、事実婚しちゃえば?」などと妹が言うと、アキコは「あ、それもいいね」
などと言った。
 
「その時は結婚式あげなよ。ふたりともウェディングドレスでいいじゃん」
「あ、いいね。結婚式挙げちゃおうか?」とアキコ。
「えー!?」と私は言ったが、それも悪くないかなという気もした。
 

そういう訳で、私はアキコと交際を再開してから1年後、私の40歳の誕生日に結婚式を挙げた。初婚になる私は純白のウェディングドレス、2度目の結婚になるアキコはピンクのウェディングドレスを着た。職場の同僚も式に出席して祝福してくれた。アキコの両親は元々私のことを昔から気に入ってくれていたので、女になってしまっても結婚は認めてあげると言ってくれて、うちの両親とともに結婚式に出席してくれた。
 
「ふたりの関係ではどちらが奥さんなの?」
「あ、それは間違いなく、ハルコが奥さん」とアキコが明言した。
 
実際、家庭内の掃除とか料理とかは私がすることが多かったし、セックスでもどちらかというと、アキコがリードしていることが多かった。私のセックスはわりと受け身で、相手にさせたいようにさせてあげるのだ。
 
私が特別奉仕生に選ばれたのも、男性時代のセックスにそういう雰囲気があったからではないかとミズホさんに言われたこともあった。
 
私たちは結婚式を挙げた後、市役所に「ドメスティックパートナー」の届けを出した。これを出しておけば、結婚した夫婦とは認められないものの、様々な法的な扱いが、夫婦に準じたものとして扱われる。取り敢えず所得税が安くなるし(独身だと給料12万の内6万が税金で取られるが、夫婦だとふたりあわせて30万の給料をもらっている場合、税金は10万で済む)、男女の夫婦と同様に共同で養子・里子を取ることができるようになる。無論遺産相続権も発生する。
 
家はもちろんアキコの家で暮らすことにし、私は安アパートを引き払った。
私はサイドヌードルのお店はそのまま働き続けたが、準娼婦の方は廃業届けを出した。「あら、続けてもいいのに」とアキコは言ったが、私としてはアキコと結婚したのに、娼婦の仕事をすることには罪悪感を感じたのである。幸いにも私の給料とアキコの給料を合わせれば(結婚で税金が安くなることもあり)、何とか生活には困らない金額になった。ふたりとも少食なので、食事代もあまり掛からないし、ふたりとも服にはあまりお金を掛けない主義で、いつも安い服を着ていたし、室内着は私が自分でふたり分縫っていた。縫製技術もサザンバード島で「女性のたしなみ」として教育されたものである。
 

アキコと結婚して1年近く経ったある日、私は勤めているサイドヌードルの店が支店を出すことになり、その店長に任命されたので、登記用に戸籍謄本を取得するため市役所を訪れた。
 
私のハルキの戸籍は「死亡」ということで抹消済みで、代わりにハルコの戸籍が作成されている。つまり実は私は戸籍上は生まれながらの女性なのである。
サザンバード島で特別奉仕生になった人だけが、こういう「純正女性戸籍」を持っていて、実は性転換していることを相手に告知せずに男性と結婚することも可能である。謄本の申し込みをして、椅子に座って待っていたら、右手の方の窓口で係の人と揉めている赤ちゃん連れの女性が居た。
 
私はその女性に見覚えがあったので、近寄っていった。
 
「どうしたの?ユミコ」
「わあ!ハルコ、久しぶり!」
 
何でも彼女は今抱いている子供をしばらく前から育てていたらしいのだが、民生委員さんからその子供の戸籍が無いと言われ、自分の子供として出生届を出そうとして、今度は出生証明書が無いと言われて拒否されたらしい。
 
「なんで出生証明書が無いの?病院で産んだんじゃないの?」
「自力で産んだ。色々事情があってね」
 
「わあ、良くひとりで産んだね。でも、そんな難しい話は戸籍係の窓口では無理だよ。弁護士の先生を頼んで、家庭裁判所で審判してもらった方がいい」
と私も言ったので、ユミコはその日は出生届の提出を諦め、いったん出直すことにした。
 

私は自分の戸籍謄本を取ったあとで、市役所内の喫茶店で彼女と話した。彼女は人目をはばからずにおっぱいを出して授乳していた。わあ、いいなと思う。
女の身体になっても、こういうことだけは自分にはできない。
 
「もう5年ぶりくらいかな。ほんとに久しぶりだね」
「うんうん。懐かしい。今どこに住んでるの?」
 
私たちはお互いの住所を交換した。
 
「へー、ハルコ、女の人と結婚したんだ?」
「うん。実は大学生の時の恋人だった人なんだよ。向こうは一度結婚して離婚してるし、こちらは性別を変えちゃったけど、お互いに傷持ちで、何となくバランス感覚が出来ちゃって」
 
「ああ、それもいいね。それにハルコ、レスビアンセックス巧かったし」
「ふふ。ユミコともたくさんしたね」
「うん。ハルコほどの恋人にその後出会ってないよ、私」
「もしかして、ユミコってレスビアン?」
「そうそう。男とのセックスはサザンバード島で食傷したから」
「ああ、なるほど」
 
子供の件に関しては、やはり弁護士さんに相談しようということになり、弁護士さんとの初回相談料は取り敢えず私が出してあげることにした。
 
「でも、子供って本当にユミコが産んだの?」
「そうそう。本土に帰ってきてから、娼婦で学資稼ぎながら大学に通って、卒業してから妊娠したんだよ」
「へー。でもその時は男の恋人がいたんだ?」
「ううん。私は一度も男の恋人は作ってない」
「へ?じゃどうやって妊娠したの?」
 
「ふふふ。サザンバード島でお土産にもらった冷凍精液」
「えー!?」
 
「妊娠奉仕しませんか?とも誘われたんだけどね。妊娠奉仕は1回200万サークルもらえて魅力的だけど、本土暮らしもしてみたかったから断って戻ることにして、その代わり、冷凍精液をお土産にもらったの。普通は持ち出し禁止なんだけどね。
お目こぼししてもらって」
 
「わあ。じゃサザンバード島で採取した精液なんだ」
「誰の精液だと思う?」
「え?私が知ってる人?」
「そそ」
 
「えっと・・・ユミコと親しくしてた男の子と言うと、ケンちゃんとか、マサキちゃんとか、アスミ君とか・・・うーん、誰だろう」
「ハルコのだよ」
「へ?」
 
「私、サザンバード島に来てから1200回目のセックスをハルコとしたでしょ?」
「うん」
「その時の精液を記念に保存していたのを持ち出したんだよ」
「えー!?」
 
私は絶句した。
 
「じゃ、この子って、まさか・・・・」
「そ。ハルコの子供だよ」
 
私はサザンバード島で2000人の子供を作った。しかしみんな公的な機関で育てられ、その子供たちの顔も一切見ていない。しかし今目の前に自分の遺伝子を分けた子供がいる。私はこの子が急に愛おしくなった。
 
「名前は?」
「ナツコ。夏に産まれたからナツコだよ」
「わあ・・・」
 
「そういう闇の精液で産んだから出生証明書が無いんだよ。病院で出産するには、精子提供者の署名か、精子バンクの出庫証明書が必要だもん」
 

私はユミコとナツコの母娘を取り敢えず自宅に連れ帰った。
 
「えっと・・・こちらはどなた?」とアキコ。
「こんにちは。ハルコさんの元恋人のユミコと、私とハルコさんとの間の子供・ナツコです」とユミコは笑顔で挨拶した。
 
「へー」
と言ってアキコは少し呆れた顔をしている。
 
「結婚してまだ最初の結婚記念日も来ないうちに、愛人と隠し子を自宅に連れ込むとは良い根性してるね」
とアキコは言った。
 
「そう言わないでよ」
と言って、私はアキコに事情を説明した。
 
「ああ、そういうことだったのか。じゃ、今ハルコと付き合ってる訳ではないのね?」
「ええ。ハルコさんとたくさん男女型セックスしたのは、サザンバード島にいた7年前のことです」
 
「じゃ問題無いよ。なんなら今晩は3Pして楽しもうか?」
「えー!?」と私とユミコは言ったものの、本当にその夜は3Pをしてしまった。
 
「ユミコちゃんテクニシャン。ハルコとはまた別の意味で刺激的だね」
などとアキコは言っていた。
 
アキコは弁護士の資格は持っていないものの、会社で法務関係の仕事をしているので法律に詳しい。ナツコの扱いについては、一筋縄ではいかないだろうと言った。
 
「本当は精子提供者であるハルコが認知届けをすれば出生認定を受けることができるはずなんだけど、困ったことにハルコは戸籍上、生まれながらの女なんだよね」
「うん」
 
「女が子供を認知することはできないから、通常の方法ではこの子を戸籍に乗せることは難しい。だから、この子は親が不明の子供ということで戸籍作成審判をするしかないよ」
「ああ。要するに捨て子を拾ったような形にするんだ」
 
「法的にはそれしか手が無いと思う。それで、ユミコちゃんの養子にすればいいんだよ」
「法的には養子にするしか無いですか?」
「無いと思う」
「仕方無いですね。養子と記載されてるけど、本当の子供なんだよ、というのは子供にしっかり教えるしかないです」
 
「あ、待って。ユミコちゃん幾つだっけ?」
「28歳ですけど」
「じゃ駄目だ。独身女性は40歳以上でないと養子を取れない」
「ああん」
 
「誰かと偽装でもいいから結婚する?」
「無理。養子認可には実態調査をされるから、本当に夫婦生活を送ってないと、認めてもらえない」
「うーん」
 
「ね、アキコ、いっそこの子を私たちの養子にはできない?」
「ああ。。。。戸籍上はそうするけど、実際にはユミコさんが育てる、と」
「私もこの子には責任持つよ。私の遺伝子を分けた子供だもん」と私は言う。
 
「ハルコさんの籍に入るんだったら構わないです。この子を知らない人の戸籍には入れたくないです」とユミコは言った。
 

そういう訳で、私たちはこの子を私とアキコの養子にすることにした。私とアキコは夫婦ではないものの、ドメスティックパートナーなので、一緒に養子を取ることができるのである。
 
このあたりの手続きはアキコの知り合いの弁護士さんにお願いした。ナツコをいったん「捨て子」ということにして、戸籍を作成する審判をした上で、戸籍ができた所で、私とアキコの養子として届けた。
 
家庭裁判所の調査官がうちに調査に来て話を聞かれたが、私たちがちゃんと夫婦生活を送っていることを確認して、あまり細かいことまでは聞かずに調査官は帰って行った。約半年で私たちの養子縁組は認められ、ナツコは私とアキコの子供になった。
 
そして結局この子は、私とアキコとユミコの3人で育てることにした。ユミコは大学を出たところでナツコを出産したのだが、赤ん坊を抱えたままでは働けず実は経済的に困っていた。サザンバード島を出た時もらった退職金は大学の学資で全部使ってしまっていたのである。
 
私はサイドヌードルの店には午後から出て21時頃まで仕事をするので午前中は、主として私がナツコの面倒を見た。アキコはきっちり夕方5時には終わる職場なので、18時以降はアキコがナツコの面倒を見ることができる。問題はお昼から夕方までなので、ユミコはファミレスの夜間スタッフとして働き始めた。
夕方から仕事に行き朝までである。朝9時頃帰宅して仮眠してからお昼すぎからナツコの面倒を見る。
 
ということで3人で分担してナツコのお世話をすることにしたのである。
 
私の所には孫はできないものということで諦めていた母も田舎から出てきてはよくナツコと遊んでいた。うちのきょうだいは5人もいて、実は誰も結婚していない。妹は大都会のビッグスロープに住んでいて、都会的な恋人は作るものの結婚する気は毛頭無いようである。弟たち3人はそれぞれ、ラッキーヒル、ラベルルーフ、ゴールドリバーといった地方都市で会社勤めをしているが、みんな女性には縁が無いようである。一番下の弟など「いっそ兄貴みたいに生殖センターでセックス三昧したいよ」などと言っていた。
 
そういう訳で、母にとってナツコは初めての孫となったのである。
 
本当は私の遺伝子を分けた子が1000人、私が男とセックスして精子を採取した子が1000人、この国のどこかにいるんだろうけどね。その子たちは名前も知らなければ顔も見ていないし、どこにいるかも私には分からない。

結局、私とユミコはまた準娼婦として娼婦協会に登録し、週に1回くらい男とセックスして、お金をもらうことも再開した。
 
やはり子供を育てるにはお金が掛かるのである。ミルク代、おむつ代だって大変だ。予防接種なども受けさせなければならないし、乳幼児教室にも顔を出さなければならない。
 
男とホテルでセックスする場合、毎回ファロスの縫合をしてからセックスし、終わったらまた切断することになる。実は切断する時というのが結構な快感であることを私は感じ始めていた。そのことを言うとユミコも実はそうだと言う。
 
「セックスしてる時は男に支配されてるけど、切断する時は完全に私が男を支配してる気分になれて快感なんだよね」
などとユミコは言っていた。
 
ユミコの切断道具はギロチンという重力を利用したカッターである。元々は死刑で首を切る道具だったらしい。「ファロスを切る?首を切る?」などと客に訊いてから、男が「まだ死にたくないから、ファロスの方でお願い」
などと答えるのを聞いてから刃を落とす。ファロスを切る前に大根を切って見せるパフォーマンスをすると、男はみな嫌そうな顔をするらしい。
 
ユミコがギロチンを使い始めたのは実は最近で、元々サザンバード島で切断師初段を取った頃はゾーリンゲンカッターという古風なナイフを使っていた。
「ツヴァイリング」などという銘が入っていた。ゾーリンゲンカッターは、ジャポン刀と並ぶ古代の二大名剣で、ユミコはアキコが使うジャポン刀にもかなり関心を持っていた。アキコの場合、通常はあんな大きな刀を持ち歩くことはできないのだが、彼女は自分の愛用している刀「ムラマサ」を男性器切断用として特別認可をもらっており、認可証をいつも持ち歩いている。
 
その「ムラマサ」で実際にアキコがファロスを切断する所をみて、ユミコは「格好いい〜」
とアキコのことを憧れの目で見ていた。
 
「男とセックスしている時はファロスが女に快感を与えてくれるけど、切断する時は『ファロスよさらば』って感じだね」
などとアキコは言う。
「確かにね。私の場合は永久にさよならしちゃったけどね」
と私も冗談で言い返すくらいの心の余裕はできてきた。
 

 
そして結局、私とアキコ、ユミコとナツコは同じ家で暮らしている。基本的には私とアキコ夫婦の家にユミコとナツコが居候している形なのだが、実際には私たちは時々3Pを楽しむことがあった。また私が不在の時に、アキコとユミコだけで楽しんでいる時もあるみたいで、ちょっと嫉妬することもある。
 
でも私たちは仲良しだ。だからうまくやっていってる。そしてナツコを育てるという共通の目的があるのも、私たちの団結力を硬くしている気もする。
 
「子はかすがい」とは良く言ったものである。
 
「でも私たちが仲良くできているのも3人とも女だからだよね」
「そそ。ハルコが男の子だったら、けっこう私たち陰険な雰囲気になってたかも」
「ハルコのファロス無くなって良かったね」
 
そんなことを話しながらおやつを食べているアキコとユミコを見て、私は微笑んだ。
 
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