【ナミ】生まれる

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1993.8.28 16:35 幡山ジャネ生まる

1994 木倒キミコ生まれる

1996 木倒ユメコ生まれる

2008.10 ステラジオ結成(高校3年) 
2009.08 ホシがLSDにはまる。3ヶ月(10-12)入院して薬を抜く。

2010.01 ホシたちがメーン長浜と知り合う

2010.07 木倒マラ(サトギから改名.数えの42歳)がDSを演奏して死亡。この時木倒サオ(20歳)は浪人中。メーン長浜が自分で1000万円調達してマラの遺族に補償金を払う。

2011.02.21 メーン長浜が死亡 カーナビを投げ捨てる

2011.06 ステラジオ・デビュー

2014.12 幡山ジャネが事故で足の先を失う

2015.01.12 木倒ワサオ(24歳.4年生)がジャネ(21歳,3年生)を突き落とす。ワサオは自殺?。

2015.01.12 キャッスル舞鶴が自宅マンションで死亡。

2015.07 多縞部長が一酸化炭素中毒で死亡

2015.11 **が白血病で死亡

2016.03 溝潟部長が感電死

2016.03.下旬 カーナビが回収される。中身を聞いてピュア大堀が公演先で膵臓癌により死亡。SDカードを焼き捨てる

 

7月の中旬。ホシとナミが青葉のセッションを受けるため高岡に来たのだが、この日は青葉が忙しかったことから、青葉が中心部のホテルまで行くのではなく、ふたりに自宅まで来てもらった。
 
「今日はスカートなんですね」
と青葉はホシに言う。
 
「うん。来る途中、ファボーレで買ってきた。気分変えてみようかと思って」
とホシ。
 
「いいと思いますよ」
 
ふたりを自室に案内する。
 
「すみません。散らかってますけど」
と青葉。
 
「いや、多分ホシの部屋よりマシ」
とナミは言ったが、実際の青葉の部屋を見ると
「これで散らかっているのなら、ホシの部屋はもう夢の島だ」
と更にナミは言った。
 

「しかし結局フロート大堀さんがステラジオのマネージャーになったんですか?」
「あの人、お母さん以上のやり手っぽい。マネージャーやるのに大学生まではできんと言って退学しちゃったし」
「覚悟してますね」
 
「うん。あの思い切りは見習いたいと思った。リハビリに小さなイベントに予告無しで出ないか?と言って地方のイベントをいくつか提案してくれたから、出てもいいかなと思っているんですよ」
「そういうのもいいかも知れないですね」
 
それでいつものようにホシが裸になって青葉のセッションを受ける。
 
「卵巣はしっかりお仕事してますね。一時期より感情の起伏があるでしょ?」
と青葉は言った。
 
「そうそう。生理周期に合わせて感情的なものが変わる感じなんですよ。なんか女って面倒くさいですね」
とホシは言っている。
 
「やはり性転換しちゃう?」
とナミか言う。
 
「性転換してもいいなあとも思うけど、性転換しちゃったら今回事務所に多大な補償金を払ってもらったのに応えられないからなあ」
とホシは言いつつ、自分の作詞作曲能力が戻ってこなかったらどうしようかと少し悩んでいた。
 

その時、ホシは青葉の勉強机の下に転がっている1枚の紙に気がついた。何だろうと思って手に取る。
 
「あっ」
と声を挙げた青葉が
「済みません。それ見ないで下さい」
と言って紙を取ろうとしたのだが、ホシは起き上がって紙を青葉に取られないようにする。
 
「何これ?」
「あ、えっと・・・作曲依頼なんですけど」
「岡崎天音(*1)の詩じゃん」
 
と言って、ホシは詩を読み出す。
 
(*1)岡崎天音はローズ+リリーのマリの別名。
 
青葉は参ったなという顔をして
 
「済みません。それ見なかったことにしてください」
と言った。
 
「それはいいけど、何よこの詩!?」
とホシは声をあげた。
 

エメラルドの太陽の、光が響いてくる/
ヒスイの砂浜の、ざわめきが見える/
アメジストの海に、泡立つ波が甘くて/
スミレ色のパパイヤ、白く流れる。
 
夜になると空には、ダイヤモンドの月が/
アクアマリンの星たちと一緒に/
柔らかに輝く。/
 

「太陽がエメラルド色とか、海がアメジスト色とか、色彩が無茶苦茶」
とホシ。
 
「まあ、マリさんですから」
と青葉。
 
「光が聞こえるとか、ざわめきが見えるとか、五感が混線してるし」
 
「マリさんですから」
 
「この子、クスリやってるんじゃないの〜? LSDとか、PCPとか、DMTとか」
 

LSDは強い幻覚剤で五感が混線し遠近感や形状認識が崩壊する。座禅の浅い状態で見やすい幻覚:まさに魔羅:に似ているため、ヒッピーが流行した時代に「インスタント禅」と呼ばれた。ビートルズのLucy in the Sky with Diamondsは頭文字がLSDで歌詞もかなりぶっ飛んでいるためLSD体験から書いたのではと言われたが本人達は否定している。スティーブン・ジョブスはインドで瞑想集団に入っていた時期LSDをしていてLSDの合法化に賛成だったとも言われる。 
LSDのいちばんの怖さはフラッシュバックで薬を止めてからかなりの時間が経っているのに突然幻覚状態に陥ることがあり、運転中などに発生すると極めて危険である。
 
LSDは元々麦角という穀物の病気の研究から発見された物質で、中世の魔女狩りの発端となった「サバト」は麦角に感染した穀物を食べたことによる幻覚ではという説がある。魔女狩りは麦角の流行地域で激しかったらしい。
 
DMTは異次元に居るような感覚になり、これをやると高確率で宇宙人と遭遇する。LSDとDMTは似た性質を持ち交叉耐性がある。
 
PCPは別名エンジェルダスト。元々麻酔剤として開発されたものなので外部刺激を感じなくなるが、錯乱して統合失調症:昔の言葉でいう精神分裂病:に似た症状が1年ほど継続することから使用禁止になった。
 

青葉は言う。
 
「マリさんはあまりにもぶっ飛んだ詩を書くので、これまで何度も薬物検査を受けさせられていますけど、完全に陰性なんですよねー。別にクスリとかしなくても、御飯たくさん食べて、半ばまどろみながら瞑想というより妄想している内に不思議な世界にトリップしてしまうことがよくあるそうです」
 
「うっそー!?」
とホシが驚く。
 
「マリさんにとっては、音が見えたり、色が聞こえたりするのは別に変でもなく、普通の感覚だそうですよ。遠近感が崩壊したり、ものの形が変形するのも珍しくないらしいし、妖怪や宇宙人とはお友達らしいし。UFOには10回以上乗っているそうですし」
 
「あの子、頭壊れてるんじゃないの?」
「ああ、壊れているのは昔から自覚しているみたいですね。中田マリ詩集って読んだことありません?これまで5冊ほど刊行されてますが、もっと凄い詩がたくさん載ってますよ」
 
「あれは見たこと無かった。なんか怖そうだったし」
「ええ。あれ見て気分が悪くなる人も結構いるみたいです。だから表紙も怖い感じの絵にしてますし、中高生が安易に読まないようにわざと高い値段付けてるし、買ってから1週間以内なら返品も受け付けているんです」
 

ホシは腕を組んで考えた。組んだ腕の上にバストが乗ってちょっと重い。こんなに胸無くてもいいけどな、と少しよけいなことを考える。
 
しかし・・・クスリなどしていないマリが、こんなに「壊れた」世界観の詩を書いている。だったら、だったら、・・・・これまで自分が、あまりに異常すぎると思ってボツにしていた詩だって、許されるんじゃないかなあ。 
「よし。詩を書く。川上先生、ヒーリングちょっと待ってて」
とホシは言うと、バッグの中からいつも持ち歩いている五線ノートを取り出した。 
「じゃそれが書き上がるまで休憩で」
と青葉。
 
「服着なくていいの?」
とナミが言うが
 
「裸の方が発想が豊かになる気がする」
と言ってホシは裸のままあぐらをかくという危ない格好で、ノートにサインペンで詩を書き綴っていった。
 
「ハル、浮見子さんに電話してさ」
「うん」
「今からでも苗場ロックフェスティバルに出演できないか聞いてみてよ。私凄く歌いたい気分」
 
「それ来週だよ」
「場外のフリーエリアでの演奏でもいいからさ」
 
「うん。聞いてみる」
と言ってナミはスマホをタップした。
 
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